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【明日方舟】遺塵を歩む WD-3「サボテンの砂丘」行動後

ヴィンセント伯爵
ヴィンセント伯爵

おお、ケルシー女史、ようやく来てくれたか。えっと、その恰好は……

ケルシー
ケルシー

ご招待して頂き至極光栄に存じます、それが想定外のことが起こりまして、修道院から相応しい礼服を用意できなかったのです。そのため急ごしらえでこのような装いを選ぶことになりました、どうかお気になさらず。

ヴィンセント伯爵
ヴィンセント伯爵

あぁ、もちろん気にしないとも、むしろとても……とても英姿颯爽に思うよ。

ヴィンセント伯爵
ヴィンセント伯爵

ハイジもボーっとしてないで、ほら、こちらはケルシー修道士だ、一言挨拶をしなさい、済んだら屋内に入っていいから。

ハイジ
ハイジ

――――

ヴィンセント伯爵
ヴィンセント伯爵

ハイジ?

ケルシー
ケルシー

ミス・ハイジ、お会いできて光栄です。

ハイジ
ハイジ

あっ――えっ――えっと、その、ハイジでございます――

ケルシー
ケルシー

存じております、可愛らしいお名前ですね。

ハイジ
ハイジ

――あなた様が、ケルシー修道士で、いらして?噂はかねがね叔父様から聞いております。

ケルシー
ケルシー

光栄です。

ハイジ
ハイジ

――

ヴィンセント伯爵
ヴィンセント伯爵

ケルシー女史、ミスター・トムソンのことは知っているね。そう、このハイジ・トムソンそこがあのおかしななやつの娘でね。

ケルシー
ケルシー

そうでしたか、あなたのお父上はとても尊敬に値する御仁ですよ。

ハイジ
ハイジ

――

ヴィンセント伯爵
ヴィンセント伯爵

立ち話もなんですし、どうぞお入りください、ケルシー女史。

ケルシー
ケルシー

いま一度感謝を申し上げます、ヴィンセント閣下。

愉快な女貴族
愉快な女貴族

あら、伯爵様がロンデニウムに行かれたとこをご存じですのね?あなたもあの都市に行かれたことが?

ほろ酔いした商人
ほろ酔いした商人

その話はよしてくれ、あの時荷物をすべてまとめておいたにも関わらず、天災トランスポーターからこんなことを言われてね、予定していたルートが封鎖された、だから帰還しようと。

ほろ酔いした商人
ほろ酔いした商人

私は意気消沈して家に帰ったよ、そしたらあろうことかすぐさま大きな病に罹ってしまってね。

愉快な女貴族
愉快な女貴族

まあ、災難でしたね。

柄にもなく風流ぶる男
柄にもなく風流ぶる男

あの大詩人は今日いらしてないのかね?今しがた文を何篇か綴ってきたから、彼に是非とも見てもらいたいんだが。

ほろ酔いした商人
ほろ酔いした商人

今日は諦めろ、トムソンが伯爵の面前で、どれだけその所謂“思想家”の手稿を破り捨てたかを忘れたのか?

愉快な女貴族
愉快な女貴族

あ、わたくし憶えていますわ。トムソンも容赦しませんわね。しかも、“思想の摩擦は容赦なくて当然だ”とも言い残しちゃって。まったく恐ろしい人ですわ。

ほろ酔いした商人
ほろ酔いした商人

才気あふれても、いいこと尽くめとは言えんな。

愉快な女貴族
愉快な女貴族

あら、でもああいう若気があるからこそ魅力的じゃなくて?意気揚々で、男気があって。

柄にもなく風流ぶる男
柄にもなく風流ぶる男

私もあの頃のトムソンに憧れを抱いていた、しかし伯爵閣下が目の前にいるにも関わらず、彼は自身のわざとらしい傲慢さを払拭しきれなかったか

ほろ酔いした商人
ほろ酔いした商人

わざとらしい?あのトムソンが?

柄にもなく風流ぶる男
柄にもなく風流ぶる男

ああそうとも、我らが敬愛してやまない伯爵のことだぞ。爵位だろうと身分だろうと、その数年間、伯爵は彼の土地をきちんと治められている、みんな知っていることだ。

ほろ酔いした商人
ほろ酔いした商人

ほう、確かダラムは伯爵閣下の領地ではなく、みなが共同でここの自治を行っているんだったな、なら伯爵閣下の頭領たる名声も、実に彼に相応しい、この一杯は閣下のために!

柄にもなく風流ぶる男
柄にもなく風流ぶる男

それだけじゃないぞ、伯爵は何度かロンデニウムから招待を受けている、そこで開かれる宴会に参加するためのね。これはまさしく我々のこの小さな地方の――私たちを受け入れ私たちを認めてくれた辺境の――誇りではないかね?

ほろ酔いした商人
ほろ酔いした商人

なに、貴族であれば誘われて当前じゃないか。

愉快な女貴族
愉快な女貴族

もう、そんな生真面目でつまんない話題にすり替えないでくださいまし。私たちはみなヴィクトリアの臣民、ではなくて?

柄にもなく風流ぶる男
柄にもなく風流ぶる男

ほほう!臣民ときたか!あの想像もしなかった絞首刑があって以降、私たちはもはや一体誰の臣民であったのかすら分からなくなってしまったというのにか!

ほろ酔いした商人
ほろ酔いした商人

その話もよせ。陛下が去ってしまったことは誰もが遺憾の念を禁じえないことだ、しかし見てみろ、私たちは依然とこうして心ゆくまで酒を嗜めているではないか?

愉快な女貴族
愉快な女貴族

そうよ、今日は愉快な日ですのよ、そんな恐ろしい話を持ち出さないでくださいまし――ほら見て、伯爵がいらっしゃいましたわよ。

ヴィンセント伯爵
ヴィンセント伯爵

話はすべて耳に届いているよ、しかし興味深いね、リチャード、またぜひとも君の文を拝読してみたい。

柄にもなく風流ぶる男
柄にもなく風流ぶる男

とんでもない、伯爵閣下、私のこの些細な文とあなたを比べたら、それこそ月とすっぽんみたいなものですよ。

愉快な女貴族
愉快な女貴族

そうよヴィンセント、はやくあなたがロンデニウムへ赴いたお話を、皆さんに聞かせてくださいな。どなたにお会いになったの?もしかして伝説の大公爵とか?

ヴィンセント伯爵
ヴィンセント伯爵

まあまあ、みんなそう急ぐな、パーティはまだ始まったばかりだ、忘れないでおくれ、今日は祝いの日だ。

ヴィンセント伯爵
ヴィンセント伯爵

それより皆さんにご紹介させて頂きたい方たちがいるんだ、特別なお客様が二名本日ここにいらしてくれた。

ヴィンセント伯爵
ヴィンセント伯爵

ケルシー修道士、どうぞこちらへ。

ケルシー
ケルシー

ご機嫌麗しゅう、ご来賓の皆さま、心よりご挨拶を申し上げます。

愉快な女貴族
愉快な女貴族

まあ!あなたその恰好……淑女の方でいらして?勿体ないことですわ……

ほろ酔いした商人
ほろ酔いした商人

勿体ないところなどあるものか、ケルシー修道士、御機嫌よう。

柄にもなく風流ぶる男
柄にもなく風流ぶる男

おお、これはこれは、ケルシー修道士、お噂はかねがね、何やら以前伯爵夫人を助けたため、伯爵閣下のお目にかかれたとか?

ケルシー
ケルシー

伯爵夫人にとって、お辛い出来事でした。

愉快な女貴族
愉快な女貴族

どちらからいらしたのか是非とも教えて頂きたいですわ、サンクタじゃないラテラーノの修道士はめったに見ませんもの、それにあなた……とても魅力的で興味がそそりますわ。

ほろ酔いした商人
ほろ酔いした商人

麗しいレディよ、どちらから来られたのかな?

愉快な女貴族
愉快な女貴族

わたくしが今聞いたところでしょ、あなたは口を挟まないでくださいまし。

柄にもなく風流ぶる男
柄にもなく風流ぶる男

伯爵から聞いた話だと、あなたは棟梁の才だとか、哲学や芸術に関しても、あなたなりの知見をお持ちなのだろうか?

ケルシー
ケルシー

恐縮です、たまたま伯爵夫人を助け、それで伯爵閣下からお目にかかれただけに過ぎません。

柄にもなく風流ぶる男
柄にもなく風流ぶる男

ほう、なら伯爵閣下と仲がよろしいのであれば、トムソン閣下のこともご存じなのでは?

ケルシー
ケルシー

もちろんでございます、トムソン閣下はダラムでは珍しい文才あるお方です、よく伯爵閣下からお話を伺っております。

柄にもなく風流ぶる男
柄にもなく風流ぶる男

それは上々。使用人!私が持ってきたワイン持ってきてくれ、伯爵とこちらの修道士からぜひとも色々ご教授したい!

愉快な女貴族
愉快な女貴族

パーティを独り占めにしないでくださいまし、みんなで楽しくお話をすればいいじゃないですの?

愉快な女貴族
愉快な女貴族

たとえばあの時ロンデニウムで開催されたファッションショーとか……

ほろ酔いした商人
ほろ酔いした商人

何だっていいさ、皆さん、私はここで足を休ませていただきますよ。見識を深めることも兼ねた休息をね。

愉快な女貴族
愉快な女貴族

あなたね、いつも怠け過ぎよ、じゃなかったら今頃あなたの産業は今の倍も増えていること間違いないですわ

ほろ酔いした商人
ほろ酔いした商人

ワイナリーを三つも持つようになったんだ、もう十分じゃないか?

ほろ酔いした商人
ほろ酔いした商人

ああ、そうそう、それともう一人お客人がいると言っていたな、一体どなた――

ハイジ
ハイジ

ご機嫌よう、おじ様おば様方。

ほろ酔いした商人
ほろ酔いした商人

ハイジじゃないか!君も来ていたのか!

柄にもなく風流ぶる男
柄にもなく風流ぶる男

ハイジ、なんて可愛らしい装いなんだ……トムソンめ、子供に関しちゃ、私は到底彼には及ばないか。

ヴィンセント伯爵
ヴィンセント伯爵

いいか、ハイジはまだ酒が飲める年齢じゃないんだ、どさくさに彼女に酒を渡すんじゃないぞ、使用人、彼女にクリームソーダを淹れてくれ。

ハイジ
ハイジ

いつまでもわたくしを子ども扱いしないでください、ヴィンセント叔父様。

ヴィンセント伯爵
ヴィンセント伯爵

だからといって酒を飲ませるわけにもいかないだろ。君のお父上からも釘を刺されているんだ、なんせまだその歳で……

ハイジ
ハイジ

むぅ……

ヴィンセント伯爵
ヴィンセント伯爵

わかったわかった、すまないがクリームソーダをジンジャービールに変えてくれ。

ハイジ
ハイジ

もういいですわ!

ほろ酔いした商人
ほろ酔いした商人

はは、ハイジははやく大人になりたいんだね。

愉快な女貴族
愉快な女貴族

けど自分の娘がはやく大きくなって欲しいと考える父親なんていませんのよ、当時のわたくしも同じでしたわ、ジュエリーを欲しがっていたら、お父様にこぴどく叱られましたのよ。

ハイジ
ハイジ

酒がダメなら、せめて、パーティに参加したっていいじゃないですの?わたくし……ここで大人しく座ってますから!

ヴィンセント伯爵
ヴィンセント伯爵

もうその辺にしておきなさい、ハイジ、君は今日こっそりやってきたんだ、忘れたとは言わせないよ、あとで大人しく上に行って寝るんだぞ。

ハイジ
ハイジ

うぅ……

ほろ酔いした商人
ほろ酔いした商人

その恰好を見ると君の母上そっくりだ、ハイジ。

愉快な女貴族
愉快な女貴族

でも今は――

ハイジ
ハイジ

もう……!!

ハイジ
ハイジ

……ケルシー様、あなたわたくしのことをどう思ってますの?

ケルシー
ケルシー

ハイジ様が子供だろうと大人どうと関係ございません。

ケルシー
ケルシー

お酒を注がせてください、あなたのジンジャービールを。

ハイジ
ハイジ

――――

ハイジ
ハイジ

あ、ありがとうございます……

ヴィンセント伯爵
ヴィンセント伯爵

お味は如何かな?

ハイジ
ハイジ

……意外と美味しいですわね。

愉快な女貴族
愉快な女貴族

まあ、ジンジャービールはノンアルコールじゃなかったかしら?お顔が真っ赤ですわよ?

ヴィンセント伯爵
ヴィンセント伯爵

この子は人見知りでね、いつもこうなるんだ。

ヴィンセント伯爵
ヴィンセント伯爵

さあ、皆さん!人は揃いました、これより正式にパーティを開催しましょう!

ハイジ
ハイジ

……

柄にもなく風流ぶる男
柄にもなく風流ぶる男

あなたの言う通りだ!リターニアの芸術は魅入るほど素晴らしい、だがあのリターニア人はあまりにも驕り高い、いつも私たちを見下している!

愉快な女貴族
愉快な女貴族

リターニア、そうね、リターニアは突発的に起こる出来事が多すぎるのよ……わたくしは小さい頃からそこの巫王の物語を聞いて育ってきましたの、その巫王を一目でも拝もうと旅行いった矢先、あろうことかあの双子の女王が巫王を処したんですのよ!

ほろ酔いした商人
ほろ酔いした商人

あの恐ろしい巫王に会うために旅行しに行った人なんて初めて見たぞ……

ケルシー
ケルシー

若くして即位した王たちと違って、巫王は半世紀近く経ってやっと皇帝になられた方です、そして長い間リターニアを統治し続けてきました。

柄にもなく風流ぶる男
柄にもなく風流ぶる男

疑いようもなく、巫王はこの大地で最も強大な術師だ、だが彼は自分をバケモノにしてしまったけどね!

愉快な女貴族
愉快な女貴族

あの恐ろしい物語で描かれたように、彼の角は異形に曲がりくねっていて、怪しいエネルギーを発しているんだとか……

ほろ酔いした商人
ほろ酔いした商人

そうなのか、生憎私は巫王の姿を見たことがなくてね、げっぷ、失礼、実にいい酒だ。しかし双子の女王の写真なら新聞で見たことがあるぞ。片方は金ピカで、もう片方か真っ黒だったよ。

ハイジ
ハイジ

…………

ケルシー
ケルシー

リターニアは目まぐるしい変化を遂げていますが、巫王が彼の塔から降りられることは極めて稀です、彼は終始リターニアを睥睨しており、王臣が謁見しても、姿を見せず塔の頂きから大いなる影を投じるだけでした。

ケルシー
ケルシー

しかし彼が生きて最後に地面に足をついた時は、双子の女王によって双角を斬り落とされた、目も当てられない姿でした、嘆かわしい限りです。

柄にもなく風流ぶる男
柄にもなく風流ぶる男

あの時起こった政変の全貌はあまり詳しく知らないが、たとえ我らの目を最も惹きつける侠客だったとしても、巫王の力を計り知ることは叶わないのだろうな。

ケルシー
ケルシー

これでなぜ女王の声が騎士たちに囲まれながらリターニアに辿りついた時、いがみ合っていた各大公爵が静まり返り、歓迎したかが分かるでしょう。

柄にもなく風流ぶる男
柄にもなく風流ぶる男

なんと?その口ぶりからすると、ロンデニウムにも行かれたことがあるように聞こますな?

ケルシー
ケルシー

私はそこからやってきました、まさしく現地のサンクタの教えがあったからこそ、私は修道士になれたのです。

ヴィンセント伯爵
ヴィンセント伯爵

あはは、ケルシー、言ったじゃないか、ここにいるのはみな私の良き友だ、みな君のことをとても歓迎している。

ほろ酔いした商人
ほろ酔いした商人

私にはあなたと歳が近い娘がいるんだが、如何せんいつも私が苦労して稼いできた金を無駄使いしているんだ……まったくあなたを見習ってほしいものだよ。

ほろ酔いした商人
ほろ酔いした商人

今宵あなたと知り合えて、本当に嬉しいですわ、それはそれとしてまだ独身でしらして、ケルシー?

ハイジ
ハイジ

ケルシー様!

ヴィンセント伯爵
ヴィンセント伯爵

こら、ハイジ、大人たちが話している最中に口を挟んでくるんじゃない、それにそろそろ寝る時間だろ。

ケルシー
ケルシー

彼女の話を聞いてあげましょう、ヴィンセント伯爵、この時代では、子供たちはいつも私たちが想像してる以上に成熟していますから。

ヴィンセント伯爵
ヴィンセント伯爵

そこまで言うのなら。

ハイジ
ハイジ

……ケルシー様……あの、ウルサスに行かれたことはありますか?

柄にもなく風流ぶる男
柄にもなく風流ぶる男

ああ、あの反乱と暴力しかない国のことか。

ケルシー
ケルシー

私が遊学していた頃、サンクトペテルブルクに暫く滞在したことがあります、ウルサスにご興味がおありなのですか?

ハイジ
ハイジ

ええ!

ハイジ
ハイジ

お父様が昔わたくしに本を読ませてくれましたの、ウルサスの作者が書かれた本でして……

柄にもなく風流ぶる男
柄にもなく風流ぶる男

ウルサスには二つの芸術しか存在しない、大衆を弄ぶ煽動と、正真正銘で永遠なる偉大さだけだ。

愉快な女貴族
愉快な女貴族

あのトムソンが気に入ってるということなら、十中八九後者なんでしょうね?

柄にもなく風流ぶる男
柄にもなく風流ぶる男

チッ、相変わらず彼をえらく信頼しているのだな。

ハイジ
ハイジ

お父様はその作者をいたく気に入っておりました、自らサンクトペテルブルクにまで赴いて彼を訪ねたいと思うほどでしたの、ただ商売にトラブルが起こったためずっと先送りになってしまい、今年は古傷が再発してしまったため、行けなくなってしまいましたの。

ケルシー
ケルシー

お父上はお怪我をされているのですか?

ハイジ
ハイジ

……ええ、膝をやってしまいましたの、それにいつまでも手術を受けようとしなかったため、病が根付いてしまいましたわ。

ヴィンセント伯爵
ヴィンセント伯爵

私も彼に言ったんだがね、はぁ、一体去年に何が起こったのやら。彼が傷まみれになって帰ってきても、強盗に遭っただと、崖から落ちたとしか言わなくてね、ほかの詳細をまったく教えてくれないんだ。

ケルシー
ケルシー

……ウルサスに行ってみたいのですか?ミス・ハイジ?

ヴィンセント伯爵
ヴィンセント伯爵

それはダメだ!ウルサスの前皇帝の死と叛乱が未だにあの国に多大な影響を及ぼしている、そこで勉強したいにしても、せめてあと数年経ってからじゃないとダメだ!

ハイジ
ハイジ

言ってみただけですわよ……ケルシー様はあの国にどのような印象を抱かれておりますの?

ケルシー
ケルシー

……一つお話をして差し上げましょう。

ケルシー
ケルシー

ウルサス第六集団軍が、たった一本のウォッカで滅んでしまった噂を。

柄にもなく風流ぶる男
柄にもなく風流ぶる男

根も葉もない噂にしか聞こえないが。

ケルシー
ケルシー

何事もその事の発端しか保持していないのであれば、得られる往々にして奇想天外な結末ばかりです。私たちはみなその過程に慣れ親しんでいる、違いますか?

柄にもなく風流ぶる男
柄にもなく風流ぶる男

それは確かに。

ケルシー
ケルシー

起因は軍の統制区域内で“収税”を行っていたとある軍の輩が、誤ってとある貴族を脅かしてしまったためです。

ケルシー
ケルシー

この事件は徐々に拡大していきました、当時の第六集団軍は腐敗に腐敗していて、旧貴族の権力が奥深くまで根付いていました、それにより第五集団軍は無条件で若き皇帝と新たな帝国議会側についたのです。

ケルシー
ケルシー

発起人が誰だったかは具体的にわかっておりません、しかし結論から言うと、最終的に第五集団軍はこの機に乗じて、二つの移動都市の航路中央で、第六集団軍と正面から衝突したのです。

ヴィンセント伯爵
ヴィンセント伯爵

“大反乱”の序幕には様々な説がある、第六集団軍の様々な噂なら、私も耳にしたことがある。

愉快な女貴族
愉快な女貴族

じゃあ彼らはそのまま戦い始めたのかしら?

ケルシー
ケルシー

……そんな簡単なものでしたら、大反乱とは呼ばれていなかったでしょうね。

ケルシー
ケルシー

終始国境の守備につき、権力も影響力もウルサスの中枢に及んでいなかった第四集団軍が突如と帝国議会に反旗を翻したのです、さらに積極的に第六集団軍という“反逆者”と一切関係はないと身の潔白を装いながら。

ケルシー
ケルシー

用意しておいたスケープゴートを数匹処分したあと、旧貴族の手中にはすでに第六集団軍と第八集団軍という二つの切り札しか残っていませんでした。

ケルシー
ケルシー

なら、孤立した第六集団軍が最後にどうなかったか、もうお分かりでしょう。

ケルシー
ケルシー

この一連の原因は――とても簡単です、皆さんもご存じでしょう。一人の酔っ払った軍人が、手に持っていたウォッカの酒瓶で一人の若い貴族に傷害を負わせたからです。

柄にもなく風流ぶる男
柄にもなく風流ぶる男

……面白い話ではあった、ケルシー女史、だがこの話は真実とはなんら関係がないと私は考えているよ。

ケルシー
ケルシー

ハイジ様、“これこそがウルサス”とは言いません。大地にあるいかなる文明も、自らその目で見るに値するものばかりです、楽しむべきものではありますが、それについて深く考える必要もあります。

ハイジ
ハイジ

……

ケルシー
ケルシー

あなたはご自身がお気に召しているウルサスから、何を見ましたか?

ケルシー
ケルシー

きっとおそらくはのどかな田園風景、あるいは英雄豪傑、またあるいはサンクトペテルブルクにある劇場での演目なのかもしれません。

ケルシー
ケルシー

しかし私が見たのは、どれもこれも大反乱の余波がもたらした、崩壊した時代なのですよ。

ハイジ
ハイジ

……ヴィクトリアもそのような時代が訪れるのでしょうか?

ケルシー
ケルシー

……保証はできかねます、ミス・ハイジ。

ヴィンセント伯爵
ヴィンセント伯爵

そんなまさか!まったくハイジは、ケルシー女史が話してくれたウルサスの噂話で、怖くなってしまったのかい?

ヴィンセント伯爵
ヴィンセント伯爵

私は別にウルサス人を貶しているわけではない、しかしウルサス帝国が野蛮で無法な国なのは確かだ。

ハイジ
ハイジ

でもそれはロンデニウムも――

ヴィンセント伯爵
ヴィンセント伯爵

――それを言うんじゃない、あの事件は確かに遺憾に思ったが、だからといってそれでヴィクトリアが少しでも動揺したことがあったかい?

ほろ酔いした商人
ほろ酔いした商人

まあまあ、伯爵閣下、この話題はこの辺にして、それよりも、あなたがロンデニウムに赴かれた話をしてくれないかい?みんなそれを一番聞きたがっている。

柄にもなく風流ぶる男
柄にもなく風流ぶる男

どの大貴族とお会いになられたのかな?

ヴィンセント伯爵
ヴィンセント伯爵

口にするだけでも光栄に思うのだが、実はその道中、ノルマンディ公爵が私を彼の旗艦に招待して共に夜のパーティに赴こうとお誘いを受けてね……

柄にもなく風流ぶる男
柄にもなく風流ぶる男

なに!なぜそのことを今まで黙っていたんだい……!

愉快な女貴族
愉快な女貴族

よしなさい、ノルマンディ公爵……彼は昔からリターニア人を嫌っておりますのよ、彼は女王の声の使節と衝突を起こしてしまったのかしら?

ヴィンセント伯爵
ヴィンセント伯爵

いいや、ただ公爵閣下の使用人が、あの晩公爵は一目もあの優雅で美しい使節を拝められなかったと言っていたよ。

柄にもなく風流ぶる男
柄にもなく風流ぶる男

あはは、それこそ“公爵”のあるべき風貌だ。

柄にもなく風流ぶる男
柄にもなく風流ぶる男

ウルサスで気取ってる大公は数十人はおろか数百――いや、そんなに多くはないな、彼らは明らかに身勝手すぎだ。率直に言わせてもらうと、無能ですらある。

ヴィンセント伯爵
ヴィンセント伯爵

あれは一種の傲慢だからね、私からすれば、ロンデニウムの風貌を目にした人なら、誰だってそう言うさ。

ヴィンセント伯爵
ヴィンセント伯爵

だがノルマンディ公爵ならご自身の力のみで、リターニアに蔓延っている利益に目がない過激な連中を数十年は抑えられると私は信じているよ。ましてや大公爵など……

ハイジ
ハイジ

……

ヴィンセント伯爵
ヴィンセント伯爵

ハイジ、疲れたのかい?

ハイジ
ハイジ

え?いえ……まだケルシー様が仰ってくださったことを反芻しておりましたの、ケルシー様と二人っきりでお話させてもいいですか?

柄にもなく風流ぶる男
柄にもなく風流ぶる男

おや、ロンデニウムの話題にケルシー女史が外されては、たいぶつまらなくなってしまうな。

ケルシー
ケルシー

恐縮です。

ヴィンセント伯爵
ヴィンセント伯爵

まあ、時間はたっぷりあるんだ、それに麦畑男爵が私を呼んでいる、彼と少しばかり談笑しているよ。あとでまた話を聞かせておくれ。

(ヴィンセント伯爵が去っていく足音)

ケルシー
ケルシー

つまらなかったですか?ミス・ハイジ?

ハイジ
ハイジ

え?あ……い、いえ、大変興味深かった内容でございました。

ハイジ
ハイジ

……

ハイジ
ハイジ

そうですね……えっと、その、もっと詩や小麦の収穫云々の話をするのかと思っていましたわ、でも……

ケルシー
ケルシー

つまらない別の国の政治話題ばかりだったと?

ハイジ
ハイジ

えーっと、あはは……

ハイジ
ハイジ

……わたくしにも分かりますわよ、ケルシー様もつまらないと思っていたんじゃなくて?

ハイジ
ハイジ

本当はあなたのほうがもっと博識なのにね、ヴィンセント叔父様を囲ってワーギャー騒いでる人たち、あなたも本当は見下しているんじゃなくて?

ケルシー
ケルシー

少し誤解をしておりますね……

ハイジ
ハイジ

あはは、今晩初めて知り合ったんですものね、あなたの言う通りですわ、ケルシー様。

ケルシー
ケルシー

ケルシーで構いません。

ハイジ
ハイジ

じゃあ、ケルシー……少し付き合ってくださいます?

ハイジ
ハイジ

しばらくしたら、ヴィンセント叔父様に寝るようにと言われてしまいますの。わたくしこんな早く寝たくなんかありませんのに。

ハイジ
ハイジ

外の雪が強くなってますけど、構いませんか……?

ケルシー
ケルシー

――構いません、お付き合い致します。

ハイジ
ハイジ

すごい雪ね!

ケルシー
ケルシー

ここ数年こんな大雪はありませんでしたからね。

ハイジ
ハイジ

……雪は好きですわ、ケルシー、自分の故郷のことも。

ケルシー
ケルシー

……そうですね。

ハイジ
ハイジ

ハァー……寒い。

ハイジ
ハイジ

みんな温かい暖炉の傍に引きこもってますわね。

ケルシー
ケルシー

ええ。

ハイジ
ハイジ

……

ハイジ
ハイジ

二人っきりになれましたわね、ケルシー……えへへ、ケルシー。

ハイジ
ハイジ

――二人っきりにするのに大変苦労しましたのよ。

ケルシー
ケルシー

君はまだ若い……ハイジ。

ケルシー
ケルシー

君の父親は君をこうも簡単に巻き込ませるべきじゃない。

ハイジ
ハイジ

でもこれはわたくしの意志でやっておりますのよ、ケルシー。わたくしも何か手伝ってあげたいんです、子供と同じように、温室の中でただ外を眺めているんじゃなくて。

ハイジ
ハイジ

……冬が来たら、吹雪に免れるヴィクトリアのオークの木なんてあるのでしょうか?であれば、はやめに準備しておいてほうがよくてよ。

ケルシー
ケルシー

君は父親そっくりだ。

ハイジ
ハイジ

――それは褒めてますの?

ケルシー
ケルシー

もちろんさ。

ハイジ
ハイジ

……えへへ……あ、この近くに人が来ることはありません、だから……

ハイジ
ハイジ

今じゃないと、この手紙を渡せませんわね。

ケルシー
ケルシー

……

ケルシー
ケルシー

君の父が選んだ情報員はヴィクトリア最高のトランスポーターであり、労働者と各界の有志の者だ、一度も情報が遅れることはなかった――今回を除いてはな。

ケルシー
ケルシー

何が起こった?

うら若きハイジは彼女のその天真爛漫な足取りを止めた。
彼女の言う通りだ、騒ぎが嗅ぎつけてくる前に、若者は常に先んじて用意を済まさなければならない。

ハイジ
ハイジ

――手紙は二通あります、ケルシー閣下。

ハイジ
ハイジ

一通は全ヴィクトリアから、もう一通は“カズデル”からです。

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