


ただいま戻りました。


問題はなかったか?

前方30km範囲内に警戒すべき目標は見当たりませんでした、この区域はしばらくは安全かと。

よし、地図を見せておくれ。

うーむ……

方向に間違いはないな、このまま北に進もう、進んだ先に現地の人がラッパ山と呼ばれるランドマークが見えるはずじゃ。

そこの麓で休んだあとに、また西へ二日ほど進めば、フィアルクン市に着けるはずじゃ。

フィアルクンが私たちの目的地なのですか?

いや、あそこは中継地としては最適じゃ。フィアルクンにはクルビア人の大キャラバンがある、そのキャラバンと一緒にナハリン市へ行く、そこだとロドスの事務所が置かれておるからのう。

事務所に行けば、交通ツールも手に入る、それからの行動もやり易かろう。


よかったぁ!ようやくこの徒歩遠征をやめることができるのね!もう靴底が擦り減っちゃってまっ平よ。


外でのウォーキングは少なからず身体にはいい、そしたらいつもダイエットに悩まされずに済むよ。

ちょっと!

通信機の調子はどうですか、通信回路に接続できますか?

まだダメです、この状況を見るに、フィアルクンに到達するまではロドス本艦と連絡を取るのは困難だと思います。

もっとパワーがある送信機が手に入ればいいんですけど……

今考えても無駄よ、この近くにほかの移動都市なんてないんだし。

そうじゃな、フィアルクンに着くまでの補給は厳しい、だから出発する前に水と食料を多めに持参するようにとわしは言ったんじゃ。

確かこの付近には小さな集落ならあったはずじゃが、いかんせんもうかなり年月が過ぎておる、その集落がまだそのまま付近に残っているかどうかは、わしにもわからん。

レンジャーさんはこの区域に詳しいんですね。

ははは……若かりし頃のわしだったらもっと詳しかったがのう、この荒野にはもう随分と足を運んでおらんよ。

この地図は、レンジャーさんが自分で描いたものなんですか?

そうじゃ、レンジャーなら誰だって自分の地図が描けた、ただまさかこの地図がまだ役に立つとは思わんかったさ。ここは天災による激しい地形変化が見られない、運が良かったのう。

すみません、またお手を煩わせます。

なんの、おぬしら若者の面倒を見るのがわしら年老いた者の責務よ。

今回の事態にはわしにも責任がある。事前に予備案を考えておれば、こんな狼狽える必要もなかったはずじゃ。

来歴不明の傭兵一団に倉庫が襲撃され、運悪く私たちの車両も盗まれた?

こんなこと、あっていい話じゃないよ!?

私はあの商人がこっそり私たちの車を売るためだったって疑ってるけどね、あとで適当に理由を付ければ済む話だし。

珍しく私も同感だよ。

珍しくは余計よ。

ブラックスチールの傭兵の慣例に則ってた以前の私なら、絶対許してなかった。

しかし今の身分はロドスのオペレーターじゃ、わしはなるべく現地の人と揉め事を起こさんでほしいがのう。

薬品は安全に送り届けられたんじゃ、あの商人も報酬に何か小細工を仕掛けたわけではない、わしらもあまり根に持つべきではないよ。

しかし精錬された源石錠を持って徒歩で荒野を行くには、あまりにも危険すぎます。

連中の理由はスキだらけじゃ、ヴィーヴルの現地傭兵が本当のことを言ってくれるはずもなかろう、次回はもっと用心しよう。

しかし帰ったら後方勤務部に資産損失の報告をせねばならんな。

はぁ……ヴィーヴルはこういう場所ですからね。

しかし……

地図もアーツもないが、わしには方角を見つけられる方法がある、じゃがそれだと時間を多く浪費してしまう。わしらは人数も多いし、これだけの水と食料では持たんな。

サルゴンの荒野でツールを頼らずに方角を判別できるのですか?それは一体どうやってでです?

またの機会に教えてあげよう、これは経験がものを言うからのう。

なんていうか……

さすがはあの「赤い谷の遊侠」ね。

わははは、おぬしら若い者もそんな話を知っておるのか。

あれはただの通り名にすぎんよ。

じゃああの話は本当だったの?一日でジェスキンズ七兄弟を全員しょっぴいて、単騎でラスティーハンマーの強盗集団を退けたって……

一矢で十の目標に命中させ、空中でラテラーノ人が撃った銃弾を撃ち下ろしたとか……

ほほう、その話も今じゃそんな風に変わっておるのか。

ブラックスチールの同僚たちがたまにレンジャーの物語を話していました、大方こんな感じの話ではありますけど。

小説にするには最適の題材ね。

シュヴァルツさんも聞いたことがありますよね。

……ええ……

以前クルビアで、各地を渡り歩いてきた傭兵から幾つか話を聞かされました。

「赤い谷のシャムシール」と「酋長たちの災い」というお話です。

……

ふむ……それはいささか誇張されすぎておるな。

レンジャーはおぬしらが想像しているような組織ではあるまい。

おぬしらがどういう話を聞いたかは知らぬが、一番広く伝わっている噂話に限ってその大半はウソであることが多い。

レンジャーは戦闘を専門とする組織ではない、わしに言わせれば、みなで協力し合う荒野のサバイバーと言ったほうが正しいかのう。

彼らとて最初は激動の時代に苦しんでいた一般人たちであった、それが戦乱のさなかに身を挺して、良からぬ輩に強奪されていた村々を守っておったのじゃ。

彼らは決して訓練された戦士ではなかった、避けられぬ戦争と日の目を見ない強奪により誕生した抵抗者たちじゃった。

みな怒りを燃やし、戦乱の歳月という運命に決して屈せなかった。

その後、彼らに加わろうとする者がだんだんと増えていき、組織も徐々に自治民兵から局地的な団体へと変化していった、荒野の各集落へ医療と防衛を提供するためのな。

そこは私もブラックスチールの出勤記録で読んだことがあります。サルゴン地区では、政府部隊以外にも、レンジャーは荒野で跋扈する強盗や村を襲う傭兵を駆逐してきたとか。

そういうこともあったのう。

あの時、レンジャー部隊には確か……ガタイのいい奴らがおったのう、それで賊なども確かに捕まえておった。おぬしが読んだ内容は事実ではあるが、常にソレというわけではないのじゃよ。

ほとんどは、レンジャーたちが村の人たちに井戸を修理してやったり、野獣を捕らえたり、薬品を収集したりと、瑣末なことしかしておらんよ。

それに加えて、当時、ここの区域はまだサルゴンの領土として編入されておらんかったからのう……

じゃあ、当時のレンジャーさんもきっとその「ガタイのいい奴ら」の一員だったんでしょ?

ははは、わしはそんな威勢のいい奴ではなかったさ、普通の斥候だったよ。

……普通ですか……?

しかしそのレンジャーという組織は、最後には解散されたとか?

それを言うと話が長くなるのう……

その後も、色々起こったんじゃよ。戦争は終結し、酋長たちもそれぞれ欲しがってた土地を手に入れた。

サルゴンの酋長たちからしてみれば、レンジャーという服従を拒否する組織は見過ごせぬ存在であったんじゃよ。

当然、酋長連中の態度以外にも、レンジャーが解散した理由はまだまだある、しかしそれもすべては過去じゃ、具体的な経緯はもうわしの頭の中で忘れ去られているわい。

じゃあその誇張された話は、全部ウソだったってこと?

真実というのは往々にして華がないことじゃ、誇張された伝説しかドラマは生まれぬ、そしてそのドラマがなければ話も途絶えるものよ。

おぬしらが聞いてきた話もすべて幾重にも加工がされてきたものじゃ。

結局のところ、物語が面白くなければ、誰だって話す気を起こさんじゃろ。

ほれほれ、わしの話はここまでにしょう、そろそろ移動するぞ。

みんなの様子を見るに、私たちはサルゴン領内に入ったんだよね?

昨晩からもうサルゴン領内に入ってるよ。お願いだからもっと気を引き締めて、あとで何か起こっても助けるつもりはないから。

もーうるさいなー。

わしらが今踏んでいる土地はサルゴンのバイエル酋長のものじゃ、しかし彼の本拠地はここからじゃ遠いのう。

このあともまだまだ……
(節足動物の軋む音)

待て!動くでない!

……聞こえましたか。
(節足動物の軋む音)

みな動くな、何かが近づいてくる。

!!

!!

わしらの足元じゃ!散開ッ!

フランカ、避けてッ!
(リスカムがフランカを突き飛ばす)

(咆哮)

!

な……なんですかこの生き物は?

これは……砂地獣?

こんな見た目してたっけ?

一匹、二匹……にしては多すぎる。

陣形を展開!戦闘準備じゃ!
