3:22p.m. 天気/曇り
ロンディニウム、サディオン区、地下構造空間

……賢い判断とは思えないわ。

ロックロック、こっちは人手が足りてないんだ。上にまだオレたちが調査できていない隠れ家がどれぐらいあると思う?サディオン区の三分の一だぜ、しかも少なくとも。

お前も知っての通り、ハマーたちはすでに移転作業に移ってる、あと二日もすれば、指揮官たちはここを出る。

そん時になりゃ、オレたちの小隊だけで捜索にあたっても、成功する確率は今までよりもぐんと下だ。

だからって彼らを受け入れる理由にはならないでしょ。

受け入れるんじゃなくて……助け合うんだ。

お前だって指揮官の話は聞いたろ?こいつらは仲間の仲間だ。オレたちはあの仲間のお願いを聞き入れ、こいつらをロンディニウムに入れさせた、そしてこいつらはここに来た。

だから、こいつらがオレたちと一緒に人探ししてくれれば……

彼らをアタシたちの拠点で整備点検、休憩させることはいいわ。これは指揮官からの命令だからね。

ただし、休憩したら出てってもらう。地上の安全な場所まではアタシが送ってあげるけど、それっきりにしてちょうだい。

なんでこいつらに暫くはここにいないかって聞いてみないんだよ?ちょっと手伝ってもらうだけだろ、向こうが断るはずもないさ。

なんで聞かないのかは、キミだって知ってるでしょ。

それは……

指揮官はそれなりの理由があって彼らを信用した。だからアタシもこれ以上彼らの正体や動機を探るつもりはないわ。

だとしても、アタシは仲間たちを無用な危険に巻き込みたくないの。

そんなに危険なことか?こいつらがやろうとしてることなんて……

彼らが何しにここへ来たのか分かっていないの?

腕利きのサルカズを連れてロンディニウムに潜り込み、別のサルカズと相対する……フェスト、アタシたちはヴィクトリア人、ならこういうことは見慣れてるはずだよ。

……それってロンディニウムの外で毎日ドンパチやってる貴族のお偉いさんたちのことか?

アタシたちが生まれてこの方、彼らはちっとも戦いをやめようとはしなかった、そうでしょ?彼らが戦いに明け暮れていなければ、今更アタシたちの家もサルカズの住処になんかなっちゃいないよ。

自分たちの家を取り戻すだけでも必死なのに……サルカズがアタシたちの土地でやりあったら、それこそどうしようもないよ、なによりアタシたちとはなんの関係もない。

……じゃあもしも、こいつらが本当に市内にいるサルカズたちを止められたらどうなんだ?

お前はこいつらがただもう片方の王冠を奪おうとしてるんだと思ってるかもしれねぇが、少なくとも今、オレたちは共通の敵を抱えているじゃねぇか。

お生憎、自分はいつだって局面を押さえられる自信なんて、キミと違ってアタシは持ち合わせちゃいないの。

サルカズは……サルカズはキミが思ってるほど甘くはない、あいつらはなんだってウソをつくからね。

父さんが殺されたあの日、アタシは遠くからある人影が見えたの……父さんを殺した殺人鬼はあいつを殿下って呼んでいたわ。

あの時知ったよ、まさかあんなヤツが、サルカズをまとめてる王だったなんてね。

……それ、初めて聞いたんだが。

あの頃は話す必要がないと思ってたからだよ。

今教えたのはね……上っ面に騙されるな、それをキミにも知ってほしかったからなの。

あのサルカズの女が真っ白で純粋そうな恰好をしてたとしても、まったく無関係なロンディニウムの職人に悲しげな表情を向けてたとしても、アタシは絶対に忘れない……

あいつがサルカズを率いてアタシの父さんを殺したことを、無数のヴィクトリア人を殺したことを……あいつが魔王だってことをねッ!

あー……どうかしたか、アーミヤさん?

……

フェストさん、ロックロックさん……

……話は終わり、隊長。アタシは引き続き捜索任務にあたるから、キミは……よく考えておいて、アタシのさっきの話を。
(ロックロックが立ち去る)

アーミヤさん、それとドクター、申し訳ねぇ……あの、オレもハマーたちに装備を点検しなきゃならないから……ここで失礼させてもらうぜ。
(フェスとが立ち去る)

ドクター、ロックロックさんが言ってたあのサルカズって……

・まだ断定はできない。
・……
・テレシスではなさそうだな。

悲し気な表情をした……白髪の女性。そして他からは殿下と呼ばれていること。

ドクターは忘れているかもしれませんが、それでも私は……

忘れてはいませんよ、あの人のどんな細やかな表情も、そして私にかけてくれたどの言葉も。

・それって……
・……
・そんなバカな!

分かっています、そんなのはありえないって。

でも、私……
(回想)

ドクター、今日から君には、以下のプロファイルを閲覧できる権限が設けられた。

そのプロファイルの中で、きっと君の興味を引く情報が見つかるだろう――

彼女に関することや、あるいは今アーミヤが継承してるあの一部の力のこと、とかがな。

君は私を信用していないって、前にそう言っていたはずだが。

……

今において、もはや信じるか信じないかなどを説いても無意味だ。

君がアーミヤにとってどれだけの重要性を帯びているかは、私個人の判断では否定しかねる。だが此度のロンディニウムの行動において、彼女が一番必要としているのは紛れもなく君だ。

だからドクター……

君たちがロンディニウムでナニを見たとしても、アーミヤと一緒に見届けてほしい。

君ならできる、そう信じているさ。
(回想終了)

アーミヤ、焦ることはない。

……

そうですね……焦っちゃダメです。

ロックロックさんを追いかけちゃうところでした、一体誰を見たんですかって。

でもそんなことしたら……余計に私たちを疑っちゃいますね。

・アーミヤも自分なりに考えればいい。
・アーミヤはもう少し自分に優しくしていいんだ。

はい……ありがとうございます、ドクター、少しだけ気が楽になりました。

ロンディニウムに来る前、すでにケルシー先生から少しだけ過去の出来事を教えてもらったと思いますが……

まだドクターに教えてないことがあったんですよ。

実は、あの出来事以降、ずっと長い間、ドクターたちが出てくる夢を見たことがあるんです。

その夢の中でドクターは、ただ黙って、静かに私を見守っていました。

昔あの荒野にいた夜、ドクターが静かに私の手を握ってくれたように。そうしないと私、安心して寝つけませんでしたからね。

だから感じるんです……あの時、ドクターはただ眠っていただけなのかもしれませんけど、傍にいなくても私の傍にいてくれているんだって。

アーミヤ……

でもあの人は……違っていました。

夢の中ですごくたくさん私に話しかけてくれました、ロドスにいるサルカズたち一人一人の命運とか、私に風邪はひいていないか、とか……

何度も言い聞かせてくれたんです、まるでまだ私の傍にいるかのように。

でも話しかけてくればくるほど……はっきりと感じるようになったんです、あの人はもういないんだって。

・アーミヤの感じたことなら、私も信じてるよ。
・……
・アーミヤはその人を一番よく理解しているんだね。

あの人はすごく……すごくすごく名残惜しそうにしていました。あの人は色んな人たちや出来事を心配していましたからね、私たちやケルシー先生のこと、そしてロドスやサルカズたちのこと……

もし……その人が生きていたとすれば、もうここには戻ってきてくれないのでしょうか?

・君たちが言ってるその人なら、きっとそんなことはしないはずだ。
・きっとなにかの誤解だ。
・テレシスになにか仕込まれたのでは?

ええ、あの人ならきっと私たちを放っておくことなんてしません。

それに、きっとテレシスがロンディニウムを攻めることも許さなかったはずです……サルカズが不要な戦争を引き起こすことなんて、あの人は耐えられませんから。

それって、ロックロックさんが見たのはただのそっくりさんってことですか?

その可能性もあり得そうですね。

だとしたら……許せません、そんな残忍な手段なんて。

サルカズという種族はほかのどんな種族よりも死を重んじます。亡くなったサルカズの魂は種族の源へと帰っていく……生涯苦痛を強いられるサルカズたちにとって、それが何よりの慰めなんです。

ドクターも、パトリオットさんの最期は見届けてきましたよね。プライド、栄誉、そして最期に自身の運命に問い質す、あの瞬間を。

死の安寧は必ず答えを出してくれます、その人のすべてを受け入れるような答えが。

なので、サルカズから死の安寧を奪うことなんて到底許されることではありません……特にあの人、あの人はサルカズのためにすべてを捧げ出してくれたんですから。

ドクター、私が検問所で言ってたことですが、まだ憶えていますか?

一体ナニがロンディニウムの中心で渦巻いているのか、それがようやく分かりました。あれは怒り、サルカズたちの怒りなんです。

私だけでもなく、その怒りはもはやどのサルカズにも聞こえるほどのものとなってしまいました。

ウェンディゴの祭壇とてここまで強烈な共鳴を引き起こすことはありません。あれはそう……まるでサルカズたちの数千数万にも及ぶ恨みつらみを実体のある炎として固めたようなもの……

もし止める人がいなければ、その炎はいずれロンディニウムの空を打ち破り、そこから広がっていっては、すべての命ある者たちを焼き尽くすことでしょう。

ですので、いち早くその炎に近づき、焚き上げてる薪が何なのかを確かめなければなりません。

・アーミヤが心配だ。
・近づいたら、君まで燃えてしまわないか?

ドクター、もう分かっていますよね。そう、今の私は……もう昔の私じゃないんですよ。

その炎に向かう人はロドスの責任者でも、ましてや彼らが口にしている継承者でもありません……その炎に向かう人はこの私、アーミヤなんです。

それが私の望み、私という人が求めている答えです。

まあ……ちょっとは怖いと思いますよ。

ドクター、私怖いんです、その答えが……もしかしたらケルシー先生やみんな心を打ち砕くんじゃないかって……

君も含まれているぞ。

あっ、そうでした、私も打ち砕かれちゃいますね。だからもし本当にあの人が生きていたって……あぁ、想像もしたくありません……

それでも、向き合わなきゃなりませんね、私にはもうそれしか道がないんですから。

・私も一緒に向き合うよ。
・一緒に進もう。

ありがとうございます、ドクター……

あなたが傍にいるってだけで、進む勇気が湧いてきました。

では今すぐクロウェシアさんのところに行って、作戦立案してきますね。

彼女たちは人員救助の人手をたくさん必要としていますから。

それに私たちも彼女たちの助けが必要です。

では予定通り、本来なら会うはずだった私たちの協力者、つまりあの女性のトランスポーター、まずは彼女の安否を確認しておきましょう。

彼女は自救軍の仲間ですから、もしかしたら指揮官さんなら探し出してくれるかもしれません。

それに、これから中央へ入る際、彼らの案内があれば、もっとスムーズにいくと思います。

ロドスとして、ロンディニウム自救軍に証明しましょう、私たちは決してサルカズの王冠を手に入れるためにやって来たのではないってことを。

ホルンさん、ダブリンの動向が怪しいです!

……みんな同じ方向に向かっているわね。

向かってる区域ってサルカズの重装兵が守ってるんじゃありませんでした?以前ならまったく近づこうともしなかったのに!

きっと何かワケがありそうね。私が後を追うわ。

それはさすがに危険なのでは……ヤツらの人数はこちらの十倍ですよ。

だから私一人で行くのよ。

あなたたちは予定通り、あいつらの拠点で使えそうなものを探してきて。あいつらはまだ移動し始めたばかりだから、物資は全部持って行ってないはずだわ。

……気を付けるのよ。

そちらこそ!

おい、急げ。長官は一秒たりとも待ってくれやしないぞ!

イヤなのは分かっているさ。好きで従うヤツなんている思うか?あの魔族どもめ、俺たちを傭兵みたいに扱いやがって!

だからって手を抜くんじゃないぞ。サルカズの前で長官に恥をかかせるわけにはいかんからな。

おいどうした、ついて来てないぞ?M-611、応答しろ!
(斬撃音)

な、なんだ!?

動くな。

き……貴様は!M-601、増援を……うぐッ!

声も出すな。

くッ……

通信機を寄越しなさい。
(ホルンが通信機を無効化する)

はい、もう喋っていいわよ。

ゲホッ、ゲホッゲホッ……

サルカズのところに行って何をしようとしているの?

お……教えるわけないだろ……このヴィクトリアのオオカミが……

あなたたちダブリンって、口を割らないヴィクトリア兵にどんな仕打ちをしていたのかしらね?

……確か、十数メートルある滑車装置に吊るし上げるんだったっけ?

けど残念、わたし石の柱を出すアーツなんてできないから、吊るしてやれないわ。

そ、そうだ……貴様にそんなことは……

できない、って言いたいのかしら?

まあそうね、私もあなたたちの長官みたいな恥知らずなヤロウだったら、自分の隊員の一人一人がヒロック郡で犠牲になっていく場面を見なくて済んでいたかもね。

じゃあこうしましょう。手足を縛って、それからあなたをそこら辺の廃棄工場に捨てといてあげるわ。

そういう工場はこの近くじゃたくさんあるからね、探してもそんなに時間はかからないでしょう。

これで私なりのやり方ってことでいいかしら?今言ったのと同じやり方で捨てられていた兵士たちを見つけたことがあるのよ、 怒りを抑えるので必死だったわ。

あなたが暗闇の中で絶望しながら餓死する前に、長官に見つかるといいわね……

や……やめてくれ!長官が探してくれるわけがない……

ゆ、許してくれ、何が知りたいんだ?俺はただ命令に従ってるだけだから、あまりは多くは……

そうでしょうね。あのサルカズの指揮官はあなたの指揮官よりもよっぽど有能よ。

あいつがどんなことを企んでいるかなんて、マンドラゴラじゃ絶対に考えもつかないわ。だからあなたたちはただそうやってサルカズたちに振り回されるのよ……

何も知らないのなら、あなたたちの目的地だけ教えて。あとは自分でなんとかするから。

ご帰還されたのなら、早めにご報告を頂くようお願い致します。

客人対応で多忙なそっちが悪い。

忘れておりました、、確か聴罪師と顔を合わせたくなかったはずでしたね?

ボクがキミのところにいることがあいつにバレたら、今後もうサボれなくなっちゃうからね。

だからといってわざわざヘドリーが去った後に出てくることもないではありませんか。彼は私の部下です、王宮にあなたのサボりを言い付けたりはしませんよ。

へぇ、部下?ウソだね、最初から誰も信じていないくせに。

もしあいつを信用しているのなら、ボクを呼び出せばよかっただろ?なのにキミはあのフェリーンの女と傭兵の部下が行った後にボクを呼び出した、そういうことだよ。

……

話を変えましょう。今朝、ダブリンたちを例の場所まで誘い込んで頂いて感謝致します、借りができてしまいましたね。

あー……どうってことないさ。それに、こっちも想定外の収穫があったからね。

……収穫?であれば、レジスタンスを数匹見つけただけではないようですね。

ということは……下でロドスと会ったとか?

それだけじゃないさ。会ったどころか、あいつらはボクをダブリン兵から“助けて”、一緒に城壁の外まで連れてってもらったんだよ。

あーあ、キミがこのお宝たちの試し撃ちを急いでいたせいで、ボクはわざとあいつらの目の前で“吹っ飛ばされる”ハメになったよ、じゃなきゃ今頃まだそいつら一緒に行動していただろうね。

これでもこっちは、もうちょっとあいつらと話してみたかったんだけどなー。

……

チャンスならまだあります、と言ったら?

またボクをパシリに使う気?ダブリンと傭兵を臨時監獄の見張りに向かわせておいたんでしょ?招き入れる以外の準備はもう済ませてあると思ってたのに。

保険は多いに越したことはありません。

わかったわかった、じゃあまたボクたちに借りを作ることになったね。

あっ……今ボク“たち”って言っちゃった?

……お気になさらず、ここにいるのは私だけですので。

ぶっちゃけ言うと、もうここには長居したくないんだ……ほらあの、どこに行こうがワイングラスを持って行くナルシストのジジイ、あいつも来てるんでしょ?

絶対あいつにもボクたちがここにいるって言っちゃダメだからね。

……承知しておりますよ。あなたには借りがありますからね。

それと……これからはもう死んだ人の顔のままで行動しないでください。バレる以前の問題として……こちらにとっても都合が悪いので。

チッ、そういやキミってばサルカズにしては道徳心溢れるタイプだったことを忘れてたよ。ねえ、テレシスのお弟子さん?

けどまあ安心してくれ、次会った時は、もう“トーマスさん”じゃなくなっているさ。




