
地下競技場の死闘をくぐり抜き、予選選抜を二回も勝ち抜き……またもや凄腕の挑戦者が現れました、感染者騎士、“野鬣”騎士のイヴォナ・クルコフスカヤ……

……“野鬣”?

どうしました、ソーナ。

……しかし、休憩室にてほか参戦された騎士との間で不当な争いが起こってしまい、暴力で解決しようとしたため……

……“試合中止”の謹慎処分もあり得るかもしれません……

……またですか、感染者騎士のマイナス面だけを報じた報道。

“不当な争い”ですか、フッ、そのほかになにがあると言うのでしょう?あんな支離滅裂な場所なんです、勝者に向けた敗者の負け惜しみの遠吠えにすぎませんよ。

試合に参加される感染者の騎士からすれば、いつも罵られるだけ罵られているというのに。

さっきの試合映像は見た、カイちゃん?あのクランタの身のこなし……結構すごいわね。

確かに技に関しては形しかない貴族とは異なっていました、ただ最強の騎士に達するにはまだまだですけど。

うーん……

……彼女を招くつもりですか?

彼女のことなら聞いたことがある……騎士団の中にも彼女を知ってる人がいるからね。

アタシたちが必要としてる人には、「行動班の班長は必ず臨機応変に富んで、人一倍の実力が必要」だって、カイちゃんが言ってたんだからね。

……だからちょっと運試ししようと思ってね。今のところ試合に参加する独立騎士たちは全員代理人によって招致されている、感染者によって組織された騎士団からの招待ならたぶん彼女の気を引けると思うんだ。

予感がするの、彼女はアタシたちが求めていた人材だってね。

彼女の実力になのか、それとも私たちに協力してくれるのかのどっちに興味があるんですか?

そんなこと、話してみたらわかるわ。

でしたらまず話す機会が必要になります。あなたも聞いたでしょう、商業連合会は彼女に対して“試合停止”処分も考慮すると、ニュースで言ってました、そう簡単にことが進むとは思えません。

予選選抜は始まったばかりです、彼女は感染者、しかも予選に上がって来たばかりの独立騎士、誰からも援助されませんよ。

……じゃあもし今回、アタシたちが援助してあげたら?

よく考えてください、ソーナ。これはリスキーな賭けです、もし彼女があのまま最後まで突っ切ると決めていたら、いずれ敵対にしなければなりませんよ。

ただ……それでも話してみたいと言うのなら、全力で試してる価値はあると思います。今のレッドパイン騎士団にとって、新しい仲間を増やせる機会は一回でも貴重ですから。

やっぱり試してるべきだわ。もし順調に交渉できたら……今の状況からすれば、おそらくだけど、彼女もきっと感染者のためになにかしてくれると思うから。
数日後
(扉が開く音)

……チッ、連合会の野郎、誰も事実に耳を貸してくれやしねぇ。最初から公平に裁きたくなかったら、なんで君子面してまでアタシにとやかく言ってきやがるんだ?

ッツ~……痛ってぇ、三流貴族のクズどもよりよっぽど警察のほうが強ぇっての。あの警備員に試合でもさせたら、観客も盛り上がるだろうよ……

出てきた、彼女が出てきたぞ!
(大勢の人がイヴォナに近寄ってくる)

あ?

野鬣騎士、商業連合会のビルから出てきたということは公式側からすでに制裁が下されたということで間違いないでしょうか?

休憩室でほか騎士との争いについてどうお考えですか?それは一種の挑発行為と言っても差し支えないでしょうか?

感染者騎士であるあなたが、ほかの競技騎士と同じ休憩室を利用されてますが、ルール上ほかの騎士に対する不公平になり得るのではないでしょうか?

……うるせぇな!誰だよてめぇら!

野鬣騎士、どうかお答えください!それと、一体どういうお世辞で商業連合会から猶予を頂いたのでしょうか……

……ああもう、なんなんだよこいつら!
(イヴォナが走り去る)

あ、出てきましたよ。

はぁ、はぁ……あ?

お前……アタシをここで待ってたのか?

さっきの騒がしい場面でお分かりかと思いますが、今あなたには幾つかの選択肢しか残されていません。もし……嫌でも別の選択肢を選びたいと言うのであれば別ですが。

幸いあなたも分かっていると思いますが、今のあなたはカメラから距離を置けるだけ置いたほうがいい。自己紹介が遅れましたが……

いやいい、お前のことは知ってる、大砲使い、それともう一人のサーベル使いも。お前らはザラックでパートナーを組んでる、それに実力も確かなものだ。

……ありがとうございます。

灰豪、だったな?ここで何の用だ、ケンカか、それともオレを笑いにでも来たか?

あなたが直面してる厄介な場面は想像できます、もし必要であれば、こちらが手を貸してあげますが。

ほう、たとえば?

あなたはあの記者から、それと……ほかになにか企んでいる代理人からの招致を振り切りたいはず、私たちならお断りの返事を出してあげます。

お前らは誰だ?
(ソーナが近寄ってくる)

それについてはアタシから。

野鬣騎士、もしすでにこちらの素性を知っているのであれば、話は早いでしょう。

アタシたちは感染者騎士たちの動向に注目していてね、だから、テレビであなたが困ってるのを見かけた時、こちらで少し解決策を考えてあげたんだけど……

回りくどいことはいい、難しい話は聞きたくないし、聞いても分かんねぇよ。お前ら、アタシに何の用だ?

……なら単刀直入に言います、アタシたちはレッドパイン騎士団の責任者。もしアタシたちと同じ理念を抱いているのであれば、ぜひアタシたちに加入して頂きたいの。

レッドパイン騎士団?聞いたことねぇな。

まだ成立して間もない騎士団だからね、主なメンバーはみんな感染者騎士で……

……感染者?

そう。

せっかく生き延びて来れた感染者騎士をわざわざ選んで騎士団を結成して、もっと金を稼ごうって算段か?ハッ、いい商売するじゃねぇか。

いやいや!アタシたちはあの感染者騎士を利用して金稼ぎしてる騎士団とは全然違うから、アタシたちが騎士団を設立した目的は、感染者同士の助け合いを促進するためだってば。

どうやって?

まずは……騎士競技における感染者騎士の待遇をよくさせるとか、みんなそう願ってる。

ほかの騎士団に加入した感染者騎士がどういう待遇を受けるかなんて周知の事実でしょう、あの高い報酬の背後にはいつもウソがほくそ笑んでる、しかも担保は自分の命。

ハッ、感染者まみれの競技場からここまでやってきて、命を賭けなかった日なんざあると思うか?

貴族の騎士は負けようが、少なくとも尻尾を挟んで大人しくお家に帰れるかもしれねぇが……

感染者はどうだ?名声が欲しければ、あのおっかねぇ地下競技場で死に物狂いで騎士の称号を奪い合わなければいけねぇんだ。

それか細々と暮らしていきたいと思っていても、いつまで戦わなければいけないかなんて、全部金を出してくれる連中の言いなりだ。あいつらは血が流れるもんにしか興味ねぇけどな。

重傷だけじゃ満足いかねぇ、あのイカレた連中が本当に見たがってるのは――

……野鬣、ここでその話はやめましょう。

チッ、わかってる、文句ぐらい言わせてくれよな。

っとまあ色々うだうだ言ったがすまねぇな、正直に言うが、アタシが今一番必要なのは自分の武器を修理できる場所なんだ。こんなオンボロな槍を持ってちゃ、心配で夜も眠れねぇ。

えっと、まだしばらく武器メンテナンスの職人さんは呼べないけど、専門業者に委託することぐらいなら……

なら話を変えるが、お前らに加入したら、アタシはなんかメリットでも得られるのか?

もっちろん、お給料での待遇とか……ギリギリほかの騎士団と同じぐらいだけど。でも、アタシたちの本来の目的は……

じゃあ入るぜ。

え?

だから、入るっつってんだ。お前らの感染者騎士団がどういうもんかは知らねぇが、少なくともほかの騎士団よりはマシなんだろ。

あの感染者じゃない騎士が向けてくる目はムカつくったらありゃしねぇからな。あいつらとなんか組みたくもねぇ。

騎士になる前は、生き延びることが一番重要なことだった、何もかも腹を満たせればそれでよかった。騎士になったあとは……まあ大して変わってねぇけど。

けどメシにありつけるためにあんな屈辱な思いもしたくはねぇ。お前んとこがもしメシを食わせてもらって、かつあの気持ち悪い貴族騎士の野郎もいないってんなら、しばらくはついて行っても構わねぇぞ。

では、見返りとしてなにを……?

うーん……

(指を出す)

三?

三日分のメシ代、あと武器を修理する資金だ。三日後に試合が控えてるからな、そん時賞金を貰った時に金を渡したら、お前らと賞金を山分けしてやるよ。

商業連合会は何が何でもアタシに保釈金を払わせないと釈放してくれなくてな、それに罰則金もまるでアタシの通帳にいくら金が入ってるか分かってるぐらいにピッタリだしよ――

……あいつらなら、確かに丸分かりね。

だから、今のアタシは、一文無しで、腹も減ってるんだ。条件はこれでいいか?

全然問題ないわ。お金もしばらく貸してあげてもいいわよ、そっちの急用が済んだら、あとで騎士団に返しに来ても大丈夫だから。

そう来なくっちゃな。なら住所を教えてくれ、明日お前らの敷地を借りて俺の甲冑を砕いた野郎の口に槍をぶち込む練習もしたいんでな――

いいよ、ならアタシが練習相手になってあげる。

交渉成立だ、今更ナシはねぇからな。もし破ったら、容赦しねぇぞ!
(イヴォナが立ち去る)

……どうしたの、カイちゃん?ずっとアタシを見つめちゃって。

まったく……あんなあっさり金を渡すなんて、加入させたのに、なんでそのまま行かせたんですか?あの様子じゃなんで商業連合会のビルから出られたのかすら分かってないですよ。

あはは、戦闘狂にとってみれば、武器を修理が最優先事項だからね!あんな環境に何日も閉じ込められてたんだよ、お堅い話なんて絶対聞きたくないはずよ。

何より、こっちも彼女に説明してあげる時間はないからね、ちょっと道のついでに声をかけてみただけだよ。このあともっと大事な任務があるんだから……

今回の任務はすぐ終わるから、明日約束通り彼女とちゃんと話ができる、と思ってませんよね?

こっちは早めに対策するしかできないからね。ただもし今夜、あの人たちが都市部の感染者を釈放してくれるのであれば……

寝言は寝てから言ってください。

……分かってる。だから、アタシたちには今これをやらなければならない。野鬣の件なら、あとでちゃんとしておくから。

……もういいです。しかしソーナ、あなたの直感通りでした、野鬣は確かに面白い人でしたね。

あら?どうして?

彼女が考えてることは昔の私のと……とてもよく似ています。真っすぐすぎるところもありますが……少なくとも余計なことは考えていない。

ぷはは、あなたたちが通じ合えるのなら、それはなにより。
翌日
廃棄されたオフィスビルのロビー

……

……

間違ってないよな……こんなボロっちい場所が……本当に騎士団の拠点なのか?

まあいいや、違ったら違ったで。とりあえず入って聞いてみるか……

……おーい、焔尾騎士か灰豪騎士はいるか――

……団長をお探しか?

ああ、入団しにきたぜ。

まさか本当に人が入団してくるなんて……ただ生憎、二人ともさっき出かけたばっかだ……その荷物はなんだ?

こっちが聞きたいだが、なんでここはこんな素寒貧なんだ?ソファーすら見当たらねぇぞ?

騎士の賞金は豪華とは言うが……団長たちがほとんど賞金を感染者に宛がってるんだ。

ほう、そうかそうか。まあオレはついさっき大家に追い出されてな、それで自分の騎士団に身を寄せてもらうしかねぇんだ。

……とりあえず荷物を置いてくれ、あとの処置は団長が戻って来たからだ。

そういえば、あいつらは毎日そんな忙しそうにしてんのか?どっかで鍛錬でもしてんのか?

]色々事務の分野でも交渉しに行く必要があるんだ。

感染者騎士で構成された騎士団の審査はますます厳しくなるばかりでな、だから焔尾騎士と灰豪騎士はよく監察会と大騎士領の職員に呼び出されるんだ。

ヘッ、あの役立たずたちにか。アタシはてっきり、入団儀式の時にご馳走でも食えると期待していたのによ。あの灰豪ってやつ結構飲めそうな感じだったし。

そういえば灰豪、あいつの大砲はどこに置いてあんだ?どういう武器かずっと見たかったんだ、“ドカーン”って撃っただけで、あの威力なんだからよ……

えっと、武器なら……たぶん実家に置いてあるんじゃないか。

ウソだ。

え?いやウソなんか……

お前なんかオレに隠してるだろ。

なんだ、アタシに焔尾と灰豪の居場所を教えてくれねぇのか?あいつらは絶対騎士競技以外のことで忙しくしてるはずだ、昨日話してた時からオレは察していたさ。

……団長からは確かに入団してくる人が来ると言われたが、それ以降のことは俺の口からじゃ言えない。

もしお前の口から言えねぇことがあるんなら、なんでアタシが来る前に出かけなかったんだ?

それは……

きっとなにか急用にでも遭ったんだろ、だからここにいねぇ。そんぐらい急いでることだ、十中八九ロクなことじゃないだろうよ。

……

ハッ、やっぱりか。

だろうな、オレに用があっただけじゃ声をかけるはずもねぇ。お前ら本当はもっとおっかねぇことをしてるんだろ?

焔尾と灰豪、もし彼女らの選択が間違っていなかったら……彼女たちは、いや、俺たちは確かにお前の力を借りたいと思っているさ。

そうだ、例の件も……彼女たちが保釈金を渡したのも、お前を助けるためだったんだろう。

……なんだって?

二人ともお前に知られるわけにはいかなかったんだ。団員の全員が全員団長の考えを支持してるわけじゃないからな、だってただニュースでお前のことを見て、お前を釈放するため、すぐ直談判しに行ったんだから。

取引があった以上、自ずと条件だって生まれる……

待った。アタシはあいつらに借りを作りたくねぇんだ、もし本当にお前の言う通りなら、アタシはすげー怒るからな、だってそれだったらアタシにもこの一件について責任があるんだからよ。

そんで、彼女たちはどこに行った?

……感染者が集団で暮らしてる地域へ向かった、そいつらを捕まえる連中が来る前にみんなを疎開させるために。

……ちょっと待て、野鬣!

まだなんかあんのかよ?

焔尾と灰豪は、二人ともすごく優しい人なんだ、正直な騎士でもある、お前を招きたいと思ったのは、お前は俺たちと同じだって二人が認めたからだと思う……

ただの感染者騎士ではなく、カジミエーシュにいる感染者たちの現状を変えようとしてる人として。

どういう意味だそりゃ?

お前が……彼女たちがしてることを見れば、分かるさ。

そしてそして――その相手は――

大丈夫、私の後ろに隠れてて……
(ハンターの走り回る足音)

出てこい、感染者!もう逃げられねぇぞ!

うぅ……ごめんなさい……ぼく……悪い人じゃないのに……なんで連れて行かれるの…

大丈夫、アタシがこいつらを追っ払ってあげるから。君はちゃんと隠れてるんだよ?

うん……お姉ちゃん、ぼ、ぼく怖いよ……お父さんとお母さん……どこにいるの……

……アタシが守ってあげるからね、お父さんとお母さんが君を守ってくれたように。だからアタシを信じてもらえるかな?アタシがいいよと言うまで出てきちゃダメだからね、そしたらまた新しい場所を探して暮らそう。

お姉ちゃん……お家に帰りたい……

……ちょっと静かにしててね。
(ハンターが走り回る)

うん……
(ハンターが走り去る)

よし。

ふぅ、さあ――

よお。

うわぁッ!?あなた――

……野鬣?

ほんの手がかりですぐお前を見つけられたぜ、あの灰色のザラックよりも速いはずだ、すげーだろ?

……やっぱり来ちゃったか。

このガキを守ってたのか?こいつも感染者なのか?

そうよ。

なんだ、ガキをこんな場所に匿ってたのか?相手はハンターが五人もいるんだぞ、そのうちの一人にでも見つかっちまったら、追いかけても間に合わねぇよ。

今は……今はまだ人手が足りないから、こうするしかないの。

ふーん、じゃあ、お前らの本当の活動はこれだったんだな?

……うっ、まあ見ての通り。

感染者騎士の身分を利用して、本当はもっと大勢の感染者を助けたいんだろ?

……そうよ。

ハッ……つまり、お前らが感染者の騎士だけに声をかけてたのは、感染者同士でしか分かり合えないからだろ。

みんなで一つの秘密を、一つ願いを守る、そいつがたとえ……あの競技騎士と歯向かう形になろうが、そうだろ?

そうよ、野鬣、今は時間が惜しいの、ちゃんと説明してやれそうにないわ、もし断りたいのであれば……

なんでだよ?アタシは超クールだと思ってるけど。

え?

そうだよな、時間が惜しいんだもんな。だがその前に、焔尾、もう一回きちんと正式めいた形でアタシを誘ってくれ。

それってつまり……アタシたちと一緒に行動してくれるってこと?

ハッ、アタシはお前らとは違うとでも?

そっか……ならわかった。

野鬣、レッドパイン騎士団の一員となり、感染者騎士として共に助け合い、共に団結し、感染者のために己のすべてを捧げてくれる?

……

野鬣?ごめん、もしかして白けちゃったかな、アタシがこんな真面目なことを言うなんておかしいよね……

イヴォナだ。

野鬣騎士の、イヴォナ・クルコフスカヤだ。

……ふふ、じゃあ、アタシのことはソーナと呼んでね。

よく聞け、ソーナ。このアタシ、イヴォナは今日からレッドパイン騎士団に加わり、騎士として、栄誉を勝ち取り、アタシたちの理想に遂げてやる。

アタシの理想はな――ソーナ、もしレッドパイン騎士団が感染者の現状を変えられるのなら、今目の前にいるこいつらを守ってやれるのなら……アタシはお前らと命を張ってもいいぜ。

命を張るか……うん、今からしてみれば、そんな感じね。

だが命を張るのは今じゃねぇ。このガキを一人にさせるわけにはいかねぇからな。お前は団長だ、誰かにこんな裏路地でこんなことやってるとこを見られたらまずい。

先にはやくそのガキを送ってやれ、ここはアタシが受け持つ。

見とけよ、アタシの本当の実力を――いや違うな、お前らは先に行け、ここはアタシがなんとかする!

ほらさっさと行きな、お前がガキを送り届けたころには、こっちもお前んとこに向かってるだろうからよ。

……わかった。イヴォナ、くれぐれも騒ぎにしないでね。無事片付けたら、本当のレッドパイン騎士団の拠点で落ち合おう!

楽勝よ。
(ソーナがグレナティの元に駆け寄ってくる)

ふぅ……カイちゃん、お待たせ……

お疲れ様です、ソーナ。もう終わりましたか?

しばらくは片付いたわ。カイちゃん、イヴォナ……野鬣は?

ジェミーと一緒に話してたように……

ここだ、とっくに帰ってきてるよ。ジェミーから酒を譲って飲もうとしたんだが、あいつ全然いい酒持ってねぇんだわ。

ではこうしましょう、賞金をもらったあと、私が一杯付き合ってあげますよ。

ハッ、そいつはいいな。

あ、じゃあアタシも行く。

あなたは結構です。

えぇ?なんで!まさかあなたたちもうアタシの悪口とか言い合える仲になったわけ?

酒を飲む余裕なんてあるんですか?騎士協会から山のように書類が届てるのに……

あっ……それ思い出させないで……

私たちはただ愚痴を話すだけです。それに、ソーナは酒にあんまり強くないですし、バーで夜通し飲むのも嫌いじゃないですか。

うぅ……確かに。そういうイベントだったら、二人だけで行ってちょうだい。

そうだ、イヴォナ、もし時間が空いてるのなら、ちょっと教えたいことがあるんだ、レッドパイン騎士団の計画の一部についてなんだけど……

あれのことだろ、さっきグレイナティから聞かされたぞ。

裏で行ってる感染者と感染者騎士の救助、それと稼いだ賞金を使ってより大勢の感染者に合法的な身分を獲得すること……

もうそこまで知っていたのね……それで、どう思う?

オレが稼げる賞金なら、全部お前らにくれてやるよ。オレは征戦騎士になるために訓練を受けてきたんだ、だからこの生業で大金を稼ぐつもりなんざさらさらねぇ。それに……チッ。

それより詳細な計画についてだが、いまいちよくわかんなかった。

……

グレイナティが言ってたぜ、レッドパイン騎士団が感染者のために何をするか、どうするべきかは……全部ソーナが決めたことだってな。

だから今わかったよ、ソーナはそういうことを考えながら行動に移せる人だってな、お前すげーよ。

いや――それほどでも、えへへ……

アタシもとっくの昔っから感染者のためになにかしてやりてぇって思ってたんだ……血騎士みたいにな!あいつも中々やってくれたからな。

血騎士は騎士競技のルールを根本的に変えたからね、だからアタシたち……レッドパイン騎士団はもっと人員を増やして、もっと大きな力を作って、感染者のためにもっと多くのことをしてあげなくちゃ。

なら否が応でも加わってやるぜ。

ソーナ、そうと決まれば、アタシはずっとお前についていく。お前のやってることは正しいって信じてるから、どんな困難だろうがアタシが切り拓いてやるよ。

しかしまあ、アタシが今抱えてる問題を解決してくれるってんなら、もっと拝んでやってもいいぜ。

へへ、あなたの信頼を勝ち取れるのなら、なんだってやってあげるわよ。それでなにを手伝ってほしいの?

……えっと、なにこれ?

オレのペットだ。

ペっ……ペット?

……

ペットかぁ……えっと……結構かわいいね!イヴォナ、どこで拾ってきたの?

ははッ、たまたまゴミ溜めを通りかかった時に見つけてな、まだ使いそうだなと思って。そういえば、ソーナ、お前いい技師とか知らねぇか?

技師?どのジャンルかは知らないけど……

あ、機械が分かる人なら都市部にいるわよ。

この前武器のメンテナンス師を連れてくるだけであんな時間かかったのに、なんでこんなマシンを知ってる人はすぐ見つかるんだよ、どうなってやがんだ?

あはは……あの人ならあなたの武器にも興味示すと思うわよ、一緒に行こうか?

いや、自分でこいつらを連れて行くよ、お前とグレイナティはまだほかにやることあんだろ、ならそっちに集中してくれ。それでその技師ってのはどこにいるんだ?

……なるほど。こういう精巧な作りと内部構造をしてるのか……

どうだ、まだ使えそうか?この武器はもう長い間連れ添ってきた相棒だからな。

いや理解に苦しむ……仮にお前がそこまで実力があるのなら、どうしてあの時商業連合会のビルから出てきた時、槍の外殻が使えないぐらい破損させたんだ?

知りてぇのか?

大袈裟に誇張された話じゃないのなら、聞いてみたいまであるな。主に武器の使用原理についてだが。

ハッ、じゃあどっから話せばいいかな――

アタシがまだ征戦騎士になるために訓練期間を送ってた時、この槍は戦場で敵をぶっ殺して、後ろにいる味方のために道を切り拓くための設計されていたんだ。

アタシの槍が受ける衝撃や任務は並大抵の一般人じゃ受けきれねぇ品物でな、使える回数も限られてくる。

だから道が切り拓かれたあと、アタシはサブ用の槍に切り替えるんだ。

だから、競技場に行っちまったあとでも、アタシは一度もこのメインの槍を折ったことはねぇ。

つまり……お前は全力を出したことはない、誰かの命を奪うつもりもないってことか?

あの薄汚ねぇ地下競技場では……

いくら指図を喚いてこようが、モニターに指示の字幕が出ようが、いつもアタシに容赦なく相手を仕留めさせようとしてくるんだ、ほかの感染者たちがピクリとも動かなくなるまで勝利とは言えなかった……

だがアタシは一度も相手を重傷になるまで半殺しにしたことはねぇよ。

だがアタシがせっかく競技騎士になった頃、競技場の休憩室であの貴族どもがアタシに言いやがったんだ……

アタシはもう長い間地に足をついていなかったからな、槍を取り出して、あの薄情者どもの心臓に狙いを定めてやったんだ――

お前もわかるだろ、あの時アタシはマジで串刺しにしようと思ってたぜ。

よく言ってくれた、スカッとするよ!

スカッとしてないで、はやくアタシのペットも診てやってくれよ!

ああ、そうだったな……

診てみたが、こいつはレイジアン工業の古いタイプだ……起動したいのならそう難しい話じゃない。

だが使える機能は限られてくるな、おそらくあんまりお前の指示には従ってくれないだろう。

こいつが自分の名前を知ってくれさえすればいい。

名前?なんて名づけるんだ?

とっく考えてきたぜ――ジャスティスナイト号だ、使えるペットだったらいいんだけどな。

こいつの本来の仕事は援護射撃だと思うが。

ならちょうどいいじゃねぇか、代わりにザコを蹴散らしてくれるんだからよ。しかしつまんねぇ機能だな、もう少しなんとかなんねぇのか?

それならこいつがほかのモードに変えられるかどうか次第だな……

ほかのパーツで組み直す必要があるってことか?じゃあまた今度でいいや。とりあえず、起動できねぇか?

診てみよう……
(機械の駆動音)

おお、動きやがった。






