5:20p.m. 天気/晴れ
クルビア都市、ティカロント
俺はディラン、ロドス近距離飛行機のパイロットだ、今は街の中を走り回っている。
本当なら仕事で飛行機の操縦席に座って、操縦レバーを握り、地形と乱気流と睨めっこしていたはずだ。
だが今俺が握ってるのはオートライフルクロスボウ、こいつの型番も今じゃスラスラと読み上げられるようになった、銃身は半分しか残っちゃいないが、それでも驚くほどに重い。
手は汗まみれだ、もし俺が戦場と向かい合うべきなのであれば、それは地面じゃない、ましてやクルビアのこんな路地裏ですらない。
もし選べるんだとしたら、どうか俺の敵は……はぁ。
ディラン、ちょっと手空いてないから、代わりに見てくれないかな、これなんて書いてあるの?
警察だ、ブレイズの姐さん、ティカロントの“ポリス”だ。
向こうから先に手を出してきたよね。
だがこの警察手帳……ホンモノには見えないな、あまりにも出来が悪すぎる。
少なくともこいつの恰好がそうなのは確かね、今朝屋上にいた連中と大して変わらなかった、制服を着ていなかった連中のほうがよっぽどそれっぽかったけど。
もう一度聞くけど、どこの警察が質問してる途中でオートライフルクロスボウを突きつけてくるのかしらね?
クルビアとか?
ふざけないで。君だってこいつが警察じゃないって分かってるくせに。少なくとも私たちが知ってるような警察じゃない。
俺は目線を上げ向こうの路地で倒れてる黒づくめの人を見たあと、目線を下げ自分が握ってる半分になっちまった武器を見た。
こいつはさっきまで俺の胸元に突きつけられていた、今じゃ真っ二つになっちまったが。
この“警察”も意識はない、もしブレイズが手を出したときまだドクターの指示を思い出していたら、こいつも命だけは救われてたはずだ。
ロドスの代表団は昨日ティカロント市に到着した。
何度体験しても、あの速さは俺みたいなパイロットでも驚きを隠せない――
ロドスがまだ大騎士領へ急いでいる道中、俺たちはすでに西部荒野を空から抜けきった、あの広大な西部荒野をだぞ。
本来の予定では、ドクターとアーミヤが事情説明を行ったあと、俺たちは来た道をそのまま戻ってロドス本艦に帰還するはずだった、その間大騎士領はまだ都市区画の組み立てすら完了してなかっただろうよ。
俺が知ってるのはカジミエーシュの騎士特別トーナメント期間にロドスが訪問を行ったことだけだ、具体的な時間や目的は知らない、だが、普通なら、早めに戻って早めに準備するほうがいい。
もし時間が押していなければ、俺はこの大都市を満喫するべく数日休暇を貰おうと思っていたが……今はもうごめんだ。
安全に……なったのでしょうか?
まだよ、ティカロントを出るまでは――最悪クルビアを出るまで安全じゃないかもしれないわね。
ちょっと私の代わりにこいつらまだ息してないかチェックしといて、もし息してたら、今後も息できるようにしてあげてね。
え……うぅ、分かりました。
こんなすごいオートクロスボウなんて初めて見た、こういう武器はクルビアじゃ普及してるのか?
こういうフルオートの武器はクルビアでも珍しいものだよ。
ドクターのほうはどうなってるんだろうな……
ドクターとアーミヤちゃんなら襲撃してきた頃には先に車に乗って出ていったよ、クロージャがイジった自動運転システムがちゃんと働いてくれるかどうかは知らないけど……
今回ばっかしはひどくハメられたな、ドクターとアーミヤでさえ予測できなかったんだ。
ドクターとアーミヤちゃんも……人間だからね、たまには失敗だってするよ。
彼らはホテルを占拠したあと、私たちが残した薬品を全部奪っていってしまいました……
まあ、その話はとりあえず置いといて。
先に安全に場所へ移動できる方法を考えましょ、この都市から離脱しないといけなから。
今に至るまで、私たちは何もかも失った、けどあなたは私の傍に立つことはなかった。
ならあなたがやってきたことすべては、なんのためだったの?
それは、ほんのちっぽけな希望を残すため?
しかし、希望?
希望?
ねえ、希望を抱くというのはとても残酷なことなのよ。
何もかも取り返せないと知った時、自分は何もできないと気付いた時、行き止まりに踏み入った時に。
希望は善良な人をも狂わせることができるのよ。
しかし……
あなたは何か言おうとしたが、自分の身体を抑えられずにいることに気づく。
あなたはまるで虚空に漂っているかのように、目の前のすべてはとても熟知していて、遥か遠くにあるように感じた。この記憶は、あなたの一部の記憶だ、破片のように、あなたと一緒に漂っている。
あなたは無窮な思考と共に漂いながら、目の前のよく知る女性が徐々に遠ざかっていくのを見ていた。
あなたは目を見開いた、目の前には果てしない岩砂漠が広がっていて、醜く、怪しげな鉄のバケツのようなヘルメットがあった。
怪しげな恰好をした男があなたを見つめている、あなたはあの粗造なバケツ状のヘルメットから、彼の表情を窺うことはできなかった。
10:43a.m. 天気/晴れ
キャスパー荒原
おはよう、こんにちは、そしてこんばんは、友よ。
声は出せるか?
君は?誰だ?ここはどこだ?
お友だちが目を覚めたぞ、子ウサギちゃん。
ドクター。
あなたは自分の腰あたりがきつく抱きしめられてる感覚を受けた。
この温かな抱擁を感じる前、背後の岩の硬い感触と頭部の痛みが依然とあなたに警告している、まだ終わっていないことが多い、と。
よかったぁ!目が覚めて……もし目を覚めなかったらどうしようかと……
大丈夫ですか?どこか具合が悪いところとかありませんか?
・大丈夫……少し頭が痛いが。
・……問題ない。
・私はそんな貧弱じゃないぞ。
頭が痛い?どこかぶつけたのでしょうか?見せてください。
ドクター、本当に大丈夫ですか?支えましょうか?
ドクター……だとしても慎重にお願いします、あなたの今の身体状況はそれほどよくありませんので。
心配するな、子ウサギちゃん、こちらの“ドクター”は大したことない、身体面は少なくとも問題はないがな。
だが精神面はあまりよろしくない。お前さっきまでブツブツと寝言を言っていたぞ、だが安心しろ、聞き取れなかったから。
……あなたは?
ああ、自己紹介を忘れていた、これは失敬。
見ての通り、商人だ。
キャノットと呼んでくれ、それかミスター・グーデインノフとも、どうぞお好きなように。
実を言うとな、さっきのアレは本当に刺激的だったよ、今のご時世じゃ人が崖から飛び降りてアーツを放つショーを毎日見られるわけじゃないからな、とても素晴らしかったよ。
・崖の上から?私はさっき……
・……クロージャの自動運転システムに問題があったんだな……
ここはクルビアの荒野のようですね……東部荒野。
その通りだ、子ウサギちゃん、ここはキャスパー荒原、お前たちは運がいい。
運がいい?
そうだ、運が良かった、もしもう二キロほど南に進んでいたら、毒ガスの沼地地帯に突っ込んでいただろう、車が嵌れば二度と出られると思うなよ。
ほかのみんなは無事だろうか。/……/ほかのみんなは?
ほかのオペレーターなら私たちとは別行動ですよ、ブレイズさんがきっと彼らを守ってくれると思いますが……
ただ今のところ彼らや、ほかの事務所と連絡を取る方法がありません。
・待て、じゃあ通信機は?
・待て、じゃあほかの補給品は?
全部“バッドガイ”号に置いていっちゃいました……
通信装置だけじゃありません、食料も水も持ってこれませんでした。
なにやら相当絶望してるようだね?
だがなんとかなるさ、もし差し支えなければだが……
遠慮してる場合じゃない。
私はこの区域のことをよく知っている、お前たちを一番近くにあるトランスポーターの中継地まで案内しよう、そこならお前たちも仲間と連絡を取れるはずだ、上手くいけばの話だが。
私たちは誰に襲撃された?
いい質問だ、だが現場でその問いに答えられる人はもう口を開けそうにない。
バケツ頭の人は近くにある崖を指さした、そこには濃い煙を吐いてる風変りな見た目をした武装車があり、事故に遭ってしばらく経つようであった。
傭兵ですね。私たちが都市を出たあと、彼らにずっと追い掛け回されていました。
プロフェッショナルだったよ、命を投げ捨てるほどにな。
正直に言うと、クルビアの傭兵は玉石混交だ、だが傭兵を雇えるほど金を持ってるヤツらは、指で数えるほどしかいない。
彼らはお前にたいそう興味を持っているご様子だ、お前はあの大企業家たちのどんな逆鱗に触れたんだい?
やはり彼らでしたか……
つまるところ、アーミヤさん、本当にご考慮なさらないのですか?
ここクルビアでは、私たちヨハンママより適したパートナーを見つけるのは至極困難だと思いますよ、我々ならロドスの薬品販売価格にかなり優遇な条件を設けることができますが。
ご厚意ありがとうございます、しかし……
私たちの今回の目的はあくまで技術交流です、ロドスは現時点でより踏み込んだビジネス提携を結ぶつもりはございません。
それに私たちが持ち込んだあの鉱石病鎮痛剤もまだ試験中のものです、あれはまだ技術的に証明されただけで、完成品ではありません。
鉱石病治療の研究過程はとても長く複雑です、私たちが提携できるチャンスなら今後もたくさんあると思います。
ええ、もちろんですとも、提携できるチャンスなら今度いくらでもありますからね、ははは。
この襲撃は最初から組み込まれていたものでしたか……
さきに警察に伝えたほうがいいのでは?
通報する気かい?ならお前はここをあまりにも理解していないことになるな。
ヨハンママはティカロント最大の地方企業だ、警察署の署長も自分とあそこの社長の二人で撮った写真を自分の机に飾って身分を示そうとしている、ほかの方法を考えたほうがおすすめだよ。
彼らが市中でお前たちのモノに手を出したということは、お前たちは最初から彼らの眼中になかったということだ。
私の落ち度でした……彼らの言葉を安易に信用するべきじゃありませんでした。
・そう言うな、彼らが襲ってくるなんて誰にも予想できなかったさ
・……いや、私にも責任がある、アーミヤ。私も警戒しておくべきだった。
あの、グーデイン……さん?
お、なにかご用かな、ウサギさん。
さっき私たちにこの荒野の案内をしてくれると仰いましたよね?
言ったとも、ウサギさん。
ならどうやって?以前は天災トランスポーターの仕事をしていたのですか?
その点についてはどうか安心してくれ。
私はこの荒野で長い間行商してきた、それに天災を回避する秘訣も少しは持ち合わせている。
もちろん、すこーしだけ案内費を頂戴するけどね、精錬源石錐二個、この状況下じゃ割に合うだろう。
今はクルビア貨幣しか持っていません、報酬なら本艦と連絡を取れたあとじゃないと支払えませんが、それでもいいですか?
問題ない!わが友よ。
ドクター……どうでしょう?ほかの方法を考えて都市に戻って、ブレイズさんたちと合流することもできますが。
・リスクができすぎる、選択の余地はなさそうだ。
・こちらの方がすでに方法を選んでくださった、そうだろ?
そうは言えんさ、私たちの生活は常に選択肢でありふれている、もちろん、その中から一番いい選択をすることだってきる。
じゃあこれからの数日間……よろしく?
こちらこそだ、わが友よ!
今回はきっと愉快な旅になると信じているよ。
五時間後
……さっきも言ったが、この荒野の最大の脅威は強盗ではない。以前とても度胸のある人と知り合ったんだが、彼はなんと……
ドクター、手を。
よいしょ、上がってこれましたね。
どれだけの山を越えてきたんだ?
まだ二個目ですよ、ドクター。
・ちょっと……休ませてくれ……
・(沈黙、大きく息をする)
・どうやら普段から身体を鍛えるべきだったか……
あはは、じゃあドクターはここに座ってください。
お前のその調子のままなら、最低でもあと一日は歩くことになるぞ。
今のドクターの身体状況ですと、そう急いで歩けませんよ。
ゆっくり歩くことはできるが、それだと……
ゆっくりだとなにか問題でも?
私は荒野で商いをしている身ではあるが、食料と水をそれほど多く持って行けるわけではないのだよ。
もしこの遅い調子のままだと、水と食料が尽きることは避けられん。
そうでしたら……キャノットさん?
ん?
現在位置の近くに森などはありますか?クルビアの東にはオアシスがあると聞きましたので。
あるにはあるが、どうするつもりだ?
夜、荒野、暗い峠道。
枯れた木の枝が火の中で音を鳴らす、木のスプーンが皿をかき混ぜる音にアーミヤのハミングが混ざり、谷の間に響いていた。
この数種類の野菜に、キノコ、基本的に食べれましたね、調理しちゃえば問題はありません。
これは……ちょっと毒がありますが、応急用には使えます。
……いやぁ驚いたよ、ウサギさん。
よく聞く話ではな、移動都市で生活してる人々は……サバイバル術を備わっていないのがとほんどだ、私が知ってる大勢の人の中にも一生荒野に足を踏み入れない人だっている。
お前もかなり慣れている様子じゃないか、どこ出身だい?レムビリトンか?
レムビリトンの人なら、不思議にも思わんが……
これらは全部ドクターから教わった知識なんですよ、数年前に……
え?私が?
……はい。当時……
ドクター……これは食べられますか?
この数種類の野菜に、キノコ、基本的に食べれるものだ、調理してしまえば問題はない。
……とても、辛いですけど、幸せな日々でした。
……
なにかがあなたの脳内を巡っている、しかしそれは徐々にまた朦朧としてきた。
あなたはその思い出を思い起こそうと試みたが、朦朧とした記憶はたまに水面に浮かび上がってくる泡沫のように、すぐに消えてなくなってしまった。
ドクター?
それは……昔のことか?
あ、いえ、確かに数年前のことですけど、思い出せなくても大丈夫ですよ。
彼女は首を下げまた皿を混ぜる手を動かした、顔にある笑顔から少しだけ寂しさが見えた。
オホン、それより、いい野営地を選んだな。ここなら火も起こしやすいし、気付かれにくい。
・この近くに野盗とかがいるのか?
・……
・誰かに見つかるとマズイのか?
野盗に、賞金稼ぎ、それに数えきれないほどのラスティハンマー、ここじゃ厄介事は付き物だ。
ラスティハンマー……以前聞いたことがあります、とても凶悪な野盗なのですか?
その言い方は少し正確性に欠けるかな。
ラスティハンマーはとてもゆるい組織だ、内部には大小様々な団体が所属している。
たとえばサルカズ人だけで組まれた悪魔一派、天災を神と崇めるおかしな連中もいる、天災を追う者とか呼ばれていたかな。
天災を崇める?
・天災を追う?イカレてるな。
・……
・サルカズ?悪魔一派?
以前聞いた話だが、サルゴンには“アダクリスの悪魔”を自称するラスティハンマーの一派があるらしい、ずっと“巨大な角が生えたアダクリスの戦神”を探し求めているとかなんとか。
以前クルビアから来られたオペレーターから聞いた話によりますと、昔のラスティハンマーはとても小さな組織に過ぎなかったと。ここ数年で急激に数を増やし、ウルサスの山岳地帯からクルビアの荒野に至るまで勢力を広げているとか……
天下太平にあらず、だな。
おまけに荒野とは本来そういう場所だ、どんな変人や怪奇事件だってお目にかかれる。
だがお前たちもいずれ慣れるさ。
はい、ドクター、晩御飯です!
ありがとう、アーミヤ。
いいねぇ、水入らずって感じだ。
キャノットさん!
オホン……冗談だ、すまない、本気にしないでくれ。
このまま続ければ、あなたは何もかも失う。
あなたは一人ぼっちになり、すべて失う。それでもいいの?
孤独は心を蝕む毒薬よ、あなたはそれをどれだけ予期できていた?
あなたが目覚めたら、あなたの傍にはもう同類はいないわ、誰にもあなたの犠牲を知ってもらえないし、憶えてすらいなくなる、それがあなたが期待していた未来なの?
あなたは目が覚めた。
赤い光が遥か遠くの地平線から浮かび上がってくる、月が人々に残した暗闇も徐々に薄れていく。
些か骨身に染みる寒風が頬を伝う、テラの大地は再び新たな黎明を迎えたのだ。
早起きなもんだね、友よ。
朝の空気は新鮮だな。
ウサギちゃんは?まだ起きてないのかい?
もう少し寝かせてあげよう、何をしてるんだ?
朝食に匂いに釣られて起きるよ。
短尾の羽獣だ、肉はあまりついていない、だが飢えを凌ぐ朝食にしては足りるほうだ。
こいつはクルビア荒野の特産品だぞ、安心してくれ、金は取らんさ。
テラ荒野の新たな一日、今のところ目に見える状況変化はなし、だがこれだけは言おう、おはよう、友よ!
昨晩また寝言を言っていたぞ、友よ、お前の精神状態はずっと不安定なままだ、気を付けたほうがいい。
なにを聞いた?
私は誠実な人だ、詳しくは聞かなかったと言ったはずだ、寝言を憶えるつもりもないさ。それにブツブツ言ってたから、何を言ってるのか分からなかったさ。
しかし……毎晩毎晩、あのウサギちゃんはずっとお前の寝言を気にしていたぞ。
余計なお世話かもしれんが文句を言わないでくれよ、なんせこうもずっと一緒にいると、印象に残したくないと思っても残ってしまうものがあるんだ。お前は記憶喪失なのか、それともなんだ?
……
あ、もし言いたくないのなら、聞かなかったことにしてくれ。この質問は失礼だったな、私もただ好奇心でつい、な。
私は……事故に遭って、一部の記憶を失ったんだ。
……それかほとんどの記憶も。
だがたまに思い出すんだ……ほんの少しの欠片が。
いや、たまにではないな、だが多くはない。
なるほど、つまりこういうことだな。
お前の記憶は広げた新聞紙みたいなものだ、今は何者かによってペンキを上からぶちまけられた。
お前はそのペンキの隙間からほんの少しの内容しか垣間見えない、だから全容を見れないでいる。
・すごく言い得て妙な描述だ。私は自分のことが……赤の他人に思えるんだ。
・君のその比喩が果たして正確かどうかは置いといて、私には……分からない。
一言では片付けられない問題のようだな。
だが私は精神科の医師でもなんでもない、力になれなくてすまないな。
よく考えるんだ、記憶喪失の前の私は、どんな人だったんだろうか。
私は自分を知らない、だから他者の言葉で自分を組み立てるしかないんだ。
そう気に病むことはない、友よ。
私たちの存在というのは常に誰かの認知によって成り立っている、お前のすべては他人の聴覚、視覚と感情を交互に行き来したフィードバックから来ている。
“お前”がどんな人間かはさして重要じゃない、社会からすれば、他人がどんなお前を必要としてるか自分でもよく理解しているはずだ。
・すぐに記憶が戻るものとかないのか?
・私が記憶を戻したと聞いたら、何か方法はあるんじゃないのか?
・私にはきっと、覚悟を決めないと記憶をすぐに戻せない方法が必要だ。
あるにはある、だがおすすめはしない。どう言ったものかな。
私たちの生活というのはズボンの紐みたいなものだ、そっちが引っ張ったら、こっちが短くなる。
そっちが“すぐに”記憶を取り戻したいのであれば、色々と制御しきれない結末を背負うハメになる。
その奇妙な頭だけじゃその苦しみを全部収容することはできない。それに、この方法は最も一般的な“記憶喪失”にしか適応されない。
お前自身のため、それにお前を大切にしてるウサギちゃんのためにも、ゆっくり時間をかけていこうじゃないか。
ついでに言うと、ウサギちゃんがお目覚めだぞ。
ドクター……おはようございます。
おはよう、アーミヤ。
二人でゆっくりしていてくれ、私は薪を拾ってくるよ。
アーミヤは静かにあなたの傍に立ち、遠くでゆっくり昇ってくる太陽を見ていた。
日差しがゆっくりと荒野の冷たい色を薄めていく、岩砂漠は徐々に昇っていく太陽の輝きにより明るくなってきた。
あなたたちはこの地に踏み入ったことはないのかもしれない、しかしこの広大なテラの大地のどこかで、あなたはかつてアーミヤと共に歩んできたことがある。
あなたたちはこの人気も疎らな大地に足跡を残していったのだ。
これは本来あなたの印象であり、あなたの記憶の破片だ――だが実際、これはケルシーから教わったあなたの“物語”にすぎない。
清々しい朝の寒風の中、君は必死に頭を回転させ、ぼやけた記憶から糸口を探そうとする。
朝の日差し、荒野の寒風、あなたとアーミヤ、アーミヤとあなた。あなたは思い出せそうで、思い出せずにいる。
アーミヤがあなたの手を握ってきた。
ドクター、大丈夫ですか?
……まあね。
あの時も、こうでした、私たちは荒野で初めての夜と、地平線を昇る太陽を迎えました。
あの時のドクターは私に色んな不思議なことを聞いてきました……
あはは……何年も昔のことなのに、今さっき起こったことのように思えます。
……すまない、アーミヤ……私は……
大丈夫ですよ、ドクター。
ドクターがここにいる限り、いつか必ず、よくなりますから。
一日後
2:39p.m. 天気/晴れ
トランスポーター中継点
岩砂漠の中、大きな図体をした巨大な作業車両と武装バギー数両が円陣を組み、臨時に建てられたテントハウスを囲んでいた。
発電機の煩雑な騒音と源石炉が稼働する轟音が遠くからでも聞こえる、旅人とトランスポーターたちの大声での会話もその中に混ざっていた。
トランスポーター中継点、荒野にある自然のオアシスから外れた文明のオアシス、あなたたちの目的地だ。
ようやく!無事到着だ。
これまでの間、大きな問題にも、天災にも遭わなかった、実にいい運を持っているな、友よ。
左から三番目の車がここにいるトランスポーターの連絡駅だ、そこでならお前たちの人と連絡を取れるはずだ、それにここのトランスポーターは良心的な価格を提示してくれる。
しかし……あそこのハウスにはヨハンママのロゴが入ってますよ、本当に大丈夫なんでしょうか?
そっちが腰を低くして問題を起こさなければ、きっと大丈夫だ、それにここはトランスポーターの中継点だ、クルビアだろうが、向こう側からトランスポーターと不仲になろうとする企業はめったにいない。
ドクター……ここでちょっと待っててくださいね、私はドクターより目立ちませんから、代わりにハウスと話してきますね。
キャノットさん、もう暫くドクターの傍にいてもらえますか?すぐに戻ってきますので。
安心してくれ、ウサギちゃん、好奇な目から人を隠すのは得意なんだ、問題は起こさせんよ。
……
まあ力を抜いてくれ、友よ、そこの武装車や、そこの対物クロスボウを見たんだろ?信じてくれ、ここは安全だ。
ほれ、これでも飲みな。
こいつはここの小さな醸造家で造られた特産品だ、試してみてくれ。
これは……ビールか?
そうだ、それを作った醸造所のオーナーは感染者らしくてな、予想外だったろ?クルビアの開拓者の中で、あそこまで進んだ人はそういない。
今は酒を飲んで喜んでる場合じゃない。
わかった、ならニュースでも聞いて、リラックスしよう。
知ってるか、クルビアの一番いいところはな、どの開拓拠点にもラジオ放送局を設けてるところなんだ、だからどこでもラジオからニュースを聞くことができるぞ。
ほとんどの国には市内でラジオ放送が流れてるが、どこの開拓拠点にも放送局を設けてる場所は全テラでもここだけだ、まあ感覚で味わってくれ、観光としてな。
……ティカロント北部で発生した武力衝突は鎮静化されつつあり、警察側は現場で武器を用いた交戦の痕跡を多数発見しておりますが、いまだ犯人は捕まっておりません……
ティカロント警察は、今回の衝突の一方には“ロドスアイランド”という外国企業のメンバーが関わっていると公表しましたが、本放送局はこの組織の詳細情報をまだつかめておりません……
……情報提供者によりますと、当外国企業は現地企業とビジネス関係で不和が生じたとのことですが、現地企業の代表者はコメントを控えたままです。
警察側は、ティカロントへのテロ行為と認知しているようで、今回の武力衝突を引き続き踏み入って詳しく調査していく方針です……
ドクター。
やあウサギちゃん、どうだった?
中継点の人は午後二時から仕事だそうなので、暫く待たなければなりません。
さっきのニュース……
どうやらそちらの仲間は無事撤退できたようだな、いいことだ。
だがヨハンママは欲しがっていたものをほとんど手に入れてしまったようだ。すごく残念だよ。
・私たちは被害者なのに、今じゃ取り調べられる側だ。
・……
・陰謀の具合でいうと、ここもカジミエーシュとそう変わらんな。
ハッ、そんなことはクルビアじゃ普通だよ、あいつらは動きが早い、事前に自分のケツもキレイに拭き取る。
考えても無駄だよ。
お前たちはもうすぐここを離れる、今更そんなことで悩んでも遅いさ、次からは気を付けるんだな。
・しかし、彼らは未完成品の鎮痛剤サンプルを奪った、なんの意図で?
・その前に、萬屋さん、彼らが危険承知で奪った理由を教えてくれないか?
わかった……どうやらもう迷いはないようだな。
クルビアの企業は理解しているのかな、友よ?今までどれぐらい彼らと関わったことがある?
クルビアのあるテクノロジー企業となら簡単な業務方面で関わっています。
ほう、“簡単な業務方面で”ね、表向きにはいいことだな。
だが、わが友よ、裏向きのことは常に台に乗せて人目に晒されることはないんだ。
さあ、ある場所に案内しよう、面白いものがある。
次の方!
ど……どうも、今月の薬を貰いにきました。
わかりました、お預かりしますね……
デイブさんですね、あー、申請書は見ましたよ、今月の働きは素晴らしかったですね、ではこちら今月の配給薬品です。
ありがとうございます……ありがとうございます……
あの、来月の配給薬品を……事前に頂けませんか?ウチの家内の病状が悪化して、多めに必要でして……
デイブさん、会社の規定に則り、薬品の前渡しはできないんです、どうかご理解ください。
ただご存じの通り、こちらはいつでも定数外の薬品を市販に出してます、隣に行けば必要な数だけ鉱石病の抑制薬を直接お買い求め頂けますよ。
し、しかしあれは……
デイブさん、企業規定なんです、どうかご理解ください。
次の方!
こ……ここはなんですか?
シッ、声を抑えて、ここはヨハンママの辺境開拓隊事務所だ、あんまり身バレするんじゃないぞ。
彼らは感染者に薬を配給しているんですか?
クルビアの多くの稼働方式は、全テラを見渡しても唯一無二だ。
たとえばこの開拓者たち――開拓者は、クルビアが西へ拓くための命脈、クルビア荒野物語の綴り手、クルビアンドリームの主人公たちだ。
彼らはヨハンママと契約を結んだんだ、彼らは荒野で土地を開拓し、クルビアと企業のために居住区を建てている。
働き次第で、企業側は彼らに医療と物資の手当を提供してくれる、一種の給料みたいなもんだ。
ほら、持ってな。
・固体と液体が半々ずつに包装されてる、彼らが配ってる薬か?
・……
・こ……これって……
それが彼らが感染者に配ってる薬だ、お前は専門家だ、私の説明は必要ないだろう。
これは鉱石病の抑制薬なんかじゃありません。
そうさ、お前は私より詳しい、一つは鎮痛剤で、もう一つは栄養液だ。
……どうしてですか?
うもこうも、分からないのか?彼らは本物の抑制剤を売る気がないんだ。
あの開拓者たちは、色んな場所から来た感染者だが、本物の鉱石病抑制剤なんて見たこともない。
こいつは鉱石病そのものを抑制することはできないが、病発した症状を改善することはできる、ヨハンママが出したものは使えるし、効果も早い、彼らにとっちゃそれで十分なのさ。
“抑制剤”というのはこの大地では本来新しい概念なんだ、彼らが知らなくて当然さ。
……鎮痛剤を作成できるのであれば、本物の抑制剤は必要ないということか。
……ならなぜロドスの技術を欲しがるんだ?
はははは……それについては話し出すと面白くなるぞ。
知ってるか、ヨハンママはデカくなる前、ただのドーナツ売りのチェーン店だったんだぞ、薬品を扱う生産技術なんか持ち合わせているものか。
彼らが所有している医薬品の生産ラインはすべてほかの企業から買い取ったものだ、ビーチパラソル、ターザンテクノ、ライン生命……
今は彼らが鎮痛剤を抑制薬として売り出して、大儲けしている、そんなことほかの医薬品会社が受け入れられると思うか?
彼らはほかの会社からイッパツ懲らしめられたが、食らうごとに知恵も付けた。彼らは今回自分たちに協力しない先方を蹴り落とす選択をしたのさ、クルビアじゃとても普通のやり方だ。
お前たちのあの品があれば、この廉価な薬もすぐに代替わりすると思うぞ。
薬効もさらに高くなり、鎮痛作用もさらに強くなる、そうしたらより多くの人がそれを“鉱石病抑制薬”と信じるようになる。
なんてことを!ロドスのあのサンプルは鉱石病抑制剤じゃありません、あのサンプルはまだ安全試験すら終えてないんですよ、副作用だって大量に発生するかもしれません、私たちだってまだ……
これから何が起こるか教えてやろう。
ヨハンママ社の人間はお前たちの技術を使って、より低コストな“抑制薬”を作り出す。
もちろん、あの可哀そうな開拓者たちは実験体になる。
彼らはそれで死ぬのか?本当のことを言ってやろう、ヨハンママが居なくとも、彼らはいずれ死ぬ――
――クルビアの辺境は開拓者が血と命を引き換えに切り拓いてきた、彼らの寿命はもとから長いものじゃない。
だが残った人、開拓途中で死ななかった人たちは、さらに彼らのために喜んでせっせと働き、この抑制薬をもらおうとする。
この薬ならゆっくりだが痛みを和らいでくれる、もしかするとそれでもう何年か長生きできるかもしれないからな。
そして、その後クルビの各大都市で発刊される新聞は彼らの偉大な功績を一面に飾る、私ですらすでにタイトルを思いつくよ。
「ヨハンママの医療産業はまた一歩大きく前進、感染者の新たな希望到来!」とな。
実に素晴らしい!
それと正直に言うが、そんなものは鎮痛の効果の前じゃなんの重要性もない。
お前が今この可哀そうな人たちに、「お前たちが飲んでる抑制薬は鉱石病を治せない、よくてただの鎮痛剤か偽薬だ」って教えても、なにになるんだ?
それからお前はこう続けて言う、実は一番いい鉱石病抑制薬でも彼らを元の生活には戻せない、彼らは一生痛みを伴いながら生きていく、死ぬまでとな。
鉱石病に関しては、確かにロドスはこの大地でトップを走ってる、これに関しては事実だ、じゃあ彼らはその事実を受け入れてくれるのだろうか?
これがクルビアだよ、友よ。
なにも変わりはしない、すべて合理的に動いている、人々は希望を抱きながらクルビアにやってきて、希望の中に価値を生み出し、希望の中で死んでいくんだ。
しかし彼らがロドスを利用してるところをただ見てるだけというのは……
ほら、そういうのがリアルなんだよ。
お前は彼らを救えない、誰も救えない、それに今じゃお前たちだって危険の中じゃないか。
あの希望を抱いていた感染者にとって、希望なんて最初から存在しないんだ、お前たちのほうがよっぽど理解してるだろう。
お前たちははやく仲間に連絡を入れて、どうにかしてここから去ることを考えな。
・その通りだな、キャノットさん。
・……
・……認めたくはない、だが、目の前にあるのが現実なんだ。
ドクター……
私にも分かる、希望を抱くことはすごく残酷なことだ。
何もかも取り返せないと知った時、自分は何もできないと気付いた時、行き止まりに踏み入った時に――
希望は善良な人をも狂わせることができるんだ。
人は自分が信じたいものを信じる、それだけで心持ちがマシになるんだ。
あなたはアーミヤに目を向けた。彼女の耳はゆっくり下に垂れ下がり、彼女の目には悲しみで溢れ、どうしようもない気持ちでいっぱいだった。
あなたたちはすでにたくさん見てきた、これからもたくさん目にするだろう、あなたも彼女も理屈を理解している、荒野の行商人に改めてそれを説明してもらう必要などなかったのだ。
遠くで、荒野と地平線の境目で。太陽はゆっくりと沈んでいく。
テラの荒野の一日が終わる。光は隠れ、二つの月が間もなく太陽の代わりに天幕に登る。
太陽は明日もまた昇る、だが感染者全員が明日の光を見れるわけではない。
たとえ今この場所に十分の鉱石病抑制薬品があったとしても、多くの人にとってもはや手遅れなのだ。なにも変わることはない。
なにも変わらないのか?
しかし――キャノットさん。
たとえ希望を抱くことが苦しみをもたらそうと、抱く価値はあると思う。
希望を諦めたら、私たちが過ごしてきたすべてに意味がなくなってしまうじゃないか?
ドクター……!
おお!なんと人を奮い立たせる言葉なんだ、友よ。
お前は私を説得できていない、私を説得させるのは難しい、だがお前の真摯な気持ちを感じることはできる。
これだからお前たちのように現実を理解したあとも現実に頭を下げることを拒否する人が好きなんだ、まあ、正直に言うと、お前たちはもう十二分にひどい有様だけどな。
正義の講演は一旦置いといて、お前たちが実はとても現実を見ている人というのは分かる、だから現実的な質問をさせてくれ、とても気になってるのだが、お前はこれからどうするつもりなんだ?
お前たちは今辺境のトランスポーター中継点にいる、そしてすぐにもここを去るだろう。
お前は今ここで来た道を戻るのか?それからどうする?
正直に言おう、わが友よ、彼らからお前たちの品物を奪う返す何かしらの手段がなければ、事件を治めることは難しいぞ。
一人で立ち向かうつもりなのか?なら駄獣を一匹貸そう、そしたらクルビアの部族で伝わる伝説に出てくる谷の英雄になれるぞ。
おっと、忘れるところだった、お前は戦うのが苦手だったな。
キャノットさん、そんな風にドクターを言わないでください。
いや、アーミヤ、彼の言う通りだ。
・武力を加える必要がない時だってある。
・彼らの方法を利用して取り掛かろう――ちょうど実践しておいたんだ。
・ロドスが無事ここから脱出するためにも、狡いことをしなければな。
そう言うのなら、理屈を通すつもりなのかな?
四日後
4:01p.m. 天気/晴れ
クルビア拘置所
よし、もう行っていいぞ。
ありがとうございました。
ドクター!
どうだった、アーミヤ。
もう今度からこんなことはしないでください!本当に……本当に心配したんですから!
いい策だったよ、わが友、実に巧妙だった。
お前たちを案内したことも、私が外で数日待ったことも無駄にはならなかった、正直お前のことをナメてたよ。
だが今ちょっとお前が怖くなってしまったよ、わが友よ。
・褒めてるとして受け取ろう。
・……問題ない。
・私も正直、目が覚めたら目の前にバケツ頭がいたんだ、私も怖かったよ。
ま……まだ理解できていませんが……何が起こったんですか。
簡単に言うと……この聡明な友が自分からクルビア国境管理局へ自首しに行ったんだ、自分が所属する企業がクルビアへ鉱石病関連の薬品を密輸入したってな。
もしお前がクルビアの法律に詳しいのであれば、鉱石病関連の薬品は最も厳重に管理されてる医療品ってことも知ってるはずだ。
当時この法律を説き歩いた企業がいたがクルビア中の薬品市場を独占するためにそりゃあ苦労したさ。
この人が提供した情報ならきっとクルビア酒煙類アーツユニット及び源石製品管理局の度肝を抜かすはずだ、連中だって動く時は動く。
今まで通りなら、管理局の保安部隊がもうすぐ到着して、この密輸入されたすべての品物を押収するはずだ。
けど私たちと彼らで交わしたビジネス提携には完璧な契約と申請報告が残っています、すぐにでも調べたら出るはずです……
はははは、そこがポイントだ。
ウサギさん、彼らはお前たちに手を出す選択をした、ならボロを残すつもりはさらさらない、彼らは証拠が出ないように、今回結んだ契約のすべての資料を消すはずだよ。
ではどういった状況なら一企業がいかなる交易の証拠も残さないようにさせるのか?
それはもちろん人目につけないビジネスをしたからだ。
だからクルビア政府が全サンプルを押収しに来たと……
法律に基づくと、彼らはこの密入品を廃棄する、その後は?その後なんてないんだ。ヨハンママはここ一帯を牛耳っているが、もし全クルビアまで勢力を拡大したらどうなると思う?
クルビア酒煙類アーツユニット及び源石製品管理局は、まったく言いにくい名前だな、あいつらは耐えるしかないんだ。虎視眈々とな。
なるほど……しかしそうだとしたら、ロドスも前科持ちの会社になりませんか?
ははは、ここはクルビアだぞ、そんなキレイなケツをした企業なんていないよ。
罰金を支払い、更改書類と誓約書にサインして、しばらく経ったら誰も気にしなくなる――おそらく今ですらもう気にしてる人はほとんどいないだろうな。
なんせヨハンママは今回の影響を抑えるために、ついでにロドスのためにも隠蔽を施してくれているかもしれないぞ――万が一管理局がロドスに来ても、厄介を被るのは彼らなんだからな。
まあもちろん、お前のドクターは管理局の拘置所で三日閉じ込められたんだ、十分代償と言えるよ。
この件については評価し難いですよ、ドクター……
ケルシー先生もきっとカンカンになるでしょう。
・確かに怒るだろうな、だが私が知る彼女なら……
・実を言うと、この手法は彼女から教わったんだ。
私ならケルシー先生の目の前でそんなこと言えないよ……
あ、ブレイズたち来てたんだ。
ガタイがいいフェリーンのオペレーターがどうしようもない目であなたを見ていた。
ドクター、今回はさすがにシャレにならないよ……
罰金に、損害賠償、拘留、クルビア政府が介入した不当取引の調査……
君が最後どうやって丸く収めたかは私には分からないけど、あとちょっとでケルシー先生に直接連絡を入れるところだったよ……
帰ったらどうやってケルシー先生に説明するのさ!
・きっと……なんとかなるよ。
・……
・うーん、命乞いとか。
ドクター!今後もうこんな無茶なことはしないでください、本来なら本艦に連絡して救援を待つことだってできたんですよ!
それにロドスにはこういった状況に対して完璧な応急対処案だってあるんですから。
……けど今回の荒野の旅は楽しかった、でしょ?
楽しかった……ですけど……
ドクター!話をズラさらないでください!
帰ったらちゃんとケルシー先生に説明してもらいますから、報告書は私も手伝いますので。
・……はい。
・……ご迷惑をおかけします。
ではそろそろお別れ時かな、わが友よ。
以前も話したが、とても愉快な旅だったよ。
・ええ、とても楽しかった、キャノットさん、本当にありがとう。
・ありがとう、ご縁があればまたどこかで。
そう遠くない未来で、また会えると信じているよ。
その前に、身体には気を付けろよ、ではまた会おう。
誰あの人……なーんか怪しいのよねぇ。
あの、ドクター?
ん?
ずっと聞きたかったことがあるんですが……
あの時キャノットさんに少し手伝ってほしいと言ってましたが、具体的なんだったんですか?
三日前
3:27p.m. 天気/晴れ
荒野某所
お前はなんてクレイジーなんだ、友よ。
損するぞ。
それで、私になにを手伝わせたいのかな?
武力で問題を解決したくはないが、それでもこの選択は一旦保留しとく。
・あなたの仲間にアーミヤを守ってほしい、彼女が無事脱出するまで。
・あなたの仲間ならロドスを直接的な武力脅威から守ってくれるはずだ。
・もし万が一があった時、あなたの仲間に私の代わりに後始末してほしい。
おう!いやちょっと待った、待ってくれ。
私の仲間とはなんのことかな、話しが見えないんだが。
・キャノットさん、今だけでもお互い正直でいてほしい。
・今まで、ずっと裏で私たちについて来てる人がいた、違うか?
・あなたの言う通り、私たちは運がいい、しかし本当にただ運がよかっただけなのだろうか?
……
あなたはこの怪しげな男が黙ったところを見たが、あの分厚く歪なバケツ状のヘルメットから彼の表情を窺うことはできない。しかしこの沈黙は彼の怒りあるいは不満を表してるわけではなかった。あなたにはそれが分かる。
素晴らしい、Dr.●●。
私の仲間たちはきちんと隠れていると思っていた、お前はただ多感で聡明な人なだけだと思っていたよ。
お前は実に驚きに満ちた人だな。
では、Dr.●●。
手伝ってあげることならできる、それにアーミヤさんの実力を鑑みれば、私の力はそれほど必要もないだろう。
だが取引は取引だ、私は代わりになにを得られるのかな?
あなたが私たちの車から取ったあの書類のことは黙っておこう。
これでどうかな?
はははは……
素晴らしい、友よ、取引成立だ。
もしすべて順調に行ったら、三日後にまた会いましょう。
もちろんだとも、わが友よ、上手くいくことを願っているよ。
……
よし、もう出てきていいぞ。
あいつはもう行ったのか?これでおしまいか?
まだ完全に終わりではない、これから面白いものが見れるはずだ。
あいつは、極めて危険だ、あいつをあのまま逃すべきじゃない。
あのロドスは、俺たちの敵になるかもしれないんだぞ、なぜヤツらを助けた。
私を信じてくれ、彼らのような組織の存在、私たちにとってもいいことだ。
ああいう人が長生きすれば、この大地もより面白くなる。
さあ行こう、みんな、仕事がまだまだ山積みだ。