雪は点雪を蔵し、月は晦明を隠さん。

……

(ここが……龍門か。)

(急がなければ――)

そこのご老体、お待ちを、お待ちくだされ。

うむ。

その、ご老体、少しお尋ねしたいのだが。

この付近に董氏鱗丸という名の店はありませんか?

お主……龍門人ではないな?

……

店目当てにやってきたのか?

えーっと、もちろん、もちろん店目当てですとも、あはは――

もう何時だと思っておるのじゃ、店ならとっくに閉まっておるわい。

そこのメニューが食いたいのであれば、朝八時から並んだほうがよいぞ。

店は閉まっているのか?ではその董大将がどこにいるかご存じですか?

ふむ……

ご老体?

鱗丸を食すだけじゃろうて、ヤツの名や、どこに住んでいるかなど知る必要はなかろう。

えーっと……あははは、そうですよね、あはは……では明朝にその店に伺います――

若いの。

ッ――

――ご、ご老体、これはなんのおつもりですか?どうかその杖を下ろし――

董に何の用じゃ?

わ、私は――

弁えたほうが身のためじゃぞ、若いの、正直に吐け。

お主は一晩中駆け回って人を尋ねておったな、引退したヤツから灰尾の堂主までの全員を、そして最後にただの鱗丸売りに会おうとしておる……

こんな真夜中にヤツを探し回っている人なぞおらん。それに……お主が持っているそれ、見覚えがあるぞ。

――あ、あなたは!?うっ!

動くな、若いの、先に答えよ、ほかに誰を探しているのじゃ?

その人たちだけです!董殿もやむを得ず探しているだけです――!

お主、廉という苗字の者か?

違います!断じて違います!ひとまず私の話を――

動くなと言ったはずじゃ。

わしの目はまだぼやけておらんぞ、武術を習っておるなお主……それにその廉家の陰陽扇、廉子虚の者か?

――私の師匠です!

彼女に何かあったのか?

師匠は……

何があったのじゃッ!?

亡くなられました!

……なぜ?

わ、私という役立たずの弟子のために、殺されたのです!

……

……遺憾じゃ。

リン殿――!

ほう……わしの名を知っておるのか、どこでこの名を知った?

し、師匠があなたのことを話していたゆえ……どうか何卒、私はまだ奴らに捕まるわけにはいきません!

お主は身を潜めるために、龍門にやってきたというのじゃな。

香を絶やすわけにはいきませんッ!

では近衛局に行くがいい。

官人では手に余ることなのです!

……

よかろう……董とお主の師匠に免じて、チャンスを与えてやろう。

三発でかかってこい、それでもしわしのこの杖を折れば、わしについてくるがいい。

――で、できません!

やれ。

師匠はおっしゃってました、龍門の董はリンに恩がある、とあれば私も彼に恩があると、そのため如何なる状況だろうと、彼に不敬を働くことは――

やれェ!

いえッ!できませんッ!

腰抜けめ!扇を開けッ!

私は廉の姓ではない!私にこれを開く資格などありませんッ!

じゃがそれを今持っておるのはお主じゃろうが!

私は廉ではないのですッ!

ならばお主の師匠は無駄死にしたようなもんじゃッ!

私は――
(金属音)

ふん、やればできるではないか……

リン殿……申し訳ありません。

面を上げい、わしがやれと言ったんじゃ、跪くことはない。

……五年だけ龍門にいることを許そう。五年経てば、お主を勾呉城に送る、その後のことは、自分で何とかせい。

――!

行くぞ。

烏有兄さん、本当に行っちまうんですかい?

……

龍門にいりゃいいじゃないですか。そうしましょうよ?

成すべきことは、成さらなければならないからね。

もう何言っても無駄だな……この酒も最後になるんですかね?

取っておこう。もし私が生きて戻ってこれたら、またこの酒を飲もう。

その時になれば、私ももうこの偽名を使う必要もないからね。

――わかった!

帰りを待ってますからね!

なんじゃ本当に戻ってきおったのか、わしでも予想外じゃったぞ……

ふむ、何をおっしゃいますか、私はあなたに恩義がある、何もせずに去るわけにはいかないじゃないですか?

フンッ。相変わらずヘラヘラしおって、初めて会った時は、あんなに緊張して強張っておったくせに。

あ、あはは、リン殿、言うにしてもせめてメンツだけは残してくださいね。

これからどうするつもりじゃ?

……事は終わったが、多くの方々に迷惑をかけてしまった、だから故郷に戻るのも現実的じゃないと思ってましてね。

テナントを貸してやってもいいぞ、ダウンタウンにある、価格もそこそこじゃ。

タダで頂くわけにはいきませんよ。

ここが兄さんのお店ですかい?

うむ、俗に言う、和気生財だ、だからそこから取って「和気」という店名にした、どうだい?

なんか高齢者向けのストレッチジムみたいな店名ですね……

古いねぇ、稼げればそれで十分なんだよ!お年寄り向けのジムでもいいじゃないか!

本当に人なんか来るんですかね……え、っていうかしかも会員制なんですか?

あははは……客がいないことは決して悪いことではない、最近はこういうのが流行っていると聞いたもんだからさ……

すみません、ここってジムなんですか?

おやおやおや、お客様はどうぞこちらへ、ウチは伝統的な炎国武術を用いたジムなんですよ、必ずナイスボディを保証しますよ!

……

あ……そうなんですね。じゃあちょっと待ってください、今クレジットカードを出しますので。
(斬撃音)
[烏有]……!? [烏有]なっ……
兄さん!

龍門に逃げ込めば逃げ切れると思うなよ、もう逃がさな――
(殴打音)

死ねぇ!

烏兄さん!烏兄さん!大丈夫か!?
(灰尾が駆け寄る足音)

これが……大丈夫なように見えるかい……

大丈夫、大丈夫ですから、今すぐ救急車を――

いいんだ、ゴホッ、ゴホッゴホッ……もう助からないさ……私にはわかる。店を開いた初日に血を見るなんて、縁がないね……

私は……ゴホゴッホッ、泣くな。男たるもの、何を泣いてるんだ、人が死ぬことなど、この世では当たり前のことじゃないか……

な……泣いてなんか、ない……

そうか……なら……それでいいんだ……

烏兄さん!烏兄さんッ!!
……
……

へぇ、残りの人生はすべて師匠の復讐のために使い、自分は何もしてこなかったってわけか。しっかし夢の中まで自分を殺すなんざ、割に合わねぇだろ。

あれ?私は確かさっき……?

なに寝ぼけてやがんだ。私がお前を探さなきゃ、まーた勾呉城を出たところからやり直しになってたんだぞ。

目が覚めたのならとっとと働きやがれってんだ!

!?
(アーツ音)

……一体何が……

クルースさん!来たんですね!

……ビーグルちゃん?

なんでまだ……ロドスの制服を着ているの……

えへへ、長期休暇ですけど、やっぱりこの服装が一番しっくりきたんで。

ほら見てください、結構いいと思いませんかここ?

……ここがあなたの新居?

そうですよ!

もう少しここに泊まっていきませんか?しっかりおもてなししますんで!

……

……うん!

……本当にここを行く必要あるのかな~……

シーッ!

あそこを見てください……

……チッ、面倒臭ぇなぁ、あのキャラバンはスッカラカンで収穫がゼロのうえに、逆に大勢に追い掛け回されたとは、こうなると知ってりゃやるんじゃなかったぜ!

今更こんなこと愚痴ってもしょうがねぇか、おーい、ものをこっちまで運んできてくれ、いい場所を見つけたぞ!印でもつけとけよ!

――強盗かな?

はい、以前からトランスポーターのお姉さんの話によると、最近何やら山が騒がしいって……ここに隠れていたんですね。

クルースさん、早く戻って警備隊に通報――

――どうして?私たちでやっつければいいじゃん。

クルースさん、あまり無茶なことは――

おい、また車の隊列がやってきたぞ!きっと新しいキャラバンだ!

グズグズしてちゃ間に合わなくなっちゃうよ。

ええッ、クルースさんにそんなことを言われるなんて……

……私は……

あ、あいつらが動くようです!私が援護――

――よいしょっと。
(狙撃音)

なんだお前は――!?

なっ!?どうしたんだ?こいつ急にぶっ倒れたぞ!?

こ~こ~だ~よ~。

わぁ……一瞬で全部撃破しちゃった……それに一撃一撃急所を外して、彼らの行動能力だけを奪ったなんて……

いつの間にそんな強くなったんですか?

じゃあ警備隊を呼ぼっか?

はい!

ふぁ~……おはよう。

おはようございます、クルースさん、よく眠れましたか?

急に早寝しても、寝つけられないてば。

あははは、でもトランスポーターのおじさん方は朝早くに行っちゃうんですから、乗せてもらいたいのなら、早起きしないとダメですよ。

……

え、そんな顔しないでくださいよ、ちょっとだけ離れなばれになるだけじゃないですか、またいつでも来ていいんですからね。

そうだ、フェン隊長によろしく伝えといてもらいますか?今どうしてるんでしょうね……

うん。

えへへ。

はい、お荷物ですよ、全部片づけておきましたから。

うん。

もう、そんなしょんぼりしないでください、スマイルですよ!この後またフェン隊長のところに行かなきゃならないんですからね!

今度はクルビアのお土産も持ってきてくださいね!

……うん!

またね!クルースさーん。

またね、ビーグル――
またね。さようなら。
あなたはこんなはずじゃなかったってわかっていますもんね。
この先もっとひどいことに会うのですから。
……
私……あなただろうなって思ってました。けどごめんなさい。道を譲るわけにはいきません。絶対に。

――

……え?私さっき……

……起きました?

僕たちはもう……長い間ここに閉じ込められてしまっているんですよ、なんかいい夢でも見たんですか?

……ごめんなさい。

謝ることなんてないですよ……ただ食料がもうじき尽きそうではありますけど、クルースさん。

賭けに出るしかないですね、山を越えてみる必要があります。

ボリバル本軍の消息はもうずっと得られていません、もしかして進路を変更したのでしょうか?

……ビーグルちゃん。

とにかく、ここから離れないと。任務期限もとっくに過ぎている……せめてロドスに戻って報告しないと……

……違う。

違う……こんなはずじゃ……緊急用の通信も未だに反応がないよ!

で、でも作戦地図によると、彼らの野営地は確かにここ付近のはずですよ!

お――い!どこにいるの―!?

……!

こ、これって……

……ビーグル……本当に彼女なの?

ど、どうして?どうしてなの!?

……詳しい報告はあとで上に上げときましょう。

それに……クルースさん、この件は僕たちが深く介入すべきじゃないと思いますよ……仮にボリバルの情勢が本当にこれほど複雑化してるのであれば……僕たちでは、彼女の役には立ちませんよ。

はやくロドス本艦に戻らないと……

じゃあ彼女はあのまま――

――そんなのイヤだ、わ……私……私が彼女を止める!どんな手段を使ってでも……!
(ニェンの足音)

よぉ、クルース。

……ニェンさん、ごめんなさい、今あなたと付き合ってる暇は……

なるほどなるほど、まぁシーはお前たちに夢みたいな人生を描いてやれることはできねぇもんな。

あいつはお前たちの人生を、過去の光陰を再び最初から映し出してるだけ……お前なぁ、どうせ全部偽物なんだし、もうちょっとはマシな結末を選んだらどうなんだ?

一体何を言って――

いいんだいいんだ、私がいるから平気だ。

なんせ私はあいつの姉だからよ。

クルース!ウユウ!

……辺りが真っ暗だ……一体何が起こってるんだ……

それにさっきなんか煮傘さんが……燃えていた火を揉み消した……?

……一体どうなってるんだ……

ったく、サガのほうもどうなったのかわかんないし……

……足はちゃんと地面を踏んでるようだが、無闇には動けないな……

ラヴァ。

うわああああ!?

に、ニェン!?なんでこんなところにいるんだ?

おう、心配すんな、私は本物だ、こうやってお前たちを助けに来たじゃねぇか。

ただまあ、なんていうか、あいつに一本取られたって感じか……?

アタシは何も見え――

――ちょっと待て、目がちょっとだけ……あっちに人がいるのか?

……こりゃ罠だな。

あいつは私がお前に渡した物の作用を察知したんだ、そしてすぐさまお前たちを邯鄲の夢へと放り込んだ。しかし残念ながら……ちと遅かったようだな。

何したらこんなことができるんだ!?

さぁな。人間の深層意識を掘り出すことはそう難しいことじゃねぇ、なんせこれはお前たちに創り上げた別の人生でもないしな、これの本質は……自問自答の走馬灯みたいなもんだ。

鏡のように、湖のように、あるは深い深い星空のように、一旦絵に入り込んでしまえば、もう抜け出せねぇ、そんな神通力めいたものさ。

しかしなぜラヴァだけハマらなかったんだ?以前から一緒に火鍋を食った回数が多かったからなのかそれとも……

そんな理由でアタシをこんな面倒臭いことに巻き込まないでくれ、頼むから。

……

ニェン?

……ん?あぁ、何でもねぇ。

ちょっともう一つの故事でも聞いてみるか?私はシーみたいな引きこもりの陰湿野郎じゃねぇからよ、難しい内容じゃない。

この状況下だと、まず先にどうやって脱出できるかを考えたほうがいい気が――

はぁ、工業や、人口、アーツの技術などが今日よりも発達していたなかった古代の人々が、どうやってその名の通りの巨獣と立ち向かった話が聞きたくないのか?

お前前回もそれと同じような誘い文句でアタシに話してたら結局最後は玄極巨兵の展開になっちまったじゃないか……

でも興味はあるんだろ。

アタシは……もういいや、話してくれ……

遥か昔、大炎の広大な領土の内には、神々が存在していた。

時の大炎皇帝は自分の繁栄した国土が、天災と人災の苦しみに喘いでいるところを見て、ひどく悲しく思い、思い詰めていた。

あの史上でも賛否両論が絶えなかった天子もとい真龍は、当時まさに青年であり、熱い血を滾らせていた。大炎皇帝としての彼は、自分の腹心や重臣に、こんなことを話した――

即ち溥天の下、王土に非ざるは莫く、率土の濱、王臣に非ざるは莫し。ならなぜ天上で胡坐をかいている野蛮なる存在は、未だかつて大炎の民たちの心願に耳を傾けず、大炎臣民の地を守ろうとしないのだろうか?

……お前も知っての通り、国家に点在する民俗伝説あるいは歴史上の「神」とは何も哲学概念のみの虚像というわけではない。まあつっても彼らとて言われてるほど「崇高な存在」というわけでもねぇが。

そん中で真龍は奥深くの山々からとある傲慢で、不肖な一人の神を見つけた。

大炎の悠久な歴史なんざ相手側の寿命からしちゃほんの小さな一部にすぎなかった……だから当然彼は真龍の意見になんざ耳を微塵も傾けようとしなかった。なぜこの私が人類の生死なんぞに気を留めなければならんのだってな。

しかし問題があった、それは真龍は彼の臣民と社会を気にしていた、気にし過ぎていたんだ。

そして真龍は全国に勅令を出し、自らも出陣した。真龍の勅令に従い、数多の強者達人たちがこの驚天動地の追い込み狩猟に参加していった――

しかし……予想外なことに、真龍が最初に見つけたあの崛起なる存在は、あろうことか自分の同族や親族を裏切り、自分の力を削ぎ落し、この世にも稀な大狩猟に参加したのだ。

大狩猟を終えた後、大炎は真龍の逆鱗に触れた「神」を数匹も誅殺し、真龍の意にそぐわない存在をすべて駆逐した。

血は流れて河となり、屍は万里先にまで伏していた、大炎はとてつもなく痛い代償を代わりに払った。この真龍の賛否両論は、この時から始まったものだ。

しかし彼本人は気にも留めなかった、真龍はこの大狩猟を生きてる限り一生続けた。

そして彼が老いてしまった頃、この炎国の地に未だ居座り、かつて真龍を助け、親族に背いた、最も古く、しかし最も崇高で悠久な存在を探し当てた。

この反逆者はすでに十分その報いを受けていた、同族たちは大炎を離れる前にヤツの炎を揉み消し、ヤツの傲慢な本質を帝君の面前に曝け出したのだ――

とにかく、功罪は帳消しとなり、真龍は命だけは見逃してやったが、大炎に従服するように誓わせた。天地のために心を立て、臣民のために命を立て、往聖のために絶学を継ぎ、万世のために太平を開けと。

それからして、大炎の国祚は、真龍の手に、大炎の臣民の手に渡った。

その後、いわゆる「神」と呼ばれた存在たち――諸国王朝よりも前にあった崛起なる存在たちは身を隠すようになり、自分たちの種を蒔き、種に自分たちの破片や権能と魂を分け与え、この大地で代行させた。

……ヤツらは依然とテラの大地で様々な形で存続し続けているが、数はもう昔のそれとは違う。

ただみんな大人しくなって、今は一家揃って仲良く平和に大地の各所で暮らしてるんだとさ。うん、いいエンディングじゃねぇか。

お前……

……テラ諸国の悠久な変遷に目をやっても、未だかつてどんな王朝でも、どんな人でも、この「神明勅封」の故事を口にできるヤツはいねぇ。

……

大炎は、まだまだおっかねぇ場所だよなぁ。

いやまぁ、兎にも角にも、さっさとここを出よう、こんなところ少しでも長居なんかしたくねぇし。

今あるこの絵ってのは夕の切り札なんだぜ、ただあいつの優柔不断に感謝しなくちゃな、おかげでこうして脱出の機会が設けられたんだ、へへ。

……ど、どやって脱出するんだ……?
(アーツの音)

あれ……私たちどうしちゃったの……

うぅ、頭が重い……ん?クルース殿?

ウユウちゃん……?ラヴァちゃんは?サガさんは?

私にもわからん、彼女たちは……お、恩人様や、私たちはもしや、灰斉山に戻ってきたのでは?

……ここから出てって。

あなたは……

一度しか言わないわ。

まさか……あなたが、夕さん?

どうせニェンの差し金なんでしょ。

あなたたちがどこの誰で、彼女とどんな関係があるかなんて、知ったこっちゃない。

だからもう帰ってちょうだい。

……まさか以前のあれこれはすべて、あなたが……?

だから何?

何度も何度も私の静寂の邪魔をした輩を、この程度の罰で済ませただけで、ありがたいと思いなさい。

……もしかして、「爆竹」のこと……?

誤解だよ、私たちもわざとじゃ――

誤解?

ニェンはあなたたちを容易に騙せるかもしれないけど、私には通用しないわ。

あいつが何を言おうと、私は会わないから。そう伝えてちょうだい。

そんな……

それより、ラヴァちゃんと嵯峨さんは?

彼女たちなら――
天に洪炉ありて――

――!
――地が五金を生まん。

なっ……どこだ!?
暉冶寒淬、雲清を照らさん!

な、なんだ!?どこからか声がするぞ?

――伏せて!
(花火の音と爆発音)
(ラヴァの走る足音)

ゴホゴホッ、ゴホッゴホゴホ――

――急になんてものを作りだすんだお前は!?
(ラヴァの足音)

これか、ビッグサイズのロケット花火だ。全長八尺横三尺、テラ前代未聞のテクノロジー誘爆法を採用!

あんな近距離で放つんなら、放つぞぐらい言ってくれよ!

そんな暇ねぇよ、じゃなきゃまーたこいつに逃げられるだろ。

だよな、私のかわいい妹よ?

――あんた。

よくも……よくも私の絵を燃やしてくれたわね!

絵?

ははーん、なるほど、あの門を開いた瞬間から、お前の絵巻の世界に入り込む仕組みになってるんだな?

それとも、山を登る途中からか?ということはこの山全体が、お前が描いた夢幻というわけか?

へぇ、どうりで見つからないわけだ、引っ込み思案ちゃん――

ど、どういうことだ?

つまりだな、あーんな小せぇ茅屋にあんなたくさん物が入るわけねぇってことだ、お前らは誰一人気付かなかったのか?

うーん、それもそうか、ほとんどの人は思考や感覚すらも影響されちまうらしいんだし、気付かないのも無理はねぇ。

自分がどんな変な夢を見たとしても、その異様さには気が付かないようにな、それと同じ原理だ。

……

アハッ、姉にそのしょうもねぇ秘密を暴かれて、怒っちまったか?

あんたをあの陵墓に叩き戻してやるわ、「姉さん」。

へぇ、あそこはもう壊されちまってるよ、とっくの昔にな。

ふーん、ならちょうどいいじゃない?新しいのを作ってあげるわ、今度はもっとお飾りの多いヤツをね。

ほほう、相変わらずだな、ムカついたら容赦しない口になるところが……しかし、さっき私を「姉さん」って呼んでくれたよな?

……そうよ、死にゆく者には、多少なりとも親切になってあげないといけないからね。

それなら心配には及ばねぇよ、「妹」よ、今まで私に何回勝てたと思ってるんだ?

思い上がらないで、見掛け倒しの姉さん。

そっちこそ、調子に乗ってる妹よ。

クルース、ウユウ、下がれッ!
天に洪炉ありて、地が五金を生まん。暉冶寒淬、雲清を照らさん。
星は点雪を蔵し、月は晦明を隠さん。拙山枯水、大江を行かん。