試合開始直後にほかチームに狙われまくったけど、チームLUNG wRAThはまたもや見事な包囲突破劇を見せてくれた。
パンチョさん、第一ラウンドではこのチームワークにおける欠点を言っていましたが、今ご覧になってどう思いましたか?
(携帯のバイブ音)
連携は一夜にして解決できるものじゃない。
だが見てわかる通り、この二人はその欠点を理解している、だから戦闘では明確な分担行動が見られた。
今回は、第一ラウンドの戦闘よりも、かなりスムーズと言えよう。
なるほど、つまり、彼女らが勝利する確率もそれで高くなったと?
それはどうだろうな、ほかの選手も対策を練っているからな。
そうですよね、普通の阻害行動ではもうチームLUNG wRAThには効果がない、ほかの選手が新しい技を見せてくれるかどうか期待しよう!
へえ、中々言い得てますね。
それにあの二人の雰囲気もなんだが前より和らいでるように見えますよ、なにかあったんでしょうか。
まさかイベリア時代の産物だったとはね、道理で……
ん?Missy、試合見ないでなにを見てるんですか?
あの客船の情報よ。
なにか面白いものでもありましたか、さっきイベリアとか言ってましたけど?
ええ、あの船の前身、イベリアが残したものらしいわよ。
そんなに古いものなんですか?……でもよく考えると、イベリアを除いて、確かにほかの国じゃあんなモノ見かけませんね。
そうね。
それにあの船はカンデラ市長が大金叩いてイベリア人から買い取って改造した品物らしいわよ。
わざわざこの街の海に浮かせるためだけにね。
この大地でそんなことする人なんてあの市長以外いないわよ。
確かに贅沢の境地を行く行いですもんね。
それで、Missy、ここ二日間その市長について調べてたじゃないですか、何か結論は出ましたか?
結論……まあ簡単なものだったわ。
あのカンデラ・サンチェスって人、ある意味ウェイ長官に匹敵する人物だわ。
そんなにすごい人なんですか?
そうよ。方向性はまったく違うけど、あの二人は完璧に自分の都市像を心の内に秘めていて、完璧に都市に住まう人々の手綱を握っている。
龍門近衛局の一員として、アタシは絶対にこんな都市を建造した人を尊敬するとは死んでも言ってやらないわ。
しかしスワイヤー家の娘として、こんな都市を造り上げた人はすごいとも、認めざるを得ないわね。
もしこの都市の基盤が表で見えるモノより堅固なものなら、都市の上に居座ってる連中は目に見えてるのよりもっとイカレてると言わるわ。
三つの政府関係者は毎日この街に押し寄せている、ニュースでもたまに連中が騒ぎを起こしたとか小規模な争いに発展した報道を目にするわ。
けど、そんなの誰も気にしていない。
連中は秘密裏にだけど公でここに来ている、口に出すほどでもない規則に従って、ここで外では味わえない暮らしを楽しんでいる。
想像できるかしら?
三つの政府関連者が初めてここで衝突を起こした場合、必ずカンデラ市長が駆けつけて来て、アタシたちみんなが想像もできない方法で連中を“説得”するのよ。
そしてその後、この街に来る人が誰だろうと、必ず彼女が定めた規則に従わないといけない。
けどアタシにはそれが何なのかがわからないわ、弱み?それとも政治的な交渉材料かしら?
ミス・カンデラはこの都市を守れるほどの武力を握っている、これだけは確かでしょうね。
けどその前に、答えは簡単だと思いますよ、Missy、あなただって見つけたじゃありませんか?
じゃあそれって何よ?
それは――酒、砂糖、コーヒー、それと娯楽です。
そんなまさか……
こんな言葉があるじゃないですか、Missy、倹から奢に入るは易し。
贅沢三昧に慣れた金持ち連中はともかく、小官であっても、すでに慣れ親しんでいいと思ったモノが突然なくなったら、辛いですよ。
ましてや一旦失ってしまったら、また見ずぼらしい生活に耐えるしかないんですから。
人の意志とはと時としてとても脆弱なんです、それにボリバルは今じゃあんな情勢なんですし、ここには固い意志を持った人たちがたくさんいるんだって言われても、信じられませんよ。
……
最初からなにもかも順調なんてありえません、けど長い時間を経たあと、誰もそれを否定してくれないのであれば、それはある種の当たり前に成り代わってしまいます。
けど小官も認めていますよ、最初からこの街をこういう形にしてやるんだって決めたあの市長は、確かにすごいお方です。
恐ろしく感じるほどにね。
前にカーブがあるけど、近道でも行く?
必要ない、地図を見るに、近道はサイクリング区域に多い、事を起こそうと企んでいるヤツがいれば、きっとその区域に入ってからだろう。
近道にはミス・カンデラの手下が大量に潜んでいます、危険人物以上に危なっかしい連中なので、忘れないでくださいね。
相手は第一ラウンドで事件を起こさなかったんですから、俺が思うに、第二ラウンドではもっと慎重に鳴りを潜めると思いますよ。
ああ、用心しながら進もう。
そういえば、Missy、あのMCなんだか見慣れませんか?
ん?言われてみれば、確かにどっかで見たことがあるわね。
ええ、小官もどっかで見たことがあるように思えます。
彼女はD.D.D.さんですよ。
D.D.D.?ああ、思い出した、あの有名なDJか、ポスターとかで見たことがあるな。
なぜMCなんかやってるんだ。
ん?あなたは……シデロカさん?奇遇ですね、任務ですか?
そんな感じです。ボリバルで任務に出向いてたんですけど、近くに街があると聞きつけたんで、ついでにエイヤフィヤトラさんの地質調査の協力も兼ねて、仕事終わりに休暇を申請してここに来ました。
あなたたちは?チェンさんとご一緒ですか?
いえ、小官たちは別の理由で来ました。
あのMCのことよく知ってるようですね、あなたも音楽ファンなんですか?
いえ、彼女のファンのオペレーターがたくさんいまして、私はただちょっぴり感化されただけです。そうだ、こっちに来て一緒に座りませんか?
どうします、Missy?
いいじゃない。ちょうど試合展開に退屈してたところよ。
エイヤフィヤトラさんも来てらっしゃるの?
はい、今回はちょっと彼女にリフレッシュさせたくて。
あら、ならちょうどよかった、ずっと会えてなかったんだもの、今回はちゃんとご挨拶しないとね。