数千年前、イェラガンドはこの地に降り立ち、ここをイェラグと名付け、終始この地を守り続けてきました。
それから幾千年来、かの教えはいつ時だってイェラグの民に影響をもたらしてきました。
かの血肉はペルローチェ家へ、かの毛皮はブラウンテイル家へ、そしてかの骨格はシルバーアッシュ家へとそれぞれ授けてくださったのです。
しかし私たちには共通の名前を持ちます――イェラグ人という名前を。
かの信仰は、即ちイェラグの根幹であり、今日私たちがここに立ち、共にイェラグ人と名乗れる理由でもあります。
私たちは共にイェラガンドへの畏敬を心に抱き、今に至るまで手を携えながらこの地で生き長らえてきました。
しかし、皆ももはや知っての通り、この大地に存在してる国はイェラグだけではありません。
この雪山の外には、広大な天地が広がっています、そこには私たちと外見も、言語も異なり、イェラガンドを信仰していない人々がいます。
過去において、私たちはその人たちとどうやって接するのかについて、大きな岐路に立たされました。
しかしその岐路はなにも危機というわけではなく、あのお方が我々に与えてくださった試練であり、我々へ示してくださったお導きだったのです。
あのお方はイェラグ人全体が信仰する対象であり、私たちの母であり、私たちの守り神でもあります。
母であれば、自分の子が立ち止まってるところは決して見たくはないはずです。
ですので――
古きを重んじるがあまりに新しきから目を逸らさないでください、あなた方はあのお方の子であり民であるのですから、勇気をもって立ち向かいなさい。
故郷を恋しがるがあまりに新たなる天地への探索を諦めないでください、あなた方がどこにいようと、あのお方はあなた方と共にあられます。
既得した富のために冒険を避けないでください、あなた方ならより莫大の富を築けたはずでした。
なぜなら、あのお方は寛容だからです、あのお方が守られる土地が寛容なのは当然であり、あのお方の民であれば、なおさら寛容なのは至極当然だからです。
あのお方から賜った神権の名において、今ここで謹んで宣言致します。
曼珠院はイェラガンドに対する異邦人たちの信仰を受け入れましょう。
そして、曼珠院は民衆たちが各々の方法でよりよい生活を追求できるように限りなく支援致します。
カランドの巫女、啓示者、祝福されし者であるエンヤ・シルバーアッシュが全イェラグ人に向けた影響力ある演説を記念して。
この日、イェラグの国教記念日へと定められた。
(駒を動かす)
……窪地の一件は、本来ならただの遊び駒だった。
ペルローチェ家の注意を逸らし、なおかつ私が裏で物資を調達できるようにしてくれる人が必要だったからな。
その人がもしお前でなければ、別人でも構わなかったんだ。
本来ならことを終えた後、本件に対してお前に詫びを入れるつもりでいた。
だがどうやら、今はお前が引き起こした影響を軽視したことにも重ねて詫びを入れなければならなくなったようだな。
エンシオディスはそう独りでに語り出し、駒を一つ動かした。
・(駒を動かす)
ノーシスは私の親友であり、同時に協力者だった。
彼の考えは私と完全に一致しているとは言えん、彼にも彼なりの考えとやり方があるからな。
だが彼のことなら私が一番よく知っている。
目的さえ一致していれば、彼が私を裏切ることはない、さらに言えば計画の最中に彼と情報を逐一交換する手間もなくなる。
ゆえにこちら側は安心して彼に資源運用を任せ、ブラウンテイル家を抑え込むための彼が思う効率のいいやり方を選択できた。
鉄道の破壊工作は見事な一手だったと言えよう。ノーシスはラタトスの信頼を勝ち得たと同時に、他国のスパイとトランスポーターの侵入を防いだんだからな。
エンシオディスはこちらを一瞥したあと、駒を一つ動かした。
・(駒を動かす)
引き分けだな。
まるで勝敗を予見していたかのように、エンシオディスは駒から手を離し、両手を広げた。
この一局はここで終わりだという示唆だ。
どうやら近頃、私はあまり運がよくないらしい。
チェスも勝てなくなってしまった。
・まだ負けてはいない。
引き分けというのは、時には勝利か敗北かのどちらかを意味する。
・では君にとって、あのような結果は勝利と敗北のどっちだんだ?
……私に言わせれば、得られなかった勝利は、敗北も同然だ。
だが今回に関しては、例外ではあるがな。
私の勝利に疑いの余地はない。
ただ、私の勝利のためにお前は別の可能性を切り拓いてくれたことについては想定外だった。
・別の可能性か。
・私に巫女を下山させるような力はないさ。
・私はただ犠牲者を出したくなかっただけだ。
そう、別の可能性だ。
本来ならこういう結末はありえないと思っていたが、あろうことかお前はまったく無知の状況で局面を看破してなおかつ影響を与えた。
私が勝利したという事実を曲げないままな。
おそらく長い間相手と駒を打たなかったせいかもな、実力が伯仲する対局は実に心が躍る。
巫女は――他人にあれこれ決められる必要はない。
だが、お前はそんなちょうどいいタイミングで彼女の背中を一押しして、彼女に方向を示してくれた。
あまつさえ、彼女のために舞台まで整えてやった。
それらすべてはお前が無意識に行ったことでも言いたいのか?
そしてお前はそれを達成した。
自らアークトスとラタトスへ接触し、彼らのために作戦を立案し、さらには戦争を回避するための最善策を提供した。
実にお前らしいやり方だ、ドクター。
この私でさえ、今回の一件がこれほどまでに平和的な形で収まるとは思いもしなかったさ。
なぜ私がこれほどイェラグの統一に急いでいたかは、おそらくお前もすでに知っているはずだ。
外圧か。
その通りだ。
私はなにも曼珠院に恨みを持ってるわけではない、ましてやこの土地から信仰を排除しようとするつもりも毛頭ない。
アークトスの排斥にも、ラタトスの躊躇にも別段不満はなかった。
彼らは外で今なにが起こってるかを知らないからな、なら私と同じ考えを抱くのも無理な話だ。
もし時間が充分にあれば、五年十年さらにもっと長い時間をかけてでも厭わなかった、彼らの考えを変え、より穏便な方法でイェラグを変えるためならな。
だが――
イェラグにそんな時間はない。ここは決して豊かとは言えないだろうが、この天災に脅かされてこなかった土地を狙ってる隣国は必ずいるはずだ。
ゆえに私は歩を速める必要があった、もしそれに反対する人がいれば、こちらも仕方なくその者たちの反対する権利を剥奪するしかなかった。
そういうことだ。
・私を納得させる必要はない。
・私とは無関係なことだ。
私の考えを共有し合えると思った人と分かち合っただけだ。
私の知る話によれば、アークトスは大長老に毒を盛った責任を負うため、自ら当主の座を降りたらしい。
彼があれほどキッパリと降りられたのは、自ら進んで巫女に宣誓したからだろうな、ペルローチェ家の土地管理を巫女へ譲渡することを。
おそらくそれで巫女の地位を固める狙いがあるのだろう。
ブラウンテイル家とシルバーアッシュ家との従属協定も間もなく締結される。
もう少しお前に話しておこう、私はなにもブラウンテイル家を併合するつもりはない、もしラタトスが望めば、彼女の権利は以前とさほど大差ないままでいられる。
これでもう停滞を望む者はいなくなった、頑なに前へ進もうとしない者と損得勘定で動く者はカランド貿易とイェラグの発展の阻害でしかないからな。
この結果を受け入れようじゃないか、ドクター。
君と巫女の間に、それほど大きな軋轢はないはずだろ。
……だが私と彼女はそれぞれ違う道を選んでしまった。
それに、これは私が過去に決めた選択によってもたらされた結果だ、私はその選択の責任を背負う必要がある。
そして彼女もまた自らの選択に責任を背負う必要がある、私の策動下でなく彼女の指導によってイェラグ人をこの泥沼から抜け出させた責任をな。
お前は私に、このイェラグにお前自身を証明してくれた、それに……エンヤのことも。
総裁、そろそろ会議のお時間です。
わかった。
何はともあれ、イェラグはいずれ大きな変化を迎える、ドクター。
これからお前に会う時間も確保しづらくなるかもしれない。
だがこれだけは保証しよう、今後ロドスはイェラグの如何なる場所においても阻害されることはない――
それと、お前やほかオペレーターが今回の件に巻き込んでしまった補償として、同時に私からお前への誠意を示すために。
ロドス、及びドクターたちの名は、この先本件と関連するいかなる公式文書にも出現することがないようにしよう。
加えてだが、お前と私が互いに盟友を呼び合えるような新しい契約を、すでにロドスに向かわせておいた。
後始末を終えた頃に、改めてロドスを訪問しよう。
その時は、また一局手合わせ願いたい、ドクター。
ヤール。
なんでしょうか?
あなたねぇ、私を蚊帳の外に置くなんていい度胸してますね!
どうかご容赦を、ヤールには何のことだかさっぱりでございます。
ほう?ならそういうことにしておきましょう。
しかし、ヤール、一つ気掛かりがあります。
なんでしょうか。
……私をイェラグの指導者に仕立て上げたのは、あのお方のご意思なのですか?
すべてはあのお方の予定通りであり、私がこの一連の事件で起こった困惑も、迷い、最後に出した選択も――
すべてあのお方の思し召しだったのでしょうか?
エンヤがなぜ突然このタイミングでこのようなことを聞き出したか、ヤールにはわかっていた。
彼女は恐れているのだ。
自分が下した決定が誤ったのではないかと恐れているわけではない、彼女は恐れているのは、自分が目にした出来事は、すべてただ神様が気まぐれに差したゲームなのではないかということだった。
……それだけについては、約束するわ。
あのお方は……一度もあなたに干渉するつもりなんてなかったわよ、あなたが出した考えは全部あなただけのものなんだから。
人々の奇跡に対するイメージというものは、そのほとんどが自分たちの願望といい加減な妄想から出たものなのかもしれない。
それに吹雪の中で民のために侵略をまったく受けない土地を開拓してあげたんだから、すでに力を尽き果てていたのかもしれないわよ。
だからあのお方はただずっとこの地を見守って、この地に生きる民のために幸せな方法を探してくれていただけだと思うわ。
そしてあなたが出した答えが、あのお方の許しを得た、それだけのことよ。
……でしたら、あのお方に一つだけお願いを伝えてもらってもいいですか?
伝えられることなら。
ならどうか、あなたを連れて行かないようにお願いしたいです。
……え?
一般的なおとぎ話ではどれもそうじゃないですか。私は答えを得た代償として、きっとあなたを失ってしまう。
ほかに要求はありません、ですからこれからも私の侍女をやってくれますか?
……プッ。
あはは、あはははは。
……
ごめんなさい、まさかそんな可愛らしい要求を言い出すとは思いもしなかったから……
でも……そうね、巫女様、だったら、契約を結びましょうか。
もしいつか、あなたが今の理想を保てなくなってしまった時、私はあなたの傍からいなくなる、でも、それまでの間は、ずっとあなたの侍女長になってあげるわ。
約束ですよ?
約束よ。
……
(回想)
君の代表として私をロドスへ?
そうだ。
ロドスに行けばお前も研究に没頭できる、気に入るはずだ。
君が彼らを招いたのは、そういう狙いもあったからか?
一種の可能性だったに過ぎないさ。
なにせ、我々の計画が成功しようが失敗しようが、イェラグにおけるお前の境遇は悪くなる一方だからな。
本来は囲い込むはずだった対象が、危うく我々の計画を台無しにすることをお前は想定してなかっただけだろ。
互いの勝利を変えることはできないからな。
もちろんだが、イェラグに残りたいのであれば、私が手配してやっても構わないぞ。
いやいい。
……汚名など気にしないさ、だが毎日私の研究所の窓が石で割られてはさすがにウンザリするがな。
それに、私もそのドクターとやらに会ってみたくなった。
お前も彼に興味を?
まさか、彼はすでにこの土地に自分の爪痕を残した、だから見てみたいだけだ、彼は我々の敵になるのか否かとな。
もし敵でなかったら?
そうだな、敵でなかったのなら――あそこは確か鉱石病を抑制できた会社だと聞く、一体どういう技術力を持っているのか見物させてもらおうじゃないか。
……ノーシス、今のお前も目がギラついているぞ、さんざんお前が口にしてきた私と大差ないじゃないか。
(回想終了)
……
ノーシスさん、荷物がまとまりました、そろそろ出発しましょう。
わかった。
今すぐ発たれますか?
……
少しだけ待ってくれ。
メンヒ!
ノーシスの声に応えてくれる人はいなかった。
……メンヒ?
簡素な部屋の中は、とても整理整頓されていたが、唯一喋る口調に翳りを含ませていた少女の姿はそこになかった。
彼はすぐ部屋の中央にあるテーブルの上に、ナイフが置かれてることに気づく。
これは彼が過去にメンヒへ贈ったナイフだ。
……
彼はしばらく沈黙したあと、ナイフを手に取り、部屋を出た。
外は燦燦と日差しが降り注いでいた。
ねえねえ、ドクター、ほら見てこのお店、巫女様と関連する商品を売り始めたよ。
これはこれは、エンシアお嬢様じゃないですか、またおいでくださっておありがとうございます。
店長さん、流行りに敏感だね。
アタシがイェラグに帰った時は、まだ曼珠院関連のものしか置いてなかったのに、もう巫女様関連の商品に品替えしたんだ。
ははは、うちだけじゃないさ、今じゃこの大通りにいるみんながそうなってますよ。それにじゃんじゃん商売してくれとのお達しだ。
正直に言いますと、以前売ってたものなんですがね、由縁とか由来とかはでっち上げで自分も信じちゃいなかったんです。
だが巫女様関連の商品なら、誠心誠意造らせて頂いてますよ。
最初執政権返還って話を聞いた時は、今後うちらの商売がどうなっちまうのかで心配だったんですがね。
それがまさか巫女様があんた開放的なお方だったとは驚きだ。
今じゃ、どれだけ頑固なイェラグ人でも、外国人との接触に文句を言うこともなくなりましたよ。
それに聞いた話によると、ちょうど今エンシオディス様が巫女様と会談されてるらしいじゃないですか、だから今後ブラウンテイル家とペルローチェ家の領地も全面的に外へ開放されるはずだ。
私に言わせれば、これからはますます期待できる日々になりますよ。
ヘヘッ。
そう言ってもらえると、こっちも嬉しくなってきちゃった。
そりゃ嬉しくなって当然ですよ。
見てください、この通りにいる人たち、ニコニコしてない人なんて見当たります?
祭典であんなことが起こってしまったけど、それでも巫女様が調停してくださったおかげで、御三家も納得してくださった。
その結果に反対する人なんてほぼいませんよ。
これもすべて、巫女様とエンシオディス様に感謝しなくちゃいけませんな。
そうだ、そのお恰好、もしかしてイェラグを出るんですかい?
そうだよ、休暇が終わっちゃうからね、アタシもそろそろ治療と仕事に戻らなきゃならないんだー。
じゃあ何か欲しいものがあれば持ってってくだせぇ、今日は全部タダにしてあげますよ!
お見送りの餞別として!
えっ、でも……
遠慮はいりませんよ、どうか貰ってください。
……じゃあお言葉に甘えてもらうね。
このお姉ちゃんの肖像画と、刺繍と、あとこの彫刻をください。
あれっ、この絵って――
壁に掛けていた絵画がエンシアの目を惹いた。
絵の中で、姉のエンヤと兄のエンシオディスが交渉の席の傍で握手を交わしている、まるで何かの協定を達成したかのようだ。
それを見た彼女はピタッと、一瞬だけ足を止めた。
ああ、これはイェラグの未来に関する共通認識を得たエンシオディス様と巫女様を描いた絵です。
本当にこういう一幕があったかどうかは知りませんが、実質上今のイェラグを統治されているのはエンシオディス様と巫女様ですからね……
それにあの二人は兄妹だ、知らない人なんていませんよ。
だったら、お二人の関係はきっと仲がとてもよろしいはずじゃないですか。
そうですよね、エンシアお嬢様?
そうだね……もうちょっと、ほかのお土産も見ておこっかな……
ドクター、なにか欲しいものはない?
特産品が欲しいかな。
わかった、じゃあたくさん選んであげるね!
あのー……エンシアお嬢様、タダとは言いましたけど、手加減はしてくださいよね。
……
……ドクター。
俺たち二人はエンシオディス様の家臣という立場にいますが、ロドスの一員でもあることも事実です。
色々と……本当に申し訳ありませんでした。
俺もクーリエも厚かましく許しを乞うつもりはありません、ただせめて今後もロドスにいるエンシアお嬢様に会わせて頂けるだけで結構ですので。
……ドクター、どうする?
・君たちもやりづらかっただろう、理解はできる。
・……
・私はたまたまペルローチェ家に招かれただけだ、君たちとは無関係だと思うけど?
弁明の余地はある、俺も報告で説明しておこう。
だがどういう判断が降りるかは、お上次第だ。
ドクター、あんたがこいつらを責めちゃいないのはわかってる。
聞こえなかったフリをするのは大人げないぞ。
それにたまたまエンシオディス関連の事件も解決しちまってる。
この一件をそう片付けたいのなら、ケルシー先生に渡す報告書の内容を捻って書かないとな。
俺は手伝わないぞ。
……ありがとうございます、ドクター、Sharp隊長。
本当にありがとうございます。
ドクター、家族と別れは済ませてきたから、そろそろ出発してもいいよ。
荷物は忘れてないな?
ドーベルマン教官!
巫女は実質的にイェラグのトップになり、エンシオディスもイェラグにあるほとんど資源を所有する権利を得た……
ドクター、最初から私の忠告に耳を貸せばよかったんだ。
だが幸い、周りの者からお前の名前は聞いていない、どうやら、少なくとも巻き込まれずに済んだようだな。
えっとー……
……
……
……
……
……
……
巻き込まれたばかりか、ほかにも色々とやらかしたようだな。
報告書できっちりと説明させてもらおう、期待しているぞ。
まあいい、話は帰り道で聞く、みんな車に乗ってくれ、そろそろロドスに戻ろう。
……
ドクター、アタシらがさっきあのお店で見た絵画を憶えてる?
・握手してたやつ?
・憶えてないなぁ。
うん。
ドクター、分かってるんだからね、憶えてるくせに。
あの時、すっごくあの絵を買おうって思ってたんだ。
でも考えたらやっぱやめた、だってアタシ知ってるもん、あの絵に描かれた内容は、ウソなんだって。
あれはお兄ちゃんが最後の最後にお姉ちゃんに一歩譲ってあげただけだったんだ、仲がなおったわけでもなんでもなく。
すまない。
ドクターはなにも悪くないよ。
ドクターがいなかったら、お兄ちゃんとお姉ちゃんの関係はもっと悪くなるだけだったからね。
でも、おかげでアタシもはっきりしたよ。
お兄ちゃんが選んだことだろうと、お姉ちゃんが選んだことだろうと、あれは二人が自分の信念を貫いた結果なんだって。
ドクターはそれをちょっと押してあげたってだけ。
誰もアタシに山登りを諦めさせられないように。
信念はそう簡単に曲がられないものだからね。
じゃなきゃ、それはもう信念とは呼べないからな。
そうだね。
でも、アタシのもう一つの信念もそう簡単には曲がらないよ。
いつか絶対、お兄ちゃんとお姉ちゃんの仲をまたあの時のように戻してやるんだから。
……
(エンヤ、それにエンシオディス。)
(イェラグが直面する困難は、まだ始まったばかりかもしれないぞ。)