
お婆さま、どこに行くのですか?

聞いていいとは言っていないよ。

しっかりと砲を持って、ついてくるんだよ。

はい、お婆さま。

もうすぐだ。

あそこは?

競技場さ、大騎士領から来た連中が建てたものだよ。

フンッ。

試合を見に行くのですか?

試合?いいや。

お前を訓練させに行くのさ。

あたしが教えたことはまだ憶えているかい?

はい、お婆さま、しっかりと憶えています!

盾を構えて、砲を作動させて、撃つ!

敵に狙いを定め、弾薬に注意し、砲から手を放さない!

それと、えーっと……

砲音は轟き、勝利は目前に!

よろしい。

お前は父親よりよっぽど頼りに見える。

少なくともあたしが目を瞑る前に、それを憶えておいてくれた。

お婆さま、そんな縁起でもないことは言わないでください……

フッ、枯れぬ木などあるものか。

そのまま腐って朽ち果てるぐらいなら、新芽の肥料にでもなってやるわい。

ゴホッゴホッ……

お婆さま!

いい、ただの咳だ、心配はいらないよ。

お前の父親の代、さらにはあたしの兄弟たちは、とっくの昔にカリスカがいかにして栄えたかを忘れてしまっている。

林業だと?あの林はあたしらの功績と、大砲のおかげで得たものなのだ!

「砲音は轟き、勝利は目前に」……あの金しか目に入らぬ連中はとっくにこの格言すら忘れてしまっている!

お婆さま、もうその辺に……

フン……

グレイナティ、お前はいい苗だ。

決して歪むんじゃないよ。

はい、絶対ご期待に応えます!
(大歓声)

ブラッドボイル騎士団――競技場の屠殺者――ケガからの復帰――変わらぬ暴虐性!!
(走る足音)

そしてその相手――その相手は――
(走る足音)

ゴホッ、ゴホッゴホッ……

かつて南で栄えた林業の大手――カリスカグループの一員――

しかし今となっては一人の感染者――レッドパイン騎士団に所属している騎士――
(歩く足音)

盛大に歓迎しましょう――

お婆さま?

(ふぅ……冷静に、お婆さまから教わったんだ、私ならできる。)

(よし!)

灰豪騎士、グレイナティ・カリスカです!

あら、ようやくカイちゃんの登場ね。

グレイナティはいっつも登場がノロノロなんだよ、観客の歓声にも応えやしねぇ、さっぱりしねーなぁ。

そこがウリなの、そういうとこが好きって人もいるのよ、ほらそこにいる人とか。

グレイナティ!ちょっとでいいからこっちに目線をくれ!!!

うーん……まあそういうことにしておこう。

歓声にウソはねぇからな。

それにあの砲を抱えてる姿勢も、貴族ってサマだぜ。

まあアタシが一番期待しているのはあいつが砲で人を吹っ飛ばしてる時だけどな。

そりゃもちろん見れるわ、あの響いてくる砲撃音を聞いたら観客なんかこれでもかってぐらい喜ぶしね。

もっと豪快なヤツがあれば一番いいんだけどな。

なによ、彼女が砲で相手を殴ってるところでも見たいわけ?

はは、それはいつか見てみたいものだぜ。

大斧対盾!最後に勝ち抜くのは一体誰なのか、共に期待しましょう!

お持ちのタブレットを開いて、あなたが応援する選手を、ぜひぜひ選んで下さい!

当然ながら、ご自分の財布を膨れ上がらせるチャンスこそが最も重要!

それでは――試合開始――!

その手に持ってるプラスチックが最後まで持つといいな。

鉱石病のゴミムシめ。
(グレイナティが錆銅騎士の攻撃を防ぎ砲撃を行う)

……

つまんねぇなぁ、会場に上がったら一言も喋らねぇんだもん。

あなた初めてカイちゃんの試合を見るわけでもないんでしょ、あれは真剣モードっていうのよ、わかる?
(砲撃音)

けどそれじゃつまんないだろ……溜まった感情を発散させないと、勢いで相手に負けちまう。

騎士競技はどっちの声が大きいかを競うもんじゃないでしょ、求めてるのは見ごたえある攻防よ。

ほら、まさにあんな感じ。錆銅は退場し、みんなもそれでハッピー、違う?

けど今日の試合、地味すぎやしねぇか?自分から全然攻めていってねぇぞ。

相手は選んだほうがいいからね、錆銅みたいな攻撃を重きに置いてる騎士が相手だったら、防御に徹したほうが最善よ。

それにカイちゃんもそれで自分が一番得意とする技も出せるしね。

盾で攻撃を防いでカウンター砲撃を食らわす、いつやっても気持ちいいもの。

(今回のカイちゃんは確かにあんまり攻めてないわね、一体なにを考えてるのかしら。)

これは驚きました、屠殺者が持つ肉斬りの斧が灰豪騎士の前じゃなんの効き目もありません!

防ぐたびに、砲撃が放たれるたびにイングラは反撃できず退くのみ!

灰豪騎士の防御はまさに天衣無縫、少しずつ距離を詰め、屠殺者の活動スペースを縮小させています!

疑いようもなく、これはシーソーゲームになりそうです、一体どっちが勝利の桂冠を被るかは、最後になるまで分かりません!

さあ今のうちにすぐお手元のタブレットで選手たちにベットしましょう!

それか選手のロゴマークがスタンプされた特製ミネラルウォーターを注文して頂いても構いませんよ、お傍にいる観客にご自分がどちらを応援してるか知って頂くためにも!

今すぐご購入して頂ければ、直ちにお座りになってる席までお届けしましょう!

そんなものまであんのか?

あるわね、ただ……

おいおいあの値段………会場外で買ったら十本は買える値段じゃねーか?

あはは……

お前もしかして注文したのか……

一回買ってみて飲んでみるだけだってば、えへへ。

ずっとそのプラスチック板の後ろに隠れてるつもりか、ああ?

……

ヘッ、俺がそいつを叩き潰したら、好きなだけ泣き叫ぶがいいさ、リスちゃんよ。

そん時はカリスカみたいな小さい会社がお前のために死体回収なんかしてくれるはずもねぇよ。

(トリガーに指をかける)
(砲撃音)

わお、カイちゃんが怒った!

イングラもよく言うわねえ、わざわざ人の地雷を踏むなんて。

昔のカリスカ林業は結構有名だったが、今じゃニュースでもすっかり聞かなくなっちまったな。

本当にグレイナティの生家なのかよ。

もしカイちゃんに経営させていれば、今頃彼女らの会社もまだトップに座れていたと思うわよ。

自分のせいで経営が傾いたくせに、それを他人のせいにするなんて、そりゃああやって没落するわ。

確かカイちゃんは親戚たちが一堂に集ったとき全会一致で一族から追い出されたはず。

全会一致よ……

じゃああいつの両親も……

二人も同調圧力で自分の娘を一族から追い出してしまったわ。

家に戻ったあとカイちゃんのために大騎士領へ来る資金を用意してくれてたけどね。

まああなたも知っての通り、自分を応援してくれてたはずの両親にすら追い出されたのよ……

あまりにも辛いでしょうね。

けどカイちゃんの心が強くてよかったよ。

そりゃもうダントツに。
(砲撃音)

うわぁ……もしかしてガチギレじゃないでしょうね。

どれどれ――

まあまだマシなほうね。

あれでキレないほうがおかしいだろ?

アタシだったら錆銅に穴を開けてから頭を動かすね。

カイちゃんの戦い方は頭脳戦とも言えるわ、弾数には限りもあるんだし、ムキになって一発多く撃ったら負ける可能性だってあるんだから。

今はおそらく錆銅に自分はムキになってるって思わせてる段階ね。

なにせ、相手を誤解されることは重要だから。
(砲撃音)

ほら。
(砲撃音)

なんということでしょう、イングラの肩に着けてる甲冑が吹き飛ばされました!

その間に灰豪騎士は未だにジリジリと詰め寄っています、まさかここで勝敗が決するのでしょうか!

また砲撃音、どうやら灰豪騎士はすでに自分へ向ける勝利の礼砲を撃つ用意が出来ているようです!
(砲撃音)

一体なにが起こったのでしょうか!?皆さん見えましたか!?

錆銅が斧で砲弾を真っ二つにしました!この二人の騎士には感謝しかありません、我々にドラマでしか見れないような一幕を見せてくれたのですから!

その通り、まさしくスウォマーチャンネルがスポンサーを務めて撮影された都市で繰り広げられるサスペンスドラマ『大騎士領二十四夜』で登場する一番有名なシーンのことです、ご興味がある方は今すぐDVDのご購入を!

さらに順次購入された三十名の方には主役俳優と女優とサイン入りポスターが付いてきます、早い者勝ちですので、今すぐご検討を!

ごくごく――ぷはぁ、そこら辺にあるコンビニで売ってるのと大して変わらないわね。

だから言っただろうよ……

へへ、まいっか、転売費用だけ払ったって考えれば。

そんなことより、モブは相変わらず宣伝できるチャンスを一つも見逃したりしねぇんだな、いい加減ウザったいぜ……

あれが彼の仕事なのよ、少しは理解してあげて。

けど錆銅が斧で砲弾を真っ二つにするとはね、むざむざモブに広告を差し込むスキを作ってしまったわよ。

カイちゃんも手加減しちゃったわね、錆銅を倒すことばかり考えて、頭に狙いを定めなかった……

じゃなきゃ今頃もう試合は終わってるはずだわ。

もしかしてカートリッジの弾がもう尽きるんじゃねぇの?

うん。
(砲撃音)

たぶん残りはあと一発。

そろそろ交換時ね。

その間イングラがうちらのカイちゃんにちょっかいを出さなければいいんだけど。

(残り一発か。)

(あいつに砲撃を食らわした衝撃の反動を利用して後退し、その間に交換すれば間に合うはず。)

(イングラの戦闘スタイルなら、なにか手を隠してるとは考えづらい。)

(そろそろ頃合いだな。)

その程度か?
(砲撃音)

(動きが速くなった?)

(まずい!)
(錆銅騎士がグレイナティを突き飛ばす)

錆銅の靴についてるアレって、加速器か?

こりゃ面倒臭くなったわね……

頑張ってカイちゃん!

ゲホッ……

弾が尽きたか、もう手は出せねぇだろう?

……

カイちゃん、弾残ってる?

ありません、予備のカートリッジはさっき矢を防ぐために使ってしまいました。

じゃあどうするの、その大砲でぶっ叩くの?

必要があればアタシが何人か受け持つけど。

そしたらこの前みたいにまた私のポイントを奪うつもりですか?

もうそれいい加減に忘れてくれないかなあ……

あの時お互い初体面でしょ、警戒してないほうが悪いわよ。

ていうかもうしないってば、約束したでしょ。

グレイナティは自分の利益のためにほかの感染者を犠牲にすることなんてしないってアタシは信じてる。

だからグレイナティもソーナは背後からナイフで闇討ちなんてことはしないって信じている。

そうでしょ?

……フンッ、まあいいでしょう。

それでどうやって目の前の騎士を相手にするつもりかしら?

アタシならちゃんとスキを生んであげるわよ、必要あればはやく言ってね。

結構です。

自分でなんとかしますので。

先ほどまで優勢だった灰豪騎士はリロードの時にスキを見せてしまい、錆銅に反撃のチャンスを与えてしまいました、もしや屠殺者の肉斬りの斧はやはり血を見る事になるのでしょうか!?

灰豪騎士は一体どうやってそれに立ち向かうのか、今ご覧の通り――彼女は空になったカートリッジを錆銅に投げ捨てが、それでも――

いや違います、それどころか大砲まで捨てて錆銅に走っていき、一体なにをするつもりなのでしょう!
(打撃音と砲撃音)

イングラが武器を振り上げた、灰豪騎士にはもはや盾しか残されていません!灰豪――灰豪が斧を防ぎ、そして――おお!!頭突きです、ここまでぶつけた音が聞こえるほどの頭突きです!

すごい!組み込まれた素手での連撃で、イングラが退きました!

一方グレイナティは転がりながら自分の武器を傍へと戻り、装弾し、リロード、これで準備は整いました!イングラはまた砲火に支配されるのでしょうか!

あは、また砲撃音が聞こえてきました、灰豪騎士がもう一度ゲームを制しました!

ちったぁダサかったが……あの脱出方法は案外実用的だな。

けどまさか大砲を捨てた後のあいつがあんなに素早いとは思わなかったぜ。

カイちゃんとてザラックだからね、すばしっこくて当然よ。

じゃあなんでお前みたいに軽い武器を使わないんだ?

個人の趣味でしょ。

試合にもっと合う遠距離武器を使ったらってアドバイスしたことはあるんだけどね、槍とか、クロスボウとか、投石器とか、でも全部好きじゃないみたいで、どうしても実家から持ってきた大砲を使いたがるみたいなのよね。

全然作動しない時もあるし、維持費だってバカにならないのに。

頑固だなぁ。

武器に慣れてるのならいいんだけどね。

あいつ残ってる弾確かあと八発だったよな。

撃ち尽くしたあとはどうするんだ?

さあ、どうなるんだろ?
(砲撃音)

カイちゃんが予備の弾まで撃つ尽くしたところなんてアタシ見たことないもの。

……はぁ、はぁ、俺を侮辱してんのか、灰豪!

……

なんとか言えよ、こんの、石頭野郎が!

(トリガーに指をかける)
(砲撃音)

いつまで喋れないフリしてやがんだ!

もういい、我慢の限界だ!

はあッ!!
(砲撃音)

カイちゃんも人が悪いわね。

まさか最初からイングラとシーソーするつもりじゃないだろうな。

言葉も返さねぇし全然ビクともしねぇし、オレが相手してもムカつくぜ。
(???が近寄ってくる)

……どうしてなの?

やっほー、来たんだねユスティナ。

灰豪はなぜ錆銅をバカにしてるの?

それは、話すと長くなるわね。

アタシがカイちゃんと初めて会った時、すでに観客席にいる騎士の旦那様方に怒り心頭だったみたいなのよ。

ほかの感染者騎士はただ単に騎士様たちに不満を抱いているんだって思ってるっぽい。

けど彼女は――

もし感染してなかったら、同じく騎士貴族だったのよ。

……聞いたことある。

感染しちゃったあと、彼女の騎士一族の親族一同は誰も彼女に同情なんかしてくれなかった。

一族が衰退していった原因を全員が彼女になすり付けたのよ。

普通の人間ならそんなこと病気となんも関係ないとは思うけどな。

けどあの人たちはそうした、彼女の一族、カリスカのザラックたちは全員カイちゃんの地位を剥奪することに頷き、そのまま家から追い出した。

カイちゃん本人はとても親戚たちを信頼してたわ、一緒に喜怒哀楽を分かち合おうと、切磋琢磨しようと心から思っていた。

けど結局、カイちゃんがそう思っていた家族や友人たちは、誰一人救いの手を差し伸べてくれなかった。

しかもこの世からとっとと消えてほしいとさえ思ってる人も――

おいおい、そこまでしなくても。

当時アタシ傍にいたんだけど、ちゃんとカイちゃんのために防いだわよ。

……

……

これでカイちゃんがなんで騎士の旦那様方をひどく恨んでるかが分かったでしょう。

それで錆銅のイングラの話に戻るんだけど……

あいつがやってることのどれもが、深くカイちゃんの心を痛めつけてるからだと思う。

だから、カイちゃんはシーソーゲームに持ち込んで最後まで抗ってるんだよ。

お高く留まった騎士様を完膚なきまでに叩き落してやるために。

自分の怒りを……鎮めるためにもね。

……

ねえ、ユスティナ、カイちゃんのカートリッジにあと何発残ってるか見てくれない?

……四発。

おお。

もうそろそろ終わるわね。

一連の猛攻撃を仕掛けても灰豪騎士は倒れず、むしろ錆銅の体力が底を尽きようとしています!

そして彼は今最後の攻勢に出ました!

長かったこのシーソーゲームもようやく勝敗を決するのでしょうか!

その際皆さんにはベットした番号にご注目を、もしかすると勝敗が決まったと同時に、予想外のプレゼントを得られるかもしれません!

本試合後におけるラッキー抽選はロアーガードがスポンサーを務めてお送りします、抽選確率はなんと0.5%!まだベットしていない方は、この最後の機会をどうぞお見逃しなく!

おっとイングラがサーベルを抜いて振り上げました!

グレイナティも防御態勢に!

勝敗はここで決するか!

ちょっと、カイちゃんいつの間にアタシの技を盗んだの!

突っ込んでいく錆銅、まだまだ突っ込んでいく、灰豪も盾を構えました、なんと大砲を背後に向けました!

まさかあのまま錆銅の一撃をもらうつもりでしょうか!

両者がどんどん詰め寄っていく、もはや目と鼻の先!
(砲撃音)

なんと!

砲撃の加速度を利用して、灰豪が錆銅の斧を横切りました!

なんという速さでしょう!!
(砲撃音)

そのまま盾を捨て、大砲の口をイングラの背中にピタリと当ててそのままトリガーに指をかけてフィニッシュ!!
(大歓声)

錆銅騎士が倒れました!灰豪騎士の勝利です!!!

いやお待ちを、灰豪騎士がまた大砲を錆銅に向けました、まさか、悪逆非道なイングラにも凌辱される日がやってくるのでしょうか!?

……フッ、殻に縮こまってるだけのザラックが。

灰豪の……グレイナティか……お前のことは……覚えたぞ。

この傷が癒えた際は……お前を……お前ら感染者を、皆殺しにしてやるからな!

このぉ!

(トリガーに指をかける)

フッ……

……

(大砲を空に向ける)
(砲撃音)

この一撃は観客たちへ捧げよう。

お前が食らう資格などない。

!

てめぇ……がはっ……
(錆銅騎士が倒れ、グレナティが去っていく)

なんと倒れたイングラを撃つことはしませんでした、そして最後の一発を打ち上げたあと、そのまま出口へと向かわれてしまった!

グレイナティ!グレイナティ――!

本日の試合の――抽選は――賞金は――

今回はどうだった?

あまりよくありません、お父様、大砲を持ちすぎるとはやり手の震えが止まらなくなりました。

もっと軽い武器に交換しようか?

いいえ、大砲が一番相性がいいので大丈夫です、この威力があれば素早さにおける不足を補ってくれますので。

それに、いつか競技場ではなく、もっと広い場所での戦いにも使えますし。

お婆様のように。

その時になれば、この武器ももっと実用的になりますよ。

そうか……お前がそう言うのなら。

私の可愛いナッツちゃん

お父様、私はもう子供じゃないので、そんな風に呼ばなくても……

それもそうだな。

……

グレイナティ。

今回の訓練もよくやったな。

もしお婆様が今のお前を見たら、きっと喜ぶだろう。

お婆様……

お婆様が逝ってしまわれる前に何人かの叔父さんたちが約束してくれていた、もしお前が学びたい以上、いくらでも支援してやるとな。

だから金銭面の心配はしなくていい。

お前がこの先騎士になろうが家業を継ごうが。

このまま訓練していけば、いつかお前は、きっとカジミエーシュで名の知れた砲手になれる。

やれやれ、カリスカ家から正真正銘の砲手が出るのはいつぶりだろうな。

上の人も先祖たちもきっとお前を誇りに思うだろう。

だから彼らを失望させないでやってくれ。

……

はい、お父様。

必ずご期待に応えます。

ちょっと、カイちゃん、カイちゃん?

ん、はい?

どうしました?

急にボーっとしちゃってどうしたの?

いえ、考え事をしてただけです。

イングラも可哀そうよね、退院したと思ったらまたあんたに送り返されちゃったんだもん。

自業自得です。

それでまたどうして最後の一発を空に撃ちあげたの?

試合はすでに終了していましたからね、いくらイングラが気に食わなかったとしても、手を出すわけにはいきませんので。

でなければ私もあいつと同類になってしまうじゃないですか?

ざーんねん、本当なら新聞で“屠殺者、逆に屠殺される”みたいな見出しが見たかったのに……

そんなニュースならイングラの一族の圧力によって新聞に載らないと思いますが。

ソーナ、実はさっきからあなたに聞きたいことがあるんですが……

ん、どうしたのカイちゃん?

その手に持ってるの、なんです?

あんたの応援ミネラルウォーターのボトルよ。

どうしてまたそんなくだらないものを買うんですか……

いいじゃん、あの時喉乾いてたし外に出て買うのも面倒だったんだもん。

お、アタシたちの騎士様の凱旋だ。

……私も灰豪に倣って、もっと強くならないと。

ユスティナ、“例の件”はどうなった?

……もうすでに完了している。

そ、ご苦労様。

今回の賞金は私の口座に入ったらすぐ“あの口座”に入金しておきます、銀行のほうも最近頻繁に起こってる振替問題に注目し始めているので。

もう個人の消費で誤魔化したりできないの?

……できるとでも?

だよねー……

アタシたちに残された時間、もう多くないわね。

……

けど今はまだそんなに考え込まなくても大丈夫。

とりあえずパーッとお祝いしよっか!