(ジェニーが駆け寄ってくる)

ただいま、パンとキレイな水を持ってきたよ、クレイグくんも夜ずっと走り回ってたから、たくさん食べてね……

あれ、みんなどうしたの?何か……起ったの?

……

……こいつだ!こいつがヴィクトリア軍に情報を流して……シアーシャを殺したんだ!

……な……なにを言ってるの!?!?

シアーシャ……シアーシャがどうしたの!?

彼女がどうしたかって?死んだんだよ!この性根が腐ったヴィクトリア兵が、彼女に近づいたのも、情報を聞き出そうとしたからだろ?

それが今じゃ彼女は殺された――これで満足か!?

私は……

そんなこと……

どうしてこんな……

ごめんなさい……ごめんなさい……シアーシャ……

そんな涙さっさとしまえよ、お前が彼女のために悲しむ資格なんかねぇんだよ!ここに……立っていることもな!

私はずっと誠実に彼女と……

誠実だぁ?ヴィクトリア兵が、俺たちタラト人に誠実を語るか?

笑えるジョークだなぁ!

私たちはみんな……同胞でしょ?

同胞?じゃあお前らは俺たちを一度でも同胞として扱ってくれたか?

俺たちの食料を食ったことがあるか、俺たちの言葉を話したことがあるか、俺たちの苦しみを受けたことがあるか?

でも私はずっとあなたたちの力になろうと……

これ以上近づいてくるんじゃねぇ!その旗を下ろせ、援軍を呼んでみろ、容赦しねぇぞ!

違う……そんなつもりは……

俺たちの土地から出ていけ!俺たちタラト人の故郷に、もうヴィクトリアの旗なんざ必要ねぇんだよ!

……

私を……追い出すの?

……仕方がないのよ。

あんたも見たでしょ……私はなにも間違ったことしてないのに、それでも……あんたたちは私を許してくれなかった……

今思うと、ローナンは正しかった、今の私たちにはチャンスがある、私たちが勝ちさえすれば、もう金輪際私やクレイグにちょっかいを出す人は出て来なくなるのよ……うぅ……

クレイグくん……君もなの……?

……

出てけ!
(ジェニーに石が当たる)

痛ッ……石?
“こいつらの目つきを見たことがあるか?”
“そいつらから見れば、お前がどう思いを示そうと……”
俺たちは同じ人間じゃねぇんだ。

私……全然わかってなかったんだ。

ここから出て行かなくちゃね。
(ジェニーが去る足音)

駐留軍が敗退してる。すぐに半数の街がゴースト部隊に下されたわ。

ウチらが予想してたよりもはやく敗退していませんか!?敵は組織としての練度が低いので、てっきり少なくとも今晩まではもちこたえられるだろうと。

……さっきの駐留軍の動きに気づいた?

はい、本来ならウチらと一緒にスタジアムを守ってましたが、敵が押し寄せてきた時、全員すぐさま後方へ撤退していきました、ウチが何を言っても聞き入れてくれませんでした。

どうやら完全に戦意を喪失してるわね。

そうかもしれません、なんせさっきみたいな状況で、敵が現れた瞬間、避難していた住民たちが屋内からドアを開けて歓声を上げてましたから。誰だってあれを見たら戦意喪失しますよ。

しかしハミルトン大佐は断じて簡単に諦めたりしない人よ、彼はとてもモナハン町を重視してるから。

今の駐留軍は勢いが落ちてる、でも撤退時の様子は敗走してるようにも見えなかった、まだ組織としてまとまっていたわ。

目下の状況がまだ大佐の計画の範疇に収まってて、戦局に打開策を持ってることを期待するしかないわね。

一番近くにケヴィン郡の駐留軍がいます、もし救難信号を出していたら、はやければ夕方には来てくれそうです。

……向こうが最初の信号をキャッチしていればの話だけどね。

それって、通信システムが問題を起こしてるってことですか?

私たちがここに来て三日、未だにロンデニウムから連絡が来ていない、今のモナハン町はもはや陸の孤島になってるわ。
(爆発音と建物が崩壊する音)

――

大丈夫です、榴弾数発と一個小隊程度の雑兵ですよ、ウチが片付けます、ここの市街地はまだしばらく安全ですから。
(爆発音)

バグパイプ……あなたが入隊したての頃の訓練で、私が二時間のウェイト倒立腕立て伏せの罰則を出したことをまだ憶えてるかしら。

忘れるわけないじゃないですか、隊長、ウチにとってああいう罰則はなんともないですけど、ホント隊長のこと嫌いだと思ってた時期がありましたよ。

なぜ罰則を与えたかはまだ話してなかったわね。

実を言うと、あの時あなたが報告してた時に言っていたわ、行軍リュックにこれでもかのジャーキープディングと毛布を入れていたって。

あれですか?隊長、あれは実家の特産品ですよ、しかも結構いいヤツでして。

当時もそう言ってたわね。

ソロでのトレイルランニングテスト当日、帰ってきたあなたはとても飢えていていた、リュックの中には食料が入っていたのに、あなたは一口も食べようとしなかったわ。

……だって勿体ないじゃないですか、訓練期間を終えたあと、自分のご褒美として一番幸せな時に食べようと思ってましたので。

私は昔、故郷にしがみつき過ぎていて、過去に勝てない人は、いい兵士になれないと思っていたわ。

だから、あなたが前衛学校を卒業した時の成績がずば抜けていたとしても、スリム先生が私に精一杯推薦された時は、まだあなたの素質に疑問を抱いていたの。

そうだったんですか!でも隊長、それから結構ウチへの接し方が丸くなりましたよね。

あなたは自分を証明してくれたからね。

徐々に分かってきたの、心のうちに決して擦り減らない執着を抱いていたからこそ、あなたは今日のあなたになれた、私を超えるかもしれない最も優秀なヴィクトリアの戦士にね。
(爆発音)

バグパイプ、これから話のことだけど、よく聞いて――

この市街地はもう放棄するしかないわ、すぐにチェロたちも連れて北東にある第一通信基地へ向かう、ゴースト部隊に占領されてなければいんだけれど。

そしてあなたは、今すぐ中継所に向かってトランスポーターを探して来て、そしてその人のために街からの脱出経路を確保しなさい。

もし道がないのなら、創りなさい。

バグパイプ、今より命令を与える、一切の代償を顧みず、必ずモナハン町で発生した現状を外部に伝達せよ。

めんどくさいなぁ、ほかのみんなはリーダーについていって有意義なことをしてるのに、俺は掃除だけかよ……

ていうか、どこもかしこも戦争してるのに、リーダーはなんで俺にこの彫像周りをキレイに掃除させるんだ?
(ジェニーが忙しない青年に近寄る)

ん?なんだお前……俺の手を掴んで何するつもりだ?

……

……ここはシアーシャが亡くなった場所?

シアーシャ?リーダーに処された裏切者のことか?そうだよ、全部あいつのせいだ、大人しく死んどけばいいのに、まだ俺にこの灰を掃除させやがって……

じゃあ、あなたが今掃いてるのって……

ただのゴミだよ。

……違う。

彼女は……彼女はいい子だった。家族にも、友だちにも……すごく親切だった、この町のために……すべてを捧げてきた。

ねぇどうして?彼女は一体……何を間違えたっていうの?恋愛小説を読んだだけで泣きそうになるような人が、人を傷つけるわけないのに……

お前……頭おかしくなったのか?

お前、この裏切者に同情してるのか?お前は一体なにモンだ!?

彼女は裏切者なんかじゃない。彼女の名前はシアーシャよ。

こんなとこで孤独に眠るべきじゃない。私が家に連れて帰る。

…………イカレてやがる、俺はもう行くからな。
(忙しない青年が立ち去る)

向こうでなにか起ったのか?

兵士さん!なんか変なヤツがいました、そこで跪いて、ずっとなんか裏切者を家に帰すとか言ってましたよ、あいつ絶対敵か裏切者ですよ!!

わかった、よく報告してくれた。
(ダブリン兵がジェニーに近寄る)

おい、何者だ?

……

(……シアーシャ、あなたも私も、間違ってたのかもしれない。)

(あたなは命をかけてこの人たちを守ってきた、けどその人たちはそんなこと構いなしに暴徒を喜んで受け入れた。この町がこんな風になったのも、彼らが一因だわ。)

……お前は向こう側の人か?

向こう側?もう自分がどっち側に立ってるかなんて、わからないわよ。

動くな!ピクリとも動いたらその脳みそを――
(ダブリン兵が斬られ倒れる)

……これで何人片付けたっけな。
(爆発音)

ゴミムシどもめ……フッ、まあ今は撤退してるんだ、片付けられるだけ片付ければいい。

おい、そこのヴィーヴル、ゴミムシどもを見かけなかったか?

(……ゴミムシ。)

(あいつらはシアーシャをゴミと呼んだ、だからゴミムシ同然ね。)

……あっちのほうに逃げて行ったわ。

よし、今すぐ向かおう――
(ヴィクトリア兵が走り去る)
私は住民たちの叫び声を聞こえていたが、聞こえないフリをした。
ただシアーシャを連れて帰りたい一心だった、けどどんなに指に力を込めても、灰はその隙間から零れ落ちるだけ。

シアーシャ……
一本の腕が私に差し出された。

そろそろここを離れよう、ジェニー。

さあ、レモンティーだ、まずは身体を温めよう。

うぅ……

泣きたければ泣くといい。

……泣けないの。

君から怒りを感じるよ、彼らを恨んでいるのかな?

たぶん……

君は暴徒を支持するタラト人を兵士に捕らえさせた。少しはスッとしたか?

……ううん。

たぶん、私は彼らより自分を憎んでるんだと思う。

もし……私があのメモ書きを置かなかったら、シアーシャは死なずに済んだのでしょうか?

私はただこれ以上大きな衝突を止めたかっただけなのに……一歩踏み出せば、変えられると思ってたのに……

人が願った分だけ運命をコロコロ変えられるのであれば、それはもはや運命とは呼ばないさ。

ジェニー、一つ昔話をしてあげようか?

どうぞ、頑張って聞きます。

では始めるよ。

数十年前、君と変わらない歳だった頃、いや、少しだけ年上だったかな、当時の私はまだ教会に務めていた――

全然あのラテラーノ修道士には見えませんけど。

歳月と経験はいつも簡単に人を変えられるからね。

あの頃、ある戦争の調停を命じられたんだ。双方が誰と誰で、どういう理由で争いが起ったかはもはや重要じゃなくなった、あの戦乱を引き起こした張本人もすでに土に還ってるかもしれないしね。

ただ憶えているのが、ある町が私の助けを求めていたことだ。私は彼らに武器を下ろすよう諭した、町を包囲していた向こう側の代表と講和させるように、私は仲介者として真ん中に立った。

けど町にいる人たちはそれをよしとしなかった、なぜなら暴政に屈することを意味するからね、だから私は少しだけ過激な方法で彼らを説得させた、けどそれでも意見は一致しなかった。

私は失望しながらその町を去った、抵抗を諦めた数人を連れてね、そして私が去った翌日、その町は攻め入られた。

町に残った人たちは、ほとんどが死んだよ。

彼らの中には、死ぬ間際になっても私が彼らを守ってくれると思っていた人たちがいたんだろうね、けど私は守らなかった。

結果から見るに、私はむしろ町を攻め入る側に立ってた、私は彼らにあたかも希望をもたらした悪意ある二枚舌の人間だったんだ。

そんなことありません!

どうだろうね。

その後、私は枢機卿の命を放棄し、ラテラーノを離れた。

あなたはもう十分力を尽くしたじゃないですか……

そうかい?じゃあもし私がそこに残り、力を尽くして虐殺を阻止していたとしたら?

一人も救えていなかったでしょう。

もしかしたら、最初から非現実的な希望を抱くべきじゃなかったのかもしれない、町を攻め入る命令を出した悪党に鉛玉を一発ぶち込めばよかったかもね。

それですと……別の結果をもたらしませんか?

銃を撃つまで、撃ったあとの結末を教えてくれる人なんていないさ。

では別の結末をもたらすのなら、終始傍観に徹し、再三起こる悪行を野放しにすればよかったのかな?

……そんなこと私にはできません。

あなたの言う通りです。どんなに自分を問いただしても……私はもう後悔しません。

バグパイプ……どうか間に合って。
(無線音)

トライアングル?

ちょうどよかった、今から第一通信基地に向かおうとしてたところよ、あそこならそっちからでも近いでしょ、だからそっちはもう町に来なくていい、直接郊外で落ち合えば――
(銃声と爆発音)

……隊長。

どうしたの!?なんか様子がおかしいわよ、負傷したの?

はぁ……問題……ありません……はぁ……いや、問題はあるんですけどね。けど私のことは一先ず……置いてください。

隊長、こっちはもう時間がありません、けど探してたモノを見つけました。

あの源石製品は、砲兵営に送られていたんです。

砲兵営!?それって駐留軍の砲兵営?
(銃声と爆発音と無線が途切れかける音)

はい、間違いありません、私たちも今そこにいますので。

駐留軍軍営はすでにゴースト部隊に攻められたの!?

正直言ってよくわかりません。

それともう一点、見つけた源石製品ですけど、全部改造を施されていました。

どんな風に?

一部に手に入れましたが、構造に欠陥がありました、活性源石の部分が取り除かれているんです……隊長、ウェアハウス町での連続爆破事件を憶えてますか?

犯罪組織の人間が政府に報復するため、大量の不完全燃焼爆弾を製造し、中枢区画で深刻な源石粉塵汚染を引き起こした事件のことね。

そうです……はぁはぁ……もうわかりますよね。

やばい、囲まれた……こりゃもう隠れられないな……
(無線が途切れかける音)

ドラムは?ほかのみんなは!

ドラムは……隣にいます。ボウガンの矢で心臓を貫かれたんです……まあ、苦しまずに逝けたんでよかったですよ。ベースとマンドリンはまだ倉庫の中にいます、申し訳ありません、一緒に連れ出せませんでした……

……

あなたは十分に尽力した。素晴らしい班長だったわ。

……そうですか?でも、隊長には敵いませんよ。
(クロスボウの射る音)

隊長、この敵……なんか変なんです。見た感じ私たちと同じ武器を使ってるようなんです。それに聞き覚えのある指令も……

私たちの敵って……一体誰なんですか?

……

それは重要じゃない、トライアングル、絶対に生きて帰ってきて、いい?これは命令よ!

はは……わかりました隊長、憶えておきます。
(砲弾が落ち、爆発する音)