果てしなく広がる荒野の中、赤髪のヴァルポの男が地面に蹲いながら何かに目を凝らしながらじっと見ていた。
彼からそう遠くない場所に一台の車が止まっている、白髪のループスの男の黒髪のフェリーンが車両の検査に取り掛かっていた。
どうやら三人は同行者のようであり、車もどうやら故障したらしい。

おーい、アオスタ、こっち来いよ。

どうしました?

ここに虫がいるぞ。

お行儀良く一列に並んでやがるぜ。

しかも結構長く続いているぜ、どこまで続いているか見に行ってくるわ。

……かなり元気出たようですね。

ああ、だいぶ良くなったぜ!

しかし、お前自身の身体への判断は信用できません。

お前は俺の母ちゃんかよ!

30分前まで血吐いていたじゃないですか。

はは、だが今はもう吐いてねぇだろ。

あ、やばっ、お前と喋ってる間に、虫がいなくなっちまったじゃねぇか。

まあいい、僕は車の修理に戻りますね。

おう、車の不具合とかわかったか、俺も手伝おうか?

パイプがちょっと故障したせいで、エンジンが動かなくなっただけです。

僕とブローカだけでなんとかなりますから、お前はあちこち動き回らないように。
(車のエンジン音)
稼働音が鳴り響き、ついにエンジンもようやく動き出した。

ふぅ……ブローカ、キアーベを呼び戻してきてください。

わかった。
(ブローカとアオスタが歩き出す)

おーい、ブローカ、誰が一番しょんべんを遠くまで飛ばせるか試合しよーぜ!

……今しょんべんは出ないんだ。

そんな真面目に答えなくていいんですよ、ブローカ。

もったいねぇ、しょんべんするのに最高の天気なのになー。

極寒の場所以外、しょ……用を足すのに適さない天気なんてないと思いますが。

わかってねぇな、アオスタ、こういうのはフィーリングなんだよ!

おぉ、完璧な放物線だ――※シラクーザスラング※!

どうしました?

突然風が吹いて俺様のベリッシモな放物線が俺様の靴にかかっちまった!チクショ、ツいてねぇ。

……もうその辺にして、出発しますよ、日没までに集落を探さないと、今日は荒野で野宿ですよ。

別に悪くねぇじゃねぇかよ荒野ぐらい?

そんなことより、俺まだキャンプしたことないんだよ!今日はキャンプして過ごそうぜ!

荒野は危険です、それに根本的な話をすると、盗んできたこの車にキャンプ用具なんかありません、車で寝るしかないんですよ。

それに、燃料もそろそろ尽きそうなんですよ。

ちぇっ、使えねぇ車だな。

普通街中で暮らす車の主が車にキャンプ用具を用意するとは思いませんが、余分な燃料も。

でもちょっとぐらい用意したってバチは当たらねぇだろ、自分の車がいつキャンプするために盗まれるかもわからねぇんだぞ!

じゃあお前は用意するんですか?

うーん……しねぇな。

だったらその口を閉じて出発しますよ。

おう。

出発するのか?

はい。僕が運転します。

なんだよ、今度は俺の番だろ?

お前は休んでください。

アオスタ、最近ますます俺の母ちゃんに似てきたぞ。

……

なぁ、ブローカ、お前もそう思わねぇか?

少しは。

二人とも鉱石病を患っているからじゃないですか。

良好な生活習慣は病状の進行を抑えると聞きます、だから毎日早寝早起きするべきですよ、キアーベ。

勘弁してくれ、お前知ってるか、アオスタ、母ちゃんですらそんなこと言わねぇぞ。

※イェラグ挨拶用語※黙れ。
(車のエンジン音)
そう言ってアオスタはエンジンをかけた。

曲は何を流そっかなぁ……

チッチッ、この車の主結構聞いてんな……おっ、このジャケットいいな、こいつでいいや!
キアーベがかき回して探し出したアルバムをカーオーディオに差し込み、愉快な音楽がスピーカーから奏でられた――
「♪土曜にラクダに跨りながら」
「♪ビッグスターみたいにプレゼントを持ってお前の玄関に現れよう」

(口笛)いい曲じゃねぇか。

確かに。じゃ、行きましょうか。
(車のエンジン音)

そういえばさ、アオスタ。

ん?

今俺たちはどこに向かってるんだ?

出発する前に答えたはずですが。

忘れた。

ただ聞いてなかっただけだと思いますが。

僕たちが逃げ出した時についでに、地図を拝借してきました、今は一番近くにあるロコモティヴァ市に向かっています。

確かあそこのファミリーとウチらのファミリーの勢力は拮抗していたはずです、運が良ければ、そこに加われるでしょうね。

ダメだったとしても少なくとも足をつく場所ができます。

なぁ、シラクーザの西に変な町があるって聞いたぞ、幽霊が出るって噂だ、ちょっと行ってみようぜ。

何言ってるんですか、それがどこにあるのかすら分かっていないんですよ、それにただの都市伝説って可能性もあります。

じゃあほかの十二のファミリーの都市に行ってみねぇか?

チッ、シシリア連盟も十三ファミリーの一つって言うけど、いっつも自分で騒ぎを起こしてやがる、何が連盟だよ、ったく!

そりゃあシシリア連盟は正統で大きなファミリーみたいな組織じゃなく、大小様々なファミリーが集って組織されたものですからね。

ほかのデカいファイミリーが僕たちシシリア連盟の名もない下っ端を気にするはずもありません。

ふんっ、絶対いつかあっちのほうから加入させてくださいって言ってくるからな。

どうせビアンカ市にはしばらく帰れないんです……いや、もしくは永遠に帰れないかもしれません。

それに、トリンファミリーの怒りを買ってしまったんです、ビアンカにはもう僕たちの居場所はありませんよ。

はは、あんだけ逆鱗に触れたんだ、ボスのあの、ペッ、リントンのあのブサイクなツラがどんな表情をしているのか見てみたかったぜ。

……確かに。

ハッ、まあ今更後悔したって遅いしな。

後悔か……別にそこまで思う必要はありませんよ、リントンがクズ野郎なのはま違いありませんから。

僕たちを売りさばいたくせに僕たちを利用して金を稼ごうとするなんて、そんなことさせませんよ。

ああ。俺も後悔はしていない。

ヘッ、この話はもうやめだ、初めての脱獄を新メンバーがファミリーに加入する儀式として扱ってるファミリーがいるらしいな。

んで昨日、俺たちは俺たちの元居たファミリーに歯向かって、そしてそこの都市から逃げ出してきた。

だから今この時をもって、お前らをこの俺様のキアーベファミリーの一員として迎えよう!

アオスタ、お前をファミリーの首席参謀に任命する!

あはは。

そんでブローカ、お前はファミリーの首席用心棒だ!

フッ。
「♪だがアンタは地面に向かってほくそ笑む時の自分の顔を知らねぇ――」
「♪自分のツラが――」
「♪どんだけブサイクなのかをな!」

そういえば、こんだけ走ったのに、人っ子一人見当たらねぇな。

都市の外は集落や村落が少しバラついてるだけで、元から人なんていませんよ。

なぜなら都市でつるめなくなったファミリーが荒野に出て好き勝手暴れまわっていますからね、以前ファミリーのキャラバンに何回かついて行ったことがありますが、毎回しっかり準備してから出かけていましたからね。

今の僕たちみたいななんの準備もなしに荒野に飛び出した人なんて、普通は死あるのみですよ。

ハッ、死あるのみか、上等じゃねぇか。

でも確かに、自動車整備ガレージで働いていた頃にもかなり準備してから出て行ったヤツらを見てきたな。

はぁ、逃げ出す前にもうちょい食うもんを持ってこればよかったな。アオスタ――

トランクに積んである食べ物には触れさせませんよ、あれは非常用なんですから。

チッ。

逃げ出せただけでも万々歳ですよ。

昨晩マンドルラが見張っていなかったら、今頃僕たちは目隠しされながら椅子に縛られ暗い小屋に閉じ込められていたでしょうね。

ブローカ、今度こういうことがあったらもっとたくさん食いもんを持って行くよう俺に言ってくれ。

わかった。

はぁ……もういいや。

しっかし、つまんねぇなぁ、こんなだだっ広い土地があるのに活用できねぇとは。

ここ見ろよ、ここにこ――――――んなにデッカいガレージでも造ってさ、そこで車をイジれたら、最高なのになぁ。

天災を避けなきゃいけないですからね、僕たちじゃどうしようもありませんよ。

はぁ、天災に、鉱石病、この大地はロクなもんじゃねぇな。

ブローカ、なんかおもしろいもんねぇの?

……読むか?

なんだそりゃ?

俺がさっき読み終わった小説だ。

どういう話だ?

二人の恋人が両家の矛盾によって最終的に離ればなれになってしまう話だ。

……結構感動するぞ。

いやいい、なんでそんな本持ってるんだよ。

アオスタに車を走らせてる間は退屈になるって言われたからな。

なぁ、ブローカ、ずっと前から気になってたんだがよ、お前ってそういうのが好きなのか?

好きというわけではない、ただ暇だから読んでるだけだ、結構いいぞ。

そうかよ。なぁ、それで思ったんだけどさ、アオスタ、お前彼女できたことあるか?

……ないです。

ブローカは?

ない。

なんだよ、まあ俺もねぇけど。恋愛するってどういうことなんだろうな。

なぁ、アオスタ、まさかお前もこういう本が好きなのか?

僕は政治とか歴史についての本のほうが好きですけどね。

チッ、聞かなきゃよかったぜ、その二つの単語を聞いただけで眠たくなっちまう。
「♪彼女はヴィクトリアバンドでハーモニカを吹いていた。」
「♪だがクルビアの男を愛してしまった。」

なぁ、なんか面白いこととか――ん?

おい、アオスタ、あそこを見ろ。

あれは……

お願いします、私には養わなければいけない母も、子供もいるんで……

どけ、俺様だって同じだ。

余計なことを言うと口を縫い合わすぞ、俺様を怒らせたらてめぇの身体に穴を開けてやるからな!

うぅ……

おい、アオスタ、ブローカ、いいことを思いついたぞ。

あいつに加わって一緒に強盗するだけは言わないでくださいね。

あ?あの強盗をやっつけたあと、商人から物資を少しだけ頂戴するだけだっての。

どうだ、いい策だろ?

いや、お前の言ったそれも悪くねぇな。

いや、そっちのプランにしてください。

いいのか?

いいですよ。

……分けてくれないんだったら、こっちがまた奪えばいいだけの話です。

よっしゃ!そんじゃ、全速前進だ、あのクズどもをぶっ飛ばしてやれ!ブローカ、仕事だぜ!

わかった。
(車で強盗達に突っ込む)

ボス、あっちから何かが来ます!

なんだ!?
(キアーベが強盗を殴る)

オラァ、這いつくばれや!

ふんッ!
(強盗Bがキアーベを押し倒す)

チッ。

(小声)僕がスキを作ります、そのスキに……

(小声)は、はい。

それと、ブローカ、お前は……

わかった、努力はしよう。

なにコソコソ話してやがんだ!

!

どけぇ!
(殴打音)

チッ、中々やるな、おい、こいつを囲め!

へい!

ふんッ!

……

おいモヤシ野郎、なに逃げてんだ!
(殴打音)

今です!

は、はいぃ!
アオスタの誘いにより、強盗たちは一時的に商人の存在を忘れていた、そして商人はアオスタの合図により、そのスキに車に乗り込んだ。
そして、エンジンが鳴り響き、車は埃を巻き上げ瞬く間に走り去っていった。

※シラクーザ挨拶用語※、このクソ野郎どもがァァァ!!!

おいちょっと待て、俺たちの物資はどうすんだよ?

そういう話は逃げ切ってからにしてください!
商人が強盗たちの注意を引いているうちに、アオスタたちも自分たちの車に乗り込みエンジンを起動させた。
(車のエンジン音)

キアーベ、乗れ!

おう!
キアーベが反応するよりも先に、アオスタが先んじて車両を動かし強盗たちの中に突っ込んでいった。
これに関してキアーベはすでに慣れっこである、二人を避けたあと、車が加速していないうちに、ドアノブに掴まり車内へと乗り込んだ。

逃げるなァ!

ブローカ!
(ブローカが車に飛び乗る)
ブローカも勢いよく手のドリルを振るい傍の強盗を退けたあと、アオスタが運転する車が傍をよぎったと同時に車内へと乗り込んだ。

しっかり掴まっててください!

チッ、逃がすな!
強盗たちは三人の乗る車を足止めしようとしていたが、すでに動き出した車がそう簡単に止まれはしない。
ついに、三人の車は見事強盗たちの包囲を抜け出し、地平線へと駆け抜けていった。

なにボケっとしてるんだ!?お前、お前、そしてお前、あの商人を追え、残りはあのクソ野郎三人を追え!

今日という今日はこの荒野でぶっ殺してやる!

へい!

ワァオ、アオスタ、見ろよ、追っかけてきやがったぜ!

分かってます!シートベルトをつけてください、スピードを上げますよ!
(車のエンジン音)
「♪手を上げ 腹に乗せろ」
「♪呼吸を失うな 思いっきり飛べ」
「♪てめぇを人々へ溶け込ませろ すべては始まったばかりだ」
(車のエンジン音)
アオスタはスピードを限界まで速めたが、強盗たちは依然と後ろに食らいついていた。

諦めの悪いヤツらだな、は――ゲホッゲホッ。

キアーベ、連中を見るために頭を外に出すのはやめてください、窓閉めますよ。

ブローカ、中に引っ込ませてください。

ああ。

ゲホッゲホゲホッ――なんだよ!?

アオスタが頭を外に出すなと。

どうしたんですかキアーベ、急に咳なんか出して?

さあな、たぶん風でむせちまったんだろ。

それだといいんですが。

いいニュースと悪いニュースがあるますけど、どっちから聞きたいですか?

悪いニュースから。

燃料がもうすぐ尽きそうです。

ハッ、そんでいいニュースは?

いいニュースは、燃料が底をつく前に、あいつらから逃げきれそうです。

おっ、もうここから移動都市の壁が見えるぞ。

ええ、おそらくあれがロコモティヴァ市でしょうね。

ヒュー、結構立派じゃねぇか、俺たちがいたビアンカよりもよっぽど貫禄が――ゲホッゲホゲッ。

キアーベ、本当に大丈夫ですか?

大丈夫だ大丈夫だ。

……じゃあお前も一緒に車を押してください、見た感じ近いですけど、歩いていったら一日はかかると思いますよ。

燃料も底をついたというのに、こいつを持って行ってどうすんだよ?普通に歩いて行ったほうが速いだろ。

実は燃料はあと少しだけ残っています、都市に近づいた時やあいつらが追い詰めてきた時に使おうと。

それに、こいつは今僕たちの一番値の張る資産なんですよ、手ぶらで知らない都市で食い繋げられるとでも思ってるんですか?

(口笛)わーったよ。
不満げな表情をしていたキアーベだが、彼も車の端に行き、二人と一緒に車を押し始めた。

なぁ、アオスタ、オーディオつけて音楽流すぐらいなら別にいいだろ、そんなに燃料食うわけじゃねぇんだし。

……それなら別にいいですけど。

よっしゃ、へへ、どれどれ――今度はこいつにしよう!
「♪ハロー、光よ、私の古い友よ」
「♪また君と一緒に語りたい」

チッ、全然盛り上がんねぇ。

僕はわりと好きですけどね。

俺もそう思う。

わーったよ、二人とも好きならこれでいいよ。

なぁ、そういえば、アオスタ、俺たちがどうやって知り合ったかまだ憶えているか?

え?憶えていますけど。

当時お前は車の修理人で、僕のファミリーの人と騒ぎを起こしたから、お前を片付けるため僕が送られましたよね。

へへ、そんで俺たちは殺し合いのうちに気が合って、そんでダチになったんだよな。

フッ。

ゲホッゲホッゲホッ。

おい。

平気だ。ブローカはどうなんだ、お前も憶えているか?

当然だ、忘れるはずもない、俺はお前たち二人に救われたからな。

はは、そうだったな、お前ってヤツはホントバカだよな、自分のファミリーに売られちまったことも知らなかったなんてよ。

ああ。

……だとしたら、僕たちもう知り合って結構経ちますね。

そうだな、ゲホッゲホッ。

キアーベ。やっぱり車で休んでてください、無理は禁物ですよ、僕とブローカが車を押しますから。

フンッ、無理なんかしてねぇよ。

ブローカ、俺たち二人は同じ時期に鉱石病をもらったはずだったよな?

さあな。

たぶん違うと思います、お前たちはほぼ同時期に検査して発覚しただけですから。

ブローカは確か何者かによってオリジウム製品で傷をつけられた罹ったんでしょう。

お前に関しては、普段から防護措置なんか全然施そうとしませんでしたからね、いつ罹ってもおかしくないですよ。

へいへいへい。

ゲホッゲホッ、アオスタ、ずっと俺たちと一緒にいると、いつかお前までこれに罹っちまうぞ。

そうでしょうね。

でも罹ったとしても別に嫌だとは思いませんよ。

あ?なんでだよ?

二人が苦しんでるところをただ見てるだけよりマシですから。

あははは、さっすが俺のブラザーだぜ。

ホント今日は無駄口が多いですね、やっぱり車で横になっててください。

ゲホッゲホッ。

アオスタ、俺自分の嫌いなものリストにこれも加えとくわ。

何をです?

鉱石病だよ。

……ブローカ、キアーベを車にぶち込んでください。

わかった。
今までずっと寡黙だったブローカが話を聞いて近づき、キアーベを抱え上げ車の後部座席に座らせた、そしてまた元の位置に戻り車を押す作業に戻った。
車の中で横になっているキアーベは、太陽が眩しすぎるのか、腕で両目を遮った。

ヘッ、こんな病のせいで、俺たちはリントンのクソ野郎にゴミのように捨てられちまった。

おまけに咳も止まらなくなっちまった。

アオスタ、俺たちが十三ファミリーの頭領になった暁には、俺が絶対この鉱石病を解決してやるよ。

……ええ、その時になったらたくさんの専門医を呼んでこの病を研究させたり、もしくはすごい病院を探して、そこに金を渡して研究させましょう。

ハッ、そいつぁいい。そんで俺様はもっとでけぇ病院を作って、罹っちまって見下されてきたヤツらを全員そこにぶち込んで治してやるんだ。

ついでにそいつらをいい目で見ていない連中も片付けてやる。

俺も手伝おう。

ハッ、もちろん手伝ってもらうさ、アオスタもだぞ、忘れんなよ、お前らは俺の首席参謀と用心棒なんだからな。

ええ。キアーベ、もう話はいいですから。ちゃんと休んでください。

ゲホッゲホッ。

なぁ、アオスタ。

……なんです?

荒野で死ぬってのはどうなんだろうな?

は?

何を言ってるんですか。

十三ファミリーの頭領になるんでしょ?こんなところで死んでたまりますか。

へへ、そうだよな。

でもじっくり考えてみたんだ、荒野で死ぬのも別に悪くねぇなって。

いくら偉大なヤツでも死んじまったら墓の中だ、荒野で死ぬことと数百万もする床で死ぬことになんの違いがあるんだよ?

石ころを何個か見つけて、穴掘って、そん中に入って、目を閉じる。

バンッ――――そんで死者の出来上がり。

悪くねぇとは思うけどなぁ。

ちょっと待ってください、キアーベ、一体何を言ってるんですか?

俺が言いてぇのは、今日の空は、クソ※シラクーザ感嘆言葉※青いなぁ――
「♪私を果てしない荒野に、埋めてちょうだい。」
「♪あぁ友よまた会いましょう、また会いましょう、会いま――」
蓄電池の容量が尽きたのか、カーオーディオから流れていた音楽も突然止んだ。

キアーベ、キアーベ!?

ここで死んではダメですよ!?

ブローカ、車に乗ってください、付近に集落がないか探してみます、最悪診てもらえる人が……

すぅ……すぅ……

……

アオスタ、寝てるだけだ。

……この野郎。

でも、キアーベの容態は決して楽観視できません、感染者を治療してくれる医者を探してあげればいいんですが……

おーい、アンタらの車なんか故障でもしてるのか、助けは必要か?

へい、刺身三人前でやす。

はは、やっと来たか。

ありがとうございます。

どうも。

つまり、キアーベさんたちはあの時ロドスに助けられたからロドスにやってきたんですかい?

いえ、あのオペレーターはルーラーというコードネームでして、ルーラーさんが僕たちをロコモティヴァ市にあるロドスの事務所に連れて行ってもらって、その後そこに駐在していた医療オペレーターにキアーベを治療してもらったんです。

んめぇ、ジェイの料理はやっぱ最高だぜ。

ありがとうございやす。そのままロドスの加入したのかと思っていやした。

入れるわけねぇよ、あん時はまだお互いのこと知らねぇし、薬と交換するために、アオスタはあの車を差し出しちまった、あん時はロドスは詐欺グループかと思ってたぜ。

はは。

でもロドスの薬はよく効いたぜ、なぁ、ブローカ。

確かにな。

僕たちがどうやってロドスに加入したかでしたら、簡単に言うと、キアーベがロコモティヴァ市にあるファミリーのボスのひんしゃくを買って、僕たちはまた追われる身になった。

そしてまた、ルーラーさんに助けられた。

そして彼が推薦してくれたおかげで、僕たちはロドスに入ったというわけです。

なるほど。

へッ、言っとくが、アオスタ、あれは俺のせいじゃねぇからな。

わかってますよ。

また新しいお話があるようですね。

へへ、ジェイのあんちゃんはまだ時間はあるか?あったらたっぷり聞かせてやるよ。

もう夜中ですし、明日も別に任務もありやせんから、龍門からもってきた酒をもってきやす、飲みながら話ましょうや。

はは、そいつぁいい。

あの夜、俺とアオスタがちょうど……
真夜中の食堂で、男たちの物語がまた一つ始まったのであった……