
そ、装填効率をもう一段階上げるって……?

それでは市内の移動区画が木端微塵に崩壊してしまうぞ!

将軍の命令を疑うのか?

いや……私はただ、こんな大規模な砲撃では城壁に影響が出るんじゃないかと心配してるだけだ……

移動区画を取り換えるのなら、城壁の制御もシンクロしておかなければならない、こんな砲撃でなんて……

無駄口はいい。

大人しく言うことを聞くか、それとも死ぬか……お前にある選択肢はこの二つだけだ。

……
(斬撃音)

なんだ?
(ホルンが近寄ってくる)

三つ目の選択肢もあると私は思うけどね。
(斬撃音)

貴様――!ぐはッ――
(サルカズの戦士が倒れる)

立てますか、大尉?

わ、私は平気だ……君は?

あなたのかつての戦友です。

ここだ!何者かが紛れ込んできたぞ!

――

盾持ちだと?どこからヴィクトリア兵が紛れ込んで――
(爆発音と共にサルカズの戦士が倒れる)

やっぱり手に馴染む武器が何よりだわ。

大尉、私が持ってるこの型番の火砲ですが……これで都市防衛兵器類の装填機能を破壊することはできますか?

いや……おそらく無理だろう……

やはりそうですか。

ホルンさん、外にいるサルカズは片付けました!

助かったわ、代わりにもう一度Miseryさんにお礼を伝えてちょうだい。

それで話を戻しますが大尉、都市防衛砲台を停止させる方法はほかにありますか?

……

沈黙は見せなくても結構です、あなたはとっくに私たちが来ることを予想していましたよね?

だって、現に都市防衛部隊に所属してる兵士たちの識別コードは完全に上書きされていなかったんですから。

……あれはただ上書きし忘れただけだ。それをしただけでサルカズは……私を殺しはしないからな。

では仮に私たちに手を貸したら、処されるということですね?

ああ、私の家族含めてな。

私がしくじれば、家族もいつだってサルカズたちに殺される。

なるほど、事情は分かりました。

カール、この都市防衛部隊の裏切者を狙って。

えっと、中尉……狙ってって、どこを?

ここだ。私の心臓を狙え。

私が死ねば……いや私が死ななければ、ヤツらは私を見逃してはくれないだろう、だがそうすれば家族は解放される。

……

もし考え直して頂けるのでしたら、私たちも協力して差し上げます。

そうか。感謝する、中尉。

砲台を停止させる方法なら二つある。

一つはあのサルカズの将軍に止めさせること……そしてもう一つは制御室を破壊することだ。

一つ目の方法を実行するには、マンフレッドを倒さなければなりませんね。

そうだ。そして二つ目の方法だが……お前たちの火力だけでは不十分だ。それだけじゃない……中尉、お前は覚悟ができているか?自らの手でロンディニウムの城壁を崩すという覚悟が。

……

私たちのやるべきことの覚悟なら決まっています。

では大尉……覚悟はお決まりになりましたか?

ああ、撃ってくれ……ずっと待ちわびてきたんだ。

中尉、心臓を外してますよ。
(ホルンがクロスボウを撃ち、ヴィクトリア士官が倒れる)

……しまった、手が滑ってしまったわね。

大尉をエレベーターまで送って、下まで降ろして差し上げなさい……自分の生死ぐらい自分で決めてあげないと。

では俺たちはどうします?このまま上に登りますか?

そうね、もう一度マンフレッドに会いに行きましょう。

ひゃ~、すごいエレベーターだったね~、めちゃくちゃ速かったよ――

そ、その話はまた後にしてくれ……こっちはドクターのゲロを被りそうなんだ。

なんせさっきまでロープに引っ張られて数百メートルは飛んだからな……

・もう金輪際ゴメンだ。
・慣れればいいんだ、慣れれば。

酔いは醒めましたか?敵が接近してきています!
(サルカズの戦士が駆け寄ってくる)

ここにも侵入者がいるぞ!すぐ将軍に報告しろ!

アーミヤ、攻撃を防ぐんだ!
(アーミヤがアーツを放つ)

あの報告しに行くサルカズについて行こう。

クロージャさん、一刻も早く砲台を停止する方法を見つけましょう――

もしそれがマンフレッドを倒すことを意味するのであれば、速戦即決で片を付けなければなりません。

こちらが時間をかければかけるほど、地下に残ったオペレーターたちと自救軍が危ないですから。

ゴホッ……ゴホゴホッ。

戦闘経験をあまり持たない青年に吹っ飛ばされるなんて……情けないわね。

……いくら小さいハガネカニでも、追い込まれれば挟まれる可能性はある。

それでマンフレッドに文句を言われなきゃいいわね。

なぜここに現れた?自分の状況を理解していないのか?

あら、私に助けられるぐらいなら、こんな廃墟で息絶え絶えのままになったほうがいいって言いたいの?

ッ……支えるならもう片方にしてくれ……

こっちの腕は彼女のおかげで使い物にならなくなってるんだ。

彼女に会ったのね。それでどうだった?

どうもこうも、彼女は確実にあの“殿下”に気付いていたさ。

それじゃあ……

相変わらずだよ、考えに変わりは見えなかった。

本当に言ってるの?昔の彼女のままだって?

あんな重傷のままあのアサシンを追いかけてたら普通は思わないのかしら……もしかしたら殿下は死んでいなかったんじゃないかって。

彼女はもう昔のようなあの狂犬ではなくなった。

それって余計頭がおかしくなったってこと?

……さあ、どっちだろうな。

だが確かなことが言えるとしたら、彼女は半月も爆発を引き起こさず、一人でこっそりロンディニウムに侵入した、なによりあのマンフレッドにさえ見つからないよう隠れていたとはな……

以前の彼女なら、とっくに西方大聖堂に乗り込んで、聴罪師に斬り殺される前に、テレシスの王座の下に地雷を百個仕込んでいたはずだ。

彼女はきっとあのバベル……いや、ロドスと賢い打算をしたんだろう。

それだけのことを確認するためだけに、危うく自分の命を差し出すハメになるなんて、少しは危機管理ってもんを勉強し直したら?

こっちはマンフレッドの手下にずっと監視されてるんだぞ。確実に対面するならあれしかなかった。

そのおかげでシュワブは引き換えか……

あいつならWと約束した時点で覚悟を決めていたさ。

いや……覚悟を決めたのなら俺たちも、と言うべきか。

……決まっているのでしたら何よりです。

誰だ――?

この匂いは……聴罪師!
(聴罪師直属の衛兵が近寄ってくる)

最初からマンフレッドに言ってやったんですがね、あなたは信用できないと。

ヘドリー――そのような巧妙な小細工で、私たちの目を誤魔化せられるとでもお思いですか?

……これはただの誤解だ。

ほう、誤解?しかし残念ながら、もう我々のボスと摂政王様に弁解する余地はなくなってしまいました。

もう首を垂れて従順なフリをする必要もなくなりましたよ。さあ、剣を抜きなさい、あなたの最後の戦いを楽しもうじゃありませんか、傭兵。

それが……命令とあらば……
(ヘドリーの剣を聴罪師直属衛兵が弾く)

なんとも非力な攻撃ですね。

お仲間を守ろうとしてるようですが、無駄ですよ。

暗闇とて、私の目からは逃げられませんからね。
(斬撃音)

ヘドリー……

お前は逃げろ!

イヤよ、私にそんな命令しないで、せっかく二人でここまで来たのに――

だったら尚更ここで一緒に死ぬわけにはいかないだろ!

ご心配なく、お二人揃って一緒に屠って差し上げます。

しばし決めて頂いても構いませんよ、誰が先なのかを――

ぐふッ!?
(聴罪師直属衛兵が倒れる)

なっ、倒れた……?藻掻きもせずに?

……お前だったか。

……自惚れたヤツめ。

陰を我が物にできる者などいないさ。陰は一切の可能性を孕んでいるからな。

ゴホッ……ゴホゴホッ……

お前たちはさっさと行け。生き残りたければ、日の目に出るんだ。

お前はどうするんだ?

私はまだ別の任務がある。

……聴罪師の僕のほかにも、ここに紛れ込んだヤツがいるのでな。
(砲撃音)

なんの音?

後方にある鉄骨が崩れた音です、指揮官――

いや、それだけじゃないわ……

……ヤツが来る。

あなたも気付いたのね?

ん?砲撃の音以外なにも聞こえていないけど?

……鼓動が消えた。

え?

逃げろッ!!!

十二番隊、完全に連絡が途絶えてしまったわ――

おそらく全滅だろうな。

ええ……

ついさっき、彼らの声が途端に消え去ったわ。

ここにある配管道の中にいれば、本来なら声や音が反響して聞こえてくる。

人が呼吸する音や足音、ハガネガニが這う時のカタカタ音、機械が稼働してる際の轟音だろう、音であればなんだろうとな――

配管道とは、そんな命の鼓動を事細かに記録してくれる存在だ。

だが今……そんな音や声もすべて消え去ってしまった。

じゃあ、吾輩たちの背後にある暗闇は――

生きとし生きるものすべてを呑み込むバケモノみたいなものだろう。

……三か月前にあった貴族のパーティと同じね。

エンジニア隊、第一防御隔壁を閉鎖!

了解、第一防御隔壁を閉鎖!
(防御隔壁が閉じられる音)

シージさん……あなたの勘が当たったわね。

ロンディニウムの地下構造をよくご存じなのかしら?

確かフェストが言うには……あなたもここの人らしいわね?

地下構造に入ったことは……一度だけなんだ。

だがこういった配管道に関する噂話や伝承の類は、色々とよく耳にしたことがある。

百数年前、ロンディニウムの中央で大火災が発生した。すべてを飲む込む烈火から逃れられたのはロイヤルファミリーと一部貴族だけだった。

その後、宮殿の下には不思議な魔方陣が敷かれていて、ロイヤルファミリーをいかなる災難からも守ってくれる、という都市伝説が流布し始めた。

それを初めて聞いた時、思ったわ……ロイヤルファミリーの面々もここにある逃げ道を利用してたんじゃないかって。

ああ……その話なら私も聞いたことがある、内容もかなり似通っているな。

ロンディニウムを作り上げた労働者も、お高く留まってる王侯貴族たちも、災難に遭えば違わず同じ道を歩む――

聞いただけで興味をそそる話ね。
(隔壁に何かが当たる音)

指揮官、隔壁が攻撃されています!

……隔壁だけでは防ぎようがない。

ウソだろ?装甲車の砲撃を七八回は防げるぐらいの厚みだぞ!

退くんだ、このまま退け!
(隔壁が崩れ去る音)
鋭く引き裂く音とともに、金属の隔壁に裂け目が生じた。
壁の向こう側にいる巨大な力にかかれば、分厚い金属とて紙以下の薄っぺらさと化す。その間にも裂け目はどんどん広がっていき、ついにはバケモノの口が如く漆黒な空洞へと化した。

第二防御隔壁を下ろせ!

りょうか……うわ、うわああああ!!!
(自救軍の戦士が倒れる)
壁が重苦しく降りてくる、しかし壁を作動させた人はなにやら足を滑らせたようで、叫び声をあげる間もなく、目に見えないナニかによって壁の向こうにある暗闇へと引きずられていった。
そして赤く濁った血が壁の下の隙間から滲み出てくる。
しかしすぐさま、その血も啜られてなくなってしまった。背後に広がる暗闇も一瞬にして通路のほとんどを呑み込んでしまった。
ドカンと、また轟音が鳴り響く。もはや自分たちの先で鳴った音なのか、あるいは背後から鳴った音なのか判別もつけなくなってしまった。
配管道が激しく揺れる、暗闇と配管との境界線も曖昧になってきた。まるで捕食者が大きく開けた口のように、逃げ惑う者たちの足を捉えんとする。

配管道に関する都市伝説なら……もう一つ聞いたことがある。

二百年前に起こったある戦争で、ヴィクトリアはほか二国とともに、当時カズデルと呼ばれる都市を包囲しようと試みた。

しかしそんなある日の夜、完全武装された軍団が一夜にして陣を敷いていた渓谷から丸っと姿を晦ました。

兵たちを率いていた伯爵が捜索にあたったが、目にしたのは赤い朝焼けに照らされた渓谷だけ。

だが記録によれば、その日は……太陽が出ていなかったという。

第三防御隔壁を降ろせ――

これが……最後の隔壁か?
クロウェシアは答えなかった。
まるでその答えも……配管道にひしめくバケモノに飲み込まれてしまったかのように。