昼茶を頼む。
はいよ、ちょいとお待ちをショウさん!
今日はいつもより出勤が遅いな?
朝に古い知り合いと会ってな。
古い知り合い?
……お前か。
いや~、今日もショウさんとお会いできるなんて思ってませんでしたよ。
なんだ、まだその庵を探し回っているのか?
ショウさんが場所をある程度狭めてくれたおかげで、かなり楽になりましたけどね、でも俺が探してるのは、庵ではなく人なんで、それなりにまだ捜索が困難でして。
そちらに座っているのは、お前の恋人かなにかか?
……なッ!?
オホン、そんなに肝は据わってませんよ……
ほう、では娘とかか?
俺が父親みたいに見えます?
それもそうだな。
ちょっと、アンタさっきからなに適当なこと言ってんのよ!アタシとこの龍門のペテン師がなんですって!?
男女二人が、早春のこんな時間に山登りしてるとなれば、大半は時間を持て余している風にしか見えんのでな。
アタシは――
お待ちどうショウさん、昼茶です。
どうも。
昼茶?まだお昼って時間じゃないですよね。
尚蜀で山を行き来する歩荷たちは、いつでも山間にある茶館でお茶をタダで何杯か飲めるんだ。正午の昼茶、それと午後の夜茶、つまみのおまけ付きでな。
お茶をタダでですか、そりゃさぞかし美味しいもんでしょう。
ただの茶水だよ。
しかし山に運ばれてる以上、お茶水といっても値段は割高でしょう。お金を取らないってんなら儲けものじゃないですか。
金勘定がしっかりしてるんだなお前。
しかし慈善事業でもあるまいし、どこのお店もタダでお茶を提供してくれてるんですか?
そりゃ市政府が手当を出してくれているからでしょ。
……お前それを知ってるのか?
ウチも飲食をやってるからね、多少は知っているわ。
……なるほど。
尚蜀の市政府はそんなにご親切なんです?
リャン様が就任してからずっとこの調子よ。
前任者の尚蜀知府は、土木開発を重要視していたの、廃墟同然だった尚蜀を、以前によりもさらに活気づくよう復興してくれたの。
それでリャン様の代になってから、福利厚生とか保険に重きを置き始めたのよ、きっと尚蜀の復興はひと段落落ち着いたと思ってたんでしょうね……と言っても、一番瑣末な事業ではあるけど。
……
……まだ若いのに結構物知りじゃないか。
父親が商いをしているから、それで耳に入っただけよ。
いい父親だな。
それじゃあ茶も飲み終えたことだし、そろそろ仕事に行かせてもらうよ。
また会いましょう、ショウさん。
ああ、またな。
――ちょっと!リー、なんであいつがあの盃を持ってるのよ!?
俺にもさっぱりです。けど隠すつもりはなかったし、むしろあんなプランプラン腰に吊していた、あれじゃまるで……
わざとおびき寄せてるってこと?
……まあいいや、ウチらもお茶でも飲んで、一先ず様子見しておきましょう。
すいませーん!お茶と肉ラーメンを二人前でお願います。
アタシはいいわよ。
俺一人で二人前なんで。
はいよお客さん、とりあえずお茶二人前ね、麺はもうちょい待っててくれ、今日は人が多くてな。
どうも……
ガウ?
なんでここまでついて来てやがんだ……
ガルル……ガギャァ!
ちょっと、リーの、聞きたいことがある、笑うんじゃないわよ?
その急須、なんか自分で動いてない……?
肉ラーメンお待ちど――
あっぶねッ、コケるところだったぜ!ちょいとお客さん気を付けてくだせえ、こっちはまだ麺を持ってるんですぜ!
ガーウ?
……なんじゃこりゃ!?
危ないッ!
え?
くっ!
――ちょっと、アンタ大丈夫?
それより、鍋もお椀もお盆も、掛け軸諸々……全部部屋から……飛び出してきたわよ!
キャ――ッ!なんなのよこれェ!?
火!火が、あのバケモノに火が!
……どうやら俺たち目当てみたいですね。
ちょっと、リーの!これは一体どういうことよ!?
あの盃に関する噂は本当だったんだな……ここは人が多い、一先ず逃げましょう!
それで、リーとはどうやって連絡を取るんだ?
……リーさんが残した手紙によると、私たちが合流した後、取江峰に行って会いに来てほしいって書いてたよ。もし自分がまだ来ていなかったら、日没まで待っててくれって。
……わかった、なら急ごう、盃がほかの者に奪られるわけにはいかないからな。
恩人様、あの墨魎と似通ったアレなんですが、どうします?
どうせ絶対盃と関係があると思うから……とりあえずリーさんと落ち合おう。
うわっ!
ガルル――
恩人様、こいつら、なんか数が、多くなってません?
……?これはなんていう野獣なんだ?ここ二日よく見かけるようになったが?
囲まれちゃった……
グギャァ!
おお、獰猛だな。
――仕方がない!恩人様、あなたはシェン殿と先に逃げてください、こいつらは私が相手しますので!
――大丈夫なの?
墨魎と似てるのなら、問題はないかと。
シェンさん!こっちこっち!
……
どうしたんですか、落ち着かない様子で。
……なんでもない。
心配してる時のあなたってばいつも眉を顰めているんですけどね。
そうなのか?
そうですよ、またなにか心配事でも?
……あの友人のことをな。
彼がどうかなさったんですか?
ある出来事に巻き込んでしまったんだ。
あなたが巻き込ませたんじゃないですか。
……そうだな。
いまさら後悔ですか?
……これが最善の選択だと私は今でも信じているよ。
ただ分からないんだ……
あなたは賢いお人ですから分かりますとも、リャン様。
そうでもないさ。
最善とは言え、私は愚かな選択をしてしまった。
……炎国の野獣って、どれもこんなヘンテコな見た目をしているのかしら?
……
……
……ガウ?
……ん?どうしたのライト?ああ、大丈夫よ……うん、あんたたちがいれば私は平気だから。
でも……
……!?
ドリル!そのままそいつを捕まえてて!
見たこともない炎国の野獣……もしかしたらトラップとして利用できるかも!
(ウユウが奇妙な物体に攻撃を仕掛ける)
まったく!どういうことだ、祟りでも貰ったのだろうか、なぜ毎日こんな訳が分からん生き物と相手をしなくちゃならないんだ!?
――うおッ!?
グギャァ!
よくよく見ると、こいつら……
ガルル――
(まずい――)
(斬撃音)
……危なかったですね。
そちらの方、大丈夫ですか?
あなたは、あの時の――
言わずともよい。
……!
タイゴウさん、そんな冷たくしないでも……
――!
……こいつらが何なのかご存じなんですか?
あの盃が通った箇所で、どこもかしこもこうして器倀(キチョウ)が生き返った、おかげで司歳台の推測は正しかったってことになりますね。
ってことはつまり……
それについては口外無用だ、公子。
……わかりました。
グガァ――ガァ!
(こいつら、えっと、器倀だったか……あの二人に怯えている?いや、あの少年に怯えているのか……?)
……はぁ。
この器倀の発生ですが、すでに何度目になるんですか?
十年前に一度、二十五年前に一度、さらには前の甲子の年に何度か。
たまにアーツを駆使して悪事を働く者もいますが、こういった状況よりは大分マシなほうです。
しかし結局のところ歳は歳、獣は獣、仮に天下に害をなすつもりがお前たちにあるのなら、どれだけの災難が降るかかるのか分かっているのだろうか?
ガルル――
司歳台はこういった状況を望んじゃいない。
だからこの千年にも及んできたツケにケリをつけましょう。
(アーツ音)
――
……所詮は有象無象ですね。
普通の器具に……戻っただと……
ウユウさん。
……なんでしょう。
クルースさんに伝えておいてください、ぼくが言ったことをもう一度よく考えてもらえるようにと。
商談まとまらずとも仁義は残る、最終的にクルースさんがご自分の考えを選んだとしても、こちらにはもう一つ個人としてロドスにお願いしたことがあるので。
構いませんとも、しかしなぜあの時それをご自分からお伝えにならなかったのです?
……あはは、あの時は……
ちょっと緊張していたんです、それで全部言い出せなくて。
公子。
では……こちらも時間が差し迫ってるようですので、ウユウさん、ここで失礼させて頂きます。
(サガクとタイゴウが立ち去る)
……緊張していた?
副監察御史をあちこち連れまわしてる公子殿だぞ、そんな彼が緊張していただと?