物語の最後、狩人はとうとうバケモノを倒すことはありませんでした。
けれど村人たちはこぞってその場から離れていき、そこには轟々と炎の中に燃える廃墟しか残らなかったのです。
バケモノは目標を失い、ひどい怪我すら負うことになりました。そしてしばらく顔を歪ませた後、彼もまた森へも帰っていったのです。
去り際に、彼はこんな言葉を残していきました。
“いつか必ず、また戻ってくるぞ”と。
しかし森に面していた狩人は静かに立ち尽くした後、しばらくしてからようやくその言葉に応えました。

えー?狩人はバケモノを倒さなかったの?つまんなーい!

そうだよー、村で一番すごい狩人なんでしょ?なんでバケモノを倒せなかったの?

物語はこう書かれているんだから仕方がないよー。

でもこのまえ村を襲ってきたあのリオレウスも、たしか逃がしてやったんだよね?

ヘッ、それはあいつらが弱すぎたからだよ!これからおれが狩人になったからには、ちょちょいのちょいでリオレウスを追っ払ってやるぜ。

なに言ってんのさ?リオレウスみたいなバケモノは全然きみが相手してやれるようなものじゃないってば。ぼくはこの目であいつを見たことがあるから分かるよ!

ほら見て!これ、なんだと思う?

リオレウスを狩猟するときに使った狩猟矛じゃん!

ヤトウのおねえちゃんがしばらくぼくに預けるって言ってくれたんだ、つまりぼくにはこいつを持つ資格があるってこと。これからはぼくが村一番の狩人だ、きみの出る幕じゃないよ。

なんだとコノヤロー!もういっぺん言ってみろ!おら食らえ、気刃兜割り!

こらこら、騒がないのー。

ねえねえおねえちゃん、結局狩人は最後になんて返事をしたの?

それはねー……

あっ、そろそろご飯の時間だ。ほらほら子供たち、まずはご飯を食べに行きな。戻ってきたらまた狩人のお話をしてあげるからねー。

さあさあ、行った行った。
(子どもたちが立ち去る)

未来よ……あれからすでに半月は経ったというのに、時々私はつい昨日起った出来事なんじゃないかと思えてしまうよ。

記憶力が良くなった証拠だね。

明のことも……一度だって忘れたことはないさ。それより、柏生の爺さんは目が覚めたのかい?

まだ気絶中。でもお医者さんが言うには、傷はもうすでにだいたい治ったらしいよ。なかなかの生命力だってね。

やれやれ、最近は本当にぶっ倒れてしまうくらい多忙だよ。道路も家屋も作り直さなきゃならないしで……

幸い源石を採掘していたおかげで、私たちの備蓄はそこまで少なくはない。利藤のやつも、みなが怒っている中、隠し持っていた資産を素直に引き渡してくれたことだしな。

出だしはまあそこまで困ったことにはならんさ、問題は今後私たちを支える産業をどうするか……

なあ未来よ、お前が言っていたリョウカソウの地域栽培に関することなんだが、落ち着いた後は私たちにも少し手伝わせてくれないか?

その話ならでまかせだよ。

で、でまかせだって……?

そっ、叔父さんだって知ってるでしょ?リョウカソウはちょ~~~環境に拘りを持つ植物だって。現代の科学技術じゃ、違う地域で栽培することなんてほぼ不可能だよ。

けどお前、あの時は……

ああでもしなきゃ、叔父さんたち避難してくれないでしょ?危険が迫ってみんなパニックになって、おまけに利藤にまで弄ばれて、とりあえずみんなを避難させとかなきゃ話にならないでしょうよ。

この先……村の産業はかなり大きな悩みの種になるぞ。なんてこった、こりゃ困ったぞ。

まあまあ、慌てなさんな。実を言うと、一つだけ考えがあるんだ。

本当か?

ホントホント。

考えとはなんだ?話してみてくれ。

あたしたちがこれまで採掘場で培ってきた経験を応用すればいいんだよ。

たとえば村の働き盛りな人を集めて、外で成熟した源石工業のプロジェクトに関わらせるとかさ。そしたら安全で制御可能な技術と、産業に関する諸々を村に持ち帰ることができるじゃん?

未来、自分が何を言ってるのか分かっているのか?私たちはせっかく源石採掘場の束縛から逃れることができたのだ、それがなぜまた源石の傍に戻られねばならないのだい?

なにより……お前は以前まで採掘場を破壊しようとしていただろ?

それは叔父さんたちが掘り過ぎたのがいけないんだよ、理由は採掘場そのものにあるわけじゃない。叔父さんたちったら、全然こっちの警告を聞こうともしなかったんだから。

あたしたちって、もう長い間ずっと源石と接触して、色んな経験を積んできたでしょ?それなら、そういうのはきっとどこかで役に立ってくれるはずだよ。

源石は極めて危険な存在だ。天災も、鉱石病も……私たちはこの身でそういうものを体験してきた。そんな私たちに、もう一度その恐怖を覆いかぶすつもりか?

だとしても、この大地に生きる限りじゃ源石は欠かせない存在だよ、叔父さん。

ネオンに照らされた大都市、ああいった光っていうのは全部源石工業が生み出してくれたものなんだよ?

そんなものを捨てて、野生に戻ることなんてあたしたちにはできない。そんなの非現実的すぎるよ。

しかしだな……だとしても……

叔父さん。また一から始めることってのはね、何もこれまで積み重ねてきた努力がすべてなくなるという意味にはならないんだよ。

あたしたちの源石工業に対する理解なんて、ほんの氷山の一角じゃないか。前へ進んで、しっかりと成熟した産業体系を理解して、自分たちの経験を改善していく。

そうしてやっと、あたしたちはより安全に、あたしたちの手の及ぶ範囲内で源石の利益を享受することができるんだよ。

目先の成功と利益が災いをもたらしたからって、必ず源石を手放さなければならいことにはならない。

むしろその逆。もっと源石のことを、源石に伴う滅びのこともしっかりと尊重してやってこそ、源石がもたらしてくれるチャンスを手にすることができるんだ。

これまでの犠牲を台無しにすることなんて、あたしたちのするべきことじゃない。何よりさ、今はロドスの人たちがあたしたちを助けようとしてくれているじゃん、違う?

ああ……

お前の言う通りだ。確かに、しっかりと村の未来を考えておかなければならないな。

源石工業か……私たちの今の経験でそれを完璧に習得することができるかどうかはまだ分からん。だがお前が言ったように、生きるためならば、やってみる価値はあるのかもしれんな。

じゃあ村がこれからもっと良くなったらさ、あたしのために一番豪華でキレイな研究所を建ててくれない?

なんだい……何かやりたいことでもあるのかい?

そりゃリョウカソウの地域栽培の研究だよ。あと源石の依存から完璧に脱却できるような、そのほか各種様々な研究もね。

これもすべて、もう災いの影に怯える必要のない、堂々と光に満ち溢れた……

明日を生きるためでもあるんだからさ。

なあヤトウ、俺やっぱちょっと心配だぜ。任務を終えた帰還途中に寄り道をしたことがドクターにでも知られたら……

そういう君は言いふらすのか?

しねえさ、絶対!

着いたぞ。

うへぇ~、ここ……まーじで天災に何もかもが破壊されちまってるな。

山はまるっと燃やされちまってるし、雲にまで届いた灰は今もこうやって上から降ってきてるし……

ノイルホーン、あの日天災が発生してからどれくらいが経った?

半月ってとこだな。

もう半月も経ったのか?どうしても昨日起った出来事のように思えてしまうよ。

ところでアイルーたちなんだが、どうやらロドスで新たな部隊を編制したらしいな?

ああ、正式に“アイルー特別行動隊”として編制されたぜ。隊長はオトモアイルーなんだが、あの学者ネコが頑なに譲らなくてな。やれ部隊名は“テラ大陸調査団”のままにするわ、自分を団長扱いにするわで……

あいつらなら、今後は特殊生物の対処とテラの生態記録を担当してもらうことになった。ついでに……元いた場所へ帰る方法の模索もな。

最後の一文はオトモアイルーが付け加えた事項なんだが、学者ネコと職人ネコに関しちゃもうすっかりどうでもいいらしい。

……学者ネコが興奮してる様子が想像つくよ。

露華村の復興事業も開始してしばらくは経つし、今のところすべて順調だ。心配することはねえぜ。

ああ……ところで、どうして私がここへ来たのか、その理由は分かるか?

少なくとも懐かしむためじゃないことだけは分かるよ。

分かってるじゃないか。

リオレウス、ヤツのことはまだ憶えているな?

ああ、あいつな……観測報告によれば、リオレウスは今も青暮山地からは離れていないらしい。たまに灰の雨の中を飛び回ってるところが見られるってよ。

ここでそいつを見つけるのはひと苦労だが、探してみるとし……

ヤツなら空にいるよ。ほら、あそこだ。

え、どこだ?あぁ、見えた見えた。

私がここへ来た理由はな……

(腕を出して灰を掌で受け取る)

ヤツが落ちていくところを見届けるためさ。
灰が空に漂う中、リオレウスは空へ向かって飛び去っていく。
遠く遠く、さらに遠くへ。まるで結ばれた紐に引っ張られていくかのように。
しかしそんな紐も、とある高度に達した時点で断ち切られてしまう。
ぱっと断ち切られ、大地へ落ちていく。

……
男が静かに右のほうへ視線を向ければ、傍にいる彼女はちょうど空のほうを眺めていた。
ゆっくりと視線を下へ下げていき、ついには彼女の垂れ下がった指先に留まる。

(手を伸ばす)

ん?どうしたんだ?

あっ、いや、その……肩に灰が積もってるぜ……

そうか。

あんた……いま笑ったのか?

なんでもない、行こう。
“俺もここで待ち構えよう。”
最後に狩人はこう返事をしました。
そして物語の終わりには長い長い年月が経ち、村には新しい家々が立ち並び、森もすっかりと様変わりしていました。
若い狩人はかつての年老いた狩人が立っていた場所に立ち、新しく生まれてきたバケモノが目の前にやってきたのです。
やがて両者は再び視線を交わしていくのでした。