オホン、聞こえますか、聞こえますか?
市民の皆さん、観光客の皆さん、私です、カンデラです。
まず初めに、どうか落ち着いてください。
パンチョのことは完全に私の予想外でした、と言わざるを得ません。
私が信頼していた部下が実はずっと密かに私の街を奪おうと企んでいたなんて思いつくはずがないじゃないですか、なんて恐ろしい!
しかし、最初に言ったように、驚かれることではありません。
むしろ、パンチョに感謝したいぐらいです。
正直に言いますと、この二年間、私はずっと考えていました、どうすればグランプリをもっと盛り上げられるか、皆さんの注目を集められるか、もっと楽しんでもらえるのかと。
結果いい方法は見つかりませんでした。
だがパンチョが代わりに見つけてくれました、彼はより盛り上がるグランプリを自身の行為で私に示してくれたのですから!
グランプリはもう終わる?
いいえ、むしろその逆、この瞬間より、今大会は正真正銘の最高潮に突入しました!
全チームもこの瞬間に復活し、予想コーナーも新たに設けます。
街で暴れまわってる連中を可能な限り阻止してください、あなたたちならできると信じてますから。
ことが終えれば、私から相応の褒美を与えましょう。
……
……
あ、さっきの二人だね、私の部下が言ってたわ、さっき彼らと一緒に私の暗殺を防いでくれたって。
さあ、どうぞ座って、お礼として、あなたたちもこの特等席で私と一緒に試合を楽しみましょう。
あなた……正気なんですか?
もちろん正気よ。
私の目の前でちゃぶ台をひっくり返したら勝ち目はないって、パンチョも知ってのこと。
だから彼は私から預かった船で縮こまってるのよ。
もし間違っていなければ、私の知らない間で船に色んなモノを付け加えたんじゃないかな、大砲とか?
しかし、それだけでしたら、さして脅威にはなりませんよね?
そうね。
第二と第三ラウンドの間、各方面からいらっしゃった賓客たちを大勢船に招待してたのよ、ご自分の目で試合を楽しんで頂くためにね。
なるほど、その賓客たちの命がキーポイントなんですね。
この都市を運営するにはその人たちと付き合っていかなければならないから。
そそそ、だから今の私は彼を片付ける権利はない、あの権力者たちの手下たちが即刻彼を片付けてほしいか欲しくないか次第よ。
やれやれ、こんな大事にしておいて、結局やり方は陰湿なんだから。
大方エルネストが彼に教えたんでしょうね。
とにかく見ての通り、今私にできることはそう多くない、ただし、彼にできることもそう多くないのが現状よ。
であれば、もっと面白くしないなんてありえないじゃない?
しかしそれだと余計彼を刺激するのでは……
仮に彼が本当にあのお偉いさんたちを引きずり出して殺したとして、私が都市を譲ったところでどうにかなると思う?
分かってないですね、Missy、彼がもしこの都市を奪って戦争を引き起こすのであれば、どう転んでもあの権力者たちとやり合うハメになるんですよ。
じゃなきゃどっから戦争を仕掛ける資金と兵力を賄ってきたんですか?
小官が思うに、船にいる権力者たちの何人かは、すでに彼と話が通じてると思いますよ。
……
あら?二人とも若いながらも面白いわね、その恰好を見るに、ボリバルの人じゃないわね?
あはは、小官らは龍門から来ました、友人が二人いるんですけど今ちょうど船に上がってまして。
ん?二人はチェンさんとリンさんのご友人だったのね?彼女たちから何も聞いてないけど。
小官らがこっそり遊びに来たってことは、彼女たちに教えてませんので、市長さんが知らないのもおかしくはありません。
あははは、なるほどね。
であれば、もう少しだけ教えてあげてもいいかな――
この一件は私からチェンさんとリンさんに委託している事案でね、その他にも、文月さんに約束してあるのよ、ここでは絶対二人に危害を加えさせないって。
これがどういう意味か分かる?
時期尚早ってことですね。
分かってるじゃない、極東のお嬢さん。
もしあの二人になにかあれば、船にいるあの賓客たちもろとも、可哀そうなパンチョと一緒に墓に入ってもらわないといけなくなるわ。
……
Missy、大丈夫ですよ。
ささ、雨降って地固まるって言うじゃない、ほらほら、座って、色々お話しましょう。
(無線音)
終わった?
終わった。
だが状況がまずい。
どうやら、あなたにエルネストの相手をさせて、そのスキに私が調査するには遅すぎたわね。
……そうだな。
悔しい?
悔しい……だがもう仕方がない。
そんな単純な一件じゃないって、とっくに予測してたでしょ。
こんな大事になるとは思っていなかった。
ビビってるの?
まさか。
お前今どこにいる?
どっかの船室。
あなたがエルネストと話してる間、色々船内を回ってみたわ、パンチョが行動を起こす前の船内の雰囲気はまだ緩かった。
けどさっきの宣言をした直後、船内にいる船員や水兵がすぐさま動き出したわ。
今船内の警備は非常に厳重で、武装も補給もたんまりよ。
シーソーゲームの準備はできてるってことか。
まあ、まったく解決方法がないわけでもないわ。
というと?
あと、船内にいる権力者たちを一つの部屋に閉じ込めてあるわ。
強盗がよくするやり方だな……いやちょっと待て。
先に人質救出からやろう。
あなたも気付いたようね。
船内でどれだけ武器と補給を揃えようと、陸でどれだけ対応策を取ろうと、この都市を握ってるミス・カンデラと戦っても精々互角だ。
時間が長引けば、彼の勝算もどんどん低くなる。
あの権力者の人質は彼の盾になってるんだ。
フッ、その通り、あの権力者たちは三つの政府から来た大物たちよ。
人質として、最高の抑制力になるわ。
そんなに時間は必要ない、少しの間だけ、ミス・カンデラをその間だけ戸惑わせられれば。
彼はもっと動けるようになり、より多くの交渉材料を得られるわね。
けど、こっちは二人しかないのよ。
正直、私あまりあなたみたいな人が描いてるヒロイズム的な芝居を打つ趣味はないんだけど。
私がやる。
人質の救出はそっちに任せる、私が彼らの警戒を分散させよう。
まあそれでもいいわ。たぶん船には救命ボートがあるはず、ないなら海に飛び込めさせればいいだけの話ね。
その後は?
何がだ?
人質を救出しておしまいのつもり?
一人船に残って英雄気取りするつもりなら、止めはしないぞ。
フッ。ならそれでいいわ。
で、始める?
始めよう。そうだ、電話は切るな、通信はそのままにしろ。
ッ……ここは……
お兄ちゃん、大丈夫?
チェンって人にやられて気絶してたよ。
ああ、そうか、思い出した……
状況はどうなってる?
計画通りに進んでるよ、すでに何人かのお偉いさんがパパと協力するって。
待った、チェンさんは?
彼女ならお兄ちゃんを倒したあと、船であちこち暴れまわってるよ、パパから捕まえろって命令も出てる。
暴れまわってる……いや違う。
ラファエラ、はやく何人か連れて人質を抑えてる場所の状況を確認しに行け。
おそらくチェンさんはリンさんのためにスキを作ってるんだ。
彼女たちに人質を奪われたらヤバい。
でも、お兄ちゃんが……
俺なら平気だ、はやく行け。
わかった。
……
私の古い馴染がこんなことを言ってくれた、一度しこたま殴られないと、昔のそいつみたいに、私は自分の執念がいかに幼稚なただの妄執に過ぎないことに気付かないんだとな。
今でもはっきりと分かってないんだ、どれが貫いていい執念で、どれが現実を見ない妄執なのかを。
だがあいつも分かってると思う、そんなことで諦めるなんて、チェン・フェイゼじゃないとな。
いいなぁ、チェンさんは、自分が何をやってるのか、何をすべきなのかが分かってて。
それに対して俺はどうなんだか。
エルネストは悶えながら立ち上がり、フラフラと部屋から出ていった。