
現代
3:32p.m. 天気/晴れ
サルゴン中部、イバテー地区、無名の町


……私たちについていきたい……?

あなたも分かってると思いますが、私たちからすれば、あなたは相当怪しいんですよ?

そちらの隊員のチェックを済みましたか?

どうなんだヘビーレイン?

……なにも問題はありませんでした。

けどそれでも信用はできません。

ふむ、それは結構、信用されなくて当然ですね。

目的はなんですか?

私の目的は……目的を見つけることです。

何をわけわかんないことを――

ご存じですか?イバテー地区の王族は――火災で亡くなられたんですよ。

……二、三年前の出来事だったな。そいつの跡を今継いでいるのはそいつの息子だ、イバテー地区もそれなりの騒ぎが起こった……

あの火災のおかげで、俺も新しい雇い主を探すハメになった、数か月してやっと新しい仕事にありつけれたんだ、迷惑極まりなかったぜ。

ええ、そうですね、あれは私の最後の獲物でしたよ。

網を張り巡らせ、罠も仕掛けたが、獲物は一向にやってこない、今の私は、とても手持ち無沙汰でしてね。

――

――あ、あなたは王族を殺したんですか……?

サルゴンの軍が黙っちゃ――

――いや、待て、なんで俺たちにそんなことを教えたんだ!?

ほう、さすがは闇市の常連ですね。ええ、あなたたちと私を除いて、王族の死と私に関係があることを知ってる人はいません。

サルゴンの軍に関しては……もう時代が変わりました、イバテー地区を統治してるパーディシャは、この荒んだ土地に見向きもしていませんよ。

おそらく、パーディシャは領主が父だろうとその子供だろうと興味はないのでしょう、そういう私もそうですが。

私はただ彼の死を求めているだけです、簡単な話です。

あなたの目的は何なんですか?

復讐です。

これは答えにしてはあまりにも安直です、だから今までこの答えを口にはしませんでしたよ。この大地にいる人間の大半は何らかの復讐する目標を持っているはずです、敵への、町への、この大地への、ありとあらゆるものに。

二十数年も時が経っても、私はずっと復讐を求めていた。

権力も、地位も、富も、これらはただの付随品、もし必要なら、棄てても構いません。

あるいは、これらすべてを“ロドス”に与えてあげましょうか。

未だかつてない報酬です、どうでしょう?

……

ふふ、どうやらまだ信用してくれそうにありませんね、慎重なお嬢さんだ、以前は軍人をやられていたのですか、サルゴンの軍人を?

――あなたには関係ありません。

ではあなたはどうなのです、若き“橋”よ?あるいは今あなたが名乗っている名前で呼んだほうがいいですか、“シェーシャ”?

……

シェーシャさん、こいつは信用できません。

……お前まだすげー肝心なことを隠してるだろ?

む?

ああ……そうだ、そうでした、これを忘れてしまうとは……

あなた方は感染者を治療する医療企業と謳っていましたね……いいでしょう、今しばらくはこの大地にもまだそんな奇想天外な人たちがいると信じてあげましょう。

私は感染者です。

私は王族に匹敵するほどの財も、王族を陥れるほどの人脈も実力もあります。

それらすべてと、治療する機会を交換したい、如何です?

――イカレてる。

同感です。

けど自ら死を求めている人なんているはずもありません。私はこれらすべてを諦めてでも治療をしてもらいたい、それの何が間違っているというのでしょうか?

いや、ヘビーレインが言ってるのはたぶんソレじゃねぇ。

自分が感染者だっていうのに、お前はまったく気にしてないのか……?

ならロドスに何を求めていやがる?

……

いいでしょう、時間もそれほど残されていませんし、腹を割って話しましょう。

私は“ケルシー”を探しています。

彼女は私に多くのことを教えたり、私に道を指し示してくれるかもしれません……けどもちろん、可能性としては、彼女はそのどちらもしてくれないほうが高いでしょう、狡猾に、私にもう一度選択することを突き付けてくる。

しかしそうだったとしても構いません。

あの時の事件に関与していた人物は尽く私が片付けました、もうサルゴンに未練はありません、私はこんな吐き気を催すほどの土地から一刻も早く立ち去りたいのです。

私は新たな始まりを欲しがっていた。

そんなことを思ってる矢先、見逃す人などいると思いますか、自分の目の前に現れた過去の影を?

……ケルシー先生とどういう関係なんですか?

ふむ……話せば長くなりますよ。

彼女は私の命の恩人です。感謝していますよ、心の底から。

私たちに決定権は……

……三年前、イバテーの王族が旅路の途中で発生した大火事で亡くなった、町もその大火事で何もかも焼き尽くされた、そいつの息子が反乱を起こし、ほかの連中と王位継承を争った。

全部お前の仕業だったのか。

その通りです。

なぜだ?

いやなに、昔の話です、私はただ元から隙間だからだった哀れな親子関係に小さな……楔を差し込んだだけです。

なぜそんなことを?

……手がかりを探しているんだ、あんたのおかげで、俺はイバテー地区の調査を終えなきゃならなくなったぜ。

ほう……手がかり。

でしたら私を信用するきっかけになり得るかもしれませんね、言ってみてください、力になれるといいのですが。

人を探してるんだ、クルビアの軍事実験の責任者をな。

クルビアの企業を調査しているのですか、それはまたどうして?

……俺が最も尊敬していた人が滑稽な事故で亡くなったからだ。

それが本当にただの事故だったとしたら?

だとしても……真実が知りたい。それにあの連中が俺の兄貴の死で出世した理由にはならねぇだろ?

……シェーシャさん。

わかってる、これは俺個人の問題だ……だがせっかくのチャンスなんだ、そうだろ、“サンドソルジャー”。

ふふ、オホン、失礼。

なんの話だったかな?

人は生きてる限り、復讐が必要だ、相手がどんなであろうと、執念が深かろうが浅かろうがね。復讐は人生における一つの永遠なテーマですからね。

もしあなた方が私をロドスで治療を受けることを許可してくれるのでしたら、この一件の調査を引き受けても構いません。もちろん、さきほどまで言ってたすべての取引が含まれますが。

ドアの外に置いてある荷物の十倍もの仕事量だったとしても、私にかかれば造作もない、ましてや廉価で、仕事も丁寧ときた、製薬会社にとって、これ以上得することはないと思いますが?

……シェーシャさん、申し訳ないけど、あなたの個人的な要求のために取引を引き受けちゃダメですよ。

もちろん分かってるさ……ただ俺は……

そうだ……忘れるところでした、最近物忘れが激しくてね。

あのイシンが予言を残していたんです、一度も信じたことはありませんが。けど今になって考え直すと、あの予言の意味はおそらく、ただ交渉と交流の一種だったんでしょう。

フッ、予言か……凡人が時間と対等でいられるはずもない。そんな便利なアーツなんてあるわけがないというのに。

……予言?

残念ながらイシンはもういません、まあいい、彼女がまだこの約束を憶えていればいいのですが。

彼女はあなた方に……金貨を一枚多く渡しませんでしたか?

サルゴンの古い金貨を。

……!

ヘビーレイン、シェーシャ、事態発生だ。

……

慌てるな、どうした?

……怪しい連中がたくさん現れた。この町に向かってきている。

忠告しますが、ロクな連中じゃありませんよ。

えっと、それに向かってくるスピードが速い、今逃げればまだ間に合うが、これ以上躊躇すれば、交戦は免れないぞ。

十五分だ、俺たちに残された時間は十五分だ、隊長、副隊長、早めに頼むぜ。

――あなたの仲間ですか?

まさか、今の私は独り身だ。マシーン以上に信頼できない人ですよ。

ただ、おそらく彼らは私目当てで来たのでしょうね。

――チクショウ、ハメやがったな!

私の脱出を手伝うか、あるいは一緒に世間知らずなあの殺し屋を対処するか。

どちらを選びます?

……

ど、どうすりゃいいんだ?

そちらの判断に従いますよ。

チッ、この野郎――

――最後に一つだけ聞く、なんであの町を焼いた?王族一人を暗殺するだけだろ、なんで関係ない大勢の人を巻き込む必要があった?

それなのに一般人に避難する猶予も与えていた――本当にただあの町を燃やしたかっただけなのか?赤角町はお前のシマからかなり遠くあったはずだろ?一体何がしたい――

そんなに目的が重要ですか?

――お前が本当にイカレた野郎なのかあるいは戦争狂いなのかどうかを見極めるためだ。

ふむ、なるほど、だがあなたでは理解できないと思いますよ、私が燃やしたのは過去ですから。

それもあんたの復讐か?

いいや……

時期遅れの火葬なだけです。
