今日はこれぐらい拾えば十分かな?私の分を除いて、ペトラお婆さんの分でしょ、バンコの分でしょ……
あ、あと詩人さんの分も残さないと、また戻ってきてくれるよね?彼女だけお腹を空かせるわけにもいかないもんね。
残りは……まだたくさんある。箱に入れて保存しておくか。
え、チメネアおじさん、欲しいの?じゃ、じゃあ先に分けてあげるよ。
わわ、おじさんの肩に絡まってるのって海藻だよね!私にちょうだい、詩人さんが教えてくれた……えっと、海藻酒を造ってみるから!
あれ、バンコは?ちょっと見ないスキにどこに行っちゃったの?
いやぁ……あぁ……
赤い影が幼い彼の目の前に現れた。
あ……しじ……ああ……
……スカートを引っ張らないで。
これあげる。
あむ……
……噛んじゃダメ。食べられないものだから。
フエゴ、フエゴぉ……
……彼女を呼ばないで。
このハープを彼女に渡してほしいの。
伝えてちょうだい……いや、あなたじゃ伝えられないわね。
それにまだ別れを告げる時でもないわね。
ちょっと教会に行ってくるわ。戻ってきたら、私から伝えるから。
スカジは丘に聳える教会に目をやった。彼女は残された道をどう歩めばいいかをすでに分かっていた。
長官、丘に爆薬を仕込むのですか?
そうだ。
一つ報告がありますけど、教会に入る人影を発見しました。
私たちと以前会ったあのよそ者と……とてもよく似ていました。
……
あの、長官、彼女は何者なんですか?
エーギル人だ。
話によると、彼女は恐魚と戦ったと聞きます。
……私たち以外に、恐魚のことを知って、あえてアイツらと戦っただなんて……
もしこちらが教会を爆破して吹っ飛ばしたら……彼女にも被害が及んでしまうじゃないでしょうか?
諸悪の根源を断つために、ここを破壊するのだ。
そうなんですか?しかし長官でさえも……誰がこの異常事態を引き起こしたのかはまだはっきりと確証を持っていないのではないですか?
任務外の情報を聞くことは禁止されている。
……分かりました。
それと、長官は気にしていないとお思いかもしれませんが、それでも言わせてください……この区画の耐重構造は、私たちが設置した爆発の威力に耐えきれないおそれがあります。
南半分の町がそれによっていつでも崩落する可能性があります、しかしここの住民たちはそれをまだ知り得ていません。
続けろ。
ですので……
……
私に住民たちの避難呼びかけを許可して頂きたいです。
長官からすれば怪しさ満点で、問題大アリだとしても……
……浄化すべき存在だとしても。
審問官エイレーネよ!
ッ……!
審問官の責務とはなんだ、言ってみろ。
はっ!
“イベリアの存続のため、イベリアの敵を打ち倒すため、イベリアの純潔と道徳を守護するため、私は剣と光を携えん!”
ならヤツらにもそれ相応の判決を下すべきだ!
判決?彼らを……死刑に処すというのですか?
長官、長官はいつ頃から、歌を聞かなくなったのでしょうか?レコードは、全部破損してるはずですよね?あなたの蓄音機もすでに灰を被って久しいはずですよね?
私はある歌を聞きました。あのエーギル人が彼らに歌ってあげた歌です。
あの歌こそが、イベリアが本来あるべき歌だと私は思っております。
彼らを殺める前に、私は真実が知りたいです。長官が黒幕を引きずり出そうとするように。
彼らに変異する可能性はないとは言い切れません、しかしもしその時が来たら、この私が必ず彼らを浄化してみせます、けど今は彼らを先に避難させてあげたいのです。
長官、今あなたの許可さえあれば、即刻避難させて参ります!
それがお前が下した判決か?
申し上げますが、私には分かりません!
エイレーネ、お前は目の前の人々に判決を下してるだけじゃない。ほかの人にも判決を下そうとしているのだ!
バケモノ共に生を下せば、イベリアの民に死を下すことになるのだぞ!
理解しています!けどこのような判決は、もう何度も下してきました!
お前の判決次第で、災いを阻むことも、凶兆をもたらすこともありえるのだぞ!一人を救うために百人を殺め、百人を殺めて一人しか救えない結果になるかもしれんのだ!
……それは承知しております、長官!
ここにある利害の衝突も、道徳と経文の衝突も……理解しています!
そんなことを答えろとは言っていない。
……
お前に聞いているのは、エイレーネ、お前はこの責任を背負うか?
もし苦痛をもたらすのであれば、お前もその苦痛を背負うことになる、お前が他者に施した悪よりもさらに多くの苦痛をだ。
お前にそんな覚悟があるか?お前の信仰心は苦痛を受けた時に揺れ動く程度のものなのか?失敗によりその結末に打ちのめされ、二度と立ち上がれなくなってもいいのか?
……私なら背負えます。覚悟は揺るぎません。
]審問会に加入する以前から、もう覚悟ができています。私ならやれます。もし過ちを犯せば、喜んで罰をお受けします。必ず。
ですから長官――
もういい。
くっ……
もういい。お前の覚悟を果たすといい、審問官。
――はい、長官!直ちに住民たちを避難させます!
それと、長官……聖櫃に残された爆薬の量があればこの町全体を吹き飛ばせるはずですよね。
そうだ。
でしたら……
必要とあらば、お前のその判決を撤廃するぞ。
……分かりました。
では行ってきます、先生。
(エイレーネが去っていく足音)
エイレーネは風のように去っていった。
大審問官もその場に立ち尽くしていた、まるで海辺の岩礁のように。
心に疑問が生じなければ、答えを求める機会は訪れない。しかし世間の醜悪さと幻覚をさほど経験したことがないこの若き審問官にとって、何もかもが時期尚早だった。
彼女にはまだまだ修練が足りない。失敗を、打ちのめされる経験が必要なのだ。
苦しみを受け、己の非現実的な願望を放棄して初めて、不屈になれる。
……
待て。
誰だ?
ご機嫌よう、大審問官閣下。
(スカジの走る足音)
おやおや、これはこれは。
ようこそ、吟遊詩人よ。