
ゼェ……ハァ……

もはやここまでだな、マンドラゴラ。

……バケモノめ。

あんたらサルカズは……どいつもこいつもバケモノよ。

その類の呼称はもう聞き飽きた。

いや、地に伏してる相手からそう呼ばれるのなら、むしろ賛辞として捉えるべきか。

ゲホゲホッ……

ガハッ……ゲホゲホッ。

サルカズ、忌々しいヤツらめ……あの貴族たちと、なんら変わらない……

そんな生まれついてのアーツ……私がいくらアーツを学んだところで……

ほう、よもやお前は……

鉱石病を一種の恩寵として捉えているのか?

無数のサルカズは、生まれながらにしてこの呪いを背負わされる、身体は爛れ、臓物が膿と化すような呪いを――そしてお前たち我々を害虫、災いを振り撒くだけの害虫として扱い、都市から駆逐した。

毎日どれだけのサルカズが、一度でも多く明日を見届けたいと思い、故郷に葬られることもなく結晶と化して風に散ったと思っているのだ?

なのにお前は……その力を羨んでいるだと?そんな資格、お前にあると思うか、ヴィクトリア人?

……ヴィクトリア人。フッ、私の辱め方をよく理解してるじゃないの、魔族め。

どうして私が鉱石病恐れているか……あんたに分かるかしら?

荒野を彷徨うサルカズは……あんたらは少なくとも死ぬ前に……日の目を拝める。

けど都市の狭間に住まう私たちは、少しでも身体に忌々しい黒い石が現れたら……翌日には下水道にいるハガネガニたちの餌にされる。

ヴィクトリア人からすれば、私たちターラー人は……サルカズ以下よ。

だから力……私たちが生き残るには力を得るしかないのよ!

お前たちの間にある怨恨なんぞ、我々サルカズは微塵も興味はない。

私はお前たちにチャンスを与えたはずだ。一度だけに留まらず。

仮に今日大人しく北門を守ってくれさえすれば、お前が過去に行った小細工にも目を瞑ってやったのというのに。

ふふ……

寛大だこと、その慈悲にこっちは跪いて感謝してやったほうがいいのかしら、“将軍”様?

んなことするか!

あんたみたいな人間は……もうウンザリするほど見てきた。
(マンドラゴラが岩像を作り出す)

私たちが生きていけたのは、全部自分が施しを与えてやってきたから……どうせそんなこと思ってるんでしょ?

もうウンザリよ。

ウンザリなのよ、あんたらの駆け引きに、駒になることが。

私の運命、ターラー人の運命は……ターラー人である私たちで決める。

……自分たちで決める?

フッ、決められるとでも?お前がロンディニウムに足を踏み入れたその時から、お前の運命はすでに決まったも同然だ。

なっ……そんなことはない!確かに……色々とやらかしはしたけど、それでも私は……

ここであんたを殺して、ロンディニウムの情報をすべて手に入れれば、またリーダーのもとに帰れる!
(マンフレッドが攻撃を防ぐ)

……私を殺すとな?その飛ぶこともままならない石像もどきでか?

ガーゴイルの王宮の者とて、私に勝てるとは限らない。それを知らないお前ではないだろう?

……

私のアーツを魔族共の巫術なんかと比べるんじゃないわよ――
(マンドラゴラが岩像を作り出す)

ほう、一度に十体もの石像を生み出したか。

感染者の術師でないにしろ、お前はそれなりの素質がある。

ただ、そのような粗末な造物が相手であれば、先ほど私が口にした巫術を使うまでもないな。
(マンフレッドが岩像を破壊する)

グッ……ガハッ!

そろそろ限界か?

アーツロッドに亀裂が走っているぞ?お前が持つその見掛け倒しのアーツロッドが折れれば、もはやただのフェリーンと大差ない。

ふっ……アハハハハ!

それが……どうしたって言うのよ!
石で作られたアーツロッドがその声に応じて亀裂が走り、そして砕かれた。
足元の地面は震動し、あちこちで破壊された石像が再び立ち上がる。
よろめきながらも互いに密着していき、力強く抱きしめ合い、5m近い大きな石像を作り上げていく。大きな咆哮を一声に、翼をはためかせ、サルカズに迫っていく。

防げ!

了解!将軍もどうか油断ならさず――

私よりも自分たちの身を案じろ。

こんな紛い物では私に傷一つつけることもできんさ。
サルカズの言葉通り、彼はアーツで防ぐこともせず、無傷のままだった。
巨大な石像が彼に吠える、翼で風を起こして瓦礫を叩きつけんばかりに、突き出した牙が彼の頬に触れんばかりに。
しかし彼による、剣撃の一刺し。
そして石像は空中で瓦解し、数秒後には、砂利へと化してしまった。

そら見ろ、これでもう二度と岩を弄ぶこともできなくなったな。

ハッ……魔族め……

今になっても、相も変わらず……傲慢ね。その生まれ持った……忌々しい力のせいで。

殺してやる……ぶっ殺してやる!

私を殺せば、そのリーダーのもとに戻って功績を認めてもらえるとでも思っているのか?

仮にお前の思い通りになったとしよう……その場合彼女は、お前の帰還に喜ぶのだろうか、それともロンディニウムにお前の首を送り返してくれるのかな?

サルカズのロンディニウム市内におけるダブリンメンバーの処置に対してリーダーは首を縦に振ったって、モーニング伯爵に伝えておいて。

必要とあらば、あのサルカズの将軍さんにも詫びの一言を入れてちょうだい――

――ダブリンはカズデルの摂政王との和平関係を破壊する意図は断じてない、ってね。

彼の傍にいるあのガリア人のことを考えれば、真っ当な協力関係を結ぶのは無理な話だって分かるけど、今すぐ敵対する必要もないでしょ?

だからほかの貴族部隊が付属区画で捕虜にしたサルカズのトランスポーターたちを解放するよう、伯爵に斡旋してちょうだい。誠意の印としてね。

安心して、ウェリントン公爵ならきっと伯爵の努力を憶えててくれるよ、リーダーとダブリンなら尚更だわ。

だから焦らなくていいとも伝えてちょうだい、リーダーが目の前の仕事を片付けたら、すぐロンディニウムに向かって顔を見せるからって。

……前に会ったあのダブリンの指揮官はどうするんだ、ですって?

ああ……マンドラゴラのことか。

これでもこっちは随分と彼女に優しくしたあげたんだけどねぇ~。わざわざ彼女のためにリーダーの目の前で懇願してやったのよ、もう一度あの子がロンディニウムで活躍するチャンスを与えてくださいって。

だってリーダー、彼女とほか数名がヒロック郡でやらかしたことにえらくご立腹してたんだもの。

なぜだか彼女はぜ~んぜん分かってくれないのよね~……今のダブリンは、もはや“ゴースト”の名称なんか必要としなくなってるのに。

私たちはいずれドラコとターラー人の新しい国を作り上げることを目標としている――

そのためにも、怒りと憎しみからもたらされる恐怖だけじゃ、民衆からの支持は得られないでしょ?

もし彼女がリーダーの意図を汲み取れて、自分の怒りを鎮めてロンディニウムから撤退できていたら……きちんと手紙を送ってくれたことだけに免じても、少なくともリーダーの傍にいられる席は保っていられたのにね~。

あなたも知ってるでしょ、リーダーは今でも……あの最初の同胞たち、ターラー人の同胞たちを心に留めていてくれているの。だって彼女たちは共に灰の中から這って出てきた仲間たちだからね。

夜が明ければ、もしかすればトランスポーターに会えるかもしれないな。

そのトランスポーターはきっととある伯爵もしくは男爵に指示されてやってきたのだろう、背後にターラー地方出身の公爵が潜んでいることは疑いようもない。

もしかすれば私は彼らに感謝されるのかもな、なぜなら私は彼らに代わってイカレた指揮官を殺し、その後の談判に良き糸口を切り拓いてやったのだから。

サルカズはいつの時代においても利用される道具に成り下がってしまうものだな。ふむ、この点に関してだけは、私もお前たち同様、あの傲慢な貴族たちを憎んでいる。

しかしだな……マンドラゴラ、お前はもうここでおしまいだ。

……
(マンドラゴラがマンフレッドに襲いかかる)

……ほう、小刀か?小刀で私に奇襲とな?

ふ、ふふふ……ゲホゲホッ……もしかすれば……これで殺せる、可能性だって……無きにしも非ずでしょ?

……お前の脳みそは心臓にでも生えているのか?先ほどの私の一刺しでとうとう狂ってしまったか。

言ったはずだ、お前では私を殺せないと。

何より、お前が私を殺せたとしても無意味だ。

無……意味?

何事も……意味を見出さなきゃ、ならなかったら……私たち……私たちみたいな人間が生きてることも、無意味ってことになるじゃないの。

……

あんただけは絶対に殺す。誰かに命令されたからなんかじゃなく……

私がただ……

そうしたいがために。

……イカレてるな。

イカレ……てる、か。まあ、そんないつも自信あり気で冷静な顔をしてちゃ分からないのも当然か……だってあんたはいつだって自分のやりたいことを簡単にできちゃうんだもの。

あんたが一番気に掛けてる人が……傍で死んだら……

あんたが一番信頼してる人が……あんたを見捨てたら……

あまつさえ……剣で地面に串刺しされれば……

……私の気持ちも、分かってくれるでしょうね。

それが死ぬ前の最後の抗いか?そんな呪いを吐き捨てたところでなにも響かんぞ。

フッ……フフッ……ならさっさとトドメをさしてくれる?

トドメをさすまでもない。

お前はもう死んでいるのだ、ターラー人。
(マンフレッドが立ち去り、マンドラゴラが倒れる)

ターラー人……私のことを、ターラー人って……

サルカズ……
彼女は地面に突っ伏し、息絶え絶えであった。
地面がますます冷たくなっていく、もはや自分の手足の感覚も朧げになってきた。いつの間にか折れてしまったのだろうか?それとも必死に奔走する間に痺れ切ってしまったのだろうか?

生きたいか、ターラー人?
誰?私を呼んでるのは……誰?

すぐ傍に下水道がある。そこに潜れば、もうあの忌々しい貴族たちが追ってくることはない。
そうだ、潜り込まなきゃ。
下水道からは強烈な鉄の錆びた匂いとくどい脂の匂いがする。機械から外れたと思われる廃棄された部品と貴族たちが食べ残した残飯が一緒くたに混ざっていた。
彼女は飢えていた、だが飢えにしては気色悪い感覚だった。
錆と脂の匂い以外にも、彼女はまた別の匂いを嗅いだ。
それが死の匂いであると、彼女は理解した。
下水道は移動都市に住まう蛆虫たちの墓場だ。
あの金持ち共は都市内部で、僅かばかりの土地に墓場を築くことができる、懐の狭い一般庶民であってもせめて遺骨の灰を航路に撒くことはできる。
じゃあ蛆虫たちはどうなの?蛆虫たちはただひっそりと区画間の隙間で息絶えることしかえできない。太陽が永遠に差し込まないような、薄暗く汚らしい場所で。

死に突き進みたいか?その死への勇気さえあれば、お前は生まれ変われる。

……

リー、ダー……
あと左にもう少し。そうすれば下水道に潜り込める……またあの時のように。
そしてもう少し右に……右に寄れば。
彼女のターラー人の同胞が目を見開いて、静かに彼女を見つめていた。

リーダー、ごめんなさい……

今回ばかりは……

もう……リーダーは、いらなく……
彼女は最後の力を振り絞って、手を伸ばして触れた。見るに堪えない姿になってしまった古い友に。

もう……誰にも追われることはないよ。一緒に、家に帰ろう……

その再会が、死の果てにあったとしてもか?
誰かが彼女の目の前に立った。その人の足元に光はなく、短刀は夜のような漆黒を照らしていた。
マンドラゴラは笑う。
これが死か、そう彼女は思った。
この先の廃棄された工場の下が入口だ、あのクレーンをどければ入れる。

分かりました、では案内をお願いできますか、フェストさん?

負傷していない方は、負傷者に手を貸してやってください――

クソッ、おいドクター、また追っ手だ!

……一体どうやって私たちの居場所を……?

コール精製工場から離脱して、敵を何度も撃退したのに、それでも居場所がバレてしまうだなんて……

・その話は後だ。
・まずはこの敵を片付けなければ。

ああ、我々が地下に撤退できるチャンスはこれが最後だ……

地下までの追跡はなんとしても阻止しなければならない。自救軍の作戦行動のすべては、こちら側が地下通路の地の利を得ていて、かつサルカズ側が正確な入口を熟知していない前提で行われているからな。

万が一サルカズに地下への入口がバレてしまえば、自救軍がサディオン区で行ったすべての努力が水の泡と化してしまうぞ。

クロージャ、爆弾類を用意してくれ。

あいよー……ってええ!?

ドクター、それってアタシにこの入口を吹っ飛ばせってこと?

念のための方法としては悪くない。

でも一応自救軍にも聞いてみたほうが……

クロウェシアは指揮権をドクターに委ねた、決定権はドクターにある。

アーミヤ、サルカズは私たちが足止めしておく。私たちからの合図を待つんだ、もし足止めに失敗したら、構わず爆弾を起爆してくれ。

ヤツらはあっちに向かったぞ!

キョロキョロすんじゃねえ、テメェの相手ならここだ。
(インドラがサルカズの戦士を殴り飛ばす)

ぐはッ――!
(サルカズの戦士が倒れる)

十人編成の部隊ってところかな、なら足止めは可能だね。

だがここにいるヤツらを止めたところで……

貴様ら……もう逃げられないぞ。

大君様が匂いを嗅ぎ分けた……誰一人逃げられんぞ、身体を引き裂かれ、喉を掻っ切られながら死ぬがいい……

大君とは誰だ?

あの自救軍を襲ったヤツのことか?

……襲った?ヴィクトリアのフェリーン風情が……貴様らはあのお方に襲われる価値すらない。

あのお方は……狩りをされてるだけだ。獲物としての貴様らなんぞ、大君様のお目にかかれる資格すらない。
(ダグダがサルカズの戦士に斬りかかり、サルカズの戦士が倒れる)

こいつらの薄汚い戯言に耳を貸す必要はない。

……インドラ、あの自救軍の惨状はまだ憶えているな?

あんなもん、一目見りゃ一生忘れられねえよ。

俺も死んだ連中はたくさん見てきたけどよ、あんな地面を塗りたくるような……人の形すら残さない殺され方は初めてだ。

……

なにしてんだダグダ?あっちにまだ敵が何人か残ってるぞ、さっさと片付けに――

我が王よ、ここは撤退しよう、お願いだ。

なにふざけたこと言ってやがんだ?サルカズたちをぶちのめしたいって言ってたのはテメェだろうが、なのに手のひら返して逃げようなんてことを……

戦いから逃げる恥なら一度は忍んだ、だが今回ばかりは状況が違う。

シージを無事この地区から逃がしてやれれば、私はいくらでもここに戻ってサルカズと最後まで戦ってやる。

……分かった。

おお、ようやく決心しくれたのか、我が王?

そうかもな。

ダグダ、貴様の決心、見届けたぞ。

私の……決心?

行くがいい。

ヴィーナ?

ちょいちょいちょい、それって……

なにを……
(シージがハンマーを振り下ろす)

お前の探すべき人を探しに行くがいい。

ここにいるサルカズのせいにして足を止めるな。

全員地下に降りましたか?

生き残った自救軍なら全員いるぜ。

おかげさまで、ここまで来れました。

・ヴィーナたちは?
・あと四人いない。
(シージ達が近寄ってくる)

……私たちならここだ。

シージ隊、計三名帰投した。

あれ、ダグダさんは?

彼女は……無事なんですか?

あのクソ野郎の話をすんじゃねえッ!
(インドラが壁を殴る)

壁に八つ当たりするんじゃないよ、いくら殴ったって彼女には届かないんだから。

えっと、一体なにが……

ダグダは個人的な用事ができたんだ。すまない、アーミヤ、ドクター……彼女の勝手に離脱したことは私が代わりに謝る。

いいえ、謝らなくても結構ですよ。そういうことでしたら、状況が状況ですので、ダグダさんの決定を尊重します。

ではダグダさんはもう待たなくていいということですので――

クロージャ。

りょ、了解!
(爆発音)

マジで吹っ飛ばしやがった……あっ。

これじゃあダグダが帰ってくる時に、道が分からなくなるんじゃ……

……いいや。

おいヴィーナ、その“いいや”はどっちの意味でなんだ?あいつは帰ってこないって意味なのか、それとも道が分からなくなるのかのどっちなんだ!

……

よしなさいインドラ。まだ拠点に戻ったわけじゃないんだから。

そうだ、今は拠点に戻ろう。自救軍の戦士たちが我々を待ってくれている。