
……ふぅ。

やっと起きましたか、D.D.D.。

なんだよ、寝てから起きることなんて普通でしょ?

昨日帰ってきてすぐベッドに倒れ込んで寝ちゃったからね、こっちは心配してたんだから。

……今外の様子はどう?

市内の状況でしたら、依然変わりなく、相変わらず騒がしいままですよ。

朝食を食べに行った時色んな人が昨日のことについて話してましたけど、あんまり気にしていないみたい。

まあ収まったことだから。

やっぱカンデラ市長はすごいや。

昨日あんな状況だったのに、あんな方法を取るなんて……

私も当日テレビを見てびっくりしましたよ。

ああいう場の収め方なんて、前代未聞です。

しかもあの危険な連中と戦った人たちも多かったですね。

私はあの時そのすぐ隣にいたんだ、あの感覚、今でも不思議に思うよ。

ミス・カンデラの近くにいたのは、彼女を殺そうと必死になってる危険な連中たちだった。

けどミス・カンデラはちっとも怖気づいてなかった、ただ客船に近づけるドローンはないか、船内の状況を撮影できないかしか気にしていなかった。

彼女はそこに立って、モニターと海に指示しながら、隣の人と楽しそうにだべっていたよ。

あの時、今起こってる何もかもが非現実的な感じだった。

だけど最後に、あの二人のヒロインが現れたんだ。

彼女たちの出現でなにもかもが現実に戻った。

マジで……マジで最高にエクサイティングだったなあ!

創作に打ち込みたいんですね。

あはは、さすがだね、オイラのことをよく理解してる。

知り合ってどれぐらい経ってると思ってるのよ?

そ、創りたいんだ、あの時感じた恐怖を、高揚感を、迷いを全部記録して、一曲の歌に造り替えたい。

この曲は私自身のために創ったものだが、彼女たちの曲でもあるんだ。

この街もなかなか良かったなぁ。

リターニアの劇場、クルビアの映画、ボリバルのコーヒー、体験したいと思ったものは全部体験できたしね。

でも、この街にいる人たちはつまんなかったかな、試合が半分ぐらい過ぎてからもう飽きちゃったし。

最後こうなるって知ってたら、途中からチェンお姉さんの無事を確認して一緒に船に上がるべきだったよ、そしたら少しは力になれたと思う。

まあいいや、どうせもうこの街もそろそろ飽きてきたところだし、チェンお姉さんたちがどこに行くかだけ見ていこう。

チェンお姉さんが来た場所なら、きっとお姉さんと同じようないい人がたくさんいるんだろうね。

だからお前はいつも無茶しすぎだ、スワイヤー。

うんうん、はいはい、わかったわかった、なんでアンタに説教されなきゃならないのよ!

今の近衛局はお前の手に渡ったとも言っていい、なのにお前は……

]もう、そんなこと分かってるわよ。

アンタこそ、ロドスのオペレーターのくせに、こっそりここに来てバカンスを楽しんでたじゃないの!

これは……もういい、そういうことにしておこう。

フンッ。

なんで止めるんですか、続けてくださいよ、チェンが去ってから、もう長い間口喧嘩してないんだから今の内にしちゃってください。

アタシがこの間ロドスにいった時に一回したでしょ。

まあまあ、とにかく、来てしまった上に、事件も解決したんですから、綺麗さっぱり忘れて、思いっきり遊べばいいじゃないですか。

ね、チェン?

はぁ……そうだな。

どうしたんです、まだ昨日のことを考えてるんですか?

そうだ。フッ、あれは人生で一番欲しくない栄誉だったよ。

あはは、確かに、正直に言うと、小官であっても、虫唾が走ってしまいますよ。

けど起こってしまったんですからしょうがないです。

チェン、世の中に一挙両全で思い通りに行くことなんてないんですから。

分かってる。

ほらほらもういいから、座ってくっちゃべってるより、ショッピングしたり美味しい物でも食べないと元気でないじゃない。

ほら行くわよ、お昼はこのアタシが奢ってあげるから。

それよりあのネズミがどこに行ったのよ?

朝っぱらから出かけていきましたよ、どこに行ったかまでは知りませんが。

たぶんあそこだろ、私が探しに行く。

見つけたらアタシに教えなさい。

フン、昨晩からアタシを避けて、見つけたらタダじゃおかないから。

私が去ったあと、ここはあなたに任せるわ。

教えたことは忘れてないでしょうね?

もちろんです、ご安心ください。
(チェンの足音)

ここで何をしてるんだ?

あ、チェンさん、今姐さんから説教して頂いてます。

彼女に関わっちゃダメよ、でないと逮捕されるから。

もう警察じゃない。

あなたみたいな余計なことに首を突っ込む観光客なんて見たこともないけどね。

フン。

下がっていいわ。

はい。

私に何の用?

まさかただ私と酒を飲みたいとは言わないでしょうね。

もしそうだとしたら?

なら……一杯ぐらい。

龍門青年創業者協会の会長は、仕事に妥協せず、自他ともに厳格な人ということは知ってる。

今回、それを目にできた。

私の知ってる龍門近衛局特別督察隊の隊長さんは、血も涙もなく、犯罪者に対して情け容赦ない人だった。

今回、それを知れたわ。

今回はウェイに言われて来たのか?

フミヅキさんからウェイの代表としてお願いされたのよ。

最初は分からなかったけど、あなたを見て理解できたわ。

……腹を立たないのか?

いいえ、私にとってはチャンスだもの。

鼠王の娘は鼠王になり得ないが、鼠王にもなり得る。

だからあいつに手を貸したのか?

……それは答えられないわ、チェン・フェイゼ。

なぜだ?

私はあなたとは違うから。

私は龍門を捨てたと言いたいのか。

最初は少しだけそう思ってたけど、今はもう考えてないわ。

事実を言っただけよ、私とあなたは違う。

耳に刺さる言葉にしか聞こえん。

じゃあそれはそっちの問題ね。

フッ。
(携帯のバイブ音)

ちょっと、ちゃんとあのネズミ探してる?

今隣にいる。

今どこにいるのよ?

沿岸通り26号線にあるバーだ。

26号線?ならちょうどよかった、結構いい店をそこで見つけたから、アドレスを送るわね、二人とも先に行ってて。

そこのネズミを引き留めておきなさいよ、絶対に逃がさないように。
(携帯が切れる音)

だそうだ。

……はぁ、相変わらず面倒臭い女ね。

行くか?

行きましょう。

ビーチのほうはすごい人だかりだな。

なんせこの街の象徴だからね、客船がああして沈んじゃったら、誰だって気になっちゃうわよ。

客船か……フッ。

あなたがなにを考えてるか知らないけど、あの客船を吹っ飛ばしたのは私たち、変わりようのない事実よ。

ミス・カンデラが私たちの賞金で帳消しにしてくれただけでも感謝なさい。

正確に言うと、吹っ飛ばしたのはお前だけどな。

じゃあそっちはもっといい方法があったわけ?

ない。

ん?あっちにいるのは……

……

エルネスト?

チェンさん、リンさん。

ここで何してるんだ?

ミス・カンデラから親父とその他一部の人に恩赦を与えられたんです、ほとんどの人は追い出されちゃいましたけどね。

ミス・カンデラは俺のここ数年の功労に免じて、残してくれました、もちろん、仕事はなくなっちゃいましたけど。

ここに残るつもりなのか?

いえ、去るつもりです。

俺とラファエラはどこに行こうか、昨晩からずっと考えてましたけど答えが出なくて、だから海を見てボーっとしてました。

ラファエラってあの女の子のこと?

はい、あいつは親父の戦友だったピユーの娘でして、ピユーおじさんは親父を監獄から助け出すために亡くなってしまって、死ぬ前にあいつを親父に託したんです。

……

お二人とも今ここで俺を一思いにしてくれるつもりはありませんか?

生憎私はまだお前を裁ける資格を持っていないんでな。

もしあなたが成功していて、再び出会っていたら、殺していたわ。今は……もういい。

あはは、お二人らしい答え方ですね。

……チェンさん、リンさん、炎国の言葉で言うのなら、俺はもうすでにとんでもない不孝者ですよね。

そうね。

大義親を滅ぼすという言葉もあるが、今のお前には当てはまらん。

あははは、確かに、俺大義なんか背負っちゃいませんしね。

けど少なくとも、一連の事件の間、俺は親父を裏切ろうとは一度も考えていませんでしたよ。

船の中でチェンさんに言ったあれ、ウソじゃありませんから。

お二人がこの街で過ごしてきた間どういう考えを持ったかはわかりません。

この街が何を下敷きに建てられているかは俺もよくわかってます。

けど、そういう大きなビルとか、青い空と海を見てると、やっぱりどうしようもなくこれでいいんだって思ってしまいます。

それ以外の考えなんて思いつきません。

……だがお前は去ることを選んだ。

ぶっちゃけ、もしお二人が現れなかったら、俺はこのまま喜んでミス・カンデラの下で働いてたと思います。

けど、チェンさんがあの時俺に言ってくれたおかげで、迷いを生じさせてくれました。

お二人は違う国からやってきた、だからもしかすると、ほかの場所には、ほかの考え方があるんじゃないかなって。

……ふぅ、お二人に全部話したら、少しだけスッキリしました。

ここで会っても俺を殺さなかったどころか、無駄話にも付き合ってくれて本当にありがとうございます。

立場が違っただけよ。

じゃあお二人ともごゆっくり、俺はまだここにもうしばらく残るつもりですので、もしお役に立てるのであれば、いつでも呼んでくださいね。
(エルネストが去る足音)

ああ。

……私じゃ彼を助けられないわ。

私も……いやどういう意味だ?

あのままだと勿体ないって思ってるだけ。

……こちらで考えておこう。
(ホシグマ、シデロカ、スワイヤーの足音)

おーい、チェン。

来たのか。

ちょうど市政府の用事を済ませて出てきたので、スワイヤーさんに呼ばれてご一緒させて頂きました。

なるほど、市長との交渉はどうだった?

チェンさんの一味ということもあって、今回の事件で私たちも貢献があるということになり、すんなりと同意してくれました。

あの人らしいな。

このネズミめ、やっと捕まえたわよ。

逃げてたわけじゃないんだけど。それよりあなた、頭おかしいんじゃないの、スワイヤー。

こっちのセリフよ!

友だちが遊びに行ったことに嫉妬して着いていったけど、着いたら着いたで普通相手を避ける?

アタシがそうしたかっただけよ!

はぁ……

そうだ、Missyが午後一緒に買い物ついでに、お土産を買いに行こうと言ってました、チェン、リンさん、ご飯の後一緒にどうです?

いいだろ。

アンタに行かない選択肢なんてないから。

わかったわよ、どうせこっちももうやることないんだし。

では先にご飯食べに行きましょ。

ん?

龍門の皆さん、はい、ポーズ取ってください。

どうしました?

写真として残すにはうってつけのシーンに見えましたので、一枚撮ってあげます、今回のバカンスの記念として。

いいじゃない、ほら、アンタ、写真撮るわよ、ちゃんと立って。

……はぁ、もう好きにして。

あはは、小官ら四人が集まるなんて滅多にありませんからね、一枚ぐらい撮りましょうよ、チェン?

ああ。

はい、3、2、1、チーズ!
(写真撮影の音)
ドッソレス産のコーヒーはどれも独特な香ばしさを持つ、そのうちの最高級の一品は、特に濃厚な香ばしさを放つ。
口に入れるまでは、香りしかなく、口に入れた時は、苦みしかない。しかしほんの少し経ったら、その美味さは舌に満遍なく広がっていく。
苦いが渋くなく、香ばしいが飽きっぽくなく、とめどなく味わい深い。どんな好き嫌いが激しい評論家だとしても、その逸品から瑕疵を見つけ出すことはできない。
さらにはリターニアの一部の貴族の間で、このような競い合いがある――ドッソレス産の絶品コーヒーを得た者こそ、現地の社交場での絶対的な発言権を有することができると。
そしてその希少なコーヒーの一部は、今、静かに龍門総督ウェイ・イェンウーの手元にあるコップの中で熱気を漂わせている。

ユーシャちゃんが書いた今回のドッソレスでの報告を読んでいるのですか?

ああ。カンデラにはもう長い間会っていないが、相変わらずのようだ、常軌を逸している。

自分は彼女とは違うとでも言いたいのですか?

もちろん違うとも。

あちらに寄越したトランスポーターによると、ユーシャちゃんもチェンちゃんも、今回かなり活躍したらしいじゃないですか。

なぜスワイヤー家のお嬢さんとホシグマもそこにいるのかはさておき。

確かに二人とも見事だった。

だが、彼女ら自身あまりいい気分ではないだろうな。

どうしてです?

カンデラは彼女らに手出しはしないと君は言ったな、それは私も同意見だ。

だがあの女の善意というものは、彼女たちからすればまだどう受け止めればいいか分からんものだ。

あの女にとって、是非などなく、あるのは結果のみだからな。

つまりチェンちゃんとユーシャちゃんを送りつけるべきではなかったとまだそうやって遠回りに私に言いたいのですか?

いいや、その逆だ、君の言う通りだった、世間への視野を広めることに、悪いことなどない。

あら、褒めてくれるなんて珍しいじゃない。

でしたら、いいモノが今手元にありますよ。

なんだ?

ユーシャちゃんが送ってくれた写真です。

……

ほら、若いっていいですね、みんなとっても元気溌剌で。

私たちもこんな時期があったんですよ、憶えていますか?

もちろん。

チェンちゃんの元気な姿を見れて、ホッとしました。

この写真を額縁に入れて、ちゃんと保管してあげないと。

君が嬉しそうで何よりだ。

イェンウ。

ん?

チェンちゃん、帰ってくると思いますか?

帰ってくるさ。

ならよかった。