前任の白金の高位は殺害目標に惚れてしまい、その意中の人を守るためにほかの無冑盟メンバーの手によって殺されてしまいました。
その結果、今のあのお嬢さんがすぐさまその位置に充てられました、「最年少の白金」として。
……彼女の射撃の腕前は確かに天才のそれです、実力を見てもあの地位に相応しいのですが……ほかの腕前を言えばほかの高位たちには遠く及びません。
さ、左様ですか……しかしなぜそのようなことを私に?無冑盟の存在は機密のはず……もしかして……
まあまあ、そう言わずに、ただ最近このことについて思い返す頻度が高くてですね。もし今日の立場に及ぶような努力をしてこなければ、これについて考える権利など私にはありません。
ご存じですか?最後に現任の白金を白金たるべくして推薦したのは、亡くなった前任の白金本人なのですよ。
まったく意味深長なものを残してくれました……なぜ無冑盟が一人の裏切者の言うことを聞いたのかはさておき、あのお嬢さんを推薦したところで彼の死は免れることは出来なかった、なのになぜ彼はそうしたのでしょうかね?
彼が同僚にその胸を矢で貫かれる前に、何かを訴えたかったのでしょうか?誰に?何を?彼は何をしたかったのでしょうか?一言で片づけられるような問題なのでしょうかね?
……
あなたは確かスヴォーマ社の従業員、でしたよね?
は、はい……大会期間中は、ほかの大企業や騎士団の接待を担当しております……
パシリですか、ご苦労様です。
とんでもございません、企業のために貢献することは、私としても当然のことです――
いえいえいえ、あなたの仕事はあなたのお給料相応のものです、そう卑下しないでください。
あなたは昔起業されたご経験がありますよね、なぜ続けなかったのですか?
それは……私の能力不足のせいで……
成功か失敗かを決めるのはなにも能力だけではありません。おそらく道を間違えたのでしょう、でなければ今頃私と同じ席に座れていたかもしれませんよ。
こ、こんな私でもですか……
カジミエーシュでは、誰にだって可能性があるのですよ。
……
ゾフィアか……久しぶりだな。
マーチンおじさん……
……マリアは来てた?
ちょっと予想外のことが起こってな、彼女なら先に帰らせたよ。
そう――
――これは血の匂い、ちょっと待って、この包帯はどういうこと?
マリアが怪我したの?相手は誰?何が起こったの!?
だからあれだけもう試合には参加しないでって言ったのに、あの子ったらどうして――
落ち着け、怪我を負ったのは別の子だ。
……どういうこと?
グレートグレイナイトとフレイムテイルナイトが何者かに襲撃されたんだ……グレートグレイが傷を負って、偶然ここに辿りついて今は隠れている。
今朝、これ以上ニアールに迷惑をかけたくないと言って二人とも出て行ったよ。
……そんな偶然なことってある?
彼女らの境遇は危険だ、だが俺たちではどうしようもできない。
今朝のニュースを見なかったのか?
……
マリアは今なにしてるの?
試合だ。
何の試合?相手は?
イングラの時と同じワンオンワン、シングルマッチだ。
相手は「レフトハンド」のタイタス・ポプラー。
ちょっと待って――誰ですって?
ブレードヘルメット騎士団主将、貴族騎士にして、高級商業騎士、かつてトップ16まで上り詰めた競技騎士の、タイタス・ポプラーだ。
そんな……でもマリアのポイントラインでは彼と対戦するなんてありえないわ、しかも彼の地位は……
マリアを訪れたヤツが伝えたんだ、ロクなヤツじゃなかったよ。
今のあの子はかつてのマーガレットそっくりだ、止まること知らずで、企業家たちとの付き合い方もわかっていないんだ。
あの子が……マーガレットそっくりですって?
マーガレットは自分のやってることはちゃんと理解していたわ、彼女は独りよがりの思い込みで自分の理想を決めつけてああなっただけよ。
でもマリアは自分が何と対峙してるのかが分かっていないのよ、何をするべきかすらも。このまま上に上り続けたら、あまりにも危険すぎるわ!
少なくともマリアならもっと気楽な生活を送れた……私やあなたみたいな競技騎士にならなくても、そうでしょ?
あんたの言う通りかもしれん、だがあの子に覚悟があるかないかについては、あんたが勝手に判断していいもんじゃないよ。
あの子はまだ若い、不安に思ってるところも多い、あの子のおちゃらけた態度はあんたを安心させたいと思って振舞ってるだけなのかもしれんぞ。
……
確かにマリアはまだ青臭いところを見せる、だが闘志を持たないヤツがプラスチックナイトに打ち勝ったり、ラスティーコッパーと引き分けになったり、バトルロワイヤル戦で第三位を獲れると思うか?
一回負けて、目を覚まさせるべきよ。
あんたが本気ならそうするといい。
……
……試合はどこの競技場?
レディース&――ジェントルメーン!ポーミェンヌーシュ競技場へ、本日のスペシャル試合へようこそ――!
選抜開始以来最高のメディア注目度を集めている本試合に、今この時も、ローズメディアグループから十二ものメディアがこの競技場においでなすった!
それだけじゃないぜ――ああ、オレたちの可哀そうなポーミェンヌーシュ競技場よ、カジミエーシュの三番目に巨大な競技場よ!
今日!この競技場で空いてる席は一つもなし!!
対戦する双方の人気がそれほど高いためなのか?それともあまりにも見応えがある一戦になるからなのか!?
これだけはみんなに言えるぜ、答えは――そのどちらもだ!
なんたる――なんたる栄誉なのだろうか!
本日のスペシャル試合の両対戦者を紹介しよう、片方は、ニアール家からやってきた、今では新進気鋭で、熱狂者たちの尽きない話題となっている美少女騎士――マリア・ニアール!
そしてもう片方は――!鋭利な輝きを潜めた剣を携えた、億万に値する地位に席を置き、過去の伝説の騎士の名を冠した、ブレードヘルメット騎士団の超人気者、「レフトハンド」のタイタス・ポプラー!
おおお!なんと騎士がまだ入場していないというのに、こんな数字になるまで賞金プールが溜まったのは今回が初めてだ!どうやらオレが再三うるさく解説する必要はもうないらしいな――お前たちもとっくにオレのナレーションに飽き飽きしてるんだろ?
ならさっそくお呼びしよう!お待ちかね!両騎士の入場だぁ!!
(大歓声)
……
まず最初に入場したのはマリア・ニアール!変わらない純白の甲冑に身を包んでいる!その可憐な姿も相も変わらず!
「プラスチック」のシェブチックに勝って以来、終始勇ましく止まること知らず、それぞれ大小様々な試合でもその力を存分に発揮してきたマリア・ニアール!
ここに登場した彼女は、とうの昔にトーナメントのランキングにその名を刻むと宣言してた!彼女はこの一戦を踏み台に、カジミエーシュ騎士の頂に辿りつけるのだろうか?その活躍に期待しよう!
(そんなこと言ってないんだけど……)
そしてもう一人の――入場――
黙れ、騒々しい道化め。
貴様みたいな人が私の舞台に立つ資格など毛頭ない、さっさと降りろ。
――これだぁ!これこそがタイタス・ポプラー!だから言っただろ、選手たちにマイクを付けようぜって、そしたら観客たちも今以上に彼らの殺し合いに夢中になれるのによ!!
(大歓声)
本試合はミェシュコグループ、ローズメディア連合グループ、スヴォーマ食品会社と、クスザイツ警備会社のスポンサー提供でお送りするぜ!
競技場の観客はいつでも先ほど述べた企業が配る商品割引券をゲットできる!それと僭越ながらもう一度観戦時に手元に置きたい個人的のおすすめを紹介しよう――ニビェスキーウホ印のビールをどうぞよろしくぅ!!
……ニアールか。
醜いな、騎士一族の地位を手放したくないがために足掻くその様は、さながら水揚げされたペンチビーストのようだ。
騎士の名を背負う力量もないというのに、なぜそこまで恥をかき続けながらも固執する?
……あなたには関係ない。
どうでもいいがな、ニアール家最後の騎士は今日で私の手によって粉砕されるのだからな。
安心しろ、私はあのイングラみたいな能無しとは違う……武器を振りかざす者のみが騎士たるわけではないことを、思い知らせてやる。
(大歓声)
火薬だ――!二人から一触即発の火薬の匂いがプンプンするぜ――!
このオレですらみんなの早く見たい気持ちを抑えるのが忍びなくなっちまったぜ、それでは行こう!試合――スタート!
(足音と斬撃音)
――
ふん。
(打撃音)
――な、何が起こったんだ!?一瞬!試合が始まったその一瞬で!マリアの剣が弾き飛ばされてしまった!そして重い一蹴りが後を続いた――!
これが巨大な実力差というものか――!
剣を拾え。
(い、痛い……!彼は一体何を……!)
早くしろ。
……
(槍騎兵……攻撃のリーチが長い、それに、動きが早くて、パワーも段違い……まるでスキがない。)
……もう一回よ。
いいだろう。
(斬撃音)
好きにはさせない――!
(斬撃音)
貧弱。
うわっ――!
私の光を……斬った?
……斬れないとでも?
貴様のその剣もろとも真っ二つにしてやろうと思っていたが……ふんっ……ニアール家の剣か。
貴様は己の信仰を握っているが、それに対しては何一つ無知のままだな。幼稚で、無力で、思考も軟弱、貴様は――
――私を相手にする資格など微塵もない。
(大歓声)
もう一発だ!余裕に満ちたレフトハンドナイト!マリアが剣を拾い上げた直後に、再び重い一撃を食らわせた!
これがカジミエーシュトップクラス騎士団の実力!これがトーナメント本選に出場した騎士の実力だ!初めてカジミエーシュに来てくれた観客のみんな、瞬きは厳禁だぜ!
なぜなら残酷な勝負は、いつもその一瞬にあるからだ!!
(斬撃音)
ぐはっ――!
その光は蹂躙され、無残に粉砕され、冒涜されていた。
「レフトハンド」タイタス・ポプラーの陰影を前にして、マリアは再び彼女の剣を持ち上げた。