どうだ?
順調よ、もうすぐレストランに入るわ。
よし。
!?
(エルネストの足音)
また会えましたね、チェンさん。
……お前はそこで大人しく寝ていればよかったのに。
俺もそう思いました、できれば目が覚めた時、勝ちだろうが負けだろうが、一件落着してほしかったんです
けど残念ながら、そうはなりませんでした。
お前じゃ私には勝てん。
今じゃますます最初あなたたちを最大の脅威と見なしていた自分を感謝していますよ……もしそうしていなかったら、計画もここまで来れませんでしたのでね。
お前……あの熱狂的な連中とは違うな、なぜこんなことに手を出した?
もうこんな事態ですので、俺の本当の考えを教えましょう。
昔ミス・カンデラが言ってました、彼女の父親は、この都市の前市長で、リターニア政府に飼いならされた、汚職以外何もできなかったクズだったと。
怒り狂う市民たちに市長室から蹴り出される前、妻と娘を連れて国外へ逃げていきました。
彼女の父親は人としてはどうしようもないゴミクズでしたが、その人間のクズの娘として、父親と一緒にカジミエーシュ、そしてヴィクトリアについて行くしかありませんでした。
父親とついていくにつれ、彼女は金の使い方を知り、金の意味を知った。
そしてこの街に戻ってきて、ここの市長になった。
レジスタンスが何も成し遂げられなかった頃、この都市はすでに全ボリバルで最高の酒類、コーヒー、砂糖を産出することができました。
ドッソレスのテキーラも、今じゃリターニアやクルビアでも飲めるようになってます。
リターニアとクルビアが互いにいがみ合ってる時、この都市は両方の貴族にとってのリゾート地となりました。
しかも連中はミス・カンデラが決めた規則を遵守するほどです、ここでは一切の決闘を禁ずるってね。
連中をそうさせたのは、武力でも、ましては巧みな剣術やアーツでもない、金と、娯楽と嗜好品です。
この街の輝かしい外面がそうさせてるんですよ。
こんなことするべきじゃないってのは俺もよく理解しています。
けどそんなことを考えるなって言われても俺には到底できません――
別の意味において、結論から言うと、ミス・カンデラは俺の親父以上にボリバルって国を愛してるんじゃないでしょうか?
あいつは盲目的に国としての意味を追い求めているだけ、ボリバルっていう国を欲しがっているだけだ。
この国の領土の大きさはこの国が付属地として定められた時に決まったもの、ここにいる人々もずっとここで生きてきた人たちだ。
それからどうなった?この国はクルビアとリターニアとの軋轢をどう対処した?どうやって一つの国として発展していった?
あいつはそんなことは知らないんだ。ボリバルがどういう国なのかすらも。
でもミス・カンデラは少なくとも一本の道を見つけ出した、ここの存在する意味を見つけ、その意味を現実に変えようとしている。
……屁理屈だ。
言うだけで何もしないよりマシですよ、違いますか?
ならなぜまだ父親に協力しているんだ?
生まれた時から親父が戦火へ潜っていくところと、意気揚々とした姿が寡黙になっていくところを見てきたからですよ。
親父がどういう人間かは理解しています、あいつは時代に屈服したあの連中とは違いますから。
ミス・カンデラの部下として働いて違う考えが生じたとはいえ、俺が俺の親父を裏切る道理にはなりません。
けど否定もできません、その生じた考えが徐々に強まり、俺に別の可能性を考えさせるようになったとしても。
だから俺は今回の計画を一つの区切りにしたんです。
今は全力で親父を支援する、もし成功したら、引き続き親父に協力する。
もし失敗したら、俺も自分の変化を受け入れ、ミス・カンデラの手足になるってね。
もちろん、もし俺が死んじまったら――
その時は死ぬだけです、あはは。
そして今は、まだ終わっていません。
だから、あなたを通すわけにはいきません。
……であれば、もう言うこともないな。
はい、あなたと出会えて光栄でした、チェンさん。
もしこんな状況以外で出会えていたら、リンさんと一緒にこの街をしっかり案内してあげたかったんですけどね。
いや結構だ。
ですよね。
Bチーム、何人かは私と一緒に来い。
どうしたんだ?
試合ですごい活躍してるチームLUNG wRATh、そのチェンってヤツがまだ抵抗してるようなんだ。
船内は全部こちら側の人間だ、それにほかの選手もここにいる、どう抵抗しようっていうんだ?
エルネストを倒したらしい。
それから船内で暴れまわってる、船長も直々彼女をとっ捕まえにいった。
いやぁ、すごいよな。以前エルネストから彼女たちをナメるなって言われてたが、俺は信じちゃいなかったよ。
ん?じゃあ、リンって選手は今どこにいるんだ?
人質を抑えてるこの部屋にもいなかったが。
さあな、海にでも飛び込んだんだろ。
私ならここにいるわよ。
!?
二人の頭上の天井から飛び降りたユーシャは、難なく手刀で二人を片付けた。
はやく、そいつを囲め!
(フェイゼも中々人を惹きつけてくれてるじゃない、それなりに人数が少ないわ。)
(さっさと片付けちゃいますか。)
部屋にいる数人の護衛の囲みに対して、ユーシャは少し身構えただけで、退くどころか攻めていった。
一人目は、膝蹴りを受け、二人目にぶつかり、二人とも容赦なく柱に叩きつけられた、柱はもはや折れそうな具合で、二人とも気絶してしまった。
三人目が武器を取り出そうとしたが、自分の腕に血の筋が二筋あることに気づき、叫び声を上げ、地面に膝をつき、手刀を食らって暗闇へ送られた。
四人目と五人目が連携して攻めよとしたが、ユーシャが足を蹴り上げ、乗っていた食器諸とも食卓が飛んできたため、反応できることもできず、そのまま地面に倒された。
六人目は不利になったと知り、トランシーバーで状況を伝えようとしたが、なぜかトランシーバーが急に煙を吐き出した、そしてフワッと、自分がすでに空中に飛んでいることに気づき、美しい曲線を描きながら、海へと落ちていった。
元からユーシャは近接戦闘を得意としている、狭いレストランで自分の優勢を余すところなく発揮し、電光石火の間にレストランで人質を見張っていた護衛たちを片付けたのだ。
一方人質たち、つまり船長に誘拐された権力者たちと一部試合に参加していた選手たちは、レストランの一角で縮こまって、驚きの面容を彼女に向けていた。
死にたくなければ私についてきて。
逃げるにしても、船内はパンチョのクズ野郎の手下だらけではないか!
ちょっとあなたたち。
ひ、ひぃ――
やめろ見っともない、いいさからさっさと立て。
リンさん、何なりと申し付けてくれ。
私が先鋒を務めるから、あなたたちはこのお偉いさんどもを守ってちょうだい。
わかった。
それじゃあ……
(ラファエラの走る足音)
あちゃー、来るの遅かったかぁ……
エルネストからここにいるって聞いたけど、やっぱりね。
(エルネスト……フェイゼに倒された後に目を覚めてすぐ状況を理解したっていうの?)
(惜しい人材だわ。)
(それに、この女の子、こんなところで出くわすなんて。)
お嬢さん、こんなことに関わっちゃおいたが過ぎるわよ。
私はラファエラって言うの、お嬢さんじゃない。
私はパパの養女だから、関わってもいいんですー。
お兄ちゃん言ってた、あなたはいい人だって、なのになんで私たちの邪魔をするの?
(ラファエラとユーシャがぶつかり合う音)
自分がいいことをしてるとでも思ってるの?
よくわからないけど、でもお兄ちゃんもパパもこの街はひどいって言ってた、私は従ってるだけだよ。
……自分の考えもきちんと持ちなさい、お嬢さん。上の人は下の人に助けられなければならない時だってあるんだから。
上の人は自分の経験を持っているけど、自分の経験に囚われちゃうのよ。
だからあなたが彼らの跡を継いだ時、彼らの道だけを踏んではいけない。
自分の考えで彼らの陳腐なしきたりを壊して、自分で自分のことを考えなさい。
(ラファエラとユーシャがぶつかり合う音)
何言ってるのかよくわかんないよ。
大丈夫、今は頭の隅っこに置いておけばいいから。
ほら、お姉さんはまだ別の用事あるから、いい子はもうおねんねしなさい、お嬢さん。
(チッ、ユーシャめ、さっき急に電話を切りやがって、もうコールしても出ないじゃないか、一体何をやってるんだ。)
(携帯のバイブ音)
ユーシャ、何をやってるんだ、ニ十分前にお前が人質を救出した情報を耳にした、今ほとんどの連中がお前を追いかけに行ってるぞ。
わかってる、私今人質の傍にいないの、彼らならもう脱出してると思うわよ。
じゃあ一体何を……
私を信じて、とりあえず今すぐ下の階に来なさい、一緒に……
!?
チェンはさっと携帯を切り、振り向いた、パンチョとその手下たちがすぐ近くまで来ていたのだ。
龍門の総督ウェイは大したヤツだとずっと耳にしていた。
だがヤツが送り込んできた二人、強いは強いのだが、おつむが少々足りなかったようだな。
どうやら、ウェイもカンデラと同じ類であったか。
お前……
貴様らのような金しか目に入れず、享楽に耽ることしか考えない連中など、今すぐにでも根絶やしにしてやりたいものだ。
龍門がどんな場所かは知ったことではないが、私が生まれてこのかた、この国はずっと血を流し続けてきた。
誰だって互いに握手して平和な日々を暮らそうと考えているのに、誰もそんなことをしてはくれなかった。
いいか貴様、いくら血を流そうとも、この街が一日に吸い取る血の量には到底及ばぬのだ!
話はおしまいだ、こっちは貴様とごっこ遊びしてる暇はない。
大人しく投降するか、ここで死ぬか選べ。
(なぜこんなことをするんだ?お前は本当に自分が正しいと思っているのか?そうしてより多くの血を流すことになってもか?)
(そんな問いに……意味なんて微塵もない。)
(彼の目に映る私は、自分を阻む連中なんだろう、だが私は――)
(反論が言えないんだ。)
(私が自分の行動に後悔している訳ではない。)
(パンチョが行動を起こした動機を知ったあと、彼に共感できなかったわけではないからだ。)
(たとえ彼のやり方を否定し続けてる今もそうだ。)
(だが今の私はボリバルを、戦争を完全に理解できていない、もっといい方法を提示することなんて私には無理だ。)
(だから彼に反論できないんだ。)
(ましてやここで剣を抜くことなんて。)
(赤霄が今の私を認めてくれないことぐらい、分かってる。)
(なら、私がすべきことは――)
チェンはゆっくり手にある銃を持ち上げた。
死を選ぶか。
パンチョはゆっくり手に持つ錨を持ち上げた。
そしてその時――
(無線音)
跳べ、チェン・フェイゼ。
もはや考えてる場合じゃないチェンは、そのまま甲板から一気に飛び降りた。
(ボートのエンジン音)
その下で彼女を待っていたのは、ユーシャが運転する小型のボートだった。
チッ、追え!