1097年11月23日 8:45p.m.

はぁ、疲れましたわ……

どいつもこいつも、なんなんですのあの意見提示は、どういう脳みそをしているのかしら?

あの議員たちときたら本当に――

本当に――愚か者ばかりですわ!!

プッ。

あの人たちのあんな繰り言まで記録をつけなきゃならないなんて、あなたもご苦労ですわね……

あの人たちはまったくもって感染者のために議案を提出してくれていませんわ、感染者の身分を判定する機関がどれだけの判断を下すのか、自分たちが何をしているのか他人には分からないとでも思ってるのかしら?

どういった機関が判定した後、どういった基準に則り仕事を配分するのか、どの部署なら優先的に感染者従業員を受け入れられるかなんて……知ってて当然ですわよ、そこには何かも利益が含まれているんですから。

]感染者の実際状況も議論せず、かといってその利益を争いもせず、ただただわざとらしくあんな愚痴を長時間もの間繰り返して、なんの意味があるのかしら?

]議員たちはみんな貴族ですからね、彼らが感染者の実際状況に目を向けるかどうかはさておき、パイを分けることになる議題をテーブルに置くわけにはいかないんですよ。

あの会議ではなんの成果も得られませんでしたわ!どいつもこいつも感染者ってワードを口に出すだけで、進捗はまったくもってゼロですわ!

みんな他人の提案には否定しておいて、解決策はちっとも示そうとしない、一体なんのための提案なのかしら?

あれが彼らの上辺だけの空中議論戦なんですよ、スカイフレアさん。あなたが先ほど言ったあの利益分配の議題は、ヴィクトリアの自治体議会で実を落す前にどうしてもああいった体裁的な過程を経なければならないんです。

それとあの金しか目に入っていない議員――

自分は感染者がより多くの金を稼げるために、より自由な選択を得られるために、彼らの生活水準を上げてるって、自分をあたかも慈悲深く語っていましたわ、よくあんなことが言えたものですわね。

「もし感染者たちの労働時間を制限しなければ、彼らはもっと自由に自分たちの労働時間を選択でき、そこからより多くの金を稼げるではないか」ですか。

そっくりですわね、そのモノマネ。

……けどあのわざとらしい語り口調には本当にムカつきますわ!

感染者が頑張ってもどれくらいしか稼げられないのか、大金を稼いだとしても結局は他人の懐に吸い取られるのは自分でもよく理解してるくせに、よくあんな至れり尽くせりな態度を装えますわね……チッ。

彼なら解決策を提案していましたよね――確か感染者地区を丸ごと工場に改修すれば、みんな仕事も住む場所も貰えて、自分を養えるようになるって。ほかの国の政策よりは確かにいい風に聞こえますけど。

フンッ!

……

どいつもこいつも傲慢ですわ、ここの人たちは。

ん、急にどうしたんですか?

たとえばあの感染者に関する新政策に反対していた貴族たち……

彼らは町にいる外からやってきた感染者をとことん追い出すと言っていましたわ、あの人たちが来てどのくらい経ったかどうかも、世帯を成しているのかどうかも、ここに適応できたのかどうかも考えずに……

その人たちを全員追い出すっていうのが彼らの提案でしたわ、それから?あの流浪者となった感染者たちを荒野で野垂れ死なせるつもりなのかしら?

あの行き場をなくした人たちが最後にはどこに辿りつくのか少しでも考えたことがあるのかしら?

プッ。

はぁ、それが議会ってもんですよ。

なにがです……?

それが議会ってことです。

もしあの場にいた誰もが感染者のために利益を追求していたのなら、それはもう議会とは言えません、ただの感染者慈善協会です。

双方の目的ははっきりしているんです、彼らはまず最初に公の場面で一番実現不可能な法案を提出して、それからお互い譲歩しながら交渉し合い、最後には妥協点を探る、それが普通なんですよ。

それよりもあの“白狼”伯爵、大勢の人が彼の意見を求めていたのに、まさか今日に限って棄権票を投じたなんて。

“白狼”のスキャマンダー伯爵ですか……ここ半年間ずっと議会でご自分の意見を表に出さずにいましたわね。一体なぜなのかしら……

いや違う……そうじゃありませんわ……

はっ――今日あの場に集ってたあのメンバー、私の考えが甘かった。

カラドン全体の平穏を維持するために、せめて少しでも頭が冴えてる人が正常な議案を提示してくれると思っていたのに。

……でも彼らはただ議会を互いに鬩ぎ合う場所としか考えていなかった、彼らの心の内は、如何にして自分のために利益を得られるかしか考えてなかったんですわ。

あのー、お嬢様、それさっきも聞きましたよ、私たちが傍聴に行く前から、彼らはただ利益を追い求めている人たちだって分かってたじゃないですか?そんな改めてハッとなることじゃないと思いますけど。

ちょっと待ってください、あなたってそんなお酒を飲むような人でしたっけ……

……自分はこうしてるから問題はないって思いこんでいたら、いつかは必ず大惨事を迎えることになるんですのよ!!

んん?

いつか!絶対!ずっと圧迫され、ずっと搾取される状態がいつまで続くとでも?彼らは本当に理解していないのかしら?そんな人生なんて誰だって願ってはいないって言うのに……

たとえほんの少しだけの希望があれば、あの人たちはそれを願うはず、努力して生き長らえようとするはず、私には分かりますわよ!

……モンベリアルさん、前後の話が噛み合ってないですよ。

生まれついての悪人なんていないわ、生まれついて他者の命の奪うことに喜びを感じる人なんてなおさら……彼らだって最初は生き長らえようとしていた感染者らったのにィ。

そうですね――ただ私も友人としてあなたにはこれ以上お酒を飲んでほしくないかなーと。

彼らは人から蔑まれるしかないのかしら、コソコソと隠れるしかないのかしら?あの貴族たち、高貴の生まれについた彼らには、利益を得るためにあの人たちを搾取する権利があるとでも言うのかしら?

まったくもって愚かですわ!もしそのまま搾取を続ければ、感染者たちだっていずれは不満が爆発してぇ……

想定外の問題が起こって……誰もが日常を壊されてしまうぅ……

これ以上、あのレユニオンの出来事を……再発させるわきぇには……

そうですね、再発はいけません、それとあなたももうこれ以上飲んじゃいけません。飲み過ぎですよ、少しは休んでください、お水飲みます?

結構ですわ!まだこれを飲んでませんもろ……もう一杯ですわ!みんあ私の言うことを聞かない……私が正しいのに!

ええ……“あなたが正しい”、ですね……

自分の意見を貫き通すあなただからこそ、アングスト議員があなたのもとにやってきたんでしょうね。

へ?

頭も冴えてて、遠いヴィジョンをお持ちの独立した貴族。

でもあの目先のことしか考えていないカラドンの貴族たちがあなたを理解しくれることはないと思います。

彼らが目を光らせてる利益に被害が生じない限り、彼らが変ることなんてありませんよ。

分かりやすく話しましたけど理解できましたか、酔っ払いのお嬢様?酔いが醒めた後にまたもう一回繰り返すハメになるとは思いますけど。

……

…………

うぅぅぅぅ……

!?

急に泣き出してどうしたんですか?

このワイングラス、ネバネバして手にひっついてますわ!うぅぅぅ……

あーはいはいはい、取ってあげます、取ってあげますから、ほらもうネバネバしなーい。

ひっく……

もしみんなあんな感じだったら、間違っているのに、自分は正しいと思い込んでいるのなら……この世界はおしまいですわァ……
(スカイフレアが倒れる)

ありゃりゃ、ぶっ倒れちゃった。
1097年11月23日 10:45p.m.

……

…………

酔いが醒めましたか?そうやったパーティで酔い潰れたんですよ、私が傍にいたとは言え、無防備にも程があります。

……頭が、クラクラする……

でも、ますます面白い人だなーとは思ってるんです、あなたのことが。

……?

あなたはお金持ちのご令嬢、しかし感染者やほかの貧しい人たちには誠心ある善意を向けている、この都市が抱えている今の問題がどれだけ大きなものなのかはもう分かっていますよね?カラドンを良くしたいと思っているんですよね?

それに知っての通り、今の私はたかだがただ町の資料館の書記にすぎません、もし出世したかったら、ちゃんと人を見定めないと。ですので私が表に出回ってないネタを提供しますから、あなたが先陣を切って、私が後ろでサポートするってのはどうです?

……

ジョーンズ議員は知ってますよね、あの金しか目がない議員と連名で議案を提示したあの人です。実を言うとですね……

……

彼らが工場を修理してる資金の一部って、実はカラドン議会から割り当てられた予算なんですよ、それにその予算はすべて工場修理に使われていないんです、疑問ですよね。

でもまあこれもカラドン貴族の間では普通のことですけどね。

けどもしあなたがこの実態をどうにかして調べ上げて、彼らを妥協に追い込むのも不可能じゃありませんよ!

へぇ~。

あなたってば……色々と知ってるのね!

そうですとも、それと私は教えましたからね、そっちはなにか特ダネとかはないんですか?聞かせてくださいよ~、情報交換として~。

もちろんよ!私の特ダネは――か、彼らに自分たちの過ちを認めさせること!私こそが――正しいってことですわ!!

そうですか……

やっぱりもうちょっと休んでてください。

(生まれはよくて、良心もあって、政治も分かってて、でもそれに関連した実践を体験したことはなし、おまけにまだ甘い考えを持っている。彼女みたいな人はいつだって無情にも現実に一回ガツンと再教育されるんだよね……)

(紙面に描かれてる政治の道理なら彼女もきっと人から聞いたことはあるかもしれないけど、今回ヴィクトリアの議会を生で見たのはこれが初めてかもしれないね。自分は分かってるってお嬢様は思っているけど、まだまだ道のりは長いかな。)
1097年11月24日 9:20a.m.
(携帯のバイブ音)

……

……誰ですの!!えっ……今日はオフなんだけれど……?
(携帯のバイブ音)

……

あ、あら!ミッドレイさん?あっ、申し訳ございません、どうかされましたの?

なんですって?

アングスト議員が……いえ……先生がどうされましたの?突発性の心臓病?何者かが屋敷に侵入してきた!?先生は無事ですの?今は病院?

分かりました、容態が安定してるのなら何よりです、昨晩に教えて頂ければよかったのに……今から病院に向かいましょうか?

あの行事に?先生に代わって私が?問題ありません、今すぐ準備しますわ。

分かってます、感染者たちの意見を汲み取り、市としてその態度を明らかにする、分かっていますとも。
(携帯が切れる)

……一体なんなんですの、泥棒が議員の屋敷に侵入してくるなんて……

まあいいですわ、私が行くのもアリじゃないかしら、色々と知りたいこととかも聞けるはずですし。いッ……昨日の夜で、頭が痛い……

昨日の私は……どうやって帰ってきたのかしら……確かパーティで色々喋ったはず、ケイトに何を喋ったのかしら?それにケイトから何を?

はぁ……そんなことよりまずは仕事ですわ!
感染者地区のとある空き地に、大勢の感染者たちがそこに集っている。
とある貴族議員が感染者たちと話がしたいとのこと、今までにない新鮮な出来事だと言えよう。
彼らは好奇と疑惑の目で今目の前にいる煌びやかに着飾った少女を見つめていた。

あれ、今日はあの議員さんが来るって話じゃなかった?

ほら見たことか、俺なんて言ったっけ、あのお貴族様が自分からここに来ることなんてまずないんだよ、感染者と一緒にいるなんてゴメンだからな。

でも本人じゃなくとも本当に関係者が来ているじゃないか、一体どういう風の吹き回しだ?

オホン……

えー、では皆様、ご遠慮なくご意見を申してくださいませ。皆様が提示して頂いた疑問等々は私が直々アングスト議員へお伝えいたします。

(ヒソヒソ)お前から行け。

(ヒソヒソ)なんで俺なんだよ?爺さんから行けよ?

ではそちらの方から順番にどうぞ。

え?わしか?

はい、ここで働いてどのくらい経ちますか?

半年は経ってないだろうよ。

……俺はもうどれぐらい経ったかあんま憶えちゃいねぇな。

では、どちらからお越しになられたんですか?

カジミエーシュ。

ウルサスだが……?

では以前と比べて、今の生活状況はどう思われますか?毎日の仕事量はオーバーしておりませんか?

ここは少なくとも地下の競技場で命を張らなくて済む……うん、生きて金を稼げるんだから、まだマシかな。

……以前この行事に参加すれば通勤と見なされて、給料が支払われると聞いたが、それは本当か?

それについてはご安心ください、行事が終わった際にまとめてお配り致しますわ。

では以前、給料が引かれたり、あるいは日時通りに支払われなかった状況などはありましたか?

……

……

ご安心ください、あなた方の情報は決して漏洩させませんので!

ですので……皆様のご住所についてお伺いしても……?

ここの地区内だよ、雑魚寝部屋のな、初日の給料はそいつらが提供する布団とかと交換するって規則なんだ、ちょっと薄いけど、冬になったらみんな肩を寄せ合うからそんな寒くはないかな。

数人との共住部屋ですか……そこにご年配の方とかは?

そういう人なら工場は取ってないよ、体力仕事だからな。

子供とか妻を持ってる人ならもしかしたら一緒に住まわせてくれるかもしれないが、それもどうかな。そうじゃない人たちは……もしかしたら老人に合う仕事があるから、それに応募してるんじゃねぇかな、それも難しいと思うが。

ではここでの朝昼晩の三食と給料の状況はどうですか、引かれたこととかはありましたか?

食事なら工場で食ってるよ、腹は半分ぐらい満たされるかな、少なくとも仕事できなくなるほどじゃない。

給料なら……はは……

給料なら、あの管理人が時々……

わしらの身体にある源石が商品に付着して汚染して売れなくなったから、金はやらんって言うんだ。

……なんていう人たちですの、言ってることとやってることが丸っきり真逆ですわ……

そういうことはよく起こるよ。それと最近は工場の業績が不振だから給料は払えないとか、訳も分からず人をクビにして、しばらくしてまた新しい人を取っては、さらに低賃金で働かせていることもあったぞ……

俺らじゃ訴えたくても訴えられねぇんだ、議会の門すら跨いでもらえないんだからよ、それにこれを話したって誰も聞いてくれやしねぇし……

ありがとうございます、この供述は全部記録させてもらいますわ……

俺たちはいつも仕事を終えたら、よくこの近くにある酒場に行って羽を伸ばしてたんだけど……今朝になったら、その酒場が火事に遭っちまって。

そうだな、最近は本当に悪いことばかりだ。

!!

火事?その酒場って、“グリーンスパーク”のこと?

それはいつ起こりましたか?今朝?

どうしてそんなことが?あのお店の店員さんは?彼女は無事なの?

はぁ、それが俺たちもよく知らねぇんだ、あの店の常連客が言うには、あいつらもずっとその店員さんを探してるってよ、どこに消えちまったかは分からねぇらしいが……
(爆発音)

なんだ?

ゴホッゴホッ……一体何が!?

右翼と左翼の部隊は、計画通りに全員連行しろ、かかれ!

(爆発?これは源石爆発物の匂い……)

放せ、放せつってんだろ!なにしやがるんだ!

な、なんなんだお前たちは――

静かにしろ、こいつらの口を塞いどけ!

(感染者?一体なぜ?)

(4、6、8、10……おかしい、この人たちは一体どこから湧いてきたの、警備隊の人たちは?)

(……労働者たちを拘束してる、なんのために?)

(いや違う……こんな誘拐紛いなことを躊躇なく堂々と、明らかに事前に計画されていることだわ……)

(ならこの連中の目的を突き止めないといけませんわね。)

そこのお嬢さんもだ、そいつも連れていけ。

大人しくしろよ。

放してください、自分で歩けます。

さっさとしろ、車に詰め込むんだ!もう全員捕まえたか?揃ったんなら工場まで連れて行くぞ!

揃いましたぜボス!

よし、車のドアを閉めろ!撤収するぞ!

(車が走り出して二十分、途中で何回も道を曲がってる、かなり慎重な人たちのようね。)

(この紐の結び、人を舐めてますわね、こんな普通の材質なら、あとで軽く炙っておけばなくなりますわ。)

(ここは……工場?スッカラカンじゃない!工場の設備はどこに?)

(怪しい……)

なんで俺たちを捕まえるんだ!?

こ、ここから出せ!わしらは、わ、わしにはまだ仕送りを待ってる家の者がいるんだ、頼む、ここから出してくれ……!

チッ、静かにしろ!そこで大人しくしてるんだ!

言っておくが、あんな街中で堂々と人攫いなんざしたら、必ず誰かが通報してるんだからな!

わしらをはやく解放するんじゃ、そしたらまだ罪も軽く済まされるはず……

面白れぇ、通報だとな?俺たちがそんなことにビビるとでも思ってんのかよ?

ごちゃごちゃと喚きやがって、静かにしてろ、大人しくしろ!

お、お前らだって感染者なんだろ!なんでこんなことをするんだ!

こんなことして、ただじゃ済まされないぞ!

うるせぇな。
(感染者の暴徒が感染した労働者を殴る)

ぐはッ――

大人しくしやがれってんだこの※スラング※!見たか?まだ騒ぐってんならこうだぞ!

一つだけ警告しておく、余計なことはするんじゃねぇ、アーツを使ってるとこを俺たちにバレたりしてみろ、そいつの頭をミンチにしてやるからな、分かったか?

大人しくてろ!

(まったくこの人たち……テンプレ通りの悪人で趣がちっともありませんわね。)

(……あとで容赦なくこのクズたちを滅多打ちにしなければ。)

(しかし一体なにが目的なのかしら……)

あの議員のジジイはどうした?どこにいる?クソジジイを捕らえるはずだったろ?なんでこんな小娘なんだ?

同じようなもんだろ?どのみちジジイであれ小娘であれ、捕まえときゃそれでいいんだよ。

(やっぱりアングスト議員目当てでしたわね。)

これからどうするんだ?

ほかの連中の合図を待つ、それまでは準備だ。

モノは全部ここにあるのか?

半分はな。

じゃあ帰りにあの端っこにある廃棄された地区の廃屋に残しておいた爆発物と化学薬品を片付けるぞ、あそこに残しちゃ危険だ、どんな些細なミスも許されないからな。

ああそうだった!あのセーフハウスのことだな、それもあったか、すっかり忘れてたぜ。

ついでにタンティーノ兄弟が裏から町を抜け出すための準備もしておけ。

金、服、偽造した身分証、それと必要分の武器、一つも漏らすんじゃねーぞ!

おいおい、声が大きいって、あいつらに聞こえちまうだろ!

いいんだよ、あいつらはどうせここから生きて出られねぇんだからな。

ならあの爆薬とかを先に設置しておけ、急ぐんだ。

お前らはこの感染者たちを見張ってろ、俺たちは仕掛けておくから。

了解。

(……あれは全部爆弾?)

(工場の建物内に設備は置かれていない、あるのは大量の爆弾のみ……全部あえてここに移してきたのかしら?)

(もうこれ以上時間を無駄にする必要はなさそうね。)

(予備用のアーツユニットを携帯しておいてよかった、でなければ面倒な事になってたはず。)
彼女は自分の指輪を撫でる、黒色の質感をした表面には煌びやかな光が輝いていた。

えっ、お前、縄が?

シッ、声が大きいですわ、それとあとでなにが聞こえても、あなたたちはここに隠れておくのよ。

わ……わかった……

誰かが逃げ出したぞ!

おい誰だよ?杜撰な縄の縛り方したヤツは?

おっ、かわいい子ネコちゃんじゃね~か、一人で逃げ出しちまったのか?

いいカラダしてんじゃね~か、へへへ、俺が捕まえたらたっぷりと――

あなたたち、ホント……気色悪いですわ……

(ため息)……
爆発音。
巨大な爆発音が工場全体に鳴り響く。
暴徒の何人かはアーツによる烈火と屋内の壁の瓦礫と共に工場の一階へと墜ちていき、気絶してしまう。
彼らの身体に現れていた源石結晶は高温によって身体から剥がれて、地面に落ちてしまった。

これは……身体に源石結晶をくっつけていた?いや、これは黒く塗られたただのガラス!

(ということは感染者として偽っていた?)

なんなんだこの状況は???

この役立たず共が、人質を見張っておけって言ってたのに、なにをやってやがるんだ!

誰があなたたちに指図しているの?それにどうして感染者に偽装しているのか答えてもらおうかしら?

というよりは……あなたたちの間に感染者なんて一人もいないんでしょ、違います?

クソアマが……中々やるじゃねぇか?

感染者がいなかったからってなんなんだよ?

どうせお前はここから生きて出られねぇんだ、どのみち真相は闇の中さ。

あなたたちと口を交わすと疲れますわ……

なんのつもりだ!

大人しく戻りやがれ!さもないと容赦しねぇぞ!

(口封じするつもりなのに、まだ暴力で従わせようとするなんて、ロジックがハチャメチャね……)

そんな武器で私を脅すなんて。

私があなたたちみたいな輩とどれだけ相手してきたとお思いで?
烈火が地面で舞い踊り、煌びやかな火花を描いていく。
壁の角に積まれている源石爆弾の樹脂の外殻が炎の中で融けていく。
露になった中身の結晶電子回路が爆発音を響かせる。
そして源石爆弾のコアが強烈な光を照らした後にその活動は停止した。

爆弾が!爆弾が焼かれてるぞ!

でも爆発してないぞ?一体どういうことだ?

お前はバカか!アーツの仕業だよ!あの女は術師だ!

※スラング※、まずいことになった!

今、二つだけ選択肢を与えます。

一つは大人しく投降すること、こっちは色々と聞きたいことがあるから。

もう一つはあまりオススメしないわ、私いまとっても機嫌が悪いから。

※スラング※、舐めやがって!

野郎ども、あの女を始末しろ、ついでにあの感染者たちもだ!

さっきのアーツですけど、まさかお見えになってなくて??

あのようなアーツ、ここカラドンで扱える人は数えるほどしかいませんのよ!それでも抵抗するおつもり?

あなたたち、一体どういう脳みそをしてるの!

だからなんだってんだよ!たかが術師だろうが!

俺ァ長年あっちこっち飛び回ってたから見りゃ分かるわ!こっちだって術師はいるんだ、とくと拝見してもらおうじゃねーかよ、てめぇの実力をよ!

(ため息)もういいですわ……

ちょっと待て!あいつはやばい!逃げるぞ!

今度はなんだよ!?

あの女!思い出したぞ!あいつはただの術師じゃねぇ!

王の杖のモンだ!あいつはモンベリアル家の……

はぁ?

いいから!さっさと逃げるんだよ!
少女の掌から鼓動する火種が現れた、炎はすぐさま燃え盛り、彼女の前の前にある金属たちは熱を受けて断裂音を奏でる、まるで眠っていた巨大な生き物が炎の中で目覚めたかのように。
炎は炸裂したランプを這い、柱を翻し、空気も舞い踊る高温によって醜く歪む。ただ炎だけが、工場から燃え落ちてくる残骸を巻き込み、さらに猛烈な輝きを爆発と共に生み出していく。
暴徒たちは恐れるあまりに目は見開き、口を開くも言葉を失い、蹲って動けずにいた。
このような混乱のさなか、火舌が優しく彼女の毛髪を這っても、ただ寸分も焦げることはなかった。

……この日輪の威光の前にひれ伏しなさい。
何もかもが燃え落ちてくる状況の中、暴徒たちの目に前で赤く滾る光が輝きを増し、そして暗闇に落ちた。
少女も高々と掲げていた両腕を下ろすのだった。

うわぁ……こりゃ壮観だな。

こ……こりゃすごいな!

全員無事ですか?ケガ人は?

俺たちなら大丈夫だ。
術師の少女がくるりと身を翻し、感染者たちを支えようと手を差し伸べる。
しかしそんな彼女の背後から、角に隠れていた人影が襲い掛かってきた。
(感染者の暴徒が走ってくる)

※スラング※……この術師が、ぶっ殺してやるッ!

!!

危ないッ!

うぐッ……
(感染者の暴徒が矢を受け倒れる)

誰?
(レユニオン兵士の服装を着た何者かが立ち去る)
工場の屋根にある階段のところで、俊敏な人影がすぐさま通気口に入っていき、スカイフレアの視界から消えていった。

……

術師さん、大丈夫か?

ええ。

ほかの人たちは手を貸してください、先にここを脱出するわよ!
1097年11月27日 6:40p.m.

感染者の誘拐?工場を吹っ飛ばそうとしていた?

ええ、彼らの目的は分からず仕舞いに終わってしまいましたが。

そりゃ変な話だな……

じゃあお前にやられたあの暴徒たちは?あいつらからなにか聞き出せていないか?

……それは……

当時の状況が複雑でしたし、それに私もちょっと手加減できていなかったせいもあって……

まあいい、具体的なことなら聞かないでおくよ。

感染者を装って工場を吹っ飛ばそうとした……それならあいつらの目的は推察できなくもないな。

何人かを逃してしまいましたわ、捕まえるにしても難しいんじゃないかと。

警備隊に感染者地区の事案を調査させるのも現実的じゃないしなぁ。

それに今回の一件にはほかにも疑問点がいくつもありましたわ……もしかすると……

まあそれは一先ず置いておいて、スージーさんは見つかったんです?

残念ながらまだだ、すでに捜索メンバーを出している、警備隊の人が言うには火災現場で彼女を一度見た後に、すぐに泣きながらどっかに消えちまったらしい。

もしダメだったら私も探してみますわ……ちょっと心配になってきましたから。
(扉を叩く音)

ゲンチアナさん!ドアを開けてください!ゲンチアナさん!

??

ゲンチアナさん!この人を助けてください!

死にそうな感染者がいるんだ、手を貸してくれ!

スージーさん?それにレイドさんまで?一体何事ですの?