アークナイツストーリー翻訳

【明日方舟】吹雪過ぎ行く BI-6「岐路」行動後 翻訳

アタシの愛しい妹、アンタはアタシの権力を、地位を、財産を、アタシのすべてを羨んでいた。
けどそんなアタシはアンタの愛する人を、自由を、未来を、アンタのすべてを羨んでいることをアンタは知らないでいる。
アタシはいつだって取り換えっこできればいいと望んでいた、例えそれが決して叶わぬ夢だとしても。
ブラウンテイル家をアンタに引き渡せば、それは一族の滅びを意味する。
アンタの暮らしをアタシに譲れば、おそらくそんなアタシの人生も失敗に終わるでしょうね。

ラタトス
ラタトス

……

ラタトス
ラタトス

大したものね、エンシオディス、アタシに会うってのに護衛を一人しか連れてこないなんて。

エンシオディス
エンシオディス

私は争うために来たわけではないからな、お前もそんなつもりはないだずだろ。

ラタトス
ラタトス

フンッ、お生憎そんなつもりよ。

ラタトス
ラタトス

アタシらブラウンテイル家がペルローチェ家ほどの兵力を保持していなくともね。

ラタトス
ラタトス

デーゲンブレヒャーも入る?

デーゲンブレヒャー
デーゲンブレヒャー

入ってほしいのか?

ラタトス
ラタトス

ご自由に。

エンシオディス
エンシオディス

デーゲンブレヒャー、お前は外で待っていろ。

デーゲンブレヒャー
デーゲンブレヒャー

いいのか?私はどちらでも構わんが。

エンシオディス
エンシオディス

示したいのだ――私の誠意を。

ラタトス
ラタトス

エンシオディス、アンタの十八番は自分をウソで塗り固めることよ。

ラタトス
ラタトス

誠意ですって?アタシがなにをしたって無駄だって知らしめたいだけでしょ。

エンシオディス
エンシオディス

もしくは――お前が有意義な何かをしてくれるのを期待している、とも解釈しても構わないぞ。

ラタトス
ラタトス

それなら期待してちょうだい、後悔はさせないわ。さあどうぞいらっしゃい。

エンシオディス
エンシオディス

記憶が正しければ、ここはエーデルワイス家の領地だったはずだ。

ラタトス
ラタトス

その通り。いい屋敷でしょ?

エンシオディス
エンシオディス

いい位置だ、それに視野も広く確保できている。素晴らしい屋敷と言える。

ラタトス
ラタトス

エーデルワイス家は代々イェラグで文書保管の史官を務めてきたし、御三家とも悪くない関係にあった。離れとして、昔ウチのお爺様がこの屋敷を建ててくれたのよ。

エンシオディス
エンシオディス

ルッカ殿は生前とても建築や設計を好んでいたと聞く、この部屋の設計を見るに、おそらくヴィクトリアで名のあるデザイナーも感服せざるを得ない出来だ。

ラタトス
ラタトス

フフフ、アンタに褒められたってお爺様が喜ぶとは思えないわね。

ラタトス
ラタトス

でも、もし気に入ったのなら、当初の設計図を見せてやってもいいわよ。

エンシオディス
エンシオディス

考えておこう。

エンシオディス
エンシオディス

ラタトス、ここでこうして話してるうちに昔のことを思い出したのだが、何年前を思い出したかは分かるか?

ラタトス
ラタトス

何年前よ?

エンシオディス
エンシオディス

七年前だ。

ラタトス
ラタトス

七年前……あぁ、七年前。

ラタトス
ラタトス

アンタがちょうどヴィクトリアからここに戻ってきて、色んなものを持ち帰ってきては自分の領地を発展させてた頃ね。

ラタトス
ラタトス

そして、アンタはシルバーアッシュ家のために三族議会での議席を得るため、それと開国を図るために、アタシのところへやってきた。

ラタトス
ラタトス

開国したら、色んなビジネスが入り込んでくる、イェラグ人の暮らしは今以上に豊かになり、もう冬に凍える必要もなくなる、そう言ってたわね。

ラタトス
ラタトス

そして、アンタとアタシは一緒にアークトスと大長老を説得させ、イェラグを開国させ、外と商売を始めた。

ラタトス
ラタトス

いい時代だったわ。

ラタトスはホットミルクを一口飲む、その口調にはどこか懐かしむ雰囲気を含んでいた。
あれは確かにいい時代だった、シルバーアッシュ家とブラウンテイル家は手を携え、カランド貿易はイェラグを代表して外との貿易を開始するようになった。

資金も、技術も、人材も、色んなモノや人が続々とイェラグへ流れ込んできた、何もかもいい方向へ進んで発展してるように思えていた。

エンシオディス
エンシオディス

だがお前は自らそんな素晴らしい時代を終わらせた。

エンシオディス
エンシオディス

ラタトス、お前なら優秀なパートナーになると思っていたぞ。

ラタトス
ラタトス

アタシもアンタに失望したわよ、エンシオディス。

ラタトス
ラタトス

あのよかった時代はアンタだけのものであって、アタシのものでも、アークトスのもので、ましてやイェラグのものでもなかったからね。

ラタトス
ラタトス

結局のところ、アンタらカランド貿易がいい思いをしただけで、ほかの人はなんにも貰えなかったわ、それのどこが素晴らしい時代よ?

ラタトス
ラタトス

ただ、今更こんなことに文句を垂らしても仕方がないわね、勝負はすでに決した、敗者はアタシよ。

ラタトス
ラタトス

敗者がどんなに喚いても負け惜しみの遠吠えにしかならないんだもの。

エンシオディス
エンシオディス

自身を敗者と称するような敗者は存在しないさ、ラタトス。

エンシオディス
エンシオディス

話してもらおうか、私の両親の死について、お前はなにを知っているんだ?

ラタトス
ラタトス

エンシオディス、自分の両親はウチのお爺様とアークトスの父親によって殺されたと思ってるのかしら?

エンシオディス
エンシオディス

……

エンシオディス
エンシオディス

当時の調査によれば、私の両親はノーシスの両親が故意に引き起こした列車の事故で亡くなったとされている。

エンシオディス
エンシオディス

だがそれは信じられない。あの時の三族議会で、ルッカ殿とアークトスの父君も今日のように、私の両親が主導する工業化に反対していたからだ。

エンシオディス
エンシオディス

それに関連がないとは信じがたい。

ラタトス
ラタトス

そう、なら真実を教えてあげるわ。

ラタトス
ラタトス

アンタの両親が列車の事故で亡くなったのは本当よ、ただウチのお爺様がその罪をエーデルワイス家になすり付けたの、これが真実。

エンシオディス
エンシオディス

……

ラタトス
ラタトス

まあまあ、まだ話し終えていないわよ。

ラタトス
ラタトス

ウチのお爺様、最初からアンタの両親を殺すつもりでいたわ。

ラタトス
ラタトス

この屋敷はね、本来アンタの両親と会合する際、二人を焼き殺すために取っておいたものなの。

ラタトス
ラタトス

けど、ここに来る前に、二人は事故によって死んでしまった。

ラタトス
ラタトス

だから、二人のために残しておいたこの屋敷も、そのままにしておいたってわけ。

ラタトス
ラタトス

そうそう、お爺様の暗殺計画はアークトスの父親の黙認も得ていたのよ。

ラタトス
ラタトス

アンタも知っての通り、アンタの両親が死んだ数年後、アークトスの父親は当主の座をアークトスに譲った後、姿をくらました。

ラタトス
ラタトス

今頃生きてるのか死んでるのかすら誰にも分からないわ。

エンシオディス
エンシオディス

そんなことを自慢するために私を呼んだわけではないはずだ、ラタトス。

ラタトス
ラタトス

お爺様がやったことには生涯触れたくないって思ってたわ。

ラタトス
ラタトス

けど、彼がかつてアンタの両親を殺すために使おうとしていた屋敷が、アンタを道連れにするためにアタシに利用されるとはね。

エンシオディス
エンシオディス

……絶妙な皮肉だな。

ラタトス
ラタトス

屋敷一つとアタシの命でエンシオディスの命を交換できるのなら、悪くないトレードじゃないかしら。

(からくりの動く音)

ラタトスは右手側にあった取っ手を捻る。
機械が動く音が天井と壁から伝わってきた。
まるでけたたましく嘲笑うかのように。

スキウース
スキウース

……ちょっと待って、あれってお爺様が残してっいたからくり部屋じゃないの、なんで火がついてるのよ!?

スキウース
スキウース

ラタトスとエンシオディスはまだ中にいるんじゃ……

スキウース
スキウース

まさか――エンシオディスを道ずれにするつもり!?

スキウース
スキウース

ラタトス!ちょっと、なんのつもりよ、はやく出てきなさいよラタトス!

(スキウースが扉をガンガンと叩く)

スキウース
スキウース

あのクソ女……なんでビクともしないのよ、このドア!

スキウース
スキウース

ラタトス!ら、ラタトス――姉さん!!

スキウース
スキウース

クソッ……!

(デーゲンブレヒャーが近寄ってくる)

デーゲンブレヒャー
デーゲンブレヒャー

……

デーゲンブレヒャー
デーゲンブレヒャー

死なば諸共か……なるほど、これは想定外だ。

デーゲンブレヒャー
デーゲンブレヒャー

ん?お前は……ラタトスの妹か。

スキウース
スキウース

誰!?

スキウース
スキウース

……あなた、エンシオディスの付き人の……

(ブラウンテイル家の戦闘員が現れる)

デーゲンブレヒャー
デーゲンブレヒャー

私を止めるつもりか?

スキウース
スキウース

待ちなさい!誰が動いていいって言ったのよ、全員その場で待機してなさい!

デーゲンブレヒャー
デーゲンブレヒャー

ん?

デーゲンブレヒャー
デーゲンブレヒャー

どうした、私と雑談でもしたいのか?

スキウース
スキウース

なんで私があなたと雑談しなきゃならないのよ!?

スキウース
スキウース

そんなことはいいから、ねえあなた、この扉をどうにかできない!?

ラタトス
ラタトス

ゴホッ、ゴホッ。

ラタトス
ラタトス

……まったく、外の連中騒々しいわね。

ラタトス
ラタトス

お爺様のからくり、あんなに年月が経ったのにまだ動くとはね。

エンシオディス
エンシオディス

私が油断していた隙に逃げ出すのかと思っていた。

ラタトス
ラタトス

もしアタシが逃げられたら、アンタにも逃げられる可能性が出てきちゃうでしょ?

ラタトス
ラタトス

この部屋に逃げられる道はないわ、からくりが起動したら、中の人は死を待つだけ。

ラタトス
ラタトス

外から救出しようたって無理よ。

ラタトス
ラタトス

エンシオディス、私と一緒にここで死んでちょうだい、お願いだから。

エンシオディス
エンシオディス

では聞くが、ラタトス。

エンシオディス
エンシオディス

なにがお前をそこまでして私を止めようとしているんだ?

ラタトス
ラタトス

周りの連中はみんなラタトスはルッカ同様、策略だけが取り柄だって言うの、まあそりゃそうよね、アタシは彼の孫娘なんだもの、策略に長けていないわけないでしょ。

ラタトス
ラタトス

最初の頃、アタシは対外貿易で利益を見出したからアンタと手を結んだ、けどその結果、アンタのカランドによって貿易の利益はすべて吸い取られてしまったわ。

ラタトス
ラタトス

だからアタシは大長老側についてアンタらカランド貿易を潰そうとした、そうすればアンタらの富を独り占めにできるからね。

ラタトス
ラタトス

みんなそう思ってたわ、それがここ数年のアタシに対する一般的な印象よ。

ラタトス
ラタトス

アンタもそう思ってたんでしょ。

エンシオディス
エンシオディス

否定はしない。

ラタトス
ラタトス

お爺様はずっと、ブラウンテイル家をイェラグ最大の豪族にしようと目論んでいたわ。

ラタトス
ラタトス

アタシと彼の違いはそこね。

ラタトス
ラタトス

お爺様は死ぬ直前にアタシをベッドに呼びつけて、随分と楽し気にアークトスの父親は臆病者だって嘲笑っていたわ。

ラタトス
ラタトス

そしてアンタらとペルローチェ家を潰せってアタシに言ったの。

ラタトス
ラタトス

アークトスの父親のほうがまだ人間としてはマシねって、あの時そう思ったわ。

エンシオディス
エンシオディス

それは同意する。

ラタトス
ラタトス

いつかブラウンテイル家がイェラグを支配したって、イェラグの民は自分たちをブラウンテイルの人間と呼ぼうとはしないはずなのにね。

ラタトス
ラタトス

イェラグがイェラグたらしめているのは、イェラガンドがこの地をイェラグと名付けたから。

ラタトス
ラタトス

アタシたちは同じ信仰のもと、そんな土地で千年以上も共に暮らしてきたからよ。

ラタトス
ラタトス

けど、御三家が自分の土地を管理する制度が始まってから、すでに数百年もの時が経った。

ラタトス
ラタトス

アンタが帰ってくるまでの間、毎年三族議会で討論される内容はどれもその時の祭典の主催はどの家が持つか、どの家が補助に回るかなど他愛もない話ばかりだったわ。

ラタトス
ラタトス

アタシたちは同じ土を踏み、同じ言葉を話し、同じ物を食べ、同じ神を信仰してきた……

ラタトス
ラタトス

けど異なる家に属しているがために徐々に疎遠になっていった、事実として今はもうみんなそれぞれ自分の領地に線を引いてるザマよ。

ラタトス
ラタトス

イェラガンドの名は今も人々の心のうちに留まってるけど、イェラグという名は徐々に徐々に忘れ去られている。

ラタトス
ラタトス

アンタがイェラグに戻ってきて、開国政策をアタシに語ってくれた時は、嬉しかった。

ラタトス
ラタトス

シルバーアッシュ家が諸外国と商売するだけでなく、ほかの両家もそれに参入してほしいってアンタが言ってくれた時、それなら御三家はまた一つになれるってアタシは思ったからよ。

エンシオディスは足を組み替えた、彼を知ってる者には分かる、あれは彼が真剣に話を聞いてるという現しだからだ。

ラタトス
ラタトス

カランド貿易がシルバーアッシュ家の同族経営企業として貿易を行うことと、カランド貿易がイェラグの窓口として貿易を行うことは違う。

エンシオディス
エンシオディス

しかし、私にも御三家をもう一度まとめたいという考えはあった。

ラタトス
ラタトス

アンタに?――ゴホッゴホッ。

ラタトス
ラタトス

アンタがなにを弄ってきたかを知るために、これでもかなり経済を勉強するハメになったのよ。

ラタトス
ラタトス

税率を引き下げて、外資を呼び寄せて、彼らを優待した。

ラタトス
ラタトス

あの大資本を留めさせるために、色んな大企業と色んな不平等な貿易協定を結んだ。

ラタトス
ラタトス

それと、アンタ裏でこそこそと軍事工場や軍を育ててるでしょ、アタシの目は誤魔化せられないわよ。

ラタトス
ラタトス

アタシはアンタの稼いだ金を横取りしようとしたから脱退したとでも思ってたわけ?

ラタトス
ラタトス

違う、恐れていたからよ。

ラタトス
ラタトス

いつからか、アンタからは御三家をまとめようとする思いが見えなくなったわ、むしろイェラグを自分のものに、あるいは他人のものにしてしまう感じに見えた。

ラタトス
ラタトス

もし大長老とアンタのどちらかを選ぶってんなら――アタシは大長老のほうをよろこんで選ぶわよ。

エンシオディス
エンシオディス

……

エンシオディス
エンシオディス

どうやらお前を誤解していたようだ、ラタトス。

エンシオディス
エンシオディス

そちらがそこまで真摯に打ち明けてくれたのなら、私も少しだけ腹を割って話そう。

エンシオディス
エンシオディス

イェラグの鉱業と原材料は他国と比較して豊富だが、私たちは核心になり得るイェラグ独自の技術を持ち合わせていない。

エンシオディス
エンシオディス

技術交流の際にこれは絶対的な劣勢になる。

エンシオディス
エンシオディス

金で買える技術はある、だが買えないものもある。

エンシオディス
エンシオディス

それがどういう意味か分かるか?

ラタトス
ラタトス

……

エンシオディス
エンシオディス

例を出そう、霊山の貿易ルートの経営権を引き換えに、旧式の鉄道信号システムと中古列車の優先購買権を得られた。

エンシオディス
エンシオディス

あれがなければ、私の両親が残した鉄道と数十年前の列車だけでは、工業の輸送も民間の交通もまったく話にならなくなっていたはずだ。

エンシオディス
エンシオディス

もう一つ例を出そう、東部にある鉱脈区の共同採掘権を引き換えに、レムビリトンが開発及び技術提供により培った最新型の鉱石加工技術と設備を交換した。

エンシオディス
エンシオディス

あの技術は私たちが今まで使ってきた技術と比べて効率が何倍に跳ね上がると思う?

ラタトス
ラタトス

……アンタが何を換えてきたかはどうでもいい、アタシが気になってるのは、アンタが何を差し出したかよ。

エンシオディス
エンシオディス

私たちにはもう時間がないんだ、ラタトス。

エンシオディス
エンシオディス

ヴィクトリアにしかり、ミノスにしかり、クルビアにしかり、カジミエーシュにしかり。

エンシオディス
エンシオディス

あの国々がイェラグを狙ってこなかった理由はただ一つ、それは――今のところ必要はないからだ。

エンシオディス
エンシオディス

移動都市がまだ発明されておらず、天災が大陸で人々を追い掛け回していた歴史の時代、大陸各地に分割されていたそれぞれの文明はまだ互いをあまり知らないままでいた。

エンシオディス
エンシオディス

現代的な国家はおらず、交流も交通もほぼ皆無だった。

エンシオディス
エンシオディス

今から二百年前、つまりあの開拓の時代だ、その時代になってもまだ自身の発展だけに注目して、各々は他国との接触を避けていた。

エンシオディス
エンシオディス

しかし今から数十年前、各国の間で徐々に摩擦と交流が生まれ始めた。

エンシオディス
エンシオディス

ガリアの後ろ盾により、クルビアはヴィクトリアから独立した。

エンシオディス
エンシオディス

それからたった十年で、あのガリアが四皇大戦で滅んでしまったのだ。

エンシオディス
エンシオディス

クルビアとリターニアはボリバルを巡って今でも戦争をし続けている。

エンシオディス
エンシオディス

それだけではない、国同士は戦争によって互いの交流を加速させた、各国同士で貿易協定を結び、次々と国を跨ぐ貿易会社が設立していった。

エンシオディス
エンシオディス

どの国も独り善がりでいられなくなったため、他国と共存する道を探すようになったのだ。

エンシオディス
エンシオディス

そんなことが外で起こっていながらも、イェラグは知らないふりをしている。

エンシオディス
エンシオディス

そんな危機が今目の前までにやってきても、私たちはなんら自覚を持っていない。

エンシオディス
エンシオディス

確かにヴィクトリアは今自分のことで手一杯だが、クルビアが開拓している辺境はすでに西の山脈に近づきつつある。

エンシオディス
エンシオディス

長い間、彼らにとってイェラグは占領する価値のない痩せこけた土地に過ぎなかった。

エンシオディス
エンシオディス

しかし、もしヴィクトリアが自国内部の問題を解決したら、もしクルビアがヴィクトリアになにか企んでいたら、あるいは、カジミエーシュが南下してきたら。

エンシオディス
エンシオディス

その時イェラグは、また今までのように安寧でいられるのだろうか?

ラタトス
ラタトス

……

スキウース
スキウース

あなたに話してるのよ!ちょっと!き、聞こえてるんでしょ!

スキウース
スキウース

もうお願い、お願いだから!この扉をどうにかできないわけ!

デーゲンブレヒャー
デーゲンブレヒャー

ギャーギャーと騒がしい。

スキウース
スキウース

なんですって!?

デーゲンブレヒャー
デーゲンブレヒャー

少しは静かにしろ、それと近寄るな。服が乱れる。

スキウース
スキウース

そんなこと気にしてる場合!?

自分の裾をひっきりなしに引っ張ってくるスキウースを払い除け、デーゲンブレヒャーはエンシオディスとラタトスが閉じ込められてる屋敷へと近づいていく。
屋敷の窓はどれも鉄板で固く密閉されていた。
そして彼女の目の前には、重厚な壁が構えている。

デーゲンブレヒャー
デーゲンブレヒャー

お前のものなのだろ。本当に私を止めなくていいのか?

スキウース
スキウース

止めてどうするのよ!いいからさっさとして!

デーゲンブレヒャー
デーゲンブレヒャー

……フッ。

(斬撃音と壁が崩れる音)

微かに笑みを浮かべた後、彼女の斬撃により壁はいとも簡単にこじ開けられた。
そして軽く蹴りを入れたあと、先ほどまでまるで崩れることを知らないような壁は豆腐のように地面へ倒れた。
しかし地面に倒れた際の大きな音が、それはかつて重厚な壁だったことを示唆している。
ただ、デーゲンブレヒャーはこの結果に満足がいっていないようだ。

デーゲンブレヒャー
デーゲンブレヒャー

……やはりエンシオディスの戯言に耳を貸して、長らく供にしてきた相棒を倉庫に預けるべきではなかったな。

デーゲンブレヒャー
デーゲンブレヒャー

剣で斬るにはいささか面倒だ。

(斬撃音と壁が崩れる音)

そう言って、手に持っていた剣を捨て、腰に佩びていた鐧(カン)を取り出した。
壁が斬撃に応じて崩れていく、まるで引き裂かれる紙のように。

炎は徐々に部屋の中で広がっていき、勝手気ままに部屋の中のすべてを呑み込んでいく。
だが、部屋にいた二人は微動だにしない。
まるで熱さを感じていないかのように、あるいは炎に劣らない熱さを抱いているかのように。

エンシオディス
エンシオディス

お前がイェラグにそんな思いを抱いていたとは予想外だった。

エンシオディス
エンシオディス

もっとはやく今日のことを話していたら、私たちもこんなことにはならなかったはずだ。

エンシオディス
エンシオディス

しかしこれも必然なのだろう。

エンシオディス
エンシオディス

互いに立場ある人間だ、こういった場面でなければ、本心を吐き出せずにいるのも無理はない。

ラタトス
ラタトス

フンッ、よく言うわね。

ラタトス
ラタトス

必然、か。

ラタトス
ラタトス

そうね、必然ね。

ラタトス
ラタトス

必然なら、一緒にイェラガンド様に会いに行きましょ。

ラタトスは疲れからか、視野がぼやき始めた。
うっとりとしている間、彼女は幼い頃に、妹と一人の男の子と一緒に遊んでいた時の景色が見えていた。

鉄道と工場に興味津々だった自分のことも見えていた。
あれはもう彼女にとって戻ってくることのない時代だ。彼女は頭を振る、向かいに座っているエンシオディスは先ほどと同じような姿勢を保っているが、もはや彼がどんな顔をしているのかは分からなくなっていた。

この男はこんな時になっても冷静でいられるのね。
けどそれも今日でお終い、アンタはここで死ぬのよ、フフッ。

(斬撃音と壁が崩れる音)

意識は徐々に沈んでいき、途切れようとしたその時、“ドカン”と大きな音が聞こえた。
そしてそれに重ねて入ってくる、聞き慣れた声も。

スキウース
スキウース

ラタトス!!

デーゲンブレヒャー
デーゲンブレヒャー

そろそろ行くぞ、エンシオディス。

ラタトス
ラタトス

……うっ。

スキウース
スキウース

ラタトス、目が覚めたのね!

ラタトス
ラタトス

……

ラタトス
ラタトス

アタシ死んでない!?

エンシオディス
エンシオディス

デーゲンブレヒャーがいたんだ、死ぬわけがないだろう。

ラタトス
ラタトス

……このブラウンテイル家自慢のからくり部屋でも殺せなかったってわけか。

デーゲンブレヒャー
デーゲンブレヒャー

壁はさして問題なかったが、お前たちがいる部屋を探すにはそれなりに手間がかかったぞ。

ラタトス
ラタトス

……

ラタトス
ラタトス

なんで助けたのよ?

エンシオディス
エンシオディス

私はブラウンテイル家の投降を受け入れにきただけであって、その当主の屍を貰いにきたわけではないのでな。

ラタトス
ラタトス

……あれはアンタをここに誘うための罠だったんだけどね、アタシを生かしてておいたら、ブラウンテイル家がアンタに服従することがないのは知ってるでしょ。

若い領民
イェラグの庶民A

エンシオディス様……本当にエンシオディス様だ!

お隣さん
イェラグの庶民B

エンシオディス様、あの火事が起こった屋敷から逃げてきたのですか?

若い領民
イェラグの庶民A

ラタトスだ……きっとラタトスがあなたを殺そうとして仕掛けたんだ!なんて卑劣な!

お隣さん
イェラグの庶民B

ラタトスのことはもういいから、ほらはやく、服を持ってきてちょうだい。

イェラグの貴族
イェラグの貴族

なら私のものを、エンシオディス様、私のコートをお使いください!

群がる人々の中、一人の貴族が興奮気味に自分のコートを脱ぎ、恭しくエンシオディスのもとへ駆け寄り、彼にコートを着させる。
しかしエンシオディスはそのコートを脱ぎ、地面に倒れ込んでいたラタトスのもとへ寄っていき、彼女にコートを被せた。
それから、静かに、ただ身を起こし、路肩で彼を待っていた車両へ向かっていった。

イェラグの貴族
イェラグの貴族

エンシオディス様はラタトスを捕らえないばかりか、彼女にコートを被せてあげたとは……なんてお心が広いお方なのだ!

若い領民
イェラグの庶民A

おい、なんならここでラタトスを……

お隣さん
イェラグの庶民B

エンシオディス様が見逃してあげたばっかじゃない、殺しちゃダメでしょ?

若い領民
イェラグの庶民A

あれはきっと俺たちのために手柄を残してくれたに違いない、お前にわかるかよ!

スキウース
スキウース

なんですって!?

若い領民
イェラグの庶民A

フンッ、スキウースだったか、そう焦るな、お前も一緒に逝かせてやるよ。

スキウース
スキウース

消えろ、とっとと私たちの前から消えろ!

若い領民
イェラグの庶民A

な、なんだよこの女、イカレてやがる!

スキウース
スキウース

ねえ、ラタトス。

ラタトス
ラタトス

……

スキウース
スキウース

ねえってば!

スキウース
スキウース

ボケっとしないで、逃げるわよ!

ラタトス
ラタトス

逃げる?どこによ?

ラタトス
ラタトス

この人たちを見てみなさいよ、みんなアタシらブラウンテイル家の領民よ。

ラタトス
ラタトス

この人たちの目を見てもまだ分からないわけ?

ラタトス
ラタトス

アタシの完敗よ。

スキウース
スキウース

チッ……

Sharp
Sharp

どうやら一歩遅かったようだな。

スキウース
スキウース

アンタ……あの時アタシとアークトスを助けてくれた人ね。

スキウース
スキウース

なに、アンタもアタシを笑いにきたわけ?

Sharp
Sharp

いいや、ドクターがお前に会いたいと言ってるから迎えにきた。

ラタトス
ラタトス

……

ラタトス
ラタトス

アタシ……

ラタトス
ラタトス

まあいいわ……

ラタトス
ラタトス

もうこのザマだし、行ったところでどうだっていいわ。

この記事を書いた人
おーちゃん

フロストノヴァ推し

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