(シエスタと同じぐらい人が多いな、だが雰囲気がまるで違う。)
(どこもかしこもバー、カジノ、レストラン……)
お姉ちゃん、オレたちと一緒にビーチで遊ばね?
消えろ。
(ユーシャも朝っぱらからいなくなったし。)
……もう一度あのドブネズミに電話をかけてみるわ。
アタシあんまりここに来たことないけど、特殊部隊がおっかないことしてる予感だけはするのよね。
スラム街のリンに会ったことがあるのか?
あるわ。優しそうなご老人だった、アタシのお爺様よりよっぽど優しかったわよ。
……彼はあの“鼠王”だぞ。
みんなそんなもんじゃない。ただあのお爺様は本当に優しい人だったわ。
それにしてもユーシャがあんな感じになるとは思いもしなかったわ。昔は臆病で人見知りで、いつもアンタの後ろに隠れていた子なのに。
私はそんなに変わってないと思うぞ。彼女はきっと……責任を背負い始めたからなのかもしれん。彼女のものではない責任をな。
(まあいい、どのみち逃げられないしな。)
ふぅ、来てしまったことだし、何かやることでも探そう。
(何をしようか……お土産でも買おうか?)
(とりあえずホシグマとスワイヤーか……買った後に送らないといけないな、面倒だ、向こうが外勤で来た時に渡せばいいか。)
(そうだ、フミヅキさんにお礼の品を買ってあげないと。)
(ロドスには……シラユキ、バグパイプ、アーミヤ、それと……彼女の分もか?)
(まあいい。とにかく、人数が多い、持って帰れるかどうかは、状況を見てからにしよう。)
(だがそれだけだとあまり時間を潰せそうにもないな……)
(街の観光とかは?……どうせ何をしようにもあちこち行くからいいか。)
(あのエルネストに街を案内させるのは?)
(……やめておこう、そんな仲良くもないしな。)
(そうだ、カンデラ市長が言ってた件……)
近頃、都市で武器の流通が異常に盛んになっていてね、もしバカンスに刺激が足りないのなら、ついでに捜査でもしてみるといいよ。
(市長だというのに、ちっとも自分の街に関心を寄せていなかった、ウェイはなぜあんな人と義兄妹の契りを交わしたんだ?)
(それにこの街、完全に贅沢、淫蕩の代名詞みたいだ……)
(……スワイヤーならここを気に入るかもしれんが、私はシエスタのほうがよっぽどマシだ。)
(はぁ、もういい、来てしまったんだ、暇を持て余してるぐらいなら捜査したほうがいい、とりあえずなにか探ってみるか。)
(カンデラ市長は捜査関連のこともエルネストに聞けばいいと言っていたが、仮に彼女らが明確な手がかりを掴めていたら今頃とっくに動いてるはずだ。)
(直に聞いても何も出てきそうにないし、まずは辺りの散策がてら、街を知ることから始めるとするか。)
昨日の成績はどうだった?
数千は勝ったぞ、お前は?
チッ、惨敗だよ。
はは、大丈夫、今日勝てばいいだろ?
言われなくともそうする、※ボリバルスラング※、しっかしここはいいねぇ、帰りたくなくなっちまうよ。
誰だってそうさ、外に戻るとまたドンパチ騒がなきゃならないからな。
ただなぁ、俺たちはここで家を買えるぐらいの金がないのがなぁ。
カジノで勝てばいいだろ?
あははは、それな!
(チェンの足音)
そちらの綺麗なお姉さん、私たちのバーでのお仕事に興味はありませんか?
あなたみたいなキレイな方なら、一晩で大儲けできますよ。
消えろ。
カジノ、バー、レストラン、カラオケ、この街はそれ以外にないのか。
……選抜試合終了まで、残り二日となりました。
チェンは振り向いた、何やら道路脇に構えた店のショーウィンドウに置かれたテレビから音声が聞こえる。
市民と観光にいらっしゃった皆さん、バカンスは楽しんでおられますか?
私は昨日カジノで三十万負けてしまいましてねぇ、今日こそ勝ってやろうと思っております。
さてさて、競技も十日ほど行われ、ドッソレス極限グランプリの選抜試合も間もなく本日で終了となります!
そして午後の三時、つまり三時間後には、選抜での最後の試合である大乱闘選抜戦が行われます!
大会をこよなく愛する方は是非ともお見逃しなく!試合現場の刺激的な雰囲気を是非とも楽しんでください!
もちろん、猛暑と人の群れに耐えられない方でも大丈夫、私たちのオフィシャルチャンネルにご加入して頂ければ、随時生中継をお届けいたします!
そうそう、音楽ファンにはたまらない情報がまだ残ってました。
そうです、もしかしたらもうご存じかと思いますが、カンデラ市長がサイレンレコード所属の超有名アーティスト、D.D.D.さんをお招きしました。
さらに、この素顔を隠されたアーティストは、皆さんに奔放な電子音楽を届けてくれるだけでなく、なんと今大会のゲストMCも務めて頂くことになりました!
(観光客の走る足音)
ニーナ、ほら早く、聞いたか、あと一時間で試合が始まるってよ。
ケンカのなにが面白いのよ、野蛮にしか思えないわ。
大乱闘選抜戦に出られるメンバーはみんな試合のダークホースなんだよ、注目しなきゃ損だぜ。
じゃあ一人で見に行って、終わったらアタシに教えてね。
お前な……チッ、もういい、俺は行くからな。
(忙しない男性観光客が走り去っていく足音)
おい、マジかよ、数日までD.D.D.が来るって噂は聞いたが、まさか本当に来るとはな。
確か先月までシエスタにいたはずよね、もうドッソレスに来ていたのね。
しかもMCを引き受けさせたなんて、カンデラ市長はどうやって彼女を説得させたの!?
彼女?
知らないの?今じゃみんな、D.D.D.は女性かもしれないって思ってるわよ。
へえ……まあ俺は男だろうが女だろうがどっちでもいいけどな、とにかく今回はラッキーだぜ!
チェンは気づいた、この場にいる人たちはみんなほぼ試合の話をしていたのだ。
……
(この大会、どうやら確かにこの街にいるほとんどの人たちから人気があるようだな。)
(……試合中に事件を起こそうと企んでいるのであれば、相手もきっと参加者として紛れ込んで、混乱を生み出すチャンスを狙ってるはずだ。)
(であれば……)
(携帯のバイブ音)
もしもし、チェンさんですか?あはは、すいません、今ちょっとこっち少々手こずっていまして。
よっと!
(斬撃音)
ぐわあ!
戦ってるのか?何があった?
話せば長くなりますが、簡潔にまとめると、リンさんがおっぱじめちゃいました。
今どこにいる?私も向かう。
分かりました、場所は……
三時間前
……
なぜあいつに手を貸した?
幼稚ね。
(携帯のバイブ音)
リンさん、なにかご用ですか?
言ってたわよね、この街のことならなんでも聞いてって。
はい。
後ろ盾を持たない小さいカジノ、できる?
後ろ盾を持たない……もしかしてコトを起こしても大問題に発展しないヤツですか?
それならご心配なく、ミス・カンデラがいる限り、あなたにちょっかいを出すヤツはいませんよ。
いや、私が言いたいのは、片付けが面倒じゃないヤツのことよ。
……承知しました。
(ユーシャとエルネストの足音)
ここがそうなの?
はい、バー兼業のカジノです。
オーナーのアラスは独りで起業し、屈せずにこの街道で店を今の大きな規模まで広げました。
周りの街道の各勢力はみんな彼の店を欲しがってますけど、誰も歯向かおうとはしません。
それは結構。
あなたはここで待ってて。
(ユーシャの足音)
お酒それともゲームですか?
ゲームよ。
(トランプをめくる音)
つ、強い……
は、はやくオーナーを呼べ!
(カジノオーナーの足音)
お嬢さん、誰だか知らないが、調子に乗り過ぎやしないか、独りでこんな場所に来て暴れるたぁな。
無駄口はいいから。手札を見せなさい。
(トランプをめくる音)
フォーカード。ふふふ……
(トランプをめくる音)
ストレートフラッシュ。
んなバカな!?
カードの隠し方が下手クソすぎ。
お嬢さん、お前の実力は認めてやろう……
持ってる武器を全部出しなさい、こっちは急いでるの。
チッ、野郎ども、やれ!
(カジノスタッフが集まる足音)
先に調べはついてるけど……
あれが龍門にいる鼠王の娘のやり方か。
(チェンの足音)
ユーシャは?
チェンさん、来てくれましたか。
連中リンさんに敵わないと知って逃げた後、リンさんが追いかけていきましたよ。
どっちに向かった?
あっち、ビーチのほうです。
わかった、私が行こう。
(チェンの走る足音)
逃げ足が速いこと。
(チェンの走る足音)
ユーシャ、なにをやってるんだ?
フェイゼ?なにしに来たの?
今はお前に聞いてるんだ。
チッ、なんなんだあいつは、敵わない上に、追いかけてきやがる。
ボス、どうしましょう?
どうもこうもあるか、逃げるんだよ。
ん?
あっちは……乱闘選抜会場か?
ヘッ、ちょうどいい。紛れ込むぞ!
(カジノオーナーとカジノスタッフが走り去る足音)
見つけた。
今はあなたの相手してる暇はないから。
おい待て!
(ユーシャとチェンの走る足音)
見つけたわよ。
もう追いついてきやがったのか?
フン、だがここにゃこっちの助っ人が大勢いるんだ。
野郎ども、やれ!
ここは……さっきテレビで言ってた乱闘試合会場か?
チッ、仕方ない、先に周りの連中を片付けてからだ。