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【明日方舟】メインストーリー8章 R8-9「出会い、それは別れ」後半

(斬撃音)

感染者戦士
感染者戦士

援軍もろとも一網打尽にしたのか?さすがタルラだぜ……!

タルラ
タルラ

感染者の同胞たちは?

感染者戦士
感染者戦士

すでに配置完了だ。この前見つけた予備用の拠点が役に立った。

タルラ
タルラ

人数はちゃんと整理したか?

感染者戦士
感染者戦士

もちろんだ、何人かのちびっ子たちがお姉ちゃんが戻ってきてないとかで泣いていたが……

感染者戦士
感染者戦士

だがこういうのはよく起こることだから仕方がない。はぁ。

タルラ
タルラ

……

(盾衛兵が駆け寄ってくる足音)

盾衛兵
盾衛兵

タルラ!治安維持隊の残存部隊を見つけたぞ。どうやらずっと逃げ惑っていたらしい。

タルラ
タルラ

どの方向に逃げた?

盾衛兵
盾衛兵

東だ。先ほど追放した数人が奴らに見つかってしまうかもしれん。

(タルラが走り去る足音)

盾衛兵
盾衛兵

――タルラ!?

盾衛兵
盾衛兵

おい、ちょっと待て!タルラ、どこに行くんだ?

走る。
走る。
長靴は氷水でびしょ濡れになってしまっていた。
眩しい光を反射する雪地に深く足を踏み入る。
そりがあったことを忘れていた。
スノーモービルに乗ることも忘れていた。
雪をすべて溶かし尽くし。
泥の中を必死に走る。
どれだけ進んだのだろう。
どれだけ走ったのだろう。
寒風は肺を凍らせ。
痛みが脳を刺激する。
走れ。走れ。
雪はなぜ未だに尽きないのか。
冬はなぜ未だ終わらないのか。
大地はなぜ未だ果てしないのだろうか。


ポタポタと滴る。
タルラは足を止めた。
ポタポタと滴る。
涙が彼女の目尻から滴り落ちた。
彼女自身に何が起こったのか未だ理解できていなくとも。

アリーナは地面に倒れこんでいた。
彼女は空っぽの籠を握りしめ、鮮血が彼女の衣服を染め上げていた。
彼女を潜めていた草木と泥の純白も同様に暗い赤色に染まっていた。
雪は絶えず降り積もっていた。

タルラ
タルラ

……

タルラ
タルラ

あ……あ……

アリーナ
アリーナ

……

アリーナ
アリーナ

タル……ラ?

タルラ
タルラ

アリーナ……!!

アリーナ
アリーナ

こんな姿……あなたにだけは見せたくなかったわ。

タルラ
タルラ

もう喋るな!アリーナ、もういい……もう喋らないでくれ!

タルラ
タルラ

止血してやるからな……!私が止血して……!

アリーナ
アリーナ

もう……血は流れてないわ……それに……

タルラ
タルラ

じゃあ帰ろう……一緒に帰ろう!衛生兵に輸血させてやるから!

アリーナ
アリーナ

いいのよ……でも……交換したものが……

タルラ
タルラ

いいんだ……そんなものどうだっていいんだ……私が連れて帰るから……絶対連れて帰るからな!

ドラコは一人のエラフィアを背負った。その時になって、彼女はやっと気づいたのだ、この見るからに軽々しい小鹿が、なんと、なんと重いことか……まるでこの大地のように重かったのだ。

アリーナ
アリーナ

もうそんなことしなくて……

タルラ
タルラ

ダメだ!!

タルラ
タルラ

誰だ……誰にやられた……誰がやった!?

タルラ
タルラ

治安維持隊か……!?あの村人たちか!?あのゲスども……あのゲスどもが……全員燃やしてやる……この私が……

アリーナ
アリーナ

タルラ……!

タルラ
タルラ

あ……どうした……教えてくれ!

アリーナ
アリーナ

それは言えないわ……!

タルラ
タルラ

どうして!?どうしてなんだ!!?君のための復讐もさせてくれないのか!!

アリーナ
アリーナ

ダメよ……あなた自分で言ったことも忘れちゃったの?

アリーナ
アリーナ

復讐のために戦ってはダメよ?あなたは選んだ、タルラ、あなたは一つの道を選んだんでしょ……

アリーナ
アリーナ

それを私のためだけに……途中ですべてを無駄にしちゃうわけ……?そんなの私が許さないから……

アリーナ
アリーナ

誰かを憎んでは……ダメよ。

タルラ
タルラ

何を言ってるんだ、何を言ってるんだ!そんなこと……そんなことできるわけないだろ!!!

アリーナ
アリーナ

自分で言ってたでしょ……!誰一人とて憎んではいけないって……!でないとあなたは……あなたを呪ったあの人に……呑み込まれてしまう……

アリーナ
アリーナ

……あのアーツが本当は存在していなかったとしても、あなたは……彼を体現するものに……操られてしまうのよ?

アリーナ
アリーナ

あなた自らそう言ったのよ。

タルラ
タルラ

そうだ……君の言う通りだ。でも……でも……あいつらは……あいつらは……

アリーナ
アリーナ

……彼らがどこからやってきて、また……なぜそうしたのかなんてあなたも知ってるでしょ。

アリーナ
アリーナ

自分でも言ってたじゃない……私たちが立ち向かうべきはああいう敵では……ないって……

タルラ
タルラ

もう喋るな……アリーナ……もう喋っちゃダメだ……!

アリーナ
アリーナ

いいえ……タルラ……あなたが……話してくれたことは全部憶えているわ……だからあなたも……

アリーナ
アリーナ

あなたが打ち砕くべきは……その人たちではなく……彼らをああいう風にした、ああいう風に造り上げた……このウルサスよ……

アリーナ
アリーナ

今のウルサスと……今の……大地よ……

タルラ
タルラ

分かった……分かったから、アリーナ……もう分かったから!

アリーナ
アリーナ

でも、タルラ……一つだけ憎んでもいいことはあるわ……彼らがしてきたことなら、あなたでも憎んでいいわ……

アリーナ
アリーナ

でも誰かを憎むことは……絶対にダメ。

アリーナ
アリーナ

私の言ってることは……正しかったかしら?私たちは有意義に……生きてこれたのかしら?すぅ、うっ……私には分からないわ。

アリーナ
アリーナ

私たちが何を誤ったのかは分からない……でもあの呪いがなんなのかは……はっきりと分かるわ。

アリーナ
アリーナ

あなたの怒りは……荒野を丸ごと燃やし尽くすことはできる……でも誰かを憎むことは……

タルラ
タルラ

アリーナ……

アリーナ
アリーナ

心配だわ。タルラ、すごく心配なの。もし私がいなくなったら、絶対エレーナさんに注意してもらうのよ……これもすべて……

タルラ
タルラ

アリーナ、もう喋るな!私は……君が私の傍から居なくなるなんて嫌だ、エレーナも、サーシャもイーノも、君たちを誰一人……

タルラ
タルラ

君たちを誰一人失いたくない……!

アリーナ
アリーナ

あぁ、タルラ……でも私たち全員……

アリーナ
アリーナ

出会ったのは……別れのためなのよ。

白髪のドラコは息を荒らしながら無垢な雪地を進んでいた。エラフィアの娘は彼女の背にもたれかかり震えながら、時折息を深く吸い込んでいた。

エラフィアの角から雪が滑り落ちる。冷たい雪に覆われた木々はタルラが通り過ぎたあとに静かに燃え上がった、彼女は無意識のうちに彼女が踏み進めた地に炎を燃やしていたのだ。

雪地は彼女の目の前だけに広がっていた。彼女の背にもたれかかっていたアリーナだけ暖かかった。

心臓の鼓動がタルラの背骨を伝って彼女の心に届き、徐々に弱弱しくなっていく。

彼女は叫びたがっていた。彼女は痛哭したがっていた。彼女はすべての感覚を肺から絞り出したがっていた、そうすれば今まで起こったすべてが身体のうちから消し去ることができると思っていたからだ。

しかしタルラは一声も発することができなかった。

アリーナ
アリーナ

タルラ……

タルラ
タルラ

もうすぐだ、アリーナ……もうすぐだからね!

タルラ
タルラ

だから目を閉じるな……目を閉じないでくれ!

アリーナ
アリーナ

遠すぎるわ……

アリーナ
アリーナ

嘘が……下手ね。

雪はますます降り積もる。

アリーナ
アリーナ

タル……ラ……?

タルラ
タルラ

なんだい、アリーナ。話してくれ。私に話してくれ。

アリーナ
アリーナ

……雪って……私の想像よりも……暖かいのね。

アリーナ
アリーナ

ごめんなさい……さっき話したこと……全部書き記せそうにないわ。

タルラ
タルラ

いいんだ。いいんだよ、アリーナ。いいんだ。

アリーナ
アリーナ

あの子たち……特に……イーノだけど……ちゃんと……

タルラ
タルラ

聞いてるぞ、ちゃんと聞いているから!アリーナ……続けてくれ!!

アリーナ
アリーナ

彼と話す……だけじゃ……駄目ね……

アリーナ
アリーナ

熱いわ……タルラ……

アリーナ
アリーナ

……死にたくない……私にはまだ……あなたの妹にも……

タルラ
タルラ

……

アリーナ
アリーナ

タルラ……必ず……生き……て……

これでよかった。
タルラはそのあとに起こったことは憶えていたくなかった。
タルラは何も憶えていなかった。
タルラが憶えているべきものは、すべて雪と共に溶けていった。
彼女は火の道を残し、彼女の背後にあるすべて、アリーナを除くすべては、烈火の中で悉く消え去った。

大地を覆い隠す大雪の中で、タルラは友との別れに歩んでいった。

スノーデビル隊員
スノーデビル隊員

タルラ!やっと帰ってきたか、通信にも出ないで、一体何が――

スノーデビル隊員
スノーデビル隊員

……おい……あんたが背負ってる人って……

スノーデビル隊員
スノーデビル隊員

おい、彼女息してないぞ!衛生兵!早くこっちに来てくれ!タルラ、少しだけ待って……

スノーデビル隊員
スノーデビル隊員

……タルラ?

スノーデビル隊員
スノーデビル隊員

(おい、止まらず行っちまったけど……どこに行くつもりだ!?)

盾衛兵
盾衛兵

タルラ、お前は指導者だ、勝手に部隊から離脱したことは厳重な――

フロストノヴァ
フロストノヴァ

待て。

盾衛兵
盾衛兵

エレーナ……?

フロストノヴァ
フロストノヴァ

……

フロストノヴァ
フロストノヴァ

行かせてやれ。

盾衛兵
盾衛兵

(あの哀れな娘を知っているのか……?)

フロストノヴァ
フロストノヴァ

(あまり面識はない。だが……集落で教師をやっていたらしい。)

盾衛兵
盾衛兵

(あぁ、教師か。子供たちはまたいい人を失ってしまったか。)

盾衛兵
盾衛兵

(しかしタルラはなぜ……)

フロストノヴァ
フロストノヴァ

(……誰にも心に留めていたい秘め事はある……)

フロストノヴァ
フロストノヴァ

(そしてあれは彼女だけのものだ。)

衆人の視線の中で、ドラコはエラフィアを背負い駐屯地を通り過ぎていった、彼女たちの姿はゆっくりとぼやけていき、徐々に森の輪郭へと溶け込んでいった。
そのあとに起こったことは誰一人知らなかった。
彼らはただ見ていた、タルラが黒夜に歩み入っていくところを。

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