ファイギ:
前に言った話を続けよう。
私は長い間逃走を続けていた、そしてある小さな村に逃げ込んだ。
当時の私はあまり考えず、ただ隠れる場所が欲しかったんだ、しかしまさか本当に隠れ場が見つかるとは思いもよらなかった。
この老夫婦は、おそらく私を自分たちの娘として扱っているんだろう。なにせウルサスは数多の戦争をしてきた、彼らの子供もとっくにその犠牲になっていたのだろう。
それに加えて私の秘密までも彼らは隠していてくれた。
彼らには返しても返しきれない恩義がある。
しかし遺憾なことに、彼らに恩を返すことは叶わなかった。
1月13日
前回の定期検査で、こちらの隊員の一名が襲撃された。
そのため今は全戸の捜査に当たっている。感染者のみならず、その襲撃者を発見次第、即刻射殺する。そいつらをかくまった村人も、同じように刑罰を受けてもらう。
苦役に服したくないのであれば、そいつらを告発しろ。誰もお前たちの光栄なる報告で傷つくことはないし、犯罪者と感染者にはそれ相応の報いを受けるべきだからだ。
では、一軒目から始めよう。
お婆ちゃん、やっぱりこの日が来てしまった。私はきっと逃れられそうにないよ。
外には出るな、タルラ!草棚の後ろに隠れておれ……そこまで調べないはずだ!あんたが刑罰を恐れて逃げて行ったと、わしらが彼らにそう伝えよう!誰もあんたを責めはせんよ!
でもあなたたちが被害に遭うかもしれないんだよ。私はこんな形であなたたちに報いたくない。
少しだけ金貨を残すよ……ヴィクトリアの金貨だ、あんまり無駄遣いしないでね、これだけでも一生食べ物と着るものには困らなくなると思うから。
タルラ、タルラ!どこに行くんだい?私のタルラよ……ダメだ、彼らと出会ってはならん!あの治安維持隊の黒い虫どもはなんの躊躇なく人を食らうんだよ!
だからこれ以上村のおじさんおばさんたちを搾取させない。こんなこともう終わりにしないと。私があいつらを惹きつける、あいつらの目を覚まさせて、思い知らせてやるから。
これでもちゃんと弁えてるよ、お婆ちゃん。あいつらに復讐も、これ以上村人たちを殺させはしない……
隣に住んでた男の子がただ石を投げただけで撲殺されたこともまだ憶えてる。忘れるもんか。
タルラ……タルラよ!やめて……やめておくれ!
(ドアをノックする音)
誰だ!ドアを叩いてるのは……治安維持隊か?とっとと失せな!
お婆さん、私です!
アリーナ!早く、早く中へ!
(ドアが開く音)
どうした?何かあったのか?何か情報が入ったのか?
……誰かが密告したわ。
あ?なんですって?何を密告したんだい?
治安維持隊に村に感染者が一人いることが知られちゃったわ。
そんなバカな、ありえん……あ!
彼らがどうやってこの情報を知ったかはわからないわ、でも感染者を匿うとどうなるかは私たちみんな知ってる。
……
お婆さん、私のお父さんは早々に去ってしまって、お母さんもあなたたちがお世話に頼りっぱなしだった、あなたたちはもう私の祖父母同然よ。
もうこんな事態になってしまった以上、包み隠さず話すわ……
――ちょっと待って。
お婆ちゃん、お爺ちゃんはどこ?
クソジジイ、何しに来た?
わしは罪を犯してしまったんじゃ!
自首しに来たのか?あぁ、そうだ、思い出した。こちらの隊員が確か一人の老いぼれに邪魔されたって言っていたな。そのびっこを引いて歩いてる様子を見るに、お前があの時の襲撃者の一人だな!
そうじゃ!
……貴様から絞り出せそうなものはなさそうだな。どこへでも消えるがいい。あの青二才も、こんな貧しい農民と何をイジになってるんだ?
それだけじゃないぞ。お代官様、わしの身体にあるこれ、何かはご存じかな?
――
感染者だ!感染者は貴様だったのか?
なんだって!?
あの時あんたの着替えを手伝ったときに、見てしまったのよ……タルラ、あんた感染者なのよね、私と爺さんはとっくの昔から知っていたわ。
じゃあ――
爺さんは採掘場で働いてた、彼も鉱石病に罹ってしまったから帰ってきたのよ!だから彼はずっとあのジャンパーを脱ごうとしなかったのよ……
爺さんはあんたの代わりに罪を被りに行ったのよ、タルラ……!
なんでそんなことを!
そんなことしたらお爺ちゃんが……
村の連中はみんな信用できないのよ!金のためなら、保身のためなら、なんだって外に漏らすような連中なのよ!
この二年間、タルラ、私たちはずっと楽しかったわ!あんたはいい子……とってもいい子よ!
私たちはもう長くない、でもあんたは、タルラは、病に罹ってしまったとしても、私たちより長く生きられる!どうかこの先もちゃんと生きておくれ……
だからタルラ、行かないで!行かないでおくれ……!
(タルラが駆け出す足音)
わしを連れていけ。
お代官様、わしを連れていけ!
わしの身体を見てみろ!わしこそがあその感染者じゃ!
……
それでも信じられんのなら、これを見ろ!
刃物だと?刃物を下ろせ。老いぼれ、貴様では俺たちをどうこうできん。
いいや、お代官様、わしのアーツを……わしのアーツを見せてやろう!
老人は己の腕に刃物を通したが、赤色は雪を染めず、霧のごとく空気中に霧散していった。
見てみ、見よ……お代官様!わしこそが正真正銘の感染者じゃ!
ああ確かにそうだな。
(老人に刃物を突き刺す音)
ご協力感謝する、感染者。
うっ……ごふっ……!
タルラ……
タルラ!戻って!行かないで!
あれは……火?
一体どういうこと!?なんで家が燃えて――
タルラ!あなた――
行かないで!タルラ!!そんなことしたら村がおしまいよ!!