(無線音)
こちらプラチナ。アンバサダーの件は完了した――
……プラチナ。
……どちら様?理事長に連絡したはずなんだけど……
問題ない、このデバイスの認可コードはもう受け取ってるはずだ。
このチャンネルを知ってるうえ、あのラズライトたちじゃない、ということは……
理解してもらえればいい、あまり詮索はするな。
今からは「無冑盟」同士の話だ、「理事長たち」は今はどうでもいい。
……わかった。
一部の征戦騎士たちが秘密裏に黄昏の森を抜けた、このことはすでに商業連合会の目にも入っている、おそらくは耀騎士と関連がある。
銀槍の……?
ラズライトが全権をもってこの件を責任する、お前が深入りする必要はない。
へぇ、あの人たち最近そんなに仕事に励んでるんだ?
お前の任務は彼らの替わりだ、耀騎士を監視しろ。
耀騎士ね……それはそれで面倒臭い事案だね。
――つまりあっちはもっと面倒臭いことになってるんでしょ?
まだ分からん、だが蟻の穴から堤も崩れる、耀騎士の帰還でこちらに多数の面倒ごとを寄越してきた……それに、こちらも彼女に目を置きすぎてしまった。
それと。
いかなる場合も、耀騎士の隣にいるサルカズには手を出すな。
あの二人のサルカズについて……色々知ってそうだね。
贖罪師に加えて耀騎士、しかも同じ「企業」に所属しているんだ、そうことが簡単に行くと思うか……私は到底思えない。
……
自分のやるべきことに集中しろ、前みたいにやらかすなよ。
これから忙しくなるからな。
(電話のバイブ音)
あ……またお電話が……チェルネーさんをお探しなのでしょうか……
でもチェルネーさん……もう随分長い時間出て行かれてしまいましたし……
……
……もしもし?
アンバサダーか?
あ、いえ、申し訳ありません、チェルネーさんは今――
私はアンバサダーの番号にかけた、そして君がこの電話を取った。
よって君がアンバサダーだ。
え?は、はい?そのよく分からないのですが――
名前を言え。
私のですか……?
名前だ。
えっと、マルコヴィッツと申します、以前はスヴォーマ食品会社で勤務しておりました、それからチェルネーさんから協力のお誘いを受けまして……
……
も、もしもし?チェルネーさんは今どちらに?
こんにちは、マルコヴィッツさん。
あ、申し訳ありません、今は――
スヴォーマ食品会社の理事長兼主席執行官を務めている者です、私の声に聞き覚えはあるはず、アンバサダーのマルコヴィッツさん、あなたはたった今正式に解雇されました。
え?
今から、あなたはスヴォーマ食品会社でも、ミェシュコグループの人間でもありません――あなたは今から商業連合会の代表になりました、くれぐれもお忘れなきよう。
大会終了まで、お好きなところに行かれて結構です、あなたの働き次第で、それ相応の報酬が約束されます。
今から、あなたには三つの項目を処理して頂きます、なおあなたに質問する権限はありません。
一つ、大会を滞りなく進行させること、これは最重要で最優先事項です。
二つ、耀騎士及び彼女に関連する事件の情報操作を行うこと、我々はいかなる「ストップ注文」も望んでおりません、望んでいるのはそれ以上の「利益」です。
三つ、無冑盟の交渉人が三分後にこちらに到着されます、彼女ら各自のやるべきことを監督すること、いかなる些細な不審点でもすべて商業連合会の理事会に報告すること。
待ってください……!私はそんなつもりは……!
何か疑問はございますか?アンバサダーのマルコヴィッツさん?
私は……私はただ……
……
いえ、う、承りました……
よろしい、ではよい働きを願っておりますよ。
……
はは……夢だ……私は夢を見ているに違いない……
(携帯が切れる音)
(扉が開く音)
話は全部聞いたよ……チェルネーの全権限がアンタに移ったって、えっと……アンバサダーのマルコヴィッツ、でいいんだよね?
これからどうすればいいの?それかまずは落ち着くついでに、私に休暇を与えてほしいなぁなんて。
わ、分からない……なぜ私なんだ……
待ってください、あなたもでしたよね、プラチナ様、あなただって無理矢理その席に置かれたはずですよね?私はこれからどうすれば……?
さあね、アイツらはただ次の人がアイツらと同じように酷くなるところが見たいだけなのかもしれないね。
カジミエーシュにいる限り、考えすぎないことに尽きるよ。
でも……私のナリを見てください……まともなスーツだって買えないんですよ、私は……
そうだ……チェルネーさんからあなたに任務を与えていたはずです、あなたなら無冑盟が何をやっているか知ってるはず――
知らない。
え……?
自分が何をやってることぐらい分かっているよ。
で、では何をされているのですか?
はぁ……普通あの返答で終わらせたのにまた聞き返すかな……アンタって人は……
まあいいや、ついこの間、やらかしちゃったのは確かだし、今は上に集中しないと。
五人の無冑盟のナイトキラーが目標を追ってた最中に発見され、そのまま全員失踪した。
無冑盟がし、失踪?
……本当に詳細を知る覚悟はできてるの?
私に……選択の余地はありません。
そ。
じゃあ「レッドスクオール騎士団」に注意しておくことだね、彼女らはただの競技騎士ってだけじゃないから。
彼女らは無冑盟との対抗を……世間に公開するつもりだ。
……耀騎士が帰ってきたの?
街中の連中が騒いでいる、彼女が天から降臨し、マリアを救ったと。
救った?
騎士協会、いや、それよりさらに上が、マリアにあの試合を仕掛けた。観客たちにはただの刺激的な演出にしか見えないが、目が利くヤツからしたら……
あれは完全に本気で殺しにいってた。もし耀騎士があと一歩遅れていたら、マリアは死んでただろうな。
……もう隠すつもりもないんだね。
あいつらの品性を見くびってた、こんなこと毎年のトーナメントで起こっているっていうのに――連中はまったく気にしてない。
アイツらが気にしてるかどうかなんてどうでもいい、アイツらに話が通じることも期待しちゃいないし、表面だけへつら笑っていたとしても……
重要なのは、カジミエーシュでは誰もそんなこと気にしてないってこと。
表では、オレたちは訓練で事故が起こり全活動を停止したって報道されている……
……ヤバイわね。
「ヤバイな。」
……ぷっ、あはははは、ねぇ、どういうこと、あまりにも順調すぎない?
もしアイツらが裏で手を出さずに国民院を利用しようとしていたら、それこそ後がなくなっちゃってたわ。
お前なぁ……ちょっと気を緩めたらこうだ。
ふふん……相手は我慢できずに先に手を出した、その結果逆に私たちの助けになったのよ、嬉しくて当然でしょ。
あの二人が自分の仕事を終えてから、やっと本番ってとこね。
……
どうしたの?ステージであれだけ鬱憤を晴らしてもまだ足りなかったわけ?
チッ……あのクズたちと剣を交えれば交えるほど、騎士貴族がクソに思えてくる。それに一番イヤなのは、オレもかつてはそいつらの一員だったってことだ。
まぁ、複雑だよね。
連中の尊厳と信仰になんの価値もない、今の騎士貴族の地位も堕ちるとこまで堕ちた。
もう落ち着いてってば、いっつもこの話題になると激昂するんだから、安心して、きっといつか報いを受けるよ。
でもその前に、先に目の前の敵を片付けないとね――
――無冑盟。
こいつらを白日の下に晒さなければならない、そうでしょ?
お姉ちゃん、家に帰ってきたのはいつぶり?
お姉ちゃんの部屋は昔のまんまだよ!私がいつも掃除してあるから……あっ、でも机とか椅子とかは全部売っちゃったんだっけ……
で、でも大丈夫!少なくとも――
マリア、君たちに会えれば、そこが我が家だ。
……お姉ちゃん。
マリア、その装備は……
あっこれ!勝手にお姉ちゃんの昔の装備を借りちゃったけど……へへ、どうかな、結構似合ってるでしょ?
ああ、すごく似合ってる、本当に大きくなったな。
へへ……背丈だってもうお姉ちゃんに負けないんだからね。
よく頑張ってきたな、本当に。さっきステージで、ゆっくり話ができなかったが……すごく会いたかった、マリア。
え……お、お姉ちゃんってば、急にそんなこと言われると恥ずかしいよ……
だが君は一人でここまで戦ってきた、生き延びてきた、信念を貫いてきた。
当初の決定が君と叔父さんがギクシャクしてしまうだろうなとは思っていたが、まさかここまで――
お姉ちゃん!
やらねばならないことがある以上、どんな苦難に遭おうと一歩たりとも退かない、でしょ?
……うん。
ならお姉ちゃんだって間違ってないよ!
それに……それに私はお姉ちゃんみたいにはなれない、外側も中身も、到底お姉ちゃんには敵わない……
でも今やっと分かった、少なくとも、ゾフィア叔母さんがいつも話していたことについて考え始めたんだ……騎士とは一体何なのかを。
確かに私はお姉ちゃんみたいにはなれない……でも私が今日まで来れたのは、みんなが助けてくれたおかげなんだ!
もし私になんの信念を抱いているんだって言うんだったら、お姉ちゃんが私のきっかけなんだって言うよ!だって私もニアール家の一員だからね!
これからは私も一緒だよ、どんな最後が待っていようと……私は、お姉ちゃんを信じてる。
マリア、君は……ふっ、本当に大きくなったな。
……え、え、私、もう何急にこんなこと話してんのよ……
とにかく早く上に上がって――
(マイナが歩いてくる足音)
……マーガレット。
叔父さん……これはその……
お前は少し静かにしてくれ。
マーガレット……何しに戻ってきた?
お前がここに現れたことが何を意味するのか分かっているのか?
……
お前はマリアを助けた……だが、なぜまたカジミエーシュに戻ろうとしたんだ?
お前の父と、お前のお爺様がお前を「送り出す」ために、どれだけの代償を払ったと思っているんだ?
それを承知の上で堂々とここに現れて……協会と企業がお前に目を張っていないとでも思っているのか?
……騎士競技に参加します。
ありえん。
私が騎士の栄誉を取り戻します。
栄誉など何の意味もない。
しかしその意味は世俗が決めるものではありません。
カジミエーシュは変わった、奴らは変わったのだ。
――しかし私がここにいる、私たちは未だここに健在です。
……
あまり調子に乗るな、マーガレット。
お前がカジミエーシュを離れれば少しは頭が冷めると思っていたが……結果それがお前の答えか?
私の時間を無駄にするな。
叔父さん……
もういい。
お前とこうして話してる間も、処理しなければならない書類が無数にあるんだ、私の仕事の邪魔をしないでくれ……
ことが面倒になる前に、即刻カジミエーシュから出ていけ、ほかの場所でも生活できるのであれば、二度とここに戻ってくるな。
叔父さん!そんな言い方!
いいんだマリア。
でもお姉ちゃん……
マイナ叔父さん……あなたの選択は理解しています、私も昔から変わらずあなたを尊敬しています。
だからどうか叔父さんにも協力してほしいんです。
――理解してるだと?
私から見たものや私がやってきたことなど何一つ分かっていないくせに、まだそんな不確かな考えを抱いているのか……
私はあれから希望の一角を目にしました、戦争の陰影もこの身で経験しました。
私はただ己の信仰を篤く信じたい、信仰のために戦いたいだけなんです。
……カジミエーシュは耀騎士の代償と勝利だけでは変わらない。
もちろん、それは重々承知しています。
そうだとしても……
そうだとしてもです。
……
……剣を抜け、マーガレット。
お、叔父さん!?
お前がそれでも目を覚まさないというのであれば、また一から「諦めること」を学ばせてやれねばならん。無冑盟の陰影に倒れてしまうより、私の剣に倒れたほうがマシだろうからな。
……意のままに。
あの競技騎士は金のためなら人に飼われることも止まないクズだ。
もしニアール家のお嬢ちゃんに何かがあったら、征戦騎士連中も騎士と名乗るのをやめた方がいい、わしが直接国民院のちゃぶ台をひっくり返してやろうか!?
――って私のお爺様が言ってたわ。
……セノミー、口調まで真似しなくてもいいだろ……
そうね、でもうちのお爺様が話をそのまま伝えるようにって言われたから仕方ないでしょ。
何もかもそのお爺様の言う通りにしなくてもいいだろ。
しかも、もし大騎士長様が同意してくれないのであれば、杖についてでも耀騎士を迎えにいくとも言っていたわよ。
……
しかもしかも、もしあなたがおでこに手を当てながらため息をついて回答してくれなかったら――
わかったわかった……彼がえらく不機嫌なのはよく分かった、あれっぽっちの功労をいいことに毎日監正院の前で駄々をこねやがって、昔とちっとも変らん……
忘れるな、彼はまだ贖罪の身なんだぞ。
でも、商業連合会に飼われた国民院は越権でお爺様を有罪したのよ、彼らはとっくの昔に国民と法の代表者ではなくなったわ、彼らはただ自分たちと、背後に潜んでいる商人たちの代表にすぎないわ。
……それも彼から教わったのか?
いいえ、これは自分の考えよ。
はぁ……
話はこれだけか?
あっ、もう一件あったわ。
……なんだ。
ロドスがもうここに到着したみたいよ。