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【明日方舟】サイドストーリー「画中人 WR-6 画中」後半

墨魎
墨魎

グギャア――!

(戦闘音)

ラヴァ
ラヴァ

……墨魎の数が少なくなってないか?

クルース
クルース

確かに少なくなってるね。それに怖さも前より薄れているような気がする。

ウユウ
ウユウ

恩人様、もしかしてこいつらも記憶がリセットされたんじゃないのかい?

ウユウ
ウユウ

来る日も来る日も、ゆく年くる年、こうして無意味に村を襲わされているなんて……憎いと思うがなんて哀れなことなんだ!

ラヴァ
ラヴァ

どうだろうな、人の言葉が喋れるわけでもないし――

ウユウ
ウユウ

こいつらは――もしかすると、人の言葉が喋れるのかもしれないよ。

サガ
サガ

それは誠か?住職様は常に慈悲の心を持てとおっしゃっていたが、もしそれが誠なのであれば、手も下しづらくなってしまう……

ラヴァ
ラヴァ

もしここが本当にただの絵巻の中なんだとしたら……

ラヴァ
ラヴァ

……だとしたらここは、アタシらが探してた目的地で間違いない。

ラヴァ
ラヴァ

とっくに気づくべきだった、ニェンのヤツ、あえてアタシらにこのことを教えなかったんだろうな……

クルース
クルース

私たちが綻びを見せちゃったら、シーさんにまた逃げられちゃうって危惧していたからなのかな?

ラヴァ
ラヴァ

こんな超人的な力を持ってる人が、逃げると思うか?正直に言うと、アタシも内心その人が怖くなってきたぞ……

ラヴァ
ラヴァ

どういった具体的な原理で働いているのかは一旦置いといて、自分で創造した小宇宙にアタシらみたいな生きた人間を収容して、一体何がしたいんだ?

ラヴァ
ラヴァ

絵の中の飲める食えるものはすべて本物のようだった、それだけじゃない、中にいる人たちだって普通に会話ができた、一体何を考えてるんだ?

ラヴァ
ラヴァ

もしアーツだけでこれら全部を創造したっていうのなら、あのニェンの妹はきっと――

クルース
クルース

……そうだね。今までも色んな変わったアーツを見てきたけど、今目の前にあるこれらは、ちょっと常軌を逸し過ぎているよ。

ウユウ
ウユウ

お二人が探しているその人って……そんなにとんでもないお人なのかい?そ、想像もつかない……

サガ
サガ

そうか?しかしこの婆山鎮は、拙僧が今まで遊歴してきた山河の中で、最も素朴で普通な場所だと、拙僧は思っておるぞ。

ラヴァ
ラヴァ

……ほかにどんなところに行ったことがあるんだ?

サガ
サガ

であれば長い話になりまするぞ。

サガ
サガ

以前は、酒を剣と成し、稲妻が如く飛び回れる人を見た。稀に見る奇人的な武術で、滝を逆上して上り詰めた人もおったな。

サガ
サガ

八歩の才を持っていながらも、棺を担ぎ謁見を強いられ、人々からの迫害を繰り返される人も見た――

サガ
サガ

あの北懸の巨石もこの目で見たぞ、いつぞやの皇帝が即位された時、突如と地面から丸い巨石が現れ、空中に浮いたという伝説のあれだ。

サガ
サガ

当初はみなそれを吉兆と見なしていたが、「重責を負う」という意味合いにも取られ、それを凶兆と捉えている人も少なくなかったでござる。

サガ
サガ

仰ぎ見る高山の上に、天災が残した源石の藪の中にある、天に届かんとする巨松も見た、傲然と聳え立ち、雲海を切り分け、天の端をも見渡せるほどであった。

サガ
サガ

青鋒が棋盤を刺し貫く場面も、鉄鍋が法帖を煮込む場面も見た、それにとある大炎の貴人が、たった一人で一つの城を鋳造したところも見たぞ、しかしなぜだかは知らぬが、城はぼやけていて、遠くから見る分にはいいが、近くで見ることは許されなかった――

サガ
サガ

それと、とある大炎皇帝の異郷の知己にも会ったぞ、真龍に西へ向かうと告げて、八百万もの存在するかどうかも定かではない都市を見て回ったというのだ。

サガ
サガ

そのお方が口を開ければ、その風景が鮮明にも目に浮かべることができるほどであった、まさに絶景かな!

サガ
サガ

――とにかく、拙僧は数えきれないほどの奇人奇事と巡り合ったのだ!

ウユウ
ウユウ

ふむ、北懸の巨石なら聞いたことあるぞ、しかしあれは大昔に天災の襲撃に遭って遺棄された名勝地だったのでは?

サガ
サガ

まさしくその通りだ、ちなみにこの目で直接あの巨石が浮いたところを見たぞ――

ウユウ
ウユウ

一体何年前に遡るんだい!?

サガ
サガ

先にみなに確認させて頂きたい、お主らは、あの人の姉上をご存じなのか?

ラヴァ
ラヴァ

ああ。

サガ
サガ

ではお二人のご関係は……如何なものだ?

ラヴァ
ラヴァ

……

クルース
クルース

ん~、一番肝心なところを聞いてきたね。

ウユウ
ウユウ

もしや姉妹は仲があまりよろしくないのかい?

ラヴァ
ラヴァ

……アタシがお前に見せたアレを憶えているか?あれはニェンがアタシに寄越したものなんだ、最初はシーにアタシらを信用してらうための証拠品だと思っていたが……

サガ
サガ

ほうほう、あの奇妙な逸品のことであるな?あれは一体何に使われるのだ?

ラヴァ
ラヴァ

アタシにもわからん……

ウユウ
ウユウ

私に見せてくれないか?ふむ、煮傘殿もこれをご覧になったのだろう?

サガ
サガ

ほう?煮傘殿もこれをご覧になったのか?なら……彼は何とおっしゃったのだ?

ラヴァ
ラヴァ

一度も見たことがないってよ。

サガ
サガ

……拙僧が思うに、もう一度詳しく聞きに行ったほうがよいと思うぞ。

ウユウ
ウユウ

……確かに、私も何かがひっかかっている……

ラヴァ
ラヴァ

なんだ?

ウユウ
ウユウ

そのぉ、えーっと、ほら、恩人様、私は以前少しだけ武功を明かしてしまったではないか?

ラヴァ
ラヴァ

ああ……一匹の墨魎から逃れるために、ものすごく戦ったっていうああれのことか?

ウユウ
ウユウ

まさしく!

サガ
サガ

拙僧も見たぞ、しかしなぜ急にそれを?

ウユウ
ウユウ

それは……はぁ、私は本来なら無力で戦いに関しては門外漢のはずなのに、ああして突然武功を披露したら、みなも……私を疑っているのでは?

クルース
クルース

武功……ってほどでもなかったと思うけど?

ウユウ
ウユウ

――お、オホン!というのも、実はまだ技を二つほどほど隠しているのだよ――あ、だからといって面倒臭いから披露しなかったとは思わないでくれよ、これには深いワケが――

ラヴァ
ラヴァ

……だから?

ウユウ
ウユウ

……だからって、恩人様、私を疑わないのかい?

ラヴァ
ラヴァ

疑うも何も、お前は他人を騙すことは出来るかもしれないが、アタシには通用しないぞ。この程度の見抜く目も持っていないと、任務を受けても自分に面倒事が降りかかるだけだからな。

サガ
サガ

拙僧は疑っておったぞ!ウユウ殿がおなごを担いで走っておったときでさえ、息も上げず、むしろ疾きこと稲妻が如しであった、拙僧の寺にいる兄弟子たちと互角に渡り合えると見た!

ウユウ
ウユウ

あ、あはは、みんなそんな顔をしないでくだれ、私だってああして最善を尽くしたではないか。

ウユウ
ウユウ

そうだ!日もすでに傾いてきている、早く煮傘殿も元へ参ろうではないか!以前床に伏したと言っていなかったか?ならなおさら早く様子を見に行こう!

講談師
講談師

ゴホッ、ゴホッゴホッ、皆さんは……お噺を聞きにいらしたのですか?しかし申し訳ありません、今日の私は、ゴホッゴホッ、見ての通りです、本日はお噺を語れそうにありません。

村人
村人

先生、しっかり休んでください、俺たちが事務なり雑用なり手伝いますから。

講談師
講談師

いや結構、お気持ちだけ頂戴するよ、ゴホッゴホッ……来客の皆さんは、一体、どちらからいらしたのですか?

ウユウ
ウユウ

え、えーっと、ここよりさらに遠方からです、ただちょっとここへ寄り道がてら寄ったら、村の皆さんが先生のことをおっしゃっていたので、気になって参った次第です。

ウユウ
ウユウ

しかし今日の先生はお身体があまりよろしくないとお見受けしたので、私たちも……また別の日に改めます、あはは。

講談師
講談師

お待ちを、ゴホッゴホッ、皆さんはご存じないとお思いですが、ここ婆山鎮にとって、来客は極めて稀なのです、来る者は客なり、ゴホッゴホッ、であれば皆さんをお構い致さないわけにはいきませぬ。

講談師
講談師

そうですね、私の邸宅に客室がございます、そこをご利用して泊まっていかれるとよいでしょう。

ラヴァ
ラヴァ

今日はどうしたんですか?

講談師
講談師

私にも分かりかねますまい、おそらくは風邪……とも言い切れませぬ、大夫にも原因が分からないと言うのです。きっと私自身鍛錬を怠ってしまい、それで骨身が衰えてしまったのでしょう、皆さんのご心配には及びません。

講談師
講談師

逸川、案内してやってください。

村人
村人

へい。

ラヴァ
ラヴァ

……では、お言葉に甘えさせてもらいます。

村人
村人

皆さん、こちらへどうぞ。

ウユウ
ウユウ

変だなぁ、今朝この部屋を出て、ぐるっと屋敷を回ろうとしたんだが、また部屋に戻されてしまった……ふむ、一体なぜなんだろうね。

ウユウ
ウユウ

そのぉ、恩人様方……

クルース
クルース

ウユウちゃん。

ウユウ
ウユウ

あ……あはは、オホン、俗に言う、詳しい話は門を閉じてからと言うものだ、恩人様が今何を考えてるかは、私もちゃんと理解しているよ。

ウユウ
ウユウ

……では、どこから話そうか……なら最初から話そう、なんせ私は……お二人に隠し事をしていたからね。

ラヴァ
ラヴァ

それはもう知っている。

ウユウ
ウユウ

本当に申し訳ない。

ラヴァ
ラヴァ

……その対応しきれないほど速い態度の切り替わりはどうにかして欲しいものだが、まあいい、荒野で出会った人を何から何まで信用するわけにもいかないもんな、そこはアタシも理解できる。

ウユウ
ウユウ

……かたじけない!

ラヴァ
ラヴァ

お前は勾呉城の人なのか?

ウユウ
ウユウ

いえ……私の生まれはさらに北にある、極々普通の村だ。

ウユウ
ウユウ

本来であれば私はただの一百姓として一生を終えるはずであった。しかしある年の夏、都市からご身分な旦那様方がやってきたんだ、その先頭には美貌な貴婦人がいて、彼女は、私こそが彼女が探し求めていた人だと言ったんだ。

ウユウ
ウユウ

当時十三歳の私は、こうして勾呉城へと向かった。勾呉城には廉家の武術館があって、そのご当主様が、その女性だった。

ウユウ
ウユウ

彼女は私の師匠となった、理由なんてなかったさ、武術館に住み込み、暇な時は作業場にいって手伝いをして、微かな小銭を稼いだよ、それを少しでも生活の足しにするためにね。

ウユウ
ウユウ

それから十数年間、私は懸命に師事した。私は師匠に拾われた身だと思いたくなかった、それだと多大なご恩を抱えてしまうからだ。

ウユウ
ウユウ

だから私は自分で生き抜いた。今食えてる飯を捨ててでも、師匠に下されたくはなかったからね。

ウユウ
ウユウ

しかし……師匠も歳は取る。あのいつも厳格だった師匠でさえも、病魔に侵され、ろくに眠りにもつけなくなってしまった。

ウユウ
ウユウ

それから私は思ったんだ、ここで一生を費やすわけにはいかない、兄弟子や姉弟子たちはここを発った、ならば私もここを発つべきだとね。

ウユウ
ウユウ

しかし……去年、私は誤ってある人を殺してしまった。殺すべきではない人を殺してしまったんだ。

ウユウ
ウユウ

あの武闘試合は武術館同士での切磋にすぎなかったんだが、後から知ったよ、あの人は自分の命を売り出していたんだ、私の手によって下されるように。

ウユウ
ウユウ

今ではもはや名ばかりの廉家の看板を潰すために、今まで一度も首を垂らそうとしなかった師匠を一度でも首を垂らそうとするためにね。

ウユウ
ウユウ

――そして――

ウユウ
ウユウ

そしてあの私の母と同じように三つ編みをしていた女性は、私の師匠は、白に染まりきってしまった髪をしたそれでも負けを認めようとしなかった師は、その場にいた全員の目の前で、規則に則り、己の血を三升も放ったのだ――

サガ
サガ

……なんと……!

ウユウ
ウユウ

「規則」なんて名ばかりだった!あんな規則など、ただの殺人となんの違いがあろうか!

ウユウ
ウユウ

私は意識を失った師匠を抱えて館に戻ろうとしたが、連中の人は館を厳重に囲っていた。

ウユウ
ウユウ

救急車を呼ぶことも、ましてや別の都市にいる兄弟子や姉弟子たちに事を伝えようなんてできることワケもなかった!

ウユウ
ウユウ

私は師匠がだんだんと冷たくなっているのをただ見ていることしかできなかった、あの間連中は門外でジッと待っていて、私が師匠を埋めてから、彼らはようやく立ち去った。

ウユウ
ウユウ

師匠はこの扇子だけを私に残してくれた。この扇子を使うことも、ましてや師匠から教わった拳法を打つ資格など私にはない。

ウユウ
ウユウ

武術館は解体され、弟子たちとも連絡を取ることはできなかった。その後私は正体を偽った、占い師として、一人のトランスポーターとして。

ウユウ
ウユウ

兎にも角にも、私はあの都市から脱出しなければならなかった、上京なり、龍門なり、行き場はどこだってよかった、人が多ければどこだってよかった――

ウユウ
ウユウ

――いつか、必ず勾呉城に戻り、そして戻って、仇を討つために。

ウユウ
ウユウ

しかし……しかしあの日に人を助けたあと……クルース殿、あなたが言ってくれた言葉は心に響いたよ。

ウユウ
ウユウ

これまでの間、私は勾呉城で、一体どれだけの時間を無駄にしてきたんだ……

サガ
サガ

聞いたことがある、炎国は各地で武術が盛んで、武を習う者は皆比比是なりと、しかしまさか、その中にこのような物語があったとは……

ラヴァ
ラヴァ

……つまりあれはただの車の事故じゃなかったんだな。

ウユウ
ウユウ

いかにも……連中は勾呉城では怖い者なしだからね、私は隣村で隠れようとしたが、隠れきれなかった、そのため最後はもう車を手に入れて、勾呉城を出るしか方法はないと――

クルース
クルース

お師匠さんがそこまでしてくれたのに、それでも見逃してくれなかったの?

ウユウ
ウユウ

見逃す?

ウユウ
ウユウ

本当に見逃すつもりがあったのなら、あんな人を殺めるための規則など持ち出すはずがあると思うかい?

サガ
サガ

この世には……まだかような理不尽な規則なるものがあったのか、拙僧が今まで見聞きしてきた見聞は、まだまだ浅はかなのだな。

ラヴァ
ラヴァ

……理由はわかった。聞く分には武侠小説みたいな内容だったが……まあ、信じよう。

ウユウ
ウユウ

およよ、恩人様、なんて寛大なお心なのだ、感極まって涙が出そうだ!私は……いや!このウユウ、この身が朽ち果てようと、必ずやこの命を救ってくれたご恩を返そう!

ラヴァ
ラヴァ

……はぁ。

ウユウ
ウユウ

恩人様……作り話だと疑わないのかい?

ラヴァ
ラヴァ

これが作り話だったら、お前はかなり才能があるぞ。

(ノック音)

ラヴァ
ラヴァ

どうぞー。

講談師
講談師

ゴホッゴホッ……皆さんここにいらしてましたか、客室で皆さんを見当たらなかったので、てっきりもてなしに不備があり、皆さんを不快にさせてしまったのかと……

ラヴァ
ラヴァ

あ、いや、そんなことはなくて、ただここでちょっと相談事をしていただけなんだ。

講談師
講談師

ゴホッゴホッ、なるほどそうでしたか……お邪魔して、本当に申し訳ありません、ただ今は徐夕の時期であるゆえ、皆さんお伝えせねばと来た次第です、くれぐれも鴻洞山には近づかないように、あの山には妖が出没するのでね。

ラヴァ
ラヴァ

わかった、ご忠告ありがとう。

講談師
講談師

では、皆さんのお邪魔になると思いますので私はこれにて、ゴホッ、ゴホッゴホッ――

ラヴァ
ラヴァ

そっちもどうかご自愛してくれ。

(講談師が去っていく足音)

ラヴァ
ラヴァ

……

クルース
クルース

なーに考えてるの?

ラヴァ
ラヴァ

あの煮傘さん……いわゆる画中の人に見えると思うか?

ラヴァ
ラヴァ

もしあの人でさえも「絵」とされるんだったら……アタシらは一体何なんだ?

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