
これはこれは、お会いできて光栄です、パーティはすでに準備できて――

遅い。あんたたち貴族って、いっつもやることがグダグダね、イライラするわ。

……こちらの用意が行き届いておりませんでした、誠に申し訳ない。

もういいわ。それより今日は何人来てるの?

モナハン町にいる有識者なら全員招待状を受け取っております、最近人気を博してる大詩人、あのサイモン・ウィリアムズも……

詩人?なんだかつまんなそうね。探すって約束した貴族と商人たちは?

もちろん……もちろん探しました、彼らも来て頂けますよ。

たとえば南部にある紡績産業の先駆けであるボレイ爵士や、マッコイ賞を受賞したバシール医師、それと鋼鉄工場を数十軒も持ってるミスター・エヴァンズも……

へぇ?その人たち、特に最後の、みんな確実に来てくれるんでしょうね?

もちろん、一部はすでに到着されております。

重要なお客人がいらっしゃると聞きつけ、まだまだたくさんの有識者たちがほかの都市からわざわざ駆けつけてきています、みなあなたとあなたの同伴者たちをぜひ一目でもお目にかかりたいと思う一心で。

そうだ、そちらの要求通り、リストを作りました、お好きな時にご覧になると――

話は多いけど、そこそこ働いてくれたわね。もういいわ、あんたは下がってちょうだい。

お褒め頂き至極光栄でございます。ご用意ができましたらお知らせくださいませ、私の質素なホールがあなたの到来で燦燦と輝きを増す場面を今か今かと待ち望んでおりますので。

なにを突っ立ってるわけ?話はもう終わったんでしょ?

オホン、どうか最後に一つお聞かせください――あの最も高貴なるお方、彼女がこの場にいらっしゃる可能性は万に一つもございますでしょうか?

……あんたにそれを聞く権利なんてないわ、とっとと消えなさい。
(緑髪の女性が寄ってくる)

マンドレイク、なんかイライラしているようだね?

うるさい、あんたは相変わらず胡散臭いわね、吐き気がするわ。あのアヘモニーが本心で人に関心を寄せたりなんか絶対しないことぐらい誰だって知ってるんだから。

はぁ、じゃあ言い方を変えるよ――バカみたいにチラチラ歩き回らないで、影が出来てるのよ。今こっちは愛らしい小説を読破しようとしてるのに。

チッ。

あんたたち金持ちってみんなそんな感じなの?

楽器をあるだけ置いといて、本を何冊か買っちゃって、表ではパンパンに敷き詰めてるように見せてるけど、スッカラカンで中身のない頭を他人に見せようとしない。

表だけでも敷き詰められるのなら、中も外もスッカラカンよりはマシでしょ?

なんですって――!

どうどう、そうカッカしなさんな。その様子じゃしばらく経ってもムカムカしっぱなしね。じゃあこうしようか、そんなに舞踏会で先にどちらの足を出せばいいか分からなくて悩んでいるのなら、私がリードしてあげよう。

ふざけてんじゃないわよ!

私は今重要なことを必死に考えてるの。今回は大勢の貴族や豪商が来てる、もし彼らの支持を得られれば、モナハン町を占領するどころか、ロンデニウムを手に入れることだって――

マンドレイク、そこまでにしなよ。

こっちのセリフよ、あんたこそいい加減本を置いたら?ちゃんとリーダーと私たちのために脳みそ動かしてるの?

君のあたふたしたその足どりを言ってるんじゃない。私が言ってるのは、そのでたらめと君の小さな脳みその中で練り込んでる荒唐無稽な計画を考えるのはよしなさいってこと。

ここでやめろって言うの?それはできない相談ね!この計画のために、人員を配置した時から、この気持ち悪い集会に我慢して参加した時まで、私がどれだけ心血を注いできたと思ってるのよ?

こっちはもう我慢の限界なの、今すぐにでもダブリンの炎がこの都市を焼く尽くすところを、私たちの足元にあるこのウソまみれの虚像を引き裂くところが見たいのよ!

それに比べてあんたはどう?あんたとあの恥も知らずに本来リーダーに属する栄光を手に入れた偽物は――

いやホント、いい加減にさ、黙りなよ。

君はいつから――リーダーに成り代わってあれこれ決めつけれるようになったんだい?

……

チッ――
(無線音)

ああ、私だ。そうだ、まだここにいるよ。

へえ?

ようやく面白くなってきたね。
(無線が切れる音)

どうやらここで君のリスキーな計画についてあれこれ論じなくて済むようだよ。

アイツから情報が来たの?

何者かがここを見つけたっぽい。今晩の集会に来た面々だけど、どうやら君が招待したお友だちだけじゃないみたいだね。

……軍の人?

そんなものかな。となれば、私の知人も来てるかもしれないね。

チッ、できることなら今ここで――

アーツロッドは仕舞っておきな。チャンスならいくらでもあるさ。でも、今じゃないよ。

私はそろそろ行くよ、ほかにやることがあるから。ここは彼女に任せるよ、もしかしたら面白いものが見れるかもしれないよ。

ふふ……この厭味ったらしい部屋がズタズタに引き裂かれる場面が見えてきたわ。

隊長、まさかこうも簡単に潜り込めたとは予想外でした。てっきり……

潜入の方法?できないわけでもないわ。ただ、正面から入りたいのなら、話が通じる人がいれば簡単よ。

どうやら同じ軍にいるウチの友だちはめちゃくちゃ貴重な情報を持ってましたね、この集会を知ってる人なんてめったにいませんよ。

恥ずかしがり屋な貴族ならいつもこういう方法で集会を開くわ――昔から招待状を送るのは俗っぽいと考えてるからね。

情報を知れるツテやコネ、それと身分を証明できるものさえあれば、ここの扉をくぐる資格を得られる。

隊長、隊長の家があんな有名な貴族だったなんて聞かされませんでしたよ。

そんな困る話?

学校内じゃ、貴族出身の学生同士でいつもグループを作るんですよ、勉強だってもちろん一緒だし、放課後もウチらのとこに混ざってくるなんてことはめったにありません。

まさかあなたあんな繁文縟礼が好きなの?一度しか着ないドレスに、毎週コロコロ変わる流行りの化粧、うわべだけの美辞麗句ばかりじゃない。

隊長、やっぱりいいです、実は以前仲いい友だちと一緒にこういう場所に一二回ほど行ったことあったんですが、ご飯を食べるだけでも先にどのフォークから使うべきとかで、思い返すだけで頭が爆発しそうです。

ならよかった、私もああいうのは好きじゃないもの。

ただいくら嫌っても、この生まれ持った名字もたまには使えるって認めざるを得ないわね。

隊長、今日ここに集まった人たちって、みんなゴースト部隊の支持者なんでしょうか?

……そうとは限らないと思うわ。

ウィリアムズ先生、ようやくお目にかかれたわ!先生がいらっしゃると聞きつけたものだから、わざわざペニンシュラから参りましたのよ、私が大切にしてるこの詩集にサインを頂けないかしら。

もちろんです、マダム、光栄に思います。

サイモン、私が最も愛する大詩人よ!ここにいらしたか。

さきほど新しく出た歴史小説を読破したよ。とても面白い話だった、それに初めて知ったよ、我々タラト人にはまだこれほど数奇な過去があったとは。

ありがとうございます、民間伝承をもとに改編した妄想の一作に過ぎません、私の仕事の最たる価値とは埋もれた宝を一角でも掘り出して、より多くの方々にお見せすることですから。

ご謙遜なことを。先生が書き連ねたあの輝かしいタラトの文化を創造されたドラコのゲール王は、とても英明でいらして、夢の中にまで現れるほど胸にしみましたわ――

その通りだ。私からしたら、君はレターニアの最も偉大な音楽家同様、一つの時代を造り替えることも可能だ!

あはは……そこまで言われると些か誇張が過ぎますな。

そちらにその気があれば、ヴィクトリアにあるすべての出版社は君のために門を開こう、みんな君の作品を各言語に翻訳することを待ち望んでいるさ。

その時になれば、この大地にあるどの国家も気づかされるはずだ、我々のタラト文化には独自の魅力が存在すると、ヴィクトリアの永遠に変わろうとしない機械の轟音に埋もれるべきものではないと。

本当にそうなればどれほど素晴らしいことか。もしこれからより国際から多くの支持を集められれば、わたくしたちの声も公爵たちや議会へ届きやすくなるわ。

その通りだ!同じヴィクトリア国民だというのに、私の曾曾曾祖父がゲール王の臣下だったというだけで、普通より遺産相続税を多めに支払ってるんだ、馬鹿げてるにもほどがある!

だとしてもミスター・エヴァンズ、あなたは惜しみなく多くの同胞たちを雇って、皆にこの優雅な町で足場を定めるチャンスを作ってあげてるじゃないの。

あなたとあなたのご家族は我々タラト人にとっての誇りよ。

あはは、そうとも、我々の同胞がまともな仕事を見つけるのは容易ではない、聞いた話によると工場でせっせと働いても、これっぽっちの金しか得られないそうじゃないか。

……しかしほか出身のヴィクトリア人労働者なら、あなたの工場ではその二倍ほどの給料をもらっている。

オホン……

この場に相応しくない言動をまず許して頂きたい――強大な隣国に認めてもらうことなど、そう容易いことではなかろう?

考えてもみなされ、音楽と詩歌だけで、リターニアはどうやって今日のリターニアへと成長できたのだ?

恐ろしい術師がいたからではないか――

我々タラト人が多くの国家から承認を得るためには、どうしても現実的な力が必要なのだ、たとえば遠方からいらした友人方による……技術支援とか。

奇しくも私はちょうどそんなスポンサーとのコネクションを持っていてね、この場を借りて男爵閣下及びそのご友人方と喜んでシェア致そう。

はは、仰る通りだ!どんな支援も重要なものだよ、両手が手ぶらの状態なら、いくら舌が回ろうと渇きによって意思表明できない日がやってきてしまうからな。

どうやら私もこの場にいる皆さんも同様に、新しい時代を渇望してらっしゃるな――では、同じ夢に乾杯でも如何だろうか?

本当に心躍る夜ですわね……あら、ウィリアムズ先生はどちらに?
(ホルンの足音)

こんばんは、ミスター・ウィリアムズ。

こんばんは、レディ。

お邪魔してなければいいのですが。今創作してらっしゃるのですか?

あはは、ちょっとした詩です、もう何日も経ってるのに、未だ完成にこぎつけなくて。

今回の集会でインスピレーションを得られると思ってましたが、どうやら、無理をしても出るものは出ませんね。

同じ場面ばかりですと過剰に気力を削いでしまわれますからね。ミスターも少しお疲れなのですか?

あはは……バレてしまいましたか。チャールズ――あの男爵様があれほど熱く招待してこなければ、今頃我が家の暖炉の傍で本を読みながら夜を過ごしてたかもしれません。

誰も同じことを考えてると思いますよ。こういう類の活動に参加してる人は、みなやむを得なかったからだと思います。

それを言ってもらえると助かります。まさかとは思いますが、タラト人ではありませんね?

そのまさかです、この一帯の住民の中でループスは珍しいかと。

あはは、種族で出身を憶測するつもりはありませんよ。

あなたはあえて私たちが使い慣れてる語句を選んで話されてますが、それでも訛りで分かります――ロンデニウムの伝統的な教育を受けたヴィクトリア貴族にしかない訛りですね。

さすがは大詩人、鋭いですね。

創作の第一歩は観察ですからね。そのほかにも、あなたはここにいる者たちとは違う目的でいらっしゃったのではないでしょうか。

私を疑ってると?

なにを疑うというのです?私がここに来たのは、異なる考えや思想と交流したかっただけです、そしてあなたは今こうして私と交流してくださってる。

私がタラト人でなくてもですか?

あなたがタラト人じゃないからですよ。

麦芽酒を一杯、どうも――なにか飲まれますか、レディ?

結構です、窓辺で風に吹かれれば十分ですので。

では愉快な談話を続けましょうか、どこまででしたっけ?

ああそうだ、言語と文字は交流するために生まれました、過去や未来の対話、今ここであなたと私の談話も含めてね。

私に配慮なさってるのですね。もしそちらがタラト語を話されたら、こちらはもうチンプンカンプンです。

あはは、この会場でタラト語はそうめったに聞けませんよ。

今しがた思い出しましたが、私が読んでたあなたの作品は全部ヴィクトリア語で書かれてました。

韻を無理に踏むと詩人の想像力は制限されてしまう。ヴィクトリアの詩をリターニア語で読んでも味は出ません。

私は古タラト語で書かれた詩が好きなんです、それらの文字を読んでいると歴史の別の一面に触れているように思うからです。

しかしだからといって自分を偽りたくはありません。

私は小さい頃からヴィクトリア語を喋りながら育ってきました、ですので私の思想もその言葉に固められています、もしタラト語で創作を始めれば、左右不揃いの靴を履いたピエロになってしまいますからね。

たくさんの人がタラト文化の復興を願っていると聞きましたが――

もちろんです、私もその一員ですよ。

私たちの都市は大地を流浪し続けてきた、この土地は不変であるが、いつ時でも変化が生じているのです。

もしかしたらいつかタラト語は私たちの下の世代の脳内を構築するための言語になるかもしれません、私も喜んでその変化を受け入れるつもりです。

もし――何者かがその変化を急速に、果てには今ある形勢を逆転してでも爆発させようとしてるとしら?

――

「思想に何の意味がある?君は土に羽を埋めて、それを一羽の羽獣に成長すると想像しているのだ。」

……あなたが初めて出版された詩集からの一文ですね、一番好きな一句です。

その問いに対する私の答えがそれです。

この土地を変えることなんて私にはできませんし、したくもありません、私はただその羽を埋めた人になりたいだけなんです。

思想とは本来なら何者にも干渉されない、自由なものであるべきです――一人一人の心に生まれた羽獣が異なろうと、誰しもがこの土地の未来に異なる期待を抱いていようともね。

なるほど、ミスター・ウィリアムズ。

本心からの言葉です、あなたとお話できて本当に楽しかった。
(バグパイプが駆け寄ってくる)

隊長、なんか様子がおかしいです。

どうしたの?

チェロたちが四十分過ぎてもまったく連絡を送ってきません。

軍営で駐留軍の相手をしてるはずですよね?隊長も30分ごとに必ず一回は連絡を入れるように指示を出してます。ウチらが出発した時、チェロなんかつまらない任務だって文句を言ってましたよ。

……

それに……なんか周りが静かに思いません?

ウチ窓辺で見張ってたんですけど、広場は人で賑わってました。けど急にですよ、なにかが起きたようで、みんなどっか行っちゃいました。

まさか、この前私たちの後をつけてた人って駐留軍の……
(ヴィクトリア兵が扉を蹴り開く)
その時宴会の扉が忽然と蹴り開かれた。
全身武装された数十名の兵士たちが突如入り込んできたのだ。
(軍隊の足音と参加者達の悲鳴)

ちょっと、どういうこと?なんで急にこんな大勢の兵士が湧いてきたのよ?

それにわたくしに武器を向けてくるなんて……わたくしたちの階級が分からないのかしら?

一体誰だ、誰が秘密を外に流した!?

クソッ……さっさとここから逃げねば!

(は、はやくミス・マンドレイクに知らせるんだ、緊急事態だと……)

(なに!?もう全員いなくなった?いつからだ?一時間も前からだと!?)

(この役立たずが……!)

全員そこを動くな!

――

紳士淑女諸君、そうだ、諸君らを――全員ここで逮捕する。