“冬眠する山が高い煙突を背負って”
“ガラガラと履帯が我が家を引きずりながら走っていく”
“排水溝で錆びた釘が打たれたドングリを見つけた”
(部隊の足音)

こちら倉庫に侵入した。偵察班、状況報告を。
(無線音)

隊長、南東方向に生命体の痕跡あり。そちらから棚七つ分先の距離にあります、活動範囲は一メートル。

数は?

一人です。

源石反応は?

まだ発見してません。

よし、各自ポジションに就け。
(無線音)

バグパイプ?

ラジャー!

なにを探してるの?

隊長、なんか歌声が聞こえませんか?

ちゃんと集中して。それはターゲットが油断してるってことよ。

作戦プラン通りに行くわよ、私が合図を出したら、あなたが突入して。それじゃ、行くわよ。

5、4、3……

よーい――
(爆発音)

遮蔽物を破壊!

うわ――

ゴホッゴホッ……な、なんだ?急にすげー煙が出てきた!

動くな!その場で両手を上げて!

なっ……なっ……お前ら……ヴィクトリア兵か?

なんでウチらをそう呼ぶんだべ?あなただってヴィクトリア人でしょ?

くっ……

逃げるつもりだわ。チェロ、取り押さえて!

隊長、あの人出口に向かわないで、逆の方向に走っていきましたよ――

!!

トライアングル!ターゲットが後ろの棚に突っ込んでいった!源石反応を探知したら、すぐにクロスボウを撃て!

そのほかは、私の盾の後ろに集合して!

はやく!!
(部隊の足音)

バグパイプ、なにしてるの!?

―
(バグパイプが青年を取り押さえる)

取り押さえた!みんなはやく逃げて!

あなた――

――!

隊長、源石反応はなし、バグパイプが抑えているあれは爆弾じゃありません。

ふぅ!ビックリしたぁ。

……ターゲットは?

すいません、ちょっとタックルが強すぎました。しばらく起き上がれないみたいです。

じゃあここにある箱って……

見てみますね、全部ジャガイモにニンジン、それにカリフラワーまでありますよ!でもウチのせいで潰れちゃった。勿体ないなぁ、みんな美味しそうだったのに。

……

引き続き警戒して。

これと、これと、それとこれ……全部一緒だ。隊長、この倉庫内にあるの全部食料ですよ。

トライアングル、ほかに接近してくる人がいるか周囲を警戒しておいて。

オーボエ、バグパイプと一緒に倉庫を調べて。なにかあったら連絡を。

チェロ、地面に倒れてる人を縄で拘束して。

うう……

ちょっといいですか、少し聞きたいことがあります。

お、俺はなにも知らねぇよ、毎日ここでジャガイモを摺りつぶしてただけだ。

あなたはモナハン町の住民ですか?

そうだ……

じゃあゴースト部隊を聞いたことはありますか?

ゴースト……なんだ?は、はは……部隊ってお前らのことだろ?

ローリーを、ジュリアとクリスたちを連れ去っていったのも……今度は、俺の番だってか?

落ち着いてください。

聞いてください。昨晩この倉庫に源石製品が送られて来たという目撃情報があるんです。しかし今それらしきモノが見当たりません。それについてお聞きしたんです。

聞く?俺の首に縄をかけるんじゃなく、本当にただそれを?そ、それは……ペッ。

こら!なんでツバ吐いた?地面を汚したらダメだべ!

なにか見つかった?

いいや隊長、どこもジャガイモだらけでした。もし情報に間違いがなければ、アイツらもかなりはやくから動いてましたよ。

わかった。

彼を連行するわ。きっとなにか知ってるはずよ、まだ話したくないみたいだけど。

だから……お前らも同類だって言ってんだよ!俺たちの落ち度を見つけ出すことばかりに脳みそを回して、俺たちを痛めつけやがって……このヴィクトリアの人食いどもが!

なに?また?この人はヴィクトリアの同胞をヴィクトリア人って言えば侮辱になるとでも思ってるの?よく分からないべ。
(無線音)

隊長、誰か来ました。

人数は?

(散開するわよ。)

(了解です、隊長。)

それが隊長、身内のようです。
(足音)

ここにいたか。
(部隊の足音)

……

(隊長、囲まれましたよ。)

(頭数で言えば、ね。)

(話し声を聞くに、外で待機してる人はそう多くないみたいです。私が壁を壊せば、まだチャンスがあるかもしれませんよ!)

(いいから静かにして。)

どうやら先ほどまで熾烈な戦いがここで起こっていたようだな。
(ホルンの足音)

第七前線歩兵連隊、第二ストーム突撃部隊隊長のリタ・スキャマンダーです。

御機嫌よう、スキャマン……スキャマンダー中尉。

覚えづらい名前をしておりますので、ホルンとお呼び頂いて結構です、大尉。

そうしよう、ミス・ホルン。私はケリー、ルイス・ケリーだ。申し訳ない、こちらはあまりコードネームでの呼び合いに慣れていなくてね。

ケリー大尉、大尉たちもこの倉庫を調査するためにやってきたのでしょうか。

そうだ、こちらも情報を掴んでいたのでね。

では事の重大さにお気づきかと思います。多数の非合法源石製品が、何者かによって二か月前に軍用輸送通路で窃盗され、ここら一帯で消息を絶ちました。

オホン……

こちらが言わなくともお分かりでしょう、大尉。あれだけの武器と、近頃周囲の町から窃盗されたモノも加えて、もしすべて犯罪者の手に渡ってしまえば、モナハン町が受けた以上の脅威を受けることになります。

……なるほど、説明してくれたありがとう。理解したよ。

ご協力頂ければ幸いです。

ヒール!

ここに。

この若者……容疑者を軍営に連行しろ。

え?その人はウチらがせっかく見つけた手がかりなんですよ!

長官、彼女が我々の任務を妨害しておりますが。

ふむ……

……

バグパイプ、手を放しなさい。

けどウチらの任務は――

――今私たちがいる場所はモナハン町なのよ。
ケリー大尉はポケットからハンカチを取り出し、額の汗を拭きだした。

協力してくれて感謝するよ、中尉。あなたとそちらの若いヴィーヴルのレディ、それとほかの方たちも……

オホン、わざわざロンデニウムから駆けつけてくれたのだ、さぞかし困難な道のりにお疲れなのだろう。

ヴィクトリア軍人として当然の責務を全うしただけです。

そうだな。では、もしまだモナハン町で活動を続けたいのであれば……

引き続き源石製品が窃盗された案件の調査にあたります、これはロンデニウムからの命令でもありますので。ハミルトン大佐もご理解頂けるでしょう。

もちろん、もちろんだとも。私たちと一緒に軍営に戻ることも可能さ。

隊長、本当にターゲットをコイツらに渡すんですか?コイツら絶対わざとですよ!ウチらが町内に入ってからつけられてましたって!

そんでウチらがとっ捕まえた今――

「帝国駐留軍は駐留地で発生した公共安全に危機を及ぼす事件に対して責任を持って対応する。」

彼らは規定を違反していないわ。

はぁ……わかりました。

大尉、その人はそちらに引き渡します。規定に従って、こちらにはまだ尋問に参加する権利が残されています――どうかお忘れなきよう。

あ、あはは……もちろん規定通りに。

い、いやだ……放せ!やめてくれ!

フッ……

た……助けてくれ!俺はなにもしてねぇ……なにも知らねぇんだ……

あああああ!
(ヒールが青年を殴る)

ヒール……

どいつもこいつも騒がしい連中だ、タラトのクズどもは。

……連れて行け。

えぇ、なんだべさあの仕打ち!

(隊長、なんか……あのフェリーンの若者、ウチらに助けを求めていたようでした。アイツらに連行されていく事を怖がっていたような。)

(……)

(トライアングル?)

はい、隊長。今外の樹上のいつもの位置にいます、気付かれていません。

(結構。偵察班を連れて、引き続き輸送通路沿いに付近を調査して。なにかあればすぐに報告。)

了解。隊長、軍に通報を入れますか?

……

いい。

……自分の安全を最優先にしなさい。