ロドス本艦
公共休憩スペースの廊下
うーん……アニーはどこに行っちゃったの……
あたしを連れて行かないだなんて、ふん。
あとでとっちめてやるんだから。
あら、行き止まりね。
こっち?それともこっちに行けばいいのかしら?
まあいいや、いつもの方法で。
(ヴィクトリアの通貨を取り出す)
迷子になったベナちゃん♪道を聞きたきゃ♪これに聞け♪
バックレイのナイトさん♪道を教えて頂戴な♪
それ!
(コインを弾く)
(コインを拾う)
方向はこっちで、行き止まりまでね、うんうん、なるほど。
(ベナの歩く足音)
へぇ――こんないい場所があっただなんて知らなかったわ、アイリスも言ってくれればよかったのに。
でも彼女自身もまだロドスを詳しく知れてないって言ってたわね。
あ、見つけた!
こらアニ――
(声を抑えてとサインを出す)
ん?
(テレビの前にいる人を指さす)
?
(小声)ねぇ、あの人何をやってるの?
ゲーム。
ゲーム?ゲームってチェスとかブランコとか砂でお城を作るとかじゃないの?これも、ゲーム?
うん。
ふーん――
わ、今画面で黒い影が人を路地裏に引きずり込まなかった!?
うん。
もう、こんなものを見てるってお婆ちゃまに知られたらめちゃくちゃに叱られるわよ!
うん。
うう……
でもあたしもちょっとやってみたいわね。
うん。
あ、だと思った!
どうりでアニーが見つからないわけよ。
ならどうしてそこのお姉さんに言わないの?
驚かせちゃうから。
そんなので驚くの?
驚く。
ならあたしに任せなさい。
なんせ、あたしが遊べばあんたも遊んだようなものだからね。
うん。
頑張って。
ねえ、アニー、ここで“お芝居”をしたほうがいいと思うかしら?
したほうがいい。
そ、分かったわ。
(もうすぐ最終章だ、真エンド出せるかなぁ。)
(コレクターも分岐ルートも手がかりで集め終えたし。)
(あとは、この前の負けイベをクリアすれば終わりかな。)
(そういえば急にステージが変わるんだっけ、行けるかな……)
ん?
~#¥%
(ヘッドホンを外す)
ど、どうも、なんか用?
(うわぁ、子供の相手とかわっかんねぇ、どうしよう?)
お姉さん、何をやってたの?
ゲーム……だけど。
ゲーム?あたしもゲームは好きよ!
一緒に遊んでもいい?
(今どきの子供ってこんなに積極的なの!?終わった、どうしよう?)
(ていうか遊べるの?遊べたとしても、もうかなり最後まで進んじゃってるし、モンスターも強いし、万が一つまんないと思われてコントローラーを投げたりしたらさすがの私もツラいよ?)
あ、う、え、えっと……
お姉さんはあんまりほかの人と遊びたがらないの……?
(も、ももももしかして泣き出すの?)
いや、いやいやそんなことないよ!
一緒に遊ぼう!
ありがとうお姉さん、いい人ね!
どうも、うへへ。
(昔なんかの恋愛ゲームでこういうお決まりのシチュエーションを見たことがあったっけ?)
(まあいいや……あとで続きをやればいいし、どうせゲームの流れは知ってるんだし、この子に――)
(いや違う違う!)
(これってホラー推理アクションゲームだよ、あんなものとかこんなことまであるし、ネットでの評価はいいねだったっけバッドだったっけ!?)
(そんなもの子供にやらせたら絶対にヤバいって!)
どうしたのお姉さん?
お嬢ちゃん、ほかのゲームに変えよっか、これはちょっと合わな――
あたしはこれがやりたいの。
ダメ?
(お願いだから、人を堕としちゃう自覚を持ってよ!)
どうしてもって言うのなら、ダメ、でもないけど。でも……
ホントに!?ありがとうお姉さん!
え?
あり、がとう?
このコントローラーで遊ぶんだね?
あのちょっと?その、私が言いたいのは――
このボタンを押せばいいのね。
わあ!モンスターが出てきた!
なんて口が大きいの、すごいわね!
えーっと……
ちょっとコントローラー貸してみ!
(一時停止して、設定メニューを開いて、エフェクト項目、流血効果を非表示にして――)
(――あとは、不適切な内容も制限にしてっと!)
ん?大きな口をしたモンスターが急にモヤモヤになったけど?
気にしないで、コントローラー返すね。
そっか、ありがとうお姉さん~
(すごく積極的以外は普通の子供っぽいねこの子は、口は甘いけどちゃんとしてるし。)
(小さい頃の友だちもみんなこんなにいい子だったら、私も今頃ウタゲみたいにリア充になれてたのかな?)
(……)
(考え過ぎだよキララ、そんなことあるはずもない。)
(斬撃音)
フン、ハッ、よっ!
(そろそろ最終ステージか。)
(そういえば、基本操作しか教えてなかったっけ。)
(あのコンボなんか私はかなり長い間頑張ってやっと出せたのに。)
(どこで会得したの?)
(もしかして、ステルスアクションゲームのプロに出会っちゃったりして?)
(じゃあやっと『討皇伝2橘』の隠れボスを倒してくれるのかな?)
(うーん……でもどうだろ。)
(まあまずはこの子が『抜け忍』の隠れルートのボスをクリアできるかどうか見てみるか。)
(沈黙の佐原は、そう簡単な相手じゃないよーん。)
ムービーが始まったわね。
(始まった、夜の佐伯区の十字路だ!)
(斬撃音)
あれ、斬ってもダメージが出ないわね?
ここは逃げるのかしら?
(アップルゲームスと言えばコレだよね、ステージのつなぎ方と誘導がまあ上手いんだわ、小さなお友だちにも分かりやすく作られている。)
あれ、なんでまだ道にモンスターがいるのよ、面倒くさいわね!
まあまあ、焦らずゆっくり行こう。
気を付けて、前の車と隣のお店からモンスターが出てくるから。
そうそうそう、もう無理ってなったらランプでボスの動きを止めた後に雑魚を処理すればいいから。
こう?
大技の大旋風で雑魚をまとめて蹴散らすと気持ちいいよ。
でも使い過ぎないようにね、ボス用にも少し残したほうがいいから。
(私が言ってること分かるかな?)
こっちを進んで、それからこう――してっと。
(理解してくれたようだね。)
うわあ行き止まり!
でも割と道幅が広いわね。
ボス戦ってことだね、普通の状態ならこのボスは常時無敵状態だけど、アイテム欄にあるアイテムをそいつに投げたら、無敵が剥がされるよ。
どれなの?
この“開光の香嚢”を使うんだよ。アイテム欄にセットして、あとは使うだけ。
狙って投げるの?
うん、でもチャンスが一度っきりだよ。
わかったわ。
(打撃音)
――当たった!
ボスの無敵シールドが剥がれた、あとは全力でボタンを入力するだけだよ。
わかった!
うわすごい速いわね!
絶対に負けちゃダメだよ、一個のセーブデータで一回しかこのボスに挑戦できないから、負けたらまたやり直しだよ!
十五分後
HP回復できないけどどうすればいいの!
(打撃音)
ボスから目を離さないで、そいつのHPももう少ないから!
(打撃音)
回避と防御に専念して!
(爆発音)
あの技は防げないから避けて避けて!
(斬撃音)
今だ、やれやれ!
(斬撃音)
カウンターして、よし!スキルを発動するんだ!
弱点が見えた、そこを狙うんだ!
(斬撃音)
イヤーッ!
よし――よしいいぞ!
リザルト画面だ――やったやったぁ!
やったって何を?
真エンディングだよ!
真エンディング?真エンディングってなに?
あたしまだ遊んでそれほど経ってないよ?
それは私が最後までやったからだよ。
お、ちょうどゲームのスタッフロール画面だね、じゃあ先にこのゲームの前のお話を教えてあげるよ。
うん。
どうせ字が読めないんだし、お姉さんが頼りよ……
(それもそうだよね、だってこのゲームはヴィクトリア語版がないんだし、それでもよくここまで遊んでこれたよ……)
オホン、このゲームは『抜け忍』って言って、ゲーム名の通り、故郷を離れて新しい移動都市に映った一人の忍者の生活を描いた物語なんだよ。
にんじゃってなに?
忍者って言うのは……えーっと、刺客とか、暗殺者みたいなもんかな、分かる?
うん。
この刺客は自分の主君に、えっと、領主に仕えてたんだけどその領主が殺されるところを見ちゃってたの、それで自分に罪がなすりつけられちゃったから、この刺客は故郷を離れて、遠い場所で暮らすことを余儀なくされたんだよ。
それからは?
それからはゲームのストーリーが始まるんだよ、新安芸市でね。
この町は実在する町なんだよ、私のリア充友だちのウタゲが以前そこから私にはがきを送ってくれたんだ。
そこの一番の特徴は――都市伝説がすごく多いんだ、色んな有名な怪談話はそこから来てるんだよ。
それにそのほとんどはこの都市が天災で一回壊滅状態にさせられた後に再建した時に出た話なんだ。
存在しない電車駅とか、水を欲しがってるのに飲めなかったから人の家までついて来て家中の水を全部飲み干しちゃう妖怪とか、迷子になったら自分のご主人に電話して道を教えてくれる安芸人形とかとか。
(聞いた、アニー?これから出かける時はちゃんとあたしに電話するのよ。)
(うん。)
すごく不思議な話もあれば、すごい怖い話もあるんだよ。
あ、スタッフロールが終わった、これからみんな期待してた隠しエンディングが見られるよ!
うーん……
ふむふむ……ん?
マジ!?
確かにあそこは伏線が張ってあった!
ほう、ほうほう、なるほどそういうことだったのか!
お姉さん、スタッフロールの後のムービーは何を話してたの?
えっとね、さっき刺客は新しい町に行ったって話したよね、暗殺と偵察が得意な主人公はそこで探偵事務所を開いたんだよ。
さっきウチらが倒したボスは沈黙の佐原って名前で、新安芸市で一番古い怪談が元ネタなんだ。
夜の新安芸市佐伯区の一番繁盛してる十字路を、もし一人で歩いてたら、昔の東国の恰好をした流浪人に出くわすんだって。
彼は手話でその人に一つ質問をするんだけど、もし答えられなかったら、あるいは逃げたり答えなかったりしたら、彼が倒れるまで凍原まで追い掛け回されるらしいんだ。
へぇ、それってホントなの?
さあね、ウタゲが言うにはそこの十字路には居酒屋がたくさんあって、どこも飲んだくれでいっぱい、一軒飲み終わったらまたハシゴして、翌朝になってようやく帰宅して着替えて仕事に向かうぐらいだから、喋らない流浪人なんか誰も見たことがないらしいよ。
いざかや?それってぶどうジュースとかを飲む場所?
そ、そうとも言えるかな……
とにかく!このゲームの最後の隠しエンディングが教えたいのは、町全体の怪談は全部この最も古いとされる怪談から派生して、木の根っこのように町の隅々まで浸透していったってこと。
佐原はこの東国に属する移動都市をよそ者が寄せ付けられない怪談の町にすること、そしてそれを基にして、最終的に東国を怪談の楽園に仕立て上げようと企んでいたんだよ!
でも残念ながら彼は主人公という深入り調査するよそ者と出会ってしまったわけだ。
そして最後、主人公は原初の怪談を倒し、この町の秘密を知ったことで、怪談の大樹は崩れ落ち、町も普通の様子に元通りになりましたとさ。
ただボスを倒しただけなのに?
怪談というのは神秘性を帯びてれば帯びてるほど、人々に憶えられて生き残り伝わっていくものだからね。
もし真実を知られ、神秘性が消えてしまったら、ほとんどの怪談も成立しなくなる。
そしたら怪談たちの存在意義も消えて無くなっちゃうんだ。
(ん?へぇ――)
(……)
(奇遇ね、私もこのお姉さんに“憶えて”もらいたいと思ってたわ。)
(ならそうしましょ。)
お姉さん嬉しそうね。
隠しエンディングが見れたからね、そりゃもう超絶ハッピーだよ!
あぁ――最新のゲームはいつ届いてくるんだろうなぁ――
とりあえず宿舎にでも戻って――
お姉さん、ちょっとお待ちになって?
ん?
あたしもお姉さんに怪談を話してあげたんだけど、いい?
お姉さんばかりに話してもらうと、こっちも申し訳なくなっちゃうわ。
ちょっと待ってて、お姉さんきっと喉が渇いてるんじゃないかしら、水を入れてあげるね。
(積極的……すぎでしょ……)
(どういうこと?)
(私マジでモテ期到来とか?)
お待たせ、はいお水。
どうも~
(引っかかった~)
じゃあ、お姉さんにはヴィクトリアの都市伝説を話してあげようかな。
そのぉ……
(お礼。)
お礼として。
それは、どうも。
相手から私に話しかけてくる人は今まで少なかったから一瞬戸惑っちゃったよ。
そうだ、私はキララ、お嬢ちゃんのことはなんて呼べばいいのかな。
じゃあ先に前置きを語ってもいいかしら?
いいよ。
ひひ、ありがとうお姉さん。
お話はヴィクトリアのリントンという場所から始まるわ――
また雨……
パパもママもどこにいるのも分からないし……
まあいいわ、彼らを考えても仕方がない、今は暖かいスープを飲んだほうがマシね。
おい、キャプリニーのガキ、俺ん家の玄関で何をやってんだ?
雨宿りだけど、なに?
フッ、ヴィクトリア語もロクに話せないのにこんな場所にいるのか?とっととリターニアに帰りやがれ。
……
聞こえなかったのか?帰れって言ってんだ、俺ん家はお前なんざ歓迎してねぇんだよ。
少し雨宿りしてるだけよ、家の中には入らないから。
ほう、まだ居座るつもりか!?※キツいヴィクトリア言葉※、角が生えた上司に怒られるんだったらまだいいが、てめぇみたいなガキがよくも俺に口を利きやがったな?
さっさと消えろ!
(押し飛ばす音)
うう……
痛い……
……
ほかの場所で雨宿りしよう……
もうダメなら……
都市の外れから降りれば……痛くはないよね……
ん?
あっちで人が倒れてる?
あれは……年寄りのお婆さん?
ちょっと!
お婆さん、お婆さん、大丈夫?
ありがとうねぇ、羊っ娘さん。今時老人に手を貸してくれる子供なんて珍しい。
周りにいる子供たちなんて、私からリンゴを欲しがるばかりで、こっちが手伝ってほしい時にはみんないなくなっちまう。
あんたみたいないい子に出会えて本当によかった、本当によかったよ。
お婆さん、服が汚れてしまってるわよ。
あんたもじゃないかい、お嬢ちゃん。ほれ、傷もついてるじゃないか。
あたしは平気よ、雨を浴びれば少しはマシになるわ。
おバカさんね、雨を浴びて風邪でも引いたらどうするんだい?
はやくお家に帰りな、婆さんの家は近くにあるから、フラフラ歩いてもいずれ家には帰れるさ。
家の者たちを心配させるんじゃないよ。
あたし……お家ないの……
パパとママはあたしに噴水広場で待っててって言われたけど、行ったっきりでもう戻ってきてないの。
そうだったのかい、可哀そうな子だ。
だったらちょうど良かった、婆さんは独りで住んでるんだ、そりゃもう孤独で孤独で。あんたがイヤじゃなければ、婆さんとお話してくれないかい?
話をするだけなら……別にいいけど。
(少なくとも雨宿りはできるし。)
ほほ、ありがとうね、お嬢ちゃん。
おっとっと……
お婆さん、どうかしたの?
もう歳だからね、力が出ないんだ。
お嬢ちゃん、婆さんの代わりに果物籠を持ってくれないかい?
中には婆さんが摘んだリンゴが入っている。コケた後に、こんな重い籠を持っても、力が出ないんだ。
若い子ならあたしより力があるだろう、だから手伝ってくれないか?
任せて、お婆さん。
ねぇ、お婆さん。
なんだい?
どうして雨の日にリンゴなんか摘みに行ったの?こんな雨だったら、家にいればいいじゃない?
ほほほ、あんたには分からんさ、お嬢ちゃん。
雨に洗われたリンゴは、甘くも美味しいいいリンゴになるからだよ。
お婆さん、ここ?
ここだここだ。
ちょっと待っておくれよ、カギを探すから。
あった。
さあいらっしゃい、お嬢ちゃん。
おかえりなさい。
わあ、暖かいわ!
それに、すごくキレイなお家ね!
ふふふ、お世辞でも嬉しいよ。
ちょっと待っていくれよ。
あれ、傷、もう痛くない?
婆さんはなんの役にも立たんが、小さな傷の治療ぐらいならできる。
それじゃあお着換えしようか?
うん!
じゃあ婆さんについてきなさい、上の階にあるよ。
ここ、暗いわね。
ここは婆さんの愛しい孫娘が眠っている場所だからね。
眠っている?お婆さん、独りで住んでるんじゃないの?
独りだとも、婆さんはずっと“独り”で住んでいるとも。
さあ、これがあたしの可愛い孫娘だ。
これって?
このお人形さん、あたしと同じぐらい大きいわね、それによく造られているわ。
あたしの可愛い孫娘だ、この子はね、アニーと呼ぶんだよ、あんたと同じ可愛いキャプリニーさ。
婆さんはね、ずっと同じモノを探してきたんだ、そして今日ようやくあんたを見つけられたよ。
お嬢ちゃんはもう十分婆さんを助けてくれた、今日は本当に感謝しているよ。
最後に、一つだけ手伝ってくれないかい?
なんでも言って。
ありがとうね、可愛らしい羊っ娘さん。
それじゃあ、目を閉じてくれないかい。
――
お嬢ちゃんや。
あんたの美味くて、優しい魂を――
(アーツ音)
あたしに寄越しておくれな。
ヴィクトリアではこういう子供が誘拐される事件がたくさん起こってるらしいのよ。
たまに老婆が孤児を連れているのを見かけたって証言があるけど、その後その孤児を見かける人は誰もいないの。
もちろん、お巡りさんたちが調査してもなんの成果もなし、家宅捜査を行っても、空き巣か、その家に老人なんていないかのどっちか。
でも、捜査したどの家にも奇妙なことにアニーというお人形が置かれているらしいのよ。
お、おしまい?
うん、おしまい。
どうだったかしら?
い、いいんじゃないかな。
この都市伝説はヴィクトリアではもう古くてね、今だと確か派生した話がいくつもあるっぽいわね、例えば――
いやもう結構です!ありがとう!
ならこの辺にしておこうかな。
ただね、都市伝説の話がいくら変化しても、一つだけずっと変化してない部分があるのよ。
も、もういいって。私、こういうの苦手なんだから。
ゲームは平気なのに?
それとこれは別なの!
それも確かにそうね。
じゃあ――
アニー、ご挨拶しなさい。
!
こんにちは、キララお姉さん。
アニーよ。
(キララが走り去っていく足音)
……
ひひ、面白かった。
どうだったかしら、いいお芝居だったでしょ。
……
どうしたの?
ベナはやりすぎ。
大丈夫よ、後でちゃんとキララお姉さんに謝るから。
それと。
それとなに?
お姉さんに教えるの忘れてる。
名前。
そうだった!
まあ、過ぎたことだし、またいつか自己紹介すればいいわ。
……
さっきの話、自分で作ったの?
そうよ、ベナはアイリスよりこういうの得意なんだから。
そんなんじゃ、お婆さんに怒られる。
怖さがまだまだ足りないって。
え――?まだ足りないの?もう十分お婆ちゃまを怖くしてやったじゃない。
うーん……でもそう言われると、確かにちょっと物足りないわね。
あの時お婆ちゃまが言うには、もしあたしがあの時果物籠を持って逃げたら、今後一生の食料はあのリンゴ五個しか残らないって。
あとあたしをダイニングに連れていった後シャワーして着替えた時とかもっとひどかったわ、もし机に置いてあった料理を一口でも食べてたらすぐに雨風が吹き荒れる街道に置いておくって。
あれは本気よ、今でも憶えているわ。
おかげで今でもトラウマものよ。
お婆さんは本当のことしか言わないよ。
だから怖いんじゃないの!
お婆ちゃまも一体どうやって夢のお城の中に入ってきたのかしら。
きっとあの人は怖くていい人だったかもね。
あたしみたいに。
ベナは怖くない。
ふん、今更あたしの機嫌を窘めようっての?
正直に言いなさい、アニー、あんたは以前このゲームを遊んだことがあるんでしょ?
うん。
それにあたしをここに連れてきて、どういうつもり?
このゲームは遊んだことがある、楽しかった。
だからベナにも遊ばせたかった。
そうだったのね、どうりであたしもゲーム操作に慣れてたわけよ。
何時間遊んでたの?
夜三日、合計で二十四時間。
二十四時間!?寝る時間にこっそり出てきたっていうの?それこそお婆ちゃまに叱られるわよ!
ベナも一緒にいるから、怖くない。
はぁ……
アニー、こっちにいらっしゃい。
うん。
ほら、あたしの傍に座って。
さっきはクリアしたけど、前のステージは全然まだ遊んでないわ。
あたしに教えてちょうだい、いいわね?
うん。
それとずっと気になってたけど、キララお姉さんが言ってたボスってなに?
Boss。
なによ、そういうことだったのね、新しい何かかと思ってたわ。
始まった。
よし、今はゲームに集中しましょ。
ねぇ、あたしたちがキララお姉さんに話した都市伝説だけど、本当に彼女の国で根を張り、新たな怪談になるのかしら?
集中、ベナ。
おっとっと、し、失礼。
このボタンを押せばいいのよね。
それじゃあ、ゲームスタート