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【明日方舟】暗雲に散る火花 「クエルクス ~報いは必ず」翻訳

1097年11月26日 9:33a.m.
カラドン市から40km離れた郊外 荒野の流浪者集団地

ゴドズィンのドルイドが荒地に立ち、低い墓の前で静かに佇んでいた。

クエルクス
クエルクス

「彼は死を欺いた。」

クエルクス
クエルクス

「得られるべき勝利を奪っていき。」

クエルクス
クエルクス

「誇り高くも己の安寧の地へと旅経って行った。」

彼女はそう声を上げ、自分のアーツロッドを振る。
昇りゆく太陽、これはテラの荒地に行われる至って平凡な葬儀だ。

クエルクス
クエルクス

はい、約束のお酒。

クエルクス
クエルクス

あんまり度数は高くないけど、それでも飲み過ぎないようにね。

???
冷静な荒地に住まう人

メイの分はどうするんだ?

???
冷静な荒地に住まう人

ここに注いでやりたいんだ、彼女が眠ってるここに。

???
消沈した荒地に住まう人

はぁ、でもそれはせっかくクエルクスが持ってきて……

クエルクス
クエルクス

いいよ、大地に還してあげよう。

???
消沈した荒地に住まう人

あんたは三週間で酒ができるって言ってたけど、まさか彼女がその前に逝ってしまうとは。

???
消沈した荒地に住まう人

はぁ、今じゃもう俺たち二人だけになってしまったな。

???
冷静な荒地に住まう人

まあまあ、兄貴、とりあえず乾杯しよう。

???
消沈した荒地に住まう人

……乾杯。

クエルクス
クエルクス

うん、乾杯。

???
冷静な荒地に住まう人

今でもカラドン市の入城審査は厳しい、だからクエルクス、町に入ってお前に知らせてやれなかった。

???
冷静な荒地に住まう人

でも本当は分かってたんだ、あんたを探したところで俺たちの病が治ることはないってな、彼女もお迎えが来てたんだ。

???
冷静な荒地に住まう人

ただ最期の数日間、彼女はえらく泣き喚いていたよ。

???
冷静な荒地に住まう人

はぁ、あんたは今まで色んな人を見送ってきた、その人たちがどれだけ苦しんでたかも知ってるはずだろ。

???
冷静な荒地に住まう人

彼女はアーツでひと思いにやってくれって俺に頼んできたんだが、俺にそんなことはできなかったよ。

???
冷静な荒地に住まう人

……それから翌日、崖の下で彼女を見つけたんだ。眠ってるかのように、目を閉じてた、もう涙を流さなくて済むようにな。

???
冷静な荒地に住まう人

あそこの周りに人はいなかったから、ほかの人や俺たちに感染が移ることもなかった。ノープロブレム、何も心配することはない。ただ……

クエルクス
クエルクス

寂しく感じた、でしょ?

???
冷静な荒地に住まう人

ああ、寂しくなっちまったよ。

???
冷静な荒地に住まう人

そら、もう一杯だ。

クエルクス
クエルクス

うん。

クエルクス
クエルクス

残ったお酒は生きてる人たちに残しておこっか。

???
消沈した荒地に住まう人

ああ、そうしよう。

???
消沈した荒地に住まう人

ああそうだ、あの天災トランスポーター――エルヴァさんがつい数日前に来ていたぞ、彼女からあんた宛ての手紙を預かってる。

クエルクス
クエルクス

あの“ダストロイヤー”エルヴァからの手紙?

???
消沈した荒地に住まう人

そうだ、以前彼女に大公爵の部隊の駐留状況を調査してほしいってそっちから頼んでいただろ?

???
消沈した荒地に住まう人

ここ数日は軍の車両が北に向かってるところをよく見かける、一体町にいるお偉いさんはなにをしようとしてるのやら。

クエルクス
クエルクス

……どうせロクでもないことだよ、君たちも十分に気を付けてね。

クエルクス
クエルクス

はぁ、そろそろ帰るよ、どうでもあれ、気を付けてね。

クエルクス
クエルクス

それとこの薬は残していくよ。もう冬だし、こっちもますます冷え込んでくるから、もし霜焼けになったらこれを使ってね。

???
消沈した荒地に住まう人

“フロストノヴァ”……変わった名前の薬だな。

???
冷静な荒地に住まう人

クエルクス、今度はいつ帰ってくるんだ?

クエルクス
クエルクス

うーん……分からない。

???
冷静な荒地に住まう人

そうか、分かった。

???
冷静な荒地に住まう人

せっかく再会できたんだから、最後に一つだけ聞いてもいいか?

クエルクス
クエルクス

いくらでもどうぞ、お酒だってまだ残ってるんだし。

???
冷静な荒地に住まう人

クエルクス、なんで俺たちを助けてくれるんだ、この薬だって安くはないはずだろ?

???
冷静な荒地に住まう人

あんたはよく俺たちみたいな荒地に住んでる連中から情報を探っているが、一体なんのために?

???
冷静な荒地に住まう人

みんな気になってるんだ、なんせもう長い間ずっとそうしてるからな……あいつらが言うには、昔のあんたは軍の者だったとか……

???
冷静な荒地に住まう人

でもあんたがどういう人間だったかは気にしちゃいないよ、町の連中が言う常識はここじゃ通用しないからな、あんたは俺たちを長生きさせてくれた、なら俺たちもあんたに手を貸そう、あんたが何をしようがな。

クエルクス
クエルクス

ううん、ちゃんと答えるから大丈夫、でも言っても信じられないと思うよ。

クエルクス
クエルクス

もし、ずっと感染者を救ってる人たちがいるって言ったら、君たちはそれを信じる?

1097年11月26日 2:28p.m.

書記のケイト
書記のケイト

つまりゴドズィンの大公爵は本当に軍を連れてロンディニウムに向かったと?

クエルクス
クエルクス

うん、確証は得てる。

書記のケイト
書記のケイト

規模は?

クエルクス
クエルクス

荒地に住まう流浪者たちが言うには少なくとも高速戦艦が二隻連れて行ってる。天災トランスポーターのほうからは攻城部隊の砲兵も駐屯地から出てったところを確認したって

[

書記のケイト
書記のケイト

悪いニュースですね……八人の大公爵全員が軍を連れてロンデニウムに向かったとか……

書記のケイト
書記のケイト

とりあえず、なにか新しい情報があったらゲンチアナ隊長に報告しますね。

書記のケイト
書記のケイト

そうだ、ケルシー先生からお願いされたことはもう済ませています、絶対にこのファイルを失くさないように。

書記のケイト
書記のケイト

こっちは四つの大公爵領地である大型移動都市プラットフォームの出向許可の関連書類で、こっちはロドスのヴィクトリアにおける業務証明書類になります。

クエルクス
クエルクス

「工業廃棄物の回収と処分」って。

クエルクス
クエルクス

どうして普通の名目を使わないの?ほら、医療サービスとか。

書記のケイト
書記のケイト

鉱石病の予防治療はヴィクトリアでは厳重に管轄されているんです、公爵領地ごとにまったく異なる管理方法が設けられていますから、やりづらいんですよ。一番簡単な方法といえばこれぐらいしかありません、とにかく入城が最優先ですから。

クエルクス
クエルクス

……なるほどね。

書記のケイト
書記のケイト

それと、こちらはハイディさんからの手紙です、絶対クエルクスさんから直接ケルシー先生に渡すようにしてくださいね!

クエルクス
クエルクス

分かってるよ、心配しないで。

書記のケイト
書記のケイト

それじゃあ私はそろそろ市立資料館に戻りますね……あまり外に出かけてると同僚に疑われちゃうので。

書記のケイト
書記のケイト

あっそうだ!これだけは教えておかなくっちゃ。

書記のケイト
書記のケイト

以前クエルクスさんが拠点に使ってたあのお店、あの“グリーンスパーク”ですけど、つい先日誰かによって放火されてしまいました。

クエルクス
クエルクス

え??

書記のケイト
書記のケイト

ゲンチアナ隊長があなたを待っていますので、できるだけはやく事務所まで行ってやってください。

クエルクス
クエルクス

……お店が焼かれた?なんで……

1097年11月28日 3:15p.m.

クエルクス
クエルクス

隊長、戻ったよ。

ゲンチアナ
ゲンチアナ

おう、お疲れさん!

スージー
スージー

隊長??

スージー
スージー

ゲンチアナさんはクエルクス姉さんの……隊長?

クエルクス
クエルクス

スージーちゃんもここにいたんだ……ずっと心配してたよ。

スージー
スージー

クエルクス姉さんってロドスの人だったんだ……

ゲンチアナ
ゲンチアナ

あはは……これはその……あとで説明するよ。

ゲンチアナ
ゲンチアナ

クエルクス、いいタイミングに戻ってきてくれた、ここに重症の感染者がいるんだ。

クエルクス
クエルクス

容態は?

ゲンチアナ
ゲンチアナ

急性発作だ、だが早急に運んできてもらったから一命は取り留めたって感じだな。

ゲンチアナ
ゲンチアナ

基礎的な処置はもう済ませてある、残りはお前に任せるよ。

クエルクス
クエルクス

分かった、診てみるね。

クエルクス
クエルクス

検査キットをお願い。

ゲンチアナ
ゲンチアナ

ほらよ。

クエルクス
クエルクス

身体が弱りきってるね、静脈注射で栄養補充しておかないと……

スージー
スージー

……クエルクス姉さん。

クエルクス
クエルクス

ん?

スージー
スージー

鉱石病を治せたんですか?

クエルクス
クエルクス

治すのはできないかな、鉱石病を完全に治癒する方法はまだないんだよ。でもロドスが開発した薬とかなら、病状を抑制したり、悪化を軽減することはできるよ。

スージー
スージー

……この人、すごく病気が酷くて……でもお願いです、見捨てないでください。

クエルクス
クエルクス

この子はスージーちゃんのお友だちとか?

クエルクス
クエルクス

いや、感染者地区にいるみんなが君のお友だちみたいなものだもんね。

クエルクス
クエルクス

でも安心して、この注射を打てば、しばらくは持ちこたえてくれるよ。炎症で起こした高熱も私のアーツで後遺症を残さないように、しばらく押さえつけることができるから。それで安定状態に戻す。

クエルクス
クエルクス

身体にも外傷が見受けられるから、これも一通り処置しておくよ、これでもう痛みはなくなると思うかな。

スージー
スージー

よかった……

クエルクス
クエルクス

ちょっと……大丈夫?

スージー
スージー

……

スージー
スージー

クエルクス姉さん……“グリーンスパーク”が……なにもかもが無くなっちゃいました。

クエルクス
クエルクス

知ってるよ……はぁ……

ゲンチアナ
ゲンチアナ

ちょうどそれを聞きたかったんだ。

ゲンチアナ
ゲンチアナ

こっちじゃまだ噂とかは聞いていないんだが、なんか心当たりはないか?以前誰かの恨みを買ったとか?

クエルクス
クエルクス

私が誰かの恨みを買うとでも?ましてやスージーちゃんなんか論外だよ。

ゲンチアナ
ゲンチアナ

最近町中で色々と起こってるからな、それにタイミングも都合がよすぎる、イヤでもそれらを結び付けちまうよ。

[

ゲンチアナ
ゲンチアナ

それとつい数日前に、感染者地区で町の議員を誘拐しようとしてた連中が現れたんだ。

クエルクス
クエルクス

そんなことをする連中までいるの?

ゲンチアナ
ゲンチアナ

だが現場にスカイフレアがいてくれたおかげで、事態の悪化は防がれたよ。

ゲンチアナ
ゲンチアナ

それで警備隊は感染者地区に暴徒が紛れ込んだの一点張りでな、まったく調査とかに乗り出さないくせに。

クエルクス
クエルクス

私もここに来るまでの途中で見たよ、張り紙を貼ってた、懸賞金がかけられた指名手配の。

クエルクス
クエルクス

感染者地区で懸賞金をかけるなんて……ホントやることはやる連中ね。

ヘイズ
ヘイズ

あの焼かれたお店は……あんたのお店だったんだね……

スージー
スージー

ヘイズさん!

クエルクス
クエルクス

あっ、目が覚めた。

ヘイズ
ヘイズ

……ここはどこ?私まだ生きてるの?もかして死後の世界とか?

スージー
スージー

ええ、まだちゃんと生きてますよ。

スージー
スージー

ここはロドスの事務連絡所です……彼らがあなたを助けてくれたんですよ。

ヘイズ
ヘイズ

ロドスかぁ……まさか本当にロドスが感染者を助けていたなんて。

クエルクス
クエルクス

さっき焼かれたお店って言ってたけど、どういうこと?

ヘイズ
ヘイズ

あの日の夜、あたしは二人の暴徒に追い掛け回されていたの、そこで“グリーンスパーク”ってお店の中に入って隠れたと思ったら、アイツらお店の中に燃焼弾を投げ込んできたんだにゃ。

スージー
スージー

燃焼弾?

スージー
スージー

それに追いかけ回されていたって、どういうことですか??

ヘイズ
ヘイズ

さあね、たぶんあたしが知らぬ間にアイツらが“議員のジジイを誘拐する”とか、あと爆発物をなんとかって言ってるとこを聞いてしまったから……口滅ぼししようとしたんじゃないかにゃ。

ゲンチアナ
ゲンチアナ

待った!ちょっと待ってくれ!

ゲンチアナ
ゲンチアナ

議員を誘拐?それっていつのことだ?

クエルクス
クエルクス

それに爆発物って?

ヘイズ
ヘイズ

あたし……どれぐらい気絶してた?

ゲンチアナ
ゲンチアナ

今日は11月28日だぜ、ヘイズさん。

ヘイズ
ヘイズ

じゃあ五日前……23日の夜でのことだね。

ゲンチアナ
ゲンチアナ

工場で起こった誘拐事件の前の日だな……

ゲンチアナ
ゲンチアナ

ヘイズさん、もしよければなんだが……その二人の暴徒に出くわした場所を教えてくれないか?

十数分後

ゲンチアナ
ゲンチアナ

地図での位置でいうと……ここか?

ヘイズ
ヘイズ

そうだね。

ゲンチアナ
ゲンチアナ

ここには旧いビルがあるのか、でも辺境の廃棄された区画に近いからずっと廃ビルのままだな。

クエルクス
クエルクス

じゃあよからぬことを企てるには絶好の場所のようだね。

ゲンチアナ
ゲンチアナ

シラクーザ人の二人組……ってことはシラクーザからの移民かもしれないな。

ゲンチアナ
ゲンチアナ

なんの躊躇もなく感染者地区の家屋を焼いたってことは、おそらく感染者ではないんだろう。

クエルクス
クエルクス

たぶん傭兵か、あるいはマフィアのヒットマンとかだろうね。

クエルクス
クエルクス

それで場所が分かったことだし、見に行ってみる?

ゲンチアナ
ゲンチアナ

いや、やめておいたほうがいい。

ゲンチアナ
ゲンチアナ

こういうことはすでにロドスでの一般的業務の範疇から逸脱してる、俺たちは治安維持のためにここに来たわけではないからな。

クエルクス
クエルクス

それもそっか……

ゲンチアナ
ゲンチアナ

でも警備隊が懸賞金を出したってことは、この手がかりを警備隊に提供したら、賞金が貰えるってことだよな?

ゲンチアナ
ゲンチアナ

大した金額にはならないと思うが、せめえてスージーちゃんの損失を補いことぐらいはできるだろう。

クエルクス
クエルクス

確かに!

スージー
スージー

え?いいんですか?その賞金はヘイズさんに渡したほうがいいと思いますけど。

ヘイズ
ヘイズ

あたしからのお返しってことで……なんせ命を助けられたんだし。

ヘイズ
ヘイズ

それにあたしのせいであんたのお店が……

スージー
スージー

……いや、ヘイズさんのせいではありませんよ。あの時隠れたのが私のお店じゃなかったとしても、間違いなくほかの感染者の家が焼かれていたはずです。

スージー
スージー

……それにあなたを助けたのは私じゃなく、レイドさんっていう感染者の労働者ですから。

クエルクス
クエルクス

遠慮することはないと思うよ、もしあの悪者二人も捕まえられたら、それこそ鬱憤も晴らせると思うしさ。

スージー
スージー

ありがとうございます、ヘイズさん……それにクエルクス姉さんも……

スージー
スージー

……え?あの、なんで急に耳を揉み……

クエルクス
クエルクス

まだまだ水臭いよ、スージーちゃん?

ゲンチアナ
ゲンチアナ

じゃあそうしよう、俺はスージーちゃんのために書類を作っておく、あとでそれを警備隊のとこまで持ってってくれ。

スージー
スージー

分かりました。

ゲンチアナ
ゲンチアナ

なにを見てるんだ?

ヘイズ
ヘイズ

向かい側の壁、ネコちゃんが日光浴してる。

ゲンチアナ
ゲンチアナ

羨ましいのか?

ヘイズ
ヘイズ

そりゃあね。

ヘイズ
ヘイズ

……あっ、ネコちゃんが鉢植えを壊して……逃げてっちゃった。

ヘイズ
ヘイズ

いつになったらあたしを追い出すのかにゃ?

ゲンチアナ
ゲンチアナ

ロドスは鉱石病の急性発作を起こした患者を接収したら、状態が安定する前にほっぽり出したりはしないよ。

ヘイズ
ヘイズ

あたし医療費なんか支払えないよ?

クエルクス
クエルクス

そこは大丈夫。

ゲンチアナ
ゲンチアナ

そうさ、もし今後とも治療を継続したいのなら、方法ならいくらでもある、状態がよくなったらまた改めて教えるよ。

ゲンチアナ
ゲンチアナ

それとついでだが。

ゲンチアナ
ゲンチアナ

なにか聞きたいことがあれば、なんでも言ってみてくれ。

ゲンチアナ
ゲンチアナ

“ウィッチ・フォレストの巫女”さん。

ヘイズ
ヘイズ

なっ……

ゲンチアナ
ゲンチアナ

まさかあのウィッチ・フォレストに生存者がいたとはな。

クエルクス
クエルクス

ウィッチ・フォレスト?あの感染者術師を受け入れてる組織?

ゲンチアナ
ゲンチアナ

ああ。

クエルクス
クエルクス

確か五年前に大公爵との妥協を拒否したせいで、ヴィクトリア軍に……

ヘイズ
ヘイズ

……ほかの話題にしてくれないかな?

クエルクス
クエルクス

あっ……ごめん、わざとじゃないんだ……

ヘイズ
ヘイズ

謝らなくても結構だにゃ~。

ヘイズ
ヘイズ

あたしはもうそれを受け入れてるの、それに本来はこの町で死に場所を探していただけだにゃ。

ヘイズ
ヘイズ

でも時折、まだまだ藻掻きたいって考えちゃうんだにゃ、もっと色んなネコちゃんを見てみたいって。

ヘイズ
ヘイズ

そう思うと、あの夜、もしスージーちゃんのお店に隠れられていなかったら、お店もあのシラクーザ人の二人組に焼かれずに済んでいたのにね。

(スカイフレアが部屋に入ってくる)

スカイフレア
スカイフレア

あら、クエルクス?戻っていたんですの?

クエルクス
クエルクス

おはよう、また顔がやつれてるね。

ゲンチアナ
ゲンチアナ

その顔を見るに、調査は難航か?

スカイフレア
スカイフレア

警備隊の連中は本当に救いようがないですわ!指名手配の通告書を貼ったらそのままほったらかしなんですもの!相手の自首でも待ってるのかしら?

スカイフレア
スカイフレア

グラニさんも一体どこに行ったのやら、本当なら彼女に工場のことを調べてほしかったんだけれど……

クエルクス
クエルクス

あんまりグラニに頼りきるのはやめておいたほうがいいよ、ここにいると色々やりづらいんだよ、ロドスとの提携オペレーターとしての彼女からしてみれば。

ゲンチアナ
ゲンチアナ

……変だな……

クエルクス
クエルクス

どうしたの?

ゲンチアナ
ゲンチアナ

さっき気付かなかったんだが、ヘイズさんがあのシラクーザ人の暴徒と遭ったって廃ビル……あの工場のすぐ隣じゃないか?

クエルクス
クエルクス

え?あっホントだ!

ゲンチアナ
ゲンチアナ

ヘイズさん、さっきあいつらは軍用の焼夷弾を使ってスージーちゃんのお店を焼いたって、言ってたよな?

ヘイズ
ヘイズ

そうだよ。

クエルクス
クエルクス

それがどうかしたの?

ゲンチアナ
ゲンチアナ

……俺の記憶が正しければ、あの工場はバーチマンズ議員の資産で、軍需工場だ、一か月半前に“設備点検”で工場は止まっている。

スカイフレア
スカイフレア

けどあのニセ感染者が私を誘拐した時、工場の中はスッカラカランでしたわよ、もしかして盗まれていたとか?

クエルクス
クエルクス

新聞ではその工場の後について書かれた記事は見当たらなかったけど。

クエルクス
クエルクス

もしかして……あの二人組の暴徒とバーチマンズ議員が関わってるとか?

ゲンチアナ
ゲンチアナ

今は証拠も情報も少なすぎる、結論を出すにはまだはやいな……

ゲンチアナ
ゲンチアナ

だが……もし本当なら……

ゲンチアナ
ゲンチアナ

カラドン市の警備隊隊長は確かバーチマンズ議員の甥っ子だったよな?

クエルクス
クエルクス

そうだったかも?むかしグラニから聞いた気がする。

クエルクス
クエルクス

……

クエルクス
クエルクス

ねえ……警備隊のとこに行ったスージーちゃん、なんか帰ってくるのは遅くない?

ゲンチアナ
ゲンチアナ

三時間は経ってるな、戻ってきてもおかしくはないんだが。

ゲンチアナ
ゲンチアナ

……

スカイフレア
スカイフレア

……

クエルクス
クエルクス

今すぐ探してくる!

スカイフレア
スカイフレア

私も行きます!

(クエルクスとスカイフレアが走り去る)

ゲンチアナ
ゲンチアナ

通信機を持っていけ!いつでも連絡ができるようにするんだ。

ゲンチアナ
ゲンチアナ

……

ゲンチアナ
ゲンチアナ

こりゃ面倒なことになったぞ。

冷静沈着なロドスのオペレーターがまじまじと机に広げられた地図を見下ろし、細かく心に抱いている疑問点を整理していた。
彼は机の下から特殊な造形をした通信機を取り出す。

(無線音)

???
???

なんなんですか隊長!こっちは今仕事中なんですよ!いま市立資料館がどれだけ人でごった返してるか分かってるんですか!

ゲンチアナ
ゲンチアナ

カゼマル、緊急事態だ、これから俺が言ったことを最優先にしてくれ。

???
???

……分かりました。

ゲンチアナ
ゲンチアナ

バーチマンズ伯爵が所有する産業工場の住所リストと、カラドン市の古い地下輸送通路の詳細な地図が欲しい、なるべく詳細にそして早く頼む。

???
???

分かりました、今すぐリストアップします。

スカイフレア
スカイフレア

見つけました?

クエルクス
クエルクス

ううん!警備隊の人が言うには隊長がスージーちゃんを現場に連れてってから戻ってきてないって!

スカイフレア
スカイフレア

いけませんわ!

クエルクス
クエルクス

落ち着いて、あの子がどこに連れていかれたか考えてみよう。

スカイフレア
スカイフレア

そうね……

(バイブ音)

クエルクス
クエルクス

隊長から?

クエルクス
クエルクス

ゲンチアナ隊長!進展はあった?

ゲンチアナ
ゲンチアナ

よく聞くんだ、さっきバーチマンズ伯爵の産業工場とカラドン市内にある旧い輸送通路の配置を照らし合わせてみた。

ゲンチアナ
ゲンチアナ

そこで一番可能性がある地下通路の入口を七つに絞っておいた。

クエルクス
クエルクス

あいつら、スージーちゃんを地下に連れて行ったってこと?

ゲンチアナ
ゲンチアナ

バーチマンズがバカじゃなければ、きっとスージーにはバックがついてるって考えるはずだ、それなら口封じをする可能性は低い。

ゲンチアナ
ゲンチアナ

であれば、あいつらはスージーを誰にも気づかれない静かな場所に連れて行くはずだ。

ゲンチアナ
ゲンチアナ

廃棄された区画に連れていかれた可能性もある、だが以前あの工場を調べた際、そこの地下にカラドン市内最大の古い輸送通路が通ってることを発見した、なら工場の設備がスッカラカランなことも説明がつく。

ゲンチアナ
ゲンチアナ

お前たちは先に動いてくれ、なにかあったらまた連絡しよう!

クエルクス
クエルクス

分かった!

スカイフレア
スカイフレア

どうします?

クエルクス
クエルクス

こうしよう、南にあるこの三つの入口は私が、君は北にあるこの四つをお願い。

スカイフレア
スカイフレア

分かりましたわ。

クエルクス
クエルクス

安全には気を付けてね!

スカイフレア
スカイフレア

そちらこそ!

1097年11月28日 8:30p.m.

目を開けたスージーは、自分が冷たい路面に横たわってることに気づく。
冷たく湿った空気がこの暗くて広い空間内を弥漫する。
後頭部からもジンジンと痛みが徐々に伝わってきた。
そんな彼女の傍で何やら騒がしい声がする。

バーチマンズ
バーチマンズ

まったくどいつもこいつも役立たずだ、どうしてこんなこともしっかりやれないのだね?

警備隊隊長
警備隊隊長

それは……まさかこんなにも想定外のことが起こるとは、私たちでも思いつかなかったので。

バーチマンズ
バーチマンズ

なぜアングストのトカゲが急にあの行事に術師なんかを遣わせたんだ、まさか情報が漏れていたのか?

警備隊隊長
警備隊隊長

ずっと何者かが邪魔立てしていたのは確かです。

警備隊隊長
警備隊隊長

しかし……アングスト議員に関しては本当にただ心臓病が急に発作を起こしただけでして……

バーチマンズ
バーチマンズ

そんな偶然があるのか?

スージー
スージー

ここは……どこ……

スージー
スージー

(て、手が!なんで縛られて……)

スージー
スージー

この機械は……ここは工場?

スージー
スージー

いや違う……ここは工場じゃない、ここは……廃棄された輸送通路??

スージー
スージー

一体なにが……

スージー
スージー

確か警備隊の隊長さんが現場を見せてあげるって……

スージー
スージー

その後は……

スージー
スージー

頭が、痛い……

バーチマンズ
バーチマンズ

今じゃ工場は吹っ飛ばされずキレイなままだ、これでどうやって損害を報告すればいいのだ?ああ?

警備隊隊長
警備隊隊長

えっと……泥棒が工場内の設備を全部盗んだとか……?

バーチマンズ
バーチマンズ

そんなことを信じるのはお前みたいなバカ者しかおらんわ!

バーチマンズ
バーチマンズ

工場内の設備が一夜にして丸ごと盗まれたなどと!自作自演としか考えられん!どのみち私が疑われるハメになる!

バーチマンズ
バーチマンズ

それにそんな大規模な窃盗事件が起これば、こっちにまで捜査の手が届いてしまうだろうが!

バーチマンズ
バーチマンズ

もし大公爵側の捜査の手がここにある物にまで届いてしまったら、それこそ全部おしまいだ!

警備隊隊長
警備隊隊長

しかし、工場を爆破すれば問題が解決される理由なんて、こっちは聞かされておりませんよ。

バーチマンズ
バーチマンズ

それでも分からんのか?町の議会が私に予算の金はどこに行ったのか聞いてくる、その際は設備を買ったが全部感染者に破壊されてしまったと言うんだ!

バーチマンズ
バーチマンズ

そうすれば補償金が貰えるだろ、工場は吹っ飛ぶことになるが、どうせ私のものではないのだからどうだっていい、この高価な設備たちさえ無事でいればいいのだ!

バーチマンズ
バーチマンズ

それが今ではすべてがパーになってしまった!

警備隊隊長
警備隊隊長

……はぁ、ではどうしましょう?

バーチマンズ
バーチマンズ

どうもこうもあるか!いいからさっさと動け、ここにある設備を全部町の外まで運ぶんだ!証拠を残してはならん!

警備隊隊長
警備隊隊長

もう一度戻すという手も……

バーチマンズ
バーチマンズ

お前はバカか!あんな事件まで起こしてしまったら、感染者地区全体に目が張り巡らされてるだろうが!どうやって運び戻すと言うのだ??

スージー
スージー

警備隊の……隊長さん?それにバーチマンズ議員も?

警備隊隊長
警備隊隊長

おや、お目覚めか?

警備隊隊長
警備隊隊長

私たちの善良なる感染者の市民さんよ。

警備隊隊長
警備隊隊長

よくもあれもこれもと余計なことをしてくれたな!

(警備隊隊長がスージを殴る)

スージー
スージー

な……なにを……

警備隊隊長
警備隊隊長

とぼけるな!大人しく言え、お前が言ってたアレは、一体誰から教えられたんだ?

警備隊隊長
警備隊隊長

お前の仲間は誰だ、あいつらは何モンだ?

スージー
スージー

……あなた……あの人たちの一味だったんですね……

警備隊隊長
警備隊隊長

質問をしてるのはこっちだ!あのシラクーザ人の二人のことは誰から聞かされた?

警備隊隊長
警備隊隊長

それに、この報告書に書かれてる“信頼できる証人”ってのは誰のことだ?そいつの名前を言え!

警備隊隊長
警備隊隊長

言え!

[スージー](憤った眼差しで睨みつける)

警備隊隊長
警備隊隊長

なんだその目は?

(警備隊隊長がスージを殴る)

スージー
スージー

うっ……

バーチマンズ
バーチマンズ

構わん、彼女が言おうが言うまいがどうだっていい、それよりこんなところで時間を無駄にしてる場合じゃない、さっさとここで彼女を片付けろ。

警備隊隊長
警備隊隊長

しかしこいつのバックには厄介な連中がいるんですよ!

バーチマンズ
バーチマンズ

証人なんざ元からいないようなものだ、あのタンティーノ兄弟が二度とこの町に姿を現さなければそれでいい。

バーチマンズ
バーチマンズ

それにいま肝心なことはどうやって損失を補うかだ。

バーチマンズ
バーチマンズ

ついでだが、私の目の前では殺すな、血を見たら気分が悪くなる、ほかの場所で殺せ。

警備隊隊長
警備隊隊長

分かりました。

1097年11月29日 8:32p.m.

クエルクス
クエルクス

まさか本当にここにあったなんて……

クエルクス
クエルクス

見たところ二十数人はいる、今助っ人を呼んでも間に合わなさそうね……

クエルクス
クエルクス

仕方ない、やるっきゃないか。

ゴドズィンのドルイドは泥土に奇妙な種を数粒撒いた。
彼女の杖から緑色の光が発せられる、そのアーツの影響により、撒かれた種はすぐさま発芽し、地面に根を張った。

感染者の暴徒
暴徒の傭兵

おいフェリーン!そこで何をやっている?

クエルクス
クエルクス

君、いい目つきをしてるね。

声がでかい男
フェイ区のヒットマン

一般人がこんな場所に来ちゃダメだろ?

クエルクス
クエルクス

時間が惜しいから、来るならまとめてかかってきて。

感染者の暴徒
暴徒の傭兵

イカレた女が!痛い目が見たいってか?

十数cmもの太さを持つ巨大な蔓の数本が地面から飛び出し、暴徒を叩き伏せた。
地面に、壁に、支柱に、あらゆる箇所で緑色の植物が生え茂る。
植物たちもすぐさま叩き伏せた傭兵に絡みつく、叫び声を発する間も与えずに。

クエルクス
クエルクス

このまま続けるほど釣り合う報酬は貰っているのかな、君たち?

クエルクス
クエルクス

大人しく私を入れてもらえる?

声がでかい男
フェイ区のヒットマン

……どうぞ、俺はなにも見ていないんで。

声がでかい男
フェイ区のヒットマン

帰るぞお前ら!仕事は終わりだ!

クエルクス
クエルクス

そうでなくっちゃ。

スージー
スージー

じゃあ私のお店は……あなたたちが焼いたんですか?

警備隊隊長
警備隊隊長

ゴタゴタ言うな、さっさと歩け。

スージー
スージー

……

警備隊隊長
警備隊隊長

恨むのなら私ではなく、いらんことにまで手を出した自分を恨むんだな。

警備隊隊長
警備隊隊長

でもまあどうせお前ら感染者はそう長生きできないんだし、どうでもいいか。

スージー
スージー

……いつか……必ずツケが来ますよ。

警備隊隊長
警備隊隊長

今から死ぬってのに、強気な口をしやがる。

スージー
スージー

(目を閉じる)

(爆発音)

警備隊隊長
警備隊隊長

なっ、地面が急に揺れた?

バーチマンズ
バーチマンズ

なんだ?地震か?なんの音だ??

感染者の暴徒
暴徒の傭兵

いや……これは地上からだ。

(爆発音)

とてつもない爆発音が彼らの頭上から響き渡ってくる、廃棄された区画全体の構造層が揺れ動いているのだ。
壁には亀裂は走り出し、震動はますます苛烈になってくる。
それからして、爆発音は建物が倒れていく轟音へと変わり、絶え間なく響く爆発音は震動と共に迫ってきた。

(爆発音)

警備隊隊長
警備隊隊長

なにが起こってるんだ??

警備隊隊長
警備隊隊長

ぐああああ!!

爆発音が響く中、地下構造層の天井は崩れ、数トンもある鉄筋コンクリートが警備隊隊長の頭上に落ちてきた。
鳴りやまぬ轟音、崩れゆくコンクリートと鉄筋、構造層全体が今やカオスな状態だ。

スージー
スージー

え?ええ??

スージー
スージー

(はやく……逃げないと!)

感染者の暴徒
暴徒の傭兵

逃げろ!地下が崩れるぞ!

バーチマンズ
バーチマンズ

一体どういうことだ!設備が!設備は全部潰れてしまう!

感染者の暴徒
暴徒の傭兵

命のほうが大事ですぜ旦那!とにかく逃げよう!

バーチマンズ
バーチマンズ

一体なにが起こってるんだ!天災か??

バーチマンズ
バーチマンズ

今日はなんてついてない日なんだ!もう訳が分からん!

感染者の暴徒
暴徒の傭兵

もうなんだっていいから、旦那、逃げましょう!

バーチマンズ
バーチマンズ

あの感染者だ!逃げられてるではないか!

バーチマンズ
バーチマンズ

誰だあんな逃げられるほど杜撰な縛り方をしたヤツは!

スージー
スージー

!!

バーチマンズ
バーチマンズ

ヤツを逃がすな!全員で追え!

声がでかい男
フェイ区のヒットマン

よく逃げ回るじゃねーか、キティちゃんよ。

スージー
スージー

……

声がでかい男
フェイ区のヒットマン

お前さえいなければ、こんな目には遭わなかったんだ。

声がでかい男
フェイ区のヒットマン

(武器を上げる)

(斬撃音)

鋭い刃が影の中から斬り込んでくる、簡潔だが殺傷力のあるその斬撃で、暴徒は地面に打ちのめされた。

感染者の暴徒
暴徒の傭兵

まだ味方がいたのか!

レイド
レイド

逃げるぞ、スージー!

スージー
スージー

れ……レイドさん?なんでここに……

レイド
レイド

そんなのはいいから、逃げるぞ。

スージー
スージー

は……はい!

(レイドとスージーが走り去る)

警備隊隊長
警備隊員

ぼさっとするな!はやく追え!

感染者の暴徒
暴徒の傭兵

追うだぁ?伯爵がどこに行っちまったのか分からなくなったのにまだ追うってのか!

警備隊隊長
警備隊員

ならお前は追わなくていい、その代わりお前の分の報酬は俺が貰うがな。

感染者の暴徒
暴徒の傭兵

んなことさせるかよ。

スージー
スージー

道が……道がなくなってる。

スージーの目の前には、先ほどの爆発で折れてしまった鉄骨のプラットフォームがある、4メートル余りの崩れてしまった橋がここの唯一の逃げ道だったらしい。
しかし彼女らの背後で、暴徒と傭兵たちの怒号が徐々に迫ってきていた。

スージー
スージー

どうすれば……?

(レイドが近寄ってくる)

レイド
レイド

連中もプロだな、こんな状況なのにまだ追いかけてくるとは。

レイド
レイド

あんたもつくづく運が悪い、スージー、こんなことに巻き込まれるなんて。

スージー
スージー

レイドさん、なんでこんなとこにいるんですか?それにその刀、いつもそれを持ち歩ているんですか?

レイド
レイド

それはあとでまた説明するよ。

レイド
レイド

今はとにかくあんたをここから脱出させてやらないと。

レイド
レイド

感染者地区にいる大勢の人があんたのことを心配してるぞ。

スージー
スージー

でも今は……

レイド
レイド

ちょっと失礼するよ、スージー。

スージー
スージー

??

感染した労働者がスージーを担ぎ上げる、まるで荷物を投げ渡すかのように彼女は投げられた。
若いフェリーンは空中で放物線を描いた後、プラットフォームの向こう側に落ちていった。

スージー
スージー

……いたたた……レイドさん??

レイド
レイド

上に逃げるんだ!急げ!

スージー
スージー

レイドさん!レイドさんはどうするんですか!?

レイド
レイド

いいから行くんだ!

崩壊した鉄骨は隙間なくトンネルの入口を塞いでしまい、感染した労働者の姿もそれにより徐々にトンネルの陰に消えていった。

スージー
スージー

レイドさん……

スージー
スージー

……止まっちゃダメだ、はやく逃げ出さないと……

スージー
スージー

(地震が……止まった?)

スージー
スージー

(一体なにが?)

スージー
スージー

(レイドさんは……大丈夫なのかな?)

スージー
スージー

……道がない、塞がれてる。

スージー
スージー

ここから地上まで……あとどれくらいだろ?

バーチマンズ
バーチマンズ

ようやく……はぁ……はぁ……

バーチマンズ
バーチマンズ

こ、腰が……まったく……

スージー
スージー

……バーチマンズ伯爵。

バーチマンズ
バーチマンズ

ほう、感染者のクズが逃げ出してきたとはな?

バーチマンズ
バーチマンズ

※スラング※、あの役立たず共め、なんて使えないヤツらなんだ。

バーチマンズ
バーチマンズ

あれもこれも全部貴様のせいだ!

バーチマンズ
バーチマンズ

貴様ら感染者のクズのせいで……私の金が!

バーチマンズ
バーチマンズ

私の目の前から消えろ。

(バーチマンズがスージーを叩く)

貪婪な政客がスージーの顔を引っ叩く、彼は自分の恨み辛みをすべてこのフェリーンの女の子に振り撒いたのだ。
しかし目の前の感染者は自分の身に暴力が振られたからといって怯む様子を微塵も見せなかった。
彼女は目の前にいる貴族に睨みを利かせる、そこに日頃から受けてきた抑圧と苦痛はもう見えない。

スージー
スージー

そんなことのためにですか?

スージー
スージー

そんなことのために、あなたの手下は私のお店を焼いた。

スージー
スージー

そんなことのために、あなたは大勢いる無関係な感染者たちを傷つけた。

スージー
スージー

ただ、金のためだけに。

彼女はゆっくりと立ち上がる、先ほどまでのあの臆病なフェリーンはもうはいない。
この時、彼女の目の中には恨みと怒りしか映っていなかった。
ここ数日間に起こったすべては、目の前にいるこの貪婪な政客の仕業だった。
彼に代償を支払わせない理由などあろうか?

スージー
スージー

あんなヒドいことをしたのは……すべてお金のため?

バーチマンズ
バーチマンズ

なんのつもりだ!近づくんじゃない!

バーチマンズ
バーチマンズ

私から離れろ!このバケモノめ、こっちに来るな!

スージー
スージー

……許せない。

彼女は震える、彼女の全身から火花が舞い散る。

(火花の散る音)

バーチマンズ
バーチマンズ

なっ……助けて……誰か助けてくれ!

スージー
スージー

……死んでください……

若いフェリーンが議員の首を握り締める、激しい火花がバチバチと音を立てながら舞い散る。

バーチマンズ
バーチマンズ

ギャアアアア!!!助けてくれ!グアアアア!

スージー
スージー

怖さを感じましたか!今!ようやく!

バーチマンズ
バーチマンズ

助けてくれ!頼む……命だけは……グアアアアアア!!!

バーチマンズ
バーチマンズ

ほ、欲しいものがあれば……すべてくれてやる……ギャアアアア!!

バーチマンズ
バーチマンズ

助けてくれ!助けてくれェ!

スージー
スージー

なんであなた如きが……私の生活を……なんで……

スージー
スージー

なんで……なんで……

若いフェリーンは抑えることなく怒りをぶちまける、バーチマンズ議員はアーツのせいで痙攣を起こし、口から泡を吹きだして、今にも死にそうであった。

バーチマンズ
バーチマンズ

うぐッ……

そんな彼女の背後から、巨大な蔓がコンクリの残骸を捲り上げる、木の根は鉄骨を支え、町の光が穴に差し込み、ある人影を映し出した。

クエルクス
クエルクス

スージー!スージー!ダメぇ!!

ゴドズィンのドルイドが力強く目の前の感染者を抱きしめる、激しい火花が彼女の皮膚をジリジリと焼くが、彼女が手放すことをしなかった。

クエルクス
クエルクス

落ち着いて、スージー……私だよ、もう全部終わったんだよ……

スージー
スージー

……店長……クエルクス姉さん……

クエルクス
クエルクス

もう大丈夫だよスージー、全部終わったから。

クエルクス
クエルクス

こんな人に……君が手を汚すほどの価値はないよ、一緒に帰ろう。

スージー
スージー

クエルクス姉さん……うぅ……

クエルクス
クエルクス

大丈夫、大丈夫だよ、私はここにいるから。

スージー
スージー

帰るって……“グリーンスパーク”は……もうないのに……どこに帰るんですか。

クエルクス
クエルクス

大丈夫、私いつもこう言ってるでしょ?

クエルクス
クエルクス

「命はいつだって自分の居場所を見つけられるんだ」って。

クエルクス
クエルクス

行こう、スージーちゃん、そろそろ戻ろっか。

スージー
スージー

クエルクス姉さん……私……私……

スージー
スージー

うぅ……

土埃、そして鉄骨と廃棄された建築材に満ちたこの狭い空間の中で、うら若きフェリーンはようやく重荷を下ろしたかのように、低くすすり泣き始めた。

1097年11月30日 7:45p.m.

スカイフレア
スカイフレア

先生、お見舞いに上がりました。

???
アングスト議員

おお、おはよう、ミス・モンベリアル。

???
アングスト議員

いや、今は“スカイフレア”と呼んだほうがいいのかな?

スカイフレア
スカイフレア

ご冗談を言う気力は残っているのですね、先生。

???
アングスト議員

これこれ、そんな暗い顔をするでない!わしなら平気だ。

スカイフレア
スカイフレア

入院しているんですよ!これのどこが平気なんですか!

???
アングスト議員

ところで、あの後はどうなったんだ?

スカイフレア
スカイフレア

町の議会が先生の法案を可決致しましたわ、先生の支持者から多数の票が入ったので。

???
アングスト議員

それはなによりだ、ミス・モンベリアル。

スカイフレア
スカイフレア

本当になによりなんですの、先生?

スカイフレア
スカイフレア

あの感染者地区に反対してる貴族どもがもうすでに裏で手を組んでますのよ、これからは揉め事が増えていくばかりです。

スカイフレア
スカイフレア

彼らはみんなゴドズィン大公爵の帰りを待っています、しかも大公爵であなたの爵位と貴族としての身分を剥奪するように、連名で手紙までを送って。

スカイフレア
スカイフレア

あんなの不公平ですわ。

???
アングスト議員

ふふふふ……

???
アングスト議員

わしはもう153歳になる、ミス・モンベリアル。

???
アングスト議員

来年で引退だ、引退したらわしは自分の小さな城に帰って、学問に興じたい。

???
アングスト議員

爵位も、身分も、権力も。

???
アングスト議員?

わしが今更そんなものに固執するとでも思うか?

???
アングスト議員

順調に後処理が進んだら、君もそろそろロドスに帰る頃だろ?ならケルシー殿によろしく伝えといてくれ。

スカイフレア
スカイフレア

分かりましたわ……

スカイフレア
スカイフレア

でも先生が心配です。

???
アングスト議員

ハッ、わしのどこに心配される要素があるんだ?こんな老骨に。

???
アングスト議員

時として、口に出せば聞こえはいいがまったく意味のない世辞というものがある。

???
アングスト議員

人というのはもうあまりにもそういった聞こえがいいだけの世辞でウソをつくことに慣れてしまった。ウソが積み重なれば、本来なら高尚なる道理も徐々に薄れていってしまう。

???
アングスト議員

ミス・モンベリアル、わしがなぜカラドンであの議案を推し進めていたか分かるか?

スカイフレア
スカイフレア

その聞こえがいいだけウソの背後にあるもののせいじゃないんでは?

???
アングスト議員

二十数年前、ジェネット・ロングフェローという科学者がある論文を発表した。

???
アングスト議員

彼女はある観点を持ち出したのだ――もし現存する源石の工業環境と廃棄物の放出に合理的な改善を施さなければ、長年積もった源石の工業廃棄物は恐ろしい結果を招くとな。

???
アングスト議員

当時、ヴィクトリア全土の学術界隈が彼女の観点を鼻で笑ったよ、貴族たちは世論を利用して容赦なくその学者を嘲笑っていた。その学者も憤りのあまりにヴィクトリアから去ってしまったよ。

???
アングスト議員

だがこの十年、ヴィクトリアでの感染者数の増加は懸念されるばかりだ。

???
アングスト議員

時代が変ろうとしているのだよ、ミス・モンベリアル、我々は必ず“鉱石病”と“感染者”の問題に直面しなければならない、現状維持は状況をますます悪化させるだけだ。

???
アングスト議員

153年だ、ミス・モンベリアル、わしみたいな長生きした人はサラヴの中でも珍しい。

???
アングスト議員

だが長生きはいいことだ、歴史の変遷をこの目で確かめ、そこで起こった過ちから教訓を得ることができるからな。

???
アングスト議員

この百有余年、わしはガリアの偉大なる宮殿の崩壊を、イベリアの黄金都市の陥落をこの目で見てきた。

???
アングスト議員

クルビアの平原で、辺境領土にあった大公の軍団が滅ぼされる場面を、クルビア人が荒地で立ち上がった場面を見てきた。

???
アングスト議員

もしヴィクトリアが変化を受け入れなければ、最終的にはガリアと同じ道を辿るだろうな。

???
???

わしが言ったように、ミス・モンベリアル。

???
???

時代は変わる。

グラニ
グラニ

お帰り!警備隊のとこに行ったからもっと遅れるのかと思ってたよ。

ヘイズ
ヘイズ

にゃ~、私たちの栄誉市民、新聞見出しのビッグスターのお帰りだにゃ。

ヘイズ
ヘイズ

新聞に載ってる写真、結構いいじゃん、まさかスージーがこんな形で新聞に載るなんてね。

ヘイズ
ヘイズ

1メートルもあった栄誉市民の賞状は重くなかった?それを持ちながらの撮影って大変だったでしょ?

グラニ
グラニ

まあまあ、もうスージーちゃんを困らせないであげてよ。

グラニ
グラニ

“町の英雄”かぁ……かっこいいじゃん!

クエルクス
クエルクス

それで、あの議員のクズは結局どうなったの?

グラニ
グラニ

拘束されてるよ!

クエルクス
クエルクス

警備隊からあんな大失態を出したのに、まだ正常稼働できてるの?

グラニ
グラニ

そりゃそう簡単には再起できないと思うけど、もうすぐ騎馬警官隊が警備隊を接収するよ。

クエルクス
クエルクス

それならいいんだけど。

グラニ
グラニ

でも今のところ、まだスージーちゃんの損失を補える手段がなくて残念だよ……バーチマンズの財産は全部町内議会に押収されちゃったし。

スージー
スージー

……

クエルクス
クエルクス

スージーちゃん、飴あるけどいる?ここにまだ試せてないフレーバーが何種類もあるよ!

クエルクス
クエルクス

本当に市政府から一文も貰ってないの?貰ったのはその賞状だけ?まあ、いつも通りってことだね。

クエルクス
クエルクス

ほら、甘い物でも食べて機嫌直そうよ、それにこの写真に写ってる君、もう泣きだしそうなぐらいいい笑顔してるじゃない。

スージー
スージー

……ありがとうございます。

スージー
スージー

私……これからどうすれば……

グラニ
グラニ

ポジティブに考えようよ、少なくともあの悪人どもはお縄についたんだしさ。

クエルクス
クエルクス

でもまだまだ未解決な問題もたくさんある気がするよね……私たちが関われるのはここまでしかないけどさ。

スージー
スージー

クエルクス姉さん、また行っちゃうんですか?

クエルクス
クエルクス

うん。でも、またすぐヴィクトリアに戻ってくるよ。

スージー
スージー

またカラドンに帰ってきてくれますか?

クエルクス
クエルクス

ちょっと荒野で寄りたい場所があるからどうだろうね。

クエルクス
クエルクス

そうだ、スージーちゃん、ほかの場所でバーテンやるつもりはない?

スージー
スージー

え?

クエルクス
クエルクス

ほら、“グリーンスパーク”ってもうなくなっちゃったけどさ……お酒を欲しがってる感染者ってまだまだたくさんいるじゃない。

クエルクス
クエルクス

散髪屋さんでもいいんだよ、私の知り合いってケンカしか知らないような人が大勢でさ、一度も移動都市に上がったことも、自分のことをちっとも考えないような人ばっかりなんだよ。その人たちのためにも、どうかな?

スージー
スージー

え?本当にいいんですか?

グラニ
グラニ

もちろんだよ!ロドスには面白い人がたくさんいるからね、よかったら見においでよ、それにあそこプロとしての理髪師がいないから来てくれると助かるよ。

スージー
スージー

あははは……じゃあ行ってみようかな?

スージー
スージー

(皆さんがずっと言っていたロドスって……どういう場所なんだろう?)

1097年11月28日 10:24p.m.
カラドンの地下輸送通路

レイド
レイド

どうした、手が止まってるぞ、さっきまでの威勢はどうしたんだ?

声がでかい男
フェイ区のヒットマン

てめぇ!何モンだ!

レイド
レイド

俺の名前はレイドだ、よく覚えておくんだな。

感染者の暴徒
暴徒の傭兵

てめぇの※スラング※な名前なんざ誰が気にするかよ。そこをどけ、さもないと容赦しねぇぞ!

レイド
レイド

知ってるか、昔ウルサスにいた頃、俺はよく“赤い刃”って呼ばれていたんだ。

レイド
レイド

どうしてなのか考えてみてくれよ。

感染者の暴徒
暴徒の傭兵

ビビる必要はねぇ、おめーら!俺たちだってそう易々とやられるほどヤワじゃねぇ!

声がでかい男
フェイ区のヒットマン

そうだぜ、それに相手は一人だ!アーツぐらいしか能はねぇ!

???
???

一人じゃないぞ。

(レユニオン兵士達が姿を表す)

声がでかい男
フェイ区のヒットマン

なっ???てめぇらどっから湧いてきやがった!?

レイド
レイド

いい顔をするじゃないか、いつも感染者をイジメてる時はそんな感じじゃなかったぞ。

レイド
レイド

さあ来い、お前たちが本当にヤワじゃないこと見せてみろ。

感染した労働者の手に持つ刀が瞬く間に炎に包まれた。
灼熱の光が瓦礫を照らし出す、岩と鉄骨で組み立てられた廃墟も明るい炎の色を反射する。
そしてその火の光の発生源である手に灼熱の刀を持った青年が、攻撃に打って出た。

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