
いるのなら、姿を見せなさい。
(ヒール副官の寄ってくる)

スキャマンダー中尉。

私の部下はどこ?

部下ならこっちにいます。ご安心を、気絶しただけですので。

チェロたちのことじゃない。

誰を指してるかは分かってるでしょ。

――
(盾をヒール副官に押し当てる)

私に剣を抜かせないで、さもないと、今あなたの顎に当ててるものが盾じゃなくなるわよ。

ぐっ、ゴホッゴホッ……剣を抜けば、味方を襲うことを意味しますよ……

フッ、味方?

私たちがモナハン町に入った時から、いつから私たちを味方として見てくれた!?

答えろ!!!

うぐッ――

たとえ……中尉が……ここで私の喉を掻っ切っても……大佐のご決断を……変えることはできませんよ……

そう?

ストーム突撃隊の戦士たちがどこまでやれるか、あなた本当に知らないのね?

トライアングルはそっちにどれだけの損害を生じさせた?連隊の半分?

ここには私一人しかいないわ。でも、約束してあげる、あなたたちを片付けるのにそれほど時間はかからないわよ。

ぶ、武器を下ろせ!

さもないと、こ……こいつを殺すぞ!

……チェロ。

……

こっちは本気だ!少しでも動けば、すぐこいつの首を射貫くぞ!

…………

いいわ。

あなたたちの勝ちよ。
(ホルンが武器を放棄しヴィクトリア兵が駆け寄ってくる)

彼女を取り押さえろ!はやくしろ、まとめてかかれ、これ以上盾と剣に触れさせるな!

ヒール……ハミルトンに伝えなさい……

お前はヴィクトリアの恥だってね。
(ホルンが取り押さえられる)

……大佐にヴィクトリアからの感激など必要ありませんよ。

資料はもう片付けたかい?

はい、Outcastさん、全部ここにまとめてあります。

よろしい。

オリバー、確かさっき連絡を出したね。

提携企業は全部通知を受け取りました。提携内容に従い、今後彼らは付近にあるほかの都市に事務所を置くか、あるいは契約を切ることになってます。

はぁ、これだと、こっちの損失も結構大きいですね。

戦乱で損失を被ってる企業はロドスだけじゃないさ。

それもそうですね、仕方がない、ただここにあるデスクとか椅子を見ると心が痛むんでさ。当時俺がモナハン町に来たばかりの時、部屋はがら空きだったので。

オリバー、別れを惜しむにはまだはやいよ、すぐに戻ってこないとは限らないだろ?

そうですね。はぁ、この町がまたいつものように穏やかになってほしいもんだ。

……倉庫の薬、整理終わりました。

ではその薬たちを小分けにしてくれ、無事一番近い事務所に移るまで、全員十分な量を携帯できるようにするんだ。

小分けにしても、まだたくさん残りますよ。

全部持ってくと負担になるな、なんせこっちはそんな人数がないんだし。

シュレッダー、君は寡黙だが、自分の考えを持ってるようだね。

……町にいる人たちは、薬を必要としてるはずです。

それは奇遇だ、私もそう考えていたよ。一旦戦火が蔓延れば、それそれの基礎的な配給の援助要求が発生してくる、特に長期的に服用しなければならない鉱石病の鎮痛剤と抑制剤をね。

付近にある病院のリストは持ってなかったかな?

……もうリストアップしています。

どうにかしてそこに薬を届けよう。そこの機構が誰のためにあったとしてもね。

そうだ、路地で開かれてる小さい診療所も忘れないように、そこは大きいな看板を掲げてはいないが、現地にいる大勢の人たちはみんなそこを頼りにしているからね。

Outcastさん、本当にそれでいいんですか?普段俺たちは現地の製薬企業を経由せずに、医療機関や個人に薬品を提供することはしないもんなんで。

非常事態には非常措置が必要だ。それに、熱心な市民からの“匿名による寄付”を拒む病院なんてそういないだろ?

確かに!なんだ全部考えていたんですね。でも誰が届ければいいんですか?近くにいる人たちはみんな俺たちがロドスの人間だってわかってますよ。

……私が行きます。シュレッダーさんと一緒に薬品の小分けを手伝ったあと、私が薬を届けに行きます。

ジェニー、もう大丈夫なのかい?

もう傷から血は流れていませんよ。

傷のことを聞いてるわけじゃないことは君も分かっているだろ。

みんな忙しくしてる中、私だけ一人隅っこに隠れて泣いてるわけにはいきませんので。

君の助けがあるのはいいことだ、しかし、薬の量は少なくないよ。

ヴィーヴルの身体能力を信じてください。

ロドスの任務のせいで君自身の考えを邪魔させたくないだけさ。

大丈夫です。ここから交戦区域までなら、ちょうど何軒か病院と診療所を経由しますので。

薬を届け終えたら、私は軍に戻ります。

あと少しで薬の小分けが終わります。

ではみんなもそろそろ出発しよう。
そう言ってOutcastは、身体に付けてるホルスターからリボルバー銃を取り出した。

おお、それがOutcastさんの銃ですか?

そうだ。

サンクタにとって準備万端とは、行動に移る前にバレットを装填し終えていることを指す。

でもシリンダーに全部弾入ってませんよ。

通常なら、五発も撃てれば十分さ。

本艦に戻ってバーティたちと食事してた時、よくあなたの外勤話を聞きました。

一発だけの弾丸でクルビアの強盗のボスを三人も倒したとか、三発の弾丸で傭兵部隊を壊滅させたとか。

俺に言わせれば、あなたに六発も撃たせてくるような敵なんていませんよね?

どうだろう。なんせ、大きな挑戦というのはいつも前に立ちはだかってくるからな。

ただある人と約束したんだ、うやむやに六発も撃たないと――その人と賭けをしたからね。

すごく気になるんですが、どんな賭けをしたらあなたみたいな人の考えが変わるんですか?

説明し出すとちょっと複雑でね。

とにかく、その友人はどうにかして私に気兼ねなく引退生活を送ってほしいそうなんだ。

けど私にはわかる、私みたいな人が、いつか本当に引退したとしても、平穏に過ごせそうにはない。

今みたいにですか?

私はモナハン町がこんなにも荒れるとは思ってもいませんでした。数十時間前まで、まだ一緒にお茶を飲みながらトランプしてたのに……

多くの場合、世情は空模様のように、いつもコロコロと変わるものなのさ。

もし選べるのだとしたら、今回の撤退行動で何事も起こらないでほしいね、できれば一発も弾丸も使わせないでもらいたい。

……Outcastさん、準備できました。

では皆さん、お別れの時間です。

ジェニーちゃん……

そんな悲しまないでください、オリバーさん、Outcastさんがいれば――きっとまた会えると信じてますから。

ジェニー、気を付けてな。

はい、シュレッダーさん。皆さんも、どうかお気を付けて。
(遠くで雷が鳴るような音)

ん……今雷の音が聞こえませんでした?

……もうすぐ雨が降るな。

いや、音の様子が変だ。ジェニー、まだ外には出るな!
(ドアのノック音)

コックさん、コックさんいますか!?
(コックのマクマーティンが駆け寄ってくる)

おい、いる、いるってば!ドアを叩かないでくれ、ここの事務所のドアはずっと油や煙に燻ぶられてるんだ、頻繁に叩いていいもんじゃねぇ。
(ドアが開き、バグパイプが駆け寄ってくる)

まだいててよかったです……実はですね、今トランスポーターを探してて、重要な情報を市外に伝える必要があるんです!

よし、わかった。ならちょうどいい、こっちもお前に渡したいものがあったんだ。

え?なんですかこれ?一枚の……紙?

駐留軍の士官――ルイス・ケリーからだ、ついさっき渡された。

ケリー大尉から?なんでコックさんのところに?

安心しろ、向こうはまったく俺が誰だか分かってなかった、なんせ彼からすれば俺は最後に出会えた人だからな。

最初は周囲を探索しようと思ってたんだ、まだ本業を身体が憶えていたんでな……でもまさか駐留軍が彼を捕らえてる場面に遭遇するとはおもいもしなかったぜ!

ケリー大尉が……捕らえられた?それって、大尉は自分たちの人間に連れていかれたってこと!?

大尉は鉱石病患者を匿ったってあいつらは言ってたんだ!でもそんなことない、彼の息子は数か月前に鉱石病で亡くなった、町中誰でも知ってることだ、だって罹った瞬間その情報を知らせてたからな!

あいつら……あの悲惨な病気を言い訳に使うなんて、恥知らずにも程があるべ!

これも一度や二度じゃないんだ、差別を表沙汰しようと考えてる連中にとって、鉱石病は特別使いやすい材料だからな。

今回もそうだ、駐留軍は内部にいるタラト人を粛清しようとしてる。

士官だろうが兵士だろうが、タラト人と仲良くしてたら、一瞬で自由の権利を剥奪されるんだ。

軍内部にいるタラト人の粛清?人員を要するこんな戦時中に?なんか嫌な予感がする。

だから、ケリー大尉は命懸けでこの紙を俺に渡したんだ、俺から“最近ずっとあたりをフラフラしてる駐留軍じゃない兵士”に渡すようにって――

――!

コックさん、これ駐留軍が違法源石武器を製造してる証拠ですよ!

なんだって!?ハミルトンはイカレてるのか!

信頼できるトランスポーターを探してください、この紙とゴースト部隊に関する報告も一緒に、重要な情報として、すぐモナハン町から持ち出さないと!

これはケリー大尉が最後の場面で成し遂げてくれた努力の結晶です、絶対無駄にはできません!

いやダメだ、情報があまりにも重要すぎる、民間のトランスポーターじゃ信用できない、こうしよう、俺がひとっ走り行ってくる。

コックさんって、トランスポーターもやったことがあるんですか?

忘れちゃ困るぜ、情報伝達は俺たちランプライターの本業の一部だ。やれやれ、ようやっとサマになる任務がきたな、もう全身武者震いしてるぜ。

ちょっと待ってください、外でなんか音が……

雷じゃないか?

けど音がなにか変。

大丈夫、俺はもう長い間モナハン町に住んできた、コロッと変わる天気なんて、もう慣れっこだよ。

こんな雷雨なんかじゃ俺を止められねぇぜ、じゃあ行ってくる!
(マクマーティンが走り去る)
トランスポーターは振り向きもせず街中へと走っていった。
彼の頭上で、盆を覆したかのように大雨が降り注ぎ、雷の音も徐々近づいて来た、ますます大きく、ますます頻度を上げて――

これは……これは雷なんかじゃない!

ダメだ、コックさん――
(バグパイプが走る)

――これは砲撃音だべぇ!!!
(雨と砲撃音)
トランスポーターは彼女の声を聴く間もなかった。
無数の砲弾が雨と共に降り注ぎ、地面と壁に接触した瞬間に炸裂した。
衝撃波はいとも容易くゲル素材を引き裂き、熱波は獰猛に金属構造を融かした、さらに恐ろしいことにその機に乗じて都市の身躯へと潜り込んだ病の素――
不完全燃焼の炎のなか形成された巨大な源石結晶塊は、街道と建物の傷口に密集しながら凝結した、まるで土砂降りの雨の中で素早く咲いた漆黒の花のように。