中央区
時を少し遡る

アーミヤたちがコントロールタワーで……

タルラの精鋭部隊に遭遇しないとなぜ断定できるんだ?

それについては正しく陰謀家と対峙するにあたっての難所と言える。

軍閥、あるいは暴虐かつ狡猾な君主の要塞は、従来から守りは易し攻めは難しいものとなっている。

彼らは自分たちが行ってきた行為が必ず激しい報復に遭うと知っているからだ、そのため彼らは優勢な兵力と先進的な武器を使って、堅牢な守りを敷く。

しかし、タルラに関してはたとえ彼女の暴君的行為がただの芝居と証明されたとしても、彼女はそんなことはしないだろう。

・どこから来た自信なんだ?
・……
・理由を聞きたい。

経験、理論、現象から分かる。

自信など持ち合わせてない、私はただ事実を推察しただけだ。

……君自身の意見も期待していたのだが。

もしくは、その沈黙が君の意見なのか?

そうならば理解感謝する。

私の考えが君の同意を得られれば……

私がそれで喜ぶ、とでも思っているのか?

尊重というのは双方的なものだ。君が私の観点を尊重してくれて、かつ有益な結論を得ていてくれれば、私も君の観点を考慮してやらなくもない。

タルラは自分の形を維持している。彼女には一般感染者からの尊重、サルカズ傭兵からの服従、遊撃隊からの信頼、熱狂者からの崇拝が彼女には必要なんだ……

そのため彼女は自身と彼らとの間の距離感をはっきりさせねばならない、お互いを念入りに監視させるためにな。

今までのレユニオンの動きを見るに、確実に分かってきたのが、レユニオンの他の指導者はタルラの行為をあまり深く理解していないということだ。

たとえ彼女の陰謀を察知したパトリオットでさえも、急激な変化の中で情勢を覆すことは叶わなかった。仮にタルラを殺せたとしても、レユニオンが傾く勢いを変えることはできなかっただろう。

何より、タルラの脳内にある感染者を利用する陰謀は……それを描き出すのに必要とした時間は、おそらくレユニオンが存続していた時間よりも遥かに長かっただろう。

私の推測ではレユニオンの今日までのすべての行為は、ある一つの前提のために行っていると思われる……

「レユニオンはこの事件後に滅ぶ」という前提だ。

タルラはおそらく彼女の鋭く形のない力を各地に分散させ、必要なときに彼らを召集し、時期がきたときに彼らを出現させると思われる。

ドクター、私が思うに、ウルサス帝国の第三軍集団は感染者のいかなる自由行動を許さないはずだ。

ただしかし、レユニオンの現在の行為は、まだ彼らの許容範囲内に収まっているのだろう。このような表面的な暴力は、規律が欠如あるいは散漫としている様は、第三軍集団の好みとも言えるからだ。

だがよく考えてほしい、彼らは本当にただ傍観しているだけなのか?そのようなリスクを背負ってまで、タルラ一人が一都市あるいは一国の情勢を操ることを甘んじて受けるのか?

それとも、それすらもタルラの、ウルサス軍の力を削ぐための……彼女すらも収拾がつかない事態になるまで、彼らを眠らせる賭けというのだろうか。

その時になれば、彼女は正当な理由で……彼女すら手に余る力を使えるようになる。彼女の思うがままにな。

しかしそれにはまだ時間が必要だ。

そう言うのであれば、なぜ彼女はまだ暴君にはなっていないんだ?

今のレユニオンにはああいう指導者がまだ必要だが、本当はああいう指導者を必要としていないからだ。

暴君は己の羽を大事にする、たとえ目先が利かずあるいは身勝手にそれを壊してしまってとしても、心の底から心を痛めて涙を流す。

しかし陰謀家はそうしない。暴君には駒がある、それは陰謀家も同じだ、しかし暴君は駒と同じ盤上に立っているが、陰謀家はその盤外に座っている。

仮に彼女に人間性が備わっているとしよう、であれば彼女も間違いを犯す。しかし正真正銘の陰謀家からすれば、その策略が軌道に乗りさえすれば、たとえ自身が死のうと、彼女の陰謀が途切れることはないということだ。

じゃあ我々の行動は無意味なのか?

もしそうであれば、ロドスの人員たちをこんな生死の瀬戸際に連れてくるはずがないだろう。

彼女を殺害しただけでは無駄だ。そのため、我々はそれそれの部分それぞれの場所で、彼女の策略を分解し、彼女の指令に対抗し、彼女の陰謀を失効させている。

もし船の進みを止めることができないのであれば、船を細かく分解して、目的地に到達する頃合いにただの抜け殻にしてやればいい。

……あ、この例えだと君が誤解してしまうかもな。こうは言ったがチェルノボーグの中心都市は何としてでも止めなければならないことは確かだ。

ドクター、君はアーミヤたちが突発的な事態に遭遇しないか心配していたが……

我々の目の前にあるのが、その突発的な事態だと、私は思うが。

W、W。Wハドコダ?Wハモット強イ。

ダメダ、入ッテハダメダ……

彼らと話が通じるか?

(とあるサルカズ部族の言語)

地下ハ闇デ満チ溢レテイル。暗黒ハ邪悪ヲ産ミ出ス。邪悪ハ苦痛ヲモタラス。

アマリニ多クノ苦痛ヲ。

(とあるサルカズ部族の言語)

オ前タチハ、我々ノ苦痛ヲ分カチ合ッテクレルノカ?

駄目だ。彼らがカズデルの出身ではないにしろ、母語の暗号の類には少なからず反応を示すはずだ。彼らの思考能力はもう破壊されている。

さっき喋ってた言葉は彼らに影響を与えられるのか?

本来ならそのはずだ。

待て……今のは常識的な手段とは言えないものだ。興味は持つな。

しかしこの手段でも彼らの意識を呼び起こすことができないのであれば、彼らは確実に伝達能力ではなく思考能力を失っていることが分かる。

彼らの脳の活動が封じられているのか、それとも神経系統が感染器官に邪魔されているのだろうか……この問題を解くには時間が不足過ぎるな。

事実に基づいた判断ではあるが、いいことではなさそうだ。

こっちには攻撃してこないようだぞ。

彼らは我々の侵入を阻止しているんだ。深度感染したサルカズ傭兵なら、ここの区域だけでも、おそらく六人ぐらいはいるだろう、ほとんど時間は無意識的な漫遊行為を行っていると思われる。

彼らの活動範囲はこの通路の外までには及んでいない、あそこにいる深度感染者もこちらの行動に気づいてここに集まったんだろう。

それに、こちらが一定ラインを超えなければ、あちらも行動は起こさない。

偵察オペレーター、こちらと石棺との直線距離を推測できるか?私が送った波形データで位置を割り出してくれ。

……1.4km。もっと詳細な数字はあるか?

1453mだな。

……私の間違いでなければ、以前レユニオンとサルカズの特殊感染者が衝突した位置と、市政庁からの距離もちょうど1.4km前後だった。

我々は本来ならその市政庁の下にある避難通路から石棺区に入るつもりだったが、現在は、あの出口はおそらくあそこにいるサルカズの特殊感染者に占領されてしまっているかもしれない。

まだ実証していない予想があるのだが、ドクター……

どういう予想だ?

目的が何なのかは知らないが、あそこにいるサルカズの特殊感染者は何者かの石棺の侵入を阻止していると思われる、それにこの区域の広さも、ちょうど1.4kmほどだ。

そうかもしれないが、しかし何のために?

(頭を振る)

少なくともサルカズ本来の目的ではないのは確かだ。

……

カズデルを源とした、哀れなサルカズ人たちよ、どこに行こうと道具としか扱われないとは。

私が思うに、感染者の今の境遇はサルカズと似ている、今ここにいるサルカズも憎しみとすべてを失う選択しか残されていない。

……本来であれば、変わるはずだった。我々なら変えられるはずだった。

故郷を失いしティルカズは、流浪するサルカズへと変わってしまった。

そして今、我々が直面しているこれらのサルカズは、もはや人ですらなくなってしまった。

どうするつもりだ?

オペレーター各員、化学防護装備をチェック。

今後第二級緊急感染事態に直面する可能性が発生した。

ドクター、なるべくこちらの消耗を最小限にとどめ、特殊感染者の行動を最大限停止させねばならなくなった。

……長い間緊急感染事態には遭遇しなかった、この装備も、まるでウルサスの感染者治安維持隊みたいだ。

感染者治安維持隊?

否定できない点は、我々が配備した化学防護装備とウルサスの感染者に対する暴虐的な統治の象徴は……同じ設計ルーツを持つ。

確かに、我々の行為は本質上その治安維持隊とは異なる、私にできることはその本質をいつまでも保ち続け、外的圧力によってあられもないものに変えられないことを祈ることだけだ。

その他多くのことへの期待でもあるんだ。少し前私が君に話したことのように。そして君もそうであってほしい。
(アーツは発動する音)

――――――!

――――これは、チェンさんの?

奴はどこへ向かった?

西のほうへ。輝蹄城の禁区へ早々到着されるかと。

……すべて奴の計画通りということか。協議調印区域の安保状況を確認するために、リターニアは禁区へまで勢力を拡大し、こちらの禁区と重なってしまったとは。

我らであれば潜入して、コシチェイを殺し、お嬢様を取り戻すことが可能ですが。

ならん。奴はすでに準備を終えている。

……此度の会談で、双子の女皇が直接女皇の口舌を遣わしてきた、随行してきた軍事力も少なくない。

女皇が即位して間もない間、コシチェイに外交衝突でも起こされたら、こちらの一切の越法行為が女皇たちの己の権威を示す大義名分になってしまう。

これ以上コシチェイに龍門及び炎に被害を与えさせるわけにはいかん。

伯父さん!

……

ファイギ……

伯父さん……タルちゃんを責めないであげて!

責めてなどいないさ。

……だったら私を怒って。

君は何も悪くないじゃないか。

私タルちゃんとどんな時でも一緒にいるって約束したの。でも怖かったから……私……手を放しちゃった。一緒にいてあげられなかった……

タルちゃんの目、すごく怖かった。私も怖かったし、タルちゃんも怖がってた。きっと……きっと私のせいなんだ。

……ファイギ、それはあの子の誤りだ、君のせいじゃない。

え?で、でも伯父さんタルちゃんを責めないって言ってた!

ああ、しないさ。

でもタルちゃんは……タルちゃんは間違っちゃったんじゃないの?間違っちゃっても……怒られないの?

――

あの子はまだ本当のことを知らないんだ。この本当のことは誰だろうと知られてはならないからね、だからあの子は間違いを犯してしまうんだ、今でなくとも、未来でも。

……生きていく上で色んなことが起こる、そこで間違いを犯しても責められる道理はないんだ。私たちは間違いを犯すだけでなく、これからもたくさん間違いを犯す。そしてある間違いは、どうあがいても犯してしまうんだ、避けることもできないんだよ。

タルラはきっとあの子が犯さざるを得ない間違いを犯してしまったにすぎないんだ。

でもそれって間違いって言えるの?

ああ、言えるさ。この土地では必ず起きてしまう出来事に対して寛容ではないからね。

厳格な地に、厳格な人民、そして厳格な統治。是非以外、それらはどうでもよく思っている、まるで是非こそがそれらの命であって、呼吸や嚥下ではないように……!

……

何を言ってるか分からないよ、伯父さん。

じゃあ……タルちゃんは戻ってくるの?

――分からない、ファイギ。私にも分からないんだ。

……うぅ……じゃあタルちゃんは私のせいで……戻ってこなくなっちゃったの?私のせいだ……全部私のせいだ……タルちゃん……

ファイギ!

うぅ……!

さあ涙をぬぐって。

うぅ、私の……

それか、ここでたくさん泣くといい。五分あげよう、それで泣き止んだあと、もしもう涙を流さないようになったら、君にタルラが戻ってくる方法を教えよう。

うぅ……!

……うわああ……!タルちゃん……!
ウェイは空を見上げた。本来であれば身をかがめこの小さな女の子を慰めてやりたかったが、少し躊躇したあと、ウェイは自分にそんな資格はないと思ったのだった。

泣き止んだか。

……うん。タルちゃんに帰ってきてほしいから。私はどうすればいいの?

これから君に色々教えてあげよう、都市の管理の仕方や、悪党どもの懲らしめ方、友との接し方を。

私の教えた通りにすれば、きっとタルラは帰ってくるはずだ。

ど、どうすればいいの?タルちゃんは本当に戻ってくるの?伯父さんウソつかない?

……お母さん……お母さんは、伯父さんは嘘つきだって、ほ……本当に伯父さんを信じてもいいの?

そうかもな。

私もかつて大きな過ちを犯してしまい、、君の母親から一生憎まれるようになってしまった、死してもなお許してくれなかった。彼女には申し訳ないことをしてしまった。

しかし過ちは補える。

ファイギ、よく聞くんだ。正しいことは一生をかけて努力する価値がある、過ちを正すことは、命を押し上げる価値がある。

タルラが去ってしまったことは一つの過ちだ。この過ちがもたらすすべての結果は、私が受け持つ。

だから君は、ファイギ。はやく大きくなっておくれ。

大きくなったらどうなるの?

君なら、大きくなった君なら……すべてを変えられるようになるさ。

ホントに!?

おそらくな。もしくは、君が信じてさえいれば、本当のことになる。

君に剣術も教えよう、ファイギ。

赤霄の剣術を。
「抜刀の業、破を当て即破らん。」