(チェンが走る足音)
(チェンが走る足音)
(チェンが走る足音)
ついに来たか。
ファイギ:
連日の大雪で降り積もった雪の厚い層が、山々と谷を覆い被った。
木々の葉の苗は未だ芽生えず、まるで春が永遠に来ない錯覚に陥るほどだった。
我々はここに閉じ込められてしまった、食べ物は欠け衣服も少ない、雪解けを待つ日々が狂ってしまうほど静かだった。
むしろ、少し奇妙に思えてくる。
今まで順調に進んできたことなど一度もなかった、最高なシチュエーションだろうと私が絡んだ途端すぐさま悪化していったからだ。
おそらく龍門の人々が言ってた通り、私は疫病神なのかもしれない、私がいるところにいいことなんて起きないからだ。
君とは、もう少し話をしなければならないと思う、でないと私の心に落ち着きは来ないからだ。
12月14日
黒蛇から抜け出して三年目
ウルサスの小さな村落
タルラ、はやくはやく!彼らに見つかったらおしまいだよ。
お婆ちゃん、分かったよ!すぐ家に入るから。
(家の扉を開く音)
まだそんな服を着ているのかい!何遍も言っただろ、その服だと悪い虫が寄ってきてしまうって!
大きな黒い虫を、それに毒だって持っているんだ……一噛みだけでも、田んぼで作物が育たなくなってしまうほどの!
お婆ちゃん、普段はちゃんと普通の服を着てるでしょ?ここ二日は用事があったから今の服に着替えただけだよ。
それにね、お婆ちゃん、この服をくれたあのお爺ちゃん、あのカッコイイお爺ちゃんはね、この服を着ないと私を憶えてくれないんだよ。
運命が必ず彼と私たちを再会させてくれと信じるから、その時は、お爺ちゃんとお婆ちゃんもきっと穏やかな暮らしが過ごせると思うよ。
こらっ、タルラ……タルラ!また嘘をついたわね、前はそんな話じゃなかったでしょ?
え、前はどう話してたっけ?忘れちゃったなぁ、同じじゃなかった?
この前はその服はあんたのお父さんが誕生日プレゼントとして贈ってくれたものだって言ってたじゃないか!
お父さんが頭に輪っかがついたよく分からない外国人の強盗に遭い、あんたは泣きながらその服を着ながら逃げた、服についてる血はお父さんのものだって言ってたじゃないか!
まったく訳が分からないわ……前々回もまったく違ってたのよ!
え、前回と同じじゃなかったっけ?お婆ちゃんは物覚えがいいね。
褒めても無駄よ!まったく嘘ばっかり……私ももうじき棺桶に入る身なんだから、毎回こんな老いぼれを騙して、恥ずかしくないのかい?
あ、ごめんなさい、お婆ちゃん、もうしないから、ごめんなさい。
早く座りなさい!着替えはもういいわ、まったく!
ほらほら!昼ご飯を食べちゃいなさい。お昼には帰ってくるって言ってたくせに、もう日が山に沈みかけちゃってるじゃない!
スープもまた温めてあげてるわ、これ以上温めたら無くなっちゃうけども。もういっそのこと、晩御飯にしちゃいなさい!
ああ陛下、どうしてうちのこれはこんなんなのかしら……
早く食べちゃいなさい、爺さんがあんたに用があるの。まったくあの飲兵衛ったら!まだどこほっつき歩いてるのかしら……自分で探してくれるかしら。
はいはい、分かったよ。
まったく、顔はえらくべっぴんさんだというのに、口は全然らしくない!都会の口の甘い小僧たちとそっくりだわ!
ばあばが若い頃も騙されそうになったわよ……ろくなもんじゃないわ!
その話もういいって……もう何回も聞いたよ、お婆ちゃん。
まったく口の減らない子ね!ほら……ご飯よ。ほらほら、皿も取って!パンもちゃちゃっと食べちゃいな!
そう急いで食べない!喉に詰まったらどうするの?
……はぁ、でもあんたが全身血だらけで来た日は本当に。
今思い返してもゾッとするわ、タルラ、あんたがもしいい人じゃなかったら、きっと爺さんが玄関であんたを斧で叩き斬っていたわ。
一目でいい人悪い人を見分けられる人なんていないよ……
あんたが駆け込んできたあの日は、真っ暗な夜で、外には野獣もいた、駝獣だろうが肉獣だろうが、外でずっと吠えていたわ!もうどれだけ怖かったか……
それと、あんたが持ってたあの……
うっ、ぷ……ゴホゴホッ!
あの大きな包丁!今まで生きてきてあんなに大きな包丁は見たことがなかったわ!
あれは剣……剣だから!包丁じゃないよ。もう剣を山道で道を拓く用に使うのはやめてよね、使いづらいでしょ。
それとさ、お婆ちゃん!このことは話さないでって言ったでしょ!怒るからね。
ありゃまあ、口が勝手に、ああ皇帝陛下!もう言いません、もう二度と言いませんから!
ああ陛下、どうかこの死に損ないの不意の過ちをお許しください!
もういいよそれ、お婆ちゃん、皇帝にそんな暇ないってば。彼なら自分の大都市で優雅に暮らしてるよ、私たちときたら、来週ジャガイモすら食べられるかどうか分からないんだよ。私たちに何かしてくれるなんて夢のまた夢だよ。
それに、今はどの皇帝になったか、お婆ちゃんはもう分からないんじゃないの?
そんなことないわよ!
それにしてもスープが……もう塩も無くなっちゃったの?
ない!……もうとっくにないわよ。塩入れは昨日からもう空っぽよ!ふんっ、老いも若いも使えないヤツばっかり!塩もそんなに食べて……高血圧になってもばあばは知らないからね!
毎回一日二日出て行って、一体何をやってるんだか!いっつも手ブラで帰ってくるし、金も稼いでこないうえに、これっぽっちの食べ物すら持って帰ってこないなんて!ホント役立たずね……!
はいはい、分かったから、じゃあちょっと交換してくるよ。
まだ若いんだから、もっとたくさん働きにいったらどうかしら!
交換はしなくていいわよ、アリーナと話したら、少し分けてくれるらしいわ。それに比べてあんたときたら!
よそのお嬢ちゃんはあんたよりよっぽどお淑やかで、読書好きで、手先もいい、あんたはこの歳になってまだ自分で服が縫えないなんて!
……人各々志ありだから。
ん、どういう意味よそれ?
人それぞれ得意があるってこと。
じゃああんたは何が得意なの?さっさといい人見つけて、がっしりしたいい男を連れてきなさいな!あんたが仕事しても、麦を腐らせるだけだわ!
毎年の農作業はちゃんと上手くなってるでしょ。
始めてまだ数年しか経ってないじゃない!
お婆さん、タルラもちゃんと頑張って手伝ってくれてるじゃない。そう言わないであげて。
おおアリーナよ!あんたも一言言ってやっておくれ、このままだとこの子……
心配しなくても大丈夫だって。
あ、やっと来てくれた。お婆ちゃんを静かにしてくれるのは君だけだよ。
口だけは一丁前ね!どっから持ってきたわけ分からん制服なんか着て、自分が貴族でもなったつもりかい?身体はまだまだ青臭いのに、態度だけは一人前ね、まったくどこで覚えてきたのやら……!
仕事に行ってくるわ!ご飯は二人で済ませちゃなさい。アリーナもお腹空いてたら食べちゃっていいからね。タルラ、食べすぎちゃダメよ!アリーナにも少し残してあげな。
(老婦が出ていく足音)
はい、はい……分かったよ。
私はいいよ、お婆さん。ありがとうね。
タルラ、塩を持ってきたよ。塩売りは次の週に来るから、買いに行くの忘れないでね。
本当にありがとう、アリーナ。君がいなかったら、あと二十分はお婆ちゃんの説教を食らってたよ。
聞こえているからね!
今度はどこ行ってたの?
いや、ちょっと出かけたり、散歩してただけだよ。ほらっ、君の欲しがってた風景画だよ。
えっ、憶えててくれてたんだ。本当にありがとう、タルラ。
……
このタッチ……ここら一帯の絵描きが描いたものじゃないね。
シミール村の画家たちは硬いブラシしか使わないわ、羽毛のブラシなんて考えられないんだもの。この先端の柔らかな描き方、ヨルメの尻尾の毛……脱皮する前の毛ね。
タルラ、街に行ったのね。
……君には誤魔化せないか。
私を誤魔化してどうするの?私は憲兵でも、徴税人でもないのよ。
君が危ないことを知る必要はないよ。
じゃああなたは今危険に身を置いてるのね?
……
目の前のエラフィアはまるで物の怪のようだった。白髪のドラコは深く悟った、もしアリーナにことを知られたくないのであれば、最善の方法はそのことを起こさなければいいのだと。
あのね……アリーナ、君はそんなこと気に――
(ウルサスの農民が走る足音)
大変だ!大変だ……!
何事よそんな慌てて!ノックもせずに入ってきて!ドアのかんぬきが壊れたらどうするのよ!
か……感染者治安維持隊だ!
爺さんとほかの連中がおっぱじめやがった!
何ですって!?
(タルラが走る足音)
タルラ!どこに行くの?
あ、包丁が!アリーナ、タルラにその包丁を持たせちゃダメ!
もう一遍言ってみろ、ジジイ、お前の足を叩き折っても、検査させてもらうぞ。
前回検査したばかりじゃろ、なんでまたすぐ検査されねばならんのじゃ!こっちはもう税だってまともに払えんのじゃぞ、これ以上何を持っていくつもりじゃ!
これは定期検査である!今回ばかりは袖の下を渡そうが渡さまいが、毎年二回は必ず検査を行わなければならない……そうしないと、我々も同じく鞭に打たれるからな。
だが、もし貴様らが……
もう何もあげられん、もう何も残っておらんのじゃ!金も、首飾りも、食料すらも!
なら何をほざいている?
定期検査だ!とっととどけ!
お役所様、お役所様!お役人様や、もう本当にあげられるものは何もないんじゃ!これ以上何かを持っていくのであれば、いっそわしの命を持っていっておくれぇ!
どけと言ってるんだ!
(感染者治安維持隊が老人を殴る音)
ああ!
うぐっ……足が……
(タルラが近寄ってくる足音)
何をしている?
ん?どっから湧いてきた小娘……
――おいお前。その衣装、どこから取ってきた?農民風情が着ていいもんじゃないぞ。
――
もう一度言う、何をしている?
なに?
これ以上近づくな!何をするつもりだ!なんだその目つきは……はっ、恐ろしい目付きだな!
――そんなに死に急ぎたいのか!!