(暴徒が感染者を殴る)

がはッ……ひっ……

もうやめてくれ……本当に……なにもないんだ……

とぼけんじゃねえ!こっちはハッキリと見たんだからな、テメェがコンロを使ってるところをよォ!どこで食いモンを手に入れた!?

なんでテメェが毎日食いモンが手に入ってんだよ!?

それは……たまたま拾っただけで……

拾っただァ!?
(暴徒が感染者を殴る)

おい、あんまりやり過ぎるな。もしそいつが急性発作を起こしたら、俺たちまでおしまいだぞ。

どこに食料を保存してる?言えッ!

ほ、本当に……拾っただけなんだ……!いつも誰かが窓際に食料を置いてくるだけで……

まだとぼけるつもりかァ!この――

そこまでそいつの言ってることが信じられないのか?

感染者だってたまには運が巡ってきて食うものを拾う時だってある。それがそんなにおかしいか?

なんなんだテメェは?テメェも物を奪いに来たのか?

俺はレイドっていうんだ。

昔ウルサスにいた頃だと、“赤い刀のレイド”って呼ばれていてな。
(Miseryが複数のサルカズの戦士を倒す)

急げ、はぐれるなよ。

もう少しの辛抱よ!すぐに着くから!

くそォ……どんどん数が増えてってるぞ!

……なあ白狼、あんたとあんたの家の話は聞いている。

そんなあんたと、今日こうして一緒に戦えたことを嬉しく思うよ。

これはすべて……俺たちのロンディニウムのために……俺たちのヴィクトリアのためにィッ!

なにを――
(自救軍の戦士がサルカズの戦士を巻き添えにして自爆する)

……

足を止めるな!走れ!

サルカズの裏切者とヴィクトリアのクソ虫が、いい加減この追いかけっこを終わりにしてくれねえか?

お前らに逃げ場なんかあると思ってんのか?誰だって死からは逃れられないんだぜ?

お前らやコソコソと隠れてやがるお前らの仲間たちも、いつかは俺たちにぶっ殺されるんだ……それがお前らがこれまでしでかしてきたツケってもんだ!

このロンディニウムも、ヴィクトリアも……この大地にいる全員が!俺たちを虐げてきたツケが残ってるんだよ!

逃げたきゃ逃げればいいさ!だがな、嵐からは……戦争からは絶対に逃れられねえぞ!

黙れ!

(チッ、数が多すぎる!なんとかここを突破しないと……!)

(榴弾は……残り一発……)

……ロッベン、この榴弾を渡しておくわ。このまま進んで、動力区域の床に穴を開けてちょうだい。

Miseryさん、彼らのことをお願いします。このまま先に行ってください。

お前、なにを――

……いや、分かった。必ず守る。

さて、ここからは運任せね。

ホルンさん、一体なにを――

何も言わないで。こっちはもうあなたにゲンコツを食らせてあげる暇はないの。

ほら、はやく行きなさい!
そう言ってホルンは彼らに背中を見せ、波のように押し寄せてくる敵のほうへ身体を向けた。
そして彼女はかすかに口角を上げ、ようやくすべてが終わることを察した。
この逃亡劇も。この戦いも。眠れぬ夜も。
軍人とはもとより、戦の中で死んでいくものなのだ。

バグパイプ……今頃どうしてるのかしら……
武器を握りしめ、突撃の態勢へ移る。
だが暗雲立ち込める空の下、どこからか奇特な音が伝わってきて、それは次第に近づいてくる。
(蒸気音)
それはとても馴染み深い音だった。長らくヴィクトリアの市内で聞けなかった音だった。
遠い人々の記憶と曖昧な噂の中でしか存在しなくなったその音の正体とは……
(熱線と爆発音)

あれは――

ッ!

ホルン、今のうちだ!一緒に来い!
(Misery達が走り去る)

――

こいつは……

(重苦しい噴射音)

ヴィクトリアの為に。

クソッ、びくともしない!

門が分厚すぎる、まったく向こう側にこっちの声が伝わってないよ!

もしかしてクロヴィシアとキャサリンは、サルカズと取引をするために連れていかれたんじゃ……?

あんの裏切者……!

シャイニングさん、ここをこじ開けられそうか?

もう時間がないんだ。奥にいるサルカズたちにも、このままじゃ追いつかれる。

やってみましょう。

いやいや、ダメだよ!そんなでかい騒ぎを起こしちゃ!それだと余計に敵を惹きつけちゃうだけだってば!

今ここにいるのは全員重傷者か非戦闘員なんだよ?もし王庭の連中とやり始めたら、アタシたちは逃げられるかもしれないけど、この人たちはどうするのさ?

でもここで待っていても死ぬだけだ!なんであいつらがこんなことをしたかは分からねえが、それでもただ俺たちをここに閉じ込めるつもりじゃないはずだぜ!

この門、かなり分厚いけど……ドローンに小型のレーザーカット機能が備わってるから、少しだけ時間をちょうだい!

時間って……どのくらいかかるんだ?

焦らないで、まずは出力を調整しなきゃならないんだから!

フェイスト、ビルのことは憶えてるよね?

多分だけど……ビルに扮したあのバケモノがまたあたしたちの中に紛れ込んで、あたしたちを騙してるかもしれない!

油断したよ、もっとはやく気付けばよかった!

あの姿形を変えることができるサルカズ……もしかして、今あたしたちの中にも紛れ込んでいるんじゃないの?

そんなんじゃあたしたち……一体誰を信用すれば……

……

でも……もし違っていたら?

違うって……あの人たちはあたしたちの戦友!同じロンディニウムで働いてきた仲間たちなんだよ!?

それは分かってる、ずっと一緒に過ごしてきた仲間たちだ。

でも、でももしもってこともある……

もしそれがあいつらの……トミーとパット、ダンやほかの人たちが決めたことだったら?

そんなこと……どうして……?あたしたちは仲間なんでしょ!?

裏切りが受け入れられないなのは分かってる。仲間のため身代わりになってやるほうがよっぽどマシだ。

でも、結局のところは裏切りが起っちまった。

想像つくんだ。仮に今まで自分たちを突き動かしてきた怒りが収まったら、あいつらはきっと戦い続けることはできなくなるんじゃないかって。

クロヴィシアだって言ってただろ。結局俺たちはただの一般人なんだ。

だから俺にはあいつらの気持ちが分かるよ……俺だって、怖い。

俺たち一般人が戦争に直面して最初に意識することは……どうやって逃げるか、どこに隠れるかってことなんだからさ。

じゃあ君も行けばいいじゃん!君の仲間たちと一緒に!

いいや、そんなことはしねえよ。

怖がっていることを認めてやってこそ……勇気を知れるんだから

だから俺は信じたいんだ、あいつらはまだ恐怖に包み込まれているだけなんだって。

ただつっても、いま大事なのはそういうことじゃない。

婆ちゃんとクロヴィシアなら俺が必ず助けてやるよ、前と同じようにな。

とはいえ、今はここにいる負傷者を避難させなきゃならねえ。

今ちゃーんとレーザーで門をカットしてやってるからね!大体……えっと、20分くらいかかるかな?

あたしも手伝うよ!工具持ってるから!

いいよいいよ、君のハンマーとスパナ―じゃ役に立たないって。

いいから君たちはそこで待っていて。あともう少ししたら、静かにここから脱出……
(爆発音)

な、なになに!?サルカズが攻撃してきたの?でもそんなの、一切検知してないけど!?

シャイニングさん、頼む!

あらシャイニング、久しぶりじゃないの。この前家族と団欒したんだってねぇ?

……来てくれましたか、Wさん。

ちょっとW!派手にやり過ぎ!もうロンディニウム中にここでの騒ぎが聞こえちゃってるよ!

盛大にお迎えに上がったって言ってちょうだいな。あたしがいつもピンポイントに炸薬の量を調整してやってることは知ってるでしょうに。

それより聞いたわよ、ケルシーがこっぴどくやられたみたいじゃない?だからこっちはわざわざ忙しい中、時間を割いて会いにきてやったのよ。

うっわ……ホントにヒドいやられ様ね。テレシスも容赦しないんだから。

あの男、てっきり自分の“古い馴染”にはもう少し手加減してくれると思ってたのに。

先生はまだ昏睡状態なんです。

あら、それはご愁傷様。少しくらい涙を絞り出してあげたほうがいい?

それとも、今のうちに金輪際あたしに歯向かえないようにしてやったほうがいいかしら?

(弱々しい鳴き声)

うっわ~、こいつに限ってはまだ生きてたのぉ?
(WがMon3trに近寄る)

(威嚇する呻き声)

ったく、相変わらずおっかないわね。

Mon3trもつい二時間前に機能を回復したばかりなんです、なんせ彼もひどい損傷を受けましたから。とはいえ、今はあまり彼を怒らせないほうがいいですよ。

こっちはあんたのご主人様の命を救ってやるつもりなのよ?少しはあたしにも優しくしてもらいたいものだわ。

さもなきゃご主人様がどうなっちゃうものやら……ふふっ……

……

(妥協する呻き声)

そうこなくっちゃね。

王庭の連中が向かってきたよ!はやく逃げよう!あいつらに追いつかれる前に……

ぴーちくぱーちく騒ぐんじゃないわよ、るっさいわねぇ。

誰のせいだと思ってるのさ!

まあなんだっていいけど、みんなさっさと動いてちょうだい。

あたしロンディニウムの外で何か所かいいところを知ってるの、今から物件探しにいかがかしら?

私たちの物資だけど、もし状況が一番よかった場合ならまだ一週間は持つってところかな。

じゃあ、最悪の場合は?

……

そっか。

カドールと一緒にまたなんとか考えておくよ。

それより外……今どうなってるの?

人口一万人にも満たない街にその倍の人たちが押し込まれて、人数分の食糧もなければ、警察も法律もない状況だけど?

ここまで生きてこれたのも、市民たちの僅かに残された道徳心のおかげだね。感謝しなくちゃ。

ゲンコツを振りかざしてくれるカドールのおかげだと思うけど……

ふふっ、否定はしないかな。

あと、大公爵たちの動向に関する情報は聞いてない?噂じゃ……ウィンダミア公の軍隊が近くに止まってるみたいだから。

彼らは……こんな状況にいる私たちを放っておいたりはしないよね?

これはあくまで噂に過ぎないんだけど……この前、火の光が夜空を横切るところを見かけた人がいたらしいよ?

あのサルカズの空を飛んでるデカブツなら、私たちも見たことあるよね……?ここがロンディニウムから切り離された時、そいつが区画を横切っていったじゃん?

だからきっと、大公爵たちは空を飛んでるあれを恐れているんじゃないのかな。今は探りを入れるために、ちょっかいをかけてるだけなんだと思う。

でもまあ、もしかしたら区画の外では派手に戦闘が行われてて、ロンディニウムもメチャクチャにされてるかもしれないけどね。

大公爵たち……ここにはまだ生存者がいるってことを知らないのかな?

あの人も……みんなも……もう私たちはとっくに死んでいるって思われてそう……

もしなんとかまだ生きてることを知らせることができればいいんだけど……

知らせるって……街の通信ネットワークはとっくに麻痺してるんだよ?

そんなことよりも明日の食糧のことを心配したほうがいいって。

……ついこの間まで、私たちはビデオホールでランクウッドの三流映画を見ていたっていうのにね。想像できないよ……

あの映画、タイトルなんだったっけ?『ミュータントマスク』?

三流も三流だったけどさ、エンディングは悪くなかったよ?結構感動しちゃったし。

あたし途中まで寝てたから分かんないや。最後の爆発で移動都市が空まで吹っ飛ばしたところしか見てない。

それにしてもそこのマクラーレンさん、すごく羽振りがよかったよね。まああたしたちが何度も厄介払いをしてあげたから当然なのかもしれないけど。

マクラーレンさん、元気にしてるといいな……彼、精神障害を患ってるからさ、外のあんな状況のせいで身体を悪くしていないといいんだけど。

それなら平気だよ。私ビデオホールまで見に行ったけど、入口がガッシリと封鎖されていたから。

でも君、なんでいつもビデオホールで寝ていたわけ?私たちが初めて出会ったのも……

あの時はあんたの笑い声で起こされちゃったけどね。

ごめん、あの映画面白かったから。

っていうか、ビデオホールなんかで寝てるほうが悪いと思うんだけど。

あそこは寝心地がいいんだよ。

あの時見ていたコメディ映画の監督、実はすっごく有名な監督でさ。私、彼女の作品全部揃えて――
お腹を空かせた音が場違いにも鳴ってしまい、せっかくのほぐれた雰囲気を台無しにしてしまった。

……ごめん。

食べなさすぎなんだよ、ダフネは。それじゃいつかぶっ倒れちゃうよ。

大丈夫だよ、みんな我慢しなきゃならないんだから。

……私たちの暮らし、一瞬でこんな有り様になっちゃったね。

周りにはイカレた連中と死体しかないし、いつの間にか壁まで出来ちゃったし……一応壁を越えようとした人たちはいたけど、みんな首だけになって壁にぶら下がるようになっちゃった。

どうしてこんなことに……

戦争が起っちゃったからだよ、ベアード。

分かってる、それは分かってるよ!でも、ただ“戦争が起こった”からって、こんなこと……

何もかもが一瞬で消えてなくなるなんて……

戦争戦争って……一体誰のための戦争なの?

それは……公爵たちがヴィクトリアを守るための……

そうかもね。でも、きっとあたしたちのための戦争ではないはずだよ。
ふと暗闇の中から、缶詰同士がぶつかる音ともぞもぞと動くような音がした。

……何やってるの?

な、なにって……

今日の見張りはあんたの番じゃないはずだけど?

コートの中、なにか隠してるでしょ?

こ、こっちに来るなァ……!