
一般市民が三十人、兵士が九人足りていないな。

ロドス……

色々と邪魔をしてくれたようじゃないか。

将軍、残存していたダブリン兵たちの人数整理がまとまりました。

ヤツらにチャンスを与えてやろう。

我々に加入する者がいれば、傭兵部隊に加えておけ。

加わろうとしないのなら……分かっているな?

了解しました!

あまり芳しい戦果とは言えませんね、マンフレッド将軍。

……まだここにいたのか、聴罪師のトランスポーター。
(聴罪師直属の衛兵が近寄ってくる)

首領も摂政王同様、この精彩に欠ける戦況を憂慮されておられますよ。

ブラッドブルードの大君も同じことを思っているだろうな。

なんせ、昨晩あのお方が動いてくださったおかげでこちらも随分と負担が減った、戦果に満足しておられれば手を貸して頂けるはずもない。

そうそう、その大君様から伝言がございます、ここの空気はひどく濁っている、あまり長居はしたくない、と。

現在はとある工場主の住処を借りて、しぶしぶ遅めのディナーを楽しんでおられますよ。

借りた?

大君が“借りた”という住処の持ち主……その人が我々の協力者でなければいいのだがな。

気にしてらっしゃるところはそこですか?

ここの工場は生産効率が悪い、我々にさほど有用な物資を提供してはくれません、残してしまえばかえって害虫が湧いて出てきてしまう。

大君様のご辛抱もあと一晩限りですよ。

もし満足いく宴会を設けられないのであれば、私のやり方でこの薄汚い街を“キレイに”する、とも仰っておりましたよ。

……

それは大君の意志か?軍事員会の意志ではあるまいな?

あなたはいつも無関係な事象に気を取られ過ぎです、そのせいでいつまで経ってもこの弾丸飛び交う地に留まるハメになっておるのですよ。ただご心配なく……殿下は依然としてあなたに高い期待を抱いておられますとも。

……では大君に伝えてくれ、先ほどの支援に感謝する、すぐ次の段階へ移行するとな。

それは結構。では我ら一同、あなたの戦果に期待しておりますよ。
(聴罪師直属の衛兵が立ち去る)

……
(ヘドリーが近寄ってくる)

前線に立つよりも、王宮の者との会話のほうがよっぽど疲れるだろ?

そんなところに隠れていたのか。

先に言っておくが、サボってはいないぞ。

その失いかけた腕を下ろしたまえ。それで、その傷どうしたのだ?古い知人の爆弾にでもやられたか?それとももう一人の古い知人にでも斬られてできたか?

痛みでその辺の記憶は曖昧なんだ、すまないな。

とはいえ剣を振るえる腕はまだ残っている、彼女二人に情けをかけられたな。

……

直に夜明けだ。

……そうだな。

壁に寄りかかって呆けてる場合ではないぞ。休憩時間は終わりだ。

傭兵に休みを申請する資格はない、だろ?

行くぞ、まだまだこの戦いは終わっていないからな。

負傷者はどのくらい?すぐその者たちを治療してあげて!

私もお手伝いします!

ええ、ありがとう。

ハマーを呼んできて。退去を早めなければいけなくなったわ。

それと……トランスポーターを市外に送ってやってちょうだい。最悪ほとんどの人員を市外に移転する準備をしておかなければならなくなったわ。

了解しました!

それで、シージさん……

……

シージさん?

あっ……すまない、貴様の声を聴いてるといつもぼんやりしてしまうのでな。

きっと疲れてるのよ。みんな疲れ切っているわ。

私ならまだ平気だ、気遣い感謝する。

あなたが持ち帰った例の情報――つまり六番隊は極めて恐ろしいアーツによって全滅させられたって情報のことだけど、私たちからすれば極めて重要な情報だと言えるわね。

もっとはやく地上に上がって彼らの状況を確認してやればよかった……

いいえ、それではあなたまでも危険に巻き込んでしまっていたかもしれない。

それにもう十分やってくれたわ、もしあなたが迅速に動いてくれなかったら、六番隊どころか、ほかの戦士たちやあなたたちまでもヤツに出くわしていたところよ。

ヤツとは一体誰なんだ?サルカズ兵たちはみな“大君”と呼んでいたが。

……三か月前、ロンディニウムでとある貴族のパーティが開かれていた。

酒やワインが交わされて始まったそのパーティは、一晩中盛り上がっていた、けど二日目の朝、掃除しにきた使用人が見たのは、レコードの音楽だけが聞こえる、もぬけの殻となっていたパーティ会場だった。

貴族たちは死んだというのか?

ほとんどが同時に、そして一瞬にして殺されていたわ。それに死んでもなお、一部の人はグラスを手に持つ姿勢を保っていたままだった。

……

亡くなった人たちの中には私たちと関わりを持っていた者たちもいたの。ハイディも彼らのことをよく知っていたわ。

ええ。

そのパーティで、私は数名の旧友を失ってしまいました、自救軍もその区域での情報網を失ってしまって……

私たちが城壁の縁まで撤退したのは……そういう理由があったからよ。

けどハイディが頑張ってくれたおかげで、せめてもの勢力を保つことはできた、もうしばらく待てば、サルカズたちと正面衝突できるぐらいには回復する。

けどその前に……依然としてあの恐ろしいサルカズの目を掻い潜って撤退を余儀なくされているのが現状ね。

アーミヤ、もしかしたらそのサルカズのことを知ってるんじゃないかしら?

……

もし私の予測が正しければ、今私たちの頭上で跋扈してるのは……ブラッドブルードではないかと。

……うーん、こりゃ大変だな~。

どんぐらい大変なんだ?

この破片を組み立てるぐらいなら新しく作ったほうが簡単ってぐらい大変だよ。

でももう素材がないぞ。

マジで?

ロンディニウムにあるほとんどの工業素材はサルカズに握られちまってる、戦闘で役に立たないおもちゃ用のガラクタを見つけ出すなんざ無理がある。

君たちの作業環境ってばやっぱりあれだね……

素寒貧ってか?言いたきゃ言いな、どうせ指揮官はここにいない、聞こえやしねえよ。

……チャレンジ精神に溢れてるね。

クロージャ……

なに?

お前、そのチャレンジ精神溢れてるーって言った時、その、目が……“物理的に”光ってたぞ?

え?マジで?たぶん興奮してたのかな……怖がらせちゃった?

いや……まあ平気だ。

実を言うとな、お前と会ってから分かったんだ……人を殺さないサルカズもいるんだなって。

そ、そりゃそうさ~……殺しを好まないサルカズだっているからね、たとえばアタシとか。

とはいえ、アタシはブラッドブルード、戦力にならなくても多少は使える素質ってもんがあるさ!

なっ、ななななんだこの手際の速さは!?これなら俺が一週間もかかる作業も一晩で終わらせられるんじゃないのか!?

そりゃね~、じゃなきゃロドスの大黒柱は務まらないって~。

アタシの目を見て分かったでしょ、もしロドスが全員ブラッドブルードだったら、夜間の作業に困ることもなくなるし、電気代だって今の半分だよ!

ブラッドブルードって……やっぱみんなエンジニアに長けてるもんなのか?

そんなことはないよ!ほかにも……ほか、にも……

えっ、どうしたんだ?急にガタガタ震えちまって。

まさかおっかない古巣に近づく感覚を久しぶりに味わうことになるだなんて、ロンディニウムめ~……ほら見て、おかげでアタシの誇りある両腕がカチコチだよ!

まさか、六番隊が出くわしたのって……

そうじゃないことを願うばかりだよ。

もしそうだとしたら……一つだけ警告しておこう、非常~にキツイやつをね。

万が一……万が一そのブラッドブルードに遭ったら、絶対に逃げること!いちはやく!

いや、そいつらに出くわした時点で逃げられるとは思えないけど。

君たちには、出くわさないでほしいものだよ……この先永遠にね。

モーガン、インドラと一緒に自救軍の移転作業を手伝ってやれ。

ああ、私もあとですぐに向かう。

ヴィーナ。

ドクター?

私に……何か用か?

・ちょっとダグダのことについて。
・調子はどう?

ダグダは……彼女なりのケジメをつけにいった。

私は……彼女らのボスだ、だからどうすれば最適なのかと、ずっと考える必要がある。

だがロドスに来て分かったんだ、お前のやり方を見て何が最適なのかがようやく分かった。

調子なら、悪くはない……ただ、ダグダが心配だ。

だが今お前が私を心配してくれるように、受け入れなければならないな、ドクター。

ダグダは……私とよく境遇が似ている。

私について来ていた彼女は、ずっと責任に縛られ続けていたんだ。私がいくら彼女に選択を迫ったところで、彼女は己の意志に問うことはなかった。

選ぶ余地があってこそ、選ぶ権利は真になり得る。さもなければただの強迫にしかなり得ないだろう。

私はもう彼女が推されるところを見たくない。彼女は己の心を問い質し、彼女自身の道を自分で選ぶ必要があるんだ。

では君はどうなんだ?

・君だってただの一戦士になることはできる。
・君の身元を彼らに知ってもらうことだってできる。

だが君がどう決めようと、私もロドスも君を支え続けよう。

……

純粋な戦士になることは、簡単かもしれない。

だが私は真名を……お前たちがどう私を呼ぼうと、私は私の真名を否定することはできない。生まれ持ってついた名だからな。
(回想)

ドクター、私が言った真実でお前を驚かしてはいないだろうか?

ケルシー先生が代わりに伝えておくと言ってはくれたが、やはりどうしても自分からお前に伝えてやらねばと思ってな。

つまり……ヴィクトリアが、君の姓ということか?

やけに……落ち着いているんだな。

・過去を忘れているからじゃないだろうか。
・今にしか関心を持たないからじゃないだろうか。
・未来に重きを置いてるからじゃないだろうか。

……過去を忘れる。

お前はそれでかなりの苦痛を耐えてきたのだろうな……だがもし仮に、過去を忘れられたらこんなに苦しまずに済むのではないかと、つい思ってしまう。

そうだな……いつだって、今という時間が何よりも大事だ。

ヴィクトリアを去ると決めた時も、私はただインドラたちと一緒に生きていけさえすればいいとしか考えていなかった。

未来……

私の未来は……どこへ向かうのだろうか……

とはいえ、この問いは自分でしか答えられない、他人では答えられない問いだ。

ふぅ……いつもお前といると、気が楽になれる……

これもきっと……お前が真実を知った時も、私を変わらず“シージ”と言う名のオペレーターとして見てくれているからなんだろうな……

ヴィクトリア……としてではなく。
(回想終了)

ロンディニウムに帰ってきてから、私は色んなことを思い出した。

同時に色んな変化も目にしてきた。

私がしてきた様々な選択も、今や我々の小隊以外の皆にも深く関わってくるものと化してしまった。

ドクター……もし私の“選択”が私の足と止めてしまったらどうすればいいのだろうか?私はそれが怖い。

・選択があって私は今日までやってこれた。
・一つ一つの選択があったからこそ進む道を決められてきた。

君ならきっと自分の道を見つけられると、誰かからそう言われたことがある。

君にもこの言葉を送ろう、ヴィーナ。

……

君にもいつだって選ぶ権利はある。

……あの、ハイディさん。

あら、どうされましたかアーミヤさん?今ちょうどこちらの負傷した戦士さんを手当てしてるところでして……

ハイディさんは……医学にも精通してるのですか?

浅薄な看護の知識を習得しただけですよ。

こういった仕事をしているとしょっちゅう危ない目に遭いますからね、ですので自分や仲間たちに少しでも生き長らえる機会を作るためにも、せめて救急箱の使い方だけでも習得しておかなければなりません。

立派ですね、ハイディさんは。

私たちはただ自分たちの故郷を守ってるだけに過ぎませんよ。それに比べてケルシー先生や……アーミヤは、より重く、よりたくさんの責任を背負ってらっしゃいます。あなた方のほうが立派でおられますよ。

……でも今回の作戦行動で、私たちは多くの方たちを失ってしまいました。

感じたんです……自救軍たちの苦しみが。以前の彼らなら、それほど恐ろしい相手と戦っていなかったはずなのに。

もしかして私たちが表立ったせいで……あのブラッドブルードを引き寄せてしまったのでしょうか?

アーミヤ、否定されたくてそんなことを聞いてきたのではないのでしょう?

はい……

クロウェシアさんが言っていました、私やロドスが自救軍を無関係な戦いに巻き込んでしまうのではないかって。

もしこの協力関係で、本当に彼らをさらなる危機に陥れてしまっているんだと考えたら私……

昨晩の作戦行動、もしロドスがいなかったらどうなっていたんでしょうね?

もしWさんの協力がなかったら、もし彼女があの傭兵の隊長を足止めしてくれなかったら……ほかのオペレーターさんたちがマンフレッドを牽制してくれなかったら、今私たちはここで会話することも叶わなかったでしょう。

誰かの命で誰かの命を取り換える、ロドスにとっては無論、そんなやり方など納得はいかないでしょう――

けどもしケルシー先生がこの場にいらっしゃったら、きっとこうおっしゃるはずですよ、いかなる機会もリスクは付き物だ、と。

……

そうですね、ありがとうございます。

そのために我々も、備えを怠らないようにしておきましょう。

ハイディさん、市内の情報がもっと必要です。例のブラッドブルードの大君以外に、ロンディニウムに滞在してるほかのサルカズの王たちの情報があれば、教えて頂けませんか?

パンを一袋もらえないかしら?

お嬢さん、お金は取らないから、パンは持って行きなさい。

えっ?でも……

さあさあ持って行きなさい、もうこの街には来るんじゃないよ、危ないからね。

それって……

あなたたちのことならもうみんな知っているわ。

いくら装備を脱いで、衣装を換えても、その目つきと動きを見ればバレバレよ。

……ありがとう。

私もそろそろ実家に戻る頃合いかな。この商売ももう上がったりね。
(サルカズ傭兵の集団が近寄ってくる)

この街をしらみつぶしに調べるんだ!リストに載ってるヤツは全員連れて行け!

な、なんなんですか?俺は……俺はただここでレストランを営んでるだけですよ、前にここでフィッシュフライドを召し上がったじゃないですか……

そのお前に用があるんだ。

中々うまく隠れていたじゃないか、昼にフライドを俺たちに売って、夜にはレジスタンスに情報提供していたとはな?

連れて行け!それと隣の時計屋をやってる店主もだ、こいつらは全員レジスタンスだからな!

……

どうしてサルカズが急に人攫いを?

は、はやく逃げるんだ、この先にある路地を曲がれ、はやくほかの人に――
(飛んできた矢が自救軍の戦士に刺さる)

がはッ――!
(自救軍の戦士が倒れる)

ここも片が付きそうだ。

お前ら、この先の路地を回ってこい、ほかの街に逃げてるヤツも全員とっ捕まえるんだ。

報告!地上に出てきたところ、すぐサルカズと遭遇してしまいました――

いや、俺たちのルートに張っていたわけではありません、急に街中に現れたんです!

まさか通信機器がすべてジャックされていたのしょうか?

指揮官もどうか気を付けてください……地上に出た戦士たちは全滅です……俺もいつまで隠れられるか……

はやくみんなにもこの――
(自救軍の戦士が矢を受け倒れる)

クソ、なんで全然振り撒けられないんだ?

もしかして俺たちの地上での行動ルートがすべて把握されているのか!

なんでこんな……一晩で急に……

一体昨日の夜に何が起こったんだ?

へへへ、お前らにそれを知る機会なんざねえよ。
(サルカズ傭兵の刀が折れる)

なっ――?誰だ!?なんで俺の刀が折れて――
(サルカズ傭兵が斬られ倒れる)

あんた、その恰好……ロドスの者か?助かったよ……またロドスに救われてしまったな。

はやく戻れ。

いや、ドクターとアーミヤに代わりに報告してくれ、地上はもう危険だ、ってな。

どうやら罠を踏んでしまったようだ……昨日見つけた罠以上の数をな。






