見てください、あっち、追いかけられてるのってチェンとリンさんですよね?
あら、あの二人、すごいわ、本当に大したものね……
はやく助けに……
(爆発音)
突如、海岸から少しだけ離れた場所にあった客船から巨大な爆発音が鳴った。
お前なにをやったんだ?
ちょっとしたサプライズ。
言ってたじゃない、人質を救助したあと何をしているんだって?
あれで離脱すればいいって私も思ってたけど、そういえばまだ爆弾を持ってたことを思い出してね。
だからちょっとしたサプライズを残してあげたってわけ。
……
一杯どう?
優雅に楽しみやがって。
ボートを動かした時に見つけたから、ちょっと飾ってみたの。
しょうもない。
しょうもないわね。
……
……
お前あの時わざと切らなかったんじゃないのか。
なんの話?
忘れたのか?「自分が彼らの跡を継いだ時、彼らの道だけを歩んではいけない」って言ってただろ。
お前がそれを言ってた時、通信繋がったままだったぞ。
……
だから、正直に答えろ、この一件で、こっちが危惧してるようなことはしていないよな?
……岸についたわ。
あなたの負けよ、爺さん。
……
カンデラに手を貸すとは、お嬢さんたち、お前たちは自分がなにをしてるのか理解できてない。
よくやってくれた、パンチョ。
カンデラ!
やめろ。こちらは負けたんだ。
賢明な判断ね、パンチョ。
さあ、座って。
カンデラ、何のつもりだ?
見て分からない?一緒に食事しましょう、こっちの奢り。
パンチョはフンと鼻を鳴らしたが、それでもカンデラの向かい側に腰を下ろした。
ほかの人なら今頃小鹿のように腰を抜かしてるはずね、その点あなたは違って気に入ってるわ、パンチョ。
気に入られる筋合いはない。
私は負けた、なのに貴様は捕らえないどころか、私をここに座らせた、なにを企んでいる?私に辱めを受けさせるためか?
少しお話をしましょう、パンチョ。
エルネストを使って私の気を逸らして、手下たちを試合に参加させ、試合を通じて市内各地に爆弾を仕込んだ。
最後には第三ラウンド開始直前に蜂起し、船にいた富豪たちと権力者を盾に私を抑制した。
さすがね、おそらく今回の一件で、私はもう少しでこの都市を失うところだったわ。
※ボリバルスラング※、理解できん、カンデラ、今回の計画のために、私と部下たちがどれだけ心血を注いできたことか。
なのに貴様は、偶然知り合ったどこの馬の骨もわからぬ異邦人に、この事件を彼女たちに委ねた。
そして彼女たちは、あろうことか私の計画を壊した!!!
なぜ貴様のような人が勝つのだ?
私が勝った?
何を言ってるの、パンチョ、どうやら私の街に長年居座るあまり、私がどういう人間なのかすら忘れてしまったようね。
それとも、今まで一度も私を理解していなかったのかしら。
あなたの相手が私だったことは一度もない、ましてや私に負けたことすらない。
あなたはただ失敗しただけ、単純な話よ。
忌み嫌う街で生活して十数年、三つの政府を罵倒しておきながら、私を下ろすためにそのうちの一つの手を借りざるを得なかった。
当ててあげましょうか、リターニアの人でしょ、あ、誰なのかもうおおよそ分かったかも。
教えて、パンチョ、あなたが何を考えているのかを、なぜあの骨の髄までしゃぶりつくすような連中の手を借りたのかを。
……
あ、なるほど、屈辱を忍ぶことを学んだのね。
なぜ私に尻尾を振らなかったの?
どうして私はあなたを助けないって分かったの?
正直ね、パンチョ、もし私に助けを求めてきたら、あなたに人と金を渡してあなたが一番愛してやまない戦争を本当にしてあげられたかもしれないのよ。
そして仮にあなたが勝ったら、この街もあなたを寄り縋るようになる。
これ以上美味しい方法はないと思んだけど。
貴様に首を垂れるなんぞ死んでもするものか。
はぁ、そういうところ、あなた頑固過ぎるのよ。
あなたみたいな人たちって、完璧とか、独立とかって言葉にいつも非現実的な期待を抱いている。
自分たちを繋ぎ合わせてくれるような風潮を妄想して、自分たちを団結させてくれる象徴をずっと追い求めている。
しかし事実として、ボリバルは最初から独立したことはないし、歴史すら持たない、ましてや風潮や、象徴なんてあると思う?
仮にあなたが成功したところで、あなたが建てたボリバルは本当に自分が想像していたボリバルなの?私にそんなビジョンは見えないわ。
貴様が何を言おうが、私が憂いているのは最初から戦争を終結させ、ボリバルに平和をもたらすことだけだ。
私は今日で敗れた、煮るなり焼くなり好きにしろ、カンデラ。
だが覚えておけ、私がやったことは正義ではないかもしれんが、少なくとも貴様よりは正義だ!
あ、ごめんなさい、いやだ私、またあなたの後ろに潜んでいる人たちとあなたをごちゃ混ぜにしちゃったわ。
あなたは私が思い描いているあの類の人じゃない、心の底からこの国を救おうと考えているもの、だから今ここに座れている。
しかし、失敗した罰として、あなたを彼らの代表として見なすことにするわ、そっちのほうが楽だしね。
私は一度も正義を名乗ったことはないわ、パンチョ。
私は三政府が何を企んでいようがどうでもいいし、あなたたちのボリバルにも興味はない。
実際、私はこの都市に無我夢中になっているってあなた言ってたけど、それも誤解よ、この都市のことも私にはどうでもいいの。
私が気にしてるのはこの都市が表してる意味よ。
意味だと?死ぬまで娯楽に耽ることが貴様が気にしている意味というのか?
はぁ、その頑固具合だと、一生お金の意味を理解できそうにないわね。
まあいいや、この爺さんを連れてってちょうだい、あとでまたじっくりお話してあげるから。
残りの抵抗しようとする連中のことは、どう処理するか分かってるわよね。
承知しております。
……
……
やれやれ、さっきの場面、鴻門の会と言ったところでしょうか。
隣で見てただけでも鳥肌立ちましたよ。
昔お父様とお爺様が一緒に会食していたような雰囲気だったわ、正直キツい。
確かにな。
ホシグマ!?
スワイヤー!?
よお。
二人ともびしょ濡れじゃない、はやくタオルか何かで拭きなさい。
なんでこんなところにいるんだ!?
あははは、話せば長くなります、あとでメシの時にゆっくり話しますよ。
はぁ、こんな状況でご飯食う食欲なんてないわよ。
お二人とも、いやね私、パンチョと話してばっかりで、最大の功労者をすっかり忘れていたわ。
ちょっと、そこの、至急ドローンをこっちに寄越して、あとライトアップも忘れないように!
二人ともお見事だったわ、それしか言葉が出ないぐらいに。
ウェイはこんなにも素晴らしい若者を二人も紹介してくれた。
そして二人は今回のグランプリに見事なクライマックスを飾ってくれた。
グランプリ?クライマックス?
そ、いつも通りなら、今もたくさんの人がテレビの前で私たちのことを見てると思うわ。
船内で起こったことは撮り損ねちゃったけど、チェンさんが甲板でパンチョと対峙してたあのシーンは、きっとみんなの心に深く刻まれているはずよ。
たぶん、みんなあなたたちのために歓声を上げてるんじゃないかしら。
……以前言ってましたよね、自分がいれば、誰だろうとこの街を脅威に晒させはしないと。
ええ、そうよ、何か問題でも?
さっきまで起きていた出来事は脅威として見ていないのですか?
あははは、チェンさん、あなたはやっぱりまだまだ若いわね。
脅威とは何か?この都市が更地にされること?ここの住民たちが皆殺しにされること?
どれも違う、違うのよ、チェンさん。
本当の脅威というのは人々が欲望を抱かなくなること、享楽を追い求めなくなることよ。
あなたは長年警察を務めていたわね、そうなる可能性はあると思うかしら、チェンさん?
……
あ、その表情が答えを言ってくれてるわね。
ほら、あなたも分かっての通り、答えは不可能なのよ。
つまり答えが不可能である限り、この都市は永遠に存在し続ける、ドッソレスがなくなろうと、ドッソレスはあり続ける。
私が幾らでも、創り出してあげるから。
……
ただし、それであなたたちがこの都市の英雄であるという事実を覆い隠すことはできないわね。
おっと、いやだね、私ったらまた忘れていたわ。
パーティの準備はできてる?
ほぼ完了しております。
私のマイクはどこに……お、あった。
オホン、えー市民の皆さん、観光客の皆さん、今皆さんがテレビの前にいようが、ビーチにいようが構いません。
謹んで今回の極限トライアスロングランプリ大会の優勝者を、同時この都市を救ってくださったヒーローたちをご紹介致しましょう。
龍門からいらした二人のヒロイン――チェン・フェイゼさんと、リン・ユーシャさんです!
そしてパンチョさんにも自身の献身的な行動で素晴らしいショーを見せてくれたことに感謝を申し上げます!
ではこれより、ビーチでパーティを執り行うので、皆さんもぜひこぞって参加ください!