自分で言っただろう、誰だろうと関係無いんだと。
結局俺はこの戦争から逃げたいと思っている、バベルから、Wと殿下からも…
逃げたんだ
…矛盾しているな。
後悔?そうかもしれないな。
だか、その場にいても何も出来なかっただろうさ。
カズデル最北郊外、戦区端、傭兵キャンプ
5:58 AM 天気/小雨
この情報は…
…。
…。
何か言ってくれ。お前のほうが話が出来るし話すのも上手いだろう。
…何を言えばいいんだ。
質問を質問で投げ返してくるのか…?
…こんなにも長い間、戦局が対峙していたのに一夜で傾くものなのか?
…この半年で何があったんだ?早すぎる…。
何処で問題があったのか分かっている。
しかし、それが何処にあるのか。誰も知らないだろうな
いや、知るのが怖いというべきか
殿下…殿下の周りの奴らも、こんなに結末になるのは惜しいと、全員が思っているだろうな。
しかし今では…私達はどうなる?こんなことあるか?
早すぎるんだ。この戦争が終わるには早すぎる。
先月まではバベルとの戦略契約を履行していたが、連絡が突然途絶えてしまった…。
誰もがどちら側に付いているのかなんて分かりきっているし、俺たちはここを出発する準備すら出来ていない。
…もし本当にこのまま止まり続けるのであれば俺たちにはもう逃げ場は無い。
通信でもう一度各地の密告者に連絡をしよう。聞ける情報は全部調べてもらう。
俺たちはまた…戦場のど真ん中に戻らないといけないのかもしれない。
まあ、私もそんな日が来るのではないかと予想はしていたが。
みんな分かっていたことだ、だろう?
本当にそれを手放したくないのであれば、その時に奴らの要求を承諾する必要は無いからな。
自分たちでここから逃げ出して、ガラト湖を超えて、他の所で自分の才能を発揮出来れば――。
イネス、俺は――
もういい。
私達は結局そこから中々抜け出すことは出来ないんだ。この暖かさはいとも簡単に混乱を招く、私達はそれに浸ってしまった。
俺たちは徹底的にバベルから離れる必要があるのかもしれない。同胞達を連れて。
またお前は感傷的になっているのか。
いつ頃からだろうか、俺たち側に有利な判断が一つも下せていないんだ。
もう戦場ではいるべきでは無いのかもしれないな…。
もういい、お前がサルカズだろう、それとも私がサルカズか?
この地には手が血に染まったサルカズを抱えることが出来て雨宿りのすることが出来る場所なんて他にあると思うか?
いつも自分を責めようとするな、責任は私達で共有するものだろう。
それに、今のところはWを受け入れたのは良い決断だったといえる。
彼女は私達のために多くの金を稼いでくれたし、多くの人も殺してくれた。
…そうだったな。
Wは…彼女はまだ生きているのだろうか。
そう簡単には死なないだろう。
彼女は殿下の元にいた時間も短くはない。もしかしたらもっと多くのことを知っているのかも知れないな。
今のカズデルの方向性を早く把握しなければ。とにかく彼女を見つければ少しは楽になるかもしれない。
私達は本当に彼女に頼るのか?
…。
そうか。
…本当に残念だ。
――探したわよ、へえ、あなたって本当に走ること出来たんだ。
失望しているようだな。お前が最近何をしていたかは分かっているぞ、W
あなただって分かってるでしょ、あなたが最後よ。
そうだ、お前は全部見たはずだ。この戦いで多くの人が死んだということを。
お前はこの数字を何も思わずにただ増やしている。
俺の立場から言えば、まだ死んでいない奴がすることのほうが、お前のやることよりもよっぽど有意義だとは思うがな。
黙れ。
もう一度忠告してやろうか?
テレジアはもう死んだ。カズデルの全ては、テラの大陸全てはカズデルの新王の存在を今に知ることになる。
一度斬首作戦があったにも関わらず、お前たち中心メンバーはまだまだいるようだな。
例えばだが、あの指揮官は二度と現れることは無いだろうな。あいつらは正しい選択をした。
殿下は全員を殺してはいない。一刻も早くこのゴタゴタを終わらせたいからだ。カズデルは次の道を殿下によって開拓する必要がある。
――それでお前は?それが正しいか間違っているかの話でもしに来たのか?
お前はそんなこと聞きもしないだろうが心の中では思っているだろう。だからその時の視界に映る顔を一つ一つ消していっているんだ。
所詮お前は故人の感情をぶちまけているだけだ。小さな傭兵が自分の取るに足らない復讐に浸るためにな。
お前は誰にも勝てない。
どうだろうと私はあなたに勝てるわよ、それで落ち着くの。
俺を殺しても何の意味も無いぞ。
あなたってお喋りなのね。私の心を推測でもしているのか、それとも死ぬ前に自分の考えをぶちまけているの?
全部だ、否定する必要もない。
あのケ――仲間から吹き出した血で窒息しそうになってから俺は武器が握れなくなった。
俺たちの流した血はバベルのホールを満たし、お前の目にも映った光景は俺の目ではよりリアルなものだった。
お前に見つかった以上は俺は死ぬ。
俺だって分かっている
そんなにも多く話さないでくれる。あなたを殺すっていうのは…ただそうしたいだけ。言うなれば失業したストレスを発散したいだけなのよ。
はっ…俺は本当にお前を過小評価していたみたいだな。狂った奴め。
怒りも無いのに本当にそんな簡単に引き金を引けるか?それとも自分の感情が分からないほどにおかしくなったのか?
お前は一人だ…これから何人の同胞を殺していくつもりだ?
お前は…この行動はテレジア殿下のためになると考えているのではないのか?口封じのためなら、まだ…。
しゃべるな。死にたいと思っているのはあなたのほうなんじゃないの?
もしあなたがあなたの親愛なる摂政王のもとに逃げ帰ったら私はまた本気でカズデルを殺すことが出来る。お前達全員を見つけることが出来ないとでも?
お前にそんなことはない。お前たちにそんなことはあり得ないわ。彼女を殺したお前たちは二度とカズデルに戻ることは無い。お前たちが過去の姿に戻ることもね。
本物の化物以外に彼女のあの表情を見て平気でいられる人はいないもの。
だから、あなた達をずっと一人で待っていたの。あなた達の処刑人として。あなたを解放しに来ただけなのよ。
代金を貰うことは遠慮させて頂くわ。
…。
ちっ…独りよがりの狂人め。
お前の言っていることに間違いはない。
俺たちは..俺たちは自分の手で彼女の血に染まった。彼女は最後には…
俺は…。
お前たちはあの人のことを「殿下」なんて呼んではいけないの。殿下はテレジアだけ。それならばもっと話してもいいわよ。
簒奪者は自分に冠を載せることを急がないほうが良いわよ。どうせ首が抜けて王冠が無駄になるもの。待っててテレジア…。
ちっ…。
テレジア…。
投降拒否者は直ちに他の傭兵によって狩られることになる。次はおまえが獲物だ。
――あなたたちは。
あなた達はとっくにカズデルの境内から離れたと思っていたのに…久しぶりね。
それよりも、手が震えているみたいだけど。
少し慣れなくてな。
お前がこの近くで一人で活動しているという情報があってな――
…この長い戦争によりも俺達は長く会わなかったという訳ではないがお前の船長速度は本当に驚くべきものだな。
ここはタバの町から200km近くも離れている。フラフラな体を引きずってどこに行くつもりだ?
いや、それよりもお前はあの後ずっと一人で行動を数ヶ月間続けていたのか――?
大変ということは無かったけど、一人でたくさんのことをするのは不便だったわ。
お前が自分で雑っぽく対処した怪我の状態だが、今にも悪化する危険性のあるものだと思うんだが?
死ななきゃどうってことは無いわよ。私はそんなに簡単に倒れはしないわ。
あの塔だけど…少し見覚えがあるわ。ここはどこなの?
ここか?西部戦区の端、座標は――。
――ああ、ここは「W」の死に場所だ。
お前が俺たちに加入したところだな。。
…ここはもう完全に廃墟になった。
どうした?故郷でもふらついてたか?
私がそんな情緒ある人だと思う?最後の目標がここに逃げてきただけよ。
あなた達が私に何をしに来たのか分かっているわ。前と同じようにこのまま仕事を始めましょう。
…摂政王はカズデルの武力全てを統一した。。
残存する傭兵も団結、本物の軍隊が作られ、この大地に至る所に派遣されている。
本当に急いでいるのね。
理解出来るだろう。
ヴィクトリアとラテラーノの権力者達の頭がバターたっぷりのゴミみたいな脳みそでも無い限り、誰もがカズデル統一後の息をつく瞬間を黙って見ているわけがない。
それならば私達は何人かの手を取って、また内乱を起こすのも良いかもしれないわ。
お前が復讐がしたいと考えていたとしてもそれはいい考えではない。
忘れないで、今私達に着いてきている人たちの中にはテレジアと一緒に戦ってきた人たちがかなりいるということ。
サルカズの傭兵は明確な立場を持っている訳じゃない。ほとんどの奴らはもう思考が麻痺していて、方向性を必要としているだけだ
だから全員サルカズの摂政王の命令に従う。あいつはもう勝ったんだ。
――イネス。あなたが角を削ってサルカズの形にした時って痛かったの?血が出たりはするの?
…そんなことはない。
だったら、その顔には生身の人間が釘付けられていないわ。浅はかなまま、サルカズのフリをしていたら死ぬことになる。
舌打ちしたいほどのものを捻じ曲げた好意ありがとう。
この時だけはあなたが「サルカズ」を名乗ることを聞きたくは無いのよ。
私はこのまま行くと決めたんだ、だからこのまま行くしか無い。
W、テレジア殿下がいなくなってから、カズデルは変わってしまったんだ。天地がひっくり返るほどにな。
多くのサルカズには選択肢がない。ましてや多くの人にとってこの選択は誘惑に満ち満ちている。
…だから、完全に逃げ切ることが出来なかったあなた達はこの犯罪者の提案を受け入れたというの?
受け入れなければ俺たちは冷たい死体となっていた。
あなた達を説得は出来ないようね。諦めるわ。
私はヘドリーのように意地悪では無いの。昔の知り合いでもあるし…直接やりあいましょう。
…焦る必要はない。お前もこれからのことに興味を持ってくれるかもしれんしな。
…俺たちはカズデルには戻らない。ウルサスに行くんだ。
――予想外の答えね。早く言ってちょうだいよ、もう少しでやるところだったわ。
それはちょっとおもしろいわね。話してみてよ、ヘドリー隊長。
カズデル以外での大地では…感染者が台頭をし始めている。
傭兵に手厚い価格を提示するのと同時に、摂政王は感染者の一部を操り計画に役立てたいと考えているようだ。
…感染者勢力?
だが彼らの核となる力は、現時点ではまだウルサスのツンドラで眠ったままだ。
摂政王の見ている場所はとっくにこの潰れたカズデルから離れている。王位もがら空きだ。彼はとっくに違う所にいるんだ。
各種族は抑圧され、差別された者が集まるレユニオンは次に必要とされる場所のすぐ近くに置かれている。
だからそのレユニオンに参加をして、カズデルから遠く離れる。そうすれば疑いを起こす人なんていないだろうってことね。
それで?
…一歩踏み出してみないか、W。
お前が何を思っているのかは分かっているし、俺は多分お前が何がしたいのかも分かっている。
…。
確かにそのほうが実現性は高いかもしれないわね。
まあ、結局のところ私が探しているあの人っていうのは本物の化物なんだろうけど
それにあの老女も消えてしまったわ…確かにカズデルにいるのは良くないわね…
…今回はあなた達二人が決めたことという訳では無い、私にはやりたいことがあるし、自分でも決めていく。それでいい?
摂政王の会派はこの傭兵部隊を統合するために人を派遣するだろう。そのことは俺たちのチーム内だけで言うのであれば…良いだろう。
俺たちが手伝おう。
大丈夫よ。上司の対応は上手なほうだから。
それは良いな。
帰隊を歓迎する、W。カズデルから遠く離れよう。
Wは大きく変わった、彼女は彼女なりの考えたを持っているはずだ。
イネスは俺に押されてこの道に入りはしたが、思ったよりも強いようだ。
…俺はってか?
時折険しい地勢から、煙が立ち込めているカズデルを眺めているな。
カズデルか。
俺こそがカズデルから一番逃げたいと思っているのかもしれないな。