
来たか。

……マンフレッド?

大君は拍子抜けしてしまうだろうな。あの方は何よりも暗く湿った場所を嫌っている、わざわざお前を捕らえるために自救軍の地下巣窟まで赴いたというのに。

今頃はきっとお前たちの仲間のところまでたどり着いていることだろう。地下で泣き喚く声は、果たしてこの城壁まで届いてくれるのだろうか――

テメェ……この……

忌々しい魔族、とでも言いたいのだろ?

誤解してるようだが、私はあまりあの方の手法は好かん。あのような苦しみを受けるぐらいなら、私の砲撃で死んだほうがレジスタンスとしてはまだ幸運なはずだ。

テメェらにそんな差はねえだろうが!

お前たちの目からすればそう見えるのだろう。お前たちが我らをこぞって“魔族”と呼んだ時からすでに、恐怖と憎しみに目が遮られてるのだからな。

サルカズは殺戮を楽しんでいる阿呆共だと、ヴィクトリア人からすればそう見えるのだろう。

だがそう思った者共も、今では殿下の前に跪くか、あるいは城壁に吊るされて白骨となるかの結末を辿るだけとなったな。

あなたとテレシスが……軍を率いてこの都市を蹂躙したのですね。

あなたがいくらブラッドブルードとは違うことを強調しても、その手が血に染まった侵略者であることに変わりはありません。

何やら誤解してるようだな、ロドスのコータス。

何も私は大君とは違うことを強調したいだけではない――私はむしろあの方の手法には嫌悪感すら覚えるのでね。

しかしだ、だからと言って王たちと同じやり口を働くことはないさ。

王たちは殿下の継承者であるお前に興味津々だ、まあお前を疑ったり、あるいは嫌悪する方もいるがな。

あなたは……

私を警戒しているのですね、そう感じ取れますよ。

そうとも、コータスよ。私はお前に様々な感情を覚える王たちとは違う、私にとってお前はただの――脅威だ。
(爆発音)

――あの野郎、こっちに手榴弾でも投げ込んできたのか?

はやく城壁に掴まってください!

これは彼のアーツです……アーツのエネルギーで衝撃を生み、私たちを城壁から突き落とそうとしているんです!

くっ……全然地面に足がつかねえ、まるでどこもかしこも地面が吹き飛んでる感覚だぜ……

ドローンじゃ全然あいつに近づけないよ!近づけば機体のバランスが崩れちゃう――

皆さん……私の後ろに!

くぅッ――

あ、アーミヤちゃん、キミのアーツがあいつに融かされてるよ!?

私のアーツのバリアを剥がすため、彼はあえてアーツを細く鋭く放っているんです……

でもドラコの炎すら防いだバリアだよね!?

・向こうは私たちの戦い方を熟知してるんだ。
・アーミヤに効くアーツだ。

……

お前たちが来ると知って、なにもせずにただ呆けてたと思っていたか?
(アーツ音)

おい、また来たぞ!今度は足元だけじゃねえ、上だ、空にもだ!また赤い雷が光って爆発したらまずい――

アーミヤ、お前……感情とか読めるんだろ?

だったらあいつの脳みそに余計なモンをつぎ込んで混乱させれば……

……それはできません。

守りが固すぎるんです、それに本人はすごく冷静でいる。彼の感情の縁なら辛うじて触れられますが……今の彼は勝利に対する渇望しかありません。

時間稼ぎをしているんだ。

ええ……まったくこの戦いを眼中に収めていませんね。

彼はただ待ってるだけです、ブラッドブルードと都市防衛砲台がレジスタンスを壊滅させるのを!

]時間稼ぎ?悪くない推測だな。

ただ運よく魔王の力を得たそのコータスよりも、果然お前に興味が湧いてきたぞ、ドクター。

お前は過去に今以上過酷な場面と出くわしてもなお――想定よりもさらに上を行く結果をもたらしたようじゃないか。

では教えて頂けるかな、ここからどうする?

長期的な脅威を排除するために、ここで死力を尽くして私を殺すのか、あるいはほかの策を講じて私を避け、地下にいるあのヴィクトリア人たちを救うのか?
(崩壊音)

うわあああああ!

ホワイトホールさん、前の道はどうなっていますか?

局地的に通路が崩壊してる!戦士三名が巻き込まれてしまった――

……

崩落した箇所を避けて、このまま進みます!

誰が犠牲になろうと、足を止めずに逃げ続けてください、絶対に振り向いてはいけませんからね!

はやく登れ、列車は目視できたか?

どうやらまだサルカズにはバレていないようだな、このままなんとか紛れ込んで、列車を制圧してやらないと――

ハマーさん、危ない!!
(爆発音と共に自救軍の戦士が倒れる)

……

サルカズのスナイパーだ!待ち伏せされてる!

ロックロック、このままじゃ頭を出せば撃たれるだけだ!地下に戻ろう!

地下のほうが……もっと危険だよ。

サルカズが地下空間を破壊し尽くすまでに列車を掌握することがアタシたちに残された唯一のチャンスだって、指揮官が言ってたでしょ。

しかしハマーが……

ハマー隊長は犠牲になった。

だから彼に代わってアタシがここの指揮を執る。

よく聞いて、砲撃が一時中断された後、即刻列車を動かす必要がある。

もしアタシが倒れたら、ほかの誰かがアタシの後を継いで――最後の一人になろうとも、必ずあの人をここから脱出させるんだよ!

ねえ、この隔壁……もう持たないんじゃないの?

指揮官、このままじゃ全滅です、ヤツを倒しましょう!

ダメだ、我々では敵わない。

はは……ロドスさんよ、こっちはそんなこと重々承知しているさ。

十三番隊、俺について来い!

おい、なに引き返してんだ!バカな真似をするんじゃねえ――

か、壁がこじ開けられてる!

撃て、撃つんだ!手榴弾でもなんでもいい!絶対そのバケモノをこれ以上進ませるな!!!
(戦闘音)

あがッ……グギャッ――!

……来た。
土埃が落ち着き、漆黒な通路の果てから影が現れた。
その姿は凶悪なバケモノでもなく、歪な身体をしてるわけでもなく、ましてや牙や爪を剥き出しにしていたり、触手を躍らせてるわけでもなかった。
若い貴族だ、一見するとなんの変哲もない、新聞紙に写真が載るような、ロンデニウムの政治経済を嬉々として語り出す若き貴族にしか見えない。
しかしその足元を染める赤く濁る血が……そうでないことを物語っていた。

……ひどい悪臭だ。貴公らの戦い方も醜く、実に無様だ。

ば、バケモノだ……

し……指揮官には近づけさせな……

へっ?お、俺の手がッ!?触れてもいないのに――グげッ!

ふむ……これで少しは匂いがマシになったな。

では貴公ら、もしよければだが……貴公らの大事な身の一部で地面を洗い直してもらえるかな?
ブラッドブルードが軽く指を跳ねる、まるでワイングラスを傾けるように、あるいは音楽に合わせてリズムを取るように。
影は彼の足元から広がっていき、戦士たちの身体を捕らえては、四肢に纏わりつく。
そして悲痛な叫び声は溢れ出す液体によって掻き消された。
濃い血の匂いが鼻腔を刺す。朱い赤が視野を塗りたくる。
通路の向こう側にいた人たちは瞬時に理解したのだ。
我々を追っていたのは暗闇ではない、あまりにも濃すぎる血だったのだと。

おい、ワルファリンもクロージャも……本当はあんな感じなのか?

……最初に思いついたセリフがそれ!?

だったら何なんだよ?ビビってるセリフを吐くよりかはマシだろ?

いいからさっさと逃げるんだよ!

“魔王”はどこだ?

何を言って――

わざわざこんな遠いところまで謁見しに参ったのだ、まさか恥ずかしがって、貴公ら如きの弱小生物の背後に隠れているのではあるまいな?
(自救軍の戦士が倒れる)

がはッ――!

……アーミヤ。

アーミヤを探しに来たのか。

その魔王なんたらのことかい?それ本当にアーミヤのことを指してるの?彼女はコータスなんじゃ?

それはまた後にしよう、今はそれどころじゃない。

とは言っても、ここにアーミヤは……

何よりだ。

あー、それもそっか。アーミヤでもこのバケモノを止められそうにないしね。

ドクターと一緒に上に行ったが、はたして成功したのかな……いや、そんなこと考えてる場合じゃないね、今は自分たちがミンチにされそうって状況なのに。

それでヴィーナ、どうする?

逃げるほかない。

我々はこんなところで……死ぬわけにはいかないからな。
行くんだ、ヴィーナ。
目の前にある暗闇に向かって走れ。何も考えるな。
ここにある配管たちが、どこへだってお前の行きたい場所に連れて行ってくれるさ。
(アーツ音)

このままでは埒が明きません。

ドクター、下がっててください。

より一層エネルギーを集中させます、一刻も早くマンフレッドを倒さないと……

それはダメだ。

信じてくださいドクター。あの時指輪を外してから、私も色々と成長しましたから。

私たちがロンディニウムに入ったばかりなのは分かっています、だからここで倒れるようなことはしませんよ。

しかしそれではヤツの思うつぼだ。

くっ……向こうもエネルギーをより凝縮し始めてきました!まるで……まるで網のように、頭上も、足元も……そこら中に!
(マンフレッドのアーツ音)

空気中が……見えない源石の結晶だらけです!彼はきっとこの散りばめられた結晶で攻撃を伝っていたんです!

どうりで、ステルスドローンがそこら中に爆弾を撒いてるような攻撃だと思ったぜ!

フェストさん、クロージャさんと一緒に下がっててください……万が一巻き込まれてしまえば、隠れても間に合いません。

もっと力を込めてもいいんだぞ、コータス。

このエネルギー量は……私のアーツを受けて、動いて……
(アーツ音)

その身で受けるがいいさ、自らが編んだ檻籠を。

藻掻けば逃げられなくなる……というわけですか?

コータス、私は今目の前にある戦いを眼中に置いていないと言ったな、半分は正解だ。

もう半分はお前を殿下の御前まで連れて行く。ロンディニウムにいるサルカズたちは……異種族の者が主君の力を用いて横行してるサマなど見たくないのでな。

横行なんてしません、私は彼らに命令する資格などないので。
(アーツ音)

無論ないだろうな。

けどテレシスも彼らを命令する資格はありません。

カズデルにいた頃、私は大勢のサルカズの戦士たちを見てきました。彼らの多くは傭兵です。その後チェルノボーグで……彼らと再会しました。

タルラに利用されていたとしても、彼らは少なからず理解していました、戦ってる相手は誰なのかを、自分たちは自分たちの命で明日を取り換えているのだと。

しかし今はどうなんです?あなたたちはそんな彼らを異種族の都市に閉じ込めた。私がここに一歩踏み入れた時からもひしひしと感じてきます、彼らの怒りが、焦りが、迷いが……

私の戦士たちの感情を読んだというのか?
(マンフレッドのアーツ音)

また……収縮した?怒りを、覚えたのですか?

コータス、お前は自惚れてると、人から言われたことはないか?お前はたかが感染者だ、真にサルカズの生を知ったことはない。

お前はただ傍らで見ていただけだ、それで我らの苦しみと怨恨を理解していると言えようか!

確かに、私は理解していないのかもしれません。

しかし……あなたたちの心の中で燃えている炎、遥かなる過去から今に至るまでずっと、最初のカズデルから今のロンディニウムまで燃え続けてきた炎は、今も私の心の中にあります。

とても熱い炎です。どんな世迷言やアーツが見せた幻覚よりも、真実以上に真実味のある熱さです。

好き勝手に解釈するがいいさ、感染者。

お前のその力の由来なら私とて知っている。

嘘を吐いた者が信じたからといって、吐かれた嘘が真実になり得ることはないからな。

サルカズ、感染者……

あなたが私たちにどんな身分の烙印を焼き付けようとも、私たちはただ数々の不平の中で生き続けたいと思ってる一般人にすぎません。

しかしテレシスはそんな人たちを終わりの見えない戦いへと巻き込んでしまいました――外にいるあのヴィクトリア大公爵たちの軍隊を見なさい。

もし彼らの矛先が同じ方向を向けば、カズデルにしろ、ロンディニウムにしろ、いずれサルカズは滅びを迎えるだけです。

血統、権威、名誉……あなたたちはそれで彼らを駆使しようとしていますが、それこそ嘘と紛い物です!
(アーツ音)

……混乱に乗じてエネルギーを収束し直し、距離を取ったか。

やはり私の思った通りだ、コータス。

――お前は危険だ。

お前の力、お前の言葉……我々の屈強なる戦士たちを脅かすことはできなくとも、我々の敵に希望と言う名の幻を見せつけることはできる。私もこれ以上戦士たちを疲弊させたくはない。

お前はここで止める、この都市に足を踏み入れることはこの私が許さん――

ならあなたの檻籠は、必ず私が破いてみせます!

檻籠とまでは及ばないだろうな、それは。

え……?

私のアーツの密度が変えられた?

また、貴様か……
(Miseryが近寄ってくる)

ドクター、ちょっと遅かったか?

ロンディニウムの城壁内はひどく入り組んでいるでな……俺であってもここに通り道を見つけ出すのは困難だ。

だが優秀な助っ人がいたおかげで間に合ったよ。

苦労をかけたな、Misery。

・アーミヤ、場所を変えよう。
・クロージャ、ドローンを配置してくれ。
・フェスト、ジップラインを。

飛び降りるぞ。
数分前
(回想)

ドクター、マンフレッドを人混みの中から見つけたよ。

護衛とかがあんまりいないようだけど……

私たちは恐るるに足らず、って感じだな。

じゃあかなり戦いに自信があるのかな?見た感じすごく強そうだし、テレシスから戦い方を教わってるんだと思う。

本当にアタシ達で5分以内にあいつをボコボコにして、砲台を停止させてやれるの?

いや、こりゃ語弊だね、ここじゃアタシもフェストも戦力にならないから、全然“アタシ達”じゃなかったね、後方支援が前線に上がっても死ぬだけだし。

だからアーミヤちゃんだけが頼りだよ……

マンフレッドは確かに強敵です。

けど私たちがこの先を進む限り……きっと彼の上を行く強敵たちと遭遇することになるでしょう。

・アーミヤ、マンフレッドの注意を惹きつけてくれ。
・クロージャとフェストは城壁からの撤退の準備を。
・私たちの待ち人もそろそろ到着だ。
(回想終了)

また私の前から逃げるつもりだろうが、もう同じ手は二度も通用しないぞ?
(マンフレッドのアーツ音)
何もないところで目標を定められたかのように、収束されたエネルギーが迫ってきた。
その鋭い剣撃が自分の足先に触れたのではないかと錯覚するほどに。
しかしそんな錯覚も、とある盾があなたの目の前で防がれるまでのものだった。

ここは通さないわよ、サルカズ。

あなたの相手はこの私だ。

……

白狼、まさかお前がまた私の前に現れるとはな。

両側通行の通路だったか、ヤツらを逃がすと同時に、上がってきたのだな?

……私じゃない、私たちよ。
ホルンの背後に、ある兵士が駆けつけた。
二人、三人と立て続けに。
そして十数人ものヴィクトリア兵たちがサルカズの将軍の前に立ちはだかった。
もはや誰も身元を偽ってはいない。
彼らの軍服は様々だった。大半は幾度の戦火に焼かれた痕を残していたが、泥やクモの巣がこびり付いた者もいれば、己と戦友の血が染みついた者もいる。
持ってる武器も様々だった。制式のサーベルを持つ者もいれば、自作のボウガンしか持てなかった者もいる。
しかし彼らは、どれも同じ顔つきをしていた。
今度こそは決して退かぬ、倒れぬ、不退転の覚悟を決めた顔つきだった。

……雑兵風情が私と相対するだと?

――
(爆発音)

武器を手に取ったお前とて私の相手ではない。

この前はすべてそのロドスのサルカズが介入してくれたおかげで、お前は辛うじて私から逃げることができた、まさかそれを忘れてしまったのか?

キョロキョロするんじゃない、サルカズ。

戦場で相手を尊重しなければ、真っ先に倒れるわよ。
(爆発音)

フッ、盾よりも頑なな口をしてるな。
(マンフレッドのアーツ音)

くッ――

敵が攻撃する方角に注意せよ、私の盾の後ろに!

本来ならお前は始末しておくつもりであったが、まさか自ら死に急ぎにきたのは予想外だ。

戦いに関する素養を幾らかは備えていると思っていたぞ、白狼。

負傷した兵士を私に向かわせ、そして一人ひとりと散らしていく、それがお前の職業軍人としての精神か?

あなたが今どこに立ってるのか……よく知っておきなさい。

ここはロンディニウムの城壁よ。

ロンディニウムは未だ健在なり、征服できたなんて思わないことね、サルカズ。

――目ん玉ひん剥いてその目に焼き付くがいいわ。

私たちはまだここに立っている、この堅牢なる城壁にね。