頑張って!Lord!
ふっ……フンッ!!くぁッ!
もう少し!あともう少しよ!
フンッ……はぁッ!
引っかけてやったぞ!
さすがね!
ほう……素手でこのクロスボウの弦を引っ張り上げたとは、大したものじゃな。
ふぅ……
頭おかしいんじゃないかこのクロスボウの設計、外見からじゃこんな力が必要にはまったく見えんぞ。
こういうヘビークロスボウは普通によく見かけるタイプじゃよ、サルカズ人ならほとんど素手で引っ張られるぞ。
こんなパワーあるヘビークロスボウなんて……100メートル以内の威力なら銃器にも匹敵するな、ただ使うには手が余る。
……身体能力の格差なら、この前教わって頂いたな。
下手したらあの放電する娘っ子のほうが俺よりパワーがあるかもしれん。
リスカムのことか?まあ彼女はヴィーヴルじゃからな、ヴィーヴルは総じて体格もパワーも強靭な種族じゃからな。
そうか……
急にこんな武器に興味を持ち出しちゃってどうしたの?
今後戦闘に参加すると頻度が高いと知った以上、弾薬が尽きた後のことも考えたほうがいいと思ってな。
弾がなければ、機銃なんてただの棍棒にしかならない。
その時になったら連中と肉薄するわけにもいかないだろ、さっきの経験からして、勝算なんかあるとも思えん。
弾はあとどのくらいなの?
俺のはもう少ない、残り400発を下ったところかな。
じゃあこれを見せてあげる。
なんだこれは……弾か?
あのリスカムっていうロドスのオペレーターが使ってる弾丸よ、名称は「エッチング弾」と言うらしい、とても高価なものなんだとか。
中身をもう見たのか?
どういう構造をしているんだこの弾は、推進剤は?
この結晶がそれよ。
エネルギー源には見えるな、けどこれは推進剤なのか、それとも弾頭?
以前わしがラテラーノの職人から聞いた話によると、エッチング弾は一発ごとに微小なアーツユニットが組み込まれておる、そのアーツユニットはラテラーノ銃の構造と相互反応を引き起こすと言う。
つまり、銃本体だけでなく、そこから発射されたエッチング弾の一発一発が術師のアーツロッドとイコールなんじゃと、だからこの弾はとてつもなく高価なんじゃ。
それにこれと対応したアーツも複雑極まりないらしくてのう、そのためサンクタ人にしか大量の銃器は扱えられん、ほかの者はより簡単に扱える遠距離武器を選ぶというわけじゃ。
ラテラーノは国名で、サンクタは種族名、ラテラーノ人は全員サンクタというわけではないと……理解した。
ならこの世界に普通の銃火器とかはないのか?その「アーツ」とやらを必要としないヤツとか。
……アーツを必要としない銃火器か、今まで一度も聞いたことがないのう。
そうか……
一歩一歩受け入れるしかないわね、少なくともここの爆薬ならみんな使えるわよ。
ケッツたちはどうしたんだ?
地下室にいるわ、まだ無線ラジオみたいな通信機を修理しようとしているみたい。
やっぱり通信用アーツユニットが動いてくれない。
エネルギーの問題かしら?
たぶん……ちょっと試してみる。
わかった、二人とも下がってて、優等生ちゃんが面白いものを見せてくれるわよ。
……チャージ完了……
おっ!おお!おおおッ!
それがアーツってヤツか?最高にクールじゃないか。
ホント……不思議なものね。
できた?
起動した!
やる~、さすがは私の動く充電器ちゃんね。
私の邪魔ばっかりして、ほかにやることがあるでしょ!
……まったく……
ダメだ、やっぱり繋がらない。
おそらく結晶体電子ユニットがボロボロになってるのかも、もしくはほかの電子回路に肉眼では確認できないほど損害が生じてるのかもしれない。
ここには源石電子回路を修理する専門設備がない、系統的に問題を洗い出せそうにないかな。
あーあ、こりゃダメっぽいね。
そのアーツなんとかって、普通の人でも習得できるものなのか?
理論上ならね……ほとんどの人なら一定の訓練を経たらある程度アーツを使えるようになれるわよ。
ただアーツの学習には努力と時間が必要よ、それと生まれつきの素質とも関係してくるわ。
他人よりはるかに多く努力しても、最後はほんの基礎のアーツしか使えない人もたくさんいるんだからね。
わしがそういう愚鈍な人よ、終始なんかのアーツを習得できずにいる。
何かしたいの?
いやなに、ただちょっと夢を見てしまってな……クレイジーで、実践的な意義すら欠けた夢をな。
あ、そうだ、ケッツさん。
使ってみてください、この盾を。
なんだこりゃ……盾に何かが付いているんだが?
そちらの盾本来の構造と機能をもとにパワー効率が高いランプと源石接続回路を装着しました、これならあなたの今まで使い慣れてきた装備作用も発揮できると思いますよ。
ありがとう!
……あー……でも俺「アーツ」は使えないぞ。
詳しく言うと、源石接続回路とは、アーツが使えない人でもアーツ装備が使えるようにしてくれる現代科学の結晶なの。この装置があれば簡単なアーツぐらいならその中に貯蓄できるわよ。
それと当然ですが、装置のエネルギー供給とメンテナンスには依然として専門術師にやってもらわないといけませんので。
(盾を構える音)
わかった、どれどれ、結構重いな。
……スイッチオン……装置を起動して……
(閃光)
問題はなさそうかな、ちょっと試してみるよ。
すげぇ!本当にできた!
でももうちょい慣れないといけないな。
半年もシールド突入をしてこなかったんだ、いい加減コイツをどう使えばいいか忘れちまうところだったよ。
外の様子はどう?
前回の進攻が最後の敵対行動だったらしい、今のところ肉弾偵察はしてきてないわ。なんだか嫌な予感がする。
特にあの連中が組織性のあるチンピラ共と考えると、そりゃもう悪寒ものよ。
嵐の前の静けさというものじゃな。
それそれ。
先生は?
先生なら休んでいる、もう何日も寝ていないからね。
ならあの子を休ませてあげよう。
まだあんな年齢じゃ、こんな重いものを背負わせるべきじゃない。
それと一つ問題が差し迫っておる。食料がもうそろそろ尽きそうじゃ。
……そうね、以前オックフェンさんから聞いたわ。
どうする?
そうね、一度感染者区域にでも戻る?
そうしよう。
なんじゃ?打開策でも見つけたか?
私たちがあそこを離脱した時は大慌てだったから、食料をそのままにしている病人の家屋がまだたくさん残っているかもしれない。
確かに。今はこちらも人手が足りておる、物資回収に行くことは可能じゃな。
なら善は急げ、日が暮れるまでには間に合いそうね。