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【明日方舟】将進酒 IW-2「尋ねる処なくしては」行動前 翻訳

春寒料峭。
春風は過去の情景を少なからず思い起こさせてくれる、学問の探究を、商いの経営を、武術の鍛錬を、政の従事を。
あの月日、私たちはいつだって一緒だったような気がしなくもなかった。傍にはいい師と友が、それぞれ抱負を胸に、大志を実現せんとしていた。
しかし今はどうだ?
青煉瓦は久しく掃かれておらず、春はすでに到来しているのに、未だ雪は残ったまま、玉のように白く輝いている。
門を閉ざした時、門の外にいる者たちは一体なにを考えているのだろうか。ただ門を開けた時、自分が知っていることは精々、その者たちが己に知ってほしいことに過ぎないのだ。
男は顔を上げ、門がきしんで音を鳴らす。

謹厳な男
謹厳な男

……

水夫
水夫

リャン様。

リー
リー

……リャン・シュン、久しぶりだな。

リャン
リャン

久しいな。

リャン
リャン

長旅ご苦労だった、リー。

リー
リー

遠路はるばるとやってきたんだ、苦労はないほうがおかしいさ。それにしてもリャン様はたいそう見栄を張られたもんで、こんな小さい品物を送るために、俺をわざわざこんな遠いところに向かわせるとは。

リャン
リャン

それは時間があった時に改めて説明する。

リャン
リャン

シェン殿、そちらもご苦労だった。まだ早春の時期だから、川を渡る旅行客はさぞかし多いのではないか?

水夫
水夫

いえいえ、リャン様の依頼に応えた以上、優先致しますよ。

水夫
水夫

では人も連れてきたんで……お先に渡り場へ戻らせてもらいます。

水夫
水夫

そうだ。さきほど町でちょっとした騒ぎが起こりました。詳細はリーに教えてもらってください。

リャン
リャン

……騒ぎ?

水夫
水夫

リャン様も、くれぐれもご注意くださいませ。

水夫
水夫

ではお先に失礼させてもらいます、あっちは多分人手不足なんで、ささっと戻らないといけませんのでね。

リャン
リャン

ああ、ご苦労だった。

(水夫が立ち去る)

リー
リー

「争山から尚蜀に入る時、シェンという名の水夫を探せ。」

リー
リー

いやはやたいそうなご人望で、この一言だけで、俺みたいな初めて来たばかりのよそ者を遣わしてくるとはね。

リャン
リャン

初めて尚蜀に来たわけではないだろ。

リー
リー

シェンさんは何者なんだい?

リャン
リャン

信用できる水夫ってだけさ。経験豊富な水夫は、なによりも信用できるからな。

リー
リー

そりゃ確かに。

リャン
リャン

それよりこの者たちは……

ウユウ
ウユウ

(今気づきましたぞ、リャン様って、尚蜀知府のことだったのですか!?)

クルース
クルース

(もうその反応にも慣れたよ。つまりどういうこと?)

ウユウ
ウユウ

(つまり市長みたいなものですよ!)

クルース
クルース

(……でも炎国の官職通りなら、ウェイさんよりもずっと低いんじゃないの?)

リャン
リャン

この二人は俺の……パートナーみたいなもんだ。

ウユウ
ウユウ

お初お目にかかりますリャン様、わたしは楚……

ウユウ
ウユウ

ウユウと申します。

クルース
クルース

クルースと呼んでください、ロドスアイランド製薬会社からやってきたオペレーターです、今はリーさんのパートナーとして共に行動しています。

クルース
クルース

でも実際には尚蜀でたまたま会っただけなんです、お邪魔しちゃってごめんなさい。

リャン
リャン

たまたま?てっきり彼らは君が龍門から連れてきたトランスポーターかと思っていたんだが……

リー
リー

お前が“トランスポーター”って職業を憶えてくれていたのなら、とっくにそいつらをパシリに雇っておけばよかったんだ、俺じゃなくてな。

リャン
リャン

事情が事情な上、道も遠い、彼らに任せては安心できないのだ。

リー
リー

なら俺に任せれば安心ってか?勘弁してくれ、もし追い剥ぎにでも出くわしちまったら、逃げられなかったかもしれないんだぞ?

リャン
リャン

そこまで嫌なら、断りの手紙でも返してくれればよかっただろ。

リー
リー

冗談じゃねぇ、あのブツを手に入れてから事態が急変したんだ、お前の手紙が来たと思ったら、あの闇取引連中も龍門へおまけについてきやがったからな。

リー
リー

お前にほかを当たれって返信する時間なんざあると思うか?そのみち調査に入って、ついでに闇取引連中の古巣を駆除するしかないじゃないか?

リー
リー

はぁ、うちの就業員がどれも働き者で助かったよ、おかげでこうしてお前のこの仕事に手を貸してやれたんだからな。

クルース
クルース

(それってワイフ―さんのことかな……リーさんも大方龍門にいたら仕事が増えると思ってたから、いっそのこと言い訳をつけて抜け出してきたんだろうね……)

リャン
リャン

お二人がリーのパートナーというのであれば、門のところで呆けてないでどうぞ入ってきてくれ、部屋を用意しよう。

リー
リー

尚蜀知府自らお招き頂けるとは幸いだ、そんじゃお言葉に甘えさせてもらいますよ。

(リーが立ち去る)

リャン
リャン

さあ、お二人もどうぞ中へ。

ウユウ
ウユウ

……ありがとうございます。

ウユウ
ウユウ

恩人様、ちょうど宿屋を探していたじゃないですか、どうせ落ち合う時刻までまだ早いんですし、いっそここで休まれては如何でしょう?

クルース
クルース

……うん。

(奇妙な物体が通り過ぎる)

ウユウ
ウユウ

恩人様?

クルース
クルース

ううん、大丈夫……たぶん疲れたんだと思う。

クルース
クルース

リーさん、さっき起こったあれだけどリャン様に伝えるの?

リー
リー

……ああ。

リー
リー

この空模様、雲が多いな、こりゃ夜には雨が降りそうだ――

(アーツ音と共に何処かの風景が一瞬リーの脳裏によぎる)

リー
リー

――

リャン
リャン

……?どうした、リー?

リー
リー

……いや。

リー
リー

ちょいと脳裏に景色が一瞬よぎってな、久しぶりに尚蜀へ来たものだから、懐かしく思っちまったんだろう。

町の青年
町の青年

……ドゥお嬢様、どうします?

ドゥ嬢
ドゥ嬢

どうもこうもないでしょ、ジェンにこっぴどく怒られたわよ。

町の青年
町の青年

それじゃあ……

ドゥ嬢
ドゥ嬢

あたしが言ったように、あいつらの言うことに全部従うわけにはいかないわ。

ドゥ嬢
ドゥ嬢

従っちゃったら、あたしたちにはもうこれっぽっちの未来も失っちゃうんだから。

ドゥ嬢
ドゥ嬢

あたしの言った通りにして。

町の青年
町の青年

わかりました。んじゃみんなにも声をかけます。

ドゥ嬢
ドゥ嬢

うん。

町の青年
町の青年

それであの龍門人はどうするんすか?

ドゥ嬢
ドゥ嬢

……あたしが会いに行くわ。

ドゥ嬢
ドゥ嬢

腹を割って話さなきゃならない時だってあるからね。

リー
リー

一杯どうだい?

リャン
リャン

……遠慮する。あとでまだ仕事があるんでな。

リー
リー

遠路はるばるお前のために盃一杯届けてやったのに、俺のために一杯も傾けてくれないと?

リー
リー

この盃を手に入れるために、こっちはえらく手間がかかったんだぞ。

リャン
リャン

酒が入ったら仕事がままならなくなる。

リー
リー

酒が入ったら仕事がままならなくなる、ねぇ……

リー
リー

あの時のリャンもよくそれを口にしていたもんだ、今でも相変わらず酒に弱いとはね、いいことを知ったよ。

リャン
リャン

こちらも同じだ、君も相変わらず遠慮がないな。

リャン
リャン

行裕旅館の一件ならすでに調査するために人を送っておいたぞ。

リー
リー

そう簡単に解決できそうな一件じゃないぞあれは。事情を知らないのなら、首を突っ込まないほうがいい、シャバでの出来事だからな。

リー
リー

俺が尚蜀を出るまで待ってくれ、そしたらおおよそは解決されるはずだ。

リャン
リャン

……

リー
リー

それより盃の安否を気にしなくていいのか?ここに来るまでの間ずっとガタついていたんだ、俺が誤ってケツに敷いて割ってしまったとしてもおかしくはないぞ。

リャン
リャン

君からなにも言い出さなかっただろ、ということは盃は無事のはずだ。

リー
リー

……はは。

リー
リー

そんじゃ拝見させてんもらおうか、龍門からわざわざ運んできたお宝を。

リャン
リャン

……これが……

リー
リー

気になるんだが、この盃のどこが特別なんだ?密輸入商人どものオークションで売られてた時、こいつの価格は添え物と大して変わんなかったぞ。

リー
リー

唯一気になったところと言えども、闇取引連中の間で囁かれてる噂ぐらいだ、最初にこの盃を見つけた村に伝わってる怪談ってやつ。

リャン
リャン

話してみてくれ。

リー
リー

噂によるとこの盃、周りの器物に……命を吹き込めるらしい。

リャン
リャン

……証拠は?

リー
リー

怪談に証拠なんざあったら、それはもう事件だろ?こっちだって耳に聞いただけだよ。

リャン
リャン

では闇取引の商人たちはどうした?

リー
リー

全員近衛局にぶち込んでやった。

リャン
リャン

……それは結構。

リャン
リャン

実を言うと、ほかにも君に頼みたいことがあるんだ。

リー
リー

やっぱりか、俺をわざわざ龍門からこんなところまで呼びつけたんだ、パシリだけで済むはずもないもんな?

リー
リー

だがその前に、ほれ……

リャン
リャン

……フッ。どうやら一杯付き合わなければ離してくれそうにないな。

リャン
リャン

では公務を終えた頃にしてくれ、君は相変わらずだな、悠々自適で。

リー
リー

座りな。

リャン
リャン

その口ぶりからして主人気取りか?

リャン
リャン

龍門ではどうだ?あっちで個人探偵をやってると聞いたが?

リー
リー

ああ……ワイ・ウーチーの娘も預かってる。

リャン
リャン

ほう。どうりで私に彼の行方を探してほしい、と急に言い出したわけだ。

リー
リー

それなりにワイフ―の世話を見てきた、あいつの大学の卒業式だって俺が行ったんだぞ、まさか今度よそに嫁いだ時も俺がバージンロードをリードしなきゃならないって言いたいのか?

リー
リー

ワイフ―はいい子だ、だがあいつの親父はロクデナシだよ。

リャン
リャン

彼の娘は……もうそんなに大きくなったのか。

リー
リー

光陰矢の如しだな、リャン。

リャン
リャン

……そうだな。

リー
リー

お前が官僚になったって話は聞いた、お前の性格ならきっと存分に本領を発揮して、それなりの実績を積み上げるんだろうな。だが俺たちが疎遠になってからもうこんなに経つなんて、思いもよらなかった。

リャン
リャン

君も暮らしが順調になったと聞けば、みんなも安心するぞ。

リー
リー

順調ってほどでもないさ、悩みは色々あれど、日常茶飯事に関する悩みがないってだけだ。

リャン
リャン

……久しぶりに君の手作り料理を食べたくなったな。

リー
リー

お前はもう一都市の地方官なんだからさ、いい加減俺たちが苦労してた昔のことは忘れろ。

リー
リー

そんなことよりも、そういう若い連中の才能を無駄に枯らさないようにしてくれよな。当時のリャンが一番憤りを感じていたことがそれだろ?

リャン
リャン

……そうだな。

リー
リー

ヘッ、だが助かったよ、お前も相変わらず、女運に巡り合ってないようじゃないか。

リー
リー

尚蜀に来て、お前が世帯を築いたって知っちまったら、俺はどうすりゃ――

???
優しい女性の声

……リャン様、お客人ですか?

リー
リー

……

リャン
リャン

……オホン。

リャン
リャン

ネイ殿……また後にしてくれ……

リー
リー

――後も何も、俺はただのトランスポーターです、すぐ立ち去りますんで!

(ネイが部屋に入ってくる)

ネイ
ネイ

……こんばんは、リャン様、それと……トランスポーターさんも?

リー
リー

……こりゃあどうも、奥さん。

リャン
リャン

……

リー
リー

(おい、説明しろ。)

リャン
リャン

(ただの仕事仲間だ。)

リー
リー

(こんな時間に仕事だぁ?)

リャン
リャン

(ちょうどメシ時だったんだ。)

ネイ
ネイ

……あっ。

ネイ
ネイ

もしかしてリャン様、私が今晩来ることをお忘れだったのでしょうか?

リャン
リャン

いや、ただ……

リー
リー

……お二人はどうぞごゆっくり、俺はちょっと用事を思い出したので失礼させてもらいます。

リー
リー

リャン様、ブツならここに置いときますよ、もしまだ俺に用があるんでしたら……あー、そっちの用事が終わったらまた声をかけてください。

リャン
リャン

待て、リー――

(リーが扉から立ち去る)

リー
リー

……こりゃ流石にやべぇな。

クルース
クルース

……ウユウ君、ご飯食べに行くだけでしょ、こんな面倒臭いことする必要ある?

クルース
クルース

適当にどっかで時間を潰せばいいんじゃん?どうせニェンもいないんだし、誰も文句なんか言わないよ……

ウユウ
ウユウ

それはなりません!恩人様、私は昼間のあれで悔恨の念に苛まれるばかりでした、なのでこうしていいご飯処を恩人様のために探してやってるではありませんか。

クルース
クルース

へぇ……じゃあなんでこんな人っ子一人もないような路地裏に来たわけ?

ウユウ
ウユウ

フッ、恩人様、分かっちゃいませんね、炎国人は誰しも自分のお気に入りの現地のお店ってもんがあるんです、そこで出される料理は、有名どころのレストランとは比較ならないんですよ。

ウユウ
ウユウ

食するは思い出、味わうは感動、それと……

クルース
クルース

尚蜀に住んでる現地の人でもあるまいし……思い出にあるご飯屋さんなんかないでしょ。

クルース
クルース

はやくその旅行雑誌を仕舞ってよね。

ウユウ
ウユウ

承知

クルース
クルース

ウユウ君のそれって四次元ポケットかなにか?なんでいっつも色んな変な本とかが出てくるのさ……

クルース
クルース

……わざわざ裏路地を行くなんて、もしかして昼間ウチらを襲った人たちをおびき寄せるつもりだったとか?

ウユウ
ウユウ

私たちは知府様の後ろ盾を得たのですから、恐れる必要などありましょうか?

ウユウ
ウユウ

それに彼らもそこら辺のチンピラとうわけでもなさそうですし、向こうが来られるのなら、いっそのこと落ち合う前に、この一件を解決したほうがいいかと……

クルース
クルース

……大人しく梁府で待機して、それから一番近くにある事務所からオペレーターを呼んでもらって尚蜀と合流することが一番無難なんだけどなぁ……うーん……

ウユウ
ウユウ

あっ、ずっと聞きたかったんですが、ロドスに炎国人はたくさんおられますか?

クルース
クルース

そう言われてみれば、あんまり多い感じはしないかな、でもどこ行っても炎国人がいるような感じもするんだよね、不思議だなぁ――

ロドス?ロドス……
ああ。
感染者が市内を堂々と歩き回っているとはな?

ウユウ
ウユウ

――恩人様、危ない――

(ウユウがクルースをガタイのいい男性から引き離す)

クルース
クルース

うわッ――

ガタイのいい男性
ガタイのいい男性

電光石火の間においてもそのような反応ができるとはな。

ガタイのいい男性
ガタイのいい男性

実に意外だ。

ウユウ
ウユウ

一体なんの――

ウユウ
ウユウ

――!

(ガタイのいい男性がウユウに近寄る)

ウユウの思考回転速度は早い、動きなら尚更だ、武を極めた者はほとんどがそうである。
だが今回、この大漢の手刀はウユウの動きよりも素早く繰り出され、彼の喉元に宛がわれた。

ガタイのいい男性
ガタイのいい男性

動くな。

クルース
クルース

……ウユウ君!手出しちゃダメだよ!

ガタイのいい男性
ガタイのいい男性

お前は自分の同伴者の身分を分かっているか?彼女が感染者組織の一員であることを分かっているのか?

ウユウ
ウユウ

はは……恩人様、手なんか出せませんよ……

ウユウ
ウユウ

だってこの人は……炎国の官僚なんですから。

ガタイのいい男性
ガタイのいい男性

奇妙な扇を使用する短兵の者か。武術は極まっているが殺しは経験していないらしいな。

ガタイのいい男性
ガタイのいい男性

理解していた自分に感謝するがいい。

クルース
クルース

私たちどこかで会ったような……

ガタイのいい男性
ガタイのいい男性

ない。

ガタイのいい男性
ガタイのいい男性

だがあの大理寺少卿(だいりじしょうけい)とお前たちは少なからず関係があるようだ。

クルース
クルース

……レイズさんのこと?

クルース
クルース

そうだ!以前行動記録で見たことがある、あなたは……!

タイゴウ
タイゴウ

粛政院副監察御史(ぎょし)、タイゴウだ。

ウユウ
ウユウ

しゅ、粛政院……!?

タイゴウ
タイゴウ

感染者、何をしに尚蜀へ来た?

タイゴウ
タイゴウ

勾呉でなにがあった?なぜあのシーが勝手に山を離れた?

タイゴウ
タイゴウ

それとロドスはこの一件とどういった関わりがある?

ウユウ
ウユウ

(恩人様、もしかして……シーさんのことを言ってるのでしょうか?)

クルース
クルース

……

タイゴウ
タイゴウ

黙秘か。

クルース
クルース

ロドスに探りを入れる必要ならないですよ、私たちもちゃんと分を弁えていますから……感染者として。

タイゴウ
タイゴウ

……

クルース
クルース

けど私たちオペレーターの私生活について聞かれても、お生憎お答えできかねます。

クルース
クルース

私だって知らないんですから。

タイゴウ
タイゴウ

……オペレーターだと?

タイゴウ
タイゴウ

歳獣の化身が一企業の雇用員になるなど、前代未聞だ。

タイゴウ
タイゴウ

どうやら大理寺はロドスへ怠慢な対応を取ってると見た。

クルース
クルース

……私たちの後をついてきたんですか?

タイゴウ
タイゴウ

いいや。

クルース
クルース

じゃあ私たちを見逃してくれるつもりもないんですね?

タイゴウ
タイゴウ

そちらが調査に協力してくれるのなら、考えてやらんでもない。

クルース
クルース

……

???
若い男の声

タイゴウさん、そんな高圧的な態度を取っちゃダメですってば。

クルース
クルース

――!

タイゴウ
タイゴウ

サ公子。

サガク
穏やかな少年

すでに現地の人から少しばかり状況を把握してきました、この方たちは……ロドスと関連ある人たちです、今は尚蜀知府のお客さんでもあります。

サガク
穏やかな少年

確かに彼らは灰斉山の一件と深く関わっていますが、それでも意図的に過ちを犯したわけではありません、とっ捕まえる必要はないかと。

タイゴウ
タイゴウ

……

サガク
穏やかな少年

申し訳ありません、お二方、タイゴウさんはいつも寡黙なんですけど、今日はなぜか興奮気味でして。

サガク
サガク

ぼくはサガクと申します、そうですね……宮廷専属のトランスポーターとでもご理解頂ければと。

クルース
クルース

……ロドスオペレーターの、クルースです。

ウユウ
ウユウ

ロドスオペレーターの、ソ・ウユウです。まだ入職が決まったわけではありませんが。

サガク
サガク

クルースさん、ウユウさん、お騒がせしましたね。

サガク
サガク

ただ……先に無礼を働いたのがタイゴウさんとは言え、忠告を一つ。

サガク
サガク

もしお二人ともあの姉妹と浅からぬ関係にあるのでしたら、関わり合うのもそこまでにしておいたほうがいいですよ。

クルース
クルース

ニェンは私の友人兼同僚、シーはその友人の妹です。これは“そこまでにしたほうがいい”の範疇に入りますかね?

サガク
サガク

……そうですねぇ、正直“手遅れ”と言ったほうがいいかもしれません。

クルース
クルース

ご忠告ありがとうございます。

サガク
サガク

……フッ。

サガク
サガク

クルースさんって、結構肝が据わってるんですね。

サガク
サガク

ではぼくもタイゴウさんもまだ公務がありますので、お先に失礼させて頂きます、ではまた。

タイゴウ
タイゴウ

ロドスの一件については、梁知府からも粛政院に回答を頂けると幸いだ。

タイゴウ
タイゴウ

では失礼する。

(タイゴウ達が立ち去る)

クルース
クルース

……うぅ……

ウユウ
ウユウ

恩人様!大丈夫ですか?

クルース
クルース

あはは……さっきはビックリしちゃって、足をくじいちゃった、でも大丈夫だよ。

クルース
クルース

……ウユウ君。

ウユウ
ウユウ

……ええ。

ウユウ
ウユウ

粛政院副監察御史を“トランスポーター”の護衛に務めさせるなんて、ありえない話です。私たちだってバカじゃありませんからね。

ウユウ
ウユウ

それに相手はどうやら勾呉の灰斉山、つまりついこの前私たちが遭遇したあの奇妙な出来事について、完璧に把握している節がありました……

ウユウ
ウユウ

いくらバカでもあの姉妹の正体が非凡であることぐらい分かると思いますが、しかしこれは些か……くっ、予想外です。

クルース
クルース

……とりあえず梁府に戻ろう。

クルース
クルース

今はぶらり散策してる場合じゃない、はやく彼女たちと合流しないと……

(奇妙な物体が通り過ぎる)

クルース
クルース

……ん?

ウユウ
ウユウ

どうされました?

クルース
クルース

ううん、なんでもない……たぶん小動物か何かだと思う。

リャン
リャン

……はぁ。

ネイ
ネイ

ため息をつくなんてらしくないですね。

ネイ
ネイ

……もしくは私が来たことに、機嫌を損ねてしまわれましたか?

リャン
リャン

そんなことは……

リャン
リャン

ない。

リャン
リャン

なにか用か?

ネイ
ネイ

用がなければ来てはいけませんか?

リャン
リャン

……いいや。

ネイ
ネイ

一緒に山に行って劇を見に行きたいと思っていますが、いつ頃お暇になられますか?

リャン
リャン

今はまだ寒い時期だ、それにネイ殿は近頃お身体が不調だと聞いた、山に行くべきではないと思うが。

ネイ
ネイ

早春なんてそんなものじゃないですか、むしろ数舟峰の熱いお茶が恋しくなります。

リャン
リャン

わかった。時間ができたら、一緒に付き合おう。

ネイ
ネイ

さっきの方はリャン様のお客人でしたか?あなたはトランスポーターと雑談するような人ではないはずでしたが。

ネイ
ネイ

「仕事の邪魔になるから、ブツはそこに置いてくれればいい」と、あなたならそう言うはずですよね?

ネイ
ネイ

いや、前半の言葉を言うはずもないでしょう、リャン様は一番礼節を重んじておりますから。

リャン
リャン

……ネイ殿には誤魔化せんな。

ネイ
ネイ

どちらからいらしたんです?

リャン
リャン

龍門からだ。

ネイ
ネイ

まあ遠いこと!あっ……ならせっかく遠路はるばるいらしたんですから、もしかしたらお邪魔してしまいましたか?

リャン
リャン

そんなことはない、彼はあんなことを気にするような人じゃないさ。

ネイ
ネイ

まあ……珍しい、あなたにそう言われる人がいただなんてね?

ネイ
ネイ

てっきり誰に対してもつかず離れずの態度を取るのかと思っておりましたよ。

リャン
リャン

……オホン。そんなことは……

ネイ
ネイ

彼は何しにいらしたのですか?

リャン
リャン

彼には……頼み事があって呼んだんだ。

ネイ
ネイ

……

ネイ
ネイ

どういったご用件で?

リャン
リャン

些細なことさ。

ネイ
ネイ

千里を遠しとせず、些細なことのためだけに旧友を招くとは思いませんが……

リャン
リャン

……

ネイ
ネイ

言いたくないのであれば、私もこれ以上は聞かないでおきます。

ネイ
ネイ

しかし、俗世の万事は細毛の如く多い、もしあれもこれもと持ち込んでは悩み、深く首を突っ込まれてしまわれれば……

ネイ
ネイ

いずれ倒れてしまいますよ?

リー
リー

ん?

リー
リー

この客室は確か、リャン様から休憩させて頂くために俺に用意してくれた部屋のはずだが?

リー
リー

招かれてもいないのに入って来たことはともかく、俺のためにお嬢さん自らが茶まで淹れてくれたのはどういうことなんでしょうかね。

ドゥ嬢
ドゥ嬢

これはリャン様のお茶よ、あんたのじゃないわ。

ドゥ嬢
ドゥ嬢

あんたの分も淹れてやったんだから、これで文句なしにしてちょうだい。

リー
リー

ドゥお嬢さんがいらしたということは、まださっきの旅館での続きを?

ドゥ嬢
ドゥ嬢

……当ててみたら?

リー
リー

この梁府から見える景色は実に見事だ、ドゥお嬢さんもあまり大胆な真似には出られないと臣ますがね。

リー
リー

それよりも話してみてくださいよ、ここへ何しに来たんですか?

ドゥ嬢
ドゥ嬢

余裕綽々ね、まだアタシと話す気力があるなんて。

リー
リー

茶まで淹れてもらいましたからね。

ドゥ嬢
ドゥ嬢

……いいわよ。

ドゥ嬢
ドゥ嬢

単刀直入に言うわ、ここに来たのは、あんたに手伝ってもらうためよ。

リー
リー

いいですよ。

ドゥ嬢
ドゥ嬢

へ?

ドゥ嬢
ドゥ嬢

おっかしいわね、あんたがそう簡単に人を信用するとは思えないんだけど、どういう風の吹き回し?

リー
リー

あのリャンがあなたの侵入を許可したんだ、疑うも何もないですよ。

リー
リー

彼とはお知り合いなんで?

ドゥ嬢
ドゥ嬢

……年下の者としてリャン様に入れてもらえるようお願いしただけよ。うちの父親とここはいい関係にあるから。

リー
リー

なるほど。

ドゥ嬢
ドゥ嬢

この前会った時、アタシはあんたのブツを奪おうとしてたのよ。

リー
リー

あれはリャン様のブツだ、俺のじゃありませんよ。

リー
リー

面倒事なら彼に任せまてましてね、そういう俺は……それに対応するだけです。

ドゥ嬢
ドゥ嬢

……本当にアタシを信じてくれるの?

リー
リー

お嬢さん一人の恨みを根に持ち続ける必要なんかあると思います?

リー
リー

はぁ、誰だって若気の至りってもんぐらいありますよ、みんな怖い顔をして自分を強く見せようとする、自分のメンツのためにね。

ドゥ嬢
ドゥ嬢

――め、メンツなんてどうでもいいけど!?あれはただ――

リー
リー

店主さんに怒られたんじゃないんですか?

ドゥ嬢
ドゥ嬢

……フンッ。

ドゥ嬢
ドゥ嬢

あんたってば、本当におっかない人ね。

ドゥ嬢
ドゥ嬢

飄々として、我関せずって感じに見えるけど、実際は何を考えてるのかさっぱり分からない――そういう人が、一番おっかないわ。

リー
リー

だとしても初対面の人に椅子なんか蹴り飛ばすことはしませんけどね。

ドゥ嬢
ドゥ嬢

……

リー
リー

話してみてくださいよ。取引ってのは、誠意が必要ですから。

ドゥ嬢
ドゥ嬢

ジェン総支配人……父さんは朝廷の者から依頼を受けた、あんたが持ってる盃を奪えって。

リー
リー

だろうとは思ってましたよ、けどさっきまではそっち側についてたのに、なんでまた考えが変ったんです?

ドゥ嬢
ドゥ嬢

全部は言えないけど、ただ、父さんの目論見を阻止したの。

リー
リー

それで?

ドゥ嬢
ドゥ嬢

ことの経緯を教えないと、アタシを信じてくれないのかしら?

リー
リー

答えが分かりきってる問題を改めて聞く必要はないさ、そのほうは思慮深く見えますからね。

ドゥ嬢
ドゥ嬢

もし阻止できたら、アタシに分がどれだけあったとしても、父さんはその功績をアタシのものとして認めてくれる。

ドゥ嬢
ドゥ嬢

鏢局は敵が多い上に、ライバルも多い。なにより今の世の中はトランスポーター業のほうが盛んになってる、鏢局は規模がデカいからと言って、今でも古い掟を保とうとしている、それだと時代に取り残されて、いずれは淘汰されてしまうわ。

ドゥ嬢
ドゥ嬢

だから父さんはいつもアタシに言うの、身を慎めって。

ドゥ嬢
ドゥ嬢

ただの金持ちのボンボンとして、毎日遊びに耽るフリをすれば、アタシに注がれる目も少なくなってくる。

ドゥ嬢
ドゥ嬢

それから、アタシが密かに朝廷の依頼をいくつかこなしていけば、コネもできるし、部下たちも納得させられる。

ドゥ嬢
ドゥ嬢

そうすれば、父さんも安心して家業をアタシに譲ってくれるわ。

リー
リー

総支配人にも総支配人なりの計画があるでしょうよ。

ドゥ嬢
ドゥ嬢

でもその計画にアタシは入っていないわ。

ドゥ嬢
ドゥ嬢

鏢局を継ぐドゥ・ヤオイェーにしかり、毎日ダラダラ過ごすドゥお嬢様にしかり、どっちともアタシがそうなるように周りから望まれてことなのよ。

リー
リー

つまりこの機を借りてジェン総支配人に責任を背負わせ、自分がその新しい総支配人の席につくようにすると?

ドゥ嬢
ドゥ嬢

そうとも言えるしそうとも言えない。

ドゥ嬢
ドゥ嬢

朝廷が鏢局に依頼するなんてことは滅多にない、だからもしこの依頼がコケたら、父さんが鏢局をアタシに譲る可能性は万に一つもなくなってしまう。

ドゥ嬢
ドゥ嬢

多くの若い連中は、みんなアタシに新しい道を見出してくれることを望んでいる。だからあいつらに言ったのよ、もし父さんのこの案件がおじゃんになったら、鏢局は自ずアタシたち若者の言いなりになるって。

リー
リー

けど親父さんから引き継ぐのを大人しく待った結果も同じなんじゃないですか?

ドゥ嬢
ドゥ嬢

まったく違うわよ。もしそうだとしたらただ従うことになるだけだわ、引き継いでしまったら、アタシは必ずしきたりや掟には逆らえなくなる。

ドゥ嬢
ドゥ嬢

その“しきたり”はアタシの父さんだけとは限らないからね。

リー
リー

それで俺のところに来たと……あー、その手伝いって、要は俺と一芝居打つってことですかい?

ドゥ嬢
ドゥ嬢

そうよ。

リー
リー

ドゥ・ヤオイェーってのは……お嬢さんのお名前ですよね?

ドゥ嬢
ドゥ嬢

な、なによ?

リー
リー

静かなる杪秋の遥夜、心は繚悷して哀しむ。遥夜(ヤオイェー)遥夜、遥遥たる長夜か、いい名前だ。

ドゥ嬢
ドゥ嬢

お生憎様、アタシは夕方時のほうが好きよ。

リー
リー

……取引ってもんですから、そちらは俺になにをくれるんです?

ドゥ嬢
ドゥ嬢

あんたが持ってるブツを欲しがってる人がいるわ、その人は朝廷の人だけど、あんたは渡さなかった。それがどういう意味だか分かる?

リー
リー

そう言われても俺の友人からは渡せとは言われてないんでね、その友人はまさしく朝廷に仕える者ですけど?

ドゥ嬢
ドゥ嬢

リャン様がわざわざあんたを呼びつけたのは、別件もあったからなんでしょ?

リー
リー

別件つっても大した用事じゃないですよ。

ドゥ嬢
ドゥ嬢

まあどうでもいいわ、こっちは興味ないし。ただこの事情を知ったからには、そっちが何をしようが、もう自分は関係ないって顔をしないことね。

ドゥ嬢
ドゥ嬢

それでアタシなんだけど、あんたの助っ人になってあげる。せめてあんたが無事龍門まで帰れるようにしてあげるわ。

リー
リー

……そりゃごもっともで。

リー
リー

そんじゃあ取引成立ってことでいいですね。

ドゥ嬢
ドゥ嬢

……ええ。

ドゥ嬢
ドゥ嬢

ふふ、あんたってアタシが想像してたよりも話が通じるじゃない。

ドゥ嬢
ドゥ嬢

安心しなさい、アタシは確かにあの総支配人の席には座りたくないけど、今時の若い連中の多くは年配たちに少なからず不満を抱いているから、みんなアタシの言うことに従ってくれるわ。

リー
リー

……口では鏢局を引き継ぎたくないって言ってるけど、やってることはそれと同じじゃないですか?

ドゥ嬢
ドゥ嬢

……世代が違うってだけよ。

リー
リー

そりゃ確かに。

ドゥ嬢
ドゥ嬢

なーんかまだ何かひた隠してる気がしなくもないけど、まあいいわ、これ以上ここにいれば、見つかった際面倒なことになるわ。

ドゥ嬢
ドゥ嬢

……えっと……

リー
リー

リーと申します。

ドゥ嬢
ドゥ嬢

――そう、ならリー、また会いましょう!

リー
リー

……あの店主さん、優しい見た目してるのに、あんなじゃじゃ馬娘がいたとは……

リー
リー

……

(回想)

ワイフー
ワイフー

……リーおじさん。

リー
リー

ん?

ワイフー
ワイフー

リャンさんのところに行くんですか?

リー
リー

……ああ。やれやれ、あんな遠いところまで行きたくはないんだけどな……

ワイフー
ワイフー

それでその……

リー
リー

お前の親父さんのことなら、頭の隅に入れておくよ。

リー
リー

運がよかったら、連れ戻してくるさ。

ワイフー
ワイフー

……はい。

ワイフー
ワイフー

ありがとうございます。

リー
リー

……はぁ、よせよ、それにあんま期待するんじゃないぞ。

リー
リー

炎国はだだっ広いんだ、見つかりたくない人を見つけるなんざ、至難の技だよ。

ワイフー
ワイフー

……

リー
リー

……ワイフ―。

リー
リー

お前も知ってると思うが、仮にそいつを見つけ出してあれこれ今までの文句をつけるにしても、今までの恨みを全部チャラにしてそいつに甘えようとするにしても、どっちもお前が探しに行かなくちゃならないことなんだ。

リー
リー

お前があのイカレた親父の背中を追いかけなきゃ、そいつは振り向いちゃくれない、そういう人だからな。

ワイフー
ワイフー

……

リー
リー

俺はしばらく尚蜀に泊まる。もしあいつの知らせが入ったら、お前にも教えるよ。

リー
リー

そっちがもし……決心がついたのなら、俺のところに来な。

ワイフー
ワイフー

私は……

ワイフー
ワイフー

わかりました。

リー
リー

……はぁ。

リー
リー

リャンの野郎、用事があるなら一声かけろよな、客をこんなところにほったらかしにしやがって……

リー
リー

うーん……茶はまあまあだな、だがこの急須はいい。実に……いい急須だ。

リー
リー

……ん……筆と硯か……古風な客室だな。リャンのセンスも趣味も相変わらずか。

リー
リー

(あくび)

リー
リー

……うぅん。舟と車に揺られまくって、疲れちまった。

リー
リー

今のうちに少しだけ休むとするか、あれやこれやと頼む込まれて、疲れ果てちまったよ――

リー
リー

――

リー
リー

――ここは?

奇妙な物体
奇妙な物体

ガウ……

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