
今日は収穫なしか……

……龍門の探偵事務所にいた頃は、こんな面倒臭くはなかったんですけどね。

リャン様からあまり手がかりをくれなかったからか?

いや、龍門には……知り合いがたくさんいるからですよ。

それに比べて尚蜀にいる知り合いつったら、多忙ゆえ敷地から出られないリャン様と、あなたぐらいですよ、シェンさん。

……はぁ。

旅館の入口に、なんか人がたくさん集まっていないか?

隠れるつもりもなくなったんじゃないですかね。

……おい、あの龍門人を確認した、そうだ……ヘタなマネはするなよ、あいつらをここから逃がさなきゃいい。

見張っておけ。

やれやれ、これじゃあまるで自分から網にかかった感じみたいですね?

……おかしい、ヤツらが昔いくら暗躍していたとはいえ、今頃は旅館を数軒経営してるだけのはずだ、いつの間にこんな人脈を広げていたんだ?

周囲にはほかの連中はいない――ま、待った!
(ショウが近寄ってくる)

しょ……ショウさんだ。

……

戻ったぞ。

……

……どうぞ、お座りください、お茶如何です?

……聞いて回った。

お前が言っていた場所、人が少なく昔からの庵が残されてる場所ならいくつかは見つかったぞ、全部地図に記しておいた。

酒屋についてなんだが、村がある場所にはほぼ必ず酒屋も置いてある。そこも条件には合致する場所と言えるだろうからそこらも記しておいた。

ふむ……

取江峰はどうだったんだ、それらしい場所はあったか?

……生憎目星はない。だが俺の古い馴染のセンってヤツに聞いたら、あるって言ったんだ。

あそこは人里から離れた山道ばかりでな。普通の観光客なら行かないような場所だから、気を付けろよ。

なるほど、ありがとうございます。

……それじゃ俺はこれで。

ショウさん、外にいる連中とはどういった……?

――!

……知らんヤツらだ。

じゃあな。
(歩荷が立ち去る)

な、なんで……

(はやく総支配人に伝えろ……ショウさんとあの龍門人がつるんでるって!)

(じゃあまだ入口を塞いでおくか?)

(塞いでどうする、さきに撤退するぞ、ほらほら。)

戻ったか。

徒労に終わっちまったよ、聞かないでくれ。

賊が君を狙っていたから心配してたんだ。

……リャン様が賊に睨みを利かせていれば、俺も賊に狙われずに済むさ。

それに、あの盃はもう俺の手元にないんだ、だからリャン様こそ気を付けてくれよな。

……心配はいらない。

君を襲った者の身元は調べた、ある誤解のせいで、君を文物窃盗の泥棒と向こうの密輸入者は誤認していたらしい。

どうやら尚蜀にもまだ侠客の類は存在してるらしいな、“誤解”で急に手を上げてくるんだからよ。

まあ責めないでやってくれ。

シェン殿、リーは尚蜀の者でないゆえ、すまないがここ数日はもうしばらく案内してやってくれ。

お気になさらず、リャン様の言われた通りにしますよ。

今はちょうど渡り場も多忙の時期だろう、その間の報酬は終わったら倍にして返す。

よくしてくださいリャン様、私たちはなにも金のためにやってるわけじゃないんです。

しかしそれでは働き損ではないか。

シェン殿には大いに助けられているんだ、それに今後ともなにかと世話になるかもしれないから受け取ってくれ。

……わかりました、リャン様がそう思って頂けているのなら、無下にはできません。

ではリーがここにいる間は付きっきりで案内しておきます、尚蜀十七峰の探索で丘と川の両方の案内人がいれば安心でしょうし。

頼んだ。

――リャン。

なんだ?

中で話そう。

俺がこの前、お前がまだ何か隠し事をしていなければ、今回の件は簡単に終えるはずだ、って言ってたのは憶えているよな。

教えてくれ、あの盃とその持ち主に、一体どんな秘密が隠されているんだ?

……

まだ言えないのか?

言えない。

今日山を探していた時、またあの連中と出くわした。

なに……

“誤解”にしては説得力がないぞ、リャン。

……

それで、事の重大さは?

天にも勝るほどだ。

……はぁ……

なら早めに教えてくれよ。

君を巻き込ませたくなかったんだ、知れば知るほどそれに巻き込まれてしまう。

俺はまだそれに巻き込まれていないとでも言いたいのかい?

……すまなかった。

君はしっかり休んでいてくれ、もしどうしても見つからないのなら……諦めよう。

もうここまで来たんだ、今更後悔するわけにもいかないだろ?

俺を思ってくれたその気持ちだけで十分だ。もし俺がここで諦めちまったら、お前は今度も後悔し続けることになる、俺にはよーく分かるさ。

それで今回の件は一体なにと関わっているんだ?少しは教えてくれないか?

民衆と国家に関わる一大事だ。

そりゃ確かに天にも勝るほどだな、だがそんな抽象的に言わないでくれ、冗談にしか聞こえんぞ。

民と国に関わることを冗談に用いる私ではないのは君も分かっているだろ。

……もちろん分かっているさ。

じゃあ話題を替えよう、今夜もまたお前を探しに女の子がここに来ることはないはずだよな、リャン。

――オホン。

……私とネイ殿にはなにもない。

まだなにも言ってないだろうが。

君の目はそう言ってる。

そうかい?お前ってヤツは昔っから朴念仁だって揶揄われちゃいたが、ワイ・テンペイの娘もあんな大きくなっちまったんだ、そろそろあっちのことも考えたほうがいいんじゃないのか?

……

なんか思いきれないことでも抱えてんのか?

……

一杯どうだ?

いい加減君に一杯付き合ってやらないとな。

……わかったよ、そうだな、いい加減一杯付き合おうや。

やはり素早い身のこなし方ですねクルースさん、あの総支配人の言った通りでした。

それより扇を使っているお兄さんはどちらへ?

万が一そっちの罠にハマって二人して全滅するわけにはいかないからね。

……てっきりクルースさんは裏で待機して、ぼくのところにはそのお兄さんを寄越してくるのかと思っていましたよ。

飛車を捨てて王将を守る、クルースさんはその“王将”、そして逃げるのを得意としている射手。

それなのに、ここに来たのはあなただった。

ウユウ君をまだ正式に入職させていないのがいけないんだよ、無関係な人をわざわざ火口に突き落とすわけにはいかないでしょ。

だとしても、クルースさんなら来てくれるはずだったんじゃないですか?

その“お見通しだよ”って感じで自分を賢く見せたいだけなんだったら、もう帰ってもいいかな?

……はは、せっかちですね、ならさっきの無駄話は全部忘れてください。

単刀直入に言いましょう、少しばかりロドスのことを調べさせてもらいました、時間が時間なため、あまり多くは調べられませんでしたけど。

クルースさんの人となりは、すでに少なからず拝見させてもらいました。あなたのことはすべて理解したとまでは言いませんが、それでも信用はできるでしょう。

……信用できる?君たちの事情に首を突っ込んだだけでなく、それ以前に私は感染者だよ?

良才は善く用いり、能ある者はここに居る、鉱石病とは感染者の一人一人に降りかかった不孝というだけ、その人たちが背負う責任と能力になんの関係がありましょうか?

……

それで、ロドスに一つ手を貸してもらいたいことがあります。

いや、言葉を変えましょう、もし手を貸してくれないのであれば、ロドスはぼくたちと敵対することになりますよ。

リーさんの盃が目当てなんだね。

あの夜、梁府から逃げていった痕跡は二つに分かれていた、深夜でわかりづらいし、君たちの動きも素早かったけど、ずっと追いかけていたよ――梁府から逃げていったほうを。

けどすぐに見失っちゃったけどね、それから私の前に、わざと私の目を惹こうとしてる人が現れたんだ――

あの旅館の店主さんが私の目を惹こうとしていたのって、君を逃がすためだったの?

やはりあの総支配人があなたを見る目は間違っていなかった。

……そういうことなんだね。

あの盃と“歳”はどういう関係があるの?

“歳”をご存じなんですね?

……フッ……ウソを言ってるようには聞こえませんが、それでもまだ半分しか理解していないといった感じですかね。

え、そう?

あなたはただニェンとシーを友だちとしか見ていないわけではない……彼女がそのことをあなた方に教えたということは、彼女たちは明らかにロドスを命綱として見ているということだ。

もしそれが数十年数百年前だったら、彼女たちがどう動こうが、規則を破らない限り、司歳台もいちいち目を配ったりはしませんでしたよ。

けどもう今は違う。

時代が変化したにしても、あなた方がニェンと関わったにしても、それかシーを勝手に山から連れ出したにしても、そのことで司歳台は怒り心頭ですよ。

私たちは別に……

わざとではないのは理解しています、しかしその先のことは考えたことはありますか?

彼女たちが集っても別に驚天動地な謀を企んではいないと、炎国はどうそれを判断できるんです?

……“炎国”。

……ぼくはなにもわざと脅すつもりで言ってるわけではありませんよ。

ニェンとシーは尚蜀に接近した後に消息を絶ちました、そしてちょうどそのタイミングで、彼女たちと関り深い盃が現れ、おまけにそのどちらとも干渉してる“ロドス”までもが出現してきた。

どう考えても都合がよすぎます。違いますか、クルースさん。

……

この世にこんな偶然にも都合がいいことなんてありません、ぼくはそう思いますよ。

……いっけねッ!

服干すの忘れちまった。やべぇな……今日干さなかったら、明日の着替えがなくなっちまう。

……ショウ、なんでここにいるんだ、お前はここに来ちゃいけねぇんだぞ。

……

さっさとここから出て行くんだ、今なら見なかったことにしといてやるよ。

今日若いヤツが、俺に山で庵を探すよう頼んできた。

……お前が去った時の状況ならみんな理解しているさ、だがあの時お前はケジメもをつけてくれなかったし、おまけに総支配人を裏からハメようとした、それをしたお前は今じゃ規則に則れば裏切者扱いなんだぞ。

それからお前たちの人間がその若いヤツを囲い込みがやった。

裏切者のショウさんよ、頼むからさ、人の目に入っちまったらこっちは手を出さなきゃならなくなるんだぞ?お互い流血沙汰はイヤだろ?

あいつは誰なんだ?

いい加減にしてくれショウさん!

あいつは誰だと聞いてるんだ?

……龍門人だが?

それは知ってる。

ちょっとした仕事ってだけだ、関係ないヤツにこれ以上教える義理はない。

……今年を過ぎればもう十年目になる。その節目に、俺は鏢局とケリをつけるつもりなんだ。

お前たちともケジメをつけてやるよ。

あのジェンともな。

だとしても教えるわけにはいかねぇ、ショウさん。

リュウジ!あの時お前をあの火事から救ってやったヤツの顔を忘れたのか!?

言えねぇ。

……あの盃が関わってるんだろ、十年前のあの盃と、そうなんだろ?

なっ――

……図星か。

あの若い連中が言ってた“盃”ってのは、やはり……

おい、まさか弟子たちから強引に聞き出したんじゃないだろうな――

……ようやく天が俺に味方してくれた。
(歩荷が立ち去る)

――おい、ショウ!なに聞きたいこと聞いて行こうとしてやがんだ!おいったら!

飲む量は昔と比べて変わったな。

昔のリャンなら、もうとっくにぶっ倒れてるだろうよ。

私もたまには一人で晩酌するが、久しぶりだ。

さすがはリャン様、地方官になってもまだ晩酌できる余裕があるとは――おいちょっと待て、そのたまにってのはまさか?

酒で紛らわそうとしても余計侘しくなる、人としての習わしだな。

……酒の量が変れば、人も変わるってよく言うだろ。そう思わないか?

理には適っているな。

はぁ、盃に注いでるのは酒、そして義理人情なのかもしれないな。

正直に言って、今回尚蜀に来てお前を見た時、心の中じゃそれなりに驚いていたんだ。

ほう、なぜだ?

俺の知ってるリャンはケジメをきちんとつけ、むっつり顔をした男だからな。

まだ学校に通っていた頃、先師閣の外で、お前は天下のために福をもたらすって言ってたんだ、それからこの大地は苦痛に満ちている、だから大地に生きる人々のために火を起こし、彼らから暗闇を退いてやるってのもな。

……若い頃の大言壮語は、今では自省を促す際の初心となっているよ。

歳を食っちまったな。

そうだな。

君もあの時のような風流瀟洒なお坊ちゃまではなくなったな。

有耶無耶に生きてただけさ。

……もう長い間家を出ているらしいが、家族と連絡は取っているのか?

そんなに経っちゃいない、出てきたばかりだ。

龍門にあるあの探偵事務所が、今の君の家だと?

当然だ。

では江東のほうは……

そこは邸宅が一軒、何基かの燈篭と、古い馴染が数人いたってだけの場所さ。

……お互い変わったな。

だが辛気臭い昔話をしたいがために、今日こうして乾杯を交わしたしたわけじゃないんだけどな。

いや、それも違うな、今じゃリャン様は四品官になって、一都市の知府になられた、それに庶民からも慕われている、昔の願望が叶ったって言ってもいいんじゃないのか?

道はまだ長い。尚蜀は元から活気に溢れている、私がしてることなど、ほんの少しだけそこに花を添えてやっただけだ。

なら是非とも初心を忘れないように願って、乾杯。

乾杯。

やっぱり炎国の神秘学研究はこの大地で一番造詣が深いね。

他人とその研究をシェアするつもりはないって言い方だけはしないでくださいね。

形は異なろうと、事実としてこの大地にある各国は各々の方法で同じような問題と対峙している、大地からすればどれも同じようなものです。

しかし、歴史的な要因となれば……話は違ってきます。こと“巨獣学”の分野において、テラを見渡しても、この学問と研究の先を進んでいるのはいつだって炎国の司歳台です、過去でも、未来でも。

イェラグがソレらをまだ神として崇拝していた頃、サーミが未だソレらと共存している今でも、司歳台はすでにソレらを知り尽くしています、どんな微細なところでも。

じゃあ、その司歳台の“歳”は、ニェンさんが言ってた“歳”と同じってことかな?

ニェンからそれに関する伝説は聞かされていますか?古代の皇帝がソレらを狩られた話を。

(ラヴァちゃんが話してたヤツだ……)

かつて古代の人々が“神”と崇められていたとある生物は、文明が興るにつれ、次第にその姿を晦ましてきました。

その“歳”というのは、そのうちの一つです。

“とある生物”……?

アレらが生物かどうかについては、今ここで話す必要はないかと。

ただ今はアレらが国を滅ぼしかねない時、炎国はソレらを蹴散らす力を持っていることだけを知っていれば十分です。

……それも確かに。

司歳台の機密内容とまでには及びませんが、皆がみんなこれを知ってることではありませんからね。

それとクルースさんにこれを教えたのも、学術会談をしたわけではありません。

……

……ニェン、シー、それと尚蜀のどこかに隠れてるもう一人。こいつらは常に司歳台の監視下に置かれています。

本来ならここまで干渉するつもりはなかったんですよ、ただあの山にかかっていた雲が突然晴れ、司歳台の秉燭人がそこへ駆けつけた頃、シーが姿を消したあの時を境にね。

つい数日前のことだね。

司歳台の秉燭人も、数日もかからずにこのことを朝廷へ報告してくれました。

……すごいじゃん、灰斉山って炎国の首都からそうとう距離があるのに。

ロドスは全貌を把握していない状況下でこのことに干渉してきましたが、無知なる者に罪はありません。しかし逆を言えば、無知であるにも関わらず、あの二人と積極的に関わろうとしている、まったくもって常軌を逸した思考回路です。

ですので今、ロドスには司歳台の言う通りに、あの龍門人を説得して、あの盃をこちらに譲っていただきたい。

……やっぱり、リャンは最初から君たちの命令を受けていたんだね。

その通りです。

彼はリーさんにモノを龍門から持ってこさせて、盗まれたフリをしてそれを裏から引き渡そうとしていたんだね?

知府は呼び捨てにして、あの龍門人には“さん”を付けているということは、あなたは間違いなく善良なる人だ。

\その“いい人”って言葉、炎国では別の意味も含まれているんじゃないだろうね?

誤解しないでください、皮肉とかそういうのではなく、あなたはあの龍門人を信頼していると言いたかっただけです。あの人はロドスと協力関係にあるから信用しているのですか?

ただの協力関係じゃないよ……友だちでもあるんだ。

……友だちというのはそうたくさんいるような存在ではありません。ニェンもシーも、あなたにとって友人のようですが。

君の話を聞くと、司歳台は炎国でそれなりの地位があるようだね、じゃあ君たちがわざとこんな芝居を打ってるのは、誰の目を誤魔化そうしているからなのかな?

それはロドスが知っていい内容の範疇を越えてしまいます。

結構素直に認めるんだね?

白日の下に晒せないようなことでもありませんからね、機関のメンツを保つためにも、そうしてるだけです。

さて、ロドスには色々と教えました、それでそちらの協力は得られそうですか?

……ロドスに手伝ってほしいの?

できればリーさんにも協力して頂きたい。

なにを?

除歳を、です。

……まだ酔っちゃいないさ、支えなくてもいい。

君は客人だ。

お前に龍門から呼び出しされただけなんだどな。

トランスポーターを龍門に送っても、君を探し出せるとは思っていなかったよ。

こっちは龍門であの事務所を立てた時、お前らには見つかっちまうなとは思っていたけどな。

“リー氏”、なぜ急に龍門で居を構えようと思ったのだ?

あそこが炎国の一番端っこの場所である以外に理由はあるか?

それよりも外に行っちまうと……もう俺の居場所はないんだよ。

……戻ってこればいいだろ。

イヤなこった。

なぁ、リャン。

……ああ。

俺だって分かっていたさ。

君はいつだって分かっているじゃないか。

龍門ですら君の居場所ではなかったが、それでも君はずっと龍門に期待を抱いていた。

そこに行けば、俺は自分がずっとやりたいと思っていたことができると思っていたからな。

それは見つかったか?

見つかったさ、でもそれはどこに行っても見つかるってことを見つけちまった。

あの頃はワイも自分は武に励み、天下に名を轟かせると言っていたな。

リャンも今ある世の中をよくしたいと思っていたもんだな。

……君はどうなんだ?

あの頃の俺はただ川を泳ぐ鯉だった、ちょっとだけ水面を跳ねたら、その跳ねた高さが世の中の広さなんだ、そこが俺の居場所なんだって思いこむようなヤツだったさ。

……

そんじゃもう眠くなったし、明日もひとっ走りしなきゃならないから、お前は先に上がりな。

わかった。

ではまた。

……酒がなくなっちまった。

はぁ。

古い馴染、馴染ねぇ……

うぅん……
……
……

……いい一手だ。

……

後塵は拝したよ、これでもうおしまいだね?

そうだな。

この一局はここでおしまいだ。

文人四芸、琴棋書画。毎度毎度“棋”で私の相手をしないでおくれ、イジメてるようなものだよ?

自分の得意分野で勝負しないとな。

詩で君に敵うはずがないだろ。

それもそうだね。

また退屈になってしまったのかい?

世の中は平穏だからな。

けどその平穏は、炎国だけの平穏だよ。

貴君の駒は大炎以外に置けるはずもないからね。

そうだな、俺の棋盤は炎国だけだ。

だが駒を差す人は、私である必要はない。そうすれば大地の各地でも差せるようになる。

その者たちは貴君に関わってくるのかい?

観棋語らずは真の君子なり、駒落して悔しがらずは大丈夫なり、だよ。

……貴君はただ見ていたいだけなんだね。あの人間たちを……争い合う人間たちを、もつれ合う人間たちを。

駒の差し方が見たいだけだ、生まれたての子供はいつだって真似から入るものだろ。

……そうだね。

しかし貴君は貴君だ、彼はないぞ。

……どういう意味だ?

貴君は……おや、彼の駒を持っているようだね。

それで、貴君が彼に代わって駒を差すのかな?龍門からいらしたリー殿?

なっ……俺……?

ふむ。これは……面白い。

彼はなんで貴君のような一般人を棋局に招いたんだろうね?

いや、それとも彼はわざと貴君を選んだわけでなく、どんな物事であれ、いずれはこういった結果になると、彼は予測していたのからなのかな?

なにを言ってるんだ?

つまり、貴君はもうあの失望落胆していた人ではなくなったと言っているのだよ。それでも貴君はこうして彼の席に座って、いま私と駒を差している。

……お前は誰だ?

リンだ。

ここはどこだ?

百年前の……夢さ。

冗談だろ、どうやって百年前の夢なんかを俺が……

そうだね……

貴君はどうやってこの夢を見ているんだろうね?
アンタ何者よ、何しに来た!?

――!

うぅ……なんかとんでもない夢でも見ていたような……ん?

待て!

……この声は……







