“空は青く澄み渡り、
風が優しく囀りゆく。
流れる河は淀みなく、
吾が心に希望を満たしゆく。
翳りは一夜にして散り、
大地が朝日を迎える。
嗚呼、リターニア、
自由なる者たちのふるさとよ。”
――『晴空の歌』(1078)

(地図によれば、そろそろロドスの事務所が見えてくるはずですね。)

(ヴィシェハイムに入ってからちょっとゴタついてしまったけど、急いだら予定時間内には事務所に着きそうかな。)
(男性が駆け寄ってくる)

そこのフロイライン、どうかお待ちを!

えっと……私ですか?

ええ、そこの貴女、麗しきフロイライン!お初お目にかかる、ここアーベントロート区へ来たのは初めてかな?

あっはい、アーベントロートで発生した感染者症状の好転現象を調査しにきたロドスのオペレーターでして――

であればしばしの間、今はそのご身分とお仕事のことを忘れて、私と一緒に一曲、セッションして頂けないだろうか?

セッション、ですか?

ああ、このフルート……実はこのフルートはアーツロッドなんです。それに私、一曲も吹けなくて……

構わないさ!貴女が音を奏でてくれれば、私がその音を曲に作り変えて差し上げよう!そしてこの良き一日の記念として、貴女にその曲を贈らせて頂きたい!

でも私、ほかの人と待ち合わせをしてまして、それに遅れてしまいそうなんです。

ご心配は無用さ。今日はこんなにも素晴らしい天気なのだ、きっとそんな些細なことを咎める人もいないだろう。

さあ、どうか!時間は取らないから!

そこまで言うのでしたら……適当に吹いちゃいますよ?

どうぞどうぞ!
(ハイビスカスがフルートを拙く吹く)

(よしよし、吹けたけどそんなに酷くはない、よね……?)

ド……ファ……ラ……ソ……ファ……ミ……

素晴らしい、なんて希望に満ちた音色だろうか!

エマ、私が演奏するから、この客人と一曲踊ってくれないか?

はい?踊る?
(女性が駆け寄ってくる)

さあさ!お嬢さん!一緒に踊りましょう!

いやでも、本当に時間がなくて……それにダンスもそんなに――

平気よ、誰だって上手く踊れない時なんてあるんだから、笑ったりしないわよ。

よし、じゃあ三拍子で……

一二三二二三、はい!
(大歓声)

ご、ごめんなさい、何回も足を踏んづけちゃって……

いいのよいいのよ!一緒に踊れて楽しかったわ!こちらこそ色々足止めしちゃってごめんなさいね!

また会おう!よい一日を!

ようこそ、アーベントロートへ!

ありがとうございます。

おはようございま~す、ハイビスカスさ~ん。

あなたは……事務所のアンダンテさん?

はい、アンダンテです!ようこそ、ヴィシェハイムのアーベントロート区へ!

ご足労をかけます、わざわざここまで迎えに来てくださって。

いえいえ、ただお迎えに来たわけじゃないんです!

えっ?

聞いた話によりますと、アーベントロートに来る前から、毎日夜遅くまで仕事して、いつも自分を無理してたらしいじゃないですか。本艦を出る直前まで論文を閲読していたとか。

なので、今日のあなたの仕事は休むことです!

いえそんな、まだ休みを頂く必要は……

ダメですよ!ずっとそんな張り詰めてちゃ、弦が切れちゃうって言うじゃないですか!

そうそう、それといいタイミングにお越しくださいましたよ、ハイビスカスさん。ちょうど一週間後にあのツェルニーさんの告別コンサートが開かれるんです、今日がその申し込みがありまして。

なにやらザールの前にある広場での演奏らしいですよ~。ちょっとでも遅れちゃったらすぐに終わっちゃうかもしれませんね!

でも仕事が……

滅多にない機会なんですから、仕事はまた明日にでも考えましょ!ほらほら、行きますよー!
(アンダンテがハイビスカスを連れて走り出す)

着きました!

……

ここがアーベントロートザールです、このコンサートホールからアーベントロートという名前が取られてるんですよ。

これは……建物なんですか?巨大な楽器にも見えますけど……

それについてはまた後でじっくり見ましょ、どうせザールは逃げたりしないんですから!今日はなんたってツェルニーさんが目玉ですからね!

ツェルニーさん……来る前に本で知りましたけど、アーベントロートでのお生まれのようですね?

そうそう、しかも唯一、リターニアで感染者音楽家の名を頂いてるのがツェルニーさんなんです!国内で小規模な巡回コンサートも開いてるようでして……

あっ、いました!ツェルニーさんです!
その音楽家はコンサートホール外の階段に立ち、傍らに人ひとりの高さほどある巨大な楽器を携えていた。
彼の立ち位置を中心に、半径おおよそ5mほどの無人の半円空間が広がっている。
その半円の外では、人でごった返していたのだ。

ひゃ~、こりゃアーベントロートの半分の住民がいてもおかしくない人数ですね。

半分!?

ツェルニーさんは昔からよくここで屋外演奏をされてたんですけど、半年ほど前にお身体を壊しちゃってそれっきり……だから今日はその復帰されて初めてお披露目される日でもあるんですよ、みんなすごい興奮してまして――

(小声)あっ、始まりますね、静かにしましょう。
ピアノの音が奏でられ、広場はすぐさま静まり返った。
その場にいるほぼ誰もが、談話を止める。
先ほどまで、絶えず大声で売り文句を叫んでいた露店でさえ声を抑えるほどであった。
曲はそう長くはない。
ツェルニーの演奏が止むと、割れんばかりの拍手が広場を轟かせた。
拍手が徐々に止み、ツェルニーが次の曲を弾こうとする時に、身綺麗な人が人混みを掻き分け、彼の前に立ち止まった。

御機嫌よう、ツェルニー殿、わたくしゲルトルート伯の代理人でございます。

ああ、君か。

ゲルトルート伯から警告を承っております。選抜会にしかり、コンサートにしかり、そういった行事はまず許可を頂かないと。

だからなんだと言うのだ?

ほかの場所なら許可を頂く必要があるかもしれんが、ここアーベントロートにおいて、誰であろうと私の演奏を止める権利はない。

今はお身体が本調子ではないはずですから、あまりこういったことは……

私の身体のことなら、私が一番よく知っている。君に言われる筋合いはない。もし身体が不調であったのならば、今日ここで屋外演奏などしていないさ。

私に指図するな、そう彼女に伝えてくれ。

……分かりました。
(軽はずみな貴族が立ち去る)

あの人は誰だったんです?みんな黙りこくっちゃいましたけど。

ゲルトルート・シュトレッロ伯の侍従ですね。

ゲルトルート・シュトレッロ……ヴィシェハイム領のシュトレッロ伯ですか?

そうです。

でもまあ、すぐツェルニーさんに追い返されたところを見ると、なんだかせいせいしますね。

……そうですね。

あとでコンサートホールにも入ってみましょうか、選抜会ももうすぐですし。
貴族の姿が人混みに消えたのを見て、ツェルニーは心機一転、咳払いをした。

ご静聴ありがとうございます。

本日の屋外演奏は、僭越ながら久しぶりに皆様に曲を奏でてあげたいと思ったのと、一週間後のコンサートのための予行演奏として設けさせて頂きました。

この後には選抜会を開く予定もございますので、どうぞ奮ってご参加頂き、皆様の音楽へ対する情熱と愛をぶつけてくださいませ、応援しております。

明日の選抜会におかれましては、私ツェルニーも選抜委員として出場致しますので、何卒ご参加頂ければ幸いです。

では引き続き、皆様のご期待に沿えて、もう何曲か弾かせて頂きます。皆様におかれましても、どうぞご遠慮なくご自分の得意な楽器を取り出して、お好きなように演奏してくださいませ。もちろん、私に合わせて頂いても大変結構です、歓迎致しますよ。

本日はお集り頂き、本当にありがとうございました!
ツェルニーが深くお辞儀をする。重苦しい沈黙は破られ、先ほどよりもさらに大きな割れんばかりの拍手が人混みから起こった。

やあ、あんたもここで商売かい?

今じゃここザール前が一番人でごった返しているからね、ほかにどこで商売をしろってんだい?

そうは言うが、あんたんとこのコーヒーを飲んでくれる人がいるとは思わないね。

それはどうかな――

すいません、ワザークラウトを一つ、大盛で!

あいよ!

……

待ちわびた群衆、床に臥すも身体に鞭を打って起き上がった音楽家、そしてメンツが丸潰れな貴族……

(小声)感動的だねぇ……

クライデ、どうしてもあの選抜会に出るつもりなのかね?

うん、どうしても行きたいんだ……

そうか、君がわがままを言うのも珍しい、好きにしなさい。

ありがとう、お爺ちゃん!

だが申し込みが済んだらすぐに帰ってくるんだよ、あちこちほっつき歩かないように。

なるべく真っすぐ帰るよ。

なるべくだって?

今回の選抜会では、出場者がその場で演奏して、実力を示す必要があるって言うから……

しかし君のチェロはもうとっくに壊れているじゃないか、もう弓しか残っておらん、どうするんだい?

大丈夫だよ、貸出もあるみたいだし。

フッ、用意周到なことだな。そういうことはまったくわしの耳には届いておらんが?

お爺ちゃん、もしかして……怒ってる?

まさか、少し心配なだけさね。

大丈夫だよ、申し込みが終わったらすぐ真っすぐ帰るから!

はいはい、分かったよ。

お茶淹れておいたから、竈の横に置いておくね。ちゃんとあとで熱いうちに飲むんだよ!
(クライデが扉を開けて出ていく)

もうじき選抜会が開催されます、そろそろ出発したほうがよろしいかと。

あの感染者だらけの音楽会に参加させるためだけに、わざわざ私をウルティカから呼び寄せたのか?にわかには信じがたいが。

あの程度の交流でありましたら、感染する危険性はございません。

それは分かっている。

そうではなくて、なぜあんな普通のコンサートにわざわざ私を招待したのかと聞いているんだ。

ずっと、自由な空気を吸いたがっていたのではなくて?

それはそうだが、しかし――

まあまあ、そう深く考えずに。庶民との戯れと思って、どうぞ気軽に楽しんでくださいませ。

(肩をすくめる)

お車はすでに手配しております。ここホッホガルテン区からアーベントロート区まではそれなりに距離がございますので、徒歩で向かわれるのはオススメできかねます。選抜会に影響が出れば元も子もありません。

ご厚意に感謝する。ではまた、シュトレ――

またお忘れになられてますよ、私は名前で呼ばれるほうが好きなんです、苗字のほうではなくて。

申し訳ない、ゲルトルート殿。

うわ~、すごい長い列ですね!

あ~、こっちは選抜会に参加する列ですね。私たちみたいな野次馬は参加しなくても大丈夫なんで、こっちに行きましょ!
(ハイビスカス達が立ち去る)

あの、すいません……

申し込みかい?最後尾ならあっち、並んでな。

――ながッ!?

朝からずっとこの調子だよ。

あのボク、家でお爺さんの面倒を見なくちゃならないんで、はやく申し込みたいんですけど……

ダメダメ。みんなあんたと同じさ、ここアーベントロートで身内の世話をする必要がない人なんざどこにいるってんだい?

で……でも……

ほら、さっさと並んできな。どんどん列が長くなってきちゃうわよ。
(若い貴族が近寄ってくる)

どうしても無理なのか?

さっきから言ってるでしょうが、無理なもんは無――

ハッ!?き、貴族様でございますか?こ、この選抜会へのお申し込みで?

貴族だと分かるのなら、こちらの方にも少し融通を利かせてもらえないか?

しかし規則がございまして……

貴族の真心が籠った頼み事を無下にするつもりか?

めめめ、滅相もございません!

ご理解に感謝するよ。
(若い貴族がクライデに近寄る)

行こう。

……

聞こえていないのか?通してもらったぞ。

あっ、はっ……はい!

でも――
(若い貴族が立ち去る)

あれ?さっきの人は?

次の方。

お名前を伺ってもよろしいですか?

クライデです。

ではクライデさん、お得意の楽器はなんですか?

チェロです。

チェロをお持ちのようには見えませんが……

あっ、その、チェロ自体は持ってきてなくて……

なるほど、でもご心配なく。貸し出しの楽器なら手配しておりますので、ご自分でお取りください。

はい、それでは始めても構いませんよ、制限時間は1分です。

……

まだなにか?

あの、コンサートへ参加した際の報酬はどういう……?

報酬?なんのことです?

え?

いやほら、入選すれば手厚い報酬が貰えると、コンサートのことを教えてくれた人から聞いたものでして。

家に重篤な祖父がいるんです、ですのでその報酬で病気の治療をしてあげたくて。

お気持ちは大変理解できますが、今回のコンサートでは報酬は出ませんよ?

ええッ!?報酬はない!?

はい、おそらくこの場にいらっしゃる方のほとんどが、ツェルニーさんの告別コンサートで共に演奏できることが何よりの報酬と思っているのではないかと。

そんな……

どうしますか?演奏されるかどうかはご自由にお決めください。ただ、せめて美しい旋律を残して頂いた後にお引き取り頂けたら幸いなのですが。

……

うぅ……そうします。
がくんと肩を落とし、一礼をするクライデ。
彼は静かに椅子に腰を落とし、両足にチェロを挟み込む。
弓を持ち、手で弦を押さえれば、先ほどまで落胆した表情は消え、ただただ集中する面持ちを見せた。
流れるような美しい旋律がチェロから聞こえてくる。いつしかホール全体がその音色に覆われていった。
そして数小節を経た後、クライデの演奏は佳境へ入るも、舞台の下から突如と予想だにしないフルートの音色が奏でられた。
クライデが奏でるチェロに合わせながら、黒い装束を身に纏った貴族がフルートを吹き、ゆっくりと舞台に上がっていく。
ギョッと驚くクライデだが、自分のリズムを崩さず見事に演奏しきった。その黒い貴族もチェロの演奏を終えた後、即興のアンサンブルの締めくくりとして、短い彩ある音色を添えるのであった。

……1分です。

いやぁ素晴らしい、今日聞いた中で一番美しい演奏でした。

お二人には感謝を申し上げなければいけませんね。
(拍手)

ところで、そちらもコンサートへの応募で?

そうだ。

本来なら一人で応募するつもりだったのだが、クライデ殿の演奏が実に素晴らしくて、聞き入ってしまったものでな。なにより先ほど面識ができた。

これほど素晴らしい奏者とのアンサンブルを逃したくないと思って舞台に上がらせて頂いた次第だ。

なるほど、そうでしたか。お名前をお伺いしてもよろしいですか?

……

エーベンホルツだ。

エーベンホルツ……ですか?

よろしいのですか?先ほどピアノをジッと見つめた時に思いついた偽名ではなく、本名のほうをお伺いしたのですが……

深入りは無粋というものだぞ。

何より、ピアノに限らずとも、フルートにもホルツはあるはずだが?

そうは仰いますが、あなた様の家系と封領は――

もう一度言う、エーベンホルツでいい。構わないな?

……承知致しました。

しかし、一緒に応募するとなれば、クライデさんにも聞いて頂いたほうがよろしいと思いますよ。まだ何も仰っておりませんからね。

クライデさん、如何致します?

その、コンサートに参加する目的は……祖父の医療費だったので……

もし私と組んで頂けたら、貴殿と貴殿の祖父のために経済的な援助を提供してあげよう。

――ホントに?

無条件というわけではありませんよ?よくよくお考えください。

去年もそうやって騙されて、不公平な契約を結ばされた音楽家がいたものですから……

さすがに看過できない非礼だぞ?

……

……やります!

ではそう致しましょう。

お二人がフルートとチェロで選抜に参加されるのでしたら、選択できる曲は『朝と夕暮れ』しかありませんね。

これはピアノ伴奏によるフルートとチェロのデュエットになります、ツェルニーさんの代表作の一つにもなるのですが、お二人共いかがですか?

ほう、私がフルートを学ぶきっかけになった曲だな。ツェルニー殿の舞台でその曲を演奏できるのなら、光栄の至れりだ。

ボクもそれでいいと思います!

あの貴族の方、どうしてクライデさんを助けたのでしょう?

多くの音楽家たちは貴族のパトロンを有しておりますからね、珍しくもありませんよ。

自分の実力じゃまちまちだから、上手い人を見つけると駆け寄って取り込んでは、自分に華を添えたげる、そういう貴族だっていますからね。

でもまあ、あのエーベンホルツって貴族に関しては、何を考えてるのかさっぱりです。本当にただ同情してただけなのかも。

ちょっと心配ですね……

そうだ、クライデさんのお爺様は重篤だと聞きましたし、なんなら私たちが受け入れて――

ハイビスカスさん、ここに来たのは感染者の症状が好転した現象を調査するためですよね?

うぅ。

それに私達の事務所じゃ受け入れは無理ですよ。狭いし、何より患者さんの入院条件諸々も揃ってないし。

検査と診療と、軽症の方への薬品投与、それと入院が必要な患者さんへのほか機構への手配だけで限界なんですから。

とは言っても、心配なものは心配です。

うーん……じゃあクライデさんに直接聞いてみます?ちょうど申し込みも終わったみたいですし。検査ぐらいできるかどうか聞いてみましょう。

はーい、検査結果が出ましたよー。体内細胞と源石との融合率は8%、血中源石密度も0.23u/L……まあ、悪くはないけど良くもないってことですね。

通常この数値が出たら、問答無用で患者さんにはちゃんとした治療と入院を検討させて頂くことにはなってるんですけど……

ちゃんとした治療と、入院ですか……

いくらわしに同情してタダで検査してくれても、そういうのはまた別で、お金は取るはずですよね?なんたってロドスは一般企業だと聞きますし……

ヴィシェハイムにはこちらと提携してる医療機構があるんで、患者さんにはそちらに移って頂いておりますねー。

ロドスと提携契約を結んでいるので、ほかの場所と比べたら結構お値打ちな価格なんじゃないかなーと思います。

お父さんのお金事情もありますから、こちらからももっと安くできないか話してみますね、もしくは一部費用を別のとこで負担できないかどうかを……

それなら結構です。

この子がわしのためにコンサートへ参加したのだと知っていたら、最初から行かせなきゃよかった。

クライデ、やはりこのお金をあの貴族に返してあげなさい。ロドスさん、検査ありがとうございました、ここで失礼させもらいます。

貴族がなんの理由もなく知らない人にタダで金を渡すわけがない、きっと君に何か企んでいるんだ。

でも、エーベンホルツは本当にただボクとセッションしたいだけで、そんな悪意は……

彼に悪意がなくともな、それでも――

はぁ……わしはこんな見てくれだ。金もなく辺りを彷徨ってるだけのジジイ、いいご身分もなければ、上層階級の知り合いすらないし、何より利用できる価値すらない。

ここにある病院が受け入れてくれても、きっと冷たくあしらわれるに違いない。そこで顔色を窺うなんてのはゴメンだね。

クライデ、あの貴族に悪意がないと思っているのなら、それを元金にして、安定した仕事にでも就きなさい、わしに使うのではなく……

ダメだよ、このお金はお爺ちゃんの治療代に使うってエーベンホルツと約束したんだから!

もう面倒を見てられないから、わしを病院に放り込むつもりだったのだろ?

なっ!?そんなことないよ!ボクはただ……

では提携した医療機関ではなく、ここで静養されるのは如何ですか?

ちょっ、ハイビスカスさん、気持ちは分かりますけど……ここにある薬品の備蓄は緊急時用ですし、何よりベッドなんか置いてませんよ。

ここで静養して頂ければ、より細かく随時お父さんの健康状態をチェックできると思いませんか?私たちの当初の調査任務の助けにもなると思いますし。

寝る場所でしたら私が使う予定だった来客用の部屋を使って頂いて、お薬に関しても、提携機構が出してる価格で提供しましょう。あとで私があちらに状況を説明致しますので。

これで構わないですか?

まあ……それでもいいですけど。

ありがとうございます。それじゃあ、あとはお父さんの承認だけですね、如何致しますか?この条件で受けて頂けないでしょうか?

……

すべての医療項目はインフォームドコンセントに従い、お父さんの治療を最優先に置くことをお約束致します。絶対健康に害するようなことは致しませんから。

ボクはそれでいいと思います!

近い内にエーベンホルツと練習しなきゃならないし、それであまり面倒が見れないと思うからさ。

それにさ、家にいるよりも断然いい条件じゃん!ここにいてくれれば、ボクも少しは安心できるよ……ね?だからお願い、お爺ちゃん!

……はぁ、分かったよ。

じゃあ明日の朝にまたここに来るとしよう、今日の夜に荷物を片付けなきゃならないからね、それでいいかい?















