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【明日方舟】サイドストーリー「画中人 WR-8 夢」前半

墨魎
墨魎

……ガァ。

黎

墨魎、墨に、魎、いい名前じゃない。

サガ
サガ

嵯峨って子、やはり生まれつき慧眼の持ち主だったわね。

黎

毎回毎回まったく損傷しない器物を守っていたら、いつしか、彼女らは心の内にある正義を諦め、この徒労な道徳心に嫌気をさしちゃうのかしら?

黎

きっとするでしょうね。もし陶器が簡単に元の姿に戻れるのであれば、それを割っちゃったとしても心を痛めないもの。

黎

いいえ、むしろそれを割ることに快感を覚えるでしょうね。

墨魎
墨魎

……ガァ?

黎

でも、そんな酷なことしなくてもいいじゃない……人間の本性なんて試練になんか耐えられないんだもの。

墨魎
墨魎

……ガゥ……

黎

見ているんでしょ、シー?

黎

本当にいけずな人ね……だったらこっちが何かやましいことをしても睨まないで頂戴ね?

(戦闘音)

ラヴァ
ラヴァ

――ふぅ!

ウユウ
ウユウ

恩人様、やっと片付け終えたか……!

ウユウ
ウユウ

冷やかしをするつもりではないが、このままこのバケモノ共と消耗しても、いつまで経っても手がかりは手に入らないしここからの脱出も叶わないぞ?

ラヴァ
ラヴァ

サガが、なんとかすると言ってたから仕方ないだろ。

ウユウ
ウユウ

それで私たちはここで日夜墨魎たちの相手をしていると?割に合わないと思うが……

ラヴァ
ラヴァ

……大丈夫だ、そんな気力を使うことでもない。

ラヴァ
ラヴァ

自分のアーツ鍛錬のためだと思えばいい。

クルース
クルース

――ラヴァちゃん。

ラヴァ
ラヴァ

ん?どうした?

クルース
クルース

……

ラヴァ
ラヴァ

なんか言ったらどうだ?

クルース
クルース

……さっきラヴァちゃんがアーツを放ってただけど、ちょっと危ないと思うかな。

ラヴァ
ラヴァ

……アタシの……?あ……

クルース
クルース

わかった?もうかなりの店舗を燃やしちゃってるんだよ。

クルース
クルース

それとね、ウユウちゃん。

クルース
クルース

さっき村に突っ込んでいった墨魎の一匹をあえて無視したでしょ?

ウユウ
ウユウ

てっきり恩人様がなんとかして処理してくれるかと……

クルース
クルース

違うね、君はこう考えてたでしょ、「なにかミスをしたところで、明日になればまた元通りだからいいや」って。

ウユウ
ウユウ

……

ウユウ
ウユウ

そうだな……否定はしないよ……わかってはいるさ、しかし……

クルース
クルース

今日でもう七日目。

クルース
クルース

やれって言ってるわけじゃないんだけど、意味のない目標を、毎日毎日守ってたら、いずれこうなることはわかった。

クルース
クルース

でもレムビリトンで起こったあの……あの血腥い教訓だけは忘れないでね。

クルース
クルース

戦いは人の心を削るって、だから常に気をしっかり持とうね。

ラヴァ
ラヴァ

クルース……

クルース
クルース

ごめんね……ラヴァちゃんもわかっているよ、私もずっと……

ラヴァ
ラヴァ

大丈夫だ、わかっている。

ラヴァ
ラヴァ

アタシらなら大丈夫だ、きっと無事ここから脱出して、ロドスに戻れるさ。

クルース
クルース

……

クルース
クルース

よ~し、じゃあ戻ったらクルビアコーヒーを奢ってね。

ラヴァ
ラヴァ

ああ。

ラヴァ
ラヴァ

サガはまだ部屋にいるのか?

ウユウ
ウユウ

今日出かける前にチラッと覗いたが、もうすでに七日間も座禅していたよ……恩人様、この絵の中でもし何も食わず飲まずしても……死ぬのだろうか?

ラヴァ
ラヴァ

さあな。あの時サガは「拙僧に任されよ」と言って、それっきり引き籠っているからな……

ラヴァ
ラヴァ

今一番現状を理解しているのはサガだけだ、アタシらにはどうしようもできない、なんならお前もサガみたいに、ほかの絵巻に一通り旅行しに行ってみたらどうだ?

ウユウ
ウユウ

いやいやいや、遠慮しておくよ。私はサガ殿ほど強い意思を持っていないね、ちょっとでも気が抜ければ、もう絵から出られなくなってしまうよ。

ラヴァ
ラヴァ

……嵯峨が結果を出すまでの間、アタシらはなんの手助けもできないしな。

(黎の足音)

黎

皆さんここにおられましたか。

ラヴァ
ラヴァ

黎さん?なんか用事か?

黎

一つだけお伝えしたいことがあるのです、本心を忘れることなかれ、です。

黎

「仮の真なる時は真もまた仮なり、無の有なる所は有もまた無なり」ですよ、サガさんにもお伝えしておきますね。

黎

えっと、彼女はどちらに?

ラヴァ
ラヴァ

サガなら瞑想するためにあれからずっと部屋に籠っているぞ。

黎

……あぁ、目を覚まそうとしているのですね。

黎

絵巻から自ずと目を覚ます人は極々少数です、いや、誰一人とて叶わなかったほうが正しいですね。

黎

しかし……サガさんならわかりませんね。

黎

ラヴァさん、「爆竹」、というものは聞いたことがありますか?

黎

大炎における、一種の古い民俗習慣です、その起源は――

ラヴァ
ラヴァ

――古のバケモノたちを退治するため、なんだろ?

黎

まあ……ラヴァさんは異郷出身のサルカズでしたよね?大炎の伝統文化にも造詣があったのですか?

ラヴァ
ラヴァ

……いや、これはあたしの友人が……

クルース
クルース

あ。思い出した。

ラヴァ
ラヴァ

思い出さなくていい。

クルース
クルース

『エンシェントフォージ』のストーリにあったよね?年は爆竹を怖がるから、最後は玄極巨兵も都市防衛砲で――

ラヴァ
ラヴァ

――ああああああ、聞きたくなああああい!

ラヴァ
ラヴァ

黎さん!爆竹と現状に何か関係性があるのか!?

黎

え?ええ……たぶん、あの墨魎たちもきっと爆竹を恐れるはずなんじゃないかと。

黎

爆竹を村の入口に吊るしておけば、あの墨魎たちも、近づけないと思いますよ。

ラヴァ
ラヴァ

それは本当か!?

ウユウ
ウユウ

ほほう、それは便利なものだ、これで日夜ここを防衛しなくて済むのだな、もう腰が痛くてしょうがない。

ウユウ
ウユウ

なら善は急げだ、はやく村の市場に置いていないか見に――

黎

残念ながら、市場には置いておりません。

ウユウ
ウユウ

――そうだろうと思ったよ、ではどうすればいいんだい?

黎

方法ならあります……

黎

爆竹が、なぜ爆竹と呼ばれているかご存じですか?

ウユウ
ウユウ

……原初の大炎の民たちが、先帝の偉大な功績を讃えるために、火で竹を燃やし、あの曠世の対戦を記念したと……

クルース
クルース

かなり詳しいじゃん。

ウユウ
ウユウ

あはは、暇な時に読んだ書物に載ってあっただけだよ……

黎

なら結構です。

黎

では墨魎たちを驚かせて差し上げましょう。

黎

あの木とかは如何でしょう?

ウユウ
ウユウ

うむ……いい木じゃないか、勿体ないと思うが……

黎

どうせ明日には元通りですから心配いりませんよ。

ウユウ
ウユウ

結構遠慮しないのだな、黎殿は……

ラヴァ
ラヴァ

戻ったぞ、これで足りるか?

黎

多ければ多いほどいいです。

クルース
クルース

煮傘さんも気前がいいね、タダで竹をこんなに譲ってくれたなんて。

黎

もしお気に障ったのなら、あとで私が謝りに行くので大丈夫ですよ。なんなら見返りに私の店をあげちゃってもいいぐらいです、どうせものを買いに来る人なんてこの先誰一人いませんし。

ラヴァ
ラヴァ

それはさすがに割に合わないだろ?

黎

どうせ明日には元通りなんですから大丈夫ですよ。

クルース
クルース

うーん、燃えたマッチがパチパチと鳴るのは知ってるけど、竹ってそれよりも鳴るの?

黎

雨が降ったあとの竹はもっと音を出すと聞きますよ、でも、それはよしとしましょう、ここは雨なんか降りませんので。

黎

よし、こうして……土で窯を作って……

黎

問題は火なんですけど――

ラヴァ
ラヴァ

――アタシに任せな。

黎

……火加減には気を付けてくださいね、ここからはちょっと技が必要になりますので。

ラヴァ
ラヴァ

ど、努力しよう……

ウユウ
ウユウ

恩人様!墨魎たちが来たぞ!

黎

今です!

ラヴァ
ラヴァ

フン――

(爆竹の音)

墨魎
墨魎

ガ、ガァ――!?

ラヴァ
ラヴァ

よし!連中が怯んだぞ!

墨魎
墨魎

ギャア――!!

ウユウ
ウユウ

逃げた?本当にビビッて逃げていったぞ?

クルース
クルース

……本当に効いたなんて、でもなんで……?

ラヴァ
ラヴァ

それならニェンに聞いたほうが――

講談師
講談師

……ニェン?

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