
……全部俺が預かろう。彼女を連れて帰るために、お前はひとっ走りしてくれたんだ、大変だったろ。

あとのことは、俺がやる。

遺骨と骨壺か。

チェルノボーグ事件終結後、似たような緊急連絡はすでに十一か月と二十七日もの間ロドスの甲板で鳴り響くことはなかった。

――今度は誰が犠牲になった?

Outcastだ。

……

そうか、君の手には彼女のリボルバーが握られているな。

認めたくはないが、来る道の途中、すでに答えは出ていた。

私は以前彼女と一つ賭けをしていたんだが――

どうやら、彼女の勝ちだな。

ケルシー、次の会議だが、俺は欠席させてもらうぜ。

慣例通り、エリートオペレーターの葬儀はお前が取り仕切ることになってるが……

今回ばかりは、俺に別れを告げさせてほしい。

私個人として異論はない、無論彼女も同じことだろう。

会議を欠席する以上、今ここで俺の選択の答えを――

Misery、君の答えならもう知っているさ。

じゃあほかの連中の答えも知ってるんだろう。

状況は変わった。誰だってこんな変化なんざ好まねぇさ、みんなこれを選ぶっきゃないって分かってる。

――いちはやくロンデニウムに行かなきゃならねぇってな。

君たちならよく理解してると思うが、私の立場は終始変わらない――

だが君たちが私の提案に乗ろうが乗らまいが、それでも言わせてもらう、ロドスはいかなる個人的な私情を発散するために未来へ向かう航路を変えることはない。

Outcastのために敵討ちはするなって、そう言いたいのか?

安心してくれ、俺の心は今悲しみと怒りで一杯だが、自分の職務まで忘れちゃいねぇよ。

ただ、この目でOutcastを殺したモノが何なのかが見たいってだけだ――

一人なのか、それとも複数人なのかを。

なあケルシー……仮に俺たちが真実を探らなければ、ロンデニウムかヴィクトリア全土に覆い被さってる雲はさらに好き勝手暴れるようになるだけだ。

その時にゃ、Outcastだけでなく……

俺も死ぬ、みんな死んじまう。誰も逃られやしねぇ。

お前が言った通り、ロドスは死者のために復讐なんぞはしないだろうが……

でもよ、俺たちはみんな今生きてる連中のために生き続ける機会を作ってやりてぇんだ。

うぅ……ここは一体どこなの?もしかして道を間違えちゃったかな?

まずい、もうすぐ待ち合わせの時間だ、急がないと……はぁ、なんでオリバーさん言ってくれなかったのよ、この船めちゃくちゃデカいじゃない!
(リードの足音)

……

えっ、あなたは……!?

ちょっと、ま、待って!

……ん。

あの……

(なんか全然私のことを憶えていない?)

(いや、絶対人違いなわけないよ。)

(船に上がったあと、何人にもこの子がどうしてるか聞いてみたけど、みんな知らないか、教えてくれなかった。)

(うーん……この子の身の安全のため、あえてそれを避けてたのかな?)

……こんにちは。

あなたは……ここで本を読んでるの?その『アイヴァンホー』……私も読んだことあるんだ、それに結構好きなの。

本に書かれてるヴィクトリアの歴史って結構面白いよね?

面白い……のか?まあそれなりには……けど史実ではない。

小説……これはただの小説だ。

うーん……まあそうなんだけどね。ほかにも興味ある本とかある?私ほかにもたくさん持ってるんだ……あっ、ごめんなさい、持ってくるのすっかり忘れちゃってた。

この小説が好きなら……あげよう。

えっ、いいの?あ、ありがとう……

……では。

あ、うん、またね!
(リードが立ち去る)

(……また会えるのかな?)

(彼女が持ってたもう一冊は……詩集?)

サイモン・ウィリアムズ……作者名も表紙もすごく見覚えがあるわ。
(ジェニーの足音)

待ち合わせの場所は……ここでいいのかな?

し、識別番号?なんだろ?『新規オペレーター指南書』に書いてあったっけ?

うぅ、もう遅れちゃう、とりあえずノックしてみるか!
(ジェニーが扉をノックする)

どうぞー!

こんにちは、ウィローさん……それともコードネームのサイラッハで呼んだほうがいいですか?

あ、どうも……アーミヤさん!

みなさんと同じようにアーミヤでいいですよ。

ごめんなさい……忙しいのに、会って頂いて。二日前の検査の時にフォリニックさんから聞きましたけど、一日五時間しか休憩を取られてないとか……

フォリニックさんはいつも私の身体を気にしてますからね。でもご安心ください、最近の健康状態は結構いいほうなんです、それにずっと会いたいと思っていましたよ。

……ここがOutcastさんが使ってた執務室ですか?

はい。実は全然使われていないんですよね、事件の二か月前、彼女に人事異動を納得させたばかりですので。

本人からも言われました、モナハン町に来る前は、そろそろ引退時だって……

けどそれでも今回の任務を執行しに行かれました。

あの数日間彼女に言われたことをよく思い出すんです……あの人はきっととっくに準備はできていたんだと思います。

Outcastさんはそういう人ですからね。

エリートオペレーターの中でも、Outcastさんの性格は少々特殊とも言えまして――いつも平気で普通の人から見れば難しい決断をされるんですよ。

そうですね、それに……とある戦争で調停に失敗したから、教会の高い地位を捨てたとも聞かされています。

うーん……ラテラーノ教会を離れたことなら聞いていますけど、調停に失敗したこととは?

Outcastさんのプロファイルにそんな記載はあったでしょうか、むしろMiseryさんの一件のように聞こえますね。

……

あ……あはは……なんでかな、彼女らしいですね。

そのせいでOutcastさんは不誠実だって思う人もいちゃったりしますけどね……

いえ、彼女が話したことがすべて真実でないにしても、それでも彼女は私の知る一番誠実な人ですから。

本当ですか?うーん……まあ意外とは思いませんけど、なんせOutcastさんの人を見る目は一度も間違ったことありませんので。

アーミヤ、忙しいとは思ってますけど……もう少し彼女のことを教えてくれませんか?

もちろん。

ただ、結構長いお話になりますよ――

そちらにお時間があれば、いつでも。

わかりました、きっと……ロンデニウムまでの道のり、たくさんの時間があると思います。
数か月後

おい、いい加減修理はどうなったんだ?

そう焦んないでよ、ここの町は荒んでるんだべ、発信機の取り換え用の配線を見つけるだけで大変なんだからさ……

もう私に貸せ。お前の軽く機械に触れただけで煙を吐き出させるアレ、まったく治ってないな。

もとからここのセーフハウスは長い間使われてないからだよ……

やっぱりお前が言った道に行くんじゃなかった。

数か月も同じ場所をグルグルと、まったく人影が見当たらないじゃないか!

数年ぶりだと言うのに、チェンちゃん余計目つきがおっかなくなったべ……

……文句言うな、お前は元から声が大きいんだ、丸聞こえだぞ。

私がなんで焦ってるかって?逆に聞くがお前はなんでそんな平然といられるんだ!

一体出動してどれぐらい経ってると思ってるんだ、ゴースト部隊どころか、まともな手がかりすら掴めていないじゃないか!

私がまだ龍門で警察をやっている中、こんな状況になったら、さっさと諦めろと言ってたところだぞ……こんな長い間耐えられる人質なんて存在しないんだからな。

……いいや。

隊長ならきっとまだ生きてるべ。

それに、向こうもウチが助けに行くってことを知ってるはず、だからどうにかして合流しようともしてるはずだよ。

はぁ。もういい、好きにしろ。

お前を説得できていれば、こんなあちこち連れまわされることなんかあるか?

だってそりゃ……チャンちゃんはいっつもウチに優しくしてくれてるからだべ!

わかったわかった、お前が執着してることなら、私も分からんでもない。あの時、私が必死こいてあの人を探してた時、お前は私を応援してくれてた……まあいい、今はこんな話をしてる場合じゃない。

――とにかく、お前も聞いただろ。

モナハン町事件における対外的の発表はすでに結論付けている、軍事演習の事故扱いだ。

全負傷者と罹患した一般市民には定住地と手当が与えれれた――少なくとも政府の公式文書ではそう書かれている。

ダブリン、あるいはゴースト部隊か、お前が脱出した時ヤツらがモナハン町を占領していたかはさておき、今じゃ音もなく身を潜めた。

この点については、私たちがこの目で確かめに行ったところで、変わりようはない。

そうだよね。

けどウチはこの目で見たすべてを憶えているべ。どんなに平静さを見繕っても、モナハン町の内部……それと周りの多くの都市は、とてつもなく大きな変化を迎えたって、ウチはそう思う。

それに……衆目が及んでる下でその変化がこんなキレイに隠蔽されたんだ、チャンちゃんは恐ろしく思わない?

もし敵がこんな大きな騒ぎを起こしたあとに身を潜めたということことは、あいつらはもっと大きな企みを潜めてるってこと!

それってつまりヴィクトリアで……いつでもモナハン町以上にデカい危機が引き起こされることって意味だから。

私はお前を信じてる。

……だから私はここにいるんだ。

だがほかにどれくらいの人がお前を信じてるかまでは把握していないけどな。

じゃあウチらでもっともっと頑張らないとだめだね!

となると、やはりどうにかして都市部に入らなければならないな。

ヒューズを憶えてるか?

あれだよね……訓練の時いっつもコブだからけになるまでコケまくってた太っちょの男の同級生だっけ?

……そいつならすでにトレード市の商業連合の副主席になってる。

彼なら、私たち同級生の中で、故意に隠された情報を一番掴んでるはずだ。

ぶっちゃけると、チャンちゃんが言う前から、ウチはとっくにヒューズを訪ねようと思っていたよ……いや、ヒューズだけじゃない、デカブツのグリムとか、赤髪のビルとか……みんなの手を借りようと考えてたんだよ!

こういうの、一人で色々やってみたんだけど、難しくて……

でも今は、チェンちゃんが傍にいてくれてる、それにロドスのみんなもずっと惜しみなく物資と情報を提供してくれている――

だから今は希望で満ち満ちてるべ!

それでも言っておくぞ、あいつらを説得できるかは保証しかね――うわっ!?

いきなり引っ張ってなんのつもりだこの※ヴィクトリア挨拶用語※!

チェンちゃん、発信機が動いた!

……ロドスからの緊急連絡だと?

発信機が壊れる前、向こうはついさっき私たちが送った位置情報をキャッチしたばかりのはずだろ?まさかロドスはずっと私たちをコールしていたのか……

……

…………

どしたの?まるでさっき情報を受けとった時のような顔色しちゃって……

あー、わかった……また彼女関連の情報でしょ?

……その通りだ。

――

これからのことだが、頭を整理したい。
(無線音)

ジェシカ、任務は順調そう?

はい、今向かっているところです。

警戒を緩めないでね。

大丈夫ですよ、リスカム先輩……私あんまりヴィクトリアには戻ってませんけど、飛行装置はすでに出入国許可を得ています、ナビゲーションシステムも正常に稼働していますよ。

今回の居留民をクルビアまで護送する任務なら難しくないと言えば難しくないけど、それでも状況はいつでも変化するから。

居留民から情報を受け取った時は、驚きましたけど……

今は何事もなく目的地まで進めていますよ、ほ、本当にそんなひどい状況なんでしょうか?

ふぅ……すみません、隊長と隊員の前ではビクビクしちゃいけないのは分かってますけど、それでもやっぱり緊張しちゃうんです。

……そっちの隊長は不在なの?

あ、はい、ヴィクトリアに到着して間もなく、一部の人間を連れて行っちゃいました。

もしかして……別の任務でしょうか?

……エクスパット任務をあなたたち装備と応用技術を扱う部門に任せたってことは、明らかに別の理由があるからだろうね。

あ、明らかになんですか?

気づかないのも、無理はないね。

まさか……ほかとも契約を結ぼうとしてるのでしょうか?

けどこちらはまだヴィクトリアから公式の依頼を受けたことは一度も……

……私には守秘義務があるから、部門の情報を跨いででも評価や憶測をすることはできない。

この話は忘れて。

とりあえず今は任務に集中して、なにかあれば、すぐ私に知らせて。

いい、今回はBSWとして受けた任務ではあるけど、ロドスとの提携もまだまだ有効であることを忘れないで。

はい、わかりました。

ロドスの小隊たちも無事ロンデニウムに着いたら、必要な時にこちらが対応しますね。

……ますます近づいてきたな。

・ヴィーナ、緊張してるのか?
・……
・私たちはずっとこの日を待ち望んできた。

数か月前、ケルシー医師から準備はできたかと聞かれた。

……まだわからない、それがあの時の私の答えだった。

だが今になっても……未だに分からないままだ。

だから、緊張していないとは言い難い。

ドクター、傍にいてくれて感謝する。

もし私がまだ貴様が持つ静けさに縋っているようであるのなら……やはり逃げているように見えるのだろうか?

ああ、私が逃げ出したあの日から、帰ってくるこの日を待ち続けていた。

ドクター、どうしても考えてしまうのだ、もしその人が本来いるべき場所から長い間離れてしまったら、その人にはまだ帰れる家が残されているのだろうか?

・目が覚めた時、私はどれくらい離れたかさえ覚えていなかったけどね。
・アーミヤとみんなが私を受け入れてくれた。

あの時の話なら貴様から聞かされた。

アーミヤか……ドクター、貴様にとってアーミヤとは、本物の家族なんだな。

ロドスは貴様を必要としている、私たちオペレーターも貴様を必要としている、疑いようのない事実だ。

ロンデニウムには、君を待ってる人たちがいる。

グラスゴーギャングか。ヤツらならきっと新しいボスでも見つけているだろう、でなければ、ロンデニウムでは暮らしていけないからな。

それとほかの者だが……

私がこうも長い間離れたんだ、ロンデニウムなら新しい釘を見つけているはずだろう。

答えを知りたければ、共に進もう。

ドクター、言っていたな……貴様もロンデニウムに行って真実を確かめたいと。

共に進む、か。

そうだな、貴様らの同伴があると知れば、私も少しは元気になれた。

この先私たちを待ってる答えがあまりまずいものでなければいいのだが……

ただ少なくとも、どんな状況であれ、私がこのハンマーでそいつをそれらしい形にまで叩き直してやろう。

全員揃ったか?

もうじきです、殿下、腐食者の王とブラッドブルードの大君も三日以内にロンデニウムへご到着されます。

王宮が新たに首を揃えてから、我々サルカズも内戦勃発から最も統一に近しい段階へとやってきた。

いかなる勢力にも我々が阻まれるわけにはいかん。

ほかの勢力と言えば、殿下、モナハン町から来たあの使者は未だロンデニウムにおります。

あの件ならすでに結論づいたはずだが。

殿下が以前おっしゃったように、どうやら彼らは本心から同盟を結ぶつもりはないようです。

誠実な盟友であれば、己を幕の下に隠すことはありません、ましてや顔を少しも覗かせることもなく、ただ狂った下僕を我々の面前に置いておくことしか致しません。

彼女は自身が求めているものを得られるはずもございません、ただそれで退散するつもりもございませんが。彼女が率いる部隊は、ロンデニウムの外周で貴族の残党と現地住民と何度も衝突を起こしておりますので。

探っているのだろう。ロンデニウムの現状を、同時に我々の実力もな。

その通りです、殿下、もし我々が軟弱な一面を見せれば、彼女の背後に潜んでいる者たちが想定よりはやく割り込んでくるでしょう。

もし我々が強硬な態度を取れば、彼女は価値を失った捨て子と化します、剪定されたとて惜しくもありません。

カズデルをナイフとして扱う陰謀家どもは、どの道その刃によって死ぬのだ。

彼女なんぞタルラほどでもない。

近しい血は流れておりますが、ダブリンの首領とタルラは別物と言っても差し支えないでしょう。

レユニオンと比べて、ダブリンが南部で起こした波は、十分彼らが力を持ってる証拠になり得ます、ヴィクトリアを引き裂く準備をしてる、あるいはできているとも捉えることが出来るかと。

火事場泥棒の輩というのは、混乱がピークに達した時でなければ、姿を現さん。

現段階において、我々の目下の目標及びサルカズと無関係であるのなら、ヤツらが外でどう騒ごうが、私が関心を寄せるにも値しない。

だがロンデニウムにいるのなら、いかなる身勝手も許しはせん。

ついでとしてマンフレッドにこの件の処理をあたらせた。あの貴族どもの相手など彼にとって容易すぎるだろう、なるべくはやく成長してもらわねばならないからな。

マンフレッドはいつだって殿下のお考えを熟知しております、彼ならとっくに用意できておりますよ。

それだけでは足りん。ロドスの新たな動きは?

この数か月、あの者たちなら一般的で、表面的な“ビジネス”を継続しておりました。

あの陸上艦船が去年年末にカジミエーシュを去ってから、すでに何度もヴィクトリアに接近しております、私たちの目から長時間逃れたことはありませんが。

ヤツらがロンデニウムに近づいて来た際は……いや、あの連中がヴィクトリアに入ってきた際は、すぐ私に報告しろ。

それか、お前が彼女に直接報告しに行っても構わんぞ。

当然ながら、殿下――サルカズの王よ、いかにして彼女の冠を回収すべきかなど自ずと存じております。