
街道は片付いたか?

はい、受け取ったリストに載ってる者どもはすでに全員片付けました。

ほかの区域や市外に逃げようとしていた連中も、将軍の指示通り、片っ端から捕縛しております。

ただ何人か逃してしまいまして……そいつらを捕らえに向かったこちらの戦士たちが、昨日姿を見せたあのロドスのサルカズとまた遭遇したとか。

……逃げた者たちなら地下に潜らせておけ。

そうしたほうが、今度の作戦で一網打尽にできる。

……地上にいる多くの連絡拠点が同時に襲撃を受けたですって?

こちらのトランスポーターは?その人たちも捕まえられたって?

……

ドクター、どういう訳か聞かせてもらえるかしら?

自救軍の連絡拠点ならロドスはどこにあるか把握していないぞ。

ええ、すべての連絡拠点の場所を知ってるのは、我々の戦士だけよ。

昨日帰還する際、我々はずっと敵に後をつかれていたんだ。

危機の種は昨晩からすでに撒かれていた、というわけか……

ただ、私は自分の戦士たちを疑いたくはない。

彼らが自分たちの仲間を裏切るとは考えにくいわ。

・指揮官であれば部隊に責任を持て。
・どんな可能性であっても摘み取らなければならない。

工場から救出された戦士たちは、計何名だ?

計十二人、全員ハイディと一緒に帰ってきたわ。

その十二人のうち、たまに私たちに情報を提供してくれる協力者が九人。

そのほかの三人は物資輸送をしてくれたことがある、一部の連絡拠点の居場所を知ってる可能性はあるわね。

サルカズに捕らえられている戦士たちはあとどのくらいだ?

……たくさんよ。

ドクター、昨日の作戦行動だけでも困難を極めたことは私よりあなたのほうがよく知っているはずだわ。彼ら全員も救出してあげたいけど、自救軍はまだそれを行えるほどの力を備えていない、認めたくはないけど。

ハイディは十分頑張ってくれたわ。私の想定よりも遥かに大勢の人たちを助け出してくれたんだもの。

・なら、どういった人たちが救出されるか、サルカズには確かめようがないな。
・その全員が謀反を起こせば話は違ってくる。
・次の手を敷くのであれば、必ず成功させなければならないぞ。

我々の昨晩の作戦行動には大きな不確定要素が含まれていたわ……

サルカズ側がそれをいちいち把握してるとは考えにくいわね。

それだけは絶対にありえないわ。

そうね。

サルカズ側の指揮官とてバカじゃないわ、彼ならきっと自分の作戦を成功させるために画策してくるはずよ。

では、もし仮に救出した戦士たちの中に裏切者がいたとしたら……

きっと一番可能性が高いのはあの人かもね。

・捜査範囲をかなり絞れたな。
・容疑者が見えてきたな。

私は故郷のために奮闘してくれてる戦士に容疑をかけたくはない……

だから証拠が欲しいわ。

ドクター、なにが策でも?

フェストとロックロックを呼んできてくれ。

一緒に負傷者の見舞いに行こう。

……

止まっちゃってどうしたの?さっき指揮官から知らせが来たよ、ビルが目を覚ましそうだって。

……ロックロック。

指揮官に会いたい、そんで俺はもう隊長を辞めるって伝える。

……

これを見て。

小包?中身はなんだ?

ジョニーとガビーの所有物。彼らの家族に渡すものをまとめておいた。

残ったのは全部工具や武器や装備の類だよ、もし本当に……彼らのことで負い目を感じてるのなら、またアタシたちと一緒に戦えるように、使えそうなものを選んで加工してあげて。

……

ハハ。

どうやら副隊長のせいでこの辞任届は出せそうにないな……行こうぜ、ビルの見舞いだ。

あっ、目が覚めましたか?

おお、あんたか。

ハイディさんなら別件でちょっと席を外していますよ、さっきまで負傷者たちの手当てしてくれていましたけど。

あっ、そういえば……あなたはフェストさんの部隊員のビルさん、でしたよね?

えっとビルさん、フェストさんとロックロックさんを呼んできましょうか?

いや、大丈夫だ。

アーミヤさんよ、ここで目を覚ましたのは、あんたとちょっと話したかったからなんだ。

……はい?

俺はずっとあんたに……その、興味があったんだ。

ロドスのアーミヤに……

あいつらはなんでみんなあんたをそこまで信頼してるんだ?あんたはまだ十何歳の子ウサギだろ。

それは……ロドスのオペレーターたちのことですか?

たくさん色んなことを体験しましたからね。彼らが私を信頼してくれるのは確かですよ、ただその信頼はお互い様なんです。

私から見れば、自救軍の皆さんも同じじゃないですか。あなただってフェストさんやロックロックさん、それにクロウェシアを信頼してますよね?

フフ……信頼はお互い様、ねぇ?だとしたら原因とかが必要なんじゃないのか?例えばほら、とても過酷な試練を経たとかさ。

あんたのその力は血統によるものじゃないし、ましてやその地位もその力によるものじゃない。あんたが得ているその信頼に比べて、あんた自身はまだまだ稚拙だ。

……えっと、ビルさん?

あんただってそれを考えたことはあるんだろ?でもあんたはそれを表に出そうとはしない。あんたの恐怖心も、憂いも、焦りも、全部あいつらがあんたに押し付けた責任に押し潰されちまってるからだ。

それは心配してくれるのでしょうか?もしかして私とハイディさんとの会話が聞こえていました?

あー……そうかもな。全部聞こえていたかもしれない。

心配して下さりありがとうございます。でも、この責任が押し付けられたものだとは思っていませんよ。

オペレーターが私に期待してくれているのなら、私は喜んでその期待に応えてみせます。

ああ……そりゃそうだろうな。あんたはいつもそいつらの熱い視線の中で生きてる。

しかしだなアーミヤ……あいつらはもしかしたらあんたを通して、あんたとは違う、別の魂を見てるんじゃないのかい?

……!

あんたが信じてるソレは、はたして本当にあんたが信じてるソレなんだろうかね、それとも……

いくら藻掻いても醒めやしない……他人の夢を見ているんじゃないのかい?

ビルさん……いやあなた、ビルさんじゃありませんね!

あなたは一体誰なんです?

それはこちらの質問だよ。

アーミヤ……あんたは一体、誰なんだい?
アーミヤ、私が話したこのお話は気に入ってくれたかしら?寝覚めが悪くならないといいのだけれど……あなたに悪い夢は見てほしくないからね。
悪い夢は見ない、ですって?うふふ、あなたってば本当に優しい子ね。
そうね、いくら違うところがあっても、私たちは全員この地で生まれた同じ命。
あなたが聞いたこのお話はね、ほかの人々に恐怖をもたらす伝説なの。けど同時に……サルカズの歴史そのものでもあるのよ。

……

ここから出てってください。

手にエネルギーが集まっているぞ。俺の正体が分かったのかな?じゃあ撃つといいさ、なぜ撃たない?

あなたからは感情が見えません、“ビルさん”。

けど……悪意も見えない。

ほう?

本当ならあなたはあのまま寝てるフリをしていればよかったはずです。なのになぜあえて私に話しかけて……

やれやれ、さっき言ったばかりだろ、私たちはあんたに興味があるんだ。

あんたがいなきゃ、私たちとてこんな場所には来たくないさ。テレシスじゃ私たちに命令するわけにもいかないからね。

あなたの目的がどうであれば……その手法は許されません、あまりにも残忍すぎる。

残忍……

それはこの顔のことを指して言ってるのかな?

そうです、ですから即刻ここから出て行ってください。
黒い線が再び彼女の掌に収束していき、自救軍の軍服を着た男の傍で網を張った。
その内の一つが光のない鋭い刃と化し、男の喉に突き立てる。

これはこれは……なんとも優しい脅迫だな。

アーミヤ、色んな人からこう言われたことがあるんだろ?

あんたは本当に、彼女にそっくりだ。

それ以上喋らないでください。

しかし、あんたは幼稚ゆえの甘さがある……

殺る前に、まずは背後を確認しておくべきだったな。
(フェストとロックロックが近づいてくる)

……アーミヤ、何やってんだよ!?

お、おおおお前……ビルを殺すつもりか!?

いや、これは違くて……

……
(クロウェシアとドクターが近づいてくる)

ドクター、まさかこれを見せるためだけに、二人を連れて来させたわけじゃないでしょうね?

・私も誰が手を出すのか見たかったところだ。
・“裏切者”なら今君たちが見た通りだ。

アーミヤを指して言ってるようじゃないわね。じゃあ、ビルのことかしら?

ロック……ロックロック、助けてくれ……

……

あんたらを傷つけるぐらいなら……俺は死んだ方がマシだ!

……彼に近づかないでください。彼のアーツは……まったく掴めません。

彼の言葉に耳を傾けてはいけません……極めて危険です、彼自身も含めて。

アーミヤさん……これはどういうこと?

もしかしたらキミたちの言ったように、ロドスは本当にアタシたちの仲間になってくれるんじゃないかって、昨日一緒に戦って思ったよ。

でも……

……

キミのその表情が、どうしても恐ろしく感じてしまう。まるでどこかで見たことがあるような……

そうだ……キミも、傷つけてしまうことに悲しんでいるんだね。

だとしたら、なんで……なんで殺そうとしてるのよ!?

あの女……あのサルカズはアタシの目の前で父さんを奪っていった、それをもう一度アタシの目の前で繰り返そうっていうの?

ごめんなさい、ロックロックさん……でもあなたの家族は、もうここにはいません。

じゃあ今目の前にいるビルはなんなの!?

皆さんからすれば……受け入れがたい事実なのでしょう。

……わかんないよぉ……

アーミヤ、あなたを疑うつもりはないけど、我々はあなたと同じアーツを持っていないし、あなたが見えてるものも見えていない、納得いく説明をしてちょうだい。

……

いいや指揮官……俺なら見えてるぜ。

隊長……?

こいつは俺たちの知ってるビルじゃねえ。

でも彼のあの傷……昨日アタシの助けるためについた傷じゃん!

サルカズは偽ることに長けている、だから上っ面に騙されるな、それを言ったのはお前だろ、ロックロック。

でも、だからって……

ロックロック、ビルに送るはずだったカニのおもちゃを持ってきた。

でも見ろよ……

あれ、なんだこれ?いつの間に乗っかってきたんだ?

あいつは一度たりともそのカニのおもちゃに目を向けなかった。あいつはアーミヤしか眼中にない、俺たちを欺けたことで粋がってたんだ。あいつの頭ん中にはもう……俺たちが交わした約束はない。

……

おいおい、こんなちんけなロボットだけで疑うつもりか?

なあフェスト、ちょいと判断が軽率すぎるんじゃないのか?俺たちは兄弟さながらの仲良しだろ。

確かにこの二日間、俺は色々とやらかした。

でもなビル……ビルさんよ、お前が生きてたら、きっと遠慮なしに俺をバカにしてきたはずだ。もうお前に会えないと思うと、こっちも寂しくてしょうがねえよ。

だからお前が誰だかは知らねえが……俺にレンチでそのツラを剥がすようなマネをさせないでくれよな。

ロックロック、あんたもこいつみたいに、俺で悲しんでくれるのか?

アタシはアタシの家族を信じてる、いつまでも。

でもキミは……もうキミじゃなくなった。

ビルは一度たりともそんなことは言わないよ、アタシたちにせがんだり、ましてや強要なんかもしない。

……本当に俺はビルじゃないって思ってるのか?なあフェスト、お前はそんなんで納得いくのかよ?

もし俺がビルじゃなかったら、あの二人のお友だちは無駄死にしちまうぜ?

……

ビルのツラで喋るんじゃねえ!

フフ……あんたはお利口だね、だが残念……

もう遅いよ。

砲手、用意はできたか?

砲台はすでに目標の区域に照準を定めております、いつでも撃てますよ、将軍。

結構。だが気を付けろ、列車駅と鉄道だけは撃つな。そのほかの建築物は好きにして構わん。

了解!

では出力を最大限まで上げろ。

さ、最大限ですか?しかしそれでは構造区画層にまで届いて――

聴罪師のトランスポーターが言ってたことを聞いていなかったのか?ヤツらにとって、ここの区画は工場含めてもはや価値はないと言っているんだ。

で、ではこの下にいる味方はどうすれば……

ヘドリーが城壁の下にある安全な区域を視てくれる。

しかしそのほかにも……

くどいぞ……今レジスタンスのいる地下に向かっている人が誰なのか分かっているのか?

えっと、大君様?

知ってるのならば結構。こんな砲撃でブラッドブルードの大君を殺せるものか……殺せたとしたら、腑抜けのあまりに驚いてしまう。

もう一人についても心配はいらん。

もし彼が全力で大君に立ち向かったら、一体どちらが勝利するのだろうな、実に気になるところだ。

よかった、みんなここに――

って、あれ?どうしたの?なんか一触即発な雰囲気なんだけど?

ドクター、言われた通り、ドローンを地上に飛ばしてみたけど――やっぱり始まってたよ!ほ、ほらあの都市防衛砲台!明らかに砲塔が回ってるよ!

直ちに撤退する、ハイディとハマーにそう伝えて。

待って、強力な源石反応を検知!今アタシらがいるここに狙いを定めてるよ!

じゅ、十秒!もう十秒しかないよ――!

九――!

・カウントダウンしてる場合か。
・はやく逃げろ!
(砲撃音)

――おいあんた、なんで俺まで……

……言ってただろ、俺たちは兄弟さながらだって。だから……判断を誤りたくねえんだ

隊長……重すぎる……これじゃあ動かないよ……

……

あんたら……面白い人たちだね……

だがすまない、ここおさまらばだ、隊長さん。

そしてロックロックも。

生きろ。ビルの最後の言葉だ、確かに伝えたぞ。




