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【明日方舟】サイドストーリー「画中人 WR-10 シー」前半


雪は点雪を蔵し、月は晦明を隠さん。

ウユウ
ウユウ

……

ウユウ
ウユウ

(ここが……龍門か。)

ウユウ
ウユウ

(急がなければ――)

ウユウ
ウユウ

そこのご老体、お待ちを、お待ちくだされ。

鼠王
???

うむ。

ウユウ
ウユウ

その、ご老体、少しお尋ねしたいのだが。

ウユウ
ウユウ

この付近に董氏鱗丸という名の店はありませんか?

鼠王
???

お主……龍門人ではないな?

ウユウ
ウユウ

……

鼠王
???

店目当てにやってきたのか?

ウユウ
ウユウ

えーっと、もちろん、もちろん店目当てですとも、あはは――

鼠王
???

もう何時だと思っておるのじゃ、店ならとっくに閉まっておるわい。

鼠王
???

そこのメニューが食いたいのであれば、朝八時から並んだほうがよいぞ。

ウユウ
ウユウ

店は閉まっているのか?ではその董大将がどこにいるかご存じですか?

鼠王
???

ふむ……

ウユウ
ウユウ

ご老体?

鼠王
???

鱗丸を食すだけじゃろうて、ヤツの名や、どこに住んでいるかなど知る必要はなかろう。

ウユウ
ウユウ

えーっと……あははは、そうですよね、あはは……では明朝にその店に伺います――

鼠王
???

若いの。

ウユウ
ウユウ

ッ――

ウユウ
ウユウ

――ご、ご老体、これはなんのおつもりですか?どうかその杖を下ろし――

鼠王
???

董に何の用じゃ?

ウユウ
ウユウ

わ、私は――

鼠王
???

弁えたほうが身のためじゃぞ、若いの、正直に吐け。

鼠王
???

お主は一晩中駆け回って人を尋ねておったな、引退したヤツから灰尾の堂主までの全員を、そして最後にただの鱗丸売りに会おうとしておる……

鼠王
???

こんな真夜中にヤツを探し回っている人なぞおらん。それに……お主が持っているそれ、見覚えがあるぞ。

ウユウ
ウユウ

――あ、あなたは!?うっ!

鼠王
???

動くな、若いの、先に答えよ、ほかに誰を探しているのじゃ?

ウユウ
ウユウ

その人たちだけです!董殿もやむを得ず探しているだけです――!

鼠王
???

お主、廉という苗字の者か?

ウユウ
ウユウ

違います!断じて違います!ひとまず私の話を――

鼠王
???

動くなと言ったはずじゃ。

鼠王
???

わしの目はまだぼやけておらんぞ、武術を習っておるなお主……それにその廉家の陰陽扇、廉子虚の者か?

ウユウ
ウユウ

――私の師匠です!

鼠王
???

彼女に何かあったのか?

ウユウ
ウユウ

師匠は……

鼠王
???

何があったのじゃッ!?

ウユウ
ウユウ

亡くなられました!

鼠王
???

……なぜ?

ウユウ
ウユウ

わ、私という役立たずの弟子のために、殺されたのです!

鼠王
???

……

鼠王
???

……遺憾じゃ。

ウユウ
ウユウ

リン殿――!

鼠王
リン

ほう……わしの名を知っておるのか、どこでこの名を知った?

ウユウ
ウユウ

し、師匠があなたのことを話していたゆえ……どうか何卒、私はまだ奴らに捕まるわけにはいきません!

鼠王
リン

お主は身を潜めるために、龍門にやってきたというのじゃな。

ウユウ
ウユウ

香を絶やすわけにはいきませんッ!

鼠王
リン

では近衛局に行くがいい。

ウユウ
ウユウ

官人では手に余ることなのです!

鼠王
リン

……

鼠王
リン

よかろう……董とお主の師匠に免じて、チャンスを与えてやろう。

鼠王
リン

三発でかかってこい、それでもしわしのこの杖を折れば、わしについてくるがいい。

ウユウ
ウユウ

――で、できません!

鼠王
リン

やれ。

ウユウ
ウユウ

師匠はおっしゃってました、龍門の董はリンに恩がある、とあれば私も彼に恩があると、そのため如何なる状況だろうと、彼に不敬を働くことは――

鼠王
リン

やれェ!

ウユウ
ウユウ

いえッ!できませんッ!

鼠王
リン

腰抜けめ!扇を開けッ!

ウユウ
ウユウ

私は廉の姓ではない!私にこれを開く資格などありませんッ!

鼠王
リン

じゃがそれを今持っておるのはお主じゃろうが!

ウユウ
ウユウ

私は廉ではないのですッ!

鼠王
リン

ならばお主の師匠は無駄死にしたようなもんじゃッ!

ウユウ
ウユウ

私は――

(金属音)

鼠王
リン

ふん、やればできるではないか……

ウユウ
ウユウ

リン殿……申し訳ありません。

鼠王
リン

面を上げい、わしがやれと言ったんじゃ、跪くことはない。

鼠王
リン

……五年だけ龍門にいることを許そう。五年経てば、お主を勾呉城に送る、その後のことは、自分で何とかせい。

ウユウ
ウユウ

――!

鼠王
リン

行くぞ。

???
灰尾メンバー

烏有兄さん、本当に行っちまうんですかい?

ウユウ
ウユウ

……

???
灰尾メンバー

龍門にいりゃいいじゃないですか。そうしましょうよ?

ウユウ
ウユウ

成すべきことは、成さらなければならないからね。

???
灰尾メンバー

もう何言っても無駄だな……この酒も最後になるんですかね?

ウユウ
ウユウ

取っておこう。もし私が生きて戻ってこれたら、またこの酒を飲もう。

ウユウ
ウユウ

その時になれば、私ももうこの偽名を使う必要もないからね。

???
灰尾メンバー

――わかった!

???
灰尾メンバー

帰りを待ってますからね!

鼠王
リン

なんじゃ本当に戻ってきおったのか、わしでも予想外じゃったぞ……

ウユウ
ウユウ

ふむ、何をおっしゃいますか、私はあなたに恩義がある、何もせずに去るわけにはいかないじゃないですか?

鼠王
リン

フンッ。相変わらずヘラヘラしおって、初めて会った時は、あんなに緊張して強張っておったくせに。

ウユウ
ウユウ

あ、あはは、リン殿、言うにしてもせめてメンツだけは残してくださいね。

鼠王
リン

これからどうするつもりじゃ?

ウユウ
ウユウ

……事は終わったが、多くの方々に迷惑をかけてしまった、だから故郷に戻るのも現実的じゃないと思ってましてね。

鼠王
リン

テナントを貸してやってもいいぞ、ダウンタウンにある、価格もそこそこじゃ。

ウユウ
ウユウ

タダで頂くわけにはいきませんよ。

???
灰尾メンバー

ここが兄さんのお店ですかい?

ウユウ
ウユウ

うむ、俗に言う、和気生財だ、だからそこから取って「和気」という店名にした、どうだい?

???
灰尾メンバー

なんか高齢者向けのストレッチジムみたいな店名ですね……

ウユウ
ウユウ

古いねぇ、稼げればそれで十分なんだよ!お年寄り向けのジムでもいいじゃないか!

???
灰尾メンバー

本当に人なんか来るんですかね……え、っていうかしかも会員制なんですか?

ウユウ
ウユウ

あははは……客がいないことは決して悪いことではない、最近はこういうのが流行っていると聞いたもんだからさ……

???
龍門の通行人

すみません、ここってジムなんですか?

ウユウ
ウユウ

おやおやおや、お客様はどうぞこちらへ、ウチは伝統的な炎国武術を用いたジムなんですよ、必ずナイスボディを保証しますよ!

???
灰尾メンバー

……

???
龍門の通行人

あ……そうなんですね。じゃあちょっと待ってください、今クレジットカードを出しますので。

(斬撃音)

[烏有]……!?

[烏有]なっ……

???
灰尾メンバー

兄さん!

 

???
龍門の通行人

龍門に逃げ込めば逃げ切れると思うなよ、もう逃がさな――

(殴打音)

???
灰尾メンバー

死ねぇ!

???
灰尾メンバー

烏兄さん!烏兄さん!大丈夫か!?

(灰尾が駆け寄る足音)

ウユウ
ウユウ

これが……大丈夫なように見えるかい……

???
[灰尾メンバー

大丈夫、大丈夫ですから、今すぐ救急車を――

ウユウ
ウユウ

いいんだ、ゴホッ、ゴホッゴホッ……もう助からないさ……私にはわかる。店を開いた初日に血を見るなんて、縁がないね……

ウユウ
ウユウ

私は……ゴホゴッホッ、泣くな。男たるもの、何を泣いてるんだ、人が死ぬことなど、この世では当たり前のことじゃないか……

???
灰尾メンバー

な……泣いてなんか、ない……

ウユウ
ウユウ

そうか……なら……それでいいんだ……

???
灰尾メンバー

烏兄さん!烏兄さんッ!!

……

……

ニェン
ニェン

へぇ、残りの人生はすべて師匠の復讐のために使い、自分は何もしてこなかったってわけか。しっかし夢の中まで自分を殺すなんざ、割に合わねぇだろ。

ウユウ
ウユウ

あれ?私は確かさっき……?

ニェン
ニェン

なに寝ぼけてやがんだ。私がお前を探さなきゃ、まーた勾呉城を出たところからやり直しになってたんだぞ。

ニェン
ニェン

目が覚めたのならとっとと働きやがれってんだ!

ウユウ
ウユウ

!?

(アーツ音)

クルース
クルース

……一体何が……

ビーグル
ビーグル

クルースさん!来たんですね!

クルース
クルース

……ビーグルちゃん?

クルース
クルース

なんでまだ……ロドスの制服を着ているの……

ビーグル
ビーグル

えへへ、長期休暇ですけど、やっぱりこの服装が一番しっくりきたんで。

ビーグル
ビーグル

ほら見てください、結構いいと思いませんかここ?

クルース
クルース

……ここがあなたの新居?

ビーグル
ビーグル

そうですよ!

ビーグル
ビーグル

もう少しここに泊まっていきませんか?しっかりおもてなししますんで!

クルース
クルース

……

クルース
クルース

……うん!

クルース
クルース

……本当にここを行く必要あるのかな~……

ビーグル
ビーグル

シーッ!

ビーグル
ビーグル

あそこを見てください……

賞金稼ぎ
賞金稼ぎ

……チッ、面倒臭ぇなぁ、あのキャラバンはスッカラカンで収穫がゼロのうえに、逆に大勢に追い掛け回されたとは、こうなると知ってりゃやるんじゃなかったぜ!

賞金稼ぎ
賞金稼ぎ

今更こんなこと愚痴ってもしょうがねぇか、おーい、ものをこっちまで運んできてくれ、いい場所を見つけたぞ!印でもつけとけよ!

クルース
クルース

――強盗かな?

ビーグル
ビーグル

はい、以前からトランスポーターのお姉さんの話によると、最近何やら山が騒がしいって……ここに隠れていたんですね。

ビーグル
ビーグル

クルースさん、早く戻って警備隊に通報――

クルース
クルース

――どうして?私たちでやっつければいいじゃん。

ビーグル
ビーグル

クルースさん、あまり無茶なことは――

賞金稼ぎ
賞金稼ぎ

おい、また車の隊列がやってきたぞ!きっと新しいキャラバンだ!

クルース
クルース

グズグズしてちゃ間に合わなくなっちゃうよ。

ビーグル
ビーグル

ええッ、クルースさんにそんなことを言われるなんて……

クルース
クルース

……私は……

ビーグル
ビーグル

あ、あいつらが動くようです!私が援護――

クルース
クルース

――よいしょっと。

(狙撃音)

賞金稼ぎ
賞金稼ぎ

なんだお前は――!?

賞金稼ぎ
賞金稼ぎ

なっ!?どうしたんだ?こいつ急にぶっ倒れたぞ!?

クルース
クルース

こ~こ~だ~よ~。

ビーグル
ビーグル

わぁ……一瞬で全部撃破しちゃった……それに一撃一撃急所を外して、彼らの行動能力だけを奪ったなんて……

ビーグル
ビーグル

いつの間にそんな強くなったんですか?

クルース
クルース

じゃあ警備隊を呼ぼっか?

ビーグル
ビーグル

はい!

クルース
クルース

ふぁ~……おはよう。

ビーグル
ビーグル

おはようございます、クルースさん、よく眠れましたか?

クルース
クルース

急に早寝しても、寝つけられないてば。

ビーグル
ビーグル

あははは、でもトランスポーターのおじさん方は朝早くに行っちゃうんですから、乗せてもらいたいのなら、早起きしないとダメですよ。

クルース
クルース

……

ビーグル
ビーグル

え、そんな顔しないでくださいよ、ちょっとだけ離れなばれになるだけじゃないですか、またいつでも来ていいんですからね。

ビーグル
ビーグル

そうだ、フェン隊長によろしく伝えといてもらいますか?今どうしてるんでしょうね……

クルース
クルース

うん。

ビーグル
ビーグル

えへへ。

ビーグル
ビーグル

はい、お荷物ですよ、全部片づけておきましたから。

クルース
クルース

うん。

ビーグル
ビーグル

もう、そんなしょんぼりしないでください、スマイルですよ!この後またフェン隊長のところに行かなきゃならないんですからね!

ビーグル
ビーグル

今度はクルビアのお土産も持ってきてくださいね!

クルース
クルース

……うん!

ビーグル
ビーグル

またね!クルースさーん。

クルース
クルース

またね、ビーグル――

またね。さようなら。
あなたはこんなはずじゃなかったってわかっていますもんね。
この先もっとひどいことに会うのですから。
……
私……あなただろうなって思ってました。けどごめんなさい。道を譲るわけにはいきません。絶対に。

クルース
クルース

――

クルース
クルース

……え?私さっき……

ロドス前衛オペレーター
ロドス前衛オペレーター

……起きました?

ロドス前衛オペレーター
ロドス前衛オペレーター

僕たちはもう……長い間ここに閉じ込められてしまっているんですよ、なんかいい夢でも見たんですか?

クルース
クルース

……ごめんなさい。

ロドス前衛オペレーター
ロドス前衛オペレーター

謝ることなんてないですよ……ただ食料がもうじき尽きそうではありますけど、クルースさん。

ロドス前衛オペレーター
ロドス前衛オペレーター

賭けに出るしかないですね、山を越えてみる必要があります。

ロドス前衛オペレーター
ロドス前衛オペレーター

ボリバル本軍の消息はもうずっと得られていません、もしかして進路を変更したのでしょうか?

クルース
クルース

……ビーグルちゃん。

 

ロドス前衛オペレーター
ロドス前衛オペレーター

とにかく、ここから離れないと。任務期限もとっくに過ぎている……せめてロドスに戻って報告しないと……

 

クルース
クルース

……違う。

クルース
クルース

違う……こんなはずじゃ……緊急用の通信も未だに反応がないよ!

ロドス前衛オペレーター
ロドス前衛オペレーター

で、でも作戦地図によると、彼らの野営地は確かにここ付近のはずですよ!

クルース
クルース

お――い!どこにいるの―!?

クルース
クルース

……!

クルース
クルース

こ、これって……

クルース
クルース

……ビーグル……本当に彼女なの?

クルース
クルース

ど、どうして?どうしてなの!?

ロドス前衛オペレーター
ロドス前衛オペレーター

……詳しい報告はあとで上に上げときましょう。

ロドス前衛オペレーター
ロドス前衛オペレーター

それに……クルースさん、この件は僕たちが深く介入すべきじゃないと思いますよ……仮にボリバルの情勢が本当にこれほど複雑化してるのであれば……僕たちでは、彼女の役には立ちませんよ。

ロドス前衛オペレーター
ロドス前衛オペレーター

はやくロドス本艦に戻らないと……

クルース
クルース

じゃあ彼女はあのまま――

クルース
クルース

――そんなのイヤだ、わ……私……私が彼女を止める!どんな手段を使ってでも……!

(ニェンの足音)

ニェン
ニェン

よぉ、クルース。

クルース
クルース

……ニェンさん、ごめんなさい、今あなたと付き合ってる暇は……

ニェン
ニェン

なるほどなるほど、まぁシーはお前たちに夢みたいな人生を描いてやれることはできねぇもんな。

ニェン
ニェン

あいつはお前たちの人生を、過去の光陰を再び最初から映し出してるだけ……お前なぁ、どうせ全部偽物なんだし、もうちょっとはマシな結末を選んだらどうなんだ?

クルース
クルース

一体何を言って――

ニェン
ニェン

いいんだいいんだ、私がいるから平気だ。

ニェン
ニェン

なんせ私はあいつの姉だからよ。

ラヴァ
ラヴァ

クルース!ウユウ!

ラヴァ
ラヴァ

……辺りが真っ暗だ……一体何が起こってるんだ……

ラヴァ
ラヴァ

それにさっきなんか煮傘さんが……燃えていた火を揉み消した……?

ラヴァ
ラヴァ

……一体どうなってるんだ……

ラヴァ
ラヴァ

ったく、サガのほうもどうなったのかわかんないし……

ラヴァ
ラヴァ

……足はちゃんと地面を踏んでるようだが、無闇には動けないな……

ニェン
ニェン

ラヴァ。

ラヴァ
ラヴァ

うわああああ!?

ラヴァ
ラヴァ

に、ニェン!?なんでこんなところにいるんだ?

ニェン
ニェン

おう、心配すんな、私は本物だ、こうやってお前たちを助けに来たじゃねぇか。

ニェン
ニェン

ただまあ、なんていうか、あいつに一本取られたって感じか……?

ラヴァ
ラヴァ

アタシは何も見え――

ラヴァ
ラヴァ

――ちょっと待て、目がちょっとだけ……あっちに人がいるのか?

ニェン
ニェン

……こりゃ罠だな。

ニェン
ニェン

あいつは私がお前に渡した物の作用を察知したんだ、そしてすぐさまお前たちを邯鄲の夢へと放り込んだ。しかし残念ながら……ちと遅かったようだな。

ラヴァ
ラヴァ

何したらこんなことができるんだ!?

ニェン
ニェン

さぁな。人間の深層意識を掘り出すことはそう難しいことじゃねぇ、なんせこれはお前たちに創り上げた別の人生でもないしな、これの本質は……自問自答の走馬灯みたいなもんだ。

ニェン
ニェン

鏡のように、湖のように、あるは深い深い星空のように、一旦絵に入り込んでしまえば、もう抜け出せねぇ、そんな神通力めいたものさ。

ニェン
ニェン

しかしなぜラヴァだけハマらなかったんだ?以前から一緒に火鍋を食った回数が多かったからなのかそれとも……

ラヴァ
ラヴァ

そんな理由でアタシをこんな面倒臭いことに巻き込まないでくれ、頼むから。

ニェン
ニェン

……

ラヴァ
ラヴァ

ニェン?

ニェン
ニェン

……ん?あぁ、何でもねぇ。

ニェン
ニェン

ちょっともう一つの故事でも聞いてみるか?私はシーみたいな引きこもりの陰湿野郎じゃねぇからよ、難しい内容じゃない。

ラヴァ
ラヴァ

この状況下だと、まず先にどうやって脱出できるかを考えたほうがいい気が――

ニェン
ニェン

はぁ、工業や、人口、アーツの技術などが今日よりも発達していたなかった古代の人々が、どうやってその名の通りの巨獣と立ち向かった話が聞きたくないのか?

ラヴァ
ラヴァ

お前前回もそれと同じような誘い文句でアタシに話してたら結局最後は玄極巨兵の展開になっちまったじゃないか……

ニェン
ニェン

でも興味はあるんだろ。

ラヴァ
ラヴァ

アタシは……もういいや、話してくれ……

ニェン
ニェン

遥か昔、大炎の広大な領土の内には、神々が存在していた。

ニェン
ニェン

時の大炎皇帝は自分の繁栄した国土が、天災と人災の苦しみに喘いでいるところを見て、ひどく悲しく思い、思い詰めていた。

ニェン
ニェン

あの史上でも賛否両論が絶えなかった天子もとい真龍は、当時まさに青年であり、熱い血を滾らせていた。大炎皇帝としての彼は、自分の腹心や重臣に、こんなことを話した――

ニェン
ニェン

即ち溥天の下、王土に非ざるは莫く、率土の濱、王臣に非ざるは莫し。ならなぜ天上で胡坐をかいている野蛮なる存在は、未だかつて大炎の民たちの心願に耳を傾けず、大炎臣民の地を守ろうとしないのだろうか?

ニェン
ニェン

……お前も知っての通り、国家に点在する民俗伝説あるいは歴史上の「神」とは何も哲学概念のみの虚像というわけではない。まあつっても彼らとて言われてるほど「崇高な存在」というわけでもねぇが。

ニェン
ニェン

そん中で真龍は奥深くの山々からとある傲慢で、不肖な一人の神を見つけた。

ニェン
ニェン

大炎の悠久な歴史なんざ相手側の寿命からしちゃほんの小さな一部にすぎなかった……だから当然彼は真龍の意見になんざ耳を微塵も傾けようとしなかった。なぜこの私が人類の生死なんぞに気を留めなければならんのだってな。

ニェン
ニェン

しかし問題があった、それは真龍は彼の臣民と社会を気にしていた、気にし過ぎていたんだ。

ニェン
ニェン

そして真龍は全国に勅令を出し、自らも出陣した。真龍の勅令に従い、数多の強者達人たちがこの驚天動地の追い込み狩猟に参加していった――

ニェン
ニェン

しかし……予想外なことに、真龍が最初に見つけたあの崛起なる存在は、あろうことか自分の同族や親族を裏切り、自分の力を削ぎ落し、この世にも稀な大狩猟に参加したのだ。

ニェン
ニェン

大狩猟を終えた後、大炎は真龍の逆鱗に触れた「神」を数匹も誅殺し、真龍の意にそぐわない存在をすべて駆逐した。

ニェン
ニェン

血は流れて河となり、屍は万里先にまで伏していた、大炎はとてつもなく痛い代償を代わりに払った。この真龍の賛否両論は、この時から始まったものだ。

ニェン
ニェン

しかし彼本人は気にも留めなかった、真龍はこの大狩猟を生きてる限り一生続けた。

ニェン
ニェン

そして彼が老いてしまった頃、この炎国の地に未だ居座り、かつて真龍を助け、親族に背いた、最も古く、しかし最も崇高で悠久な存在を探し当てた。

ニェン
ニェン

この反逆者はすでに十分その報いを受けていた、同族たちは大炎を離れる前にヤツの炎を揉み消し、ヤツの傲慢な本質を帝君の面前に曝け出したのだ――

ニェン
ニェン

とにかく、功罪は帳消しとなり、真龍は命だけは見逃してやったが、大炎に従服するように誓わせた。天地のために心を立て、臣民のために命を立て、往聖のために絶学を継ぎ、万世のために太平を開けと。

ニェン
ニェン

それからして、大炎の国祚は、真龍の手に、大炎の臣民の手に渡った。

ニェン
ニェン

その後、いわゆる「神」と呼ばれた存在たち――諸国王朝よりも前にあった崛起なる存在たちは身を隠すようになり、自分たちの種を蒔き、種に自分たちの破片や権能と魂を分け与え、この大地で代行させた。

ニェン
ニェン

……ヤツらは依然とテラの大地で様々な形で存続し続けているが、数はもう昔のそれとは違う。

ニェン
ニェン

ただみんな大人しくなって、今は一家揃って仲良く平和に大地の各所で暮らしてるんだとさ。うん、いいエンディングじゃねぇか。

ラヴァ
ラヴァ

お前……

ニェン
ニェン

……テラ諸国の悠久な変遷に目をやっても、未だかつてどんな王朝でも、どんな人でも、この「神明勅封」の故事を口にできるヤツはいねぇ。

ラヴァ
ラヴァ

……

ニェン
ニェン

大炎は、まだまだおっかねぇ場所だよなぁ。

ニェン
ニェン

いやまぁ、兎にも角にも、さっさとここを出よう、こんなところ少しでも長居なんかしたくねぇし。

ニェン
ニェン

今あるこの絵ってのは夕の切り札なんだぜ、ただあいつの優柔不断に感謝しなくちゃな、おかげでこうして脱出の機会が設けられたんだ、へへ。

ラヴァ
ラヴァ

……ど、どやって脱出するんだ……?

(アーツの音)

クルース
クルース

あれ……私たちどうしちゃったの……

ウユウ
ウユウ

うぅ、頭が重い……ん?クルース殿?

クルース
クルース

ウユウちゃん……?ラヴァちゃんは?サガさんは?

ウユウ
ウユウ

私にもわからん、彼女たちは……お、恩人様や、私たちはもしや、灰斉山に戻ってきたのでは?

シー
シー

……ここから出てって。

クルース
クルース

あなたは……

シー
シー

一度しか言わないわ。

クルース
クルース

まさか……あなたが、夕さん?

シー
シー

どうせニェンの差し金なんでしょ。

シー
シー

あなたたちがどこの誰で、彼女とどんな関係があるかなんて、知ったこっちゃない。

シー
シー

だからもう帰ってちょうだい。

ウユウ
ウユウ

……まさか以前のあれこれはすべて、あなたが……?

シー
シー

だから何?

シー
シー

何度も何度も私の静寂の邪魔をした輩を、この程度の罰で済ませただけで、ありがたいと思いなさい。

クルース
クルース

……もしかして、「爆竹」のこと……?

クルース
クルース

誤解だよ、私たちもわざとじゃ――

シー
シー

誤解?

シー
シー

ニェンはあなたたちを容易に騙せるかもしれないけど、私には通用しないわ。

シー
シー

あいつが何を言おうと、私は会わないから。そう伝えてちょうだい。

クルース
クルース

そんな……

クルース
クルース

それより、ラヴァちゃんと嵯峨さんは?

シー
シー

彼女たちなら――

天に洪炉ありて――

シー
シー

――!

――地が五金を生まん。

シー
シー

なっ……どこだ!?

暉冶寒淬、雲清を照らさん!

ウユウ
ウユウ

な、なんだ!?どこからか声がするぞ?

クルース
クルース

――伏せて!

(花火の音と爆発音)

(ラヴァの走る足音)

ラヴァ
ラヴァ

ゴホゴホッ、ゴホッゴホゴホ――

 

ラヴァ
ラヴァ

――急になんてものを作りだすんだお前は!?

(ラヴァの足音)

ニェン
ニェン

これか、ビッグサイズのロケット花火だ。全長八尺横三尺、テラ前代未聞のテクノロジー誘爆法を採用!

ラヴァ
ラヴァ

あんな近距離で放つんなら、放つぞぐらい言ってくれよ!

ニェン
ニェン

そんな暇ねぇよ、じゃなきゃまーたこいつに逃げられるだろ。

ニェン
ニェン

だよな、私のかわいい妹よ?

シー
シー

――あんた。

シー
シー

よくも……よくも私の絵を燃やしてくれたわね!

ニェン
ニェン

絵?

ニェン
ニェン

ははーん、なるほど、あの門を開いた瞬間から、お前の絵巻の世界に入り込む仕組みになってるんだな?

ニェン
ニェン

それとも、山を登る途中からか?ということはこの山全体が、お前が描いた夢幻というわけか?

ニェン
ニェン

へぇ、どうりで見つからないわけだ、引っ込み思案ちゃん――

ラヴァ
ラヴァ

ど、どういうことだ?

ニェン
ニェン

つまりだな、あーんな小せぇ茅屋にあんなたくさん物が入るわけねぇってことだ、お前らは誰一人気付かなかったのか?

ニェン
ニェン

うーん、それもそうか、ほとんどの人は思考や感覚すらも影響されちまうらしいんだし、気付かないのも無理はねぇ。

ニェン
ニェン

自分がどんな変な夢を見たとしても、その異様さには気が付かないようにな、それと同じ原理だ。

シー
シー

……

ニェン
ニェン

アハッ、姉にそのしょうもねぇ秘密を暴かれて、怒っちまったか?

シー
シー

あんたをあの陵墓に叩き戻してやるわ、「姉さん」。

ニェン
ニェン

へぇ、あそこはもう壊されちまってるよ、とっくの昔にな。

シー
シー

ふーん、ならちょうどいいじゃない?新しいのを作ってあげるわ、今度はもっとお飾りの多いヤツをね。

ニェン
ニェン

ほほう、相変わらずだな、ムカついたら容赦しない口になるところが……しかし、さっき私を「姉さん」って呼んでくれたよな?

シー
シー

……そうよ、死にゆく者には、多少なりとも親切になってあげないといけないからね。

ニェン
ニェン

それなら心配には及ばねぇよ、「妹」よ、今まで私に何回勝てたと思ってるんだ?

シー
シー

思い上がらないで、見掛け倒しの姉さん。

ニェン
ニェン

そっちこそ、調子に乗ってる妹よ。

ラヴァ
ラヴァ

クルース、ウユウ、下がれッ!

天に洪炉ありて、地が五金を生まん。暉冶寒淬、雲清を照らさん。

星は点雪を蔵し、月は晦明を隠さん。拙山枯水、大江を行かん。

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