最後の数か所を除いて、モナハン町はすでに制圧できたよ。
予想通り、駐留軍は私たちが主戦力をまだ控えてたことを予測できなかった。
彼らがさっきしていた目つきを見たかい?徹底的に壊滅させたはずの部隊が目の前に現れたんだ、まるで本物の亡霊でも見たような表情をしていたよ。
勝鬨を上げていた時に重い一撃を与えられた、もう戦意が残ってるヴィクトリア兵なんてそうそういないよ――
チッ、忘れてた、私のお仲間ちゃんたちがまだ郊外で拮抗していたんだった。
可哀そうに、今に至るまでずっと抵抗してきたのに、それでも何も変えられなかったなんてね。こちらが手を出さずとも、向こうはとっくに朽ち果てた軍隊のせいで疲労困憊だっていうのに。。
今マンドレイクがそっちに向かってるよ。彼女一人なら対処できる。
すべて順調にこちらの計画通りに進んでいるね――一つだけ除いて。
……ラフシニーが逃亡したこと以外は。
(???の足音)
ということは、私の僕たちは失敗したのだな。
正直私も驚いたよ。彼らはバカばっかりだけど、実力は確かなものなのにね。
けどまあ――もう彼らも必要ないよ。
野心が膨れ上がり過ぎているんだ、自分の利益をもぎ取るためなら、せっせと戦火を広げようとしてる、あまつさえラフシニーを利用して、君を騙ってこっそり企てようとしているからね。
けど、いずれ彼らは自分たちの欲望の炎によって呑み込まれるんだ、そしたら向こうに余計な気を逸らさないで済む。
お前はどうしたいんだ?
……お、オホン……
私かい?
君も知ってるくせに、私はただ……ゴールが見たいだけだよ。
私たちが初めて出会ったあの時、君に聞いただろう――
生の終着点が死であり、いくら秩序を再建しようといずれ必ず崩壊するのであれば、その道を進む人々は、一体どうやって次々とやってくる無意味な選択に耐え忍ぶんだろうね?
だから君は……私に手を差し伸べてくれたじゃないか。
君は私に消えていくはずだった魂が死後もまだ躍動できるところを見せてくれた。
だから、私はずっとこの目で見てみたいと思ってる、炎がすべてを焼き尽くしたあと、この大地が見せてくれる姿を。
貪欲だな、だが正直でもある。
ハッ……私とあのアホたちとの一番の違いは、いつウソをつけばいいかが分かってるところだよ。
それで、ラフシニーの件はどうするんだい?
我が妹、彼女は誰を選んだ?
あの子を助けた人はまだ判明できていない、ただ、その人たちはこの町でたくさんの人を救助していたよ。
大方……医療方面の救援組織かな?
正直、結構気になってるんだよね。その人たちはどうやらどこの国家ともつるんでないようなんだ、なんで私たちと敵対してるかはわからないけど。
ふふ、面白そうな連中だな。
潜り込もうか?
お前が決めるといい、我が謀臣よ。
私もいつかこの目でその者たちを見てみたくなった。
伝令があるから下に伝えといて、私たちの目標はあくまでヴィクトリア兵だけ、もしこれ以上一般人に手を出す輩がいれば、そいつはダブリンの敵と見なす。
承知致しました。
しかし、住民の全員が全員こちら側にいるわけではございません。
まずは私たちが彼ら側に立ってることを信じさせてもらわないと困るでしょ?
こんなにも大きな傷を生み出してしまったんだ、その際人々に必要なのは救いの手であって、さらなる厳格な管理ではないよ。
そうだ、支援者に対しても手出しは無用だよ――少なくともモナハン町にいる間、住民の前では決して手を出さないこと。
火はもう十分大きく燃えたんだから、そろそろ消し時だよ、じゃないと全部燃え尽きちゃってなんにも残らなくなるからね、そしたら全部無駄骨だよ。
もうすぐだ、傷が癒えた後、住民たちは誰が自分たちを悲惨な目に遭わせたか、そして誰が自分たちを地獄から救い出してくれたか分かってくるから。
ダブリンの戦士はヴィクトリア兵とは違う――
この印象は傷が癒えていくと共に、蘇った都市の心臓に永遠に刻まれることになるんだ。
……では外にいる人たちはどうされましょう?我々が今手を引いても、あの者たちの目には届くでしょうか?
見たいと思ってる人ならとっくに目に入れてるよ。
それだけでよいのですか?
もちろんさ、私たちがこれまでやってきたことを何だと思ってるんだい?
タラト人のために鬱憤を晴らすため?そんなこと本気なわけあるかい?君も私もタラトとなんの関係もないじゃないか。
じゃあモナハン町を占領するため?そんなことは身勝手でバカなピエロしか思いつかないよ。今のヴィクトリアは不安定だが、大公爵の軍隊が出動すれば簡単に一つの移動都市を灰にできるんだよ。
私たちが今すべきことは、ただこの火を点けることだ、ヴィクトリア全域から見えるぐらいにね。
この火の中から、ある人は利益を嗅ぎつけ、またある人は恨みを晴らしに来た、さらには信仰を見つけ出した人もいる――少しは喜ぶべきだろう?
行こう、まだ最後の仕事が残ってるんだ。
やるべきことをやり終えたら、私たちも撤収だ、裏切者がずっと表舞台で騒いでたら、ピエロより惨めに見えちゃうからね。
次の登場まで、大人しくヴィクトリアが自分たちのために用意した墓に戻る、それがゴースト部隊のやるべきことだ――違うかい、ヒール?
“市街地はすべて陥落、通信もロスト、各部隊と連絡が取れず……”
“敵軍が基地に侵攻中、火力差がありすぎて、自分たちじゃ防ぎきれません!”
“報告……”
“司令部に通達、すぐに撤退されたし、すぐに撤退されたし、すぐに――ああああ!”
(無線が切れる音)
――
(ヴィクトリア兵が駆け寄ってくる)
大佐!自分たちもそろそろ行きましょう!
ここももうじき破られます、敵もすでに我々を包囲して――
……行く?どこに行くと言うのだ?
話はまず脱出してからにしましょう!モナハン町はもう終わりです!
終わりだと?この※ヴィクトリアスラング※が黙っていろ!
私がいる限り、この町は終わることなく、永遠にヴィクトリアのモナハン町であり続けるのだ!
あいつらが手加減するわけないじゃないですか、大佐、あいつらはヴィクトリア兵に対して手加減無用の連中なんですよ……ですからはやく自分たちと一緒に撤退しましょう!
……
お前はもう行け。
大佐――!
なにを突っ立っている?逃げるがいいさ、尻尾を撒いて、首を垂れながらここから逃げ出せばいい!もう二度とお前の顔を見せるな――それとも今ここで私の手にかけて死にたいのか!
……分かりました、ではお先に失礼致します。
どうか……どうかご無事で!
(ヴィクトリア兵が走り去る)
……ふん。
ご無事で?ここは戦場だぞ?
軍人が逃げるだと、言語道断だ。
――私のサーベルは?
ここにあったか、相棒……高速戦艦を降りてから、硝煙の匂いはもう久しく嗅いでいなかったな?
外で鳴り響く砲撃音と悲鳴が徐々に近づいてきて、しばらくの静寂が訪れた。
その後に続いて来たのは大勢の足音、ピタリとドアの前で止まったのだ。
暗闇の中で、ハミルトン大佐は座っていた椅子から立ち上がり、軍服のネクタイを整え、ドアへと近づいた。
胸を張り、制式サーベルを抜き出し、ドアへ向ける。
火が押し寄せてきた。
「我が騎兵サーベルと共に、ヴィクトリアと共に!」
(無線音とホルンの走る足音)
オーボエ、チェロとすでに通信タワーの下に到達した!
そっちの様子はどう?
隊長、一番から七番プラットフォームにはすでに爆薬を設置しました、あとは敵を待つだけです!
(無線が切れる音)
結構、では一番から始めよう――
(爆発音)
よし、敵を惹きつけた!移動の間は気を付けて!
チェロ、タワーに登るわよ!
オーボエ、二番と三番も爆破!
(爆発音と無線音)
……オーボエ、大勢の術師がそっちの通路に向かった、注意して!
あの術師たちの攻撃手段に注意して、とても強力なエネルギーの集束をこちらで観測した――
敵と距離を保て!
……
いや、すぐに撤退しろ!オーボエ、班を連れて通路から脱出して!
敵のアーツ範囲が広すぎる、向こうはあなたたちを探すつもりはない、直接火の玉でプラットフォーム全域を焼き尽くすつもりだ!
(無線音)
了解しました、隊長、じゃあどっちが速いか競走ですね。
(爆発音の後、周囲に炎が広がる)
――
オーボエ……!
チェロ、オーボエたちが時間を稼いでくれた、あなたはそのまま上を目指して!
コントロールパネルを見つけたら、すぐに情報を発信して!
その間私はタワーの下を死守する、あなたが上に着くまで援護するから。
五分間よ、約束する、五分間、誰一人登らせはしないから。
砲撃、よーい――
(爆発音)
……上の状況はどうなってる、チェロ?
あと10メートルです……うわっ……!
(矢が掠める音)
上にまだ敵がいたの!?
います……クロスボウ使いです!八時の方向!
……くっ……敵の数が多すぎる!
私が行けば、タワーは侵入される……
狙いは外れた……距離が遠すぎる、完全に私の射程外だ!
そんなことよりはやく……ッ!
ダメよ、このままじゃ、コントロールパネルに触れる前に、あなたは失血死してしまうわ!
遮蔽物を探して!
このまま引き摺ってても……時間の無駄です!隊長、そっちだって……怪我してるはずですよね!
私なら問題ないわ……ゴホッ……
ウソ言わないでください。隊長、もう六分過ぎました。そっちの敵の数はどれくらいです?二十ですか?三十ですか?それとももっと?
それは……
喋る暇もないぐらいですか?
あと7メートルです、今すぐ向かい――
(銃撃音)
……どうした?
うっ……はぁッ!隊長、こっちは無事です!何者かがクロスボウ使いを倒しました!
なんですって?まさか……
(斬撃音)
隊長ォ!!!来ましたよ――
あっ……あはは……まったく……
もうしばらく持ちこたえてください!ほんの少しでいいんで!ウチが先にこの火を吹いてる連中を倒します!
チェロ、バグパイプが敵を惹きつけてる間に、はやく!
……隊長、コントロールパネルを開きました!もう少し……で……
ぐあッ……!
(爆発音)
どうしたのチェロ!?
い……石です……隊長……気を付け……
どういう意味よ!?!?
――隊長ッ!
(落下音と爆発音)
バグパイプはホルンを押しのけ、二人とも勢いのまま片側へ押し倒れていった。
一本の巨大な石柱が素早くタワーの上から落ちていき、ホルンが立っていた位置に深い穴を開けた。
こんなプラットフォームのどっから石柱が……?
えっ……ゴースト部隊の術師!?
(マンドレイクの足音)
コレってあんたたちの関係者?
チェロを殺したのか!!
私の許可も得ずに勝手に人のモノには触れてほしくないのよね。
なにが人のモノだべ!?ゴースト部隊がモナハン町に進攻してくたくせに!
――
(爆発音)
フッ……ハッ!挨拶もなしに撃ってきた?
それがヴィクトリア軍の礼儀なの?
(爆発音)
……あんた!気でも狂った!?そっちの攻撃がまったく私に効いてないのが見て分からないわけ?
……石。
(どの角度もスキがない。)
(弾が飛んできた瞬間、周囲にある石で防いでいるんだわ。)
(あいつのアーツでしょうか?)
(……チェロを見て。)
(全部石矢でできた傷でしょうか?けど肝心の石矢が見当たらない……あいつは石を操って防御できるほか、石を創り出して攻撃もできるということでしょうか?)
(だったら厄介ですね。)
(まずはあいつがどこまでやれるか試す。きっとスキが生まれるはずだわ。)
(斬撃音)
チッ、もしかして自殺でもしたいのかしら。
あんたの弾薬はとっくの私の戦士たちによってそろそろ底をつくはずよね。これ以上撃ち続けたら、すぐ攻撃手段を失って、無駄死にするだけよ。
アヘモニーのやつ、私が来る前に何度も説明していたわ、あんたたちがどれほど強いのかって。
ハッ、これがヴィクトリア軍の本当の素顔だってよく言えたものね……見てみなさいよ、手も足も出ず、退路も失った、それが王立前衛学校の優等生の実力?
私からすれば駐留軍と大して変わらないわね……取るに足らないわ!
……ヴィクトリア軍が嫌いなの?
違う。
兵士は嫌いじゃないわ。誰の指揮に従っていようと、みんな戦場で命を張ってる可哀そうな人たちだもの。
私が嫌いなのはあんたたちみたいな人よ。
生まれがよかったからって、私たちを足で踏みつける資格でもあるかのように思い込んでる――
……あんたたちが私の足元で土下座してる光景より甘美な光景なんてないわ。
さあ、貫け――!
まだ私の攻撃を防ぐ力が残ってるのね?
ループス、あんた結構タフじゃない、私を見かけた瞬間腰を抜かしたあなたの貴族仲間よりは大したものだわ!
まだ分からないの?あんたたちにはこれっぽっちの勝機もないのよ!
モナハン町にいる人はもう全部こっち側、そっち側の人間なら死んだか、それかとっくに投降でもしてるわよ。
ついでに教えてあげるけど、あんたとその部隊がモナハン町に入ってから、一度も私たちの目から逃れられたことはないのよ。あんたの一挙手一投足は、すべて把握していたわ。
くっ……駐留軍にスパイを潜らせたのか?
自分が失敗した原因は運がなかった、自分に実力が足りなかった、判断をミスしたから、チャンスの逃したとでも思ってるの?
そんなわけあるか!運命は一度もそっち側に立っちゃいなかったからよ!
ヴィクトリアが――すでにあんたたちを見捨てたからよ!
あの何も知らないまま戦場で命を落とした戦士なんかよりあんたたちのほうがよっぽど惨めだわ――喜んでヴィクトリアのために血を流したのに、国によって捨て駒にされたのよ!
それってつまり……スパイは一人だけじゃなく……
軍にいる大勢の人が……上層部でさえ……そっち側に立ってるってこと?
じゃあ……あなたたちのボスの……目的はなんなの?
……
もしかして……ヴィクトリアの王位?
なんの……ために?
黙れ!
この――アスランの下僕風情が、首領の高貴さを口にできる資格があるとでも?
ふっ……あはは……
なに笑ってんのよ!?
あんたを笑ってんのよ、自分の矛盾してることに対してね……
お高く留まってる貴族や金持ちに牙を向きながら、自分の誰よりも高貴な“首領”を崇拝してることに――
これ以上に笑える話があるわけないじゃない?
……あんたになにが分かるのよ!
首領は……あのお方の高貴さは血統だけじゃない!あのお方は……力も、優しさもある……
ハッ、なるほど。時間稼ぎするつもりね、私から少しでも情報を聞き出そうって算段でしょ、違う?
そんな小細工が通用するとでも?
あんたに言っちゃいけないことを言ったからって、なによ?
一生この通信タワーに登ろうなんて思わないことね――
今これを聞いた人は、死んじまったヤツじゃなければ、もうすぐ死ぬヤツしかいないんだから!
……ならもう少し頑張らないとね、フェリーンちゃん。
この……!
確かにあんたは中々やるわ、武器のコントロールもとても正確。ずっと砲撃の方角を調整して、私のアーツのスキを窺ってるんでしょ。
けど残念だったわね――もし重傷も負わず、弾薬も十分な量があれば、もしかしたら私に傷を付けれたかもしれないのに。
以上よ、そろそろお喋りも終いにしましょうか――
今よ!!
(爆発音)
な……に?石柱が急に倒れて……私に倒れてきた……?
ずっと合図をころころ変えられて、腕が痺れそうでしたよ!
あのヴィーヴルッ……!
うやむやに攻撃してただけかと思ったら、狙ってたのは私じゃなく、タワーの下にあった石柱だったとはね……
クソ……クソッ!なんでそれが分かった!?
隊長、周囲に浮いてる石がなくなりました。
……結構。
やっぱり、ウチらの予想は当たってました、あいつのアーツは臨機応変ですけど、同時に一つのことしかできない――
石を盾にするも、石矢を飛ばしてくるにしても、アーツを放つほんの間、スキを見せます!
石柱があいつの石盾を破った今のうちに――攻めるわよ!