
本当にありがとうございます、ウタゲさん、それにビーンストークさんも、一緒に薬草を探すお手伝いをして頂いて。

いいっていいって~、アタシこういう外勤任務めったに受けたことなかったからさ、新鮮で楽しかったよ。

それにそんな堅苦しくしないで大丈夫だって、ウタゲでいいよ、女の子が一緒にお出かけするんだったら楽しく、親しくなきゃね。

アタシらもう友だちっしょ。

あ、そ、そうでしたか!?友だち……でも私……

わ……私流行りものとか全然詳しくありませんし、お話もそんなに面白くないですし……それでもウタゲさんとお友だちになれるのでしょうか?

何言ってんの、いいとか悪いとかあるわけないっしょ?アタシの連絡帳に名前が載っていて、いつでも誘えられる人だったら、それはもう友だちだよ。

ほら、もうミルラ加えちゃったからね。

すごい!ウタゲさん……色んな人とお知り合いなんですね!

あれ、このグループはなんですか?

あぁ、これは「お昼休憩のネイル」グループだよ、アタシの連絡帳の中で一番人数が多いグループかな?

はぁ……

じゃあこっちは?

これは「まとめ買いクーポンシェア」グループだよ。

じゃあ、これは……

「イベントには来ないけど参加費は支払いたい」グループ!あはは、ここにいるみーんな大事な大事な友だちなんだよ。

……

(あんなグループに加えられたら……私たぶん……泣いちゃうかも……)

(……でもそんなことするはずないよね?)

おっ、なんか面白そうなグループじゃん、あたしにもそこにいる仲いいお友だちを紹介してよ!

あ!ビーンストークさん、おかえりなさい!

おっまたせ~。

ちょっと途中で道が歩きづらくなっちゃってね、時間かかちゃった。

ついでに聞きたいんだけど、ウタゲはあたしとミルラをどこに入れたの?その仲いいお友だちグループには入れてないよね?

安心して、入りたがっても入れないから。

アンタは「次は絶対アタシの代わりに奢ってね」ってとこ、彼女は「医療部」だよ。

は?ちょっと待って、それってどういうこと?あたし今までそこそこ奢ったじゃん!

それに、なんでミルラのグループだけそんなシンプルなの?

あはは……それだけでも十分ありがたいですよ……

お医者様がアタシを治療してくれてるんだよ、多少なりとも尊敬しないといけないでしょ。

(小声)っていうかお医者さんの機嫌を損ねさせようと考える人なんているわけないじゃん。アタシでもそこまでバカじゃないよ。

もうそんなチャチなこと気にしないでよ。さっき偵察しに行ってきたんでしょ、どうだった?ここ周辺にまだ探してる薬草生えてる?

結構たくさん採れたからからさ、もしなかったら、このまま撤収してもいいんじゃないの?

ふん、ちょうどそれを言おうと思ってたの!グループの話はまた後でじっくり聞かせてもらうから……

オホン。

結論から言うと――収穫ありだよ。

さっきピーちゃんたちに手分けして探させたんだけど、ここからもう少しだけ北に進んだところに、あたしたちがまだ行ったことがない緑地が見つかったんだ。

ピーちゃんってアンタが飼ってるペットだったっけ?結構役に立つじゃん。

当然でしょ!へへ、こんなことぐらいあたしのピーちゃんたちならちょちょいのちょいだよ。

ここから北ですか……湿度や、光の照りこみぐらいと地形からしてみると、確かに薬草が生えるには適した場所みたいですね!

よかったぁ、なら早く行きましょう!

ちょいちょい、ちょっと待って、まだ話終わってないんだから!

えーっと……さっき配られた地図は、どこだっけ……あった!これを見て。

あたしたちの現在の位置はこの赤い点のとこ、そんでその緑地はこの位置、ここだね。

あ、ここって……

どしたの?どれどれ。

うげっ、ウチら艦からもうこんなに離れてるの?その先は、上に何か書いてある……

イなんとか……もう、字ちっちゃすぎでしょ、イベリアって書いてるのかな?

イベリアかぁ……

あそこの移動都市はコロコロと色が変わったり、通った土地では草一本すら生えないって噂を聞いたことがあるよ、本当かどうかは知らないけど。

えっ、ウソでしょ?

もし源石エネルギー技術問題による汚染でしたら、土地に一定の影響を及ぼすので可能性としてはありますね。

しかし草一本も生えないのは……ちょっと大げさすぎませんか?

こんなの全然大げさじゃないし、まだまだ序の口だよ。イベリアの都市は変形もするって噂もあったんだよ!

都市のブロックが飛散してまた組み合わさって、手も足もない、すべてを呑み込む巨大なバケモノに変形するんだって!

ば、バケモノに変形する!?

それ、私が聞いたのと全然違うんですが……

話題変わっちゃってるよ、今はこのまま進むかそれとも帰還するかって話じゃなかったの?

それとも、今はイベリアの流言飛語を楽しむお時間にでもなっちゃったのかな?うーん……まあそれはそれで悪くはないけど。

どうせここにイベリアには詳しい人なんていないんでしょ?だったら自分の知ってる噂とか知識を披露し合おうよ、もしかしたら参考になるかもじゃん?

うーん……それもそっか、どうせ時間なら余ってるんだし。

あたしはもう言ったから、次!ミルラの聞きたい!

えッ、私のですか?

もっちろ~ん。

わ、わかりました……でも、そんな参考になるようなものじゃないですよ……

じゃあ、イベリアにはゴーストシティがたくさんある、というお話を……

(小声)えぇ――それあたしのと大差ないじゃん……

(小声)いいからいいから、聞いてあげようよ。

噂によると道に迷った人はそのゴーストシティに迷いこんじゃうらしいんです、街の中はとても寒いうえに怖くて、地面には青い石が敷き詰められてて、教会には誰もいないとか。

でも……よーく見ると、街の建造物は空っぽのように見えますが、実は宝石とかが埋め込まれているんです、広場には彫刻が積み上げられてて、その彫刻は全部黄金でできているらしいんです、しかも純度の高い黄金なんだとか。

宝石!黄金!

あれっ、でもなんか黄金城のお話に似てるなぁ、ウチの父ちゃんがいっつもその歌を歌っててさ、小さい頃すごく憧れてたんだよ!

でももし本当にそんな街があったらいいなぁ、どこを見ても宝石に黄金……一回でもいいから見てみたいなぁ。

あはは……でもああいうのは見ないほうがいいと思いますよ……

ゴーストシティでは、夜な夜な、目に見えない何かが毎晩教会で祈祷してるらしいんです、耳元で誰かがため息してるのも聞こえるらしいんですよ!

それに、誤って都市に入っちゃった人は、身体が徐々に固くなって、動きも徐々に遅くなって、お爺ちゃんお婆ちゃんみたいになっちゃうらしいんです、話すスピードもどんどん遅くなって、ついには思考することもできなくなるとか……

うわぁ。それはえげつないね。

最後は全身動けなくなり、声も出せず、考えることもできず……人がまるで街の黄金彫刻みたいになっちゃうんです、うぅ、あの彫刻は実は生きてた人だったんです!

……怖ぁッ!

う、ウソだよね?そんなことあるわけ……それあたしが知ってる噂以上に支離滅裂じゃん。

ウソに決まってるって。お話的には面白かったけど、もしその噂が本当で誰も生きて脱出できなかったら、噂が流れるわけないじゃん?

ですよね……

だから最初に言ったじゃないですか、参考価値なんてないって。

これらの噂は全部ハルモニーと一緒にあちこち探検した時に、聞いた話なんで……ホント根も葉もない噂なだけですよ。

探検?

あ、実は……ロドスに来る前は、友だちと色んなところに行って探検してたんです、危険な場所ほど、珍しい薬草が採れたので。

へぇ、意外、ミルラも結構大胆なところあるんだね。インドアで、いっつも部屋に籠って薬の配合しかしてないタイプかと思ってた。

それにビビりな性格とも思ってた。

いえ、そこまでは……

じゃあ今度はアタシの番かな?

さっき思い返してみたけど、そういった類の噂は誰かから聞いたことあったようなないような……

えええ、これまだ続くんですか!?

つまんなそうにしてたくせにホントは結構ハマってんじゃないの……

アタシも話したくなっただけだってば。

うーん、イベリアのカーニバルって知ってる?これに関しては噂でもなんでもない、本当のことだよ、本で見たから。

聞く話によるとすごく盛り上がる祭りらしくて、観光客も大勢参加しに来るんだって、でも今はそんな情報めっきり減っちゃったんだよね、なんか、廃れちゃったとか。

でもね……噂によるとぉ……

噂って?っていうかそ、その話し方やめてよね、ゾワゾワする……

確かにちょっと……

わかったよ、真面目に話すから。

実はそんな大したこともなくて、カーニバルは実は廃れてなくて、一般人は参加できなくなっちゃったんじゃないかって話。

その日になると、街中墓から蘇った屍だらけになって、手とか足がもげた奴らが盛り上がるんだってさ。だからその時の街の市民たちは窓も扉も閉めて家に引きこもって、絶対に外に出ちゃいけないんだって。

外に出たら、どうなっちゃうの?

そこまでは知らないなぁ、色んな説があるわけだし。

外に出たら食べられるとか、外に出たら呪われるとか、みんな列になって郊外の森に行って首を吊っちゃうとか。

とにかくどの説も、ロクな結果じゃないのは確かかな。

はい、アタシの話はおしまい。

どう?まだ続ける?

……

あれっ、表情が硬いよ。もしかして……怖いの?

こ、怖くなんかないもん!そんなわけ――

そうだよね、怖くなんかないもんね。じゃあ続けるけど。

ひっ。

あはは……

(ウタゲさん、顔がもう完全に楽しんでる。)

(はぁ……)

そのぉ、話題が……逸れすぎちゃったんじゃないですか?

……そうだよ!

そろそろ本題に戻ったほうが……

こんなうわさ話を語っても、なんの参考にもならないと思いますし。

それにちょっと……

それに聞いてるとゾッとする。そう言いたいんでしょ?

でも、たぶんその地区全体が封鎖されたから、噂もどんどん尾ひれがついちゃってこんな感じになっちゃったんだろうね、まあこういうのは普通だけどね。

それで、ウチらは北に進んだほうがいいの?

オホン。

薬草も結構採れたでしょ?だから……さ。

……だから、もう帰らない?

そうですね……

ん?ミルラ、急にボーっとしちゃって、どうかしたの?

あ、いえ、なんでもないです。

ただちょっと気になってて……

こんなに恐ろしい噂が飛び交ってるイベリアって……一体どういうところなんでしょうね?

待て、この野郎!逃げんじゃねぇ!

……

ホセ、俺の言うことを聞かないとはいい度胸だな!止まれ、逃げんな!

あッ!

ううぅ……

おい……ちょっ、泣くことないだろ、自分で転んだんだし、俺は何もしてないからな!

早く立て!もう変なことすんじゃねぇぞ……お前と学校の先生が俺の悪口を言うから悪いんだ、おかげでこっぴどく叱られたよ!

言ってない、ウソなんか言ってないもん!

ぼく見たんだもん!アントニオ君、君がミリッサおばさんが机に置いてあった小銭を盗んだ――

なんだとぉ、まだウソつくのか!この密告野郎の臆病者が!

おくびょ……違う!臆病者なんかじゃないもん!

これこれ、坊やたち、喧嘩はよしなさい。

ひと時の怒りに身を任せてはいけないよ。情緒で我を失うな、さあ、坊や、立ちなさい。

誰だ余計なことをしやがるのは!?

ひぃ……!

お前……いや、あなたは――

そ、その、ありがとうございます……でも大丈夫です、自分で、立てますから。

ぼくの身体に泥がついてるから、あなたの手を汚してしまうので……

あぁ、配慮してくれてありがとう。

しかしそんなことをする必要はない。泥が汚いなんて誰が言った?私たちが着る服も食べるものも、みな元は土から生えたものからできたものじゃないか。

私の手に掴まりなさい、さあ。そう、それでいい。

あなたは、都市からやってきた偉い方ですか?

私のことを知ってるのかね?

村中に伝わってましたよ、今日都市から偉い人が来るって、村でえん……なんだっけ……

えんぜつ、そう、演説をしに来るって!

今日は、演説しにここに来たんですか?

そうだよ。察しがいいね、坊や。

我らの高貴で崇高なる律条を説きに行けと、委任されてここに……

教会の主教様なのですか!?

うむ、いかにも。

教会の律法のほかにも、ラテラーノのお話もしてくれるんですか?

もちろん。しかし、坊やたち、それだけじゃないさ。

我らの律法は我らに、崇高な戒律は決して滅びることはないと、我らはそれを信じ、それを遵守し、それに敬意を表するべきなのだと説いてくれる。教えてることは正しい……正しいのだが、しかしそれでは距離が空いてしまうというもの。

私はただの一介の凡人だ、見聞も他人のより崇高とは思っておらんさ、なので、ほかにも私たちの身の傍にある称えるべきお話もたくさん話してあげよう。私は人々と戒律との間にある距離を縮ませるためにここにやってきたんだよ。

主教様、なにを……話してるんですか?難しすぎて、俺よくわかんないです。

あっ、主教様、どっかに行かれるんですか、村長の家に行くんだったら、俺が案内しますよ!

ありがとう。

私が何を言ったかは重要ではない、重要なのは――君が何を聞いたかだよ。無理して理解しなくともよい。

こっちに行くのかい?おっと、気をつけなさい、そこの花を踏まないように、すくすくと成長させてあげよう。

ま、待ってください……

主教様!

ん?

なにかな、坊や。

……

聞いてたんですか?

……ぼくがさっき言ってたこと、全部、聞いてたんですか?

――否定はできぬ。

君が転んだ時から、すべてはっきりと聞こえていたかもしれないね。

しゅ、主教様、俺、俺本当は――

主教様!違うんです、全部ウソだったんです!

全部ぼくがついたウソだったんです、だからどうか!

……

自分はありもしないことを話した、そう思っているのかい?

ぼくは……

アントニオ君は悪い人じゃありません、ただ、彼はただ……

……

……そう!ぼ、ぼくがありもしないウソを話したのがいけないんです!見間違え……そう、ぼくの見間違えだったんです!アントニオ君は盗みとかしていません、主教様!ぼくの見間違えだったんです、だからどうか彼を連れて行かないでください!

ホセ!

ホセ、や……やめろ!

……

う、ウソがいけないのはわかっています。ただアントニオ君のことを嫉妬していたんです、ぼくのほうが彼より全然成績がいいのに、なのにご飯もお腹いっぱい食べられないし、学校ももうすぐ行けなくなっちゃうし、だから彼のことが妬ましいんです!

モノを盗んだら捕まっちゃうのは、わかっています、隣のフーゴお兄ちゃんも都市でモノを盗んだから捕まっちゃって、それで二度と戻ってこれなくなって……

だからぼくが先生に彼を密告して、彼を陥れようとしたんです!全部ぼくが悪いんです!

全部ぼくのせいなんです、だからぼくを捕まえてください!ぐずっ、だからどうか彼を見逃してやってください……

……「他者を惑わすことなかれ、同じく己からも逃げることなかれ」か。

お前何言ってんだよ!そんなこと言えって言ってないだろ!

俺です!主教様、聞いていたんですよね、俺がモノを盗んだんです……!

アントニオ君!

もういい、ホセ。もう……俺のためにウソを言うのはやめてくれ。

お前そんなヤツじゃなかっただろ!お前この前ペトロのクソジジイに足を折られた時だって、今みたいにウソをつかなかっただろうがよ!?

……ぼくは……

ほう。嘘か。

悪意ある嘘は人を滅ぼす、それは卑劣なのは間違いない。しかし……善意ある嘘はむしろ人を成就させる。

話を続けてくれ、坊や。

話はこれだけなんですよ!

俺はミリッサおばさんの金を盗んだ、でもあとでちゃんと返します!もう村で仕事を見つたしそれで働いて返すつもりです、報酬もかなり出してくれるらしいんです!

俺が悪かったんだ、だから謝りにいきます。ただもう少し時間をくれれば、盗んだ金も一緒に返せますので。

でもなんで、なんでそんなことをしたの?

……

……学費……

え?

お、お前まだ学校に行きたいんだろ!?お前はほかのヤツよりも頭がいい、ただ金が足りないから――

ぐずっ……

……

チッ、なんでもない!だからなんだってんだよ、ほっとけよ!

話はこんな感じです、俺が好き勝手盗んだんだ、でもちゃんと返すからな、あなたに聞かれたのは運が尽きたからなんだろうな!なら煮るなり焼くなり好きにしてください!

だから主教様、俺を捕まえるんだろ?なら早く俺を捕まえてくださいよ!

アントニオ君……

焦るな、坊や。

君は自分は悪いことをしたと思ってる、そうだね?なら、今ここで懺悔するかい?

そ、そうだよ!懺悔しようよ!

罪を認めて、許しを貰えればもう罰せられなくて済む……

主教様、どうか彼を許してください、アントニオ君のことをお許しください!これからちゃんといい子でいますから!

俺は……戒律では、盗みも、騙しも悪だって書いてた、だから確かに俺はいけないことをした。

……でも後悔はしていない。これしか方法を思いつかなかったんだ、だからお仕置きされても、俺は後悔しない。

主教様、後悔していない人でも懺悔していいのですか?

それは君次第だよ。君がどう思うか次第だ。

人はみな弱さを持ってる。過ちを犯さない人などおろうか?

しかし犯してしまったら、懺悔さえすれば果たして赦しは得られるのだろうか?人を許せる人などおろうか?

……わかんないよ……

俺のしたことは悪いことじゃないとでも言うのですか?いけないことをしたのに懺悔すらしないなんて、俺はとんだクソ野郎だ……

一時的に犯した過ちだけで、悪人になるとでも?

悪意を以て過ちを犯し、すでに相応の罰も受けた、それにより悪意が本当に消え去ったとしても、罪人は罪人ではなくなるのか?

それは……違うと思う……

アントニオは財を盗んだ、それは確かに戒律に反している。そして君、ホセ、君はさきほど彼を庇うために、私に嘘をついた、これもまた戒律に反する行為だ。

では君は彼を悪人だと思うかい?

嘘もまた教義に背くことだ。君は自分を悪人と思うかい?

ぼくは……

ぼくは違うと思う……でも、ぼくも間違いを犯した!アントニオも間違いをした、彼が懺悔をしないんだったら、どうやって許しを貰えますか?

悪を受け入れるしかないのでしょうか?

もちろん違うさ、ホセ。受け入れては駄目だよ。

我らの経典は我らの生活を正し、悪を戒めそれを罰し、善へと向かわせてくれる。法典の元では、いかなる悪だろうと受け入れはしないのだよ。

戒律にあるのはそのための罰だ。それには力があり、過ちを犯した本当の罪人を罰する。

善へと向かわせることはただの罰ではないのだよ。

それって一体なんですか?

父ちゃんは棍棒と箒だって言ってました。

本では……悔むことだって書いてました。悔やんで、間違いを認めて、それから正しいほうに向きなおるって……

その通りだ。

君たちは過ちを認めている、友情も、おもいやりの心も持ち合わっている、それは大いに結構なことだ。

しかしね……「過ちであることを示す前に、まずその人に正しさを示せよ」だよ。

アントニオ、今は自分にその問いを投げかけるといい。

自分に問うんだ。この一連のことの中で、どこが間違っていて、自分たちを罪のほうへ走らせたのかをとね。

アントニオ、君はどうして窃盗したんだい?

それは……それは大人に比べて俺は力が弱くて、俺を雇ってくれる人なんて全然いなかったから。それでお金が足りなかったから。

違うよ!アントニオはぼくのために……ぼくに実力がないのがいけないんだ、ぐずっ……

だから違うって言ってるだろ!な、泣くんじゃねぇよ!

……俺わかったよ、主教様。俺にもっと実力があれば、もっと早く仕事ができていれば、それでお金を稼げていたら、こんなことはしなかったはずだったんですよね。

ぼくも……ぼくももっと強ければ、働けていれば、ほかの人に迷惑をかけずに済んだんだ……

君たちがこの問題の本質に気づいて私は嬉しく思うよ。

私たちの肉体は往々にして脆弱だ。いくら理想的な初心を抱いていたとしても、何かを達成するためには不当な手段を取らざるを得なくなる。私たちの多くの同胞たちもそれにより過ちを犯してしまった、遺憾に思うばかりだ。

しかし――もちろん、私たちはこの逆境を乗り越えることができる。我らの律条はラテラーノよりもたらされ、輝かしい先人たちが蒔いてくれた、それは私たちが踏みしめている土地から芽生えた光なのだ。

光は百年もの災いがもたらした暗い日々を過ごす私たちや、私たちの内に秘めた弱さに勝つための助けになる。

我らの信徒が律条を一種の束縛と思わなくなり、その中にある最も純粋な部分が見えるようになることを、私は常に願っているよ。

えっと……深すぎて全然わからないよ、主教様、じゃあ俺たちがどうすればいいんですか?

信仰し続けるんだ。それをし続けてきた君たちは大変立派だよ。

我らが団結するのは、我らが善に向かおうとするのは、我らが善を行っているのは、すべて律条が私たちの心を清め、私たちに私たちの心の内にある本来の善、本来の姿を見せてくれたからだよ。

これこそ私が君たちに教えたかったことだ――

信じるのだ。心の力を信じるのだよ。

信条も、友情も、愛情も。「自分の手足を扱うように、助けが必要な人に手を差し伸べ、よくもてなしなさい」というように、アントニオ、君はホセのために過ちを犯した、ホセも、仲間を庇うために嘘をついた。

窃盗の嘘も過ちであるのは変わりない。しかし君たちがそれを認めれた、であればその小さな反逆とてすぐさま改められるだろう。

私もそれで過度に君たちを責めはしない。とにかく私が言いたいのは、兄弟に接するようにお互いを接し、友愛をもって行動しなさい。個々人だけではちっぽけな存在かもしれない、しかし友愛と団結が私たちを強くしてくれる。

法典の教えを信じる限り、その中にある善への鼓舞と呼びかけを掘り当てられれば、私たちの心はより親身になりえる、仲のいい兄弟や姉妹たちのように。

さすれば、私たちは最後に自分の心を呼び覚ますことができる。その中にある善と力は……

私たちをいかなる困難にも打ち勝てるようにしてくれるのだよ。

えっと、あんまりよくわからないです、主教様。

ぼくもあんまり……

主教様、ちょっと難しすぎます。

辛さも、困難も恐れてはいけないということだよ。

大丈夫、たとえ今理解できなくとも、君たちの心の中にあるものが崩れることはない。

主教様!ここにおいででしたか、演説台はもうすでに準備できております、みんな主教様の説教を待ち望んでおりますよ!

こ、これは一体?この子たちが何かお気に障るようなことをしたのですか?

なんでもない、みないい子だ。

さあ、これ以上みなを待たせるわけにはいかん、アントニオ、すまないが道案内を頼む。

は、はい!

それとホセも……ほれ、一緒に行こう。

共に広場へ行き、そこにいる人々と一緒に自分たちの過ちを認め合おう。そして自分をより強く、より優しく、より美しくしようじゃないか。

将来何をしようと、まずは自分の心をはっきりさせるんだよ、自分の心に問うんだ、その考えは、その衝動は、本当に本心から来たものなのかとね。

イベリアをより良くし、自分たちをより良くする力はすべて心の内に秘められているからね。

忘れることなかれ、坊やたち。

自分を信じるのです。