周りが暗くなった。
グレイナティは成功したのか?ソーナはちゃんと潜入できたんだろうか?
……
成功したら、アタシらは、カジミエーシュで人間らしい生活を送れるんだよな?

自分にウソをつくな。

……!

私たちが今まで遭ったことを思い出せ。

地下競技場で野獣と戦わされ、仲間同士で殺し合いをさせられ、どの試合でも消えることのない傷と痛みを刻みつけられた。

催した側はもっと多くの血と刺激、偽試合、場外の権謀術数を欲しがっていたじゃないか。

これらすべての原因はなんだと思う?

カヴァレルエルキの外にも目を向けてみろ、感染者はどこに行けばいい?

……どこへだって行ってもいいんだ。

私たちは鉱石病を、不治の病を患った、私たちはいずれ死ぬ、しかも周囲に災いをもたらしながら死ぬんだ。

私たちは疫病神で、人の手に余る、排斥される異種族だ。

監察会が本当に感染者のために正規な騎士団を立てることを許すと思うか?

カジミエーシュ……いや、この大地には本当にまだ感染者が生き残れる空間は残されているのだろうか?

たとえあったとしても……

……お前となんの関係があるんだ?

こいつ、ピクリともしなくなったぞ……死んだのか?

うであってほしいよ、俺は感染者との殺し合いなんざゴメンだからな、もしこっちまで感染しちまったらどうするんだ……

お前ちょっと確かめてみろよ、本当に死んでるのなら、後処理班に処理してもらえ。

……ゴホッ。

誰が、死んだって?

……さあ来やがれ!

無冑盟の……クソ野郎どもが!アタシが……お前ら全員ぶっ倒してやる!

感染者を……虐げる……人殺し連中が!

……こいつまだ動く気力が残ってたのか?

全身血まみれ、立つこともやっと、無理する必要なんてないのに。

来い……来いつってんだよ!

一人も……逃しゃしねぇぞ……ゴホッ!
(イヴォナが倒れる)

……それなりに骨のあるヤツだ、一思いにやってくれ。

このまま放っても、数分もしたら失血多量で死ぬ。はぁ、モニークも手慣れてるもんだな。
……
もし、もっと強かったら、もっと速かったら……
それなら……
こんな時代から逃げられたのかな?
……
逃げる?
いや!アタシはなにを考えているんだ?
はやく動け……クソ……なんで視界がこんなモヤモヤするんだ……
目を開けるんだ……

盟構成員安心しろ、すぐ楽にしてやる――
(何者かの足音)
無冑盟の手が急にピタリと止まった。
足音だ。
重い足音、この殺し屋たちのような身軽さはなく、まるで巌を背負ったかのような足音だった。

(聞き取れない対話)

(こいつら……なにを話してやがるんだ……)

(聞き取れない対話)

(……?こいつら……)

待て……逃げるんじゃねぇ……待ち……やがれ!アタシはまだ……
(何者かが近寄ってくる)

……もう十分だ、騎士よ。

お前はよくやった。

なんで?なんで急にあたりが真っ暗になったの!?

一体なにが起こったんだ?

はっ!?街中が急に停電してしまいましたよ!?オーマイガー、一体いくら賠償すればいいのでしょうか!?

ちょっとちょっと、そこの騎士さん、観客たちの避難を手伝ってください!

よいしょっと。

……うわぁ、本当に外真っ暗になっちゃってる……

ちょっとやりすぎじゃないかなカイちゃんたち。

でも……

……

……連合会ビルはやっぱり独自の電力源を持ってたか……チッ、時間がないわ。

げっ!誰かくる!

なんでさっき停電したんだ?

外を見ろ!街全体が――

ま、まさか動力源がまたなんかやらかしたのか……?もしかして大遮断?また大遮断が起こるのか?

慌てないでください。

あっ、マルキェヴィッチさん……

……幸いにも、今日はちょうど代弁者の会議が開かれてました。理事長の数人もビルにいますので、安全です。

そうだ。指示に従って、みんなに避難を促せろ、あと直ちに監察会の代表に連絡を入れろ、今やるべきことは治安の確保だ。

……都市は区画ごとに予備用の電力源を備えている、各区画の責任者にも妥当な処置をするように連絡を入れるんだ。

はい!

……理事長がいた会議……

いや、そんなことより先にサーバールームの入口を探さないと――

ラズライト様!

――
(ロイが近寄ってくる)

……まったくやることが派手だねぇ。

だから言っただろ、感染者にチャンスを与えないように、一思いにやれって。

俺が今日理事長たちをここに呼んだからよかったけど、もし社長の方々になにかあったらどうするんだ?

……この事件の詳しい調査はあとでまた行う。

わかった、しかし今の無冑盟のほとんどの兵力は……モニークまで感染者を殲滅作戦に駆り出されてるから、今から戻ってくるにはそれなりに時間がかかると思うが……

……!?

……了解した。ではしばらくお前は本来持ってる任務を一旦置いといて、理事長たちの護衛に回ってくれ。

わかった、でもさ……理事会に手を出すヤツなんているはずがないよな?

……殲滅って……

いや……みんなならきっと大丈夫……アタシがしっかりしなきゃ……

急がないと。

……絶対に無事でいてね、イヴォナ。

どこに行っちゃったの?
(シェブチックが駆け寄ってくる)

遠牙!

……合成樹脂?

ほかの人は見つかった?あいつらが私たちの通信を――

そんな簡単な話じゃない、ここは街の中心だ、こちらの通信を切ったということは、最初から私たちの通信チャンネルはハックされていたことになる。

この停電も灰豪がやったわけじゃない、あっちが奇襲を仕掛けてる前に、動力源は何者かに先んじて襲われたんだ、彼女なら今ソーナと合流しに行った。

……なんだって?

無冑盟は……ずっとなにか企んでいた、そしてその企みを感染者たちに押し付けようとしてるんだ――

早くほかのヤツらも探せ、まずい事態になるぞ!

イヴォナ!
尊大な感染者騎士は血の池に倒れていた。
血が彼女の甲冑を染め上げる。

イヴォナ!目を覚まして!

――

ま、まだ呼吸がある……

……

シェブチック、手を貸して――

……待った、この近くに……ほかの誰かが来たのか?

無冑盟に斧を使うヤツがいるなんて聞いたこともないぞ……いたとしても、この痕跡……

壁に……血が滲んでる?

まさかヤツなのか……?


……ダウンロード完了っと。

これが……ゼロ号地の計画書か……それとこっちが無冑盟の内部資料ね。

……

……こうも簡単に手に入るなんて、なんだか居心地が悪いわね。

さっさとこんな場所から離れないと――おっとっと、尻尾が――

ボサっとするな!はやく国民院に連絡を入れるんだ!

それと君、君たちの部門はファイヤブレード競技場の避難を担当してるはずだよな?ならさっさと動いてくれ!

代弁者のお迎えに上がった、本人は二階か?

(どこも混乱してるわね……ちょうどいい。)

(このまま無事脱出できればいいんだけど……)

……おいおい。

(!)

本当にこの混乱した事態に乗じて連合会のビルに乗り込んだヤツがいるぞ?

(見つかった――!?)

うわっ……!
(ソーナが倒れドアが開く)

いたたた……どこよここ……さっきドアに寄りかかってたのかな、気付かなかった……

真っ暗ね、うーん、会議室とかかな……

出口を探さないと――
ソーナはずっと自分はなにかに抗い続けてきたと思っていた。
無冑盟に対して、商業連合会に対して、はたまた感染者の一切の不公平に、運命に対して。
だが実際、彼女は一度も自分のその行いの必然性に疑問を抱いたことはない。
その瞬間、つま先から頭まで悪寒が昇ってきて、彼女をしばし動揺させた。
彼女にとって初めてとなる動揺だった。
まるで盛夏の時期に山のような氷の彫刻を見たかのように。

……
電話のベルが鳴る。
誰一人いない室内で木霊する。

……もしもし?

……焔尾騎士の、ソーナだな。

今までご苦労だった。

……えっ……

今、君には二つの選択肢がある。

それと、君が今いる会議室の外には“ラズライト”のロイが待ち構えていることも伝えておこう。

簡単な取引だ。君はメモリー機器を二つ持っているな。

無冑盟の分を引き渡してもらおう、ゼロ号地の資料ならくれてやっても構わん。

それだけでも、監察会から正当な生活の権利を得られるはずだ。

君にほかの選択肢はない。

すべて掌で踊っていたのだよ、焔尾騎士。私は別に感染者や、ましてや君などどうでもいいがね。

騎士にしろ、商売人にしろ、感染者にしろ、どれも視野の狭い者たちばかりだ。

……

社会を敵に回すんじゃないぞ、感染者。

サーバーはすでにこちらで破壊しておいた、君が持ってるチップが最後のコピーなんだ。

さあ、選んでくれ。

…………

もしかして、今ここでこの電話を壊そうと思っているのかな。

ならそうしてもらっても構わない、それが君が運命に抗う答えだと言うのであれば――
(ソーナが電話を切る)

……うわぁ、もしかして心でも読めるのかな?すごいわね。

それじゃあ、ラズライトが外で待ち構えてるって言うし、どうしたもんかな……

……

……そういえばここ何階だっけ?

いや――これはさすがに――高すぎやしませんかね!?
(ソーナがガラスを割り飛び降りる)

ソーナ!

カイちゃん!しっかりキャッチしてね!

――またなにを企んでいるんですか?待ってください、そんな高さからじゃ――うわあああ――!
(アーツの発動音とソーナの着地音)

いててて……アーツで衝撃を緩めといてよかった……

……

そ、そんな顔しちゃってどうしたの?わかったわかった、もう無茶しないからさ……とりあえず尻尾放してくれないかな……

……いえ、ただ……あなたが無事で、本当によかった。

動力源は私たちが奇襲を仕掛ける前に、何者かによって先に襲われました、私たちは利用されたんです。

……大丈夫だよ、少なくとも欲しいものは手に入れたから。

じゃじゃーん!

これが……こんな小さなデータチップで……本当に私たちの向かう方角が決まるんですか?

そうしてくれるように祈るしかないわね。
(ロイが近寄ってくる)

……うわっ、十数メートルの高さはあっただろ?

えらいピンピンしてるもんだな、感染者、まだ痛い目が足りないってか?

……!その恰好……

俺を知ってるのかい?

普通の騎士にとって無冑盟の高層部はずっと謎だらけだった……けど。

“ラズライト”のロイ、ここ十数年来ずっと入れ替わらなかった唯一のラズライト、あんたが姿を見せた噂はごまんとあるんだから、それなりに顔は知られてるわよ。

マジで?あはは、有名なのは嬉しいねぇ、でも殺し屋にとって有名になりすぎることは、いいことばかりじゃない、なんせ無冑盟は騎士と違って、有名だからって姿を見せるわけにはいかないからな。

チップを渡したら、生きてここから出してやろう。それとも俺がお前たちを殺してから、チップを奪ってやってもいいんだぞ?

俺あんまり金が出ない殺しは好きじゃないんだけどね。

……ソーナ、動けますか?

よいしょっと、平気平気、激戦にはなりそうだけどね。

生きてるだけでも十分ですよ。

へへ、こうして肩を並べて戦うのは久しぶりだね?鉗獣との戦い以来かしら?

……なんでもいいけど、俺を鉗獣と同じ扱いだけは勘弁してくれ。

予備用の電気を用意しておいてよかった……まさか本当に使う日がくるとはな。

一体なにが起こったんじゃ?まさか大遮断の再来か?
(老工匠がバーに入ってくる)

本当に外が停電してるぞ!おい、冗談じゃない、メジャーリーグ期間だぞ!

電力ならすぐに回復する……しかし、一体誰が、この不夜城から光を奪ったんだ……

……

……馬鹿馬鹿しい。本当に馬鹿馬鹿しい限りだ。









